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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
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20話 レレーナさん

どうも、私です。

(遅いですが)新年あけましておめでとうございます。

今年度もよろしくお願い致します。

何とか、投稿が間に合いました。

うん、サボってたわけではないです。

社会のストレスで、不健康になってました。

今は、元気です。

皆様も、健康第一で今年一年頑張りましょう!!


さて、話は変わりますが、この20話で4章は完結です。

次回は最終章となりますが、此処まで頑張れたのもこの物語を読んでくださった方々のおかげです。

何とか、この物語を完結できるように頑張ります!!


では、次章で会いましょう (`・ω・´)ノシ

 オルディアさんたちとの会合を終え、オルディアさんが用意してくれた別荘の方に移動している。屋敷が半壊したため、急遽だが使用可能な別荘を用意してくれたらしく、案内役のメイドさんと共に向かっている。シーボルト家の屋敷があった方からは、未だに煙が昇っているのが見える。会議を終えた後、カルディオさんは屋敷の方へと戻った。消火班と調査班のリーダーであるため、会議中でも新たな情報が入ったらしく、会議終了後にすぐに現場に戻ったと竜仙から聞いている。

 そして、九条とトーチャ君にはオルディアさんの護衛を任せた。特にトーチャ君については、暴走装置を取り除くために入院することになっている。取り外し作業はかなり困難な事から、百鬼夜行部隊にいる医療班を呼んだ。来週には手術が行なえる状態になるらしい。その為、トーチャ君は此処に入院することになった。ついでに、トーチャ君のことも考え、九条もこの病院に残しておくことにした。また、トーチャ君の暴走を抑えるために、九条が一番苦手とする『魔力調整の技術指導』もついでに行なった。


(まったく、他者の魔力操作が苦手なのは仕方がないが。何故、魔力操作で練習用のダミー人形を爆発させるのか。自分自身の場合は得意だが、他者に関しての苦手。魔力暴走の対応を考えても、しっかり身に着けてもらわないと困る――が、今後の特訓で何とかなるか)


 今後の九条の教育方針がまとまったところで、メイドさんと俺の二人で別荘に向っている。本来なら竜仙と共に向かうべきだが、体調からの連絡があったためにそちらの対応を任せている。取りあえず、先に竜仙を別荘に向わせて『会議の準備』を頼んでいる。旅人の各部隊内で行われる会議が本日行われるため、俺は必ず参加しなくてはならない。まだ会議には時間があるため、そこまで焦る必要もないので、メイドさん――そう『レレーナ・トイ・フォーライ』さんと話しながら向かっている。


「なるほど、ゲーディオの特産品って織物だったのですね。鉱山があるので、鉄鋼業が盛んだと思っておりました。金や銀、鉄や宝石類などを採掘してそうでしたので、そう言ったのが盛んなのかと」


「えぇ、そう思われても仕方がないですね。鉱山が近くにあるため、よく勘違いされてしまうのですが、実はゲーディオは織物発祥の地なのです。元々はメーディルと言う魔物から取れる毛を加工して、絨毯やマフラーなどを作って販売したことで繁栄した街なのです。メーディルは山々を行き来する魔物の為、ゲーディオ周辺にある山にも生息しているのです。特に、この周辺ではかなりの数いるそうで、初心者冒険者でも簡単に捕獲が出来るらしいですよ」


「なるほど、そんな魔物がいるのですね。しかし、商業の街と聞いていたが、その始まりが織物だったわけですか。確かに、魔物の毛を用いて作成された織物は売れるでしょう。絨毯は一種の芸術品として高値で取引されますから。私はあまり興味がないんだが、芸術品として貴族の方々が糸目をつけずに購入すると聞いたことがあります。そう考えると、この場所に街を作るのは、素晴らしい考えでしょう」


 ゲーディオの誕生について聞いている中、彼女はどこかソワソワとしている。十中八九あの犯人の事だろう。そう言えば犯人の顔は見ていると思うが、あの犯人が彼女の兄なのかどうかを確認していない事を思い出した。確か、死体安置所が近くにあったはずだ。


