4話 筋肉教団ゲーディオ支部
どうも、8月までに上げる事が出来なかった私です。
書き上げたかったが、無理でした。
季節の移り変わり、気温の温度変化による片頭痛。
今年の夏は、8月は辛かった。
これからは、もう少し散歩など取り入れて気分転換と換気をしっかりやって行こうと思います。
では、次話で会いましょう ノシ
ゲーディオの広場の中央には噴水があり、噴水の近くには修道服を着た者たちが近くに建っている聖堂の中へと出入りしている。ここは神々を信仰するための聖堂があり、向かい合うような形で聖堂が数件ほど建っている。そして、俺の目的地である筋肉教団があるのは、その聖堂のさらに奥にある。地図では確かに奥にあることは分かっていたのだが、筋肉教団の信仰とされる『ガーランドの銅像』が無かった。それ故に確信は持てなかったのだが、聖堂から爽やかな笑顔で出て来る者たちのおかげで目的地が分かった。あんな「良い汗かいた」と言いたげな表情をする人を観れば、誰だって『あぁ、あそこか』と分かる。そして、心の中で俺もそう思ってしまった。
「いやぁ、良い汗を掻いたな。明日も信仰と筋トレを――」
「そうね、明日は午前中は仕事だけど、午後なら――」
とても楽しそうに会話をする男女の横を通り過ぎ、目の前にある立派な聖堂の中へと入る。正面には巨大なガーランドの石像がある以外は、どの世界でも観たことがある至って普通の聖堂だった。ただ違う点と言えば、聖堂の入口すぐの左右の通路端には二階と地下に続く階段があり、地下の方からは何やら多くの人の声が聞こえる。内容的には「まだまだ、お前の筋肉なら行けるはずだ」とか、後は「もうワンセット行こうか」と言った声援――いや、相手を鼓舞する声が聞こえている。汗臭い匂いは聖堂から感じ取れない辺り、そこら辺はしっかりしているらしい。
(一階は聖堂で、地下はスポーツジムなのか。二階は左右に分かれているのか。コの字型で作られていると思っていたが、どうやら二の字型と言うわけか。一々階段を降りて行かなければならないって、不便じゃないか? いや、筋トレにはなるのか)
観える範囲で聖堂の室内を確認していると、ガーランドの石像の下にある祭壇に立っている司祭が、此方へと向かって歩き出した。一般の成人男性のような細い体つきだが、鍛え抜かれた身体から発する驚異的な生命力の覇気を感じ取れる。この世界で魔力が生命力に結び付くため、彼はきっとかなり自身の筋肉を追い詰め、あそこまでのレベルまで成長したのだと思われる。水色の短髪に物柔らかな目つき、緑色の瞳は生き生きと輝いている。
「おぉ、やはりでしたか。イスズ様、お久しぶりで御座います。私は筋肉教団ゲーディオ支部の司祭を務めております『ロイア』と申します。イスズ様がゲーディオに来られている事は、冒険者ギルドの者から御聞きしておりました。本来であれば、私の方からお伺いするべきでしたが、諸事情で先ほどようやく手が空いたものでして、誠に申し訳ございません」
「あぁ、気にしなくていい。久しぶりだな、確かマルスの元で修行をしていた一人だろ。そして、竜仙と同じ棍棒での戦闘訓練で、竜仙が認めた一人だったな。竜仙から聞いた通り、本当に礼儀正しいんだな。その立ち振る舞いもそうだが、棍棒を扱う姿は中々に様になっていたぞ」
「おぉ、私の事を憶えていただけていたのですね。えぇ、私は以前、筋肉教団の司祭――いえ、今は教皇で在られる『マルス・シュティラータ教皇様』の元で多くの事を学ばせていただきました。それにしてもまさか、リューセン様が私の事をその様に評価していただけていたとは、嬉しく思いますな。そして、棍棒使いである事も憶えていただけるとは、驚きで御座います」
驚きの表情をするのだが、彼についてはかなり印象的である。何故なら、この世界で唯一竜仙の技『流星弾』であり、誰一人として出来ないとされる大技を会得したからだ。あの時の技については、フォームも様になっており、岩石を打ち上げて星を一周し、見事流星弾をまでも可能にしたのだ。あそこまで印象的なの光景を観れば、憶えていないはずがない。その後、竜仙と一緒に酒を飲みながら、新しい技などの開発をするとか言っていた気がする。
