7話 再会
どうも、今年最後の月に小説間に合った私です。
頑張った、超頑張った(;ω;
何とか間に合う様に頑張って時間作って、頑張って書き上げれた。
来年は、今の速度をキープして書けるように頑張るです(;ω;
では、次話で会いましょう ノシ
テュイルが目の前に現れた事に、内心驚きながらも腕を組みながら見つめる。何故だろうか、足元には先ほど映像で確認した人型の木製の人形がうつぶせに倒れていた。心臓の位置には黒い焦げ跡が残った穴が開いていた。一瞬の事だったのか、抵抗する跡は一切なかった。その木製の人形を掴み上げ、仰向けに態勢を変えた。重さは成人男性と同じくらいの重みがあり、よく胴体を観察すると魔法陣の様な紋様が彫られた跡があった。他にも首筋の近くに、どこかの貴族の家紋のようなものも掘られている。テュイルの技で抉られた箇所から焦げた跡で、魔法陣の紋様が破損していた。その魔法陣を見ても、しっかりと破壊されているので再発動する心配はなかった。
「心臓付近の抉られた跡、気の焼けた匂いと――内部には肉の焦げた匂い。よくよく見れば、表面だけは木製になっているが内部は人間の臓器らしきものが見える。これは、皮膚だけを木製に変化させたと言うのか!? コアは、なるほど。テュイル、お前コア抜きをしたな。灼熱の手で抜き取ったから、この様な焼き焦げた跡が出来た訳か。と言う、推理だが合っているかな」
「あぁ、その通りだ。魂の方も輪廻の環に戻して置いた。どうやら、以前のアレと同じ禁忌を人間が行なったのだろう。魂の穢れを確認した限り、死後百年以上は経っていた。やはり、この世界にも禁術が伝わっているようだ」
「そのようだな。一体、誰が禁術を作り出した――いや、情報を伝達したのか。それについても調べなくてはならないな。後、魂の件についてだが、対応してくれてありがとう。で、話は変わるが、旅人の規約違反状態なのだが、何か特別な理由があって此方の世界に来たのか」
「あぁ、少し事情があってな。国王直々の呼び出しと隊長からの指示で、先月此方の世界に介入した。本来ならお前に連絡する必要があったのだが、かなり切羽詰まっている状態だったのでな。事後報告になってしまうが、先に残りの欠片を回収してからにした訳だ。これが、バルダから回収してきた狂いの欠片だ。今、お前に必要なモノだろ」
そう言うと、テュイルは収納指輪から灰色の小さな石板の欠片を三個取り出すと、そのまま俺へと手渡してきた。行き成りの事で落としそうになったが、すぐに収納指輪にしまい嬢ちゃんに転送させた。元々、バルダへと向かうために旅を始めたはずなのだが、テュイルが回収して来たようだ。そして、国王直々からの呼出しと言う事は、確実に緊急事態による出動命令である。まさか、予想外の出来事が発生したのだろうか。
「なんだ、欠片を回収してくれたのか。欠片所持者の情報も欲しいところだが、代わりに回収して貰って助かった。ところで、切羽詰まっている状況と言っていたが、何か異変が起きたのか。国王から直々となれば、他世界への影響を及ぼす程の問題が起きたと言う事か」
「それは――そうだな。この世界を担当するお前には、伝えなくてはならない事だな。話せば長くなるのが、簡潔に言えば、また世界間を繋ぐエネルギーラインが破壊された。調査した結果、エネルギーラインとなる鎖の内部から、強大な狂いの神の波長が放たれた。その結果、鎖が内部から破壊され、現状修復不能な状態になった。その為、緊急対策として、別側から新たなエネルギーラインとなる鎖を接続し、早急な対応として俺が駆り出された。五十鈴、お前たちのおかげで状況は優位に進んではいる。それ故に、相手側も焦っているかもしれん」
「それならば良いのだが、エネルギーラインがまた壊れたのか。流石に、何度も破壊されるとなると、国王からの直々の指示は納得だ。つまり、この世界に落ちた狂いの神の波長が強大になり、通常よりも強力な力で破損されたと言うこと。それは、目覚めが近づいていると言う事か? 現在、狂いの神の名が『レーヴァ』である事しか判明していなんだぞ。時間が無さすぎる」
