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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
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11話 v.s 暴走形態トーチャ

どうも、何とか3月分の投稿に間に合った私です。

うん、本当にごめんなさいです。

まさかの、仕事でヘマしまして、心がポキッと折れておりました。

そのせいで、全然執筆する意欲がわかなかったんです。

でも、気分を一新してまたバリバリ書きます!!

私の物語りを読んでくださる方々の為にも、そして、この物語を完結させるんだと言う思いを込めて。

がんばりますよぉぉぉおお!!


では、次話で会いましょう ノシ


********************************************

話数間違えてたぁぁあ!!(2022/0417現在)

 九条は眠そうな表情をしながら、ジッとトーチャを見つめている。最初は此方を見ていたが、すぐに腰に差している木刀に手をそえて、ジッと俺の指示を待つかのように待機している。いや、そもそも九条が命令に従うなんて滅多にない。昔から剣術の師匠として、何度も九条には痛めつけられてきた。そして、俺の下に九条が来た時も何だかんだで、俺の指示では動こうとはしない。九条が納得する理由を提示しない限り、指示に従う事は無いのだ。そんな九条が、何故か俺の指示を待っている。初めての事だったので、表情には出さずに心の中で驚いていた。そして、理性はないはずのトーチャまでもが眼を見開いて驚いている。攫ってきたオルディアさんが、スライムになり、逃げたと同時に人の姿に戻った事に驚いているのだろう。現状を理解できず、全く動こうとしなかっら。


「んで、奴さんに担がれている間ですが、奴さんかなりヤバい状態ですな。まるで、自我が二つ存在するような感じですわ。簡単に言えば、有名な小説で『ジキルとハイド』のジギル博士みたいな感じっすね。どうします、若旦那。ありゃ、かなり面倒な敵ですぜ」


「そりゃ、面倒だな。ジキルとハイドのような存在だと、自身が手にかけた事すら憶えていない可能性がある。だが、なんでそんな事が分かったんだ」


「いやぁ、昔の若旦那――いや、今もそうですわな。ありゃ、何かのスイッチが入ると『あの状態』に精神が切り替わっちまうんでしょう。解離性同一性障害みたいなのではない、物理的に切り替わってしまった状態ですかね。こう、頭をガツンと殴られて気絶したら入れ替わるみたいな奴ッスね」


 九条が急に真面目な表所になった。ゆっくりと目を細めながら、獲物を狙う狼のようにジッと見つめている。木刀に手をかけながらも、どう行動するべきか悩んでいるように見える。よくよく考えてみれば、殴れば戻るっという脳筋的な考えは間違いなくダメだろう。人造人間とも呼べるトーチャに対して、通常の攻撃で救えるとは思えない。そもそも、我々の攻撃に耐えられるかの方が問題である。


「トーチャをどうやって正気に戻すのかを考えているんだが、どうやって助けるべきか全く浮かばないな。取りあえず、気絶させると言う方法もあるとは思うが――いや、論外だな。それに、此奴は!? ッチ、マジか」


「旦那、これは何かの冗談か? トーチャの中から探していた欠片と同じ、感じ取っちゃならねぇ気配を感じ取れたんだが。まさかと思うが、原動力は欠片か」


 今この場にいる竜仙と九条は、木刀と金棒を構えたまま後退する。トーチャは混乱状態であるが、銀髪だった髪の色が赤黒い色に変化し、皮膚すらも肌色から赤く染まり始めた。何が起こっているのか分からないのだが、何やら感じ取ってはならない気配を発している。それは、今まで俺たちが集めていた『狂いの欠片』が発していた気配と似ていた。


「待て待て待て!? ちょっと待て、此奴まさか狂いの欠片を原動力に動いてると言うのか!? いや、本来なら全くあり得ない事だろう。いや、どうしたらこうなるんだ? 欠片を原動力にして動いてるとか何かか。おいおい、冗談はよしてくれよ」


