3話 バルド王国ギルド本部
どうも、お久しぶりです。
私が使用していたノートパソコンが壊れ、新しく買い換えました。
小説のデータをこまめに残しといてよかったと本当に思った。
これからも、頑張って書くぞ~
次話で会いましょう!! ノシ
竜仙たちが先に冒険者ギルドへ行っている中、通信端末で通話しながら向かっている。通話相手は白兎ではなく嬢ちゃんである。いつも決まった時間に連絡しているのだが、今回は嬢ちゃんからだったので不思議に思い出たのだが、第一声が『あのクソ親父』だった。一瞬だが、始まりの旅人様の事かと思ったが、嬢ちゃんはイラッとしても旅人様の事を『お父様』と呼ぶので、違う方だとすぐに判断した。その後、焦っている声で今いるこの世界に『杭の気配を察知した』こと、その杭から発せられたエネルギーが『レーヴァの波形と一致』した事が報告された。
(また、面倒事が増えた。レーヴァは確かこっちが保護――あれ、肉体の方はどうだったか)
頭を抱えながら、レーヴァの波形と言われて『集めた欠片』を思い出す。確かに欠片は集めたが、あれは魂の欠片に過ぎない。あの時、確かに首を斬り落としたが、首はこの世界に落下したのは情報として得ている。だが、肉体に関しては回収については資料には載っていなかった。つまり、ミョルニルが回収したと言う事だろう。そして、杭から出力された『レーヴァ』の波長と言う事は、間違いなく肉体はミョルニルが所持していると言う事を意味している。
(狂いの欠片は、魂の欠片。ならば、本体となる肉体が無いのは変だ。つまり、ミョルニルがレーヴァの肉体を握っている。更に言えば、俺たちが持っているのは本体なのか複製された者なのかも不明。一体何を――いや、まさか。疑似神降ろしの儀式を行なおうとしているのか)
脳裏に過る『あの日行われようとした実験』だった。文面上でしか憶えていない記憶だが、白兎と一つになり始めている事から映像として思い出せるようになっている。歴史上に存在しない神である来日の神を、娘の身体を利用して卸すと言うものだった。だが、アレが行われたところで、この世界に降ろす意味が分からない。嬢ちゃんから一通り情報を得た後、通信端末を切って内ポケットにしまう。始祖から得た情報を思い出し、ミョルニルが何を行なおうとしているのか考える。だが、一向に答えにはたどり着けそうにない。
(ミョルニル、お前は何をしようとしているんだ。そもそも、何故この世界でその様な事を)
『考えたところで結論は出ないだろよ。兄弟、彼奴は俺らと殺し合いたいんだろうよ。あの姉妹を救うために、化物たちを生成した博士を殺した。本来なら殺すことが出来ないはずの彼奴を、俺たちは殺すことが出来た。それが彼奴にとってどれ程の救いだったのか。まだ、旅人ではなかった俺たちが、彼奴を殺せた。あの時の驚きと喜びに満ちた表情を思い出せ。彼奴が望んでいる事はただ一つ、殺し合いを求めているんだろうよ』
(確かにそうかもな。未だにミョルニルを殺せたことが不思議だった。星の贄に選ばれたからとは言え、殺せる可能性など天文学レベルだ。だから、彼奴は歓喜したのかもしれないな)
あの日の光景が脳裏を過る。何発も発砲をしたが全く銃弾が効かず、ナイフでの戦闘を余儀なくされた。多くの暗殺者や殺し屋が彼奴に挑んだが、決して殺す事は出来なかった。生きて生還できた者など一人か二人程度と聞いていたし、まさか俺が彼奴を殺したなど信じられなかった。だが、確かにあの時の彼奴の表情は憶えている。彼奴は『まさか、最後は銃ではなくナイフで殺されるとは』と言い残し、息を引き取ったのをこの手の感触で憶えている。
(ただ、彼奴が集めた子ども達が気になる。資料には『神降ろしの為の素体』として集められたと書かれていたが、実際は違う可能性もある。百は優に超えていた非検体は実験結果、その殆んどが怪物に改造されていた。あの資料の内容が今だから分かるのだが、来日の神を卸そうとしていた事は間違いない。ただ、素体を基に怪物を作製する意味が分からない)
