表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
四章 情報収集と犯人逮捕
67/90

6話 森と魔物と、狂い神

11月も終わりに近づき、もう冬のような寒さがやって来ます。

どうも、私です。

皆様、いかがお過ごしでしょうか。

コロナワクチンも8月内に二回接種し終わりました。

世間では、紅葉と言う事で紅葉狩りなどの旅行に出られる。

そんな中でも、マスクをしっかりする人たちを見て、

やっぱり日本人で良かったなぁって毎日思っております。

これからも元気で、健康を維持して頑張ろうと思った私でした。


では、次話で会いましょう ノシ

 街の外を出てしばらくして、目的地であるシェリーナ街道へと続く森に着いた。この森の向こうには『シャクシャナ』と呼ばれる沿岸沿いにある港町がある。この森を通る商人たちが、鳥型ゴーレムに襲われると言う被害が出ているのだ。他の町へと続く街道についても同様の被害は出ているが、鳥型のゴーレムではなく普通の人型ゴーレムらしいので、今回は対象外にした。しばらく森の中を歩きながら、いつでも戦闘できるように収納指輪から愛刀である『逆刃刀 幻龍』を取り出し、腰に差している。いつもは収納指輪に厳重に封印した状態で収納しているのだが、今回については封印を解き収納指輪から取り出している。今回の戦闘で必要になる気がしたから取り出したのだが、この辺りにいる魔物に対して愛刀を鞘から抜くことはない。何故なら、拳で事足りるからである。ただ、此方に向かって来ている『狂いの欠片を持った者』と遭遇する可能性がある為、拳では手加減が出来ないので愛刀を選んだのである。


(久しぶりに出したが、やっぱり抜刀したいと言う気持ちに駆られるな)


 そんな気持ちを抑えながら、森の中の舗装された道を歩く。今回は鳥型ゴーレム相手に愛刀ではなく、素手で相手をするつもりである。愛刀に使用されている素材の問題上、下手をすればコアごと胴体を砕いてしまいかねない。ゴーレムは首と翼を叩き折ったとしても、コアがある限り自動再生される。ただ、砕いてしまったら意味がない。なので、鳥型ゴーレムをコアを破壊せずに倒すためにコアを抜き取り、機能を完全に停止させると言う荒業をやる必要がある。


「外装を壊さずに仕留めるとなると、やはり隊長から教わった『コア抜き』しかないか。ただ、かなり昔に習ったから上手く行くかどうか。それに、鳥型ゴーレムの数がどの位いるのかも分からん。気配はあるのだが、ここら辺ゴーレムが多いせいか、どれが鳥型か分からん。隊長の気配察知強化訓練を受けるべきたっだな。アレ受けてれば、すぐに判別できたんだろうけど。はぁ、飛んでくれればすぐに分かりそうなのだが――まぁ、やってみるしかないか」


 森の中を歩きながら魔物の気配を探り、標的と狂いの欠片の気配を探す。同タイミングで遭遇してしまえば、どちらか一つを逃してしまう可能性がある。狂いの欠片は最優先で回収するべきだが、それと同時に断罪せねばならない対象がいるならば、この手で断罪しなくてはならない。職業病と言うべきだろか。


「さて、お? 飛行している魔物の気配がするな。鳥型のゴーレムかもしれないが、ふむ。標的の気配として断定して良いか悩むが、仮ではあるが断定として追うとするか。だが、此処からだと少し遠い場所だな。それに気になる気配もある。人間――いや、これは人の形をした何か。ゴーレムのコアから放たれる魔力の気配ではなく、人の魂が発する魔力の気配に近しい。だが、その魔力の形が人の形をしていない。アンデッド系列のゴーレムが発する負の魔力ではない何か。うぅむ――なるほど、人間の魂を人形に定着させた気配に似ているな」


