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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
最終章 断罪の旅人
82/90

1話 バルド王国へ

どうも、スランプと仕事が忙しくて心がガラス細工のように壊れた私です。

何とか頑張って書きました( ;∀;)

うん、来月のもちゃんと書くんだ。

さてと、今回の章が最終章になります。

最後まで、ちゃんと投稿できるように頑張ります!!


では、次話で会いましょう ノシ

 ゴーレムホースの馬車に揺られ、ゲーディオからバルド王国へ向かっている。馬車の客車の中では、竜仙とミーアが一か月前に開かれた旅人の会議で得られた情報を話し合っている。正直に言えば、まだゲーディオでの作業を集中して行いたかった。だが、そうも言っていられる状態ではなかったので、仕方がなく一ヶ月でゲーディオでやるべき仕事を終わらせ、バルド王国へと向かって馬車を走らせているのだ。


「早急に対応しなければならないとはいえ、一ヶ月で終わらせるのは疲れた」


 馬車を運転しながら溜め息をつき、手綱をしっかりと握る。一か月前、オルディアさんから借りた別荘で旅人の会議が行われた。会議室には、長方形に並べられたテーブルと、椅子に座る同僚の仲間たちがいた。俺の座るべき石の方へと向かうと、そこにはまだ療養中だったはずのミーアが席に座っており、ミーアの右隣の席の前で竜仙が立っている。会議が終わった後で聞いたのだが、どうやら休眠ポットを使用して万全な状態で復帰したらしい。ただ、短時間で回復するのかと疑問を持ったが、白詩隊長が使用している『休眠ポッドを利用した回復促進機』を使用したらしい。その為、戦線復帰も早くなったとのことだった。


「白詩隊長、遅れてしまい申し訳ございません。御心五十鈴、現着しました」


「おぉ、無事に着いたようだな。ゲーディオで起きた件については、報告書で確認済みだ。お疲れ様だが、まだやらなければならない事があるからな。さぁ、会議を始めるから席に着きなさい」


「承知いたしました」


 第零部隊のメンバー全員が席に座っているなか、俺を待っている竜仙の元へ向かう。竜仙は此方へと身体を向けるとお辞儀をし、手元にある資料を俺に渡してから椅子を引いてくれた。その椅子に俺が座ると、そのまま竜仙は俺の背後の壁際まで移動して待機した。俺が席に着くと同時に、同僚たちも竜仙と同様に部下たちから資料を受け取った。


「さて、全員揃った事だし、会議を始めるとしよう。まずは、此方で得た情報から話をしないといけないな。副隊長、報告の方を頼む」


 隊長の言葉と共に会議が始まった。会議の内容については、レーヴァの復元から得られた情報についての報告だった。神々が使っていた武器を擬人化させた事など、旅人間で得られた情報を共有した。俺が知っている情報の他、他世界でも同様に『狂い神』の問題が起こっていることなど、知り得なかった情報も得られた。その中で俺の同僚でどう見ても『小学生にしか見えない

真祖の吸血鬼』の少年から得られた情報から、この世界にいる俺たちが『対処しなくてはならない情報』が提示された。その為、至急バルド王国に向わなくてならなくなったのだ。


「旦那、至急報告しなければならない情報を得ました」


 介護の事を思い出しながら運転していると、客車と運転席を繋ぐ窓を開けて竜仙が俺に話しかけて来た。そこまで焦っていない様な声だが、緊急の報告なのか疑問である。運転中の為、顔を向ける事は出来ず、前方を向いたまま「どうした」と答えると、そのまま報告を始めた。


「先ほどバルド王国にある筋肉教団の連中から連絡があり、ミョルニルと思わしき人物を発見したと報告があった。彼奴、町医者のような事をしているよう」


「マジか。ショタ真祖からの情報通りの人相書きなのか」


 ショタ真祖と言う単語が普通に出るが、別に悪口で言っているわけではない。蔑称で呼んでいるわけではない。なんせ俺とショタ真祖こと『真祖フォディ・パルティシ・モンティール』とは、同じ世界を監視した相棒である。お互いに酒を飲む中であり、あだ名として呼び合っている。ちなみに、俺のあだ名は『断罪者』である。生前の事を話したらフォディの奴が「なら、お前は今日から断罪者で」とか言い出してから、そのあだ名で決定した。


