9話 確定
どうも、1月に2話分投稿する事が出来て嬉しいと思っている、私です。
月1話ペースだった私はどこへ行ったのか。
やはり、筆が乗る時はペースが速いなぁ(ーωー;
これが、普通に続けば良いのにね。続かないんだよなぁ。
筆が乗る時と乗らない時の落差が半端ない。
こんな感じで、月2話ペースが持続すれば良いのになぁ。
なんて思う私なのでした。
さて、では次話で会いましょう、ノシ
狂いの神の首。確かに切り落とした首は、あの時の衝撃波で行方不明だった。俺の技である『神断ち』は、その名の通り神を断つ技であり、多くの神々を断罪した技である。神の魂は決して死せることは無く、死んだと思っても時間が経てば復活してしまう。この神断ちは、神すらも人間と同様に『輪廻の環』に引きずり下ろす。それ程の一撃なのだが、首の消滅は確認できなかった。そして、この世界に狂いの神が二柱いると言うこと。
「まさか、彼奴が――、彼奴は生きていたと言うのか!? 神断ちを放ったのに、奴は」
「可能性はあるな。もし、俺と同じ存在ならば、一部でも残っていれば復活する。それが、この世界に落ちた可能性がある。神断ちの効果範囲の外に飛ばされたとすれば、生きている可能性はある」
「あの衝撃波が逃げるために放たれたとするならば、間違いなく生きているだろうな。この世界に落ちた狂いの神は別物だと考えていたが、同一存在なら間違いなく目覚めたらこの世界がヤバいぞ。彼奴のせいで、多くの世界が滅んだ。ミーアの世界も、俺の世界も、沢山の世界が滅んだ。アレは、それ程の危険な存在なんだぞ。あの時、ちゃんと仕留めたと思ったのに、仕留め切れていないと言う事か」
苦虫を噛むような表情をしながら、シーボルト家の屋敷の門前に着いた。門番のトーチャ君にテュイルの事を説明し、オルディアさんから許可をもらい屋敷の中へと入った。テュイルは終始無言でついて来ており、ミーアたちのいる部屋へと向かっている。その間、脳内での会議をしている。
『取りあえず、この情報は共有しよう。間違いなく、この戦いは地獄になる。テュイル、現状で構わないが戦闘に参加できる仲間たちはいるか』
『いや、あの大戦のせいで未だに回復できていない。実際に参戦できるのは数名になるだろうな』
なるべくこの戦いでの被害を抑えるために、対応法を考えなくてはならない。皆と会議を開く際にホムホムたちにも繋げ、今後の方針を話し合う予定である。最初に用意していた狂いの神対策では、間違いなく彼奴には効果がないからだ。方針転換が必要になる可能性がある。
「仕方がない、すぐにでも会議を始めよう。此処が、俺たちの会議室だ」
会議室の前に着き、そのまま中へと入る。部屋の中では円卓に配置されたテーブルに書類を置くミーアとディアラさんが居り、椅子に座る竜仙と見覚えのある二人の男性が座って待っていた。綺麗な黒髪に焦げ茶色の瞳の童顔の男性。黒いスーツを着ており、その上に薄灰色のコートを羽織っている。彼こそ、俺が所属する第零部隊隊長の『無月 白詩』隊長である。そして、その隣にいる金色のような綺麗な短髪に真紅の瞳。そして隊長と同じ服装の青年。彼は隊長の秘書であり右腕である死神一族最強の男「狼志 玲」である。彼と隊長は古くからの付き合いで、旅人の世界では知らない人はいないと言われるほど最強のコンビである。そして、俺の師匠たちでもある。
「無月様。御心、テュイルの両二名が来られました」
「あぁ、そうだな。よう、二人とも遅かったな――って、なんだ? 顔色が悪いようだが」
「「いえ、問題ありません」」
テュイルと共に敬礼をして答えると、隊長は苦笑しながらも「まぁ、そう言う事にしとくが、無理するなよ」と気遣いの言葉をくれた。隊長は気遣いをしながらも何があったのかすぐに判断できたのか、玲さんに何やら指示を出した。玲さんの手にはミーアに関する書類が握られており、どうやらサインを終えているようだった。玲さんはその指示に従ってか、一瞬でその場から撤退した。撤退と言っても、旅人の世界へと転移しただけであり、すぐに書類を持ってまた戻って来た。