 長い休暇を取ることになる前、仕事でとある世界の神々を断罪しに行った時の事を思い出した。行方不明となっていたミーアを探している中、丁度その世界での断罪業務が発生した為、ついでに行なった仕事だった。あの時は、機械で出来た人形へ『善良な人間の魂』を植え付け、戦闘技術のない『力なき人間』と無理やり殺し合いをさせた神たちが居た。殺したくないと魂が訴えたとしても、体の自由は完全に奪われ無理やり殺し合いをさせた。神々の遊びと言う名目で、人間と元人間を殺し合わせると言う奴らがいた。結果、俺がその神々の首を断ち、そいつらの魂を俺の部下が作り上げた『無限エネルギー変換装置』へと投げ込み、そのまま魂が消滅するまで永久的に絞り取ると言う罰を与えた。あの時は、各世界へと送るエネルギー供給量が減っており、このまま放置すると『巨大な隕石による星の崩壊』と言う世界の終了が起きる一歩手前だった。エネルギー変換装置のおかげで、未然に防げたので、あの神々には感謝でしかない。ちなみにだが、この世界の神々にも装置を見せた後に使用した時の映像を見せたので、今後は悪い事はしないだろう。


(そう言えば、彼奴ら俺に対して罵倒など飛ばすくせに、最後は命乞いをしていたな。なら、やるなって思うのだが、あの時は他の世界の危機だったし止める気などさらさらなかったが。それにしても、力を持つと調子に乗る奴が多いんだよなぁ。そのおかげで、こっちの仕事は多くなって、休暇が全く取れないんだよなぁ)


 あの神々に付いては、最終的に輪廻の環すら戻さず、完全に消滅して全てが終わった。自業自得と言うか、上司に相談した結果『輪廻の環に戻す必要なし』と言われたからやっただけである。さて、そんな事があった中で、その『人間の魂が入った人形』についてだ。確か「生きている人間を殺し、その魂が輪廻の環に向かう前に捕まえて人形に移す」と言う禁忌の方法を用いて創られる。魂が穢れ、やがて魂は腐り始める。それが、どれ程危険なのか分からない奴が多い。そして今も、その人形と同じ気配を感じ取っている。


「面倒だが、確認は必要だな。人形とは言え、人間を襲わないとは限らない。此処で、魂を解放した方が被害は出なくて済むだろうし、魂も救われるだろうな。後は、鳥型のゴーレムを回収して、コアなどの調査を部下たちに頼む。だが、鳥型ゴーレムの出現した話は出ても、数が分からないんだよな。単体なのか、複数なのか、手元にある情報だけだと一体だけのようだが、実際の数が不明な状況なら気配で確認するしかないか」


 標的のゴーレムの気配を探し当て、そちらの方向へと身体を向ける。舗装された道ではなく、そのまま森の奥地へと続く獣道の方へと向かう。森の中を歩いているのだが、何故か魔物や動物の気配はあるが遭遇する事は一切なかった。気配をなるべく出さない様にしているのだが、それでも出会わないのは変である。まさかと思うが、普通の魔物よりも警戒心が高いのだろうか。鳥型ゴーレムが現れたことが原因なのか、それとも先ほど気配で感じ取った人形のような何かの仕業か。どちらにしても、森の生態系が変化している可能性も考慮しなくてはならない。


「やはり、何か問題が起きているのか。強力な魔物が住み着いて居るとすれば、この状況は有り得る。だが、この森に住んでいる魔物は猪型と牛型などの動物種だけと聞いている。やはり鳥型のゴーレムが原因なのか、それとも人為的なものなのか」


 獣道を歩いている中、監視されているような気配は無かった。森の中に入っているのだから、そこに住む原生生物が観ている可能性は考えていた。元々野生動物は警戒心が強く、部外者が入ってくれば警戒するのは当たり前なのだ。だが、この森に入って数時間は経つのだが、その気配が全くない。まるで、余裕がないのか遠ざかっているような気配を感じ取った。この距離でも魔物たちがいる位置は分かるが、何故か数匹単位で一グループを形成して点々と散っている。何かから逃げているような感じである。そして、そのグループとは違い、何やら此方に向かって来ている気配がする。拳を軽く握り絞め、やって来る気配をジッと待ち続ける。