「ちょっと寄りたいところあるんだが、レレーナさんにも来てもらいたい」


「寄りたいところですか? 場所はどちらに」


「パディエラ教会だ。君に確認したいこともあるし、君自身も気になっているのだろう」


 やはり気になっていたらしく、彼女は一瞬だが身体をビクッと振るわせた。犯人の名前を知らないからこそ、身内の可能性のある彼女に確認してもらいたかった。彼女は小さく「ありがとうございます」と言うと、パディエラ教会のある方へと向かった。向かっている最中だが、冒険者たちに握手を求められたので応じながらも、何事もなくパディエラ教会に到着した。


「此処だな」


 建てられてまだ新しいのか、汚れもないレンガで創られた教会に着いた。病院での怪我人の対応もあり、修道服を着た女性たちが忙しなく応急箱を持って出入りしている。教会関係者たちも手伝ってくれているため、病院にいる患者たちは助かっているだろう。そんな中で、俺たちはそのまま教会の中へとはいる。教会の中に入ると、目の前には祭壇と均一に配置された椅子が配置されている一般的な間取りである。途中で修道女の方に霊安室がある場所を聞き、部屋の右奥にあるドアの方へと向かう。ドアを開くと地下に続く階段があり、司祭さんが俺たちを待っていたのか階段の前に立っていた。


「イスズ様、レレーナ様。お待ちしておりました。私、ディエラ教会ゲーディオ支部司祭のフォルトゥナ・シーベッグ・ロトゥマと申します。気軽にフォルトナとお呼びください」


「フォルトナさんだな。何故、俺たちが来るのが分かったのか。それについては、あえて聞かない事にする。済まないが、此方に運ばれた彼の安置されている場所まで案内を頼む」


「承知いたしました。どうぞ、此方へ」


 そう言うと、彼はそのまま地下へ続く階段を下り始めた。階段の広さは、成人男性が五人横に並んでも十分通れる広さがあり、等間隔で魔石型ランプが設置されているおかげで明るい。一度彼女の顔を見てから、俺はそのまま彼の後を追う。地下一階に到着すると、しばらく一本道が続いた。通路を歩いている中、彼は一切会話をすることなく歩いている。通路の奥には一つの扉があり、扉の上には「霊安室」と書かれた表札がついていた。


「此方がご遺体を安置しております霊安室になります。お墓の対応に期間がかかる為、各教会にはこの様な部屋を用意しているのです。本日は少し人が多いので部屋の隅に特別スペースを設置しており、イスズ様が発見したご遺体の方はそちらにおります。他の方々も居りますので、会話はなるべく小さな声でお願い致します」


「ご配慮いただきありがとうございます。霊安室で騒ぐような行為はしませんから、安心してください。では、案内の程よろしくお願いします」


「承知いたしました。此方へ」


 彼が霊安室へと入る姿を見て、続く様に俺たちも入っていく。霊安室の中では、シスターやご遺族の方々が亡くなった方の元で涙を流している姿が見えた。亡くなった方の姿を見るのは失礼なので、その様な事はせずに彼の後について行く。目的地に到着したのか、部屋の片隅にあるベットの前で立ち止まった。私たちもベットの前に着くと、そこにはあの異空間で亡くなっていた一人の男性が居た。レレーナさんはご遺体の顔を見て、そのままゆっくりと歩き出す。口元を両手で覆いながら、何やら小声で「兄さん」と言う声が聞こえた。


「レレーナさん、やはり此方の方は」


「はい、私の兄です」


「そうか。やはり、レレーナさんの兄だったか」


 彼女はジッと兄の手を優しく握りながら、涙を堪える様に語り始めた。


「小さい頃に私が大病にかかって以来でしょうか。兄は、私の治療の為にお金を稼ぐために冒険者になったんです。それ以降、私はゲーディオに病院に入院することになったんです。兄から最後の手紙が届いた頃、病も完治して退院日が決まったんです。本来なら、迎えに来るはずなのに――あの日から、ずっと迎えに来てくれなかった」


