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頁012.冒険者たち①


 ウルフが加わったことにより最近では非常に安定した日々を過ごしていた。トールが疲れ果てていた日々が嘘だったかのように穏やかだ。

 ただし依頼の数そのものは着実に増えているし、若干数ではあるが遠方からの依頼も入るようになっている。

 噂を聞きつけ試しに使ってみようと考える人が出てきたのではないか、というのがトールの推測だ。そして彼らがそう考える理由のひとつとして、現時点で依頼受注率と依頼達成率が同率…すなわち、受けた依頼を100%完遂している点が挙げられる。

 失敗をしていないのは強みになるらしい。が、いつまでも今の状態を維持できはしないだろうという考えは私もトールも一緒だ。

 何より、受けた依頼のすべてを達成しているのには理由がある。

 それは達成できる依頼しか受けていないということだ。


「やっぱ、ダメ?」

「駄目というか…厳しいな」


 今もせっかくの依頼を断ろうとしている。

 先日受けた依頼の報告のために訪れた武器屋で、その店の長女であるレティシアさんに声をかけられ、別の依頼を提示されたのだが…。


「まあ、そうよね。トールもあのおっさんも、魔法得意そうには見えないし…」


 レティシアさんの依頼は、魔力を込めることができる石――魔畜石の入手だった。

 魔畜石とは人々の生活に欠かせない石である。私たちは火の魔畜石を使って火をおこしているし、雷の魔畜石を使えば明かりがともる。

 魔畜石にもいろいろと種類があり、私たちが日常的に用いているのは充電または交換が必要なものなのだが、質の高いものになるとそれらの手間が減ってゆくのだという。無論、質と値段は比例して上がっていく。世の中ままならないな…。

 中でも武器や防具に付与するための魔畜石は永続的に効果を発揮する自動魔畜石が好ましいのだという。

 ……が、素材の良さ故に価格も跳ね上がり、買い手もつきにくいため市場に出回る数も需要もそう多くないのだとか。

 そこからいくらかランクを落とした魔畜石で装備に属性を付与するのが一般的だそうだ。拠点に戻る度に充電を忘れなければ疑似的ではあるものの永続的に属性を付与していられる。価格も自動魔畜石に比べれば良心的だ。

 そしてレティシアさんが望んでいるのもその疑似永続型魔畜石なのだが…都合よくそれだけのランクの魔畜石が売りに出るはずもない。日常生活で用いるにしては高能力すぎるため、こんな辺鄙な街で入手できるとは私もレティシアさんも思っていない。

 では自分で採りに行くかというと、そう簡単な話ではない。

 素材となる石が長い年月をかけて魔力を浴び続けたものが魔畜石になるのだという。私たちが日々の生活で使っている使い捨ての魔畜石はほとんど何の魔力も含まれていない、ただの素材そのものだったり、わずかな期間しか魔力を浴びていないため保存容量が少なく使い捨てる形となるらしい。

 魔畜石は誰でも起動できることと魔力がなくとも発動できることが大きな魅力だ。私のように戦う力を一切持たない、魔力をほぼ有していない存在には必要不可欠だ。それでなくとも人の魔力は限られているし、扱える属性も一つか二つだ。生活に使うとなればそれだけでは心もとないだろう。

 少し話がそれてしまったが、魔畜石とは魔力がある場所に存在する。特に今回レティシアさんが求めているランクとなると、魔力の密度が高い場所へ行く必要がある。

 そして魔力の密度が高いとどうなるか。答えは、魔力なくして存在できない魔物が多くいる。

 魔物も存在に適応して進化していくそうで、魔力の多い場所には身体が魔力でできている存在が多く生息するそうだ。

 魔力でできた魔物たちの多くには物理攻撃が通用しない。魔法攻撃を行うか、魔畜石などで魔法の力を付与した属性攻撃でなくては当たらない。

 トールもウルフも完全な前衛タイプであり、属性のついた武器も持っていない。トールならばある程度魔法攻撃を行えるだろうが、そう長く魔力は持つまい。


「ううー…今年の誕生日はこれでイケると思ったんだけどなぁ」


 誕生日…そういえば、レティシアさんの弟で武器屋の長男ルカスさんがもうすぐ誕生日だったのではないだろうか。ふむ、それで武器作りに必要な魔畜石をやるつもりだったのか。

