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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
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15話 最後の欠片と予期せぬモノ

どうも、皆さま。

7月に投稿できなかった、嘆きの私です。

7月は、査定の季節でもあり、給料やランクアップの話し合いなど、度重なるストレスに、心がボロボロでした。

いや、言い訳ですね。もっと頑張れば良かったのだと思います( ;A;)

取りあえず、引き続き8月分も投稿できるように頑張ります。

では、次話で会いましょう ノシ

 竜仙たちと合流後、そのままゲーディオ邸に入る前に、下足痕が残らない様に靴カバーを付けてから入る。邸宅の中は埃は無く、家具は散乱していない。奥の方には階段があるのが見えたが、立ち入り禁止のテープが張られているため先には進めない。流石は異世界に転生または転移した警察官と言うべきか、現場保存の鉄則をこの世界に適応している事に感謝した。現場保存をしているおかげで、俺の方でも調査が出来る訳だ。しかし、ゲーディオ氏殺害事件の犯人はまだ見つかっていない状態で、元の世界に戻る事になったのは悔やまれるだろう。その引継を俺たちが行なうわけだが、しっかりと俺たちで解決する事にしよう。


「屋敷に入って早々埃は無いのは、屋敷の仕様人たちが掃除しに来ているからだったな。しかしながら、確かに立派な屋敷だな。通路にかけられた絵画、そして展示されている骨董品の数々。あれなんてこの世界では一つしかない女神アリアの絵じゃないか!! アーガス氏は、趣味が良いな。さて、個人的な感想はこの辺にして屋敷に入って早々だが、二階の方から微かにだが欠片の気配を感じるな」


「確かに、旦那の言う通り欠片の気配があるな。儂らが調査した時は感じ取れなかったが、何故、今になって欠片の気配がする? トーチャの暴走が原因だとは思うが――まぁ、旦那もそこまで分かっているんだろ」


 確かに竜仙の疑問は正しい。地中だろうと、見つけることは可能だ。だが、その竜仙が発見できなかったと言う事は、やはり何かしらの隠蔽がされているとしか考えられない。魔法による結界なら竜仙でも気が付ける。だがしかし、それ以外の方法で封じる方法がある。トーチャの件と同様に、狂いの力を利用された事で隠ぺいされた可能性もあり得る。


「あくまで可能性だが、トーチャ君の暴走によって、眠っていた欠片が目覚めた可能性もある。そもそも、狂いの欠片を動力源にして『人造人間』を作り上げている。この技術がこの世界にあること自体ありえないことだ。必要な素材である『心臓・脊髄・魂』で造られた事を考えれば、狂いの欠片の発する力を操作できている。狂いの力の特異性は、俺の力に等しく理解している。あくまで想定の範囲だが、暴走と俺の力がキーとなって細工が外れたんだろう」


「魔術で細工がされていれば、すぐに見つけられるはず。その過程を踏まえれば、確かに旦那の言う通りかもしれんな。狂いの欠片のオンオフ機能を付けているのなら、流石の儂でも発見できなかったのも頷ける。だが、どうやって力を操作できたのか。そこが問題だ」


「確かに、欠片の力を操作するなんて普通の人間には不可能だ。それは、魔物も同様だ。知恵を持つ者でも、その力に触れれば精神が狂い、魂が汚れてしまう。最終的には砕けて廃人になる為、力を操作すること自体が危険だ。それを操作し、オンオフ機能を付けた。狂い神なら分かるが、誰かに伝えるなんて想像できない。つまり、どこかに彼奴が作った装置があるはずだ。そこら辺も含めて、調べるべきだな」


 今後の方針を話しながら目的である欠片を回収する為に、先ほどから感じる欠片の気配の場所へと向かった。テープで封じられている階段を昇り、微かに感じ取れるレベルに弱まっている欠片の元へと向かう。このままだと気配が途絶える恐れがあるので、なるべく早く見つけ出さなければならない。真っ直ぐ力を感じ取る方向へと向かうのだが、どうもその方向に近づくにつれて、竜仙の表情が険しくなっている事に気が付いた。


「確かに、儂も彼奴と戦った時からアレには困らさせたからな。姑息な手を使っている可能性はあり得るだろうな。しかし、自身の欠片を制御するなど、常人とは思えん。その装置がどんな形状かも不明であり、誰が所持しているかも不明。そんなあるかどうか不明な物を探さなければならないと考えると、色々と面倒事が増えそうだな。さて、この先は――」


