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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
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8話 三大厄災大戦

新年明けましておめでとうございます。

今年一年も、よろしくお願い致します。


今年一発目の詩を投稿して次の日に、小説を投稿する事が出来ました。

やはり、仕事が休みだと書きやすい(;;


さて、一昨年から引き続きコロナのせいで外出を自粛しながらの生活を送っております。

そろそろ、遊びに出かけたいなぁって思ったりもしますが、やはり仕事の事もあり止める日々。

健康のために、朝と昼の散歩を取り入れるようになってから、体重も減りまして健康体に戻りました。

皆様、コロナ化でストレスが溜まるかと思いますが、その時は気分転換に散歩をしてみては如何でしょう?


そんなこんなで、そろそろ私は次話に取り掛かるとします。

では、皆さま また次話で会いましょう ノシ


 目的地へ向かう中、俺はあの日の大戦を思い出していた。絶望とも呼べる大戦であり、我々旅人はあの大戦を『三大厄災』と呼んでいる。多くの世界を守る為に戦ったが、結果的には多くの世界が消滅した。その後、無月隊長の持つ『全世界を記録した書』である『クラウンレコード』と呼ばれる書の力で、元通りに戻す事が出来た。だが、今でも忘れられない、あの時の隊長の表情を、地獄の戦いの事を――。


 あれは、そう。俺が旅人の世界で死刑囚に対して罪状を読み上げ、その手で殺した日の午後の事だ。旅人として、多くの世界の監視と言う仕事がある。人手が足りない状態の中で、多くの世界を監視する為に忙しなく仕事が行われている。そんな中、多くの神々が犯した『やらかし』のせいで、一々断罪しに行かなければならないと言う『面倒くさい仕事』をやらなければならない状態である。


「あぁ、なんでかねぇ。意志を持つ者は、手違いだって起きる事は解かる。でもね、その手違いで人間殺し過ぎなんだよ!! こちとら、睡眠時間削ってまで現地に行って、そんな神々に説教とか、断罪しなくちゃならんて、馬鹿なのか彼奴ら」


 怒りのあまり、仕事部屋の中で叫び声を上げてしまった。最近、新人が入ったのは良いのだが、この仕事の説明や実地訓練等でとても忙しい。そんな中で、やらかしを犯す神々に対して怒りが込み上げてしまった。手に握っていたお気に入りの万年質を、怒りのあまり握りしめ砕いてしまった。だが、手から血は流れることは無く、ただ破片が刺さっているだけである。

 痛みはなく怒りで腸が煮えくり返りそうな中、扉をノックする音と共にいつもの着物姿で竜仙が入って来た。部屋に入ってすぐに資料の山があるのを見てこめかみを引きつらせ、俺の方へと意識を向けると、今度は溜息を吐いて呆れ口調で話してきた。


「旦那、これで三千五百六十七万と四千二百七十五本目を砕いたぞ。確かに怒るのも解かるが、物に当たるのはどうかと思うぞ。それ、旦那のお気に入りなのだろう」


「あぁ、そうだけどな。あの神々のせいで、ストレスが溜まって仕方がない。第一、旅人の仕事をなんだと思ってるんだって言いたいわ。あの野郎ども、今度やったらマジで首切り落としてさらし首にしてやろうか」


「相変わらず、怒りは収まらないと。確かに、今回ばかりは他世界の神々に対しての擁護は無理か。旦那の付き添いとは言え、この資料を見て絶望を覚えたぞ。これ程の数の案件を裁いたのか? 見た限り、五千件は優に超えてる様に見えるのだが」


 竜仙が言う様に、部屋の床から天井すれすれ付近まである資料の束が十束ある。これはすべて裁いた者たちの報告書であり、回収班の対応待ちとなっている。現在、異変の調査で多くの旅人が出払っており、俺もまたこの後すぐに監視対象の世界へ赴かなければならない。

 そもそも、何故この様に旅人が世界の監視をしなければならないのか。その理由は他世界への悪影響を及ぼす事象をすぐに検知し、即対応するためである。ただ、人手が足りない事もあり、昨日から起こってしまっている異変にも発生してから気が付いたため、俺以外の全員が出払っているのである。隊長たちも本来なら此方の世界で資料整理や、新人教育と言う仕事があるのだが、急ぎの対応と言う事で新人を連れて各世界へと向かい異変調査をしている。