「あぁ、竜仙の技の一つ『流星弾』を会得した唯一の存在だからな。竜仙がお前が会得した流星弾を、そのまま流星弾として返し、またそれを打ち返すと言うテニスのラリーみたいな事をして弾丸が砕け散るまで続けていた光景を観ていたからな。名前までは知らなかったが、君が必死に筋トレをしている姿もちゃんと見ていたからね。ただ、あの時はかなり筋肉が付いて、着ていた服がピチピチだった気がするのだが。まさかと思うが、マルスと同様に『エンチャントイーター』を身に付けているのか?」
「えぇ、流石に本来の姿ですと服のサイズが無いく、オーダーメイドになりますとお金がかかりますので、リューセン様からエンチャントイーターを教わり、今の姿になっております。私以外に影響を与えないので、凄く助かっております。自身の身体を理想のレベルまで引き下げ、外見を変える事が出来る。恐ろしい技でありながらも、私にとっては救いの手でした。まぁ、この姿になっても以前と変わらない力が出せるとは、予想出来ませんでしたが」
「まぁ、確かに驚くだろうな。そもそも、本来の用途は力のセーブ機能の為であり、筋肉隆々の奴を一般人レベルの水準まで落としながらも、通常の力まで扱えるようにする。それがエンチャントイーターなんだ。さて、その話は後にして、本題について話すとしよう。どこか安全に話せる場所は無いか」
「会合――いえ、何か緊急の確認のようですね。でしたら、私の執務室がよろしいでしょう。丁度、私もイスズ様にお見せしたいモノが御座いましたので。では、此方へ」
そう告げると、彼はそのまま左の奥の通路へ向かい、そのまま二階へと上がる階段へと向かった。なんでも、右側二階は『トレーニング装置』が置いてあるらしく、現在は器具の清掃と修理などが行われているらしい。そして、右側のみエレベーターがあるらしく、それで運搬しているらしい。左側二階には執務室の他に応接室、図書室などがあるらしい。此方にはエレベータは無いらしい。
二階に上がると、執務室と書かれた看板の方へと歩いて行く。書類を持った信者の方とすれ違うのだが、皆がその場で立ち止まりお辞儀をする。それに対しロイアは、微笑みを向けるだけで通り過ぎる。信者も日々トレーニングを行なっているからか、服の上からでも分かる程の筋肉である。まさかと思ったのだが、此処はボディービルダー育成がメインの教会――いや、施設なのではないかと思ってしまう。そんな彼らを横切り、目的地の執務室に到着して中に入る。
左右の壁には本棚が置かれており、部屋の奥には作業机があり書類の束が置かれている。部屋の中央には、会談用に置かれているソファーとテーブルがあり、そこにはプロテインが入ったコップと数枚の書類が置かれている。
「どうぞ、此方にお座りください。今、お茶を淹れますので」
「あぁ、ありがとう。それにしても、本が沢山あるんだな」
「えぇ、教団の経営に関する本ばかりですが。私はあまり経済関連には疎くて、書物もあまり読むのが苦手なのですが、教団には必要なモノでしたので猛勉強しました。その結果が今の状況ですが」
苦笑交じりで答えながら紅茶を淹れるのを見ながら、ソファーに座りテーブルの上に置かれた書類の内容が見えた。そこには、ギルド長殺人に関する報告内容とゲーディオ氏の殺人事件の情報が書かれていた。どうやら独自に動いていたらしく、貴族間の情報なども記載されていた。
「よく調べられているな。チラッと拝見させて貰った限りでも、よくまとめられているな。貴族間の情報などそう簡単に得られないだろう。当然だが、妨害などあったんじゃないのか」
「いえいえ、その様な事はありませんよ。正確に言えば、彼方から私に懺悔をするように語ってくださりますので。まぁ、私たちに協力してくださる方々もおられますし、何かあればすぐに対応は致します。其方の資料については、今朝方ですが情報提供者から頂いたものですので」
紅茶の入ったカップを手に持ち、此方へと向かって来る。テーブルの上にカップを置くと、テーブルの上に置かれた書類を上から何枚か取り、微笑みながら「どうぞ」と告げて俺に渡す。それを受け取り内容を確認するのだが、書かれている内容は俺が知りたかった情報だった。地下施設がいつからあるのか、ゲーディオ家の事件前にあったパーティの出席者である貴族の名前が書かれている。貴族間のグループ構成まで書かれているだけではなく、家族構成までしっかりと書かれていた。