彼奴を殺す一か月前、彼奴の筆跡で『特殊体質者を殺すための人造兵器の開発』と書かれた資料があった。だが、実際に書かれていた内容は『特殊体質者を利用した神をこの世界に卸す素体の生成』が書かれていた。そこに書かれていた内容の中に奴の娘だった『始祖』と妹の名前があり、俺は彼奴を殺さなければならなくなった。最初は無理だろうと思ったのだが、その『特殊体質者』と言うキーワードを見て、俺が殺した少年たちは『彼奴自身を殺すための武器』なのだと分かり、俺は彼らを基に武器を作製した。あの時は、賭けだったのだが、それで殺せたのだ。
(それに、この世界で神降ろしなんて行う必要がどこにある。嬢ちゃんからこの世界に来日の神はいない事は聞いている。神を卸す理由――レーヴァを来日の神に神化させようとしているのか? だが、何故、レーヴァを神化させる? 彼奴が神化するためにレーヴァを利用する為か? 全く分からん)
白兎から聞いた『本家と同じ力を持っている模造品』の話を思い出した。模造品とはレーヴァであり、ミョルニルはレーヴァの精神を狂わせた。何故、狂わせる必要があったのか。そんな事を考えていたが混乱して来た為、考えるのを一端止めて冒険者ギルドに待つ竜仙たちの元へと向かうことにした。取りあえず、後で彼奴らは説教をせねばならない。
そんな事を考えていると、何事もなく冒険者ギルドへ到着した。そのままギルドの扉を開けて中へと入ると、数名が俺の方を無言で見つめて来た。ギルド内部は賑やかで、冒険者たちが酒や食事をしながら賑わっている。そんな中で俺に視線を向けた彼らは椅子から立つと、何故かサイン色紙を持ってこっちに来た。
「旅人の旦那。シャトゥルートゥ集落で、息子が世話になったと手紙が来たんだ。是非、お礼が言いたくてな。それと、妻がアンタのファンで、サインを貰えねぇか」
「へ? ぇ、あぁ、構わないが……ぁ、もしかして竜仙が育ててたあの冒険者の子か? 確か手紙を出したいとか言ってた冒険者は、彼だけだったはずだし」
「旅人様、俺もくれ」「私も」「ぼ、僕も」
まさかの此処でも対応することになった。まさか、此処まで俺の名が有名になっているとは予想外だった。ギルド長のトーマスさんが来るまで、まさかの握手やサインなどをする羽目となった。正直に言えば、俺のような地味な人間がどうしてと思ったのだが、彼らの喜ぶ姿を見て「まぁ、良いか」と呟き、ファンサービスのような対応をしていく。
「すいません、まさかこの様なことになるとは」
「いえいえ、お気になさらず。取りあえず、竜仙たちはその場で正座だ。言わなくても分かって居るだろ」
「「はい」」
説教の方は『白兎』に任せている。そもそも、単独行動をしないと言う話だったのに、俺を置いて行くのは駄目だろう。せめて、その場で待機するくらいはしてもらいたい。そのため、白兎に説教を任せると伝えると、いつものように『了解だ、兄弟』とお道化た口調で答えると、そのまま竜仙達へ念話で真面目なトーンで説教を始めた。説教の内容が聞こえては話し合いに集中できないため一度念話のチャンネルを切り、目の前のトーマスさんと話し合いを開始する。
「さて、改めて自己紹介をしましょう。私は世界観測機関である旅人の一人『御心 五十鈴』と言います。今回はこのような場を設けていただきありがとうございます」
「いえいえ、本来ならば我々がお迎えにはせ参じなければならない所を、こちらまでご足労いただきありがとうございます。私はバルド王国冒険者ギルド支部長の『トーマス・J・フジワラ』です。改めて、ようこそバルド王国へ」
互いに握手を交わすと、そのまま席に着く。竜仙たちが話し合いのために用意していた『ゲーディオ事件』に関する資料が、テーブルの上に置かれていた。
