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頁013.冒険者たち②



 ギルドで作業していると、イバン兄さんがやってきた。先日道具屋が依頼した素材採取依頼の件、らしい。確かにその依頼は書類をあさるまでもなく覚えている。だが記憶違いがあるとすれば…。


「その依頼、急ぎではなかったと記憶しているが…?」

「そうだったんだけど、実は……」


 理由を尋ねると、店にある商品が大量に売れてしまったのだと教えてくれた。中でも毒消しはある分すべてくれと言われたそうで、在庫がまったくない状況なのだそうだ。なんというか、既視感を覚える。ひとまず状況はわかったが、しかし……。


「今ウルフが採取に向かっているところでな、うまくいけば明日明後日には渡せると思うが…」

「明日明後日か…いや仕方ない、よな……。わかった、それで頼むよ」

「ああ。しかし一体どうしたんだ?」


 イバン兄さんの道具屋の規模はあまり大きいほうではないと聞くが、それでも店にある在庫すべてとなれば結構な数はあったはずだ。

 そのすべての在庫がなくなるなど非常に珍しいに違いない。


「買っていったのは冒険者なんだけど、ありったけくれって言うんだよ。で、在庫全部出したらそれでもまだ足りないんだとさ。うちみたいな小さい店じゃそこまで数揃えてないっていうのに」

「ふむ…大所帯なんだろうか?」

「冒険者が来るのは珍しくもないけど、武器や防具にも金をかけなきゃいけない彼らが道具だけをこんなに買っていくなんてなかなかないぞ…。何か依頼で来たみたいなことは言ってたけど…」


 そう言ってイバン兄さんは足早に帰って行った。

 不思議なこともあるものだ。


 その日、帰ってきたトールとウルフにこの話をすると二人は何となく察しがついたらしい。


「そいつはあれじゃねえか、海に出たっていう魔物絡みの」

「あ、それ俺も聞いた。確か結構長いスパンで頼んでるって言ってたっけ」


 ふむ、やはり冒険者には冒険者の噂のルートがあるのだな。たまにはこうして今の話題を聞いておくべきなのかもしれない。


「そんな慌てて道具調達に行くなんざ慣れてねえ感じがするな」

「いやー来る前に買う暇なかったとかじゃない? 急いで雇ったみたいな話も聞いたし」

「だからって、なあ?」


 二人は冒険者の視点からいろいろ予想しているようだが、私は目先の依頼だ。


「急いでいるようだし、明日届けに行こうと思う。数は揃っているんだよな?」

「おう、大丈夫だぜ。けど、そんだけ必要だってんならもっと集めてくりゃ良かったな…」


 必要数が増えたことなど予測できなかったのだから、仕方ないことだろう。


 日が変わり、冒険者二人を送り出したところで私も道具屋に向かうことにした。

 また同じ依頼を受けるとして必要な量はどの程度だろうか、ウルフのスケジュールはどうするか、などと考えながら歩く。

 街の中央区にたどり着き、道具屋まではあと少しとなった頃。前方に何かを捉え、何の気なしにそちらに視線を向けながら歩く。

 成人と思しき…ふむ、女性だな。女性二人が何やら話している。そして彼女たちの周囲には子どもが二人いる。どちらも男の子のようで、二人とも片側の女性が連れているようだ。

 それにしても全員まったく見覚えがないなとぼんやり思いながら通り過ぎようとした時、偶然会話が聞こえてきた。


「あたしもこの街には来たばかりでね…悪いんだけど」

「そうか…いや、こちらこそ呼び止めてすまない」


 おや、知人ではなかったのか。子どもを連れた側の女性がもう一人の女性に何かを尋ねていたようだ。

 そう考えながら見ていたら、背丈の大きいほうの子どもと目が合ってしまった。じろじろと見すぎてしまったか。気まずくなりすぐに視線をそらそうとしたが子どものほうから視線をそらしてくれた。子どもは母親らしき女性に視線を移し話しかけていた。


「母さん、あちらの方はこの街の人のようだよ。尋ねてみたら?」

「……」


 意味は理解できたのだが…なんというか、子どもらしくない言葉遣いのできる子だな。私が言えたことではないだろうが。

 そんなことを考えていると、子どもを連れていない、何かを尋ねられていたほうの女性が声をかけてきた。


「この子ら、役場を探してるんだってさ。けどあたしじゃ位置がわかんなくてね」

「む、役場か」


 それならば私でもわかる。ここからのおおよその道順と目印になりそうなものを教えておいた。ちなみに役場は街の北側にある。


「宿からそう離れていなかったとは…申し訳ない、近いのに気付けなかった」

「へえ、あたしもわからなかったよ」

「宿側からだと一本向こうの通りだからな」


 口ぶりから察するに、両者ともに宿に泊まっているのではないだろうか。しかし、こんな幼い子を連れて旅をしているのか?

 いやそれ以前に、役場に何の用だろうか? 基本的に住人しか用事のない場所だが…。


「それにしても、あんた…街の人じゃないってのに役場なんかに何の用なの?」


 彼女も私と同じ疑問にたどり着いたようだ……って、よくそんな個人的な話題に対してつっこめるな。そう考えながら質問をした彼女の姿を観察していたが、またしても冒険者らしかった。ふむ、これまでに出会った冒険者たちの様子から言って、気さくに会話できるのは彼らだからだろうか。私にはまねできない。


「いろいろあって、ここに落ち着こうと思っている。だが書類が必要だと言われた」


 素直に答えるほうもどうなのだろう。私だったらやはり適当にごまかすだろうな。

 とはいえ母親のすぐ近くで「おとーさんがどっかーんってして」などと子どもが言っているので、どの道隠しようがないのかもしれない。先ほどの大きいほうの子どもが先を言わせないよう口をふさいだので続きはわからない。父親は一体何をしたんだろうな。


「へえ…。ま、よくわかんないけど、がんばんなよ!」


 あんなプライベートな質問をしておいてよくわかってないのか。彼女の雑な応援に母親のほうはうなずきを返した。


「ありがとう。では行こう」

「どうもありがとうございました」

「ありあーと、した!」


 上の子の落ち着きっぷりとは逆に、下の子は舌足らずな様子と身体ごと動いている様にほっこりした。

親子三人を見送って、私たちも別れようとしたが偶然にも同じ方向だった。


「おや、あんたもこっち?」

「私は元々この先に用事があってな」

「あたしもそうさ。こっちに向かう途中で声をかけられてね」


 そんなことを話していたら道具屋に着いた。私はここまでだと言おうとしたら隣の彼女の足も止まっていた。どうやら同じ場所に向かっていたらしい。


「こんな偶然もあるんだねえ」

「なかなかないとは思うがな…」


 そうして二人揃って道具屋に入ったが、私たちを見たイバン兄さんは何故かとても驚いていた。

 首をかしげていると、この冒険者こそが例の道具を大量購入した人物だという。

 偶然と言うか、世間は狭いと言うか。こんなこともあるものだな。




18/03/31 文章追加。

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