「御心、テュイル。今回のこの世界で起きている情報をまとめたものだ。取りあえず、二人とも席についてくれ。これから現在この世界に起きている数々の問題について、判明している事の説明を行なう」
隊長の指示に従い、俺とテュイルは席に着く。竜仙とミーアはディアラさんを挟む形で座っており、ミーアの隣に俺とテュイルが座っている。俺たちが席に着くと隊長は会議を始めた。
「さて、会議を開始する。だが、どうやら二人とも何か気が付いたみたいだな。その結果、顔色が悪いのだろう。この世界に俺が降り立った時、彼奴の狂いの神の波動を感じた。間違いなく、あの三大厄災で殺したはずの『狂いの神の気配』だった。これが何を意味するか、分かるな二人とも」
「はい、分かります。私がこの世界に舞い降りた時には、一切感じ取ることはできませんでした。ですが、そうなると我々の想定している事が確証に変わりました。我々は、あの大戦の事で気が付いた事があり、それが現実になった可能性があると判断しています」
テュイルは真面目に答える中、ディアラさんは何のことか分からなず首をかしげている。それに対してミーアや竜仙は、眼を見開き驚いていた。当然のことだが、ミーア達はあの戦場を知っているし、あの時の光景を観ている。だからこそ、彼奴は死んでいるのだと、もう存在しないと思っていたはずだ。だが、今この世界に奴の存在がある事に驚いている。
「私が、あの大戦で狂いの神の首を撥ねました。だが、その首がどこに行ったのか確認できていません。最後に放たれた捨て身の衝撃波で、奴の首がどこかの別世界に落ちた。それがこの世界だと予想しました。ですが、隊長の一言で確証に変わりました。間違いなく、奴の首は神断ちの効果範囲外であるこの世界に落ちた。そして、狂いの欠片は間違いなく奴のモノであることが考えられます」
「あの大戦は、混沌としていたからな。周りの被害なども考えれば、首だけを確認することは不可能だった。お前の神断ちは、世界単位だからな。あの衝撃波で別世界に落下したのならば、間違いなく神断ちの効果範囲外に逃げているだろう。狡賢いと言うか、計算高いと言うか。まったく、面倒な存在を『他世界の神々が作り出す』もんだから、こっちの仕事が増えて困る。まぁ、その結果が、主人を裏切る結果になるのだがな」
隊長は頭を掻きながら恨み節を吐く。そう、あの狂いの神を作り出した神々は、狂いの神の手によって殺された。だが、それだけではなく『神々の力』をも奪い取り、その世界を消滅させたのだ。生まれ故郷である世界を滅ぼし、他世界に移動しては世界を破壊しようとした。それに瞬時に気が付いた俺たちが、奴をすぐに追い詰めて封印したのだ。奪い取った力を抜き取らない限り、奴を消し去ることは不可能だったから。故に、あの大戦が起こる前日に奴が奪った力を完全に回収し終え、当日に神断ちで完全に消滅させる予定だったのだ。だが、それはあの大戦が始まったあの時に、全てが無意味になったわけだ。そんな事を思い出していると、玲さんが資料をテーブルの上に並べ、俺たちはそれを受け取ると隊長は説明を開始した。
「俺たちが調べた情報だが、世界間に繋がれている鎖が砕け散った。これはエネルギーラインの供給箇所に過剰にエネルギーが集中したことによる『発熱による溶断』であることは判明している。その全てがこの世界のエネルギーラインだと言う事だ」
「溶断された個所を調べたのですが、綺麗な断面だった事から何かで傷をつけられた可能性があります。傷跡の箇所に熱が集中した事で、その箇所から溶断された可能性があると思われます。ただ、エネルギーラインは生半可な攻撃では傷はおろか破壊は出来ません。あの空間では、我々、旅人以外の者は『全ての能力が消滅する』ため、鎖を破壊することは不可能です。故に、身内の犯行ではと睨み、調査をしておりました」