(よく、此処まで調べ上げられたな。筋肉教団の絶対的な信頼から情報を提供されるのだろうな。真偽までは定かではない様だが、此処に書かれている内容は確かに俺たちが調べた情報と一致している)
渡された資料に目を通し終えたのでテーブルに置くと、彼はテーブルの上に鍵を一つ置き向かい合う様に席に着いた。鍵の形状についてだが、現代社会の住宅玄関の施錠に使われるロータリーディスクシリンダーと呼ばれる鍵である。ただ、何故か鍵の持ち手部分に一対の翼が付いている。
「なるほど、地下通路は五年前からあったのか。拡張工事は『行われていない』と言う事は、やはり地下通路は避難用だったか。それに、ゲーディオ家の主との信頼関係までしっかりと調べられている。流石は筋肉教団と言うわけか」
「全ては、ガーランド様から教わった事を実践しているだけです。この教会に来る者たちに清く正しい教育を施し、健康な体になる様にと無理のない筋肉トレーニング、食生活の改善、医学者および他教会の医療スタッフの常駐などなど。マナを使い切り亡くなる者を減らし、生命力を底上げする。それこそが、この教会の設立理念なのです」
しっかりとした理由で設立したことが分かるのだが、その結果で政治――もとい、一つの貴族を潰した訳だ。筋肉教団が多くの国、街、村に広まりつつある理由は、きっとその理念に共感したからだろう。
「マナを使い切った際に死なせない為か。この世界の人間はマナと命が直結している。ロイア、何故マナが切れると人間が死ぬか分かるか」
「確か、マナと生命力の均衡が等しくないからでしたか。比率としてマナが七、生命力が三でしたね。魔法に関しても、基本は中級までのレベルしか使用できず、それ以上の魔法を放つと身体が持たず亡くなる」
「その通りだ。生命力とマナは等しくなければならない。どちらかが偏った状態であると、人体に悪影響を及ぼす。だからこそ、現状の対策として生命力の底上げが重要になる。ガーランドは、そう言った点に気が付き、この世界の人間たちの強化と言う名目で、筋肉トレーニング用のジムを作ったのだろうな」
彼が淹れた紅茶を呑みながら、資料を捲りながら内容を確認する。本当に綺麗に纏められており、読み手の事をちゃんと考えて書かれていた。転生者たちが資料の書き方などを指導した結果であり、それがこうして生かされていると思うと感謝しかない。
「えぇ、本当にガーランド様には感謝しか御座いません。我々の教会を全国に広め、今も多くの者が利用して下さっております。まぁ、我らの教団内にも悪意を持つ者は少なからず居ります。その際は、粛清と言う名の再教育が待っておりますがね」
「まぁ、そうだろうな。どの教団でも、私利私欲に飲まれてしまう者たちは多いさ。ところで、この地下通路は誰もが利用可能なのか? 最近も使われた形跡があると書かれているのだが」
「いえ、その地下通路は代々貴族や教会の司祭のみが利用できるものです。各地下通路の出入り口は、この特殊なカギでしか開ける事が出来ません。この鍵は代々この土地に住む貴族、教会の司祭のみが持っており一般人には開けることはできないのです」
そう言って、テーブルに置かれた鍵を手に持ち差し出すように見せた。複製可能にも見える鍵なのだが、彼が鍵に魔力を少し流し始めると鍵の形状が変化し始めた。どうやら防犯機能が付いている鍵なのだろう。
「しかし、あの事件が起こった日ですが、全ての司祭と貴族が参列し、鍵を持参していたのです。当然偽物ではない事を確認するために、全員鍵を使用して本物である事を確認しております。なので、あの地下通路は実質利用不可能です。実際に私もあの場に参列しておりましたので、嘘偽りない事を此処に宣言いたします」
「なるほど、確かに鍵を見る限り複製は不可能だな。だが、鍵穴の方はどうだ? 鍵の形状が変わる事を予め知っていれば、鍵穴の方で複製を作製することは可能だろう。それに鍵の素材が解かれば、同じモノを手に入れて作れると思うのだが」
「いえ、鍵穴にも同様な処理が施されております。あの地下通路には常時自然から発生する魔力が流れており、扉の鍵穴の形状が変化するのです。そして、鍵の素材ですが、これは複数の素材を適切な魔力を元に配合した物らしいです。なんでも、幻とされる竜の血と鱗を元に作り出した物らしく、もうこの世には存在しないため複製は不可能なのです」