(人型? いや、違うな。形からしてキメラ型に近い気がするが、いやそれでもないようだな。ん? あぁ、これは猪型の上に鳥型か何かが乗っているのか。つまり、上空を飛んでいる鳥型と陸地を駆ける猪型が、此方に向っていると言う事か)


 拳を強く握り、右手を腰の位置まで引き、左手を胸の位置へと持って行く。これは『正拳突き』の構えである。隊長曰く、何事も『基礎で始まり、基礎で終わる。故に、正拳突きを極めれば、拳は弾丸すらも弾き、また弾丸にもなる』とのことだった。故に、隊長の部隊に所属する者たちは全員その技を身に付けなくてはならない。正直に言えば、言っている意味が解からなかった。だが、学ぶにつれて隊長の言葉通り『弾丸を拳で弾き、拳が弾丸になった』のである。その為、俺やミーアはその技を扱える。


「一撃で仕留めるにしても、姿を確認してからだな」


 徐々に近づいて来る気配を感じながら魔物が来るのを待つ。本来ならば此方も動くべきなのだが、折角なのでコア抜きの練習をしようと思う。ゴーレム種たちの結晶体や機械で造られたコアや魔物についても魔核と言った心臓部も、数えきれないほど抜いて来た。旅人になる前までは暗殺技術をそれなりに鍛えてきたが、やはり隊長のコア抜きのレベルまでは中々到達できない。どんな状況でも、時を止めることなく一瞬で抜き取り、血痕などの証拠すらも残さない。いつも思うが、隊長はどこでそんな技術を身に付けたのか疑問である。


(猪型との接敵まで後三十秒。鳥型の方は様子見をしているのか、その場で旋回しながら様子見をしているようだ。どちらにしても、コアを抜き取る準備は完了している。ただ、猪型の方もゴーレムだった場合、コアを抜いたら収納指輪に納める時間があるかどうかだ)


 仕留める為に構えたままの状態を維持し、最初に仕留めるべき猪型の気配を確認する。後、五秒後には接敵するところで止まり、急にその場で倒れる気配と音が聞えた。一体何が起きたのか分からないのだが、すぐに構えを解いて猪型の気配の元へと向かった。そこには『ビッグボア』と呼ばれる全長二メートル越えする食用に向いている魔物が白い泡を吹きながら後ろ足がピクピクと痙攣した状態で倒れている。そして、その胴体の上で心配そうに見つめている、片翼が傷ついて飛べない『ヒーリングバード』と呼ばれる回復効果を持つ珍しい魔物がいた。ビッグボアの後ろ脚に移ると、此方をジッと見つめるヒーリングバードに、俺は怪我の箇所を観る為に観察をした。


「長距離を休みなく走り続けた事での肺への酷使による呼吸困難の状態か。応急処置用の機材は無く、回復する事はほぼ不可能か。ヒーリングバードについては、片翼の付け根辺りに傷があるようだな。傷なら回復魔法で何とかなるが、このビッグボアも治せと訴えかけるような目で観ているんだよなぁ。仕方がない、本当はこの手を使いたくなかったが」


 ビックボアの治療の為に、直診する為に膝をつき腹部などを触る。やはり、過呼吸状態になっている事が分かり、すぐに対応するために、目視では確認することの出来ない身体にかけている枷を一段階外した。狂い神としての俺を呼び出せば、あらゆる生き物を蘇生または修復する事が出来る。ただ、この世界の狂いの神が反応しないか心配ではある。他にも枷を外せば『狂喜状態』になってしまい、常にニヒルの笑みを浮かべながら笑い続ける状態になってしまう。その為、出来れば封じて起きたい所である。


「キヒ、や、ヤバい!? い、今まで抑えて居たせいで、感情が!? キ、ヒャ――ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