「まぁ、確かに見た目はその通りなんだが――旦那、流石にフォディをショタ真祖と呼ぶのはどうかと思うのだが」


「いや、見たまんまだろ。ショタで真祖の吸血鬼の癖に血を吸えなくて、団子やケーキと言った甘味が好き。挙句の果てには、彼奴の右腕がどこかの世界で勧誘した聖女様。聖女と吸血鬼って敵対関係だったはずだが、なんで彼奴らそのまま結婚したのか気になるんだが。まぁ、それはそれとして、彼奴とはあだ名で呼び合っている仲だから別に良いだろ」


「何だかんだで、五十鈴君ってフォディ君と仲が良いよね。私が言うのもなんだけど、フォディ君と居酒屋にいるの見ると、親子で居酒屋に来ているみたいだったなぁ。まぁ、私と義父さんも一緒に飲んでたけど」


 懐かしむような声で言うミーアに、その時のことが脳裏を過り「そんな事もあったなぁ」と言いながら苦笑した。あの時はフォディの昇進祝いで皆と酒を飲んだのだが、飲み足りなかったのでフォディと二人で行きつけの居酒屋で飲んだのだ。たぶん、その時の光景の事を言っているのだろう。確かに、二人で飲んでいたら他の奴らも参加して二次会になっていた気がする。


「まぁ、彼奴とは長い付き合いだからな。フォディの奴いつもあの姿でずっといるけど、本来の姿を見た時は驚いたよな。妖艶の美男子と言うべきか、真祖ってそう言うモノなのかって思ったな」


「まぁ、儂が言うのもなんだが、東洋の妖怪はそう言う風に描かれがちとも言えるな。儂のような鬼は見た目が怖い方が恐れられ、恐怖心から規律を重んじる様になるとも言われる。人は恐れを知り、そこから学んでいくものだ。と、話がそれた。フォディ殿から得た情報が本当ならば、旦那にとっては一番遭いたくない存在と会うことになるが」


「その事については、踏ん切りが付いている。当初の予定だった欠片の回収は終わった。残りはこの世界にいる邪神の情報を集める。といっても、その邪神については、推測するに『偽りの神』である獣の事だと思うがな。どちらにしても、ミョルニルが獣を利用して何かしようとしているのは確かだろう。彼奴が警戒しない状態となれば、必然的に俺一人で会うしかないさ」


 竜仙にそう伝えると、前方から何やら戦闘音の様なものが聞こえて来た。どうやら五名の冒険者と数十体の魔物が戦闘をしているようで、気配からして冒険者側が劣勢のようである。竜仙たちの確認を取らずに、俺はそのまま其方へと向けて手綱を強くひき走らせる。行き成り走らせたのだが、竜仙たちもその気配は感じ取っていたらしく、何も言わずに武器を取り出す準備を始めた。


「竜仙、ミーア!! いつでも出れる準備をしておけ。このスピードなら五分後に現着するぞ」


 ゴーレムホースの手綱を強く握りながら、戦闘音が聞こえる方向へと走らせる。走り出しながら、気配でどちらが優勢かを確認する。一名は負傷しているのか攻撃に参加できておらず、その負傷者の肩を抱えながら、後方へと撤退する者が一人いる。残り三人で数十匹の魔物と戦闘を余儀なくされているようで、後方へ避難する者を庇いながらの戦闘のようだ。だが、運が悪いと言うべきか、其方の方向からも魔物が近づいている。血の匂いに誘われたのかどうか分からないが、このままでは間違いなくこの五名は死ぬだろう。


「竜仙は避難する二名を、ミーアは戦闘を行なっている三名の救助を頼む。馬車は発砲と同時に停止する。その合図と共に行動開始だ」


 いつでも出れる態勢を取りながら、二人はただ一言「了解」と答えた。左手に手綱を握りしめながら、懐に仕込んでいる拳銃を取り出す。旅人になる前から愛用している『ベレッタM92』と呼ばれる拳銃だ。旅人になっても愛用しており、何人もの旅人を断罪する為に使用している。主に、逃走阻止の為に使用している。徐々に戦闘音が大きくなり、目視で確認できる距離まで近づいた。


