表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
最終章 断罪の旅人
85/90

4話 ピース

何とか、書き終えました。

私です。

使用していたノートパソコンが壊れ、デスクトップに買い替えました。

その結果、懐が寒くなりました。

なかなか、執筆する暇がなく、ようやくできました。

次話、頑張って書きますね。


次話で会いましょう ノシ

 資料に目を通すと、そこには数百人単位の行方不明者の名前が書かれていた。別の村や町のほうに住んでいたとされる孤児院の子どもや、貧困層の者たちの名前が書かれている。実際に儀式で殺された内容や何かの実験を行った等の報告が書かれている。オカルト染みた内容に怒りがこみあげてくるが、どこか既視感があった。生死問わず人間を実験材料として、博士は実験に使用していた。あの時の光景が脳裏を過り、資料の山を一つずつ確認していく。


「竜仙、すまないがこの資料に『神卸し』に関係しそうなものを仕分けしてくれ。ミーアは、この資料の中に『欠片』に関係しそうなものを仕分けてほしい。後は――トーマスさん、すいませんが協力を頼みたい」


「はい、何を手伝えばよろしいでしょうか」


「ありがとうございます。竜仙達が仕分けされた資料の中で『生物兵器』に関する資料を仕分けてほしい。私は此方のノートに記載されている内容を確認します。みんな手分けして対応してくれ」


 そう告げると、各々が行動に移す。押収したノートを確認していく中で『歴史の修正力』や『一巡』など、レポートをまとめた内容が書かれていた。まるで学生の研究レポートを読んでいるような感覚だ。だが、この文字は間違いなく博士の文字だと分かる。博士の文字の癖など見覚えのある箇所が多い。これが博士の書いたものだと判断すると、ノートに書かれている内容の意味が変わってくる。まるで、世界を書き換えようとしている事を隠しているように感じた。欠片を用いたとして、それで世界を書き換える事は不可能だ。欠片を核として、それを動力源で動く装置をコアとして流用するのなら分かる。それならば、世界を書き換えることはできるだろう。


(そのための試作品として、トーチャ君を人造人間のようにした? いや、人造人間に鎖の欠片をコアとして流用する事は危険なのではないのか? まさか、それを理解して何度も試作品に流用したのか)


 書かれているレポート内容を読むにつれ、ゲーディオの事件でトーチャ君の事を思い出す。一度死んだはずの人間を、狂いの欠片をコアとして流用して人造人間として復活させた。あの手術は一体何のために行われたのか謎だったが、なんとなく答えが見えてきた気がした。脳裏に過ったのは『神卸しの人柱による儀式』と『神卸しの依り代にする儀式』の二つである。世界改変を行うのならば、神性の力が必要となる。ノートに記載されている内容に、ゴーレムの心臓部である核の保有魔力量の調査などが書かれている。


「これは、ゴーレム研究にしては人間の構造をより事細かに書かれているな。竜仙、そっちの資料にゴーレム研究に関するレポート資料はあるか」


「それなら、嬢ちゃんが今まとめている。それよりも旦那、どうやらこの資料を見ると『神卸し』を一度行おうとして失敗したと言う記載があったぞ」


 そう言うと神卸しに関する資料を俺に手渡した。それを受け取るとミーアが「これがゴーレム研究の資料だよ」と言うと、まとめた資料を手渡した。二人がまとめた資料を確認すると、共通の文言が出てきたことに気が付いた。


「人魔計画? 人の体の一部を魔物と融合させ、現世に神を卸すのが目的だと。いや、何故に魔物の一部を用いて人間と融合させる必要がある? ゴーレムの研究でも、どうして人間の体の構造についての内容が書かれている」


「イスズ様、此方にも人魔研究の内容が書かれてますね。何故か資料の文面に『弟を』と言う内容が複数個所ありますが、何か関係があるのでしょうか」


 トーマスさんはテーブルの上に資料を広げ、手に持っているペンで『人魔研究』と書かれている箇所を指した。そこには、人間の心臓と魔物の心臓についての構造についてのレポートらしく、死体から解体を行った内容などが書かれていた。その中に、またしてもゴーレムの核についての情報が書かれている。何故、ここまでゴーレムに関する情報が出てくるのか。ノートと資料を見ながら確認してると、一枚だけ人体の絵が書かれている資料に手が止まった。


