16話 異次元世界の証拠
どうも、皆さま。
お元気でしょうか、私です。
もうすぐ夏が終わる中、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
私は、暑さに負け、うちわを仰ぎながら仕事をしております。
趣味の執筆も落ち着いて書けるようになり、来月も何とか小説を書ける環境になりました。
来月も、私は頑張ります(`・ω・´)
では、次話で会いましょう ノシ
2022/8/29:タイトル修正 『ゲーディオの闇』から『異次元世界の証拠』へ変更
点々と光って見える星の明りを観ながら、足元に地面が見えない空間を歩く。無重力ではないので、確かに地面を歩いている感覚はある。ただ視覚では地面を確認できず、まるで空中を歩いているような肝っ玉が冷える感覚に襲われる。飛行には慣れている為、恐怖心はそれ程ないが、何故か地面が見えないのに歩けると言う矛盾に、脳が気持ち悪いと信号を出している。副隊長は『空を浮遊する』のではなく『空へ上る』方が好きなのか、いつも空中を階段のように上るとそのまま歩くか走っている。その体験を実際にしてみたが、その時の感想と今の感想は一緒である。
「やっぱり、なんか気持ちが悪いな。空中を飛行するのではなく、歩いているような感覚なんだよなぁ。まぁ、それは良いとして、嬢ちゃんの予想ではこの空間内に犯人がいると。欠片の力を利用するなら、確かに侵入用の道具を保管している可能性は有る。犯人の逃走経路として使用したのなら、何かしらの痕跡があるはずだが。見渡す限りそれらしいものは見つからない――いや、遠くの方に何かあるな。行ってみるか」
前方に豆粒くらいしか目視で確認できないが、何かしらの物体があるように見えた。もしかしたら、俺が探しているものではないかと思い、走ることなくゆっくりと歩いてその物体のある方へ向かう。走って向かっても良いのだが、もし途中で落とし穴のようなトラップがあるかもしれないため、慎重に歩きながら向かっている。
無言で其方へと歩いていると、急にコートの内ポケットに入れている通信端末が鳴った。通信端末を取り出し、画面に表示された名前を確認する。そこには『白兎』と言う名前が書かれていた。きっと何かしらの情報が手に入ったのだろうと思い、その場で立ち止まって電話に出た。
『よぅ、兄弟。そっちの調査は順調か。こっちは、隊長たちと一緒に欠片と首の調査をしていた所だ。トーチャの中に入っていた欠片の調査も一段落したが、なんでも狂いの神の生首が見つかったらしいなぁ。保存状態も完璧な状態って言うのが気になるがな』
「白兎か。今は異次元空間の中にいるから、あまり長時間離せないが――確かに、生首が見つかった。その件については、いろいろと問題が有りそうでな、もしかしたら『また一つに戻る』必要があるかもしれない。後、アーガス氏を殺害した犯人の情報が、子の異次元空間にある可能性が出てきた。証拠はまだ見つかっていないが、目視で確認できる限りだが『何かある』のは確かだろう」
『そうかい、こっちも面白い情報が手に入ってな。詳しくは嬢ちゃんに聞いて――あぁ、今代わる。兄弟、嬢ちゃんに変わるぞ』
白兎はそう告げると、小さい声だが『ほれ、嬢ちゃん』と言う声が聞こえた。そして、数秒後に嬢ちゃんの『もしもし、ダーリン。聞こえているかしら』と言う声が聞こえた。それに対していつものように「聞えている」と答え、目的地へと向かって歩き始める。
『そう、良かったわ。貴方が四次元――いえ、異次元空間に潜入したって聞いたから心配したわ。それにしても、まったく貴方は恐れ知らずと言うべきか。貴方、ゲートの開閉する時の座標指定とか忘れてないわよね。貴方の事だから、そう言った事は忘れてないと思うけど』