レーヴァと言う名に微かだが反応した。今思えば、テュイルもまた『レーヴァティン』が擬人化した存在だった事を思い出した。元々は人間だったが、とある理由で北欧神話の巨人スルトとの契約でレーヴァティンを破壊した。その結果、正の側面である『テュイル』と負の側面である『レーヴァ』に魂が分かれた。その後に何やかんやあり、彼のいた世界が消滅した。最終決戦でレーヴァと魂の統合を果たし、レーヴァティンとしての彼に戻ったのだ。
「レーヴァ、か。懐かしい名だな。俺の場合は、レーヴァと一つに統合した事で本来の姿に戻った訳だが。この世界に落ちた狂いの神が、俺と同じ存在かどうかは不明だがな。それにしても、レーヴァか。懐かしくもあるが、俺と同一存在かどうかも不明。もし、俺の半神でるレーヴァの情報を元に何者かが創ったのだとすれば、そいつを殺さなければならない。五十鈴、欠片の調査結果を教えてもらえるか」
「あぁ、俺が持っている情報だが、なんでも北欧神話時代の終わり近くで生まれた存在らしい。レーヴァティンが擬人化すると言う事は、その世界で大きな異変が起きた可能性がある。例えば、北欧神話の最後辺りでイレギュラーな事象が発生したとかな。どちらにしても何故、擬人化したレーヴァティンが『狂いの神』になったのか。その理由は、お前から提供される前の欠片では不明な状態だった」
「なるほど、俺が回収してきた欠片にその情報が残っている可能性があるわけか。俺の場合は、北欧神話での終局の序章くらいだったか。その辺りで魂が砕け、世界を終焉に導くラグナロクすら発生させずに世界そのものを消し去ったからな。この世界に落ちた狂いの神がどの様な存在なのか不明だが、俺と同じ存在ならば確実に仕留めるべきだろうな」
テュイルは自身の持つ『真紅の炎で燃え盛る杖』を収納指輪にしまうと、懐からラムネの粒が入った瓶を取り出した。市販で売られているラムネと形状は同じ様に見えるが、俺へのお土産なのだろうか。そんな事を思っていると、そのまま手に持っている瓶を俺に向かってアンダースローで投げ渡した。地面に落とすことなくラムネを受け取ると、テュイルも同じモノを一個取り出した説明を始めた。
「これは、お前の奥さんである始祖から渡して欲しいと頼まれたものだ。このラムネには『狂い神』の力を抑える性能があるらしい。大体、お前はあの大戦で瀕死の重傷を負った。俺もあの時は現場に居たが、お前に竜の因子を入れた事で『人の姿』を保てなくなっていた。あの時の竜人の姿は驚いたが、もう落ち着いたと思っていたのだが未だ完全に戻ったわけではなかった。これは、お前が力を行使しなければならない時、飴の効果が効かない時に『人の姿に戻す』効果を一時的に高める為に作られた薬だ。勿論、飴が無くなった時の代用品としても使えるらしいぞ」
「なるほどな。形を見る限りラムネにしか見えないが、ラムネの形をした薬であっているのか? 菓子が薬と言うのも不思議な感じがするが、嬢ちゃんが作った物だからな。薬としては安心して飲めるのだろうが、何かしらドッキリ要素を用意して良そうで怖いのだが。まぁ、有難く貰っておく。先ほど、力を解放したから一粒だけ食べてみるか」
瓶の中に入っているラムネを一粒取り出し、そのまま口の中に入れ噛み砕く。口の中にラムネの甘味が広がるが、同時に何やら微かに苦みを感じ取った。この苦み、嬢ちゃんと初めて契約する際の口づけの味と似ていた。まさか、嬢ちゃんの唾液が混ざっていないかと不安になる。だが、この味は契約をした時の血の味に似ている。
「なんだ、これ!? 甘いと思ったら急に苦くなったんだが――おい、まさか、嬢ちゃんの血が入ってるのか? 確かに体の不調は無くなったが、苦みが凄いんだが。いや、でも少し力が落ち着いたようには思えるな。まさかと思うが、お前のも同じモノが入っているのか」
「いや、これは違う。お前のは、始祖が作成したものだ。俺の持つこれは隊長が作製したモノで、使用されている材料自体が違う。それ故に、味に違いがあるだろう。俺の場合は狂いではないが、厄災の力を抑える必要がある。俺の場合は、隊長が用意した能力を抑える薬液が混ざっている」