 両手で顔を覆うが、狂喜化を抑え続けた影響のせいか笑いが止まらなくなる。元々、普通の人間だったはずの俺は、来日の神である嬢ちゃん――いや、始祖と出会った事で原因で、本来あった感情が狂ってしまい、出会って数秒で『狂喜化状態』へとなってしまった。これについて、感情のコントロールが不能になるとでも言えば良いのか、精神は常に正常なのだが、感情が不安定となる現象である。この状態に陥った者の事を、旅人の間では『狂いし者』と呼び、その状態で始祖と契約を交わした者を『来日の神の御使い』と呼ぶ。

 だが、来日の神が『来日神』と御使いに名乗る様に言われ、それが訛って『狂い神』となり、そう呼ばれるようになった。死後、始祖に気に入られてしまい、半ば強制的に契約をさせられた。その結果がコレであり、無月隊長が立ち会っていなければ、感情どころか精神すらも狂っていたと思う。だからこそ、あの時の恩を果たすために、今でも無月隊長に仕えているわけである。


(落ち着け、この魔物を救うのだろ!! 取りあえず、今は救う事だけに集中しろ)


 必死に感情を抑えながらビックボアに触れる。来日の神との契約で一時的ではあるが能力を借りる事が出来る。それは『因果律の操作』である。因果律とは、物事には原因があって結果がある。どんな事象にも何らかの原因が無くては、結果が生じえないのだ。その事を因果律と言う。元々、来日の神は因果律を用いて世界を創り直している。つまり、創生と破壊の神であり、同時に因果律の神とも言えるのだ。

 なので、その力を借りて原因と結果を『少しだけ弄る』ことで、その過程を調整する事が出来る。その為には、対象に触れる必要があり、触れることで原因の発生時期から現在の結果までの過程を見る事ができるのだ。そこからどの様に調整すれば良いかを確認し、過程を改ざんして新たな結果を創り、それを正とする。ただ、これは脳への負担が大きく、滅多な事が無い限り使用する事は無い。現に、ミッシェル集落での龍脈の移動も、この力を用いてゆっくりと正しい位置に戻したのだ。おかげで、ディアラさんのトラウマがまた一つ増えてしまったのは言うまでもなく、ミーアが説明してくれたおかげで、普通通り接してもらえている。


「とり、キヒィ!! ぁ、キャハハハハハ!? ぁ、グァガィ――あえず。ナ、オす」


 笑うのを必死に抑えながら、ビックボアに触れる。ビックボアがこの状態になった原因が、録画した番組を観るかのように脳内で再生される。そこには、人の形をした木製の人形が、ヒーリングバードを傷つける姿が再生された。そこから、ビックボアのタックルによって人形は胴体がバラバラになり、そのまま吹き飛ばされていった。そして、すぐにヒーリングバードを背に乗せて、人形から逃げる為に走り出した。その一部始終が、脳内で映像として過るのだ。


(これは、かなりキツイな。この映像の人形も気になるが、何故ヒーリングバードを襲ったのかも気になる。ッ!? さっさと終わらせて、リミッターをかけないと、そろそろ限界が近いな)


 脳内で再生される映像を基に、此処まで止まること無く走り続けた過程を改ざんする。此処までの距離を『ノンストップで走る』と言う行程を少し変更させ、此処までの道のりで短縮できるルートを作り出して走って来たと書き換え、軽い疲労で気絶したと言う結果に変更した。そして、書き換え終えた後すぐにリミッターをかけた。やはり精神的なダメージは大きいが、内ポケットの中にある飴を取り出し口の中に放り込む。狂喜化の影響で心臓の鼓動が早くなり、常に興奮状態になっているのが良く分かる。こんな時の為に、精神を安定化させるための飴を用意している。

 口の中に広がる蜂蜜の甘みと柑橘類の程よい酸っぱさ。呼吸する度に、その甘みと酸味により、気分が落ち着いて行く。この世界に来て二回も解放してしまい、持って来た飴の数も少なくなって来た。やはり、五つではなく十個ほどは用意すべきだったと後悔してしまった。そもそも、此処まで飴玉を消費すること自体が珍しく、いつも仕事で使う事など滅多にないのだ。しかし、まさかビックボアを救うためにリミッターを解除することになるとは、本当に予想外な事ばかりである。