「どうやらゲーディオで起こった事件について、竜仙と話し合っていたようですね。内容としてはどこまで説明を受けましたのでしょうか」
「ゲーディオでの事件について犯人が誰なのか説明を受けた所ですね。ゲーディオの街で起きた事件については、ギルド間で繋がっている通信端末で情報は得ております。実は、ゲーディオ支部のシュナイゼさんから現場写真なども連携されており、此方としても過激派の調査に役立ったのですよ。あの発火装置について、過激派の一人がその装置を作成した証拠である設計図を発見し、現在その者については牢屋に幽閉しております。また、過激派の情報については、仕事の関係上ですが王城から情報は得ております。ただ、王城から得られた情報については、新聞に掲載されている内容と同じく『過激派の一斉処刑』が行われたことのみです」
「そうでしたか。確かにその情報は私たちも知っています。過激派たちの蛮行を、筋肉教団の活躍によって露見したとか。今まで国王たちによって穏健派の方々は過激派に対して手を出せなかった状況だったと聞いています。国の防衛力が低下するのは危険ですからね。ですが、今回の事で穏健派も動くことが可能となった。確か記事の中に、穏健派と教団による一斉捜査が行われたと言う内容が書かれていましたね」
新聞で得た情報を伝えると、トーマスさんは「はい、その通りです」と言いながら胸ポケットから一枚の写真を取り出し、俺に見える様にテーブルの上に置いた。その写真を手に取ってみると、どことなく見覚えのある白衣を着た一人の男性が写っていた。一瞬見ただけだが、この写真の男性が俺たちが探している『ミョルニル』ではないかと思った。
「この写真に写っている者からの情報提供によって、過激派を一斉検挙することが出来たらしいです。ただ、この男性の情報は一切手に入らず、この者が一体何者なのか不明な状態です。唯一、この写真だけが手がかりになっているのです」
「そうなんですね。この男については、私の方でも調べましょう。ところで、死刑となった者たちについて、一体どの様な情報が手に入ったのでしょうか? 死刑を執行すると言う事は、それを行なうに値する犯罪が行われたことになる。国家転覆、大量殺人など多く考えられますが、一体何の情報を得たのか教えてもらえませんか? 少し気になる事があるので、出来れば情報が欲しい」
「承知いたしました。押収した書類や証拠品については、全て此方で保管しています。本来なら警備隊が回収して保管するのですが、過激派の息がかかっている者がいる可能性もあるので、冒険者ギルドの方で預かることになってしまったのです。ですので、現在もこの部屋の金庫の中に厳重に保管しているので、少々お待ちください」
そう告げると、トーマスさんはそのまま部屋の奥にある金庫へと向かって行った。その間に竜仙たちの方へと顔を向けると、説教から解放されたらしくゲッソリとした表情をしていた。正座から解放された事で足を崩しているのを見た後、俺は何も言わずにトーマスさんの方へと顔を向ける。何冊かの資料を持って此方へと戻ってくるのを見ながら、もう一度テーブルの上に置かれている写真を見る。
(この写真の男、どことなくレーヴァに似ているが、何故か分からんが横顔が『博士』にも似ている。だが、実際に会ってみなければ確定できない。それにしても『名を奪った』とは言え、この世界に博士が本当にいるのだろか? 赤の他人の可能性もあるのだが、何故か博士にしか思えない)
「すいません、お待たせしました。此方が、アストリア家の過激派から徴収した情報をまとめた資料です。少々量がありますが、流石に関係ないかもしれない内容もあったのですが、そういった関係ない情報に隠されている可能性がありますので」