「若旦那、混乱するのはこの辺にしてくれ。それよりも、これどうします。流石の私でも此奴はヘビィー過ぎる。殺す覚悟で挑まなきゃ、こっちがやられちまいますよ」


「確かに、九条の言う通りではあるな。しかし、殺すわけにも行かないだろう」


 こんな時に限って知りたくもなかった真実を目の当たりにして、強く拳を握りしめながら戦闘の構えを取り後退する。トーチャの身体から発せられる『狂いの力』は、トーチャの身体に馴染んでいる事から、かなりの長い年月をかけて作られたモノだと直に分かった。そもそも、狂いの欠片を原動力にしている当たり、何を考えているのかと問い詰めたい所ではある。分かりやすく言えば、核燃料で動く自立型人形と例えればよいのか。下手に衝撃を与えれば、その場で爆発し周囲に厄災をもたらすと言う害悪そのものである。それ故に、トーチャから距離を取りながら各々の武器を構えて臨戦態勢を取る。


「旦那、どうやってトーチャを止める。儂らでも今回のような事は初めてだ。まるで、歩く核爆弾を処理しなければならない、爆弾処理班のような気分だ。下手に攻撃を与えて、狂いの欠片から一気に力を解放される可能性がある。旦那、此奴はどうする」


「コアを抜き取れば全て終わるが、それは同時に『トーチャの死』を意味する。トーチャを殺さずに何とかするには――仕方がない、まずはこの力を抑えるしかない。俺は、裏に頼んでいる間に竜仙と九条はトーチャの相手をしてくれ。この力を抑えた後に、トーチャを気絶させる。欠片を抜く事は、後で考えるしかない」


「若旦那、本当にそれで良いんだな。裏の若旦那に頼むと言う事は、それなりの代償を支払うはずだ。もしかすれば、刻竜の因子の影響が出るかもしれない。若旦那が『あの状態』を抑えられるか、俺には分からないんだが。若旦那、本当にやるんだな」


 真剣な表情で問いかける九条たちに、黙って頷くとそのまま拳を構えた。正直に言えば、成功するか不安ではある。だが、この方法でしかトーチャを救う事が出来ない。それ程のエネルギーをトーチャは放っているのだ。まだ、混乱状態である今だから対応ができる。精神の世界にいる相棒に声をかけ、すぐにでも対応が必要な状態だった。


『ほぉ、早速俺の出番か。面白いこと考えてるようだな、兄弟』


 俺の足元の影が左へと延びると、そこから背中を向けて裏の存在である白兎がゆっくりと這い出て来た。周りの者には見えていないのか、這い出てくる白兎の姿に驚く気配はなかった。身体が出て来るまでに約十五秒程かかると想定し、そのまま話しかける。


「あぁ、済まないが力を貸してもらうぞ。トーチャから放たれてる力、お前も感じ取れているんだろう。長年制御方法を学んできたお前の力が必要だ。手を貸せ」


『良いぜ、手を貸してやる。ただ、こっちも準備ってもんがある。軽く見た限りではあるが、まだ爆発手前みたいだな。中和しながらなら問題はなさそうだが、アレが自立型ゴーレムってか。違うなぁ、間違いなく彼奴の気配を感じる。それも、かなり濃厚な』


「狂いの欠片が、あの大戦で殺しそびれた『狂いの神』だと想定している。だから、彼奴の気配が感じるのは当たり前なのではないのか」


 狂いの力を感じ取った時から、狂いの欠片に記載された『レーヴァ』と言う者の力を動力源に動いているのだと認識していた。だから、白兎の言っているのはその力の事だと持っていた。だが、どうやらそれに対して言っているようではなかった。完全に影から出て来たのと同時に、白兎は軽くその場で伸びをしてトーチャへと目線を映した。


『違うねぇ。ありゃ、狂いの神が作った入れ物だ。それも一つや二つじゃねぇだろうな。何度も繰り返して実験をして作った入れ物だ。故に、あれ程の力を発動していても肉体が欠損せずに問題なく稼働できる。一体どれくらいの人間で試したんだろうなぁ。まるであの殺した博士みたいに、無垢な命を道具としか思っていない奴だ。あの素体は、人間の心臓と、脊髄、魂を入れる事で作り出されているみたいだ。見た目は人間と同じだが、アレは人造人間でも、ゴーレムでもない。限りなく人間に近い、人間と同じ機能を持って造られた人形だろうな。つまり、狂いの神にとって自身の肉体を新たに作りだすための試作品だろうな、アレは』