「潜入時に入ったゲートは解放した状態だから安心して良い。もしゲートが閉じてしまった場合の対処について、竜仙に座標確認用の端末を常時持たしている。すぐに帰還用ゲートを作れる状態にしている。まぁ、心配かけてしまった事はすまないと思っている。すまないな、嬢ちゃん。なんだかんだで、お前との付き合いも長くなったな。まだ人間だった頃、病で死んだ俺を追って来るなんて予想外だったが」
『あら、私は言ったはずよ。貴方に救われた命、貴方の為に使うって。私が私として存在を固定化されるまで、私は始祖として融合した――いえ、させられたと言うべきかしら。私の自我と来日の神としての自我のせめぎ合いで、貴方は私を救ってくれた。その恩を仇で返すなんてことするはずがないわ。それに、貴方を見つけ出すことなんて、私の力を使えば簡単に出来るもの』
自信満々に言う嬢ちゃんに苦笑しながら「確かにそうだな」と告げる。長年の付き合いだから分かる信頼関係に、何故か懐かしい気持ちに駆られた。そんな中、嬢ちゃんは先ほどまで明るかったトーンを落とし、真面目な話になる時の声で語り始めた。
『でも、私は――私自身を許せないのよ。真実を知らずに、私の父を殺した貴方をただ一方的に責め続けた。それなのに、貴方は何も言わず、黙って聞いているだけ。そして最後には、頭御下げて謝罪をするだけ。何も語ろうとはしない貴方に対して、ただただ怒りを一方的に向けるしかなかった。真実を知る機会なんて、幾らでもあったのにね。貴方が死んでから、真実を知らされた時の私の気持ち、貴方は分かるかしら』
「そうだな。あの時は、真実を墓場まで持って行こうとした。始祖に――いや、お前が知れば、きっと発狂するだろうと思ったからな。お前にとって大切な妹までもが、父親の実験材料だったと知れば、お前は間違いなく彼奴を殺す。だからこそ、お前の手を汚さない様に俺が殺した。彼奴だけじゃない、彼奴の実験に加担した関係者たち全てを、ありとあらゆる手を使って始末した。いやはや、まさか俺の死んだ後に彼奴らが全ての国々に真実を発進するとは予想外だったがな」
『確かにそうね。彼らが投じた爆弾の結果、各国のお偉いさんだけじゃない、富豪や闇組織、宗教団体などの関係者すべての名前と、貴方がどうして彼らを殺さなければならなかったのか。その真実が白日の下に照らされてしまった。アレがきっかけで、貴方は英雄として祭り上げられ、私たちは――いえ、私の父と実験関係者のすべてが人類の敵になり、裁判、暗殺、社会的地位の抹消が行われた。まさに現代版魔女狩りとでも言うべきかしら。私たち家族は、真実を知らされて本当に絶望の淵に叩き落されたわ。死のうとさえしたもの』
昔話をしながら歩いていると、豆粒くらいしか見えなかった何かがようやく目視で確認できた。どうやら人間のようで動く気配はなく、その場で倒れている様に見えた。警戒しながらゆっくりと近寄り見下ろす形で確認する。腐敗は無く、口からは血を流して仰向けで寝ている。瞳孔は開いており、眼には生気はない。顔立ちかは若く、見た限りでは二十歳前後ではないかと推測する。服装は執事が着る服と同じものを着ており、近くには暗殺に着ていた服が脱ぎ捨てられている。どうやら、屋敷から執事として紛れて逃走する予定だったようだ。
「そうか、本当なら真実を知らせたくはなかったんだがな。だが、結果的にお前たち姉妹を守る事が出来た。自殺しようとするのは想定外だったが、それでも踏みとどまった。そして、本当なら地獄に落ちるはずの俺を、あの時の嬢ちゃんは力を使って『狂い神』と言う眷族として契約し、そこに隊長が来て旅人となった。本当に、運命とは不思議なもんだな。さて、積もる話はこの辺にしよう。どうやら、嬢ちゃんの予想は的中したようだ」
『そうね、この話は仕事が終わったらゆっくりと話し合いましょう。で、仕事に戻るとしましょう。其方には、やっぱり死体で見つかったのかしら』