 協力したいのはやまやまだが、できないことというものはある。


「すまないな。何分、ギルドも発足して日が浅い。魔法主体の者はまだいないんだ」

「ん、あー、いいっていって。ちょっと思いついただけだし、またなんか考えてみるよ」


 申し訳ないとは思うが、仕方ない。

 そう思っていたのだが…。


「ね。良かったらそれ、あたしが行ってこようか?」


 ……なんとなく、以前にも同じようなことがあった気がする。

 ともあれ声のした方向を見ると、女性が立っていた。軽装で街中にいてもおかしくはないが…武器屋にいることから考えても冒険者だろう。ああ、この辺りも以前の記憶とよく似ているな。


「ん、なに? もしかして聞こえてた?」

「あれだけ大きな声で話してたら、そりゃあね…」

「あっはっはー、違いない」


 そこは恥じるべきだと思うのだが。レティシアさんにはそんな感情がなさそうだ。


「ま、気を取り直して…君、冒険者かな?」

「うん。あたしはルリ。冒険者だよ。これでも魔法は得意なほうだから、さっきの話からして役に立てるかなって」


 ルリと名乗った冒険者は、私とさほど変わらないくらいの年齢に見えた。

 腰の位置に道具の入ったポーチと一緒に短剣を持っているのが目についた。魔法が得意だと言うのなら、こちらは護身用なのだろう。


「あたしはこの武器屋の娘のレティシアよ。で、こっちが…」

「エレノアだ。私は…まあ、ギルドの関係者だ」


 そう名乗ったものの、ギルドの話は別段しなくても良かっただろうか。言ってから考えても遅いが。


「ギルド? ギルドってあの、冒険者が集まるっていうやつ?」

「知っているのか」

「うん、わかるよ! でも、そっか。本当にあるんだ…」


 彼女の中でどういった認識なのかはわからないが、少しは知られてきているようだ。冒険者たちにとって無関係ではないのだ、耳に入りやすいのかもしれないな。


「うーんと、じゃあ、ギルドから仕事を紹介してもらうって形になるのかな?」

「……いや、個人で受けてもらって構わない」

「あ、もしかして部外者じゃダメってやつ?」

「そういうわけではないのだが……」


 そんな閉鎖的環境にしているのではないのだが…いずれはギルドに所属していない冒険者に依頼を紹介するのも面白いかもしれないな。

 とはいえ現状ではそのようなシステムは考えていない。ただ困っている知人を手助けしてくれるかもしれない人が現れたというだけだ。


「こちらの…ギルドのことは考えなくていい。依頼を受けられなかったんだ、いなかったものと考えてくれ」

「うーん、でもなんか仕事横取りしたみたいで……」


 ………なんというか。

 お人よしどもめ。


「え、なに?」

「……とにかく気にしないでくれ。ギルドとしては悔しい限りだが…友人として彼女を助けてくれるのならば、私個人としては嬉しい限りだ」

「ん…そっか。優しいんだね」


 そう言ってルリは笑った。お人よしに言われることではないと思うのだが、なんと返していいかわからず渋い顔で場を濁してしまった。

 まあいい、依頼の細かな打ち合わせもあるだろうし私はここで帰るとしよう。


「ではな、私はこれで。後は任せた」

「うん、エレノアもありがとね! おねーさん嬉しかったよ!」


 …? 何が嬉しいというのだろうか。私にはよくわからず、首をかしげながら帰路に就いた。




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