「仕方がない、予備を嬢ちゃんに頼んでおくか。まぁ、嬢ちゃんの事だから一部始終あっちの世界で観ているだろうな。長い付き合いだとは言え、嬢ちゃんの趣味が良く分からん」


 そんな事を言っていると、先ほどまで旋回していた気配が此方へと向かって来ていることに気が付いた。まだ、ヒーリングバードの治療が終わってないが、安全を考慮して先に此方に向かって来ている魔物を仕留める事にする。樹々の隙間からではあるが、何やら此方へと向かって来ている飛行物体が見えて来た。この距離から観ての判断だが、大きさからして大鷲くらいの大きさはありそうだ。ただ、この大きさでは荷馬車が襲撃されたとしても被害が出るとは思えない。ただ、どこかの特撮のような巨大化機能が備わっていれば話は変わって来るのだが、どちらにしても狩るべき対象がこっちに来ているのだ。どんな相手だろうと手を抜くのは失礼であり、最大限一撃で仕留める気持ちで挑めと隊長から学んでいる。


「此処から拳圧で仕留めるのもありなのだが、流石に爆発四散しそうなんだよなぁ。羽の付け根を狙って、気を圧縮して、スナイパーライフルみたいな感じで、一点集中で撃ち落とすか。まぁ、どちらにしてもだ。もう少し近づかないと流石に無理だな。流石に無傷で捕獲するのは不可能だろう。また旋回して速度を上げて此方へと突っ込んできそうだしな。このまま近づいて倒すか、それともこのまま相手が来るのを待つか。それよりも、まずは此奴らを安全な場所へ移動させるか」


 因果律操作による修正を終え立ち上がり、ビックボアを持ち上げて後方にある広場へと置いた。持ち上げている際も、しっかりとヒーリングバードはくっついて離れずに事らを見ている。そんな事も気にする事無く、俺は安全地帯へとビックボアを降し、此方へと向かって来る飛行型の魔物へと体の向き接敵するのを待つ。元々はこれが目的であり、さっさと仕事を終わらせてヒーリングバードの治療をしなければならない。他に魔物が居ないか気配を確認しながらも、拳を強く握りしめながら脳内で戦闘のシミュレーションを組み立てる。地上に降りず、そのまま背後にいる二匹の魔物を襲うパターン。もしくは、そのまま此方へと襲って来るパターン。そう言った、複数の条件を考えながら、その時々の戦闘を考えなくてはならない。


「さて、常に最悪な状況を考えて行動する。嫌っていう程、経験してきたからな。あの高さなら翼をへし折れば問題は無いだろう。本当は無傷で捕獲したいが、後ろのビックボア達を守りながらは流石にめんどいからな。翼だけの破損ならすぐに修復されるだろう――っと、その前に結界だけ張っておくか」


 指を鳴らし、ビックボアたちを囲むように結界を張った。核弾頭や水爆等々、物理的攻撃の他、魔法攻撃ですら破壊できない隊長から教わった結界である。隊長の悪ふざけ満載の結界の為、悪さをした旅人たちはこの結界で捕獲されると、破壊できずにそのままドナドナされると言う強度がある。この結界で、よく政から逃げる王様を捕獲している風景をよく見たので、強度面に関しては安心と信頼の実績はある。あの人形に襲われる事も考え、強度は最高にしており、結界に触れた瞬間に警報が鳴る仕組みにした。

 結界を張っている間、集中力は結界の方に向いてしまう。同時並列で処理が出来れば良かったのだが、そこまでの訓練をしていない。その為、結界を張りながら無傷でゴーレムを捕獲することはまだ出来ない。その為、破損は覚悟のうえでビックボアたちの命を守る方を選んだのだ。


「すまないが、この結界の中で待っててくれ。これから奴を撃ち落とし、仕留め終えて回収したらすぐに戻る。この結界内なら安全だから、安心して待っていてくれ。その間、空腹だろうから、この木の実を食べて待っていてくれ」