「これは、十代後半くらいの男性の人体図のようだな。心臓のある個所が――欠片か、これは」


 心臓の箇所に魔物の心臓を入れるような内容が書かれているが、その絵はどう見ても『トーチャ君』に見える。身長と体重、血液型の情報すらも一致しており、この資料はトーチャ君に関するものだと断定した。書かれている内容は『人間の次のステージへのレベルアップ』について書かれており、魔物と人間のハイブリット――つまり、上位者へと存在を引き上げる内容だった。上位者になったとしても、世界の書き換えは不可能だ。あくまで上位者は権限を与えられただけに過ぎない。なのに、何故このような無謀な事を研究していたのか。


「もしかして、トーチャ君を上位者に――いや、違う。これは、欠片を用いた実験に似ている――いや待て、この実験どこかで読んだ記憶がある。竜仙、済まないがその資料の中に『血統因子』の内容が書かれていなかったか」


「あぁ、確か此奴に記載されていた気がするな。しかし、なんで血統因子なんて――旦那、まさか彼奴は一巡を起こそうとしているのか」


「それは資料を読んでみないと分からない。だが、限りなく今の状況は『終局の一巡』の発生条件に似ている。来る日の神の復活には、依り代となるものが必要だ。終局の一巡を起こすのは、来る日の神の役目だが、それ以外で行う方法もある。遥か昔にレーヴァが自身の肉体を用いて、それを実行しようとした事があった。その条件と、近いと思わないか」


 竜仙達はもう一度資料を確認し、それらしき物をテーブルの上に置いていく。何のことか分からないトーマスさんも、血統因子が書かれている内容を探しテーブルの上に置いていく。資料としては全部で二十五枚だけになり、それ以外は別の場所に置いた。資料の内容には、ほかにも実験が行われていた事が書かれていた。


「確かに、旦那の言う通り一巡を起こす手順に似ているな。ついでに、連続行方不明事件の犯人も過激派の連中だったこと分かった」


「確かにそうだな。しかし、問題は行方不明者全員が死亡していると言うことだ。実験と言う名の証拠隠滅行為と言うことが問題だ。実験の結果、トーチャ君が生まれたともいえる。実験を行うと言うことは、本番が必ずあるはずだ。それがいつなのかが問題だがな」


 血統因子の資料の中に『依り代』についての内容があった。そこには、神をその身に宿らせる為に、耐えられる肉体の作成に『神の血を引く人間が必要』と書かれている。神の血を引く者と言う内容が気になるのだが、実験は成功しているという内容が書かれている。


「今までの情報をまとめると、トーチャ君はあくまで実験素体に過ぎなかった。狂いの欠片はフェイクであり、欠片の機能を最大限まで引き上げた際に起こる暴走時のエネルギー情報が必要だった。狂い神へと神化させる為の実験としてトーチャ君を利用したと考えられるな」


「確かに旦那の言う通りかもしれんな。トーチャの件について、実際に暴走装置を取り外すのに立ちあったが、探してみれば分かるかもしれん。部品については、部下たちに調査させているので報告待ちだ」


「そっか、リューちゃんが対応してくれたんだね。私のほうは、トーチャ君の心臓部にあったコアの解析を進めてる。私の部下達に頼んで、トーチャ君専用の心臓を生成して取り替え手術手伝ったからね。心臓として使われたコアだけど、やっぱり何かしらの刻印が刻まれてたみたい。今はその刻印も含めて、コアの調査してもらってるけど、まだ報告が来てないけど」


 そう言うと、メールが来ていないか確認をするが、報告はまだないらしく首を横に振って胸ポケットにしまった。少しずつだが、彼奴が何をしようとしているのか全容が見えてきた気がした。少しずつピースが揃ってきたが、まだ確証を得なかった。


「人魔研究は、神を卸すための実験。トーチャ君を利用してのエネルギー計測。そして、コアに刻まれた刻印。ミョルニルが何をやろうとしているのか――そうだ、トーマスさん。話は変わるのですが、アストリア家について教えていただきたい」


「アストリア家の事ですか。私もそこまで詳しいわけではないのですが、それでよろしければ」


「ありがとうございます。この写真の男が何故、アストリア家の情報を持っていたのか。きっと、最後のピースに繋がると思うのです」


 そう告げると、トーマスさんは「分かりました」と一言告げると、仕事の書類が置かれているデスクから一冊の本を手に取った。アストリア家から押収したものかと思ったが、トーマスさんはその本を広げ、俺たちに見えるようにテーブルの上に置いた。


「アストリア家は、代々国王を守る騎士として仕えた一族です。アストリア家初代当主は、自らを『転移にてこの世界に呼ばれた人間』と告げ、数多の知恵を基にバルド王国に多大な貢献をしてきたのです。アストリア家の直系であり、初代当主の血を受け継いでいるのは、もう引退されましたが、穏健派で知られている『シュヴァルツ・フォ・トニア・サー・アストリア』です。彼は初代当主から受け継がれた技を全て引き継いだ。私たちにとって、英雄が帰ってきたと喜んだものです」