 世界の監視とは言え、そろそろ他の神々に対しての規律法案なども改正もしなくてはならない。この異変が起こる大本の理由だが、神々による異世界への転生、一つの世界に保有できる魂の許容量オーバー、異世界への転移なども他世界への影響を及ぼしている。つまり、何が言いたいのかと言うと、神々や他世界の人間たちが原因で、他世界どころか全ての世界に悪影響を及ぼしていると言う事だ。


「大体なぁ、なんでそんなにポンポンと異世界に召喚するかね? 旅人を舐めてるのかって、マジで思った―――!?」


 今まで経験したことのない凄まじい爆発音が世界に響き渡る。俺たちは急いで背後にある窓の方へと向かい、窓を開けて空を見上げた。そこには無数の鎖に繋がれた巨大な球体が浮いており、その中にも無数の小さな鎖に繋がれた無数に存在する球体がある。その中の一つに繋がっていた鎖が爆散したらしく、球体と鎖の留め金箇所から煙のようなものが上っている。そこから、数名の旅人が現れると焦っているのか、通信端末を取り出してどこかに連絡をしている。

 巨大は他にもあり、そこの中にも無数に存在する世界に繋がっている鎖が、爆散してしまい煙が立ち上っている。他の世界に供給する鎖であり、一部の破壊によって連鎖的に広がり爆発は次第に大きくなっていく。あまりにも被害箇所が多いせいか、他の部隊の者たちも状況が判断できず右往左往している状態だった。


「な、何が起きやがった!? エネルギーラインの接続金具が壊れたのか!? 旦那、俺はすぐに情報斑の所に向かう。旦那は――「すぐに隊長に連絡を取る。会議室で合流だ」了解した。では、会議室で合流だ」


 そう告げると、すぐに竜仙は情報斑のある部屋へと駆けだした。その姿を見ながら、俺は急いで無月隊長に連絡を取る。だが、中々連絡が取れず、どうしたものかと頭を抱えたのだが、狼月副隊長から連絡が入る。


『五十鈴、そっちは大丈夫か!? こっちは、隊長と共に帰還の途中だ』


「狼月副隊長!! 此方は目視での確認ですが、全世界へのエネルギーを供給する鎖の留め金が爆散しました。それに伴い、エネルギーラインの連鎖爆破が起きています。現状、被害は甚大であり、私の部下が情報斑の元へと向かっております。情報が入り次第、すぐに報告を致します」


『了解した。此方で分かる範囲で説明する。全ての世界での情報を共有した結果、次元の檻に封印された神である『初代』の封印が解かれ始めている。その結果、エネルギー供給ラインへの多大な負荷がかかったらしい!! 更に、此方かでは解からないが、初代の力で『狂いの神』が目覚めたらしい!! 現状の情報から推測するに、この二柱の禍々しい力によってエネルギーラインの連鎖爆破が起きた可能性がある。現在、他世界に及ぶ影響が甚大であり、すぐにでも対処が必要だ』


 副隊長からの連絡に、血の気が引いてしまった。我々旅人にとって、決して忘れてはならない存在であり、全ての生命の祖であり人間といしての形の始まり。全ての祖であり、始まりの君と呼ばれる『初代』は、無月隊長と互角であり、封印する為に相打ち覚悟で一撃を与えて何とか封印できた存在だ。そして、狂いの神。始祖である嬢ちゃんの力の一端を受け継いだ者である。その力をどうやって受け継いだのか、また誰が受け継いだのかすら情報が不明である。もともと、一柱だけでも全ての世界を消せる力があるのに、同時に目覚めようとしている。それだけでも、血の気が引いてしまうのは仕方がない。


「了解しました。すぐに、全部隊に情報を通達します。隊長方が戻られ次第、すぐに行動がとれるように対応します」


『本来なら我々がしなければならないのだが、済まないが頼む』


「了解です」


 通信を切り、俺はすぐに会議室に向った。そこには怪我をしているのか治療を受けている旅人などが居り、医療班などに指示を出す国王たちの姿が見えた。俺はすぐに国王の元へと向かい、副隊長からの報告をした。その後、すぐい部隊は編成され、怪我の治療を終えた部下たちも戦闘準備を始めた。