「なるほど。こっちは血で、お前は薬液か。嬢ちゃんの事だから、この光景を観て楽しそうに笑っているんだろうな。嬢ちゃんはいつも俺の行動を監視しているとは言え、何かするなら事前に欲しかった。まったく、事前連絡すらなく勝手に嫁を十五人も増やすばかりか、本体の俺の肉体はまだ調整中だと言うのに」
嬢ちゃんに対して不満を呟くのだが、それに対してテュイルは腕を組みながら溜め息を吐く。仕事終わりに竜仙を連れてテュイルと酒を飲むのだが、大半が嬢ちゃんの愚痴になる為、テュイルとしては聞き飽きたのだろう。まぁ、お互いに奥さんがいる手前、あまり飲みすぎたりはしないのだが、何故か竜仙を含んだ三人で飲むと盛り上がってしまう事が多い。
「お前の場合は、刻竜の因子を移植したんだ。花嫁――いや、此処では巫女と言うべきか。お前の力は、第零部隊の中で副隊長とほぼ互角レベルの力を得てしまっている。その力を抑える為に、十五人の花嫁が必要だった。ただ、それだけだろう。一人の女性を愛する事の方が良いのは解かるが、お前の力は隊長たちと同じ全ての世界に悪影響を及ぼすのだぞ」
「そのくらい理解している。でもな、こう言ったのは、勝手に決めるべき事ではないだろう? 本人の意志を尊重し、現在の嫁たちとの相談だって必要だ。それに、俺の意見もなく勝手に進めるのも納得いかない」
「相変わらず、お前は――いや、五十鈴は変わらないな。全ての物事をちゃんと見極め、公平に裁きを下す。罪を犯した罪人に、正しき罰を与えてきた。だからこそ、断罪者と言う旅人の称号を得た。お前だからこそ、正しく罪人を処罰できたのだろう。さて、話を戻そう。現在、狂いの神の欠片が六個の欠片が集まった。だが、この場所に狂いの欠片の反応があったのは確かだ。つまり、この世界には欠片が八個あることになる」
欠片の話をしていると、上空から一体の鳥型ゴーレムが地面に落ちる。翼の部分を見ると焼け切れたような跡が出来ていた。岩のようにゴツゴツとしている大鷲のゴーレムを見ると、何が起きたのか分からず暴れている。この場から逃げようと体を起こそうとしているが、ゴーレムの肉体なだけあって、無理やり体を起こそうとしても片翼を失ったことでバランスが取れずに状態を起こせないのだ。
「確かに、欠片は偶数個存在するのは確かだ。最低数が六個であり最大数が八個であることは分かっている。まったく、この世界に来てからいろいろと仕事が多くてな。欠片集めもあるが、そこのゴーレムの調査も必要だな。あまり傷を負わさないで捕獲したかったのだが、翼の付け根から焼き切る必要はあったのか。まぁ、取りあえずコアだけは先に抜かさせてもらうぞ」
「あぁ、好きにしろ。会話中に邪魔をしようとした此奴が悪いだけだ。それよりも何の問題に直面しているか分からんが、さっさと回収して話を聞かせてもらう。ただでさえ、この森に人型ゴーレムが存在する時点でここは危険だ。早めに撤退した方が良い」
「確かに、この森は危険だ。二体の鳥型ゴーレムの回収は出来たが、他にも鳥型ゴーレムが居ないか確認せねばならないのだが、先に戻らなければならない場所がある。道すがらで抱えている問題について説明しよう。済まないが動向を頼む」
鳥型ゴーレムのコアを抜き取り、動かなくなったことを確認した。先ほど回収した鳥型ゴーレムと同様の対応をし、足元に置かれている木製の人型ゴーレムも含めて収納指輪に収納した。その後、先ほど救出した二匹の魔物の元へと向かいながら、この街で起きている異変などを説明した。最初は呆れた表情をしていたのだが、ある程度まとまった情報を元に推測ではあるが話すと驚いた表情へと変わった。
「なるほど、その様な面倒ごとに巻き込まれていると。しかし、幼い頃に目の前で殺される姿を見たとは、トラウマになるだろうな。そして、命を狙われているせいもあり、竜仙たちがボディーガードとして対応していると。お前の見立てでは、人間の魂を利用したゴーレムによる犯行だと考えているのだろ」
「あぁ、その通りだ。ゲーディオの街は、奴隷を利用した自立型兵器の開発が行われていた可能性がある。お前が仕留めた木製の人形があったろう。少し魔法陣に触れたが、魂の移し替えと繋ぎ止める魔法陣が彫られていた。アレは、人間の魂を原料にした半永久機関の自立兵士として実験されたものだろう。首筋に見覚えのある家紋があった事から、結果的には成功したんだろう。今回の事件は、人型兵器を用いた復讐と考えて良いだろう。そう考えると、しっくり来るんだ」
