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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
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12話 作為された欠片

どうも、誕生日を迎えて年を取ったことに、なんだかモヤっとした私です。

昔のIQサプリを思い出し、モヤっとボールを投げたくなった。

さて、気持ちを切り替えまして、何とか4月分の投稿が間に合いました。

最近忙しくて、間に合わないと思ってましたが、何とかなりました。

よし、来月分も頑張るぞぉ!! 継続は力なり!


では、次話で会いましょう ノシ

 夢を見ていた。小麦畑で一緒に小麦を狩る父と母の姿を見ながら、妹たちと共に家畜の世話をしていた。近所に住むパン屋のおばさんや、鍛冶屋のおじさん。妹たちが通う学校の先生や、教会の牧師さん。そんな、そんな当たり前でのどかな日常が、僕は好きだった。ずっとこの夢の中で生きられたらと、何度も、何度も思っていた。

 でも、そんな優しさに包まれた夢の世界は、いつだって砲撃の爆発音で消し去られる。僕の集落の近くで大きな戦争があり、そのせいで家族を、集落の皆が死んで逝った。父も母も、妹も、弟も、僕の目の前で燃え盛る家の中で炎に焼かれ、あっけなく死んでしまった。戦争はそこにある命を全て奪っていく。何日も、何ヶ月も、何年も続く戦争で、僕は多くの宝物を失った。ただ一つ幸運なのは、僕以外の家族が奴隷になることなく、魔法爆撃によって死体すら残らず焼死したことなのかもしれない。奴隷になった者たちが、どんな目に合うか。僕だけじゃない、この世界に住む者たちなら誰でも知っている。そう考えると、かえって死んだほうが楽だったのかもしれない。

 その後、僕は集落から遠くへと逃げている所で、女性の奴隷商人に捕まってしまった。食べ物や飲み物は元々持っておらず、憔悴しきっていた僕を見つけた。奴隷としての教育を受けながらも、僕は何とか生き続けた。父が「生きていれば良い事がある」と言う言葉を信じ、どんなに醜かろうと生き残るために必死だった。男性の奴隷は、戦争奴隷として高く売れるからか剣術や体術と言った戦闘基礎を学ばされる。僕にとっては地獄だったが、それでも必死に喰らいつき、生きるために頑張った。女性の奴隷商人は優しくて、いつも奴隷の僕たちの健康面を気遣ってくれた。彼女にとっては保護でもあり、生きるために必要な事だったのだろう。僕たち奴隷は、彼女の事を母親のように慕っていた。

 それから何年が経ったのか、奴隷となってこのゲーディオの街にやって来た。奴隷たちの殺し合いを見させられ、いずれ僕もあの中で戦う事になるのだろうと思ってた。だが、それもこの街の領主たちの手によって終わらせた。当然だが、女性の奴隷商人も捕まると思ったが、彼女はこの街の当主と結託しており、今回のこの闇市の常連を炙り出す手伝いをしていたらしく無罪となったらしい。だが、その場には僕はいない。何故ならば、僕はあの会場に居た『一人の魔術師』に捕まっていたからだ。魔術師に買われた訳ではなく、僕はそのまま催眠術か何かで眠らされたらしい。

 そして、その後。僕はあの化物と遭遇し、死んだ――はずだった。


  - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ - ☆ -


 旧ゲーディオ邸宅の前で、トーチャが目を覚ますのを待っていた。暴走していたとはいえ、かなり身体に負荷がかかっていたらしく、俺たちが攻撃した場所以外にも内出血からか目に見える所の皮膚が紫色になっている。俺たちとの戦闘も含めて身体へのダメージも相当大きく、目覚めるまでかなり時間がかかるようだ。白兎が彼の中に入れた宝玉が心臓を動かすためのエンジンとなり、彼の中に微かに残っている『狂いの力』を浄化して魔力に変換している。当分は死ぬことは無いだろうと思うが、常人とは違い長い年月を生きることになるだろう。正直に言えば、この世界に残しておく方が問題になり得る。


「ぁ、植物の拘束を解除し忘れてたな。いや、このままで良いか。今は身体を動かさせない方が良いからな。しばらくはこのまま様子見とするか」


 拘束されている彼を観ながら、狂いの欠片を調査する白兎を視界に納める。彼奴が手に持っているA4サイズくらいある装置に欠片をはめ込むと、何やら立体映像のようなものが出現する。そこには多くの情報が映し出されている。それを見ながら、何やら情報整理を行なっている。