「まぁ、刻竜の腹の中に封印していたのを叩きだした奴だが、調べて見たら呪いが付与されていた。それも、初代のめっちゃ濃い呪いがな。仕方がなく、断罪の力を用いて首を撥ねて、再度復活させてから問い詰めたら、あの大戦の時に呪いが付与されたらしい。それも、本人も気付かぬうちにかけられ、身体の主導権を奪われていたらしい」
隊長が溜め息を吐きながらも『初代の呪い』と口に出した。旅人がかける呪いは、簡単に言えば一つの世界単位であるため、普通の人間では呪いを解くことは出来ない。だが、初代の呪いは違う。初代とは『全ての始まりの祖』であり、人類や生物はおろか、初代は『世界そのもの』と言われている。つまり、初代の呪いは『数多の存在全て』が対象なのだ。その呪いを解く事が出来る存在は居らず、一度死ぬ以外方法が無い。我々旅人にとって常識であり、必ず初代の恐ろしさを教わる。
「それは、仕方がないですね。初代の呪いに抗える存在は、無月隊長ただ一人しかいない。テュイルでも、玲さんでも、私でも、あの呪いに耐えられる者はいません。つまり、狂いの神と初代は繋がっていたと言うことになる。そして、この世界に初代が落ちた事も、狂いの頭が落ちた可能性も考慮しても、全てが初代の手のひらの上だったと」
「あぁ、その可能性が高いだろうな。初代との付き合いが長い分、彼奴の思考が大体だが理解は出来ている。それも、彼奴にとって人間は害虫であり、抹消対象である。その為ならば、世界すらも抹消しかねない。故に、今回は総力戦となる。ミント――あぁ、こっちの世界ではミーアだったな。ミーアには説明したが、今回の戦いは激戦になる事は確定だ。その為、一度旅人の世界に帰還し、混力を完全に扱える状態になってもらう。ディアラさんについては、御心の部下である竜仙に任せる。まだ、此方の部隊も完全に立ち直っていない。その為、引き続き御心には狂いの欠片の回収を頼みたい」
「「「「了解」」」」
俺と竜仙、ミーアは敬礼をする。今回はこの世界を救う事だけではなく、狂いの神を仕留めなくてはならない。彼奴がこの世界にいると言うのならば、この世界の破壊だけは避ける必要がある。人間ならば安全な世界を作成し、そこへと退避させるのは可能だとは思うのだが、相手が相手な為に慎重に対応しなくてはならい。さらに資料を読んでみると、初代の呪いに感染した旅人が一人だけではなかった事も書かれている。名前欄を見た限り、ざっと百名近くは記載されている。これだけの被害が密かに出ていたことに驚いたが、逆にこの程度で済んだことに安堵している。
「さて、此方の情報は全て提示した。御心の方でも何か問題を抱えていると聞いている。俺たちで良ければ話してみなさい。俺の知識も少しは役に立つだろう」
「ありがとうございます、隊長。実は――」
現在、この場所で起きている事件と、俺が手に入れた情報を含めて説明を始める。人間の魂を用いたゴーレムなどを説明すると、玲さんが首をかしげながら「人間の魂を、か」と呟いた。隊長はこれでも人間の魂からエネルギーを抽出する方法など、魂の有効性についての研究を行なっている。人間の魂が穢れた際に、それを浄化するときに発生するエネルギーを用いて、各世界に配置されている浄化装置のエネルギーとして利用している。そんな人間の魂についての流用に詳しい隊長に、玲さんは何やら気になる事でもあるらしく、隊長に確認するかのように話し出した。
「無月様。確かこの世界の魂は、初代の力によって汚染されていたはずです。そんな状態の魂で、ゴーレム生成に利用なんて不可能だったはずですよね。転移、転生で来られた者の魂は、我々にしか見えない『呪詛』で縛られるため、魂を利用してのゴーレムなどは不可能になるはずです」