 竜仙が何を言いたいのかすぐに分かった。この先にある部屋は、正しくゲーディオの当主が殺された事件現場だ。すぐに収納指輪から当時の資料を取り出し、事件の内容を再度確認する。資料に書かれている『アーガス・ソフォル・ゲーディオ』の名前と仕事内容、当時の行動についてを読んでいく。


「殺害現場だろ。当時、被害者はこの通りをディアラさんと一緒に歩いていた。ディアラさんと当時この屋敷で働いていた使用人からの証言内容も一致している。事件が起こる一ヶ月前に、商人との交易で『ある物』を購入したと」


「その通り、この先が殺害現場だ。そして、旦那の言う『ある物』ってのが此奴だ。昇り龍の絵だが、立派な掛け軸だろ。どうやら、この世界に転生した絵描きの男が描いた物らしい。この掛け軸には、魔除けの印が描かれている。悪霊なんかのアンデット系の魔物が今でも出現しないのは、此奴のおかげってわけだ」


 そう言うと、竜仙は立ち止まり正面にある掛け軸を指差した。そこには一匹の白い龍の絵が描かれている。この世界に転生した絵描きとなると、確か安土桃山時代か江戸時代の無名の絵描きくらいしか思い出せない。彼はちゃんと元の世界で生まれ変わり、人気絵師さんになったのだろう。掛け軸を観ながら、何故この掛け軸を購入したのか。それについての情報もこの屋敷の中にあるのかもしれない。


「まったく朽ちる事のない掛け軸ってのも怖いもんだが、何かしらの仕掛けが施されているのか調べてみた。結果だが何も起こらず、隠し扉らしきものもなかった。掛け軸を取り外したが、何も起こらず、ただの壁しかなかったわけだが――旦那、何か感じるか」


「いや、狂いの欠片の気配はないな。だが、何かを封じ込めているのではないだろうか。そもそも、この場所だけに魔除けがされている事が不思議だ。他の部屋なんかにも魔除けが施されていない事は報告書を読んで知っている。竜仙の眼が見逃すはずはないだろう」


「確かに儂の眼は魂の色の他に、魔力や霊力等の力を帯びた物を観る事が出来る。まぁ、切り替えているだけだが、それに慢心して見逃す事はない。それ故に、部屋の中は全て確認したが、その様な物は無かった。他の部屋も調べて来たのだが、彫刻品や宝石類、絵画などがあるくらいだな。欠片の回収が終わり次第、他の部屋も見学するか」


 竜仙は屋敷の見取り図を取り出すと、その場で広げて現在地を指差した。現在の場所は、アーガス氏の部屋近くであった。右に曲がれば仕事部屋で、左に曲がれば今回の事件現場であるアーガス氏の寝室に繋がっている。欠片の気配は間違いなく左の寝室がある方から感じ取れた。


「左の方から、欠片の気配がする。事件現場に欠片があったと言う事になるが、何故、今になって欠片の気配がするようになったのか。そして、トーチャ君の暴走の件と暴走を引き起こした存在。その手掛かりがこの場所にあれば良いのだが」


「旦那、ここから先は現場保存の関係上、魔法の使用は禁止されている。現場には微量だが魔素の渦があり、下手に魔法を使用すると魔素の渦によって予期せぬ事態が発生する恐れがある。更に、欠片の気配があるとすれば、尚更、使用は控えた方が良いだろう」


 魔素の渦が室内に発生している事に、何があったのか気になった。そもそも、魔素の渦は自然界で発生するものであり、室内などで発生すること事態あり得ない事である。それが室内で起きている事に疑問に思ったが、以前報告書を読んだ中で読んだような気がした。何だったか思い出せず、竜仙に質問をしながら思い出すことにした。


「魔素の渦が発生しているだと? 何故、魔素の渦が室内に存在するんだ。アレは自然界で発生するものだろう。それこそ、魔力暴走を起こさない限り、室内で発生する事なんてありえない――ぁ、そうか!! ディアラさんの魔力暴走で引き起こしたんだったな。確か、報告書内に書かれていたわ。確か、被害者が亡くなった際に、殺される光景を目撃したディアラさんが恐怖で、魔力暴走を引き起こしたんだったな。なるほど、その影響が今現在も室内に残っているわけか」