(彼奴、あんな事も出来るのか。いや、精神体とは言え、俺と繋がっているわけだし出来て当然か。それよりも、彼奴が言っていた宝玉の件について、製作費の金額を聞いて置かないと。経費で落ちると良いんだが)


 そんな懐事情の事も考えながら、スキルイーターを収納指輪に入れた。流石に敵の気配も感じないので気配を探るのは止めて、部下たちが作製した報告書類を取り出した。まだ、竜仙たち六神将が調査した内容までしか確認できていなかった為、こうして時間が空いたので再度読み直すことにした。その場で指を鳴らし、木製の椅子を呼び出して座る。そのままくつろぎながら、何枚か資料を読んでいく。内容の殆んどが、トーチャに関する情報である。


(報告書にしては、皆しっかりとまとめられているんだよな。調査、連絡、報告書作成の三つに部隊を分けて対応したんだろう。相変わらず、そこの段取りはしっかりしているな。内容もしっかり纏まっているが、やはりと言うべきか誤字が幾つかあるな。まぁ、早急だったこともあったから、見逃してやるか)


 読み進めて行くと、とあるところに目がいった。どうやら、複数の関係者などから情報を得て来たようで、この街での私生活などが書かれていた。家族はおらず一人暮らしであることや、昔は奴隷だった事などが書かれている。どうやら、奴隷商から聞いたようで、当時の様子も事細かく書かれていた。

 九条の調査報告書については、奴隷商からの情報ではない事はすぐに分かった。トーチャの生まれた村の事や家族構成などの詳しい情報が記載されており、現在の村の状況などが事細かく年代にわけられて書かれているからだ。どうやってこれ程の情報を集められたのかが気になるところだが、どうせ俺の所有している『浄玻璃の鏡』でも使ったんだろうと判断した。そうでない限り、此処まで詳しい情報を入手する事は出来ない。いつも思うのだが、我が部下ながら手抜きをするならもう少しバレない手法でやれと言いたい。


「しかしながら、トーチャの人生を変えた戦争か。気にはなるのだが、旅人が介入するレベルではない。旅人の規程に『他世界への過度な介入を禁止する』と言う物がある。過去に戻って、歴史を換算する輩もいる。そう言った奴なら介入は可能だが、本来の歴史としての流れである戦争を止める事は『他世界への歴史改ざん禁止』の法律に該当してしまうから、行なう事が出来ないんだよな。だが、この戦争が狂いの力によって引き起こされたのならば、介入する事が可能なんだがな。欠片の持つ危険性を考えれば、戦争が起きても不思議ではないか」


 トーチャについて書かれた内容を確認していく。彼の人生を狂わせた戦争や、彼の人生を終わらせた魔術師の情報などが書かれている。見た目なども書かれているが、その経歴までしっかりと書かれている。その結果、浄玻璃の鏡を用いて調査したのだと確証を得る事が出来た訳だ。九条については、今月の給与査定を楽しみにしてもらう事にする。浄玻璃の鏡を使用した場合の利用額を差し引く為、後で使用時間を確認することにしよう。一時間で五万円弱はかかるので、そんなに時間をかけていないだろと信じることにする。


「この写真に映っている魔術師は、確か去年シャトゥルートゥ集落の魔力回収装置の強化実験の素体に使った罪人だったような気が。確か、俺が作った忍びゴーレム部隊によって捕獲して、ホムホムが罪状を読んで、そのまま魔力回収装置に投げ入れたんだっけか。初めての裁判だったこともあって、大事なところを噛んでたっけか。あの時の頬を赤くしながらも必死に読む姿は、中々に可愛かったな。でも、まぁ、あの魔術師のおかげで集落内での魔力供給が確認ができて助かったんだったな。いやぁ、彼奴の遺体は灰になるまで徹底的に燃やしちまったが、まさかトーチャ関連の犯人だったのか」


 シャトゥルートゥ集落に潜入し、何やら黒魔術的な何かを行なう為か、住民を拉致しようとしたところを、俺が作り上げたゴーレム部隊によって阻止された。あの時は、まだ試運転だったにもかかわらず、予想以上の働きをしてくれた事に驚いたのは言うまでもない。今思えば、あの魔術師の顔色悪かった事を思い出す。まるで、何かに精神を操られているような感じがしたのだが、取りあえず何事もなかったかのように魔力回収装置の実験台になった。