「あぁ、亡くなっている。性別は男性で、年齢は見た限りだが二十歳前後だろう。脈拍はなく毒殺されたのか分からんが、泡を吹いていた跡がある。確か、アーガス氏が殺害されたのが――あぁ、そうだった。ディアラさんが五歳の誕生日を迎えた日だから十二年前だな。その間、腐敗したような個所はない」
死体となった犯人の身元を調べる為、身元を確認できるものを探す。その間、嬢ちゃんから犯人の特徴等を質問された。衣服は、髪の毛の色は、瞳の色はなどである。出来れば精密な調査をしたいところだが、今現在分かる範囲で答える。
「どうやら執事として潜伏していたようだな。シーボルト家の執事が着ていた服に似ている。髪の毛はボサボサのショートヘア。紙の色は赤黒く、瞳の色は――焦げ茶色だな。首元に黒革のチョーカーを付けている。チョーカーには銀色のひし形をした物が埋め込まれている。多分だが、これは奴隷用の首輪だと思われる。身元確認できそうなものは、胸ポケットの中に手帳があるな。内容を確認する」
手帳を開いて書かれている内容を確認する。日記のような物も書かれており、彼の依頼人の名前まで書かれていた。どうやら、彼もトーチャ君と同様に奴隷だったようだ。今回の依頼を完遂すれば、奴隷から解放されるとか書ていた。読み進めて行くと、彼が誰の奴隷だったのかなどが分かって来た。アストリア家の名が書かれているのを見て、心の中で「また、お前らか」と叫んでしまった。どうやら、トーチャ君はアストリア家で、人造人間として改造をされたらしい。殺害方法についての指示書を見つけ、内容を読んでいくとトーチャ君を使って騒ぎを起こす予定だったらしい。
(決行日当日の夜中、何かしらのアクシデントでトーチャ君は暴走を起こさなかったみたいだな。多分だが、欠片の力を利用しようとしたが、この空間に首があったことで暴走プロトコルが反転して正常化したのかもな。その為、暴走を引き起こせなかったわけか)
犯行時に室内に入った後に、欠片の力で作った収納エリアにゲートを繋ぎ、梯子を出して天井裏に侵入。梯子はそのままゲートに戻した後に閉じて、そのままアーガス氏が現れるまで待っていたようだ。殺害後はあの掛け軸の裏にゲートを開いて、すぐに中に入りゲートを閉じる。その後、警備が落ち着いたところで仲間にゲートを開いてもらい脱出する内容が書かれていた。
(その仲間が来なかったから、自ら命を絶ったわけか。裏切られたと思いながら、飲んだのかもしれんな)
手帳の最後のページに死期を悟ったのか伝言を書き残してあり、その間に『青年と少女の写真』が挟まっていた。どこかの家の中なのか分からないが、楽しそうに笑っている二人の写真だった。きっと彼にとって大切な宝物だったのだろう、写真の表麺には涙の痕があった。誰かに撮って貰ったらしく、とてもいい笑顔で写っていた。その写真を見た後、最後のページに毒を飲み自殺をほのめかす内容が書かれていた。
「なるほど、そう言う事か。殺害実行は此奴だが、それを指示したのは『アストリア家の次男坊』らしいぞ。フルネームは『ウィリアム・ミカエル・フォン・アストリア』らしい。またアストリア家か。確か、このウィリアムって昨日だったか処刑されたって新聞に載ってた気がするな」
『そう言えば、筋肉教団司祭が証拠の品々を裁判で出して、死刑が決まったとか竜仙から聞いたわね。なんでもその罪人の魂が、ちゃんと輪廻転生の環に行ったか確認して欲しいとか。ちゃんと通過してたから問題なかったけど、もしかしてそのまま保護して置いた方が良かったかしら』
「罪人の魂だし、保護するほど必要とは思えない。何もせずに、そのまま放置して構わんさ。さてと、この死体と手帳を持って帰るとするか――ん、死体の近くにまだ何かあるぞ。これは、麻袋みたいだ。大きさはポシェットサイズだな。手帳が入るくらいの大きさだ」