 その後、白詩隊長たちが帰還し、合同会議が開かれた。そこで、班編成がされる事となり、初代と唯一互角に渡り合える白詩隊長と第一部隊隊長である雅竜がりゅう隊長が、初代との戦闘を行なうことになり、それ以外の者たちは狂いの神の対応を行なうことになった。疲労回復効果のある御神水を飲みながら、武器の整備に取り掛かっていた。俺も断罪用の大鎌である『シェルフィーダ』を取り出し、いつでも戦闘が行えるように背負った。


「旦那、部隊の編制が完了した。すぐにでも行動に移せるぞ」


 竜仙の声が聞こえ振り返ると、百鬼夜行部隊全員の姿があった。いつでも戦闘ができるように武器を装備しており、竜仙部隊とシータ部隊に分かれて列を作っていた。彼らは、狂いの神によって生まれ故郷である世界を破壊され、帰る場所を失った者たちだ。そんな者たちを勧誘したことで、百鬼夜行部隊は誕生した。

 皆が皆、狂いの神に恨みがある。嬢ちゃんもどうして力が譲渡されてしまったのか不明らしい。以前、狂いの神が目覚めた時は『嬢ちゃんと俺の力』で、何とか封印する事が出来た。その後、情報を確認しようとしたのだが、狂いの神の存在が次元の狭間に封印されたまま落ちてしまい、情報を確認する事が出来なかった。


「これより、我が部隊は狂いの神の討伐に移行する。嬢ちゃんのフォローを受けているとは言え、彼奴の力は強大だ。俺たちの他にも、各部隊の者たちと連携を取る事になっている。お前たちには他の部隊のバックアップなどを行なってもらいたい」


「旦那の言う通り、今回は我々だけではなく他の部隊との合同になる。互いに足を引っ張るようなことはするな」


「創造主の指示に従い、我々の力を持って今度こそ奴を倒す。行くぞ」


 シータと竜仙の言葉に、無言で頷くと部下たちはすぐに行動に移る。竜仙とシータが指示を出し、各小隊の隊長と連携について話し合いを行なう中、俺のはもう一人の人格と会話を始める為に、壁に寄りかかり眼を閉じる。意識を闇の中に落としていくと、そこに鎖で両手足を縛られ身動き出来ない一人の白髪の青年がいる。ジッと此方を見つめながら、ニヒルの笑みを浮かべている。


『よぉ、久しぶりだな。兄弟』


「あぁ、久しぶりだな。兄弟」


 青年は嬉しそうに声をかけるのだが、俺は冷めた表情で応える。それに対して『連れないねぇ、ケケケ』と笑いながら答える。此奴とは長い付き合いとは言え、できれば関わりたくないと思っていた。だが、今回は事情が事情なだけあり、どうしても話を聞かなければならない。


「兄弟、お前は彼奴の事を知っているのか」


『彼奴ぅ? あぁ、あの死にぞこないの狂いの神か。あぁ、知っている。彼奴は俺と同じ存在だからなぁ』


「同じ存在? そんなわけないだろう。俺たちは始祖との契約で『狂い神』になった。だが。彼奴は『狂いの神』であり、始祖と同じ存在のはずだ」


 俺の答えに、何故か『本当に何も知らねぇのか』と呆れたような表情で青年は応えると、すぐに楽しそうに語り始めた。


『狂い神ってのは、そもそも来日の神に昇華できちまう存在を意味している。あの死にぞこないは、何かを対価に捧げたことで昇華した。その昇華に捧げた対価が分からねぇ限り、彼奴は殺せないだろうよ。俺とお前が一つに戻る日がくりゃ、話は別だろうがな』


「それはゴメン被るな。お前と完全に一つに戻ったら、また殺人鬼の頃の俺に戻っちまうだろう。それだけは、絶対に避けたいんだよ」


『だがよ、彼奴は――いや、本当に必要な時に呼べ。一つにならなければ、勝てない敵であることは変わりないがな』


「あぁ、その時は必ず呼ぶさ。その時は殺人鬼として、な」


 深い闇から意識を解き、いつものように空を見上げて外へと出た。外には百鬼夜行部隊が全員武装を構え、出立の指示を待つかのように背筋を伸ばし立っている。皆が皆、俺の指示を今か今かと待ちながら、その鋭い目つきは鋭い。