 そんな事を思い出しながら、魔術師の内容が書かれている項目に目を通す。やはりと言うべきか、これも浄玻璃の鏡を使用したらしく、事細かな内容が書かれている。この資料の製作者については、九条ではない事は確認済みである。此奴に関しても給料の査定を楽しみにしてもらう事にする。この資料を書いた奴が誰かと言うと、六神将の一人『七星の魔女 ベラーダ』である。後で、ちゃんと説教をするとしよう。幾つか項目を確認していく中、白兎は解析が終わったらしく俺の元へやって来た。


『報告書確認大変そうだなぁ、兄弟。問題児がまた何かしでかしたみたいだなぁ。まぁ、いつ見ても飽きないが。クッケッケッケ、相変わらず変わらない奴らだなぁ。さて、兄弟。今、大丈夫か。ちょっとばかり――いや、かなり面倒な事が判明しちまってなぁ。済まないが、ここからは真面目な話になる。話を聞いてもらえるか』


 気が付けば白兎は端末を手に持ちながら目の前で、俺と同じように椅子を召喚して座っていた。何やら緊急事態のようで、いつもなら愛想笑いを浮かべながら揶揄うのだが、真剣な表情で此方を見つめている。これはかなりヤバい状況なのだろうと判断し、すぐに返答する。


「何が判明したのか気になるが、真面目な話をするってことは、かなり危機的状況ってことだな。少し待ってくれ、この資料を収納指輪に入れる。確か、収納指輪に資料を入れる箱があったはずだったな。よし、箱に入れ終えて収納完了。で、何が分かったんだ」


『相変わらず、二人の時はマイペースだな、兄弟。真面目な話をする前にのんびりし過ぎだ。まぁ、落ち着きは重要だがなぁ。さて、説明をするとしよう――いや、ちょっと待ってろ、そっちの世界に出る』


 白兎はそう言うと、その場で指を鳴らした。現実世界にやって来れたらしく、白兎は足元に影が出現した。椅子にも影があるので、時間制限付きではあるが此方の世界に存在を固定化したのだと理解した。白兎も自身の影がある事を確認すると、そのまま手に持っていた端末を俺に渡し説明を始めた。


「さて、話を始めるとしよう。先ほど回収した狂いの欠片を調査したのだが、眼を反らしたくなる内容が判明した。此奴は、今まで手に入れた欠片の情報だが、このすべてが狂いの神であるレーヴァの簡易的な情報だった。兄弟も知っているだろうが、これまでの情報はレーヴァが『狂いの神になるまでの経緯』のみで、それ以外の情報については抜けている。それで、これが先ほど手に入れた情報だ」


 通信端末を受け取り、書かれている内容を見る。そこには今までレーヴァが破壊してきた世界の情報が書かれていた。その中で、いくつか見覚えのある世界の名前も書かれていた。ただ、レーヴァが破壊した世界が何を示してるのか分からず首をかしげる。幾つか人類――いや、生物すら死滅した終焉の世界の名前や、世界を再度創り直す予定だったのも書かれている。書かれている世界の数としても数百は超えているのだが、これが何だと言うのだろうか。


「俺たちが追っている狂いの神であるレーヴァだが、簡潔に言えば『本家である来日の神を模倣した存在』だ。他世界の神々が協力して作り出した『偽り』の来日の神を作り出したわけだ。性能としては劣化版ではあるが、起源までさかのぼる事は出来ず、そのまま世界を破壊し、新たに構築する力だけを持っている。なのに、これだけの世界を破壊しただけで終わらせている。ここに書かれている世界は、全てレーヴァが干渉した世界だ」


「これだけの世界を彼奴は破壊したのか。確かに、これだけの世界を破壊しているなら緊急と言われても仕方がないだろう。世界を破壊する力があるのは知っているが、まさか模倣された存在だったのか。だが、それがどうしたと言うんだ? 模倣された存在なら、対処法も簡単に済むと思のだが」


「確かに、ただの模倣された存在なら楽だろうよ。だが、それとこれとは話が違う。あの大戦で彼奴を捕縛し損ねた理由が、全くもって分からなかった。だが、この欠片を調べてその理由がようやく分かった。彼奴は、模造品でありながら『本家と同じ力』を所持していた。これが、どう言う意味か分かるだろう。彼奴は起源まで遡り、その世界の情報を得てから完全に消滅させた。その証拠が此処に書かれていた。つまり、彼奴が破壊した世界の力を、自身のものにしていると言うわけだ」


