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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
最終章 断罪の旅人
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9話 断罪の証拠

 各々が行動に移している中で翌日を迎えた。テュイルと竜仙はこの国の国王に会いに行き、ミーアは一度旅人の世界へと帰還している。一巡に巻き込まれた際の強制帰還装置を受け取りに行った。他にもホムホムへの情報連携と帰還についての話し合いを行う必要があり、部下たちが率先して行動してくれている。

 さて、そんな中で俺は何をしているのかと言えば、デスクワークをしている。博士が行おうとしている全世界を巻き込む事件に対して、断罪を行う為の情報整理をしている。本来、何でもかんでも断罪を行うことは出来ない。旅人が行う断罪には、行うだけの正当な理由および証拠が必要なのだ。


「証拠が足りないんだよなぁ。博士が暴露した内容を含めて、情報の信憑性を確認もしなければならない。他の旅人から得た情報も含めて信憑性の確認も少しずつ得られてきてはいる。だが、それだけでは断罪を行う為の罪状には届かない。世界の初期化を早めるだけならば、それは時の牢獄に入れるだけで終わる。しかし、何か裏があるように思えるんだよな」


 今回、博士自身が自供した全世界を巻き込む初期化の計画。その情報だけでも逮捕としては十分可能なのだが、それでは断罪を行う事が出来ない。罪の自供だけでは、その場で着いた嘘として認証されるため断罪が行えないのだ。博士が行った行為は「他世界のアカシックレコードの情報を読み、クローン人間を作成した」だけだ。初代と契約を結んだとしても、実際に全世界に影響を及ぼす実験は、まだ実行されていない状態である。計画を実行していても全世界に被害が及ばない限り、断罪の執行は不可能である。犯行計画を基に逮捕することも考えたのだが、初代と契約を結んでいる時点で逮捕後に何が起こるか不明のため断念せざるを得ない。どちらにしても、実験が行われた瞬間に断罪をする必要があるという事だ。


(博士が自供した計画に関する証拠はある。だが、それだけじゃ駄目だ。あと一歩、自供とは別の内容が手に入れば、断罪を行える。各世界に存在するアカシックレコードの参照とクローン人間の生成。それも、自身の弟の魂を複製し、人間を生成したと言う自供。魂の複製を行ったと言う証拠もある。さて、どうしたものか。断罪を行うためのエネルギーを溜める時間も考えれば、時間があまりないんだよな)


 断罪を行うために必要なエネルギーを溜める時間は最低で二日は必要であり、すぐに行えるものではないのだ。人の世の理で言う断罪は『斬首刑』または『罪を裁くこと』と言えば良いか。だが、旅人の断罪は『一般の斬首刑』ではない。罪を理解し、正しき罰を下すまでは一緒だが、違うのは『肉体を封じ、魂の状態で罰を与える』である。断罪を行った場合、その瞬間に『首と胴体を水晶柱に封印し、魂を断罪の空間に封印する』と言う力があるのだ。断罪を行った場合、肉体は腐敗せず、水晶柱の中で時が止まっている状態になる。


(三大厄災の時に行われた断罪は、頭部だけ保管できなかったが、無事にこの世界で頭部の回収も出来た。後は、博士を断罪するだけだが――はぁ、狂い神に昇華したとなれば、まずはその概念を破壊する必要がある。それが可能なのは俺の逆刃刀である『幻竜』のみだ。現状、どう考えても逆刃刀での断罪でしか頸は斬り落とせない。情報をこうやって整理しながら、ようやく第二フェーズまで解放許可になった。でも、最終フェーズまでまだ足りない)


 今のところ、博士の自供だけでは完全に断罪を行うことは不可能である。その為、他の部隊から連携された情報を基に、断罪を行う事の正当性を証明する必要がある。その為、書類を読んでいる中で、幾つか気になる単語があった。過去に博士が行った実験に該当するものが、いくつか見つかった。


「人工衛星による魔素濃度測定。人工授精による人間の生成。人間の脳による電気信号研究。いろいろと情報が出てきたが、人工衛星による魔素濃度測定以外、俺が人間だった世界で行われた実験ばかりだ。ただ、実験に使われたのは全て死刑囚か。何が目的で――」