そう言ってテーブルに置かれた資料の山を見て、心の中で『あぁ、マジか』と呟いてしまった。少し量が多い気がするのだが、一番上に置かれた資料を手に取り内容を黙読する。いろいろと読んでみたが、どうやら何かの実験結果のようだ。内容は『小型コアの生成実験』の様だが、全て失敗と反省点などが書かれている。試験に使用した材質は「この世界で作れる物」の様だが、作製しようとしているのはこの世界には似つかわしくない物だった。
「これは、何かの機器を動かす動力源か? しかし、この構造はどこかで見たような気が」
「そうなのですか? この装置が何のために作成されたのか分からず、実際に一斉捜査した際に押収したのです。解析班たちにもこの装置が何か分からず、念の為に私が預かり保管しています。現物が此方になります」
そう言うと、トーマスさんは腰につけているポシェットから『リンゴとほぼ同じ大きさの球体』を取り出した。球体の中には小指程の大きさの黒い水晶体があり、そこから僅かだが魔力のようなものを放っている気配を感じた。そして、サッカーボールのような六角形の形をした機械で囲われている。六角形の機械だが、十字を切る様に六角形の機械は付いており、その他は強化ガラスの様な透明な板で覆われている。実際に手にとって確認してみたが、やはりどこかで見覚えがある物だった。
「どこで見たのか思い出せないが、とても面倒くさい物を動かすための装置だった気がする。確か、無月隊長と二人で介入をした世界で見た覚えがあるんだが」
「旦那、それ儂にも見せてもらえないか」
正座から解放された竜仙とミーアが隣に座り、竜仙が話しかけて来た。ミーアについては資料を確認している。俺の手に持っている装置を竜仙に渡すと、そのまま装置をじっくりと確認し始めた。この様な機器類は俺の部下であるホムンクルスのシータよりも、趣味で機械いじりをする竜仙の方が得意である。逆にシータは魔法関連の解析が得意である。
「ん? あぁ、コレなんだが、どこかで見覚えがあるんだが思い出せない。竜仙、コレが何か分かるか」
「此奴は、確か神降ろしの機材に必要な物だった気がするな。確か、疑似世界生成装置だったか。この球体の中にある水晶体を『世界』と見立て、仮装的な文明を構築して神を降ろす。最終的には、装置の外へと神を降ろすと言うものだった気がするな」
竜仙はそう語ると装置をテーブルの上に置き、右袖の中に手を入れて一冊のノートを取り出した。ノートを開きページを捲りながら、装置を見ながら確認していく。チラッと見たが、いろいろな装置について事細かに記載されており、竜仙は「確か、この辺りに」とページを捲りながら呟き、お目当てのページを見つけると、そのままテーブルの上に開いた状態で置いた。
「此奴は、以前だが旦那が裁判官として裁いた事件で提出された証拠品と酷似している。この装置は元々『巨大な装置の心臓部』に組み込まれていた物だった。それで、装置の調査をした結果、疑似世界を作成するものだと判明した。元々は巨大なサーバーで管理する物だったらしいが、小型化に成功した結果がコレだ」
「あぁ、そう言えばバカ転生者を裁く時の証拠品にあったな。それにしても、見ただけで装置が分かるのも凄いのだが、そこまで詳しく語れる方が驚きだ。いや、そもそも今まで思い出せなかった俺に問題があるか。これが疑似世界生成装置とだと思った理由は何だ」
「見覚えがあったからと言いたいところだが、無月隊長から指示があってな。例の楔の調査として、今までの裁判記録を洗い出していた。そこで、この装置と同じ物を見たことを思い出してな。しかしながら、まさかこのタイミングでこの目で見るとは思わなかったがな」
そう言うと、もう一度テーブルに置いてある装置を手に取り確認を始めた。装置の構造を確認するかのように、ノートと装置を交互に見ながら確認している。その姿を見て、装置については竜仙に任せ、俺はそろそろ本題に移ることにした。
「トーマスさん、一つ確認したいことがある。昔、バルド平原で起こった邪神のことだ。アストリア家が筆頭となり、邪神との戦闘を行ったと聞いている。その後、アストリア家は過激派と穏健派の二派閥に分かれた。その時の原因となった物は押収できたのでしょうか」
