114:【CHAMBER】DYRA、暗号を理解し「その地」へ向かう
前回までの「DYRA」----------
DYRAの、タヌを助けに行こうという気持ちは変わらない。RAAZは溜息をつきながらも、密かに彼女を手助けする段取りを含め考え始めた。
陽が昇る直前、『死んだ土地』へ足を踏み入れたDYRAは、やや傾斜がある砂埃舞い上がる地を歩き続けた。右手に鞄を持ち、左手に便せんを一枚握りしめて。
(右も左もわからないわけじゃないのは、救いだな)
DYRAは、便せんの二枚目の内容を思い出す。
一番高い山頂が見える方へ歩け
陽が落ちるとき、死に損ないの木が示す方向へ行け
光の地
そこで、待つ
(──『山頂が見える方へ歩け……陽が落ちるとき、死に損ないの木が示す方向へ行け……光の地……そこで、待つ)
DYRAは、手紙の内容から、『死んだ土地』には木が生えている場所があるのだと理解した。
(完全には死にきっていなかった、ということなのか?)
しかし、砂漠に近い環境であることは確かだ。
普通の人間なら、砂だらけの地を彷徨えば、喉が渇いて苦しむ。自己再生能力を持つDYRAの場合、再生させ続けていれば渇きの問題はないが、やらないでいいならそれに越したことはない。DYRAは時折、鞄の中から水筒を取り出し、少量の水を口にしていた。
(どこまで歩けば良いんだ?)
どのくらい歩いたのだろうか。歩くスピードはかなり速い方なので、普通の人間が歩く距離の倍近くは移動しているはずだった。『死んだ土地』を抜け、さらに奥へと歩き続けたが、まさかこんなにも広いとは。DYRAは、歩くべき場所を間違えたのではないかと思い始める。
いつしか、視界から山頂が見えにくくなり始めた頃だった。
(あれは?)
視界の先に、細長い何かが立っているのが目に入る。
(もしかして!)
便せんに書かれている「死に損ないの木」かも知れないと思うと、DYRAは全速力で走り出した。近づくにつれ、細長い何かが「木」であるとハッキリとわかるようになる。一気に木の側まで駆け寄った。
(木が示す、方向……?)
DYRAは木を見上げるが、目印のようなものは何もなかった。
(いや、違う)
便せんに書いてあった文章を思い出すと、DYRAは木の根元を見る。地面に長い影が伸びていた。
(これ、か?)
もうすぐ陽が落ちる。そのときの木の影が伸びていく方向を見極めれば良いのではないか。
空の色がカーネリアン色へと変わっていく。ダイヤモンドのような輝きが山の陰に今まさに消えようとしたとき、DYRAは木の根元から伸びる影の先をじっと見つめた。
「あれは!」
DYRAは思わず声を上げてしまった。影が伸びる先の、さらに先へ目をやったとき、キラリと光る何かが見えたからだ。それはまるで、そこに鏡か何かがあって反射しているようでさえあった。
あそこに違いない。陽が完全に落ちてしまう前にとばかりに、DYRAは全速力で走り出す。
それにしても、一体いつからだろう。DYRAが走っている場所は、砂まじりの乾いた土地ではなく、碌な手入れもされていない獣道に限りなく近いものとなっていた。だが、どういうわけか、獣道なのに大小を問わず、動物とまったく遭遇していない。DYRAはそれが意味することを何となく察する。
(誰かが、人為的に獣道に見せかけている?)
山を通り抜ける、山越えできると知られては都合の悪い人間が用意した道ではないのか。
DYRAは視線を上げると、あとどのくらいか確認する。
(あれは!)
光が見える。その場所は明らかに光っていた。もうすぐたどりつけるだろうか。DYRAは一度足を止めて、数回深呼吸をして息を整え直し、再度全速力で走り出した。
走ってから目的の場所にたどり着くまで、時間は掛からなかった。足場がもっと良ければ、数分で行くことができただろう距離だ。
「あっ……た……あ?」
DYRAは光っているものを見つけると、意外な表情をしてみせた。輝きは、実は手鏡ほどの大きさしかなかったからだ。しかも、大木に押し込まれるようにくくりつけられている。
(あの輝きの正体、実はこんな小さなものだったのか)
日没寸前の僅かな時間だけ、正面に向き合うことになるからああも光ったのだなとDYRAの中で合点がいった。気がついてみると、陽の明かりから星の明かりへと変わってしまったため、すっかり周囲が暗くなっている。そのときだった。
「あれ?」
大木の影から聞こえたのは、DYRAの知った声だった。
改訂の上、再掲
114:【CHAMBER】DYRA、暗号を理解し「その地」へ向かう2025/01/15 13:28
114:【CHAMBER】ハーランという男(5)2019/08/26 22:00
CHAPTER 114 小さな歪み2018/02/22 23:00