「そう言うわけだ。報告書に書いてあったんだが、どうやら忘れていたようだな。まぁ、まさか屋敷に突入する羽目になるとは、誰も予想出来なかったからな。さて、済まないがトーチャ、君には手錠を付けさせてもらう。この手錠は魔法が発動しない様にする物だ。また暴走が起こることも考えての事だ、許してくれ」


 竜仙はそう言うと右袖から手錠を取り出し、トーチャ君の両手首に手錠をかけた。トーチャ君自身もそれを受入れており、九条が傍に居る為いつ暴走してもすぐに対処できる状態になっている。室内に入るとそこには、当時のままの光景が広がっている。壁や床、天上に付いた赤黒く付いている血痕。よく見れば壁に掛けられた絵画や壺などにも付いている。そして、部屋の中央には死体があった場所を示す白線を見て、この場所でアーガス氏は亡くなったのだとすぐに分かる。竜仙は死体があった場所で資料を取り出すと、説明を始めた。


「旦那、ここが事件現場だ。当時の捜査では、侵入経路はこの部屋の窓から侵入したと推測している。屋敷中の窓を指紋があるか確認したが、この部屋のベット付近にある窓以外に見つからなかったことから、此処から内部に入ったと断定。逃走経路は、先ほど通った掛け軸のある廊下の方の窓から脱出したと思われる足跡痕はあった」


 そう言うと、ベット付近にあるバルコニーに通じる観音開きタイプの窓へと向かい、何も言わずに開ける。外の空気が室内に入るのだが、竜仙は気にせず説明を続ける。


「当時、このバルコニーに通じる窓は閉まっていた。だが、鍵の立て付けが悪かったのか、この様に簡単に開く状態になっていた。捜査段階で地上からではなく屋根を伝っての侵入であることが判明。屋敷の周りにある樹々に、鋭利な刃物で斬られた傷跡と、打ち付けられた直径二十センチメートル程の針穴のようなものがあり、ワイヤーか何かでスロープ状にして屋敷の屋根まで侵入したのではないかと思われる。実際に屋根の方を確認したが、樹々と同じような針穴が見つかった」


「なるほど、侵入経路は判明していると。そうなると、どうやって屋敷の天井に隠れたかだな。床から天井までの高さは約五メートルあり、風の魔法の中にある『飛行魔法』を用いたと考えられる。だが、この屋敷には魔法探知系のマジックアイテムや警報があるんだろ。そう考えると、魔法は有り得ないか。さらに、脱出経路も不明だ。資料によれば、当時の警備はかなり厳重だったらしい。屋敷の窓は全て鍵をかけており、窓ガラスが割られた形跡もなく、指紋も無かった事から内部に共犯者が居たのではないかと、当時の警備隊は判断したらしい」


 互いに情報を共有しながら、事件当時の情報を確認していく。これは、互いの情報を共有しながら情報の穴を見つけ出し、正しい答えへと導く様なものだ。昔からこのような方法で、真相に辿り着き裁判を行なってきた。断罪する者として仕事を行なっている中、どうしても誤情報を掴まされ、本来裁くべき相手ではない者を裁き断罪する恐れがあった。なので、竜仙や部下たちとの情報を基に正しい答えへと導くために、今までずっとこの様な方法をとっている。


「なるほど、内部犯か。確かに、潜伏方法と逃走経路が現状不明。判明しているのは、潜入方法と犯行方法のみ。犯人の素顔については、覆面やアイテムを用いて輪郭を変えている可能性もある。殺害方法については、天上からアーガス氏の目の前に降り、そのまま首を斬り裂いた。天上内部に赤外線系統の防犯設備があれば良かったんだがな。過ぎた事を気にしても仕方がないか。さて、当初の目的を果たそう。旦那、欠片の気配はどこにある」


「欠片の気配は、この白線の近くだな。だが、そもそもこの近くと言っても何もないのだが。いや、これは? 空中に浮いている様だが、確かにこの場所にあるんだが目視出来ないようだ。まるで、虚空に一時的だが異次元を作成して、その中に入れたような感じだな――いや、これは異次元に封印されているぞ!? なるほど、だから気配が弱く感じたのか」


 異次元に隠されていたことに、流石の俺も『それは無いだろう』と心の中で思ってしまった。まさか、竜仙の弱点をついて来るとは予想外だった。魔素や霊力などの力、魂の色やオーラを見る事が出来る竜仙でも、異次元内に隠されているのは対象外である。そもそも、異次元に隠された物などを見つけるのはシータが得意である。まさか、こんな方法を取るとは予想外過ぎて溜め息が出てしまった。