死体の近くにあった麻袋にが置いてあり、其方へと目線が行ってしまった。麻袋の中を探ると、今度は緑色の革製の手帳が入っていた。ページを開きその中を読んでいくと、何やら故郷の事を思い出すかのような内容が書かれている。自身の妹についての事も書かれており、いつか妹と一緒に故郷に帰りたいと、妹の安否を気遣うような内容が書かれていた。
「妹の事をずっと心配していたんだな。妹さんの名前が解かれば、お前をそこまで連れて行けるんだがな。ん、ゲーディオ家の事が書かれているな」
手帳の内容を読み進めて行くうちに、ゲーディオ家についての内容が書かれていた。何故、彼がそんな事を書いているのか気になり読み進んでいく。
『昔、アストリア家とゲーディオ家は同じ保守派の一家らしい。ゲーディオ家はとある理由から、国の政に関わることを止め、この地に街を創ったらしい。アストリア家はゲーディオ家に恩があったらしいが、同時に弱みを握られていたらしい。詳しくは聞けなかったが、今まで築き上げて来た地位を揺るがすほどのモノらしい。より詳しい事を聞いてしまえば、俺が消されるだろう。だが、妹まで始末去れる可能性もあるかもしれない。だから、詳しい事は調べないし、聞かない事にした』
賢明な判断とも言えるが、解放されると言う時点で消されるのは確定だろう。この状況は、間違いなくそれに該当するだろう。裏切られたと思いながらも、きっと心の中でこうなる事は予想できたはずだ。アストリア家についての情報は、ホムホムたちから情報を得ている。また、霊の計画も大分進んでいるらしい。そろそろ、本格的に準備を始めても良いだろう。そんな事を考えながらも、手帳に書かれている内容の続きを読む。
『今回の仕事は、アーガス・ソフォル・ゲーディオ氏の殺害と、弱みとなる証拠品を見つけ出すと言う任務だった。俺の仕事は殺害の方で、後から来る仲間が証拠品を見つけ出すらしい。証拠品となる物がどこにあるのか知らないが、後から来る奴らがちゃんと回収するだろう。もう、誰かを殺す仕事はコリゴリだ。いずれ、俺も天罰が下るのだろうが、どうか妹だけは俺の様に血で手を染めないでくれと願う。さて、俺は仕事をしなければならない。これが、最後の仕事だ。これが終わったら、妹と共に故郷へ帰ろう』
読み終えた後、彼の方を見る。首に付いている奴隷の首輪を見て、殺し屋のような仕事を無理やりさせられていたのかと想像した。逆らえなかったからこそ、妹だけは同じ道に進ませたくないと言う信念だけは読んでて伝わって来た。手帳を閉じると同時に紙の切れ端が落ちた。それを拾うと、まだ幼い文字で『おにいちゃん、おしごとがんばってね。 レレーナ』と言う文字が書かれていた。
「レレーナ? レレーナって、オルディアさんとこのメイドさんも、確かレレーナって名前だったな。確か本名は、えっと、そう『レレーナ・トイ・フォーライ』だ。しかし、彼のフルネームに関する情報は無かったな。彼の名前が解かれば、後はギルドに任せて身内に届けてもらえるのだが。一様、念の為にレレーナさんの元まで持って行くか。身内かどうかも分からないが、確認してもらう必要はあるからな。彼の妹さんだと良いのだが」
『そうね、取りあえず竜仙には伝えておくわ。それにしても何故、この空間では死体が腐敗しなかったのかしら。この空間は本来、外の空間と同じ時間経過をするわ。だから、死体が腐敗するはずなのに、貴方の話を聞く限り腐敗してるとは思えないわ。首の影響とは考えられないのだけれども、そこの空間だけが物体の時間のみが停止をしているって事かしら』