 書類を見つめていると、懐に入っていた通信端末が振動した。すぐに通信端末を取り確認する。通信端末画面には嬢ちゃんの名前が映っていた。皆が行動に移している中で、嬢ちゃんからの連絡と言うのが気になり通話ボタンを押した。


『もしもし、ダーリン。今、通話しても大丈夫だったかしら』


 最近まで忙しかったはずなのに元気そうな声が聞こえ、此方から通話する機会が少なかったことを思い出した。忙しすぎるとは言え、たまには嬢ちゃんと通話するべきだったと反省しつつ答える。


「あぁ、大丈夫だ。丁度、頭の中の整理をしていたところだったからな。それよりも最近、通話できずに済まない。嬢ちゃん――いや、始祖も元気か」


『えぇ、元気よ。流石に、毎日レーヴァの魂に刻まれた記憶を確認するのは疲れたわね。でも、ようやくレーヴァの魂の解読が終わったわ。そこで、博士が行おうとしている実験の事が分かったわ』


 何やら神妙な声に、ふと疑問に思った。何故なら、ミョルニル博士が行おうとしている実験について、全体会議の場に居た嬢ちゃんは聞いていたはずだ。だが、嬢ちゃんから博士の実験についての話が出た。まさか、他にも実験をしていたのかと思い、聞いてい見る事にした。


「ん? 博士が行おうとしている実験は、終極の一巡を意図的に起こそうとしている事ではないのか。まさか、まだ何か実験をしていたのか」


『えぇ、その通りよ。終極の一巡を起こす件は、あくまでもカモフラージュとして用意した一つよ。アカシックレコードを閲覧した事で、博士はレーヴァを来日の神へと昇華し、意図的に終極の一巡を起こす。此処までは同じだったわ。でもね、博士はもう一つ実験を行っていたわ。それが初代の力を用いての全世界の完全なる消失よ』


 時が止まったかのように、静寂に包まれた。その言葉はあまりにも衝撃的過ぎ、何と返答すればよいのか分からなかった。こんな時に冗談だろうと思っても、あの博士ならありえる。その結論を否定したいが、否定するための情報が手元になかった。そんな状態の俺に対して、嬢ちゃんは俺の返答を待たずに説明を続けた。


『そもそも、初代と協力を結んだ事が疑問だったわ。初代が、ただの害虫としてしか見ていない人間――いえ、兵器と言える存在に協力なんて結ぶこと自体がありえない。そこで、彼らは考えた。初代が望むのは、増殖し続ける世界の抹消。世界は一つだけ存在すれば良いと。だから、博士は初代とある契約を結んだ。その為に各世界に楔を打ったのよ。その楔に、初代の力が混ざっていた事すら隠してね』


「ま、待ってくれ。もしそれが本当だとして、隊長たちが気づかないはずがない。それに、終極の一巡が起これば全ての世界が初期化されるはずだ。初代の力でも、一巡が起こればその力も発動されない限り、全てが消えるはずだ」


『えぇ、本来なら消えるはずよ。でも、それは本来の来日の神が行った場合に限るわ。今回、博士が起こそうとしている実験のトリガーは、新たに作り出したレーヴァによって引き起こすことよ。分かるでしょ、初代の力だけを消さずに実行させることだって可能だってこと。それに、初代の力を定期的に少しずつ中核に流し込まれれば、その時点で詳しい調査をしない限り絶対に見つけ出せない。そこまで考えて実行していたみたいよ』


 それを聞いて、頭を抱えてしまった。初代関連の問題は、常に全世界を巻き込む大災害である。無から最初に誕生した概念であり、人と言う形を創り出す最初の存在。それ杖に、世界を壊す事も、再生させる事も思いのまま出来る。そういった問題と真っ向からぶつかるのが、俺が所属する第零部隊なのだ。なのだが、此処で全世界を巻き込む『完全なる消失』とか、本当に頭が痛くなる。


「隊長には報告済みなのか」


『えぇ、もちろん。さらに言えば、また脱走した国王を捕縛して、ついでに国王にも報告したわ』


 また、国王が脱走したらしい。国王との街一つを会場にした鬼ごっこでもしているのではないかと頭を抱えてしまう程の問題だが、隊長がまた捕まえて『この忙しいときに逃げてるんじゃねぇ!』とか言って、コブラツイストをかけているに違いない。この件については、隊長に任せる事にする。