 何か言葉をかけるべきかと悩んだが、コートからハンカチを取り出して渡した。レレーナさんはそれを受け取ると、涙を拭いながら「ありがとうございます」と言う。生きていると思っていた身内が亡くなっていたのだ。ショックを受けても仕方がないことである。


「今までずっと、兄さんに捨てられたんだと思ってました。でも、私が入院している間、定期的にお金が振り込まれた事を思うと、退院したから私を捨てるなんてありえないと思った。兄さんを探すために、私はオルディア様の屋敷でメイドとして働き、情報を集めていたんです。それでも、兄さんに関する情報は手に入りませんでした」


「そうか。そう簡単には欲しい情報が手に入らないだろうな。偽りの情報を掴まされることもあるだろう。大丈夫だったのか」


「えぇ、その時はトーチャ君などが協力してくださったので。ですが、この様な形で兄さんと再会するとは思いませんでした」


 涙を拭いながらも、声は震えている。家族を失う辛さは、俺も良く知っている。それ故に、彼女に対して慰めの言葉をかけなかった。彼女の悲しみは彼女だけのもの。それ故に、慰めの言葉をかけるべきではない。そう判断した。


「レレーナさん、私たちは席をはずします。何かあれば、近くに居りますシスターに声をかけてください」


「ありがとう、ございます」


「いえいえ。イスズ様、会議室まで案内いたします」


 兄と二人きりにする為に彼女を残し、司祭の案内の元に霊安室を出る。彼女から離れて少ししたところで、彼女の泣く声が聞こえた。最愛の家族を失った彼女の泣く声は、俺の心に刺さる。彼女を残して無言で一階まで戻ると、そのまま会議室へと案内された。個室の会議室ではあるが、立派なソファーとテーブルがある。そのまま向かい合う形で座ると、お茶を飲みながら話を始める。


「今回、犯人の遺体を引き取って頂きありがとうございます。オルディアさんから此方の教会が引き取ってくださったと聞いております。アーガス氏を殺害した犯人である事を知ったうえで、受入れて頂けるとは思いもしませんでした」


「その件については、私も悩みました。ですが、彼もまた被害者の一人なのです。ここ数年、アストリア家のお家事情には困っておりました。特に過激派の連中は、一般市民を道具のように利用する。あのご遺体も被害者の一人だっただけでしょう。そう考えると、彼もまた丁重に弔うべき方なのではと思いました。それ故に、シスターたちと話し合い、私共が引き取ることにしたのです」


「そうでしたか。アストリア家にも困ったものですね。すいませんが、コレで彼にお墓を立てていただけませんでしょうか。オルディアさんの屋敷は、先ほどの火災で給金まで支払える余裕はないかと思われるので。レレーナさんにとって唯一の肉親であった彼の為に、ちゃんとした葬式を上げて欲しいのです。だから、せめて葬式やお墓の代金だけでも私の方でと思いまして」


 そう告げて、収納指輪からお金の入った袋を取り出した。金貨が満杯に膨らんだ布袋を渡すと、彼は驚いた表情をしながら「そんな、旅人様のお金を受け取るわけには」と言って返そうとした。だが、彼に「これは、私からの善意だと思ってください」と言って、無理やりだが渡した。


「ぜ、善意と言われますと断るに断れないですね」


「えぇ、善意です。レレーナさん一人では、流石にお墓まで用意するお金までは出せないと思いますので。屋敷の火災の件もありますし、これからの生活を考えても厳しいでしょうから。余ったお金に関しては、教会への寄付と言う事にしてください」


