7話 博士の計画
どうも、本当にお久しぶりです。
書く気力が中々湧かなく、スランプに陥っておりました。
どうも、私です。
仕事が忙しいとか言いながらも、少しずつですが書いてます。
完結までちゃんと書きたいから。
そんなわけで、次話も引き続きよろしくお願いいたします(`・ω・´)b
次話で、会いましょう ノシ
「遥か昔のことだ。この世界には一匹の巨大な力を持った魔物が居た。お前たちの推測から――狂いの神こそが邪神だと思っているのだろう。だが、それは違うのだよ。お前たちが言っている『邪神』とは、この世界を創造した魔物だ。初代と無月の戦いで、不完全な形で目覚めてしまった。その結果、この世界の人間は『魔力』が無くては生きれない状態になってしまった」
博士は紅茶の入ったポットを手に持ち、空っぽになったティーカップに紅茶を淹れる。話していることが衝撃的過ぎて、一瞬思考が停止してしまった。何故、魔物がこの世界を創造できるのか分からず、聞き返してしまった。
「狂いの神ではなく、この世界を創造した魔物が邪神だと? この世界の情報は確認しているが、魔物と言う情報はなかった。魔物がこの世界を創ったとはどういうことだ」
「世界の創造など、力を持った存在が居れば創り出せるものだ。この世界は、別世界から逃げてきた魔物が、まだ人間性を残していた時に創造した世界だ。奴が眠りにつく前に創り出した神々がこの世界を管理しているが、奴が眠りについているのを良いことに好き勝手してしまっている。お前たち旅人がいるおかげで、この世界はある意味で均衡が保てている状態だ。初代を止めなければ、この世界は数分もたたずに消滅していただろう」
「別世界から逃げてきた魔物だと? 本来、別世界への転移は不可能なはずだ。転生や転移は、本来ならば『死と再生の循環の輪を漂う魂』を、循環の輪から離すことだ。そもそも、無理やり外せば魂が崩壊してしまう。別世界への転生は、各世界間に貼られているフィルターによって魂を浄化することで転移や転生が可能となる。そのことは、お前も知っているはずだ」
神々による別世界への転生や転移の場合、魂の形態によって修正が必要となる。簡単に言えば世界間フィルターによる『魂のろ過』である。不要なモノが魂に付着している状態での転移は、転移先の世界で起こりえないバグが発生する可能性があるのだ。そのバグを発生させないために、世界と世界の間には幾千幾万もの『フィルター』が配置されている。よく、異世界転生や異世界転移モノの小説があるが、アレは神々が転移および転生先の世界に合わせて魂を調律しているおかげなのだ。
「その通りだ。だが、あの魔物はそれをやってのけたのだよ。私としては興味深い調査対象ではあったのだがな。しかし、確かにこの世界にあの魔物はやってきた。その結果、この世界の人間は『魔力無くては生きれぬ身体』と変貌してしまったのだ。だが、それもお前が開祖した筋肉教団によって、本来の人間としての形に戻りつつある。私としては、予想外でしかない事象だ」
「それについては、俺も予想外だ。俺のあずかり知れぬところで、俺の部下を筋肉神とか分からん神に神格化して教団を創り出した。この世界の人間が、自らの意思でそうなるように道を切り開いただけに過ぎない。改めて、もう一度言う。俺のあずかり知れぬ処で起きたことであり、俺は開祖ではない」
「そこまで念を押す、か。確かに私ですら気でも狂ったかと思ったが、そうか。だが、結果としてこの世界の人間たちは魔力が尽きたとしても死ぬことはないレベルまで、肉体は成長し始めた。私としては想定外ではあったが、計画には支障はないがな」
ミョルニルはそう告げると、席から立ち上がりバルコニーの柵の前に向かう。その姿を眼で追い、席を立ち後を追う。先ほどの爆発が起きた場所には、火消し部隊――現代で言えば消防署の者たちが燃え盛る屋敷に水魔法をかけて沈下している。だが、炎が消えるる気配は感じられず、今も火消部隊が必死に消そうとしている。
「お前の目から見て、この世界はどうだ。現代の地球の技術が、ファンタジー世界と混在する。この世界は、神々の道楽と言う理由で転生者達を呼び寄せ、彼らの手によって歪に変えられた世界そのものだ。お前が断罪した神々は、手に負えないと評して女神アリアに丸投げしたようだがな。元々、この世界ユーテリアは平和な世界だった。退屈だと言い出した、神々が好き勝手したが故に、もう元に戻せない状況になってしまったのだがね」