「おいおい、マジかよ。それじゃ、目の前で動いているトーチャは、狂いの神の肉体を作る為の実験素体で、その実験の成功例ってことか。それも、人間と同じ機能を持った人形って、道徳的にアウトだ――って、狂いの神に取っちゃ人間は玩具って言う認識だったわ。つまり、今ここに成功例があるって言う事は、狂いの神は目覚めてるってことになるぞ」


『いや、完全には目覚めてないだろうさ。そもそも、成功例をこうして野放しにしていると言う事は、魂を移す事が出来なかったのだろうさ。アレは完成して、まだ五、六年くらいしか経っていない。そもそも素体を作り上げるまでに時間がかかる。そんな成功例を野放しにしていると言う事は、魂を移すまでの力が無く、回復するまで放置したってことになる』


 真剣な表情で語る白兎は、トーチャを見つめながら説明を続けた。


『あの大戦で、狂いの神の肉体は消失した。しかし、問題は魂の方だったな。肉体はあの戦いで消滅したのは確実だろうさ。しかしながら、あの時に『断罪した事で落ちたモノ』とミント――いや、ミーアはこの世界に落ちたとはねぇ。あの時、間違いなく首は消滅した。ただし、魂は別の入れ物に移っていた。それが、俺たちが集めている欠片の集合体『原初』だ。そもそも、あの大戦で殺した後に魂を回収して封印するつもりだったんだろ』


「あぁ、その通りだ。狂いの神の肉体から発せられるエネルギーが、他世界へ悪影響を及ぼす事が分かってな。緊急処置として、肉体を消し去って魂だけを回収することになっていた」


 白兎は狂いの欠片の話をしながら虚空に手を伸ばすと、手の先に『ワームホール』を作り出した。そもそも白兎は歪曲空間やワームホールを利用した技が得意なためか、たまにその中に物を入れているのを見かけた事がある。そして、白兎はそのままワームホール中に腕を突っ込むと、何かを掴み引き抜いた。その手には野球ボールほどの大きさの綺麗な『緑色の宝玉』が握られていた。見覚えのない物だったので、一体何なのか分からないが、白兎はすぐにそこに混力を籠めるとトーチャの身体から出ている力が弱まり始めた。


『始祖は来日の神である『始まりの旅人』の力によって生まれた存在だ。その始祖をモチーフにして、他世界の神々が結託して作ったのが、俺たちが追っている狂いの神だと聞いている。そもそも、俺たち旅人がそれを認め、現在のすべての世界に『本家より力がない来日の神』が生まれた。最初は正常に動いていたらしいが、何かしらの理由でこの様な状態になったわけだ』


「確か、どっかの馬鹿垂れが『力の方向性』を弄ったせいで狂っちまったんだよな。それもその馬鹿垂れは制御初心者で、調整方法の説明すらなかったらしい。設定書なんかはあったらしいが、そう言った情報を共有していなかった。まぁ、起こるべくして起きた事故だった。変な弄り方をしたせいで性格すらも変わってしまい、全てが変わってしまったんだったな。それ故に、正常な機能が出来ず、結果的に『狂いの神』と呼ばれるようになった」


『大まかではあるが、その通りだ。だからまぁ、この様に力の方向性を少し弄れば、力の暴走を抑えることも可能だ。だが、暴走を抑えると言う事は同時に、力の方向性を正すと言う事だ。それが、どう言う意味か分かっているだろう。つまり、力は俺らと同等レベルになってもおかしくないわけだ。言うなれば、狂いの神の前哨戦みたいなもんさ。全力で倒さなければ、此方がやられるってわけだ』


 急に力が弱まったと同時に、九条と竜仙はトーチャへと攻撃を開始する。だが、トーチャは攻撃を寸前で避けていく。手加減をしているとは言え、それでも二人の攻撃を避けれるのは凄い事である。あれでもあの二人は、最強の剣豪と最恐の鬼神と言われている。混乱状態でありながらも、その攻撃を寸前で避けたことに驚きを隠せないでいる。白兎が言っていたように、狂いの神によって作られた肉体なのかもしれないと疑いを持ってしまった。