「対象確認。ゴブリン種が二体にウルフ種が三体。イーグル種が二体だが、目視で判断できるのはこのくらいだ。行くぞ」


 戦闘している冒険者の背後から来るゴブリンに対して、拳銃を構えて一発だけ発砲する。発砲音と共に、ゴブリンの頭部に見事弾丸が命中した。発砲と同時にゴーレムホースに停止命令を出した。ゴーレムホースが停止するのと同時に、竜仙たちが客車から飛び出した。発砲音で驚いた冒険者と魔物たちに対して、竜仙とミーアは躊躇なく武器を構えながら駆け出し魔物たちを駆逐する。最初は驚いていた冒険者たちも、援軍だとすぐに判断したのか竜仙たちと共に魔物を狩っていく。当然だが、此方に向かって来ている魔物は全て仕留めている。ちなみに馬車に攻撃しようものなら、馬車に搭載されているマシンガンが起動する仕様である。その為、馬車に攻撃を仕掛ける魔物は、搭載されている防衛システムによりハチの巣になっている。


「取りあえず、怪我人を馬車に入れて救護する必要があるか。取りあえず、弾丸が続く限り撃ち続けるしかない。四方八方から魔物がやって来るが、それにしても魔物が多すぎるな」


 突然の乱入で魔物たちも混乱したことが影響したらしく、群れの司令塔らしきスケルトンマジシャンの元へ竜仙は容易に近づくことが出来た。そして、手に握っている金棒で頭部を破壊した事で他の魔物たちは怯えだし、魔物たちが何体か逃走した。その光景を見た他の魔物が、我先にと逃げ始め、血の気の多い魔物以外は消え去った。その後も竜仙と冒険者たちの奮闘により、この場にいる魔物は全て倒し終えた。


「やはり、群れの司令塔を潰すと、楽になるな。ただ、こっちも被害が大きいか。いろんなところがボロボロだな」


 戦闘が終わったが、その結果が目の前に広がっている。レンガで作られた街道はボロボロになってしまったが、冒険者側に死者は出なくて済んだ。それでも、街道が悲惨な結果になってはいるが、また整備をすれば良いだけである。そんな中、血まみれの冒険者を抱えて走って来る竜仙とミーアを見て、。


「五十鈴君、この二人の治療をしないと拙いかも!! 止血剤の予備はまだあったのよね」


「あぁ、まだある。そっちに馬車を向かわせる」


 冒険者たちの待つ場所まで馬車を走らせ、到着と同時に収納指輪の中にある救急箱を取りだした。すぐに負傷者の近くに馬車を止めて、救急箱を持って負傷者のもとに置き緊急手当てを行なう。竜仙は討伐した魔物の死体を、右袖から取り出した収納袋に素早く入れている。魔物の死体を放置すれば、そこから死体を喰いに魔物たちが集まる恐れがある。その為、急いで回収している。


「血の匂いは流石にどうにも出来んが、水魔法で洗い流すしかない。だが、魔法は得意ではないんだがな」


「竜仙、冒険者の止血は出来たが油断は出来ん!! バルド王国にすぐに向かうぞ」


「承知した。仕方がない、不得意ではあるが魔法を――いや、妖術を使えばよいか」


 竜仙は妖術で空気中から水分を集め、そのまま血液を洗い流した。それを確認するとすぐに竜仙は合流し、応急処置を行なった冒険者を馬車の中に運ぶ。客車の中は最高でも五名しか入れない為、冒険者たちを客車に載せてた。運転席は二人しか座れない為、ミーアと俺が運転席に座り、竜仙は並行して走ってもらうことになった。すぐに馬車に負傷者を乗せ終えると、冒険者のリーダーと名乗る『フォーディス・アバグ・ジーベック』の案内でバルド王国へと馬車を走らせた。


