表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/33

栞01:トール:表裏[ツギハギ]の苦悩

トール視点となります。



 新鮮な空気が吸いたくなって、部屋の窓を開けた。ガコンという音とともに冷たい空気が一気に吹き込んでくる。その冷気にさらされて意識がはっきりとする。今夜は冷えるようだ。

 ギルドを始めてから半年。まだなにかと考えなきゃいけないところは多いけど、依頼も仲間も増えてきて、どうにか……そう、「進んでいる」という実感はある。

 確かな変化。だけど、それは。


「これで…良かったのかな……」


 何度も考えたこと。俺が進むべき道を、ひたすらに悩んだ。

 冒険者として立つか。ギルドを始めるか。そして本当に――他に道はないのか。

 考えて、考えて、その度に何度も自分に言い聞かせて。そうして俺はようやく決めたはずだった。後悔なんてしない。俺が選ぶならこの道しかない。そう――思っていたはずなのに。

 どんなに「大丈夫」と思っても、不安は消えなかった。この道は正しいのかと、むしろ不安は増す一方だ。先が見えないことで恐ろしくてたまらない。


「いや……これでいいんだ。現に、今だって」


 俺の予想が正しいなら、だ。何も起こっていない(・・・・・・・・・)というのならきっと、俺の選択は間違っていない、はずだから。


 だから俺が心揺れるのは別のこと。もちろんそれは――エレノアのこと。

 俺のこの選択は、俺が、俺だけが勝手にやっていることだ。エレノアは何も知らない。それでももしかしたら、その責をエレノアに押し付ける奴が出てくるかもしれない。

 その時俺は――エレノアを守れるだろうか?


 幼かったあの日。エレノアを守ると心に誓った。この誓いは誰にも告げていない、秘したものではあるけど、それでも偽りはないと断言できる。

 だけど。もし――もしも選ばなければならない日が来たら?


「俺は…どうなったっていい。だから……」


 だから、エレノアだけは。

 俺の願い、俺の救いは、エレノアが当たり前のように生きていてくれること。ただそれだけだ。


 不意に、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

 こんな時間に誰だと思ったけれど、そんなの答えは決まっている。だからこそ何か用だろうかとか、理由のほうを考えながらドアを開けた。


「ああ、まだ起きていたか」

「どうしたのエレノア。こんな時間に」


 エレノアが部屋を訪ねてくることがおかしいわけじゃない。ただ、今は遅い時間だし、エレノアの言うように寝ていてもおかしくない時間だ。だから仕事がらみの、急ぎの用事かと思ったんだけど……ふわり、と優しい香りが漂ってきた。なんだろう?


「仕事が早く片付いたんで寝ようかと思ったんだが…どうにも眼が冴えていてな。一緒にどうだ」


 エレノアの手にはトレー。そしてその上にはマグカップがふたつ並んでいる。中身は白く、湯気が立っている。ああ、ホットミルクか。

 ギルドで生活するようになってからはなくなっていたけど、あの家に住んでいた頃はよく並んで飲んでいた。ほんの少し前のことのはずなのに、なんだかとても――懐かしい。


「その様子だと、お前も眠れないんだろう?」

「ん、まあ、ね……」


 今の今まで考え込んでいました、なんて言えるはずもなく、そしてエレノアを追い返すという選択肢もない。

俺はエレノアを部屋に招き入れた。




思いがけず旧作が復活してしまったのでこちらの頻度が下がっていますが、続きは何とか書いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