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頁015.冒険者たち④


「聞いてエレノア! この二人、ギルドに入りたいんだって!」


 先ほど出かけたはずのトールがものすごい早さで戻って来た。外出時間わずか数分。私はまだ朝食の片付けをしている最中だぞ。


「時間早いから入るの遠慮しちゃったみたいでさ。あ、とりあえず座ってもらおっか」

「食堂に案内する奴があるか。応接室へ案内してくれ」

「あ、そっか」


 嬉しさのあまり急ぎ私のいる食堂へやって来たのだろうが、いくら何でも失礼すぎるだろう。

 やれやれ。片付けは後回しだな。

 代わりに人数分の茶とともに応接室へと移動した。入口から見て右手すぐにあるのが食堂だが反対側の左手側に用意した部屋をそう呼んでいる。

 いずれ必要になるかもしれないと考え用意した部屋だが、思ったより早く出番がやって来たな。

 茶を置き着席してから改めて二人の姿を眺めた。

 一人は男性。緊張しているのか、ぎこちない様子だ。機械仕掛けのように動きがぎくしゃくしている。

 もう一人は女性。男性とは対照的に緊張などしていないようだ。物珍しそうに周囲をきょろきょろと見回している。


「そんな緊張せずに、ほらお茶でも飲んでさ」

「お、お気遣いなく……ってこら君、何飲んでんの」

「えー? でも今飲んでいいって……」

「そこは普通遠慮する流れなんだよ…!」


 男性の緊張は完全にほぐれてはいないが、連れの女性と会話したからか少し落ち着きを取り戻したように見えた。

 トールがいてくれて良かった。相談する手間が省けたのもそうだが、こういう場を和ませる力は私にはない。

 私も茶で口を湿らせてから本題へと移る。


「さて。ギルドへの加入を希望しているとのことだが」

「は、はい! 宿で、こちらのことを耳にしまして」


 ふむ、冒険者が知るには自然な流れだ。とはいえ気になることはある。


「しかし宿屋にいるということは、すでに冒険者としてそれなりに活動をしているのではないか? こう言っては何だが、ギルドを介する以上これまでよりも収入が低くなる恐れがあるが……」

「あ、いえ……恥ずかしながら僕は冒険者として下のほうの実力でして…そんな奴のところにあまり仕事は回ってきませんから、収入が低くなる、ということはないと思います。……最近では冒険者としての活動に限界を感じていたんです」


 なるほど、冒険者全員が全員強いわけではない、か。考えてみれば当たり前のことだ。人はそれぞれ異なるのだから現状の強さも、どの程度強くなれるかも変わってくる。彼の伸びしろがまだあるのかそうでないのかはわからないが、どちらにせよ彼は今のままよりはギルドで活動するほうが利点があると感じ取れたのだろう。

 彼の言い分はわかった。だがそれは連れの彼女も同じなのだろうか?


「それで、あなたのほうは……む、そういえば名前がまだだったな」


 ここまで互いの名前も知らずに会話していた。それもこれもトールが台所に連れてきたりするからだ…。


「え……あ! す、すみません!」

「いやこっちも名乗ってなかったんだし仕方ないよ。俺はトール。でこっちがエレノア」

「僕はセス、と申します」


 続く言葉を待ってセスの隣の女性を見たが、彼女は会話をあまり聞いていなかったのだろう、私たちの視線に気付くと「ん?」と首をかしげていた。


「ほら、君の番だよ。な、ま、え」

「名前? うん、わたしはノイだよ」

「はあ…この調子だとどこまで聞いていたのやら…」


 おそらく何も聞いていないのではないかと思うが、まあいい。彼女に関してはこれからだ。


「ではノイ、あなたがギルドで活動するとなれば今の生活と変わる点があるだろう。その辺り、不安や不満はないか? これまでセスと行動してきたのだろうが、これからは……」