『なるほどねぇ。良いか、彼奴は直感が鋭いタイプだ。殺気が籠った攻撃は、高確率で避けられるだろうさ。故に、なるべく殺気は出さずに戦うしかないなぁ。まったく、俺たちが殺した彼奴を思い出しちまうな。あの博士が作り出した怪物を殺すのは苦労したもんだ。いやぁ、懐かしいねぇ』


 宝玉の操作をしながらもニヤニヤと笑い続ける白兎に、呆れてしまい溜め息が出てしまった。過去の事はもう忘れたい所ではあるのだが、白兎にとっては今も忘れるべきではない記憶なのだろう。俺の場合は、殺した者の名前と顔は覚えてる。だが、どう殺したかは覚えていない。そこは、完全に半分に分かれてしまった事で抜け落ちてしまっている。

 そんなことを言っている間、竜仙と九条はトーチャに攻撃を続けている。急に力が抑圧された事への戸惑いからか、何発か攻撃は受けているのだが平然と立っている。混乱も解けているのか、死角からの攻撃も避け、そのまま素手で竜仙たちに反撃を開始している。竜仙たちもまた攻撃をいなしながら、その隙をついて攻撃をするも避けられてしまう。


「竜仙、九条!! 裏の俺に、トーチャの暴走している力を調律させている。今の状態で倒すしかないが、現在のトーチャは俺らと同等レベルの可能性がある。さらに言えば、殺気が籠った攻撃は高確率で避けられる可能性がある。殺気を出さずに戦うしかない」


「若旦那、そりゃないですわ。どう見ても、殺気で感知して回避しているようには見えねッスよ。そもそも、そんな簡単な事で攻撃を当てられるんすか」


「九条、旦那の指示だ。儂もそんなんで当たるか分からんが、試してみなければ分かることだ。それに、旦那の裏の存在が抑えてくれているのなら、儂らに勝機がある。とにかく、今はトーチャを救う事だけを考えろ。行くぞ、九条」


 そう言うと、竜仙たちは攻撃方法を変えトーチャと戦闘を開始する。混乱が溶けたトーチャは素手で攻撃をいなしながら、回避行動を行なっていた。だが、先ほどよりも戦い辛いのか、攻撃を受ける回数が増えたようにも思える。そんな光景を観ながら、白兎と同じように亜空間を開いて大鎌を取り出す。銀色の刀身に、赤黒いグリップである。この武器の名は『スキルイーター』と言う大鎌で、俺が使う大鎌の中では二番目に使用率が高い武器である。


『ほぉ、久しぶりに見たな。その大鎌、まだ大切に残していたわけか。いいねぇ、今の状況に最適な武器じゃねぇか。あの大戦時は、その武器を使用しちなかったな。確か、暴走形態のゴーレム相手にその大鎌使って砕けちまったんだったな。どうやら打ち直して貰ったようだが、能力的には以前よりも性能が上がったようだな。彼奴の暴走している核を取り除くなら、その大鎌の能力で問題なさそうだな』


「そりゃ、お前が俺の身体を乗っ取った時に無理やり振るったせいで折れたんだろうが。しかしながら、この大鎌はお前といる時しか使わんからな。お前の言う通り、このスキルイーターならトーチャの身体に纏っている力を喰らう事が出来る。それに、此奴の力をうまく利用すれば、トーチャの肉体にダメージを与えずに、力のみを喰らう事で無力化する事も出来る。こっちの方がトーチャを救いやすい」


『確かに、その通りだ。その大鎌は、斬り裂いた敵の力を喰らう能力がある。肉体を斬り裂くことも、肉体にはダメージを与えずに精神力の身を斬り裂きダメージを与える事も出来る。まったく面白い能力を持った大鎌だ。そして、所有者を選ぶと言うおまけ機能付き。喰らった力は自然エネルギーとして変換され、マナを生成するんだったな。クックック、本当に面白い武器だ』