「確かに、初代との戦闘でこの世界の魂は変質したのは確かだ。それ故に、この世界を救う事が出来ない。その理由は『初代の力』によって、魂が汚染されてしまい、通常の輪廻転生が行えない形状に変質してしまったからだ。だが、その状態でも輪廻転生が行なえるように、我々旅人の手によって少しずつではあるが、変質された魂を元の形状に戻し、浄化までも行なえるようにしている。だが、まだこの世界自体の浄化が終わっていない。浄化を行なうにしても、千年以上は必要だ」
「魂の汚染。では、俺たちが仕留めたゴーレムは一体なんだったのか。隊長、保護しておりますが確認してもらっても良いですか」
収納指輪から魂の入ったゴーレムコアを取り出し、隊長に受け渡すと「うぁ、マジか。これ」と呟くと同時に、近づいてコアを見る玲さんも「これはまた、良い出来ですね」と呟いていた。良い出来と言う言葉に、嫌な予感がしてしまった。
「此奴は、人工的に創られた魂だな。精巧に作られているが、これは間違いなく人工的に作られた物だ。精霊などの構造を基にして、一から魂を生成したんだろう。普通の魂よりも純度が低い為に、コアが外れると消滅する仕組みなのだろうな。御心の保護技術はプロ級だった事もあり、消滅せずに済んだのだろうな」
「魂の生成ですか。私の知識不足で申し訳ないのですが、この世界の生命体で生成は可能なのですか? 普通の技術では行えないと思われるのですが、人間の魂と此処まで似ている物を生成できるのでしょうか」
「一般的な常識で考えれば、この世界の生命体では不可能だろうな。ただ、精霊と言う存在を熟知し、なおかつ自然エネルギーの圧縮琺などを理解しているのであれば、魂の生成は可能だろうな。そもそも、精霊とは『純粋な自然エネルギーが意思を持つ』ことで、人格を形成し、人の形が作られる。これが、精霊と言うものだ」
隊長はコアを俺に返すと、その場で指を鳴らした。すると、虚空にスクリーンが表示され蒼い球体が映し出される。コアを収納指輪に戻し、スクリーンを見るとその球体がパラパラと欠片が散る様な映像が映し出される。
「さて、講義を始めるとしよう。人間の魂は、一体何なのかについてだ。簡潔に言えば、人間の魂は『巨大な自然エネルギーの集合体の欠片』だ。各世界の魂保有量については理解していると思うが、改めて説明する。各世界には、基準となる魂保留用が定められている。その基準となるのが、この自然エネルギーの集合体になる。そして、この集合体を覆う様に『薄い膜』が張られているのが見えるだろう。これが、世界である。かなり余裕がある様に膜が張られているのが分かるだろう。魂と世界の比率は、四対六が基本だ」
映像を見つめるディアラさんに、ミーアはノートと鉛筆を収納指輪から取り出して手渡した。それを受け取ると、ディアラさんは必死にメモを取り始める。この世界の住人にとって、かなり重要な情報が公開されている事もあり、必死にメモを取る姿をミーアは優しく見つめながら、隊長の講義を聞いている。
「この集合体が世界の膜を破ってしまうと、世界は消滅してしまう。その為、我々旅人は魂の保有量をしっかりと確認しなくてはならない。旅人の仕事は、数多に存在する世界の魂保有量の確認と世界の終焉までの流れをリアルタイムで監視する事が仕事だ。それ故に、魂の確認は最優先事項となる。さて、話を戻すとしよう。この巨大な自然エネルギーの塊から、少しずつ欠片が落ちているだろう。この欠片が自我を生成し、魂としての形状になる事で『生命体』が生まれる訳だ。簡単に言えば、動物や人間のようなものだな」
「は、はい!! 質問があります」
ディアラさんが手を上げて質問する。それに対して、隊長は「はい、なんでしょうか」と優しく微笑む。先生と生徒の授業風景を観ているようで、なんだか懐かしい気持ちになっている。
(先生、この公式はこれで合ってますでしょうか?)