 頭を掻きながら嫌な表情をしながら、亜空間を開いて上でを突っ込むと緑色の収納ボックスを取り出した。確か、アレは危険生がある物のみを回収するための箱だったはずだ。その箱の中に欠片を入れると、そのまま亜空間にしまった。本来なら返してもらい、嬢ちゃんに送る手はずなのだが、何故か白兎はそのまま亜空間にしまったのだ。何故そのようなことをしたのか疑問に思っていたが、その疑問に答えるかのように白兎は腕を組みながら説明を始めた。


「さて、疑問に思っているだろう。何故、あの欠片だけ別に厳重に封印したのか。その理由はとて面倒な事でな、どうもこの欠片は転送装置の機能が搭載されているようでな。兄弟が集めていた欠片と一つにすると、即その場にレーヴァが転移される仕組みになっているわけだ。今まで集めて来た欠片にはその機能はない、間違いなく『本物の狂いの欠片』だった。それについては、嬢ちゃんがその都度だが情報を共有してくれた。だが、此奴は普通の欠片ではない。転送機能も付けられた欠片だ。この情報は先に嬢ちゃんに送っておいたが、マジで面倒だぞコイツ」


「待て待て待て!? 転送機能付きの欠片って存在するのか!? そもそも、そんな機能を付けられること自体初めて知ったのだが。狂いの欠片が集まる事で『狂いの神の石碑』になる事は知っているが、直接その欠片に細工が出来るものなのか? 石碑は言わば魂の保管庫だと、嬢ちゃんから聞いている。その石碑に傷が入ると言う事は、魂にも傷を入れる行為だろ」


「ほぉ、そこまでは理解しているんだな兄弟。ここで、理解度を深めてもらう為に石碑について説明をするとしよう。元々、狂いの神の石碑は、来日の神としての情報が載っている一種のサーバーのようなものだ。兄弟が言った通り、石碑は魂を保管する為の棺桶のようなものだ。石碑は魂に直結している。それ故に、石碑に傷をつける行為は、魂に直接ダメージを与えることになるわけだ」


 嬢ちゃんから教わった事を再度説明されているが、確かに詳しくは聞いた事が無かったため静かに聞くことにした。


「また、石碑はゲートでもある。精神世界から現実世界へと出るための門の役割をしている。それ故に、石碑に傷を入れると言う行為は『現実世界へと繋げる門を破壊する行為』を意味し、現実世界への干渉が不可能になるわけだ。自身の魂にダメージを与え、なおかつ現実世界への干渉を不可能にさせる行為を、レーヴァは行った。ここまでは、理解できたか」


「あぁ、つまり言えば自傷行為を行なっていると言う事だろ。レーヴァは何のためにそんな行為をしたのか、理解に苦しむな」


「確かにその通りだ。ただ、一つだけ例外が存在する。それは、石碑の複製を行った場合だ。複製された石碑ならば、魂にダメージを与えること無く加工が可能だ。それに複製された物に魂を移せば、本来の欠片が破損したとしてもダメージは受けずに済む。この技術は、遥か昔に狂いの神によって消滅させられた世界の技術だ。自身の石碑に転移の魔法陣の細工を施す事なんて、常人には不可能だろうよ」


 とても面倒な情報を手にしてしまった事に、情報を一つ一つ整理していく。今確認しなくてはならない情報から、白兎に確認していく。


「つまり、あれか? 狂いの神は、自身が消滅させた世界の技術を使用して、自身の石碑――もとい魂に細工を施した事になるよな。それって、自傷行為になると思うのだが、それを気にせず細工を施し、罠を張ったってことか」


「あぁ、その通りだ兄弟。本来ならば、消滅した世界の技術を扱えるのは『来日の神』だけだ。その世界の情報を得て、情報から新たな世界を構築する。そう言った事が出来るのは、来日の神のみだ。だが、先ほども言った通り此奴はな。他世界の神々によって作られた『模倣の来日の神』だ。そんな存在が、本家と同じ技術を扱えるわけがない。だが、欠片から得た情報では『本家と同じ技術』を身に付けていると言う内容だ。これが面倒事じゃなきゃ、なんて言えば良いってわけだ」