「まさか、怪我人を運ぶとは思わなかったな。そう言えば、客車の中に入っている資料はしまったのか」


「うん、戦闘に参加する前に収納指輪に全部入れたよ。それより、バルド王国に着いても検問所で止められると思う。怪我人がいるから、すぐにでも対応しないといけないよね」


「そうだな――ところで、大丈夫か竜仙。ずっと走ってもらっているが」


 時速六十キロ程の速さで走っているのだが、至って普通に追いついてくる竜仙に声をかける。着物姿で走っている竜仙は、いつものように「問題ない」と答えた。疲れた様子は全くなさそうではあるが、目的地に到着するまで走り続けることになる。魔物の気配はあるのだが、此方へと攻め込む気配は感じられない為、安心してバルド王国に向かう事は出来るだろう。


「すいません、客車に乗せて貰って」


 客車と運転席を繋ぐ窓が開き、中にいる冒険者の少女の声が聞こえた。顔を向けるわけにはいかない為、ミーアが俺の代わりに「気にしないで」と答えた。ミーアに受け答えしてもらっている間に警戒していた魔物の気配が此方へと向かって来ている事に気が付いた。竜仙の方を向いたら気付いていたらしく、俺の指示を待っていた。念話で馬車を任せる指示を出すと、竜仙は操縦席に近くに来たのを確認し、俺は客車の屋根に飛び移り運転を竜仙と交代した。懐から拳銃を取り出し、魔物の気配を確認しながらジッと警戒する。


「どうする、旦那。このままだと、バルド王国に到着しちまう。流石に魔物を引き連れた状態では拙いだろう」


「あぁ、今の状態でバルド王国に入るのは危険だ。威嚇射撃で魔物を足止めするが、それでも後方から来る奴らが迫ってくるだろうな。特殊弾を使用するが、それでどこまで抑えられるか分からない。すまないが、速度を緩めずそのままの速度で頼む」


 まだ弾丸が残っているベレッタM92を、腰に付けているガンホルダーにしまう。そして、収納指輪から『バレットM82』を取り出し、腰に巻きつけているポシェットから『特殊弾のカートリッジ』を取り出した。シャトゥルートゥ集落で作製した特殊弾なのだが、まだ実戦では使用したことがない危険な弾丸である。カートジッリをバレットM82に装填し、目視で魔物が確認できる距離まで待つ。


「承知した。旦那、特殊弾と言うと『例のアレ』を使用するってことだよな」


「あぁ、正直に言えば此奴を使う羽目になるとは思わなかったがな。認識確認だが、魔物以外の気配は無いな」


「あぁ、気配では魔物しかいない。旦那、いつでも良いぞ」


 竜仙からの返答を聞き、銃を構えジッと魔物が来るのを待つ。目視確認できる距離では流石に巻き込まれかねない為、ギリギリ巻き込まれない範囲に魔物が接近するのを待つ。本来なら射撃体勢を取って待つのだが、まだその体制にならずに気配を追いながらスコープで対象を視認できるまで待っている。そんな中でミーアは竜仙に「アレって何」と質問する声が聞こえた。そう言えばミーアには説明していなかった事を思い出し、竜仙の代わりに俺が説明した。


「ミーア、重力弾を知っているか」


「あぁ、重力を発生させて行動力を奪う弾丸だっけ? 確か、スペースシャトルが大気圏を突破するまでにかかる重力を発生させるとか。でも、アレって専門技術者でも成功率が低くて、かなり危険で調整がシビアだと聞いているけど? もしかして、完成したの? 私は聞いたことないんだけど」


「あぁ、シャトゥルートゥ集落を出る一週間前に完成はしていた。本来ならミーアにも報告したかったのだが、初テスト時にかなりヤバい結果が出てな。その場にいた者たちと相談し、秘匿するべきだと判断された。故に、今まで実戦で使用することは無かったんだが、今回ばかりは使用せざるを得ない」


 魔物たちが射程範囲内に近づき、スコープを通して魔物を確認する。ゴーレムを確認する事が出来たと同時に、竜仙たちに「目標確認完了。これより射撃体勢に入る」と伝え、ゆっくりと深呼吸をし、うつ伏せになり狙撃姿勢を整える。八百メートルまで魔物が近づくのを待ちながら、その瞬間が訪れるまで待つ。以外にもゴーレム種の脚は早く、射程範囲に入るまで数分くらいだと判断した。吹き飛ばされない様に波動で足を固定させ、ゆっくりとトリガーに指をかける。久しぶりの狙撃である為、確実に標的の頭部を撃ち抜く為に狙いを定める。


