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頁014.冒険者たち③



 偶然出会った冒険者と目的地が一緒だっただけでなく、道具屋を介して仕事でつながった相手だったのには驚いてしまう。まあよくよく考えてみれば接点は道具屋しかないのだからそこで会うのは必然なのかもしれないが…。

 と、推察は後にしてまずは仕事を全うしなくてはな。

 イバン兄さんからの依頼はもう何度も行っているのでお互い慣れたものだ。一通りの手順を終える。


「はい、確かに。急かして悪かったな」

「構わない。それと、よければまた同じ依頼を受けておくが」

「あ、それ是非頼む! さすがに在庫ほとんどない状態じゃ営業してるんだかしてないんだかわからないしね」


 そう言ってイバン兄さんは笑ったが、笑いごとではないと思う。

 ふと、それまで黙っていた冒険者の女性がこちらを見ていることに気が付いた。私に何か思うところがあるのだろうか…?


「その素材ってのは、あんたが採ってきたのかい? あたしにはあんたが冒険者には見えないんだけど…」

「あー、ちがうちがう。エレノアは冒険者じゃないよ。ギルドの人間なんだ」

「ギルド…?」


 ふむ、あきらかに戦いに不慣れそうな私が素材を持ってきたことが不思議だったのか。

 そして彼女はギルドを知らないらしい。昨日の冒険者は知っていたが、まあやはりまだその程度の知名度なのだろう。


「今回のような素材収集であったり、護衛が必要であったり…冒険者に頼みたいことを請け負う場所だ。人数は少ないが所属する冒険者でそれらに対応している」

「ふうん…使う側は便利だろうけど、冒険者からすると何だか窮屈そうだねえ。どこかに勤めているみたいだよ」

「確かにな」


 その意見は否定できない。冒険者とは元来自由なものだ。

 それが定まった場所で生活し、すでに用意されている依頼の中から仕事を選択する。どこか行動が制限されているように感じる者もいるだろう。


「その代わり、頼みごとをしてくれる人がいるうちは食いっぱぐれる心配はあまりしなくてすみそうだね」

「………ふむ」


 冒険者として自由気ままな考えばかりが先行するのかと思っていたが。この人は、そういったこともきちんと考えているのだな。卑下しているわけではなく今の生活のリスクも把握しているのだと思い、何となく印象に残った。


「それにしても、こんなに大量の毒消しなんてどうするんだ? 魔物退治の備えにしちゃ多いと思うんだけど」


 イバン兄さんが疑問を投げかける。ふむ、その疑問はもっともだと思う。店の在庫がなくなるほど必要だというのは、一体どんな状況なのか。

 冒険者の女性は特に隠し立てするでもなく教えてくれた。


「期間の長い仕事だからってのもあるんだけど、何よりあたしらが大所帯でね。あたしを含めて四、五…今は七人で行動してるのさ」

「そりゃ多いな! なるほど納得だ」

「やはり珍しいのか?」

「冒険者は気性の荒い奴も多いからな。人数が増えるともめ事も増える」


 イバン兄さんは調合の手を止めずに会話を続けている。器用なものだ。

 そして冒険者はというと、ため息をつくと疲れた顔をしていた。


「まあそれだけじゃなく、いろいろ忙しない状況になっちまってね……」


 そして再びのため息。イバン兄さんと目が合う。

 ――なんというか、苦労しているようだ。少し話を聞こうか。

 そう言っているのがわかったので私も目を細めてうなずいた。普段ならばこんな芸当トールとの間でしか通用しないものだが…それだけ彼女の苦労がにじみ出ていたということだろう。


 そこから冒険者の女性――イメルダさんの話を聞いた。名前は話の途中で教えてもらった。


「他の町にいる時に今のこの仕事を引き受けないかって誘われたんだ。あたしらみたいな大所帯に任せたいんだって言っててね。うちの人数でできる仕事ってのは限られてるからあたしも悩んだんだけど…それでもね、あたしらにもいろいろあるもんだから、断ったんだ」



 話を聞くうち、彼女が集団のリーダーなのだと察しがついた。そしてその立場だからこそ仲間内ではなく私たちにこのような話をするのだろう。時には何も知らない人間のほうが話しやすいこともある。


「ただ、珍しく大口の依頼だったからね。説明はしていたけど、納得できなかったんだろうよ。後からあたしの知らないうちに仕事を受けなおしたらしい。依頼人が街からいなくなってからそのことを言ってくんの。そりゃもう受けるしかないさ」


 予定外の仕事となったため慌ててこの街へやって来たようだ。

 ふむ、トールとウルフがこの件に関して話していたが、トールの予想が当たったな。

 彼女はそういった事情を相手方に説明し少しばかり準備期間を設けてもらったそうだ。相手が話を聞いてくれる相手で良かったな。しかしこうして急いで準備に奔走しているようだが、道具でさえこの調子なのだから他にも武器の手入れの時間など必要なのではないだろうか?


「確かにバタバタしてるよ、あたしはね。ただ、中にはすることがないって暇を持て余してる子もいるんだ。まあ今の間にできそうな仕事を見つけてきたって言ってたからいくらかマシにはなったかね」


 集団行動ということは戦力もできることも多くなるが、全体の行動が一貫していなければマイナスにもなりうるということだな。

 今のギルドはとても集団とは言えないが、いずれはそう呼べるだけの人数が集まるのだろうか? 考えてみたがあまり想像できなかった。

 けれどそういった集団に対する規則を考えておく必要はあるかもしれない。人数が増えてから考えるのでは遅いだろう。イメルダさんの話のように、ギルドに所属する者が依頼を勝手に引き受けてきたとしたら困る。だが、すべての依頼を断るのもしのびない…。

 さすがにすぐには答えが出そうにないな。後でトールに相談してみよう。


「よし、不足分はこれで完成だ。待たせたな」

「いやこっちこそ。長々と話しちまって悪かったね。あんたも」

「ん? ああ、いや。とても有意義な時間だったさ」

「そうかい?」


 気付けば道具の完成まで居座ってしまった。けれど彼女の話には引き込まれたし、ギルドの今後の課題も見つけられたので有意義だったのは間違いない。

 立ち去ろうとして…どうにも気になったのでひとつだけ訊ねてみた。


「疑問に思ったんだが…何故依頼を断らなかったんだ? 不本意な受注だったと言うのなら、断わることも…ましてや無視することだってできたはずだ」


 受けた依頼は完遂すべきものだが、後から断りを入れてくる場合や、そもそも引き受けておいてすっぽかす冒険者だっているはずだ。彼女たちも同じことができたはずなのにそれをしなかったのは何故だろうと思った。


「そんなの……相手はこっちの事情なんざ知らないんだ。引き受けてしまった以上、仲間の勝手だとかは関係ない。あたしらの名前で受けた。だからやる。それだけの話さ」


 それが仕事だから、と彼女は締めくくった。

 私はその答えを聞いて満足半分、羨望半分で帰った。

 あんな冒険者が多くいればいいという思いと、あんな冒険者がギルドにいてくれれば心強いのに、という思いだ。


「仕事だから……か」


 そう、仕事だ。冒険者が冒険者として働けるよう、私は私の仕事をしよう。

 帰ったら遅れた分を取り戻すべく頑張るとしよう。




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