「そうですか。そう言う事でしたら、葬儀の件について承知いたしました。ただ、流石に旅人様から受け取ったお金ですので、立派な墓を用意させていただきます」


 そう言って彼はお金の入った袋を手に持つと、テーブルの隅に置いてあるベルを軽く鳴らした。すると、部屋のドアをノックする音と共にシスターとレレーナさんが室内に入って来た。シスターの綺麗な緑色の瞳と目が合った。その場でシスターは一礼すると、明るめのブロンズヘアが揺れる。フォルトゥナ司祭が彼女を呼ぶと、先ほど渡したお金の入った袋を渡して「此方は、イスズ様から頂いたものです。レレーナさんのご遺族のお墓の用意をお願い致します」と伝えた。最初は驚いた表情をしたが、すぐに理由を察したのか真剣な表情に変わり、その場で俺に対して一礼をしてから部屋を出た。何が起こったのか状況が付いていけていないレレーナさんに、苦笑しながらではあるが優しく声をかけた。


「レレーナさん。もう大丈夫ですか」


「はい、ありがとうございます。少しですが落ち着きました」


「そうか。取りあえず、此方に座ってくれ。これからについて話がある」


 彼女は俺のそばに座ると、これからの件について話をする。葬式やお墓の件など、すぐに決められることを話し合う。まだ気持ちの整理がついてない状態で決めるべき事ではないが、出来るだけ早めに決めなくてはならない。俺の方でも話を纏めながら、彼女の希望に合った葬式を行なえるように話し合った。一か月後には俺たちはこの街を去らなくてはならない。その為にも、俺がいる間に出来る事は先に終わらせたい。レレーナさんの兄の遺体を発見したからこそ、丁重に弔いたいと思ったのだ。


「取りあえず、此処までまとまれば問題ないだろう。済まないな」


「いえ、私としても早い段階で決まって助かります。レレーナさん、日取りは此方で決めても宜しいでしょうか」

 

「それで、お願いします。兄のしたことは許される事ではない事は知っております。でも、肉親である私が、ちゃんと弔ってあげないと」


 寂しそうな表情をする彼女の姿を見て、何も言わずに頭をそっと撫でた。無意識化で彼女の頭を撫でており、俺自身もどうして頭を撫でたのか理解できなかった。しかし、何故か懐かしい気持ちに駆られる。昔、同じ経験をしたのかもしれない。急に撫でられたことに驚いた表情をするレレーナさんに、微笑みながら答える。


「そうだな。彼を弔ってあげるのは、肉親であるレレーナさんしかいない。罪人だろうと、生きている限り、今を生きる人間が死んだ者たちの事を憶えていなくてはならない。レレーナさん、

俺に出来るのは此処までだ。後は、貴方がやらなければならないことだ」


「本当に、ありがとうございます。兄を見つけてくれただけではなく、葬式の手配までしていただいて。この御恩は忘れません」


「恩と言われても、俺たち旅人にとっては当たり前のことなのだが。まぁ、気にするな。ずっと兄の帰りを待ち続けた君に対して、俺が出来る事をしただけに過ぎない。だから、気にしないでくれ」


 苦笑しながらも、彼女に伝えた。彼女は「それでも、この御恩は一生忘れません」と言って、目元を赤くしながら頭を下げる。そんな姿を見て、彼女の想いに対して否定するのもダメだろうと思い「そうか、分かった」と頬を掻きながら伝えた。

 お茶を飲みながら、教会が保有している墓地の管理について話を聞いていると、胸ポケットに入れている通信端末が鳴り響いた。司祭たちに「すまない」と言ってから、端末画面に写る名前と時間を確認した。そこには『竜仙』という名前と、集合時間だった時間の三十分前の時刻が書かれていた。此処から別荘までどのくらいの時間がかかるか分からないため、取りあえず謝っておこうと思いながら電話に出た。