「竜仙、ミーア!! これより標的に特殊弾を発射する!! 衝撃に備えろ」


「「了解」」


 狙撃をするだけでそこまで報告がいるのかと、傍から観ればそう思われてもしまう。正直に言えば、この様な報告は必要ない事だ。しかし、この特殊弾だけは対象外となる。狙撃後の光景を見れば、それがどういう事なのかすぐに分かるだろう。ゆっくりと深呼吸をし、トリガーに指をかける。しっかりと戦闘を走るストーンゴーレムの頭部に照準を合わせ、引き金を引いた。発射された弾丸はストーンゴーレムの頭部に見事命中し、頭部のドン真ん中に日々のようなものが入った。すると、ストーンゴーレムを中心にして、一瞬にして半径五百メートルを紫色の半球型のドームが覆う。客車の窓から首を出す冒険者の気配を感じ取りながらも、すぐにスコープを覗くのを止め肉眼でドームを見つめる。ドームが出現してから数秒で、聞いたことのない機器がへし折れるような凄まじい音が響き、走行中の馬車を縦揺れの地面が襲う。竜仙は地震で馬車が点灯しない様に調整しながら走らせている。地震の後に響く、地面が圧縮で潰されていく音。その衝撃からか地面がひび割れている音までもが聞こえる。


「五十鈴君!? 何、この衝撃!! 凄く、気持ち悪いんだけど!! それ以上に、なんか凄まじい音も聞こえるんだけど何が起きているの」


「嬢ちゃん、これが開発された特殊弾だ!! 縦揺れが凄まじいが、何とか耐えてくれ!! 旦那が客車にいる間は、客車が揺れて怪我人に何かない様に固定してくれているが――それより旦那!! 此方へと攻めてきている魔物の状況はどうなんだ」


「今のところ、抑えられてはいる。だが、ゴーレム種が此方へと向かって来ているのは確かだ。取りあえずは、通常弾で関節部を撃ちぬいて行動できないようにするが、後三分で特殊弾の効果が切れてしまい、この振動も収まってしまうだろうな。効果が切れた後が問題だが、それは俺の方で対処する。取りあえず、馬車の速度を緩めずに走ってくれ」


 目の前に広がる紫色のドームが縮んでいくのを確認しながら、特殊弾の入っているカートリッジから通常弾のカートリッジに取り替える。重力で身動きが取れない魔物は多いが、ゴーレム種に関しては重力はそこまで関係がない。それ故に、此方へと近づくゴーレム種の関節部を撃ちぬいて行く。紫のドームが消えたのを確認したが、此方へと向かって来る魔物の気配はなく、皆が撤退していくのを感じ取った。


「竜仙、魔物は撤退したようだ。このまま運転を頼む」


「承知した。だが、魔物を殺さず重力で身動きを取らせない弾丸にも驚いたものだな」


 竜仙の言う通り、この特殊弾は束縛機能しか持たない不思議な弾丸である。そもそも、重力の力で仕留める弾丸だったはずが、束縛する事しか出来ない弾丸なのだ。ただし、ゴーレム種以外に効果がある事を除けば、この弾丸はとても優秀な弾丸である。では、何故この弾丸を封印しなくてはならないのか。それは重力の檻によって地面が凄まじい被害が出る事だ。


「ぇ、重力で圧死させる弾丸じゃないの」


「いや、あの弾丸は半径五百メートルを重力の檻で閉じ込めるだけだ。重力の檻に閉じ込められた者は、その個体ごとに重力による拘束を受ける。だが、重力の檻による周辺の被害が甚大の為、旦那との協議をして『封印指定』もしくは『いざと言う時のみ使用する』事になった」


「うわぁ、また凄いの作ったね。まさか、圧死させるのではなく拘束させるのね。でも、さっきの地震と音を聞いたら、何となくだけど理解できたよ。だから封印指定にしたのね」