「なるほど、彼は転移者の子孫だったのか。そうなると、アストリア家は転移者の血を受け継いだ一族と言うことか」


「えぇ、その通りです。当時、近隣の町や村等は魔物の被害が深刻だった。ですが、初代様の知恵によって、他の村や町への被害は最小限に防がれた。また、穀物等の生産技術も向上したのも初代様のおかげです。それ故に、国王にとってもアストリア家には大きな恩がある。そのため、過激派について温情を与えてしまったのです」


 アストリア家の事を話す彼の表情は、まるで童心に帰ったかのようだった。魂を元の世界に戻した際に、アストリア家初代当主の名前はヒットしなかった。つまり偽名を名乗ったことになるが、本名を知られては拙いと判断したからかもしれない。頭が回るようで助かるのだが、こういう時は流石に困る。旅人には、その者の名前が分かれば体質などの詳しい情報を閲覧することができる。


「初代当主の名前は『ヴィレド・J・アストリア』と言います。彼の偉業は今でもこの国で語り継がれている程です。野菜がなかなか育たず、水すらも少ないこの土地を救ったのです。それ故に、最初は彼を王にするべきと話が合ったくらいですから」


「なるほど、それほどの人物がいたのか。この世界に来た転生者もしくは転移者の情報は、星の記録等で確認はできる。ですが、あまりにも量が多く、さらに言えば最初にこの世界に来た異世界人は『転生者』だった事が判明している。ヴィレド氏が転移者であるならば、最初に来訪した異世界人の情報とは一致しない。来訪した年月が分かったとしても、来訪した人間が多すぎて判断できないのが難点だな」


 星の記録を確認し、この世界に呼ばれた者たちの情報を得ていた。だが、かなりの数の人間をこの世界に呼び出したせいで、アストリア家初代当主の情報は確認するのが困難である。なんせ二年間隔毎に千人以上も召喚しているのだ。アリアについては説教で済ませ、一緒に召喚した者たちの情報を確認指せた。あの時は、本当にこの世界の神々を断罪して良かったと心底思った。


「そうなのですか。星の記録と言うものはどのような物なのか分かりませんが、名前からして星が記録を取った書庫でしょうか。旅人様方は、その星の記録に書かれている転生者や転移者の情報を自由に閲覧できるのですか」


「旅人だから見れると言うわけではないです。ちゃんとした契約が必要で、記録を読むために必要な正当な理由と、それを行使する上での影響調査。さらには現場上司へ書類を提出して印鑑をもらえて初めて確認できる。それ故に、星の記録は厳重な管理が必要なのです。今回は事前に申請していたので確認できましたが、本来なら二か月以上は承認がおりませんからね」


 星の記録について話していると、ミーアが何やら一枚の資料のようなものを見ていた。何やら気になる内容があったらしく、ジッとその内容を確認していた。何を確認しているのか気になったのだが、ミーアは一度それをテーブルの上に置くと俺に手渡した。


「イスズ君、コレ読んでみてください」


「コレがどうしたんだ? そんなに気になる事でも――なんだ」


 そこに記載されているタイトルを見て固まった。そこには『アストリア家の特異体質情報』と言うものが書かれていた。そこには、魔力量が通常の人間の三倍ほど保持していることや、魔力を過剰使用してもすぐに回復すると言った情報が書かれていた。この世界では、魔力を過剰使用すれば死に至る事は理解している。この内容を読んでいると、何度か魔力量に関する実験が行われたようだ。非人道的な事は行われたような内容は記載されてはいないが、何故このような実験を行っているのか気になる。


「魔力量調査の理由か。人間が持つ魔力保有量の年代別平均でも取ろうとしたのだろうか。しかし、アストリア家の特異体質の一族だったとは知らなかったな。しかし、ミーア。なんで、この資料が気になったんだ」


「イスズ君、その測定を行った人の名前見て。私がなんでこの資料が気になったのか、イスズ君なら分かるはずだから」


 ミーアの言う測定者の名前を確認する。そこには『アルヴェルト・J・シュヴァイエ』と書かれていた。アルヴェルトと言う名を見て「まさか、彼奴か」と言葉が漏れてしまった。遥か昔、ミョルニルが連れていた部下の一人であり、ミーアの生まれた世界でとある研究を行っていた『科学者』の一人である。再度、資料を読んでいる中でアルヴェルトが研究していた『魔力を用いた実験』の内容を思い出した。