「いいえ、それが邪神の欠片どころか、邪神に関する証拠品なども見つからなかったのです。その代わり、この装置と計画書のようなものが見つかったのです。我々にとっても、邪神の欠片が存在していたことは初めて知ったことで、我々も穏健派と同様に破壊するべきものだと判断し探しているのです」
邪神の欠片について、情報が連携されていたらしい。どのような形なのかは不明だが、ギルド側でも証拠品の押収に参加していた。もしかしたら、見逃しているのではないかと怪しいところではあるが、一様念のために形について聞くことにした。
「見つからなかったと言うことは、邪神の欠片についての情報は共有されていたと言うことですね。どのような形をしていたのでしょうか」
「形ですか? 確か、邪神の首についていた鎖だったと思います。形は六角形らしく、その欠片を用いて王国全土を洗脳しようとしたらしいです。欠片は押収されたはずなのですが、実はもう一つ所持していたことが判明したのです。実際に部屋の隅々まで探したのですが、まったく見つからなかった。実際に立ち合いの際に、過激派たちも鎖の消失に驚き、困惑をしていました」
(シュナイゼさんから聞いた情報と一致している。もう一つ欠片を所持していたことは想定内だが、それが紛失したということが気になる。過激派の連中にとって、欠片は厳重に保管されていたはずだが、それを紛失したなどあり得るのだろうか。まるで、誰かに盗難された可能性はないだろうか。欠片が置かれた場所を把握している物に盗まれたとして、その価値を知らなければ『ただの鎖の欠片』だ。では、盗まれたと仮定して、その用途を理解している者。過激派の生き残りが、保護のために回収した可能性もあり得るか)
いろいろな可能性が脳裏を過る中、何故か写真の男が浮かんできた。ありえないと思っていたが、この男が奴ならば鎖を盗む――いや、回収した可能性はありえる。鎖の欠片には、邪神である『偽りの神』の力が込められていることを考えると、狂いの欠片による魂の回収を俺たちにさせている間に、肉体と鎖の力を馴染ませるための時間稼ぎの可能性。いくつもの浮かび上がってしまうが、ここで止めておく。
「なるほど、そうだったのですか。過激派の者たちにとって『鎖の欠片』はかなり切り札になるものだ。それが見つからなかったと言うことは、誰かが隠し持っているか。しかし、隅々まで探してなかったとなると、誰かが所持している可能性がある。そうなると、この写真の人物が所持している可能性がある。そう言えば話は変わるのですが、バルド平原は現在どのような状態ですか」
「バルド平原ですか? あそこ一帯は、魔物が多い状態ですね。冒険者たちに対応してもらいながら、何とか数を減らせている状態ですが、最近になって魔物の数が急に増えたとの報告が入っています。特に邪神の死体があった場所が多いとの報告があり、騎士団たちとの連携のもと魔物討伐を行っており、数を減らしている状況です」
「そうなのですね。邪神跡地に魔物の数が多く、それでいて魔物の数が急激に増えた。少し調査が必要かもしれませんね。本来なら別々の行動は避けたいが、仕方がない竜仙とミーアは跡地調査と隊長たちへの情報連携を頼む。俺はこの写真の男を探す。俺の方から隊長に連絡を入れるから、竜仙達はそのまま隊長の指示に従い行動に移ってくれ」
胸ポケットに入れている通信端末を取り出し、無月隊長にメールを送信する。この世界に来て一人での行動が増えた気がする。だが、ミーアと竜仙の二人なら問題ないだろう。それに、写真の男については、俺が動いた方が早く見つけられるような気がした。
「旦那、別行動をして良いのか? 二手に分かれての行動は危険だと旦那が言っていたが、そうしなければならない状況なのか」