全ての情報を基に、部下たちからの情報を待ちながら状況証拠による仮説を立てていく。全ての始まりが闇市による奴隷売買摘発による貴族殺害だとすれば、その際に罪を逃れた二つの貴族が何かしらの恨みから、ゲーディオ家に対する復讐を行なうのは間違いない。それこそ、木製の人型ゴーレムを使った兵器開発をしている可能性もある。その証拠が見つかれば、全てが解決るする。
「そうか、自立型兵器か。昔、別世界の監視職務でその様な兵器と遭遇した覚えがある。自身で物事を考え、自らの意志で動くAI兵器。それを人間の魂で行なう為に、魂の移し替えを行なう魔法陣。確かに自立兵士が生み出されているとすれば、魂の移し替え技術もあるだろう。そうなると、肉体の隠しどころはどこになる。そこまでお前は読んでいると」
「あぁ、俺としてもまだ状況証拠による仮説でしかない。全ては推測の域を超えていないが、状況を考えてみればその方法がしっくりくる。犯行に使われた肉体は、隠し通路の中だろうな。そして、お前が仕留めたゴーレムは、皮膚を木製に変化させられた人間の死体だ。心臓は魔核を用いてコアに変化させ、コアに魂を封じ込めたのだろうな。魂の汚染による悪霊化もあり得るな。まぁ、どちらにしてもゴーレムによる犯行であり、その計画を練ったのは別の人物だろう。例えば、ゲーディオの屋敷の情報がすぐに手に入り、なおかつ対象の殺害を決行するまでの入念なチェックが容易に実行できる。誰にも警戒されることのない人物だろうな」
脳内に浮かぶのは『屋敷のメイド長』と『門番の男』である。正直に言えば、この世界でも犯人捜しをする羽目になるとは思わなかった。まぁ、今回は優秀な俺の部下たちが手伝ってくれるので、比較的に楽になっているとも言える。竜仙の現場検証、部下たちによる証拠集め。そして、先ほど手に入れたゴーレムだ。
「なるほど、犯人は絞れているのか。で、お前の見立てはどうなのだ」
「まぁ、証拠はまだ集まってないんだが、犯人については門番だろうな。それでも、可能性があると言うだけだ。地の記憶を見た結果もそうだが、それらしき人物は見つからなかった。つまりは、顔を変えたか、あるいは魂を移し替えて肉体を移し変えているのか。まぁ、どちらにしても証拠が揃えばすべてが終わる」
「そうか。なら、俺が手伝う必要はなさそうだな。お前がこの任務に就いたと聞いた時点で、心配する事でもないだろうと思っていたが、やはりその通りになったな」
何やら納得したように微笑するテュイルを横目で観ながら、結界を貼って守っていた魔物の元に到着した。ビックボアについてはまだ眠っているが、ヒーリングバードは自身の翼の怪我を治しており、皿に持っていた木の実が無くなっていた。結界の中で暴れることなく待っていたらしく、何事もなかったかのように落ち着いて待っていた。その姿を確認し、周囲の気配を確認してから結界を消した。気配を探る際に、ゴーレムのコアから感じ取った力を基準にして確認してみたのだが、同じ気配は感じ取れなかった。
「この森には、もういなさそうだな。いや、元々二匹のみだったのかもしれんな。どちらにしても、他に被害があった箇所はあるのかを確認する必要はある。取りあえず森を出てゲーディオに戻るが、テュイルはこの後どうするんだ」
「一度、ミーアに会いに行く予定だ。隊長から旅人特権として、機関する為の資料の手続きを頼まれた。お前から提出された資料でも十分だったんだが、渡し忘れが一枚あったらしい。サインで終わる資料だからと言われてな、隊長の秘書である死神から頼まれた」
「マジか。なんか足りないと思ってたら、そう言う事だったのか。確かに、此処で渡すよりもお前が渡してその場でサインをした方が早いな。分かった、済まないがこのまま同行してもらう。ミーアもお前に会ったら喜ぶだろうしな」
そんな感じで楽しく会話をしていると、ビックボアが目を覚ましたらしくゆっくりと起き上がった。何が起きたのか理解が出来ていないらしく、首をキョロキョロと振りながら周囲を見ている。それに対して、ヒーリングバードは何事もなかったかのようにビックボアの頭部に乗り此方を見つめている。それに対して、テュイルは何やら頷きつつ話を聞いている。