 白兎は面白そうに笑いながら説明をする中、大鎌を構えながら竜仙たちと後退するタイミングを見極める。意識を集中させ、殺気を放たずにジッとタイミングを待つ。眼を閉じ、ゆっくりと深呼吸をしながら、竜仙たちの攻撃する音を聴く。どのタイミングで入れば良いか、ジッと聴きながらそのタイミングが訪れた瞬間、勢いよく駆け出す。竜仙たちは俺が駆け出すタイミングに合わせて、トーチャが避けれない様に攻撃を合わせる。


「白兎、後は頼んだぞ」


『あぁ、こっちは任せてさっさと行きな』


 白兎のセリフを聞いてすぐにトーチャの背後へと駆け、そのままの勢いで左わき腹から右首へ向けて斬り上げをしながら通り過ぎる。斬り裂いた感触を感じながらも、大鎌から微かにだが『能力を喰らった』と言う感覚に、何も答えることなくトーチャの方へと振り返る。斬撃の感触はあったのだが、衣服の切断箇所がないことや、脱力感から身体が一瞬ふらついた。その隙をついて、九条は木刀による連撃を放つ。連続で放たれる連撃に、激痛から獣のような叫び声を上げている。その叫び声は衝撃波となり、九条を吹き飛ばした。だが、受け身を取り普通に立ち上がると何やら感心したように、九条はニヤリと笑いながら木刀を構え直した。


「おや、まぁ。叫び声を上げて吹き飛ばすとは、やるねぇ」


「九条、何を余裕ぶっている。儂らは早急にトーチャを倒さねばならんのだぞ」


「そうは言いますが、竜仙様と私の攻撃を喰らっても平然と立っているんですよ。それに、殺さずに生かすってのも、中々に難しいもんですわ」


 狂いの欠片によって供給されていた力によって、俺たちとの戦闘について来れていた。しかし、先ほど少し喰らった事でふらついていた。この隙を逃す程、俺の部下は馬鹿ではなく、竜仙たちは攻撃を続けながらすぐに攻撃を続ける。そんな状態でもトーチャは反撃をする辺り、かなり精密に作られていたのだろうと納得してしまう。俺たちと互角に戦えるのだから、俺たち以外の連中が戦っていたら間違いなく敗北していただろう。それに、身体は『ほぼ人間』なのである。俺たちが本気で戦えば間違いなくミンチになるせいか、竜仙たちも全力で攻撃が出来ないでいる。その為、更に力を奪うために大鎌を構え直した。


「竜仙、九条。お前たちの攻撃で確実に意識を奪える段階まで、トーチャから発しているエネルギーを奪い取る。タイミングを見て、お前たちの攻撃で確実にトーチャの意識を奪え」


「「御意」」


 竜仙たちの返事と共に、俺はトーチャの元へと駆ける。最初に受けた攻撃から警戒してか、バックステップで退避をするも、すぐに距離を詰めて大鎌による斬撃をする。連続で斬られ続けることで、トーチャの身体から発せられていたエネルギーも減っていく。斬撃から逃れようと更に距離を撮る為に大鎌の攻撃を避けようと右側へと退避したのだが、その場所には九条が納刀状態で武器を構えている。


「若旦那が作ってくれた隙を活かせないのは、部下として、剣豪として、許されないからなぁ」


 九条の口から青い炎が噴き出すと、木刀までもが青い炎で包まれる。九条の炎は精神への直接ダメージ効果があり、その一撃を耐えられる奴は中々いない。俺の技の大半は九条から学んだもので、この大鎌は九条の炎によって打たれた事で同じ効果が付与されたのだ。故に、本家本元の九条の攻撃をもろに喰らえば。


「一の技、耐えて見せろ」


 正面に来る暴走トーチャをすれ違う様に、木刀を包む炎によって横一閃により撃ち込んだ。その一撃を受けてふらつく姿を見て、竜仙は手に握る金棒を構え直した。そして、そのままトーチャの背後へと駆ける。