「確かに、この世界を元の状態に戻すことは不可能だ。初代の呪いによってこの世界の全ての魂は汚された。さらに、その状態を『アカシックレコードに記録された』ことも確認済みだ。それ故に、もう戻すことは不可能な状況だ。一つの綻びがきっかけとなり、その綻びは広がっていった。現状では、旅人たちの力を用いても戻せない状況になっている」
「そうか。やはりその状態になってしまったか。この世界の神々が犯した罪は重いが、だがそれによって私の計画を遂行しやすくなったとも言える。あそこの爆発して燃え続けている屋敷が見えるか」
博士は燃え盛る屋敷の方を指さす。現在も燃えている屋敷を見て「あぁ、見えている」と告げると、興味深い物を見るかのように屋敷の方を見つめるながら腕を前に組む。その姿は懐かしくもあの日、殺しあう瞬間の博士と同じ姿だった。そんな懐かしい気持ちになる俺に、博士はあの屋敷について何があるのかを離し始めた。
「あの屋敷には、人間を製造するための装置があった。いや、正確に言えば死んだ人間に新たな命を宿すと言う装置だな。五十鈴、お前が旅人となる前の世界で見たはずだ。幼き子らが魔物となった姿を、お前が殺した博士たちが行った忌々しい実験とでも言うべきか」
その言葉と共にあの日の光景が脳裏を過った。孤児院の子どもたちを実験と称して、己の欲望を満たすために行われた実験。もう二度と人間に戻す事も出来ず、生かしたとしてもどこかの研究施設で実験に使用される恐れがあった。あの日、俺はあの子どもたちを殺すしか救うすべがなかった。あの装置がこの世界に存在すると言う事実を突きつけた博士を睨みつけ問い返した。
「あの装置が、この世界に存在するのか!! 人間を化け物に変える、あの装置が」
「人間を化け物に? あぁ、あの失敗作の装置か。あの世界で、私が製造したものなど指で数える限りでしかない。そもそも念入りにシュレッターをかけたと言うのに、それすらも元通りに戻すだけではなく、解明して作り上げたあの博士たちには驚かされたものだ。まぁ、私が知る限り『失敗作だけ』を元通りに戻したところで、それが失敗作だと気づかない時点で無能だがな」
「あれが、失敗作だと。人間の構造を熟知していない限り、人間を魔物に進化させるなど不可能なはずだ。あれが失敗作だと言うのなら、お前が本当に作りたかったものは一体何だ」
人間を魔物へと変えるあの装置が、一体何のために作られたのかが知りたかった。何の罪もない子どもたちを魔物に変えた博士たちが、何故あの装置を用いての実験をつづけたのか。その真実を知ることが出来る。
「アレは、元々は人間を製造する装置だ。いや、設計途中で欠陥が見つかった装置に過ぎない。まぁ、没にしたものだがな。あんなものに何の価値もないと言うのに――この世界の人間たちもあの設計図を盗み、あの屋敷の中で作り上げた。確か、ゲーディオと言う街に居た「トーチャ」と言う青年がいたか。あの青年を装置の実験に利用したようだがね。まぁ、その装置もアストリア家の過激派を一斉に捕縛した際に押収されるはずだった。だが、アレを回収することは不可能だったのだろう。結果、解体をする前に爆発したのだろう」
「人間を製造する装置――何のために、そのようなものを造ろうとしたんだ。人間を造るなど、ホムンクルス――いや、クローン人間を造るようなものだろう。お前の技術力なら簡単に作れるはずだ。だが、そうではないのだろう? 完全な人間を造るための装置なのだろ。だが、そもそもお前は全てをリセットすることが目的なのだろ。それなのに何故、人間を製造する装置を造ろうとした」
「簡単なことだ。我が弟の器を作るためだ。そもそも、お前たちが相手をしていたレーヴァは、本来の機能を持たぬ完全体ではない『多くの機能を失った不具合品』だ。神々が作り上げたとは言え、不完全な形態のまま誕生した存在だ。終極の一巡を起こすためには、人間としての器と神に限りなく近しい魂が必要。レーヴァの魂は限りなく神に近しい魂だ。だが、狂っている状態では意味がない。レーヴァを正常な姿へと復活させる必要があったがな。後は、レーヴァの魂を入れる器――つまり、人間の肉体のみだった。それ故に、人間を製造する装置が必要だったのだよ」
一瞬だが、時が止まったような感覚に陥った。博士は『終極の一巡』を行うために、弟であるレーヴァを正常な姿へと戻そうとしていた。それについては、思う事はあるが家族愛と言う物を感じ取れた。だが、人間を生成する為に製図したあの装置が、来る日の神を呼び起こすために造ろうとしていた。それも、来る日の神を呼び起こすための依り代がレーヴァであること。弟機であるレーヴァすらも道具としか見ていなかった。そのことに、俺は驚いてしまった。