「マジで、面倒じゃねぇか。劣化版の来日の神だった存在が、本当の来日の神と同じ力を持ってしまっているだと!? 精神が常時狂っている状態で、本来は破壊すべきでは無い世界すら破壊して回っていたと。その理由が、自身の強化の為だと言うのか。マジで狂ってるじゃねぇか」


 頭が痛くなる様な真実が出て来たことで、これからの対処法をもう一度洗い直さなくてはならい状態になった。そもそも、狂いの欠片を一つに戻し、正常だったのか確認するのが目的だった。だが、此奴が模造品であると判明した時点で、当初の計画が白紙に変わった。そもそもの計画は、欠片を一つに戻した後、すぐに『存在停止の護符』を張りつけて回収する手はずだった。一つの石板に戻した際に復活するまでのタイムラグが存在する。その間に対応する手はずだった。


「そうだろうな、だから俺らが動くしかなかった。まぁ、当時はここまで情報を調べ上げる方法が無かったからな。流石に時間切れのようだ、俺は元の精神世界に戻る。嬢ちゃんには、計画の変更も含めて伝えておく。兄弟、この戦いはいろんな意味で面倒事ばかりだ。だが、必ず成功させなければならない。それ程、此奴は危険な存在だってことを忘れるな」


「分かっている。俺たちだって、彼奴のせいで全てが狂わされた。彼奴のせいで、俺たちは『殺人鬼』になるしかなかった。彼女の父親が立てた計画を止める為に、俺は悪になるしかなかった。警察も、政治家も、その全てが彼奴に握られていた。それ故に、この道しかなかった。結果、こうして魂は二つに分かれ、旅人となる道を選んだ訳だがな」


 昔の事が脳裏に過るが、すぐにあの時の光景を忘れる。文面として記憶しているが、映像としての記憶は思い出せない。ただ、微かにだが憶えているものもある。それ故に、俺はあの時の光景がいつもフラッシュバックしてしまうのだ。その事を知っている白兎は、楽しそうに笑いながら空を見上げて言う。


「あぁ、その通りだ。魂の捕獲の為にも彼奴だけは、俺たちがしっかり殺さなきゃならねぇ。今まで数多くの世界を破壊した罪人を、この世界でしっかり裁かなければならねぇからな。まぁ、嬢ちゃんたちの方については、俺の方で連携して置くから安心してくれ。取りあえずは、この世界での任務を完遂しなくちゃなぁ」


「あぁ、今度こそ完遂するさ。旅人としての責務を果たすためにも、必ず彼奴は俺の手で裁くな。そろそろ時間だろ、今後の連携方法も変更する必要があるな。トーチャが目覚めるまでは、ここで待機することになるだろう。何かあればいつも通りの連絡方法で頼む」


「あぁ、俺と兄弟だけの繋がりだからなぁ。他の奴らが干渉しようものなら、精神が喰われるくらいだろうさ。まぁ、お互いにベストを尽くせってことだ。俺は俺のやるべき事を、兄弟は兄弟のやるべき事をやるだけ。クキャキャキャ!! あぁ、彼奴をこの手で殺せる日が来るのが楽しみだなぁ、兄弟!! さてと、もう限界か。また会おう、兄弟」


 ニヒルの笑みを浮かべながら指を鳴らすと、俺の影が白兎の元まで伸びて、そのまま影の中へと沈んでいった。そして、影が元に戻るのを見届けてから通信端末を取り出し、竜仙に現在判明した情報をメールで送る。これからの戦いはかなりシビアになる。魂だけを生け捕りにするのは難しいかもしれない。そんな事を思いながら、もう一度トーチャの方へと顔を向ける。眠り続ける彼には同情の念しかないが、彼には真実を知る権利がある。だからこそ、こうして生かしているのだ。本来なら問答無用で叩き起こしたいのだが、狂いの欠片を抜いた後に新たなコアへと移植し終えたばかりだ。何か異常が発生してしまう恐れがある。だから、こうして彼が目覚めるのを待ち続けている。


「しかしながら、どうして彼は狂いの欠片で生き残れたんだ? あれは、本来なら魂を汚染させて、精神異常を起こさせる程の猛毒だ。長期間もの間それを燃料にした状態で生き続ければ、魂が汚れ、魂に亀裂が入ってそのまま崩壊してもおかしくないはずだ。何か、彼をその状態で維持し続ける術が用いられたのか? それにしても、あれだけのダメージを負っても生きているのも不思議なものだな。力の使い方をしっかり理解できれば、狂いの神と戦うときに力の干渉で再び暴走する恐れも無くなるだろう。やはり、教育係が必要だろう。うん、まずは混力を利用しての身体の調査をするか」