「これより、狂いの神との交戦が始まる。良いか、お前たち。生きろ!! 決して、死ぬことは許さん!! 俺たちは、全ての世界の明日を守る為に戦う事を忘れるな!! 生きている限り、俺たちの勝ちだと言う事を忘れるな!! お前たちが今まで溜めに溜め込んだ怒りを、今度こそ奴にぶつけ、今度こそ仕留めるぞ!! 準備は良いか」


「「「「御意」」」」


「百鬼夜行部隊、全軍!! 前進」


 こうして、俺たち旅人と狂いの神との死闘が始まった。全軍が上空にある巨大な球体の中へと入ると、一瞬に風景が変わり宇宙空間のような漆黒の世界が広がった。足場もない、無重力のような静まり返った空間。宇宙空間に似た暗さの中を、小さな球体が発光――いや、小さな世界の光によって照らされており、世界観に繋がっている鎖が淡い緑色に発光している事で、周囲の状況を判断する事が出来る。現在、無月隊長と初代の気を感じ取り、其方の方向からは凄まじい衝撃音が響き渡る。それに伴い、反対の方向からは懐かしい気配を感じ取った。それがすぐに『狂いの神』である事が分かり、すぐに其方の方向へと向かって飛行する。

 そこでは他の部隊の連中がすでに戦闘を始めていたらしく、第零部隊の仲間たちの部隊も戦いを始めていた。そこからは、全部隊による狂いの神との戦いが始まった。狂いの神の力は強大ではあったが、何とか優勢になっていた。だが、この人数で戦闘しているのに、まるで手を抜いているかのような違和感を感じた。何故なら、先ほどから狂いの神は『ニヤリ』と笑っているのだ。


「なんだ、この違和感は――っ!? 皆、逃げろ」


その違和感は的中し、俺は戦闘している仲間たちに向かって叫んだ。狂いの神が『ニヤリ』と笑った時に気が付くべきだった。背後から赤黒く染まった刻竜が現れ、旅人や世界への攻撃が始まった。当初まで優勢だった戦いが、一瞬にして劣勢へと入れ替わり酷い状態になってしまった。死者は出なかったが、重傷者を避難させるなど、かなり拙い状態になっていた。


「狂いの神!! 貴様、何をした」


 俺の叫び声と共に、心の中に眠る彼奴から答えが帰って来た。


『あぁ、因子を与えやがったんだろうよ。助ける方法は二つ。狂いの神を仕留めるか、刻竜を仕留めるかだろうよ』


「ッチ!? なら、竜仙、シータは刻竜を抑えろ!! 殺すのではなく、気絶をさせることを考えろ!! 俺が狂いの神を抑える。何としても、奴らを隊長たちの元へ近づけるな」


「「御意」」


 竜仙たちの声を聴いて、すぐに俺は狂いの神へと戦闘を再開する。度重なる轟音と金属音の中で、俺一人で狂いの神を相手に戦闘を続けている。他の仲間たちについては、先ほどの刻竜の攻撃を受けて、戦闘続行が不可能となり退避している。その為、現在は俺一人での戦闘となっている。言わば仲間たちの退路を確保する為に、殿として戦闘を行なっている。何度か戦闘した経験があっても、互いの戦闘スタイルや癖を熟知しているせいで、どうしても倒せる程の決定打が掴めないでいる。たまに聞こえる、ガラス細工が砕け散るような音が響き、それが世界の消失であることに気が付き、より一層に焦りが生まれてしまう。


(以前はペラペラと喋っていたはずが、今回は一向に喋る気配はない。それがかえって不気味でしかないが――だが、此処で確実に仕留めなければ)


 一切喋らない狂いの神に対し、此方も無言で大鎌による斬撃を行なうも、手に握る『深海のようの蒼黒い炎を纏わせた杖』で全て防がれてしまう。それと同時に奴持つ杖から放たれる火球を大鎌で振り払いながら、奴の首へと向けて攻撃を放つ。だが、それも杖による攻撃で防がれ、弾き返される。その間も、刻竜や初代の戦闘によってか分からないが、世界が消失していく事が分かる。狂いの神の攻撃が世界に届く前に、俺が防ぎ切り何とか破壊を阻止しているが、正直に言えばこれ以上守りながらの戦闘は厳しい。それ程の苛烈な戦闘となっている。