「どうだろうな。ただ、あの首に魂が無かったこと。そして、欠片がこうして散らばっていたことを考えると、やはり第三者による現場保存にも思える。だが、魂体の状態――いや、そうか。この死体を利用したのか。二十年前にトーチャ君は亡くなっており、人造人間として作られた。その段階では欠片があった事になる。つまり、この場所は、実験場だった可能性もありえるか。よく見れば、鉄くずの破片のようなモノも見当たる。此処の調査は他の奴らに任せるとして、死体の腐敗が無いのは――やはり、奴の力が影響してるのかもしれん。彼奴なら、精神操作や死霊術は得意中の得意だったな」
狂いの神との戦闘の事を思い出した。彼奴はいつも自身の分身体を作り出しては、数百、数千と言う大軍で総攻撃してくる。星の贄は、その世界にある星々の意志の集合体である『世界の意志』によって選ばれるただ一人の防波堤である。星の贄が殺されると、アカシックレコードへの干渉が可能となり、その世界の誕生の起源を破壊される。つまり、全てが無かったことにされてしまう。星の贄と言う役割はとても重く、万全な状態ではない贄へと大軍を仕掛けてくる。他には、弱そうな人間を洗脳して、その世界での分身体の強化に利用する等、様々な手を使っては『星の贄』を苦しめて来た。ちなみに、俺も星の贄の一人だった。まぁ、それを知ったのは、病で亡くなった後の事なのだが、どちらにしても殺すのに苦労したのは間違いない。
『そうね。でも、彼奴の分身体は全て借り終えてから首を切り落とした。だから、分身体は確実に存在しないし、魂を砕いて欠片に加工をする事は不可能よ。それに普通、人間が魂に触れた状態で破壊や加工をするなんて不可能よ。触れた瞬間に膨大な記憶が脳に流れ込み、精神が崩壊し廃人になるわ。取りあえず、隊長さんには判明したことをメールにして送ったわ。多分だけど、副隊長が此方の世界に来て対応してくれると思うわ。狂いの神にとって、彼は正真正銘『天敵』ですからね。それにしても、星の贄候補がこの世界に居なかったわね』
「確かに、そうだな。星の贄候補が居てもおかしくない環境なのに、何故か情報も出てこなければ、その気配を全く感じ取れなかった。よし、それについても調査依頼を頼むか。さて、この死体を運ばなければならないが、その前に欠片と首の情報について何か進展はあったか」
『えぇ、情報を掴んだわ。それも、こんな時にかって言いたくなった衝撃的な事実を、ね。欠片と首から判明したことだけど、狂いの神であるレーヴァはその世界の出身だったわ。そして、彼は双子の兄であることが判明したわ。この世界に降り立った時にダンジョンで発見した双子の少女の事を覚えているかしら。結果として狂い神として固定化したけど、間違いなくレーヴァによって無理やり契約させられた奴隷の双子だってことが判明したわ』
行き成り信じられない事を言われ、返答できずに固まってしまった。シャトゥルートゥ集落のアイテムダンジョンで出会った二人の少女のことが脳裏に過る中、何故こんな時にその情報を得る事が出来たのか。それについて、嬢ちゃんは答えた。
『狂いの神が別世界に旅立つ場合、代わりになる存在を用意しなければならないの。双子だとは言え、片方が残れば良いのではと思うわよね。でもね、それは不可能なのよ。双子とは言え一人が別世界に旅立つ場合、もう一人も一緒に旅立たなくてはならない。これは狂いの神としての制約なのよ。故に、彼女たちは代理として無理やり契約させられ、そしてこの世界を見守る存在へと進化させてしまったのよ』
「ちょ、ちょっと待て!! つまり、あれか。狂いの神は双子で、そのうちの一人を断罪したってことだよな。いや、そもそもレーヴァは、ロキ神が創った『レーヴァティン』を擬人化させたモノだよな。レーヴァティンの双子となる武器なんて知らないぞ? まさか、この世界にだけしか存在しないとか言わないよな」