「また、脱走したのか国王。自分の手では負えないことになると、そのプレッシャーからよく逃げるからなぁ。最終決定への書類へのサイン作業をしたくないとかで逃げる癖に、城壁の劣化などの情報を仕入れ、早急に仕事を振るんだ。そして、また逃げる。でも、何故か憎めない。まぁ、この話はどうでも良いか」


『そうね、国王に関しては今はどうでも良いわ。でも、確かにあの国王が統治した瞬間から、旅人の世界は面白くはなったわね。だから、私たちも頑張ろうと思えるのよね。でも、仕事から逃げるのは勘弁してほしいけどね』


「確かにそうだよなぁ。ただ、毎回逃走しては隊長を駆り出されるのは困るがな。国王が仕事したくないからと逃げるなど、他の世界の国王と比較してよいものかと頭を抱えたっけか。それにしても、頭を抱える問題が次々とやって来るな」


『そうね、今回の問題はかなり深刻よね。私もこの情報を得た時は、めまいを覚えたもの。隊長なんて、その話を聞いた瞬間に「あんにゃろう、今度こそ時の牢獄に封印してやる」とか叫びながら、国王を縄で簀巻きのように縛ってたわよ』


 何故かその光景が容易に想像できてしまい、ため息が漏れてしまった。なんせ、この後に断罪を行うための許可申請を出さなければならないのだ。今から博士に対する断罪の許可申請が下りれば、博士との対決までには間に合うはずだ。


「今度こそ、完全に殺してやらないとな」


『そうね。私としても、いい加減あの人を寝かしてあげたいもの。永遠に生き続けることは、永遠の苦しみを背負うと言うこと。そう考えると、旅人として生き続けることも同じなのかもしれないわね。そう考えると、隊長がやろうとしている事は旅人が背負う苦しみから解放するって事になるわね』


「そうだな。無から産まれた最初の世界であり、旅人として選ばれた者は不老不死となり永遠に生き続ける。世界を監視し、見守る守護者として、死に逝く家族を、友を見送り続ける。殺されたとしても肉体は光となって消え、また同じ肉体として復活する。死ぬまでの激痛を味わいながらも、な」


 今まで経験してきたことが脳裏を過る。実力が足りず、他世界で出来た友人たちを失った日々。旅人としての役目から寿命すらない故に、家族を見送り続ける日々を送ってきた。だからこそ、それに耐えられる精神を持たなくてはならない。無限に近い死の激痛と、別れを経験し続ける苦しみに耐えながら、旅人とは生き続ける存在なのだと隊長と共に観測した世界で学んだ。


「はぁ、旅人の宿命を終える事で初代も消滅すると言うのに、それだけでは飽き足らず全ての世界をも消滅を望むのか。まさしくオールデリートってことか」


『外なる神とか邪神なら、喜びそうな事よね。彼らにとって人間は、ただの虫であり、観察対象でしかない。居ても居なくてもどうでも良い存在だし。オールデリート後に、自分の好きなように世界を創れるものね』


「あぁ、なんかあったな。邪神たちが世界を造り変えようとした事件。他の世界も巻き込もうとしてたから、断罪対象として地獄を見せたんだっけか」


 ニャル何とかが、睡眠時間が三分しか取れないくらい忙しいと言うのに、面倒ごとを引き起こした輩に対して、国王と隊長たちが頬をひきつる程の勢いで、断罪許可書を勝ち取って、生きていることを後悔させる程に追い詰めて断罪した記憶がある。ただ、睡魔とキレていたせいか朧げにしか記憶がない。


『あの時は面白かったわ。邪神どもが襲い掛かる中で、そのこと如くを断罪して、断罪して、断罪して、邪神たちが逃げ出したあの光景が懐かしいわ。貴方が、笑いながら邪神の首を狩って、焼いて、目の前でその灼けた皮膚を嚙み切って、心臓を抉りだし、目の前で握りつぶしたり、邪神たちの絶望した顔を今でも思い出すわね。人間を発狂させる側が、逆に発狂してたわよ。あの時、目の前で血祭りにされている側が善良な市民で、貴方が死神と言う名の殺戮者って思ったわね』


