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頁007.冒険者の依頼①

開始3日目

 すでに受けている依頼をトールが実行、2件処理。1件の素材集めが半分ほど終了。


開始7日目

 依頼を受ける速度と消化する速度がある程度近い。現状ではいいペースだ。


開始10日目

 レイチェルさんにギルドを紹介されたという人たちが訪れ始める。ひとつひとつの依頼は大した難易度ではないが、複数人がまとまって依頼に訪れるので一気に依頼が増える。

 (これ以降、同じことが何度か起きるようになる)


開始15日目

 初めて冒険者からの依頼が入る。

 ギルドに他の冒険者がかかわったのはこの時が初めてで、この交流が冒険者とのつながりの第一歩だった。



「おーい!」



 事務作業中、声が聞こえたので顔をあげた。

 とはいえ遠くから聞こえたようだったので、もちろん部屋の中には誰の気配もない。


「誰かいるかー!」


 再びの、声。

 部屋を出て玄関に向かうと、案の定人の姿があった。人数は二人。

 しかし、不思議である。彼らの格好はどう見ても冒険者のそれだ。

 果たしてここに何の用があるのだろうか。


「あー、あんたがギルドの人か?」

「一応そうなるが…」

「俺はスヴェン。見てのとおり冒険者だ。こっちは相棒のライリー」


 背丈ほどもある槍を背負った男性は、やはり冒険者だった。

 その男性、スヴェンの陰に隠れるようにして立っていたのはフードを目深にかぶった…姿だけでは性別の判断がつかない人物だった。名前も、男女どちらであってもおかしくはない名前だ。気にはなったが現状必要な話題ではないと判断し、視線を戻す。

 名乗られた以上、こちらも名乗っておくか。しかし私の肩書は果たして何だ。


「エレノアだ。ギルドの……裏方、のようなものをしている。それで一体、何の用だ?」

「ああ、宿屋のおかみさんからここを紹介されてきたんだけどよ…ここは冒険者向けの依頼を受けている場所…で、合ってんだよな?」

「その通りだが…」


 ふむ、ベルタさんに紹介されてきたということは、ここがどのような場所か把握しているようだ。

 だというのに、冒険者が何のためにここへ来たのだろうか。

 ……もしや依頼がこちらに集中しすぎていて、彼らの仕事がなくなってしまったのだろうか。

 トールとも話していた、そのような事態も起こり得ると。

 彼らの生活を脅かすつもりは毛頭ないが、その可能性も考えておかなければならないとすでに話している。しかし彼らにその説明がうまくできるだろうか…。


「いやなに、ちょいと依頼したいことがあってな」

「………なに?」

「はー、ただいまー! とりあえず食事だけしに戻って…あれ、何これ。どういう状況?」


 昼食を食べに戻って来たトールが現れ、玄関は疑問の飛び交う空間となった。









「複数人向けの依頼、か」


 スヴェンの話をまとめると、こうだ。

 普段から二人で行動している彼らだが、彼らが今回受けた依頼は本来二人で受けるべきものではないらしい。

 そこで彼らは他に仲間を引き入れるべくギルドを訪れたとか。仕事を回してくれるのはありがたいが、ベルタさんは何でもかんでも私たちに結び付けようとしていないか…?


「うん、確かに二人じゃ厳しいね。その規模だと、四人は欲しいかなあ」


 とはいえ、その依頼の難易度で人が必要なのは本当らしい。

 スヴェンも同じ意見だったらしく、トールの言葉にうなずいている。


「だよな。つっても、俺らは基本的に二人でしか行動しねえ。だからなるべくこういったもんは避けたかったんだが…」


 二人で活動している彼らが他者の力を借りてでも依頼を受けざるを得なかったのだ。他に選択肢がなかったということだろう。

 しかし話を聞いていたトールは困り顔をしている。当然だろう、四人で受けるべき依頼だというのにこの場にいる冒険者は三人しかいないのだ。


「困ったな…確かにそういう依頼もいずれ受けられるようにしたいんだけど、今はまだ俺しか冒険者がいないんだ。エレノアは…その、見てのとおり…」

「まあ、戦えそうにはないな」


 ふむ、さすがにわかるか。

 だがトールとは逆に、スヴェンは落ち着いている。


「確かに四人いれば安定するが、三人でも何とかなるものだと思う。あんた…トール、だったか? トールが前衛なら十分事足りるだろ」

「ふむ……」


 スヴェンの言葉がどの程度正しいのかわからず、トールを見る。

 私の視線に気付いたトールはうなずいた。あながち間違いではないらしい。


「俺も大丈夫だとは思うけど…問題は俺があまりパーティ慣れしてないことかな。あなたたちの行動や癖なんかも、ちょっとわからないし…」

「なに、それくらいどうにかなるだろ」


 私に詳しいことはわからないが、このスヴェンという男は少しばかり見積もりが甘いのではないだろうか。これまでもそういった経験があり、大丈夫だったせいでそう思うのだろうが…。

 スヴェンの隣にいたライリーなる人物も私と同じく不安に感じたのだろう。スヴェンの袖を引っ張り、ぼそぼそと何事か話している。室内だというのにフードを被ったままなのが気になるが言いそびれて今に至る。


「そんな心配すんなって。お前だってかなり強くなってんだ、そうそう失敗しないさ」

「ん…エレノア、どうしたの? 何か気になることある?」


 考え込む私にトールが話を振ってきた。

 素人である私が口を挟むべきではないと考えていたが…やはり気になる。


「私は素人だから詳しいことはわからないが…」

「ん、なんか気になるのか? いいぜ、言ってくれ」

「では聞くが…二人は回復魔法を使えるのだろうか?」

「え」

「冒険者の集団では誰かが回復魔法を使えなければ安定しない、と耳にしたことがあるのだが…」


 ちなみにトールは一切使えない。なので、一人で活動することが多いトールは傷を負わないように気を付けているし、私も無茶だけはするなと言っている。

 ……スヴェンたちの様子を見る限り、二人とも使えないようだな。


「こちらもトールに何かあっては困る。幸い実行日までは日数があるようだし、万全を期してほしい。それと、準備もしっかりしていくように。多少費用がかかっても、道具等を購入してから向かってもらいたい。これらを守ってもらえるのであれば、我々としても否はない。どうだろうか」

「あ、ああ……問題ねえ…」


 素人の私がここまで言うことに驚いた様子のスヴェン。ライリーはフードのせいでよくわからない。

 言い過ぎかもわからないが、人数あたりの報酬は上がるのだしその分多くの費用がかかっても儲けは出ると思うのだ。

 命あっての物種。金はあっても困らないが、命は失ってしまえばそれまでなのだから。



16/11/18 一部描写を修正。

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