「あ、いえ……」


 何故かセスのほうから歯切れの悪い言葉が返ってきた。しかも私の言葉をさえぎって、だ。彼の今までの様子から考えて少し違和感を覚える。もちろん、出会ったばかりなのだからもしかしたら違うのかもしれない。だが私の言葉をさえぎってしまった自分の行動に気付き、こちらに謝罪の言葉を述べてから言葉を続ける彼の様子を見るに私の判断はおそらく間違ってはいまい。


「実は僕たち、これまで一緒に活動していたわけじゃないんです。まだ知り合って間もないですし」

「え、そうだったんだ? 仲良さそうだったし、てっきり仲間なんだと思ってたよ」

「私もだ」


 しかしその言葉の通りだとすれば、見ず知らずの他人同士でここへやって来たというのか? なんというか、疑問が残る。

 セスは困り顔で教えてくれた。


「その、いろいろありまして…僕がギルドに行こうか迷っていた時に出会ったんです。少し話していたんですが、放っておいたら誰かに騙されかねない感じで……他人の僕がとやかくいうのもどうだろうと思ったんですけど、そのまま別れるのも何だか気が引けて……」


 要するに世間知らずなノイを放っておけなかったということか。セスの人のよさがにじみ出る。

 セスとは逆に、ノイは何も迷っていないようだった。


「わたしね、冒険者になりたいって思ってた。でもなり方がわからなくて……そうセスに言ったらね、じゃあギルドに一緒に行く? って言ってくれたの。だから、ついて来たんだ」



 ノイはあまり物事を迷わない性格なのだろうか? だとすれば少々羨ましくもある。

 そうして和やかに話していたノイだが、急にはっとした様子でこちらに身を乗り出してきた。


「あ、でもでもっ、冒険者になりたいって気持ちはほんとだよ! がんばるから、お願い!」

「ぼ、僕も微力ながら精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」


 そんな勢いよく頭を下げられても困る。トールの再三の説得に応じてようやく顔を上げてくれた。

 場が落ち着いたところで少し考えをまとめてみよう。こうして話をしてみて、彼らがどんな人物か少し見えてきた気がする。

 セスはとても真面目な性格で、本人いわく実力は乏しい。ノイは天真爛漫な様子が感じ取れる。まだ冒険者として活動したことはないというから実力は不明。だが二人ともギルドでやっていきたいという熱意は感じ取れた。

 無論その情報は限られている。けれど名もそう知られておらず規模も小さいこんな場所にやって来る時点でやる気はあるのだろう。嘘をつく利点も考えつかないし、そもそもそんな疑いを持ちたくもない。何よりギルドでやっていきたいと言ってくれているのだ、その言葉で充分だと私は思う。

 だから私は彼らならいいだろうと、隣のトールに視線を向けた。


「ん、エレノア決めた?」

「決めるのはお前だろう。だが私はいいと思う」

「だよね。俺もそう思ってた」


 時折思うのだが、トールは私の意見を尊重しすぎではないだろうか?

 このギルドの家長とも呼べるべき存在はトールなのだからもっと自分の意志で進めていけば良いのではないかと思う。

 が、まあ、昔からこうして二人で話し合って決めてきたからな、互いの意見を言い合ってから決めるのがトールの癖になっているのかもしれない。


「よし、それじゃー……、なんて言ったらいいのかな? 二人とも合格! とかでいいのかな?」

「え?」

「そんな告げ方があるか。こんないかにも怪しげな場所で働いてくれるというんだ、むしろこちらから頼みたいくらいだ」


 私たちの会話についていけなかったようで、セスは目を瞬かせている。ノイも首をかしげて確認してきた。


「え、っと……やとってもらえるの? わたしたち」

「ああ。こんな発展途上の職場でよければ喜んで。歓迎するさ」

「わあ、ありがと!」

「え……………えっ!?」


 ノイは喜色満面の様子。こうまで喜んでもらえるとこちらも嬉しい。

 が、セスは何やら驚いているらしい。小さく「即時採用…?」とかなんとか聞こえるが聞こえたところで意味がわからないし、トールが声をかけているらしかったので任せておいた。

 個人的にはノイのように喜んでもらえるほうが嬉しいが……どうしても理解できない何かがあったのだろう。私にはわからないが。




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