「旦那の指示だ。すまんが、これで終いだ。許せ」


「――!?」


 俺の攻撃で精神的な脱力感から判断力が鈍り、九条による精神へ直接ダメージが入った後だと回避行動に移す事が出来ず、竜仙の金棒がそのままトーチャの頭に振り下ろされ、トーチャはそのまま地面に倒れ伏せた。竜仙の攻撃で頭から血を出さない辺り、かなり頑丈に作られているようだ。完全に脳天へと振り下ろされた事で、意識は完全に奪う事に成功したらしい。


「終わったな。竜仙と九条は周囲の警戒を頼む。俺はトーチャの中にある狂いの欠片を回収する」


「了解だ、若旦那。取りあえず、周囲を探索してくる。竜仙の旦那は、このまま屋敷の周りの探索っていう認識で良いッスか」


「あぁ、その認識で合っている。この屋敷の事もあるのでな。儂は屋敷の周りを見てくる。旦那、では行ってまいります」


 竜仙たちがその場から離れ、各自で行動に移った。二人が離れたのを確認して、すぐに俺はトーチャを仰向けにした。白目をむいて気絶しているのを確認後、そのまま心臓の付近に大鎌の先っちょを突き刺した。そして、すぐに植物操作の魔法を発動し、トーチャの身体を束縛するように、地面から植物の蔦が身体を拘束するように纏わりつく。


「よし、ここからが気合の入れ時か」


 より深く差し込むと、何か硬い物が当たった感触が伝わった。刃先からも伝わって来た欠片の力に、すぐに波動を刃先へと向けて流し込み、硬い物を包むイメージで波動を網上に構成して包む。地雷を取り除く様に慎重に、ゆっくりと刃先を抜いて行く。トーチャの身体も連動して少し浮き上がるのだが、それを抑える植物の蔦によって押さえつけられている。

 刃先が抜けると、欠片の角が見えて来た。そのまま釣竿を上げるようにゆっくりと引き上げると、トーチャの身体から欠片が抜けた。その欠片を白兎はすぐに回収すると、先ほど待て使用していた宝玉をトーチャの中に入れた。


『取りあえず、此奴はこれで大丈夫だろう。狂いの神の力を正常化しておいたとは言え、また暴走する事は無いだろうが、この宝玉があれば力の向きも正常化されるだろうさ。ちなみに此奴の製作費はお前さんのポケットマネーから出されている。始祖の嬢ちゃんからの許可は得ているからな。んじゃ、欠片の調査をするから、そっちは頼む』


 そう言うと、白兎は欠片の調査を始めた。今、聞き捨てならないセリフが出たのだが、白兎は真剣な表情で欠片の調査を始めた。虚空に向かって手を伸ばすと、歪曲空間を発生させた。その中へと手を突っ込み何やら資料を取り出すと、そのまま歪曲空間を閉じて屋敷に置かれている古びた椅子に座って調査へと移った。欠片の中を観ながら何やら神妙な面持ちで「此奴は、どう言う事だ」と呟きながら何か確認し始めた。本来なら問い詰めたいところだが、今はトーチャの安否を最優先にしなくてはならないため、後で問い詰めることにした。


「はぁ、さてとトーチャは生きているだろうな」


 トーチャの首筋に手をやり、脈があるか確認する。狂いの神によって作られた人形だとは言えど、魂と心臓、脊髄を使われているのならば、人間とほぼ変わらないはずである。その為、人間での安否確認と同じ手順で確認する。


(脈は正常、呼吸もしている。心臓もあり、生存確認良し。どう見ても人間にしか見えないが、これが人形だとは想像できないな。死んではいない様だが、まだ微かに欠片の力を感じる。流石に、この力を奪ってしまうとトーチャが死んでしまう。今は様子を見て、状況に応じて変更すれば良いか)


 竜仙の一撃を貰ったとは言え、あの一撃でも死なない頑丈な肉体に驚きはするが、生きているだけでも良かったと胸を下ろす。また、衣服の破損は無いことにも驚きである。俺の斬撃は精神面への攻撃の為、斬撃で服が裂けることは無いのだが、竜仙たちの攻撃は打撃なので本来ならボロボロになっていてもおかしくないのだ。だが、ボロボロにはなっておらず、どちらかと言えば汚れが付いた程度であった。どちらにしても、欠片の回収も終えたことに安堵し、トーチャが目を覚ますまで休憩することにした。


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