「ほぉ、そうか。なら、お前たちを襲った鳥型ゴーレム二体のみと。全ての森で、と言う事だな。五十鈴、どうやら俺たちが仕留めたので全てのようだぞ。お前さんの仕事も一部終わったようだぞ」
「そう言えば、お前さんは動物の言葉が理解できたか。いや、そもそもよく会話できるよな。竜仙が受けていたから問題ないと思っていたが、やはり俺も受けておくべきだったか。今更ながら後悔してしまった」
「ハァ、別に受ける受けないはお前の自由だろう。竜仙がいるなら、特に問題は無いだろう。お前はお前で、断罪者として罪人へ正しい罰を与えるのが仕事だ。その為に必要なスキルだけを身に付ければ良い。スキルを広く得るのは、己の進むべき方向性が分からなくなる。お前にとって必要なスキルだけを得ることが重要だ」
当然のことを言われてしまい、ぐうの音もでなかった。でも、竜仙やミーア以外に気軽に話せる奴は少ない為、嬉しくもあると言う何とも言えない気持ちになっている。悔しくもありながらも、懐かしくて嬉しくもある。
「ぐぅ、正論だから言い返せん。確かに、スキルは多く所持しても良いが、それが己にとって必要なモノなのか。己にとって進むべき方向性が狂う恐れはあるだろうな。まぁ、竜仙に頼むことにするさ」
「そうしておけ。そろそろ、森を出ないか。流石に長居するわけにも――」
テュイルの話を遮るかのように、俺の通信端末から音楽が流れた。曲の無いようですぐに嬢ちゃんからの電話であることが分かり、すぐに電話に出る。
「もしもし、俺だ。嬢ちゃん、こっちの通信端末に連絡をよこすなんてどうした」
『ダーリン、さっき受け取った欠片から重要な事が分かったわ。そこに居るテュイルにも聞かせたいからスピーカーにして』
「あぁ、分かった」
嬢ちゃんの指示に従い、俺はすぐにスピーカーモードに変更し、テュイルにも聞こえるようにした。緊急の事だとテュイルも判断したのか、真剣な表情で嬢ちゃんの話を聞く。
「テュイルも聞ける状態にした。それで、何が分かったんだ」
『緊急事態よ。この世界に落ちた狂いの神だけど、どうやら複合型みたい』
その言葉を聞いて、血の気が引いてしまった。絶望的な言葉であり、あの大戦の事を思い出してしまった。俺が瀕死の重傷になり、他の世界にも多大な被害を及ぼしたあの大戦。三大厄災である『狂いの神』と『暴走化した刻竜』そして、隊長たちが封印したはずの『全ての始まりである初代』の同時復活。あれで、多くの世界が被害を受け、世界の大半が滅んだ。あの厄災は、今でも忘れられない。
「まさか、あの戦争が――大戦が、起ころうとしているのか」
『えぇ、面倒な事に、ね。まさか、刻竜の因子を取り込んでいたなんて予想外よ。あの大戦で、多くの部隊が命をかけて刻竜と戦った。私たちの隊長は、唯一初代と戦える存在だった。あの戦いで、私たちは狂いの神と戦った。あの地獄は、今でも忘れられないわ』
「あぁ、あの地獄は忘れるはずが無いだろう。五十鈴も俺も、何の情報もなく狂いの神と戦った。あの戦いで、死人が出なかった事が奇跡としか言いようがない」
旅人が全力で世界を護ろうとしても、数多ある世界を守る事が出来なかった。狂いの神と刻竜の因子が融合した存在を融合体と呼び、あの戦いでは刻竜が『狂いの神の因子』を取り込んだせいで暴走したのだ。今度は逆の状態でその様な状態になっているなど、俺ですら恐怖してしまう。
『ダーリン。貴方には早急に力を取り戻してもらうわ。貴方の本来の名前に戻る為にも、何としても力を完全に制御できるようにしないとダメよ』
「あぁ、分かった。それより、やはり暴走体ってことで良いんだな」
『えぇ、その通りよ。テュイル、貴方はミーアと共にこっちに帰って来て欲しいの。ミーアには早急に旅人としての存在を取り戻さなければならない』
テュイルは「分かった。すぐに対応する」と告げると、嬢ちゃんは真剣な声で『私はすぐに仕事に取り掛かるわ。何か分かり次第連絡する』と告げると通信が切れた。緊急事態と言う事が分かり、顔に焦りが見えるテュイルを見つめながら、俺たちは急いで竜仙たちの待つ屋敷へと急ぐのであった。