「別次元だと? まさか、そんな方法で封じていたとは敵ながら天晴れだな。流石の儂でも魔素は感知できても、次元内に隠したものは感知できんからな。しかし、何故そのようなことをしたのかが気になるな。旦那、次元内に隠された物は儂では回収できない。済まないが、回収を頼む」


「あぁ、分かった。取りあえず、トーチャ君は離れていて欲しい。異次元に封印されていたとなると、欠片の力は予想以上に強い可能性がある。欠片による強大なエネルギーで、また暴走を引き起こすからな。竜仙、確か共有倉庫内に『魔素吸引水晶』があったはずだ。其方にアクセスして、水晶を回収後に部屋の中央に設置し、空気中に漂っている魔素の渦を吸収させろ。その後、トーチャ君を護る様に結界を張れ。九条は竜仙のサポートと、確か狂いの力を防ぐ杭の呼びがあったはずだ。それを渡し、トーチャ君の暴走が起きないようにしろ」


「「了解」」


 すぐに竜仙たちはトーチャを部屋の隅へと連れて行くと、竜仙は右袖から紫色の球体の水晶を取り出し部屋の中央に置いた。すると空気中に漂っている魔素の渦は水晶の中に入り、綺麗な紫色の発光が始まった。別世界の監視業務で知り合った魔素研究者が作成方法を教えてもらい、そこで作成された水晶である。吸収スピードが速いらしく、綺麗な紫色の光が数十秒後に消えたのを確認し、竜仙は無月隊長直伝の二重結界を張る。


「九条、済まないが魔素の方はお前に任せた。儂はなるべく欠片の力を抑える結界を張る」


「了解。トーチャ君、済まないがこの杭を握っておいてくれ」


 魔素の遮断は行わず、狂いの力のみを遮断する機能がある杭を九条は取り出し、トーチャに握る様に指示した。あの杭は嬢ちゃんが作った物で、俺が旅人になる前の普通の人間だった頃に嬢ちゃんと契約を結んだ際に使用した杭である。狂い関連の仕事が多い為に、俺が嬢ちゃんに頼んで人数分用意したものだ。

 竜仙たちが対応を終えたことを確認後、欠片のある方へと右人差し指を指し、ゆっくりと数字の一を描く。すると、ファスナーを降ろした様に虚空が裂け、その所から暗黒の空間が広がって見えた。何故、欠片を異次元にしまったのか理由が気にはなるが、取りあえず異次元空間の中へと右手を突っ込む。


「んじゃ、取り出すぞ――ん? なんだ、この感触? これは髪の毛のような、毛皮のような感触だが、まずは欠片を取ってからだな。えっと、こっちから気配がしたのだが、あ、あったあった」


 気配のする方へと手を伸ばし、先に欠片を手に握って取り出した。手のひらサイズの欠片だったので簡単に取り出せたが、先ほど触れたのフサフサとした感触が気になる。すぐに収納指輪から箱と札を取り出した。銀色の龍が描かれた長方形の木箱と、赤い筆で『転送結界』と書かれた札を左手で持ち、木箱と札に浮遊魔法をかけ手を離した。木箱と札はその場を浮遊し、木箱の蓋を開けた。中にはクッション材が入っており、蓋の裏には『時凍結』と言う札が張られている。クッション材の上に欠片を入れ、浮遊している札を手に取り欠片の上に乗せてから蓋を締めた。


「よし、結界を解除して良いぞ。札の効果で欠片の力が漏れる事はないだろう。取りあえず、嬢ちゃんに此奴を送る事を伝えてくれ。まだ異次元空間に何かあるようだから、それを取り出す」


「旦那、了解した。九条、杭の回収とトーチャの体調の確認を頼む」


 竜仙は結界を解くと、すぐに俺の元へと来て木箱を受け取った。そして、右袖から通信端末を手に取ると、嬢ちゃんへ連絡を始めた。転送するにも相手方がちゃんと受け取れる体制かどうか確認しないといけない為、いつものように嬢ちゃんに連絡を入れさせている。俺がすれば早いのだが、先ほどの感触に懐かしさを感じもう一度、異次元空間へと両手を入れてソレを取り出した。それを見た全員が一斉に手を止め唖然としてしまった。竜仙の持つ通信端末から嬢ちゃんの声が漏れて聞こえるが、それどころではなかった。懐かしい感覚になるのも当然だった。断罪者として、多くの罪人の首を切り落とした俺が、その感触にすぐに気が付くべきだった。