「ミョルニル、お前にとってレーヴァはお前にとって何だ。兄機――いや、今は弟機のはずだろ。お前にとって家族だった存在すらも――いや、お前はそうだったな。実の娘すら実験の道具として使用する。だが、あえて問う。レーヴァは、お前にって道具の一つか」
「ふむ、レーヴァをどう思っているのかと聞くか。初めてお前と銃を向けあったあの日も、同じ質問をしていたな。で、あるならば――答えはただ一つだ。我らが祈願のために必要な犠牲であり、盤上の駒でしかない。もちろん、その駒の一つに私が含まれているがな。さて、そろそろ次の花火が揚がるだろう」
その瞬間、遠くの草原の方から地中に眠っていた不発弾が連鎖して爆発した時に似た光景が目の前で起きていた。その衝撃で地面が揺れ、城下町では叫び声が聞こえる。一体何が起きたのか分からず、衛兵たちが慌ただしく移動をする姿を観ながら博士は、ジッと爆発が起きた方向を見つめる。地震の経験はあまりないのか、少し揺れただけで多くの者が慌てふためいている。
「ふむ、いささか火力が強すぎたか。火薬の量が多すぎたのか、もしくは発射角度がズレて、打ちあがる前に内部で破裂したのか。それとも、両方か。部外者による妨害とも言えるかもしれんが、実に気になるところだな」
達観した表情で、その光景を見ている。花火を打ち上げるつもりが、不発弾が爆発したレベルの衝撃を生むものだろうか。ミサイルの打ち上げに失敗して爆発するのなら理解できるのだが、打ち上げ花火でこの衝撃が起こるのも謎でしかない。
「おい、博士。打ち上げ花火だよな。どうして打ち上げ花火だけで、こんな酷い現象になってるんだよ。どう見ても、不発弾が連鎖して爆発したレベルの衝撃だぞ。マジで、何を打ち上げようとした」
「いや、なに。お前との再会を祝って、花火を打ち上げようとしたのだがな。久しぶりの再会に心が震え、少し高揚してしまったようだ。何千年ぶりに花火を作成したとは言え、まさか気づかぬうちにミサイルレベルの火力で作成してしまったようだ。気にすることはない、人払いの結界を使っていたからな。死傷者はゼロだろう」
「いや、その衝撃波で城下町が被害を受けているのだが。確かに、俺が始祖の家に遊びに行った時も、恋人が来たかと喜び、盛大に花火をあげたことがあったな。あの時のお前はまだまともだったが、あの時も確か不発弾が爆発したような衝撃と爆発が起こっていた気がするが――いや、それ以前に街の方を見れば救急車も走ってるじゃねぇか。どう見ても負傷者が出てるじゃねぇか」
先ほどから、城下町から人の慌ただしい声が聞こえる。若い男性が「こっちに埋もれている奴が――」とか、騎士団たちが走り出しながら「こっちに重傷者が――」など、嫌と言うほど耳に入ってきた。このような状況で、被害がゼロと言えるのだろうか。全く持って意味が分からない。
「まさか、昔の事までも憶えているとは、すさまじい記憶力だ。だが、気にする事はない。こうなることを予期し、先に手配はしてある。まさか、このようなミスをまた起こすとは情けないものだ。まぁ、そんなことはどうでも良い。そろそろやるべき仕事へ戻るとしよう。まだ、聞きたいことがあるのだろう。さっさと、言いなさい」
「お前のミスに関しては、言いたいことが山ほどあるが――確かに、今は置いておこう。博士、お前に聴きたいことは三点だ。まず、一点目。お前が各世界に配置した『あの杭』は一体何のために用意したのか。二点目は、ゲーティアで見つけたレーヴァの魂についてだ。何故、レーヴァの魂を砕く必要があった。あのままレーヴァの魂をお前が回収すれば、そのまま利用できたはずだ。だが、お前はそれを砕き、狂いの欠片にしてばら撒いたのか。最後に、どうやってレーヴァを復活させ終極の一巡を起こす気だ」
博士にそう告げると、一度首を傾げると何か納得したのか無言で頷き答え始めた。
「最初の質問の回答だが。あの杭はこの世界に設置したある装置を起動させるために用意したものだ。もう起動し、必要なデータは取れたがね。二つ目の回答だが、先に三つ目の回答から説明した方がスムーズに理解できるだろう。レーヴァの魂に刻まれた情報を複製し、人工的に作成した魂に定着させ復活させる。肉体と魂の定着はまだ不完全なため、完全な目覚めとは言えないがね。最後に、二つ目の回答だ。レーヴァの肉体と人工の魂を定着させる為だ。本物の魂が存在してしまうと、折角の模倣した魂が無題になってしまうのでね」
「そうか、それがお前の目的――いや、待て。必要なデータを取得だと? 装置でのデータ収集、複製した魂、肉体の定着」