「確か、彼奴の研究は『空気中に漂う魔素を用いて、魂の精製』だったか。魔素を巨大な装置に密閉し、そこにプラズマを発生させ、魂を精製するとかだったな。そもそも魂はエネルギーの塊だが、本来それだけでは魂としては形成されない。更にある現象を加えることで、エネルギーの塊に意志が芽生える。その過程を経て『完全な魂』となる。その理論を理解していれば、魔素から魂を作成することは可能だ。あの博士は、それを成し遂げたんだったな。そして、それが原因で断罪対象となった」


「そうだよ。私が彼を殺すきっかけは、その魂の依り代として『弟』を利用しようとしたから。それに、弟以外にも候補はかなりの数いた。だから、実験の関係者全てを殺した。旅人が介入する前に、私がこの手で一人残らず実験の資料も全て消し去った。この資料に書かれている内容は、私の記憶が正しければあの博士の書いた論文の一つだよ。魔法の存在しない世界でも『魔素』が存在することを発見し、人間の体の中にも形成されていると考えられた。その時に行った実験の一つが、間違いなくコレだよ」


 アルヴェルト博士については、隊長から話を聞いている。確か、アルヴェルト博士は旅人ではないが、世界の均衡を乱すとして『旅人の規則』に基づき、断罪の対象となった人間だと聞いている。人間がクローンを創り出す事は、そこまで問題ではないとされている。一番の問題は、人間が『魂を創り出す』と言う事である。それは人の手で行ってはならない禁忌であり、世界を監視者である旅人が定めたルールである。そのルールに従い、世界の均衡を保つために禁忌を起こした者たちを断罪してきた。


「待て、そうなるとアルヴェルト博士はこの世界にいることになるぞ。いや、この資料が書かれた日付を見ると今から二百年前だ。もう亡くなっている可能性があるな」


「そうかもしれない。でも、この資料は魂の生成とは何か違う。魔素を用いての実験は間違いないと思う。でも、これはどこか違う気がするんだ。魔力量の計測にしては、基準値を設けているみたい。まるで、器は決まっていて其れに合わせた際の魔力量を探しているような」


「嬢ちゃん、流石にそれはないだろう。旦那の言う通り、魔素を用いて魂を生成したと言う話は聞いたことがある。魔素で作成された魂は、保有する魔力とイコールで結ばれるってことは聞いたことがある。だが、それでも魂が保有する魔力量を器に合わせるよりも、器を魔力量に合わせて精製するのが普通だ。旦那もそう思うだろう――どうした、旦那」


 ミーアと竜仙の話を聞いて、固まってしまった。ありえないと言う気持ちと、ミョルニルが何をしようとしているのか。それが分かったような気がした。ミーアの言う『器は決まっている』と、竜仙の『魔力量を器に合わせる』と言う言葉で、ようやく理解することができた。


「ミョルニル。まさか、レーヴァの肉体に偽りの魂を移すつもりか」


「「!?」」


「ぁ、あの、イスズ様。どういうことでしょうか? ミョルニルと言う者や、魂の精製など教えてもらえますでしょうか」


 竜仙は通信端末を取り出し、何かを調べ始めた。多分だが、アルヴェルト博士についてこの世界に転生したかを調べているのだろう。ミーアに関しては、先ほどの資料に付随する物がないか調べ始めた。そんな中で、置いてけぼりとなっていたトーマスさんに申し訳ないと思い、先ほど得た情報を伝えることにした。そして、ミョルニルが何をしようとしているのか。そのピースを一つずつ埋めるために、頭の中で整理しながら説明を開始する。


「申し訳ない、ちゃんと説明しよう。過激派たちの資料には、我々のみが知る情報が含まれている。その中で本来ならありえない情報がここに書かれている。まず一つ目は、魔素を利用しての魂を精製すること。これは、人間の手で行ってはならない禁忌だ。この資料に告示する内容が書かれている。何故、そのような内容があるのか。それは、その研究を行ったとされる博士がこの世界に転生したからだ」


「魂を精製するですか!? そのような事が可能なのですか? いや、それを行える者がいたから旅人様がその者を断罪したと言うことですね。しかし、この資料だけでその者が書いたと判断できるのでしょうか? 名前についても同じ名前で、赤の他人の可能性もあり得ます」