 トーチャの心臓付近に手を乗せ、混力を少し流し込み身体の組織細胞を確認する。この技は、旅人になると必ず習う必須教科である。主に、怪我をした者や死体などの状態を詳しく確認するために使われる。少しずつではあるが、トーチャにかかっている毒素を確認していく。やはりと言うべきか、長期間も狂いの力を受けたせいで細胞組織へのダメージは大きいみたいだ。暴走状態による皮膚硬化によって、暴走形態が解けると同時に細胞の再構築が遅れているようだ。


「なるほど、魔力を循環させる装置を組み込んでいるのか。それなら、使用した事で汚れた魔力を綺麗な状態に戻す事は可能だな。まさか、この世界で魔力循環システムがあるとは驚きだな。さて、トーチャ君の調査はこの辺にして、資料の続きでも読むか。読み終えた頃には、トーチャ君も目を覚ましてくれるだろう」


 収納指輪から読みかけの資料を取り出そうとした時、微かだがトーチャの瞼が動いたのが見えた。どうやら、目覚めが近いらしい。トーチャの身体に巻かれた植物の蔦による拘束を解除する為、指を鳴らし蔦を黄色い炎で燃やす。蔦はゆっくりと燃えて行くのだが、トーチャが苦しんでいるような表情は無かった。隊長から教わった炎なのだが、肉体などにダメージを与えずに拘束具を消滅させる炎である。完全に蔦が燃え切るのを見守りながら、竜仙たちに『すぐに帰還しろ』とメールを送る。返答のメールが来るまで、屋敷の周辺の気配を確認する。竜仙たちがいるとは言え、予測不能な事が起きる可能性がある。そして――その予感は嫌な意味で的中してしまった。ゲーディオの屋敷から、微かにだが狂いの欠片から発する力を感じれた。それも、屋敷の下の方向から感じ取ったのだ。


(屋敷から狂いの欠片の気配が? いや、竜仙が感じ取れないのは変だろう。いや、そもそも俺じゃないと確認できないレベルなのか? もしくは、俺と白兎が狂いの力を扱える事に関係があるのだろうか。再度、屋敷の調査をする必要があるな。九条にトーチャを任せ――いや、待て!? もしかして、今回の事件が起きた理由って)


 狂いの欠片は共鳴し合う。引き合い、一つになるために。狂いの力には、精神干渉を無効化する力がある。その為、暴走状態だろうと、通常状態だろうと、その力によって守られているのだ。故に、俺たちが精神干渉せずに暴走形態のトーチャを倒すしかなかったわけだ。

 そして、狂いの欠片の力が屋敷の中から感じ取れた。それが意味している事に、俺は頭を抱えてしまった。暴走状態を引き起こしているのは、狂いの欠片が原因だ。そこに、もう一つの欠片が出現すれば暴走状態は止まる。これは、実際に現場を観たことがあるから分かるのだ。その隙をついて、精神干渉で主導権を奪われた可能性がある。


「つまり、自我を奪われた訳か。主導権を奪われ、殺人を行なわせた。それを確認するためにも、探す必要があるか。トーチャが操られた証拠品を見つけるには、やはり俺の力が必要だってことか」


「ぅ、うぅ」


「どうやら、居眠り騎士が目を覚ましたようだな。だが、その前に面倒事を片付けなきゃならねぇか」


 眠っているトーチャの方へと身体を向ける。その先から感じ取った『大量の魔物』が、急に出現したと同時に此方へと向かって来ている気配を感じとった。それに気が付いているたのか、竜仙たちが加速をして此方へと向かってる気配も感じ取れた。ここからは容疑者保護のための戦闘になる為、かなり苛烈な殲滅作業に入ることになる。もう一度、収納指輪からスキルイーターを取り出し、ゆっくりとその場で深呼吸をしてから語り掛ける。


「まだ、力を借りるぞスキルイーター。乱戦になるが、たっぷり楽しめそうだぞ――、昔みたいにな」


 武器を構え直し、眠っているトーチャを守る様に立ち部下たちが戻ってくるまで待つのであった。


 

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