「待て、俺はそんなことをしたのか? 断罪で首狩って、焼いて、嚙み切ったのか。ぇ、マジで俺がそんなことをしたのか。まったく記憶がないのだが」


『えぇ、邪神が恐怖してたわよ。アレは、殺人鬼による種族抹殺事件とでも名付けて良いと思ったわ。あの後、隊長が駆けつけて止めなかったら、邪神たちどころか外世界の神たちも虐殺しそうな勢いだったわね。運よく駆けつけたからよかったけど、一部の生き残りたちが、今も語り継がれているよ。貴方の名前を聞いて、挑戦しに行った奴が帰って来ない事から、未だに貴方は邪神たちから恐怖の象徴なのよね』


 初めて知った真実と、確かに仕事中に襲い掛かってきた奴を叩きのめした記憶はある。アレ、邪神だったのか。忙しいときに喧嘩吹っ掛けてきたから叩きのめして、部下たちに後片付けを任せた記憶がある。あの後、どうなったのか知らない。


「まぁ、取り合えずだ。今の段階で断罪認定は確定で貰えるだろう。其方の申請をしな『そっちはもう終わらせたわよ』仕事が早いな。助かる」


『準備は進めて良いわよ。こっちは初代の毒を取り除く作業を進めるわ。他世界を巻き込む全ての初期化だけは阻止したいから。あぁ、そう言えば邪神たちも手を貸してくれているわ。貴方の名前を出した途端、我々も力を貸すと言って協力してくれているわ』


「また、俺の名前を出したのか。それ、恐喝罪に当たらないか? まぁ、協力してくれるなら別に構わないが。取り合えず、仕事だけは増やさないでくれれば良い。終極の一巡が起これば、供給し続ける世界は完全に消え、消費し続ける世界へと変わるからな」


 世界に繋がれた鎖は、因果の果てに到達した世界から一つずつ外されている。その世界は綺麗に消滅し、全ての世界が果てに到達するのを待っている。待っている間は、強大なエネルギーの塊になって一か所に集まっている。エネルギーの塊になっているとはいえ、基は一つの生命体である。その為、世界に刻まれた記憶を記録し、全ての初期化が行われている。


『初期化は、正常に進んでいるわ。初代の毒が撒かれていないかを確認している途中よ。精密に検査なんてしていなかったから、またやり直しになってしまったけどね。今になって発覚した情報だから、再検査しているから人員がさらに減ってしまっているけど』


「それは、仕方がないことだ。必要なら部下の何人か引き抜いて対応して構わない。ただ、邪神とかに対応させるのは止めてくれ。変な事をやりかねないからな」


『えぇ、そこは抜かりないわよ。取り合えず、世界一怖いと言う名な第六部隊の方々のお手伝いをしてもらってるわ。ヒィヒィ言っていると思うわよ。あそこ本当の意味で地獄だから』


 第六部隊に配属された邪神に、心の底から同情を憶えつつ深く聞かないことにした。あそこ、手加減と言う言葉がないのだ。常に全力で仕留めに行く。何を仕留めるかは不明だが、何人かあそこの部隊の被害にあっている。そして、誰も語ろうとしないのだ。故に、あの部隊については全て隊長に任せることにしているのだ。


「じゃ、俺はこの後やるべきことがあるから切るぞ」


『えぇ、分かったわ。新たな情報が入り次第、また連絡するわね』


 始祖との通話が切れたと同時に、俺は竜仙たちにメールを送る。返答が返ってくる前に席を立つ。いろいろと頭を抱えるレベルの問題が発覚し、一度外の空気を吸おうと窓の方へと向かう。窓の方へと着き、窓越しから外を見ながら窓枠に手をかける。観音開き型の窓なため、左右の取っ手を握り開く。窓を開けると、活気のある声が聞こえて来る。


「この世界に生きる者たちも含めて、なんとしても阻止しないとな」


 仕事の大半はもう片付いた。残りは、竜仙達との情報共有で終わる内容ばかりである。それ故に、今の限られた時間の中で頭の中を整理しながら、仲間たちの到着を待つ。


どうも、お久しぶりです。

毎日忙しい日々を、必死に生きている私です。

執筆もちょこちょこしてましたが、ようやく落ち着いてきました。

だが、また忙しくなるかも( ;∀;)

これからも執筆は続けるよ!!


では、次話で会いましょう ノシ

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