脳裏に浮かぶ授業風景。まだ、俺が旅人ではなく一般人だった頃の学生時代の光景。まだ学生だった俺は、よく数学教授に分からない事を質問しては、理解しようと必死に喰らいついたのは良い思い出である。そんな事を思い出しながら、ディアラさんの質問を聞く。
「巨大な自然エネルギーの集合体の欠片が、自我を持つ事で生命体として魂が生成されるとのことは分かりました。では、死んだ魂はどうなるのでしょうか。輪廻転生を行なう際に、この世界の魂は形状が汚染されたことで変形されているとの事ですが、集合体と何か関係があるのでしょうか」
「その質問についてお答えしましょう。死後の人間の魂は、輪廻転生の環に乗って集合体へと戻って行きます。その際に、輪廻転生の環の中で魂の浄化が行われます。その後、集合体に戻ります。つまり巨大なエネルギーの集合体から欠片が落ち、人格を持って魂となり、死後に魂を浄化して、元の場所に戻る。そして、また欠片が落ちる。このループが『魂の循環』と言うものなのです。その際、魂の形状が変わると集合体に収まる事が出来なくなる。それは、魂が浄化される事が出来ず、その場に漂うことになる。これが悪霊、怨霊などの『負の無限エネルギー』となり、世界が不安定な状態になります。その結果、世界の幕が縮まるきっかけとなるわけです。そうなると、どうなるか。ディアラさん、分かりますよね」
「世界の消失ですね。つまり、旅人様達が仰っていた『この世界を救う事が出来ない』と言うのは、その負の無限エネルギーが原因で、世界の膜が縮まってしまったのですね」
「はい、その通りです。故に、我々旅人はこの世界を救うことを諦めました。あくまで、膜が縮まった事が原因な為、それを何とかする方法を模索しました。その方法が『この世界をコピーした新たな世界を形成』と言うものでした。世界の膜を新たに張り直した新しい世界に、この世界の住人を全て移す計画に移したのです。世界の方は完成しており、後はこのままこの世界ごと其方に移すはずだった。だが、此方の世界に異変が発生したわけです」
隊長はなんだかノリノリで説明をしている。今回、この世界に旅人が派遣された事の理由なども説明している。それに対して、ディアラさんは必死に喰らいつく様にメモを取っては質問をしている。旅人試験を受ける前の俺たちを思い出し、つい微笑んでしまった。
そんなやり取りをしばらくして、講義が終わると隊長が腕時計を見つめ「ふむ、そろそろか」と呟き、玲さんにアイコンタクトを送る。すると、玲さんはその場で頷くと、そのまま旅人の世界へ帰還してしまった。多分だが、ミーアの帰還などの報告をしに行ったのだろう。
「さて、そろそろ、次のフェイズに移るとしよう。竜仙、例の件はもう出来ているな」
「はい、出来ております。無月隊長とオルディアさんの協力の元、此方についての罠もいつでも発動可能な状態です」
「よろしい。御心、お前にはこれから起きる犯行について、防いで貰うことになる。御心が用意してくれた例の罠を利用して、確実に犯人を確保する予定だ。ただ、不測の事態が発生する事もある。此奴をお前たちに託す」
そう言うと、隊長は『押しボタン型スイッチ』の端末を手渡した。これが何なのか良く分からないのだが、何となく犯人が現れたら押せば良い事は分かった。それに対して、隊長はニヤニヤと笑いながらこのボタンについて説明を始めた。
「此奴は、転移装置起動用スイッチだ。犯人と遭遇した際にこのボタンを押せば、とある場所に転移する。場所は、まぁ、分かるだろう」