『いいえ、ダーリンの言った通りレーヴァティンに兄弟となる存在はいないわ。兄弟として創り出されたのよ。そして、あの大戦を企画し、厄災の三者を道具として利用した実行犯。私たちが裁かなければならない存在こそが、レーヴァの弟として創られた、北欧神話に登場するトール神が愛用したとされる『ミョルニル』よ。それも、レーヴァとミョルニルも最初は狂いの神の状態ではなかったみたいよ。神々の黄昏ラグナロクが起こる際、もしも自分たちが消えた時に人間を導くべき存在が必要と考え、神々の手によって造られたのがその二人よ』
嬢ちゃんの言葉を聞きながら、兄弟として擬人化させた事を考える。どうして人間を導くのに神代の武器を擬人化させる必要があるのだろうか。そもそも、人類は神から巣立ち、そうして成長して行くのだ。人間より優れたものが、導くこと自体が間違いである。人間を導く者は、人間の中で優れた者でなくてはならない。そこらへんの事を理解していない所が、神と言う傲慢さが出ていると思っている。
『更にもう一つ。貴方が断罪したのは、私たちが時の牢獄に封印した者じゃないわ。だから、一切喋らなかったのよ。本当にやられたわ、私たちは断罪すべき者の片割れを倒した。そして、私たちが断罪すべき存在は逃走した。でも、封印したことで受けた影響によって、今も苦しんでると思うわ。だからこそ、今がチャンスなのかもしれない。彼奴は――、私たちが倒すべき存在は間違いなくそこに居る』
嬢ちゃんの報告を聴いて、あの時の事を思い出す。双子だからとは言え、必ずしも同じ動作をするとは限らない。確かに嬢ちゃんの言う通り、彼奴との戦闘には違和感があった。彼奴はペラペラ話しながら俺と殺し合うのを楽しんでいた。そんな奴が無言だったのは、確かに変だった気がする。双子だからとは言え、話し方までもが同じとは限らない。それ故に、無言だったのかと分かると、謎が繋がっていく。全てを理解し、それ以上の事を言わずに答える。
「つまり、冤罪でミョルニルではなく双子の兄であるレーヴァを断罪してしまったわけか」
『えぇ、そう言うことになるわ』
それ以上の事は何と述べれば良いのか考えながら、無言で死体袋を収納指輪から取り出して死体を移した。彼の遺品と思われる者を全て収納指輪に入れ、そのまま死体を運びながら最後に質問をする。
「分かった。ならば、俺が彼奴を今度こそ断罪するだけだ。欠片も全て集まったとは言え、加工されている箇所はどうなった。嬢ちゃんの事だから、加工された個所を修正して石碑にしたんだろ。ならば、欠片は完全に魂体と戻ったと言う認識で良いか」
『えぇ、ちゃんと加工された個所は消し去り、一つに戻し終えているわ。魂体となっているレーヴァに、全ての証拠を叩きつけて全てを語ってもらったわ。こっちも、流石に堪忍袋の緒が切れているのよ、流石に許してくれるわよねダーリン』
「分かっているよ。そうだな、嬢ちゃんの言う通りだ。そろそろ、こっちも本気で彼奴を潰す必要がある。では、情報が解かり次第だが、情報共有をするとしよ。またな」
『えぇ、またね』
通信端末の通話を切り、そのまま胸ポケットの中へとしまった。死体袋に対して浮遊魔法をかけ、安全に出口へと運んでいく。その間、俺はいろんなことが脳裏に過った。今までの欠片を集めていたのは、レーヴァを復活させる際に、魂を回収するためなのだったのではないか。もしかしたら、その魂を何かに使用するつもりだったのか。
「なるほどな、冤罪で断罪したってことか。良い度胸しているじゃねぇか、狂いの神。良いだろう、殺してやるよ。待っていろ、ミョルニル――お前を断罪してやろう」
目の前にゲートが見え、俺はそのまま死体を持ってゲートを出た。その後、竜仙たちの協力の元、身元を探すことになった。ミーアが帰還するまでに、最後の仕事である放火事件とトーチャ君の暴走を起こした原因を調査する必要がある。今回、アーガス氏の暗殺方法、そして暗殺者の死、殺害を指示した相手の情報を得た。最後に残された、アーガス氏が手に入れたアストリア家が隠したかった証拠と、放火事件の真相を知る為にシーボルト邸へと向かった。