「そうだよ? 私たちが言えた口ではないけど、五十鈴君が一人で行動するのは流石に危険じゃないかな。調査については、トーマスさんたちに任せて、私たちも一緒に行動した方が良いと思うけど」
「あぁ、お前たちの言う通り、一人での調査は確かに危険だ。だがな、この男がもし俺の知る奴なら俺一人で行動した方が遭遇率が跳ね上がる。あくまで俺の予想だが、此奴は俺とサシで話し合いを求める奴だろう。実際に此奴と会ってみないとわからないが、俺の予想が正しければ――此奴は『御心 五十鈴』だ」
いきなり自分の名を名乗ったことにトーマスさんやミーアは驚いた表情をする。そう言えば、ミーアにはまだ俺の本当の名前を教えていなかったことを思い出した。ここにいる者たちだけに、打ち明けても問題ないだろうと思い語ることにした。
「俺の本当の名は『久々利 白兎』だ。御心五十鈴は、俺が旅人になる前に殺した一人の博士の名前だ。彼奴は、俺の世界で神卸しの儀式を行おうとした。その贄として選ばれたのが、実の娘である『御心 鈴』を実験の名目で捧げた。その当時、俺はとある部隊に所属していた。暗部と言えば分かるだろう。その儀式を阻止するために、奴を殺しに向かった。だが、奴を殺す前に儀式は成功してしまい、始祖と魂が融合してしまったんだ。故に、始祖は『来る日の神の娘』であり、奴の娘でもある。その実験の記憶を奪うために、俺が奴の名前を奪い名乗っているんだ」
「儂は旦那と同僚だったから知っているが、儂の世界を滅ぼしかけた奴も同じ実験を行っていた。だが、実験は失敗した形跡があった。旦那と儂はその情報を基に、もう一度互いの世界へと向かい調査を行った。その結果、互いに行われた実験が同一のものであると判明した」
その実験についての説明は避けることにした。あの実験はトーチャ君のように人間を、道具のように扱っていた。人間の細胞を元に『始祖』と同じ存在を作り出そうとしていた。その失敗作を牢屋に入れ、再利用しながら『最終的に始祖を完成させる』と言うことだった。俺が奴を殺すきっかけでもあるが、百鬼夜行部隊の面々もまた同じく奴の被害者である。
「旅人として、その者の名を奪う行為は『記憶を奪う』と言う効果がある。それは、ミーアたちも知っているだろう。だが、奪うことができたとしても完全に奪うまでには時間がかかる。その間にメモとして残すことも可能だったはずだ。その断片的な記憶によって、第二被害が発生してしまった。それが竜仙やミーアの世界で起きた『幼児誘拐事件』と『人体実験による失踪事件』だ」
「旦那の言う通り、儂らの世界でも同様の問題が発生した。旦那が旅人となる瞬間に名を奪ったことが功を奏して、神卸しは失敗したのだろう。だがその結果、多くの人間が、妖怪が、あまたに存在する世界に住む者たちが、奴の実験の犠牲になった。だが、どうして此奴が『御心五十鈴』だと思ったのか理由を聞いても良いか」
「理由は、分からない。だが、この写真の男の姿を見て、赤の他人の可能性があるのに、五十鈴博士だと心が告げる。それを確認するためにも、俺が一人で行動する必要がある。彼奴は俺に対して異様に執着している。星の贄ではなかった俺が、あの男を殺せたこと。それ故に、奴は俺と一対一の対話を求めている。ただ、可能性があるというだけだがな」
トーマスさんは何の話か分からないでいるなか、この写真の人物に対して説明をした。その説明を聞いて、何か考え始めると資料の山から一枚だけ取り出すと一度内容を確認してから俺に渡した。それを受け取り、内容を確認して絶句してしまった。そこには、先ほど話した誘拐事件に酷似した内容が書かれていた。それだけではなく、人造的に作られた魔物などの情報が書かれていた。
「マジか」
俺はその言葉を発することしかできなかった。トーチャ君が第一被害者だと思っていたが、ほかにも存在したことに驚くしかなかった。そして、この情報によりアストリア家の過激派たちの情報を再度確認することになった。