「隊長、まさか――いえ、分かりました。犯人と遭遇した際に押します」
隊長から預かったスイッチを、コートの内ポケットに入れた。テュイルはそのまま隊長の傍に立つと、俺に向かって無言で頷いた。これは俺たち二人だけの共通の合図で、無言での頷きは「後は任せたぞ」と言う意味を表している。それに対して、俺も無言で頷き返した。
「あぁ、そうしてくれ。ミーア、テュイルはこのまま一緒に帰還だ。特に、ミーアは旅人としての記憶が戻ったばかりか、旅人としての肉体を失っている状態で無理やり今の肉体で混力を使用した。旅人としての肉体は、もう出来ているから其方に肉体を戻す。その後は、魂と肉体の調整を行なうからそのつもりでいなさい。テュイルは、引き続き周辺の世界への影響調査を実施してもらいたい。ディアラさん、しばらくの間ミーアとは会えないですが、必ずまた貴方に会えるように対応しますので、お許しを」
「いえ、ミーアちゃんの為だと言う事は、理解しております。確かに寂しいですが、それでもまた会えるまで、しっかり勉強して強くなります」
「ありがとうございます。さて、俺たちは急いで帰還するぞ。御心と竜仙は、引き続きこの世界の調査を頼む。では、また連絡する」
そう告げると、ミーアも隊長の傍に近づく。そして、俺に向って微笑むと「行ってくるね」と告げ、隊長たちはそのまま旅人の世界へと帰還した。残っているのは、俺と竜仙、そしてディアラさんの三人のみになる。円卓状の机をそのままに、竜仙は椅子から立つと右袖から書類を取り出し、そのまま此方へと歩いてやって来る。ディアラさんもノートをまとめ終えたらしく、ノートを閉じると席を立ち、すぐに竜仙の後を追ってやって来た。俺も立ち上がろうとしたのだが、竜仙はすぐに「そのままで構わないので、此方を」と告げて書類を受け取った。それは調査報告書らしく、調査した内容の結果が書かれていた。
「旦那、例の隠し通路の件ですが、旦那が睨んだ通り足跡痕、血痕、血痕による指紋などが見つかった。更に、奴隷だった人間と思われる遺体の山も発見した。後、やはり睨んだ通り、例の屋敷から証拠となる資料が発見された。此方については、筋肉教団の司祭による強制調査と言う名目で証拠品を押収。現在、アグニラ家とシュレイド家の両家については今回の犯行に関する証拠が見つかり捕縛した。部下は撤退済みとなっている。後、此処を見て欲しい」
そう言って、竜仙は調査報告書の最後のページの『とある内容』を指した。そこに書かれている内容に、眼を見開いてしまった。それは、この現状であってはならない情報だったからだ。それとほぼ同時に、屋敷を揺らす爆発音が聞こえた。すぐに竜仙とディアラさんに爆発が起きた場所へと向かわせ、俺は報告書の内容を再度確認し、すぐに収納指輪に全ての書類を回収してから向かった。そこに書かれた内容は――
『隠し通路の調査した際に、隠し扉を発見した。そこに、無数に積み重なった白骨死体を発見した。どうやら、死体を隠すために利用されたと想定される。また、部屋の奥に死後二十年は経過した腐敗した死体を発見した。死因は頸椎圧迫による窒息死であると想定。また、心臓が抜かれたのか跡があり、死後に抜かれたと想定される。手首には奴隷に使われる枷のような物があった。そして、アグニラ家のDNAと照合した結果、死体は『トーチャ・アグニラ』であると判明した』