『もしもし、旦那か』


「あぁ、俺だ。竜仙、済まないな。急遽、対応しない行けない案件が出てしまってな。これから向かうから、隊長たちには遅れる旨を伝えてくれ」


『急遽対応しないといけない案件って――あぁ、レレーナさん関連だな。分かった、隊長たちには俺から伝えるが、なるべく早く来てくれ。隊長から送られた資料から、儂らに調査依頼が来たようだ』


 隊長からの直々の依頼が気になるが、それについては直接聞いた方が良いと判断した。隊長から来る依頼の大半が、王からの勅命の場合が多い。なので、竜仙に「わかった、すぐに向かう」と伝えて通話を切った。通話中ではあったが、司祭たちは空気を呼んでくれたのか小声で会話をすると、すぐに司祭は腰につけているポシェットから紙とペンを取り出し、誰か宛てか分からないが記載していく。通話を切ったタイミングで一通り記載し終え、その紙をレレーナさんに渡した。チラッと見えたが、葬儀費用などの手配の詳細が書かれているように見えた。それを受け取ると腰につけている収納ポシェットに入れる。


「其方も終えたようだな。申し訳ない、フォルトゥナ司祭。私はそろそろお暇させてもらう」


「承知いたしました。イスズ様もご多忙のようですので、話し合いはこの辺にいたしましょう。レレーナさん。先ほど渡した書類については、オルディアさんに渡していただけると助かります」


「分かりました。イスズ様の案内を終えたのちに、オルディア様に渡します。それではイスズ様、別荘までご案内します。司祭様、兄の件も含めてありがとうございました」


「いえいえ、これも私めの仕事の一つですので。詳しい段取りは、後日にいたしましょう」


 司祭は立ち上がると同時に俺も立ち上がり、そのまま玄関まで一緒に向かう。シスターたちとすれ違いながら、隊長からの依頼について考えていた。嬢ちゃんから狂い神の情報が渡っているはずである。それに関する依頼である可能性は高いだろうが、それならば嬢ちゃんから依頼が来るはずである。


(どちらにしても、予想で判断するのは間違いだな。取りあえず、会議で分かるだろう)


 そんな事を考えながら、俺たちは司祭と共に教会の玄関前まで向かった。玄関前に着くと、シスターたちが見送りに来てくれた。彼らに軽く会釈をして、そのまま別荘まで向かって歩き出す。街の住人とすれ違いながらも、竜仙の気配に近づいている事を感じ取った。ただ、竜仙の他にミーアの気配も感じ取ることが出来た。どうやら無事にケアの方も完了したようだ。


(ミーアも来ていると言う事は、仲間たちの準備も完了したってことになる。つまり、依頼の内容は『戦争』と言うことになるか。結界の準備や、一般市民の避難対応も含まれるのだろうか)


「イスズ様、ありがとうございます」


 彼女の声に思考を切り替え、左隣にいる彼女の方へと振り返る。まだ目元は赤らんでいるが、しっかりと前を向いて歩いている。やはり、まだショックが残っているようで、声のトーンが低いように感じる。そんな中で彼女はその場で立ち止まり、俺の方へと身体を向けて話す。


「兄が犯した罪は大きいです。それでも、ちゃんと供養できるようにしてくれました。本来なら、殺人を犯した兄の遺族である私が、この街にいること自体あり得ないと思ってました。でも、イスズ様は密かに私がこの街に居られるように対応をしてくれました」


「対応か。あれは、俺が指示を出す前に竜仙が対応していたからな」


「それでもです。私はこの街が好きです。私の命を救ってくれたこの街に、こんな私を雇ってくれたオルディア様の為に、私の人生をこの街に捧げたい。兄の犯した償いは、私が「それは違うな」ぇ」


 彼女の言葉を遮った。それに対して驚く表情をする彼女を見ながら、俺は今まで裁いて来た者たちの事を思い出す。己の罪から逃れるために、命を断とうとした愚か者。自身の正義を振りかざし、犯罪者家族に悪意の強迫を行ない自殺に追いやった愚か者。犯罪者の家族だからと、悪質なイジメを行ない自殺へと追いやった愚か者。その全てを俺は裁いて来た。それ故に、俺は今までの経験を踏まえて彼女に伝える。