「五十鈴!! 援護に来たぞ」


 背後からテュイルの声が聞こえるが、苛烈な戦闘の中で返答する事など出来ず、此方も無言の状態で亜音速を超える攻撃の攻防をしている。互いに傷を負いながらも、決定打にはまだ至っていない。傷を負ったとしてもすぐ回復してしまう為、長期戦になるのは覚悟していた。それは相手側もそうだったらしく、ニヤリと笑っていた表情が一変して『険しい表情』へと変わっていた。余裕のない状況を判断したテュイルが、今すぐ戦闘に加わろうとしている。背後にミントたちがいる事は分かっており、交代するタイミングを測っている事も分かった。だが、そのタイミングを作らせるつもりはないらしく、更に速度を上げて攻撃を仕掛けてくる。蒼黒い炎が刃となって襲い掛かるのだが、それを避けながら攻撃を弾き返す。少しでもその炎が世界に当たれば、確実に焼失してしまう。だからこそ、その炎が世界に当たらない様に、必死に炎を相殺するように捌き続けている。


「ミントたちは回復とバフを頼む!! 奴は俺と五十鈴でしか対応が出来ない!! 世界を守る事だけを考えて対応してくれ」


『了解』


 斬撃を弾き返す事だけに集中している為、何を話しているのか分からない。亜音速を超えた斬撃を弾き返しながら、テュイルが参戦できるタイミングを作り出す。一瞬だけ『ッグ』と言う呻き声に近い声が聞え、一気に狂いの神へと接近して弾き飛ばす。その先にテュイルが光速で移動し、真紅に燃える杖で斬りかかる。だが、その攻撃も予想できているらしく、蒼黒い炎の杖で防いだ。すぐに参戦しようとしたが、背後から「ストップ」とミントの声が聞こえ振り返る。そこには回復薬の液体が入った瓶を手に持ったミントがおり、それを俺へと向けて投げ渡した。受け取ると同時に瓶の蓋を外し、俺は一気に飲み干した。


「他の世界に関しての保護は此方に任せて、五十鈴は彼奴を倒す事だけを考えて」


「ミント、お前も戦闘に参加したんじゃないのか? お前の世界も彼奴に壊されたはずだ」


「うん、本当なら私も戦いたい。でもね、彼奴を倒せるのは、五十鈴君とテュイル君しかいないから、だから――彼奴を倒すの、任せたからね」


 そう告げると、ミントはすぐに後方へと移動した。後ろにいる仲間たちと合流すると、すぐに巨大な結界を張り俺たちを囲った。それに気が付いたのか、刻竜が此方に向けてブレスを放とうとしているのだが、それを竜仙たちによる攻撃によって邪魔され口の中で爆発した。それを見届けてから、此方もすぐにテュイルの援護する為に飛行する。此方の大鎌を振りながら、攻撃を開始する。斬撃を何度か放つのだが、全ての攻撃を何事もなく弾き返しては反撃をしてくる。二人係りでも追い詰めきれない状況だが、少しずつではあるが回復速度が遅くなっているのは分かった。


「テュイル!! タイミングを合わせろ!! 此処で仕留める」


「了解だ、五十鈴!! 行くぞ」


 テュイルと共に連携した斬撃を放つ。俺の大技である『神断ち』で首を切り落とす為に、斬撃を放つタイミングを作り出す。此方の連携した斬撃に流石に捌き切れず、苦しそうな表情に変わる狂いの神に、ようやく奴の首を捉えるタイミングを作り出せた。テュイルの袈裟斬りが狂いの神に入り、完全な隙が出来たと同時に俺の大技によって首を吹き飛ばした。これで終わったと結界を貼っている仲間たちは油断した。そう、この油断が更なる悲劇を生んだ。


『――――』


 狂いの神の声なき叫びによって、凄まじい衝撃波が発生した。その衝撃波には『狂いの力』が籠っており、結界は一瞬にして崩壊した。そして、その衝撃波に触れた世界もまたシャボン玉がはじけ散る様に消え去り、他の仲間たちにもその余波を受けた。