「「「「な!? 生首」」」」


 そう、見覚えのある顔の生首を俺は持っていた。赤黒い髪に、幼さの残る童顔の青年の首。眼を閉じているが、それに俺には見覚えがあった。あの戦場で唯一、その首を切り落とした存在を思い出す。竜仙はそれを見て、嬢ちゃんに「すいません、其方へ欠片を送る前に旦那に電話を代わります」と告げ、すぐに俺に通信端末を渡した。両手に持った首を近くになるテーブルの上に置き、通信端末を受け取り嬢ちゃんに状況を説明する。


「嬢ちゃん、済まないが緊急事態だ。これから送る欠片の近くに『断罪で切り落とした狂いの神の生首』が見つかった」


『ダーリン。それは本当かしら。今、映像の方に変えるから見せて貰えないかしら』


「あぁ、今から映像を見せる。竜仙、済まないが欠片をすぐに送った後、周囲に結界を張ってくれ」


 俺の指示を聞いた竜泉はすぐに行動に移し、生首の映像を見せる為に映像モードに切り替えた。生首を確認した嬢ちゃんは、すぐに指を鳴らし俺の作業部屋へと転移をした。そこに写っていたのは、俺の仕事部屋だった。作業机にはノートパソコンが一台と、お気に入りの茶色いマグカップがあった。作業場に居る嬢ちゃんに対し、俺は通信端末で見える様にカメラで映した。それを見た嬢ちゃんは、すぐにノートパソコンを開き、マウスなどを動かしながらキーボードを打ち始めた。


『確かに、あの時の狂いの神の首ね。今、現状の報告を無月隊長と副隊長、それに死神の執事にメールで送るわ。今、あっちも立て込んでるからメールを送った後、すぐに執事の方に電話で状況の説明をするから安心して。ちなみに、その首は欠片と一緒に封印されていた認識で良いのよね』


「あぁ、その通りだ。認識の確認だが、俺たちの当初の仕事は『この世界の救済と魂管理』だったよな。その後、この世界に狂いの欠片を発見し、調査する流れになった。この世界に狂いの神が落ち、そして石板は欠片となってこの世界のどこかへと散ったと推測。狂いの神の調査を始め、現状八つの欠片を収集し終えた。此処までは合っているな」


『えぇ、その認識で合っているわ。私たちは、その世界の崩壊を食い止めるために、魂の管理と異世界からの転生と召喚を防止と帰還を行なった。そして、あの大戦で首を落とした狂いの神がこの世界で暗躍していると思っていた。でも、あの時切り落としたはずの首が此処にある』


 何が起こっているのか、俺と嬢ちゃんは話しながら今の現状の答えを導き出す。竜仙は送付用の首桶を取り出し、その中に魔素を吸収し終えた水晶を入れた。その中に、俺から首を回収した竜仙は、丁重に桶の中に入れた。仕事で罪人の首を大鎌で断罪し続けているからか、竜仙の事後処理の対応が手慣れている。


「あぁ、その通りだ。暗躍しているはずの狂いの神の首が、今ここにある。手に握ったから分かるが、此奴の魂はこの首の中にはない。つまり、今まで集めていた欠片は、此奴の魂と推測される。だが、あの時の一撃でこの首の時間は停止し、完全に封印状態となっている。その証拠に、この首に劣化した形跡がない」


『つまり貴方の断罪を受けて、首が劣化せず魂ごと封印状態になているはず。でも、魂は石板となり、この世界に落下するうちに欠片となって散った。そうね、竜仙は首を入れた桶を直通で無月隊長に送りなさい。送付についてはメールで報告しておいたから、貴方はそのまま送って構わないわ』


 竜仙に指示を出素と同時にメールを送り終えたのか、ノートパソコンを閉じて此方をジッと見つめた。やるべき事も終わったらしく、俺のお気に入りのマグカップにコーヒーを淹れて飲んでいた。いつもの事なので諦めながらも、狂いの神の首の件が気になって仕方がなかった。完全に首を切り落とし、魂を首に封印した状態でこの世界に落下したのなら、魂が残っているはずだ。それが残っていないどころか、欠片となって大陸に散らばった。その意味が解からなかった。