頭の中では『あり得ない』と告げているはずなのに、あの日見た光景と書類の内容が頭の中で何度も再生される。人間の魂を確認するために死刑囚を実験の材料として利用し、人体の生成としてクローン人間を製造した内容も。そして、製造した魂を死体に定着する実験。そのすべての情報が、断片的だが繋がっていく。
「確か、昔お前が言っていたな。人間の魂は、質量を持たない高純度のエネルギー体であると」
「ほぉ、憶えていたか。そうだ、人間たちは魂に質量があると定義しているが、実際は魂を囲う檻の質量だ。肉体と言う入れ物に、高エネルギー体である魂を留めることなど不可能だ。エネルギーを一つの物質として、手で触れ、目視できる存在でない限りは魂を肉体に留めることは出来ない。幽体離脱とは、肉体の檻が『一時的に仮死状態と同じ現象』になることで、肉体は生きたまま魂が抜け出たような状態だ。ただし、肉体と魂を繋ぐ鎖に繋がれた状態でだがな」
「そして、お前は実の娘を利用する前に、何人もの死刑囚を用いて実験を行っていたな。魂を複製する実験。そうか、お前がやろうとしていることは『あの日の再現』だな。実の娘を来る日の神として定着する為に行った実験を、この世界で弟の肉体を利用して実行する。それが目的か」
あり得ないと思いながらも、導き出した答えを告げる。すると、ニヒルの笑みを浮かべながら「正解だ」と告げるかのように拍手をする。想像していた以上の回答だったからだろうが、その姿に苛立ちを覚え睨みつけた。だが、その姿は見慣れているらしく気にすることなく話を始める。
「やはり、憶えていたか。その通り、お前との殺し合いの日に行った実験をこの世界で実施する。それが私の目的だ。あの時は、星の龍脈、穢れなき肉体、清き魂が必要だった。あぁ、あの時の記憶を取り戻すまでにどれ程の年月を要したことか。あの三大厄災を起こした日、私は初代との契約を行い、名に記憶された私の研究記をで思い出せた。初代と私の目的はある意味で一致していたのでね。私の計画を全て知っての上で、此処までの段取りを整えるのに協力してもらえた。今さら、私の計画を止める事は不可能だ」
「確かにそうだろうな。だが、俺はその不可能を破った男だぞ。あの日の延長戦と言うのならば、受けて立つさ。お前の計画を必ず絶つさ。あぁ、約束しよう。お前を殺してこの世界を救ってみせるさ」
「やはり、お前に話してよかった。私の心を振るわせるのは、お前だけだ。あの日、あの世界で唯一、この私を殺して見せたお前だからこそ用意した舞台だ。計画はもう最終フェーズに突入している中で、お前がどのように動き、どのようにして私の計画を阻止するのか。あの時と同じ状況で、お前はどう対応するのか。実に楽しみだ。あぁ、存分に楽しもうじゃないか」
互いに睨み合うように笑うが、決して武器を取り出さない。互いに此処で殺し合えば、街に被害が及ぶ事を理解している。博士に至っては、計画に支障が出る事を理解しているからか武器を出す気配がない。いや、そもそもこの男は手刀で岩を断ち切れる程の男だ。その男が構えを取らないのだから、今はその時ではないのだろう。
「さて、そろそろ茶会はお開きとしよう。五十鈴、神卸しの儀は今から十五日後。もう一度、お前が私を殺し、計画を止めるのか。それとも、計画が成功し終極の一巡にて全てが終わるのか。楽しみにしているぞ」
「あぁ、此処でお前を追っても何も得られないだろうからな」
「その通りだ。安心しろ。儀式を行うまでは、私は一切この世界では行動するつもりはない。その時が来たら、お前の前にまた来よう。その時まで、存分に準備をすると良い。あぁ、その時が来るのを楽しみにしているぞ。御心 五十鈴――いや、久々利 白兎よ」
その一言を最後に、博士は光の粒子となって消え去った。人間の光粒子分解による移動方法でこの場から去ったようだ。追うべきとは思うのだが、今は俺一人の状況で追うのは危険すぎる。それに博士なら第二第三の仕掛けをしているはずだ。それ故に、追いかけるのではなく部下たちと合流すべきだと判断した。
「さて、博士が何をしようとしたのかは理解できた。しかし、まさか来る日の神を卸し終極の一巡を起こすとが目的だったとはな。来日の神である嬢ちゃんをこの地に卸したとしても、終極の一巡は起こらない。だが、博士は新たな肉体を用いて起こすと言っていた。確か、今書く世界に存在する来日の神は残滓であり、本物ではないとか」
その瞬間、俺は急いで白詩隊長に報告しなければならないと判断し、すぐに収納指輪から直通で連絡が取れる通信端末を取り出した。博士が何をしようとしているのか。何故、各世界に楔を用意する必要があったのか。今ある情報を繋げて考えた、最悪のシナリオを俺は報告する為に、通話ボタンを押した。