「キャァァァァ」


「ッ!? ミント!! どうした――」


 ミントの叫び声を聞き振り返ると、ミントが衝撃波を受けた事で血を流しながら吹き飛ばされて行った。後を追いたかったのだが、狂いの神の胴体がそれをさせまいと襲い掛かる。首を切り落としたとはいえ、まだ胴体は動けるらしく此方も意表を突かれ蒼黒い炎の刃を突き刺された。最後の悪あがきだったらしく、その胴体は光の粒子となって消えると同時に炎も消えてしまった。突き刺さったままの杖を引き抜く事も出来ず、俺の意志気は完全に闇に落ちてしまった。



「どうした、五十鈴。何か考え事しているみたいだが」


 あの大戦の事を想い出しながら森を抜けて、ゲーディオの街へと入る。街の中で想い出に浸るのも危ない為、現実に意識を戻し早歩きで目的地であるシーボルト家に向っている。時々、俺に声をかけてくれる人もおり、軽く挨拶をしながら向かっている。そんな中、気になっていたのかテュイルが「何か考え事をしていたようだがどうした」と聞かれ、あの大戦の事を思い出していた事を伝えると、懐かしい表情をしながら「あの時か」と言うと、昔を懐かしむように話し始めた。


「あの大戦の時、俺たちは奴を仕留めた。正直に言えば、あの戦闘は地獄だったな。竜仙たちが刻竜を正気に戻し、隊長たちは初代を倒した。そして、奴の放った衝撃波で多くの世界を失った。だが、すぐに隊長の手によって復元された。あの力は凄まじい物だったな」


「そうだな。俺は、瀕死の重傷で見てはいなかった。だが、話だけは聞いている。確か、世界を修復する力のある書だったと記憶しているが、全ての世界を対象に元通りに戻せるのか。確か、捨て身の衝撃波で無月隊長と初代がこの世界に落下して、戦闘を行なったんだったか。こっちの世界でもかなり有名だ。激戦の後に世界の修復するなんて、そこまで体力が残っていたことに驚きだ」


「まぁ、隊長だからとしか言えないが、いつも鍛えているからと言うのもあるのだろう。それに、旅人が力を極め続ければ『神』へとなると聞いている。全ての部隊長とは言わないが、数人は神化出来ると聞いたことがある。隊長もその一人だからもあるが、神化すると体力の回復も早いと聞いている。そのおかげかもしれないな」


 苦笑しながらも互いに会話をしていると、ようやく目的の屋敷が見えて来た。部下たちの気配がない事から無事に帰還したらしく、正面玄関前に着くと同時に通信端末から部下の撤収と情報収集完了の報告メールが来た。それを確認し終えると、テュイルは何か思い出したらしく質問してきた。


「そう言えば、この世界にあの狂いの神が落ちたのだろう。胴体はあの時、光の粒子として消えたはずだが、どうやってこの世界に落ちたのだ」


「そう言えば、確かにそうだな。あの時、確かに光の粒子となって消えたのは確認した。なら、この世界に落ちたって言うのは変だな」


「そうだな。確かに、この世界に狂いの神が落下したと、報告は受けている。てっきり狂いの力に感染した刻竜の破片がこの世界に落下し、それが狂いの神になったのではないかと思っていたのだが、それなら何故『狂いの欠片』が出現するのか。そもそも、狂いの欠片は『狂いの神が瀕死の重傷を負った時に出現する』と聞いている。そうなると、いや、まさか」


 何か気が付いてしまったような表情をするテュイルに「どうした」と問いかけると、ある一言を俺に告げた。その一言を聞いて、俺はあの日の事を想いだし青ざめる。そう、あの時に気が付くべきだった事を、俺は――俺たちは忘れていたのだ。


「あの大戦の時の事だが――」


 あの大戦の時、誰もが勝利に歓喜した。あの時に、俺たちは気が付くべきだったのだ。奴を倒した時に、確認するべきだったのだ。あの死ぬ間際に『ニヤリ』と笑う奴の首を見て、その衝撃波を阻止する事が出来なかったあの時に、気が付くべきだったのだ。


「奴の首は、どこに行ったんだ」

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