「了解しました、始祖様。旦那、狂いの神の首については、後で考えるましょう。今は、アーガス氏を殺害した犯人の潜伏方法と逃走方法を調べる必要がある。首の調査は無月隊長たちに任せましょう」


「確かにその通りだな。専門装置などが有る施設なら、詳しい調査をしてくれるだろう。嬢ちゃん、新たな情報が手に入ったら連絡をする。済まないが、今送った欠片と首の情報が手に入ったら教えてくれ」


『えぇ、それについては判明次第、貴方たちへ早急に報告するわ。それと、潜伏方法だけど欠片の力を流用したのではないかしら。欠片は欠片を引き寄せ、石碑は本体へと引き寄せられる。欠片の力を上手く利用すれば、転移のゲートも作成可能のはずよ。貴方たちからの情報から推測するに、そこのトーチャ君だったかしら? その子を創り出せる技術があると言う事は、欠片を用いた運用が出来ても納得できるでしょ』


 嬢ちゃんは真剣な表情で言うと、欠片について説明を始めた。


『元々、狂いの神の力を用いた転移方法には幾つか原理があるの。力の方向性を定めれば、飛行も四次元空間の作成も可能なのよ。貴方たちの言う異次元空間は、狂いの力の方向性を定めた四次元空間みたいな物よ。だから、力の方向性が解かればこんな事も出来る』


 通信画面越しで両手に黒い炎を纏わせながら、虚空をこじ開ける様に動作して異次元空間を作製して見せた。いとも簡単に作製して見せると、すぐにその空間に手を突っ込んだ。そこから何かを掴んだのか、そのまま空間から手を抜くと木箱を取り出した。それは、俺が竜仙に送るように伝えた欠片が入った木箱であった。そして、異次元空間を閉じると黒い炎を消し、木箱を作業机の上に置いた。木箱の蓋を開けて、欠片を手に持つとジッと欠片を見つめている。内容を確認している訳ではなさそうだが、しばらくして話し始めた。


『ただ、一度開けたゲートを内部で閉じてしまうと、しばらく経たないとゲートを作成できない。外部と内部での作製では、必要なエネルギー量が違うのよ。外部で作成する場合は三割で済むけど、内部だと七割もエネルギーが必要なの。ちなみに、この欠片の持つエネルギー量では、外部から作製した出入り口しか作れないわね。一度開いたゲートを閉じちゃったら最後、エネルギー量が圧倒的に足りないからゲートを作る事が出来ない。きっと、そこの異次元空間を彷徨っているか、死んでいるかの二択でしょうね。さて、欠片はちゃんと回収したわ。これから欠片の最終調査を行なうから、通信はこの辺で終わりにしましょう』


「あぁ、貴重な情報をありがとう。嬢ちゃんもあまり無理せず、少しは休むんだぞ。まぁ、欠片の調査については、引き続き頼むよ」


『分かってる。貴方たちには無理をさせるけど、此処からが正念場よ。頑張ってね』


 そう告げると、嬢ちゃんは通信端末の電源を切った。竜仙の通信端末の画面をホーム画面に戻してから返し、先ほどの嬢ちゃんの言っていた内容を考える。


(確かに、現在のトーチャ君の事を考えれば、その方法が出来るのも当たり前か。そうなると、欠片についての情報に精通している者が犯人になる。いや、待て。どうやって首を異次元に封じた入れたんだ? そもそも、魂の件もそうだ。つまり、第三者の介入がない限り――このやり口、どこか、彼奴を思い出す手口じゃないか)


 遥か昔に殺した一人の博士の顔が脳裏に過る。ニヒルの笑みを浮かべながら、実の娘を実験の材料にした。だが、彼奴は確かにこの手で殺したが、この世界に転生もしくは転移している情報は無かった。あり得ない事だと一度考えるのを止め、嬢ちゃんが言っていた事を確認することにした。


「竜仙、済まないが少し異次元空間に入って来る。お前たちは周囲の警戒と、トーチャ君の護衛だ。では、行って来る」


 そう告げてから、首を取り出したゲートを人が通れるくらいの大きさまで開き、その中へと入っていた。中に入ると、宇宙空間のような綺麗な光景が目の前に広がっている。俺はその中を歩きながら、アーガス氏を殺した犯人の元へと向かうのだった。

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