「えぇ、その可能性はあります。ですが、竜仙。証拠を見つけたか」


 俺の問いかけに、竜仙は「あぁ、今判明した」と答え、通信端末を見ながらではあるが判明した内容を話し始めた。


「アルヴェルトの奴、確かにこの世界に転生していたようだ。当然だが、もう亡くなっているのだが、どうやら寿命や病死ではなく事故による死亡らしい。実験による死亡らしいが、実験の内容は不明だ。どうやらアルヴェルトの情報は全て隠匿されていたようだ。旅人でもない人間が、星の記録から情報を隠匿するなんて普通は無理だ。そうなると、やはりミョルニルが関与しているんだろうな」


「やはり、そうだったか。この世界に来る前に転生者や転移者の情報を閲覧したが、その時点で気が付くはずだ。なのに、現時点でその情報が開示された。正しい手順を踏んだことで開示されたのだろうな。どうやらアルヴェルトは、ミョルニルと繋がっていた。隠匿と言う行為が証拠だろうな。本来、魂の精製は自然の摂理から反しており、旅人である我々が断罪せねばならない対象です。ミョルニルは、それを利用して、私が断罪した弟の肉体に精製した魂を入れようとしている」


 正直に言えば、それが正しいと言う確証はない。だが、彼奴なら間違いなく魂を精製するだろう。俺があの時阻止した実験は、記憶を奪ったことで封印することが出来た。だが、それ故に、彼奴はあの実験の続きを行おうとしている可能性がある。いや、あの実験が失敗した事を理解しているのなら、条件が揃っているこの状態で行わないなど絶対にあり得ない。


「そのようなことが――いえ、それよりも死んだ人間の体に精製された魂を入れることは可能なのですか?」


「可能です。しかし、所詮は作られた魂です。肉体に入れば拒否反応を起こして、魂が消滅してしまう。この資料を読む限りアストリア家も被害者の一人だったのでしょう。彼奴らが人体実験をしないなんて考えられない。魔力量調査と言う名目で必要な魔力を接収し、それを基に実験を行ったのでしょう」


 ミョルニルの考えを予想しながら、この後の行動を考える。彼奴にとって人間は『尊厳など存在しないモルモット』と言う認識なのだ。己の欲望を満たすため、同じ思想の賛同者を集め、ひそかに実験を行う。彼奴にとって人間は等しく『実験動物』でしかないのだ。奴の頭の中に人権などと言う言葉はない、男尊女卑で煽り立てる人間だろうと、死刑囚だろうと、偽善者や独裁者だろうと全ての存在が実験の材料なのだ。奴に捕縛された者たちの悲惨な末路を、俺はこの目で見てきたのだ。それ故に、彼奴の行動だけは何故か分かってしまうのだ。


「この世界に神を卸すため、疑似的に魂を精製してレーヴァの肉体に移す。その後、入れた魂を既定の手順に則り、破壊することで依り代は完成する。俺の時は、魂の破壊ではなく魂の融合と言う予想外の現象が起こったため、奴に隙が生じて仕留めることができた。だが、今回は疑似的に魂を作成し、それをレーヴァの肉体に入れるのならば、本格的に何かの儀式を行うために使用するつもりだろうな」


「疑似的な魂を用いての儀式となると、二つほど考えられるだろうな。一つは、レーヴァを無限エネルギーの端末として流用する。二つ目は、ありえないとは思うが『全ての世界をリセットする一巡』を起こし、全てを初期化させる。どちらも、問題でしかないんだがな。魂を破壊することで、肉体を一つのエネルギー端末へと変換される。言うなれば、物質化したエネルギー体だ。もう一つは、全世界のオールリセット。儂は一度も経験したことがないが、確か無月隊長は経験してると聞いている。旦那としてはどの可能性があると思う」


 「彼奴ならエネルギー端末として、レーヴァの肉体を用いる可能性はある。だが、彼奴ならそんな選択はしない。彼奴にとって分かり切った実験など、必要と感じたとき以外に絶対に行うはずがない。彼奴がやるのは、間違いなくオールリセットの方だろう。それに、レーヴァは元々は『来日の神』になれる素体だと理解していたからこそ、彼奴はレーヴァの精神を狂わせたのだろうさ」


 彼奴が行おうとしている答えに近づいたような気がした。答えに近づいたとして、実際に彼奴を問い詰めない限り政界には辿り着けない。なので、彼奴に関する話はここで区切り、アストリア家について回収した資料を確認する作業に戻った。多くあるの情報の中で、アストリア家も被害者である情報が見つかり、この資料を王族や穏健派に提出する資料としてまとめた。その後、他にも対応してもらわねばならない事を伝え、俺たちはトーマスさんが推薦する宿屋で一日を過ごすのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