 結界を張った後、収納指輪から小皿とシャトゥルートゥ集落で取れるブルーベリーやキイチゴ等の木の実を取り出し、ヒーリングバードが食べやすい様に盛り付けて結界内の地面に置いた。最初は警戒していたが、木の実が気になったのか地面に居りると木の実を食べ始めた。その光景を観て和みそうになりながらも、此方へと向かって来る気配へと体を向けた。


(ついでに、防音機能もこっそり付けたから、衝撃音も聞こえないだろう。食べてる最中に衝撃音で驚いて、喉に詰まらせ窒息死なんて事は避けたい。何となくだが、此奴らは生かさなければならない気がするからな)


 そんな事を考えながらも、標的の方へと向きを変えて目視で確認しつつ、拳に気を込めながら引き絞り睨みつける。居合い拳とは別の抜拳状態だから放てる技が存在する。亜音速での正拳突きを放ち、また引き絞る位置へと戻すと言う技。これは正拳突きを極めたから放てる技であり、飛行速度までは分からないが大まかな距離を想定し、引き絞った拳を対象へと向けて亜音速で正拳突きを放つ。爆発音とともに凄まじい速さで飛ぶ拳気が、対象にぶつかる様な音が聞こえた。なるべく圧縮して放ったので胴体ではなく翼の付け根を狙ったが、まさか胴体は破損していないはずだ。


「ぁ、あの高さから落下したら壊れてはないはずだよな。いや、当たり所が悪ければ――仕方がない、急いで向かうか」


 落下してく魔物の方へと向かって走り出す。落下位置が分かっている為、最短距離で目的地へと向かう。獣道を駆けながら、時には樹々の太い枝に飛び乗り、次々と枝へと飛び移りながら目的地へと向けて移動する。本来なら飛行するのもありなのだが、あまり目立ちたくない事もあり、気配を殺しながら向かっている。

 この移動している際も魔物や動物に出会うことなく、何の妨害もなく目的地である撃ち落とした魔物がいる場所へと到着した。そこには石で出来た巨大な鷲の形をしたゴーレムが片翼を必死に動かしながら藻掻いていた。どうやら、破損した翼をまだ治す事が出来ていないようで、何が起こったのか分からず混乱している状態だった。ゴーレムならば此処まで混乱せず、すぐに現状を把握し、破損個所を再生に移るはずなのだが、このゴーレムはまるで『本物の動物』のように片翼を失ったことで驚きと混乱でバタバタとその場で慌てているのだ。そして、確証を得たのはこのゴーレムのコア内から感じる魂である。


「まさか、いや。そうなのか? まさか、今回の事件の発端は、無機質な物体への魂の移動実験が原因なのか。魂の移動、もしくは複製? どちらにしても、今回の事件は人身売買とこの実験が絡んで良そうだな。仕方がない、魂を保護する結界を張りつつコアを抜くか」


 急に人間が現れた事で驚き、更にバタバタと翼を羽ばたかせるのだが、それも一瞬で終わる。ゴーレムの背後まで一瞬で移動し、胸に付いている青色のコアを抜き取った。だが、このままでは魂も消滅してしまうため、すぐに魂の保護用の結界を張り、収納指輪から専用の入れ物を取り出した。その中へと身長にコアを入れ、すぐに収納指輪に納める。その後、ゴーレムの胴体もすぐに収納指輪に入れる。その後、ビックボアたちの方へと戻ろうと背後を振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。その気配は、此方へと向かって来ていた気配と同じ人物だった。白銀のショートヘアに、真紅の瞳。俺と同じ灰色のコートを羽織った青年の手には、真紅の炎で燃え盛る杖のようなものを持っていた。


「まさか、お前だったとはな。久しぶりだ、五十鈴」


 青年の第一声に対し、俺は溜息を溢しながら苦笑しながら答えた。


「はぁ、それはこっちのセリフだ。久しぶりだな、テュイル」


 まさかの同業者であり、俺の同期である『テュイル・ラタトゥイユ・フォルティシモ』との再会だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