 射撃体勢から体を起こし、ミーアたちの方に身体を向けた。ミーアは俺の方を見上げており、竜仙は前を向いたまま運転をしている。街道の被害については、後で部下たちに対応してもらうことにして、周囲の警戒をしながらベレッタM92に持ち替えた。魔物たちは警戒してか飛び出す事もなく、ジッと此方を見ている気配を感じ取った。ちなみに、盗賊団らしき者たちの気配も感じ取れたが、先ほどから此方を追いかけてきている魔物たちによって壊滅状態のようである。勿論、その間に部下に連絡をしており、特殊弾によって破損しているだろう街道の整備の依頼を出している。


(怪我の功名と言うべきか。どちらにしても、魔物たちが引いて行く気配がない。彼らに何か関係があるとしか思えないが、それについては治療後に確認するしかないか)


 そんな事を思いながら、魔物の気配を常に注視して確認する。徐々に諦めたのか魔物たちの数も減っているのは確かだが、何体かはずっと此方を追っている。種族は間違いなくゴーレム種であるが、何故ゴーレム種は諦めずに追いかけて来るのかも気になる。どちらにしても、バルド王国に着いてから聞けば良い事だと思い、警戒をしながらバルド王国まで馬車を走らせる。


「旦那、城が見えて来た」


 竜仙の報告に「分かった」と答え、ベレッタM92をガンホルダーにしまう。此方へと迫って来ていた魔物の気配は無く、諦めたのか撤退しているようだ。その事を竜仙たちに伝え、俺はそのまま客車の屋根の上で座りながら、遠くから見えるバルド王国を見つめた。中世ヨーロッパでありそうな城が見えて来た。


「あそこに、ミョルニルがいるのか」


 ガンホルダーの隣に装備しているナイフホルダーに手を伸ばし、そのままナイフを抜き取り、ジッとナイフを見つめる。殺人鬼と呼ばれる前は軍に所属していたが、初任給で買った思い入れのある『タクティカルサバイバルナイフ』であり、俺が実験達の子供たちを、博士を殺した時に使用した物である。白兎と精神が別れてしまった為、映像としての記憶がまったくない。だが、彼らを殺した時の感触だけは、何故か今でも憶えている。殺人鬼と呼ばれていた頃、俺は彼奴をナイフで刺して殺した。その記憶は文面として憶えている。


「また、お前を抜く必要があるとはな」


 俺はそう呟いてから、ナイフをしまう。目的地に到着するまでジッと空を見つめるながら、フォディから得た情報を思い出す。ミョルニルが行おうとしている『来日の神を目覚めさせる』と言う、自殺行為に等しい実験が書かれた資料。そして、連鎖的に他世界を巻き込む楔と思わしき杭の設計図。そして、各世界にその杭が設置されていたこと。幾つもの下準備が行われていた事に、絶句してしまったのは言うまでもない。

 来日の神を目覚めさせると言う事は、この世界を消滅させ、新たな世界に作り変える事を意味する。だが、フォディから得た情報では、全世界を巻き込む再誕を引き起こそうとしている。それを阻止するべく、俺たちはミョルニルがいるバルド王国へ向かっているのだ。俺が旅人となる前、命を懸けてでも止めなくてはならなかった実験を思い出す。


「まさか、因縁は切れていなかったとはな。そして、ミョルニルが博士だったとは、予想外だったが、どちらにしても俺は仕事をするだけだ」


 心配そうな声で「五十鈴君」と言うミーアに、いつものように「大丈夫だ」と答える。これは俺と彼奴の因縁であり、決着を付けなくてはならない仕事なのだ。徐々にバルド王国の正門に近づいて来たのを確認すると、竜仙はゴーレムホースの速度を緩める。


「旦那、もうすぐ着くぞ」


「あぁ、分かった。ミーア、冒険者たちの状況はどうだ」


「怪我人の方は落ち着いているみたい。取りあえず、早く治療をした方が良いと思う」


ミーアは客車の窓から冒険者たちの状況を観ながら答えた。どうやら、想定より早く着いたことで、少し安心しているようである。


「よし、このままバルド王国に入るぞ」


 いろいろとあったが、俺たちは無事にバルド王国へと入国するのだった。

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