「犯罪者が亡くなったからと言って、犯罪者の家族が罪を償うべきと言う考えが間違いだ。罪を犯した者が、その命を懸けて罪を償うべきなんだ。一度犯した罪は、一生背負い続けるべきものだ。それを、犯人が死んだから犯人の家族が償うべきだとぬかす者、その家族を虐め自殺に追い込む者などなど。そんな事をするから、負の連鎖が断ち切れず、また犯罪が生まれるのだ。犯行を起こす者は、犯罪者家族だけではない。犯罪者の家族を、自殺へ追い込んだ者たちだ。それでも正義を振りかざし、素知らぬふりをする、そう言った者たちが、死後地獄に落とされるのだ」


「イスズ様」


 か細い子でレレーナさんは俺の名を呼ぶが、気にすることなく語る。


「罪を犯した者の家族が悪いわけではない。その様に教育させた社会が、その環境が悪いのだ。それに気付かず、正義を振りかざす者が多いから困っているのだ。特に犯罪者と犯罪者家族をセットで考える時点で間違いだ。犯罪を犯すものを作り上げたのは、犯罪者の家族だけか? 違うな、社会が、その者を取り巻く環境が、犯罪者を作り上げる。それを理解せず報道する者、面白半分で捏造する者。そう言った者がいるから、犯罪は繰り返されるのだ。それ故に、レレーナさん。貴方が兄の犯した罪を償う必要はない。貴方は貴方の人生を生きるべきだ。決して、罪の清算を貴方がするべきではない」


「でも、それでは遺族の方が納得しないのではないのですか」


「そうだろうな。だからと言って、犯人の家族を責めるのも間違いだ。人間と言うものは、明確に責められる者に対してしか強気に出れない。漠然としか判断できない社会や環境ではなく、明確に判断できる犯人の家族にしか責められない。だから、犯罪者の家族を一方的に責める。その考えが間違いだと理解できない。本当に困ったものだ」


 犯罪者の家族が耐えきれずに自殺し、その後素知らぬ顔で生活する者たち。因果応報と言うべきか、その後に彼らがその者たちに恨まれ、悲惨な末路に向かう光景を、俺は嫌と言う程見て来た。旅人は常に世界を監視し続けなくてはならない。星の記憶には、人間が犯した罪の記録が残っている。それを俺たちは見て、情報として残す。その様な事を永遠に続けている。

 彼女にそう告げながら、空を見上げて言う。


「レレーナさんが、兄が償うべき人生を背負う必要はない。貴方は貴方の人生を歩みなさい。犯人が死んだから、それで終わりと言うのも遺族にとって怒りの矛先が分からず困惑するだろう。だが、だからと言って犯人の家族に向けるのも間違いだがな。今回はアストリア家の過激派の連中が関与していることが判明しているから、そいつらに償わせればいい」


「そうなのでしょうか」


「そうなんだよ。現に、オルディアさんは、貴方の事を恨んではいない。逆にアストリア家の過激派の連中に対して、どう苦しめてやろうかと意気込んでいるくらいだ」


 そう告げると、彼女はまたしても驚いた表情をする。その表情を見て苦笑をするが、どこか彼女の表情も柔らかくなった様な気がした。少しでも彼女の重荷が取れたのならと思いながら、彼女の頭を撫で微笑んだ。


「さぁ、案内を頼む。まだ、会議予定の時間まで時間はあるが、早急に着かないと竜仙に怒られるのでな」


「フフフ、そうですね。急ぎましょう」


 ゲーディオと言う街で起きた事件は一端は解決したが、まだオルディアさんの屋敷を放火した放火魔は見つかっていない。その犯人の捜索も含め、しばらくはこの街に滞在するのだろうなと思いながら、そんな彼女の案内の元、俺は竜仙の待つ別荘へと向かって歩き出す。


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