そう告げると、鍵に流していた魔力を止め元の形状に戻すと、収納指輪の中へと鍵をしまった。安全な場所ではあるが、せめて鍵ホルダー等にしまってから収納指輪に納めた方が良いのではないかと思ってしまった。そんなことを口に出すことはせず、彼の説明を聞くことにした。
「他にも『魔力を一時的に封じるアイテム』があるにはあるのですが、地下通路の扉には『破壊や魔力の阻害などの効果を無効化する材質』で作られているのです。これも、鍵と同様の素材が使われております。その為、どの様な手を使っても破壊できないのです」
「それはそれで凄いな。失われた竜の素材で作られた鍵と扉。通路の中に入るのに通路の上から入る事はできないのか? 予め通路を見つけ出し、その上から破壊し中に入る。目的地の天井を破壊して目的地の外に出る。そんな対応は可能か」
「可能か、と言われれば可能です。ただ、数分で修復魔法が発動して元に戻ります。持って一分、長くて二分程度だと思われます。現に、私が挑戦してみましたが、修復にはやはり一分半程度かかりましたね」
侵入が可能である事は理解できた。他に確認しなくてはならない事は『警備システム』を確認しなくてはならない。
「通路への侵入後に、警備システムは発動したか? それが解かれば、侵入方法は確定する」
「確か、警備システムは無かったと思われます。現に、私が侵入した際に警備システムが発動した気配はありませんでしたので。悪魔で予想ではありますが、自動修復システムと扉が厳重であるが故に、内部の警備システムは手を抜いたのではないでしょうか。主に資金が足りなかったような」
「ぁ、ありうるな。確かに、話を聞く限りはだと『扉と鍵』に八割くらいは資金を投入した可能性はある。これだけの性能があれば、それだけの資金は投入しているはずだ。何度か失敗を繰り返した事も考えれば、うん。まぁ、何となく分かった。侵入は間違いなく地下通路だろ。そして、地下通路の侵入場所の情報は、間違いなく貴族からの漏洩か提供だろうな」
ある程度だが、情報が揃って来たのでそろそろお暇しようと思ったのだが、もう一つ確認しなくてはならない事を思い出した。
「そう言えば、鳥型のゴーレムが最近出たと聞いたが、此方で対応した方が良いか。情報からすれば空中戦は初めてなのではないか」
「えぇ、鳥型のゴーレムが出現した情報については、此方にも流れております。本来であれば、私たちのみで対応したい所ですが、イスズ様の言う通り討伐まで至っていない状態です。ゴーレムの戦闘経験はあるのですが、飛行機能を持ったゴーレムは初めてなモノで、なるべく損傷を控えめで討伐して欲しいとのことで、討伐の難易度がかなり上がっているのです。飛行魔法は、未だ仕える者が居らず、出来れば対応してもらえると助かるのですが、よろしいでしょうか」
「分かった。明日、其方の対応を行なう。損傷を控えめにすれば良いのならば、出来れば教団内の力持ちを数名程借りたい。後は、運搬用の台車も頼む。それと、これを読んだ後すぐに燃やしてくれ。これは秘密裏の対応となる。絶対に部外者に流すな」
収納指輪から一枚の封筒を取り出した。これは、昨夜に竜仙と話し合い書いた書類である。敵を罠に嵌める作戦が書かれており、対応するには筋肉教団の協力が必要である。その為、彼にも手伝って貰うことにした。書類を受け取るとすぐに封筒から書類を取り出して確認すると、すぐに封筒ごと魔法で燃やした。
「なるほど、確かにこれは秘密裏に動くべきでしょうな。承知いたしました。手配の件は此方で致しましょう。イスズ様の為でしたら、いつでも我々は手を貸しましょう」
「ありがと。では、俺はシーボルト家に戻る。いろいろと準備が大変でな、必要な情報もようやく揃った。連絡方法は、シャトゥルートゥ集落でのアレで頼む」
「アレ、でございますか。確かに、アレでしたら盗聴される心配はございませんね。まだ使い慣れていないのですが、承知いたしました。では、玄関までお見送りしましょう」
その後、俺は筋肉教団を後にし、竜仙たちの待つシーボルト家へと戻った。竜仙たちの作業も九割程完了しており、明日には作戦に移る事が出来るらしい。時間との勝負と言うわけではないが、彼らと俺が調べた情報を提供し、最後の罠の準備に取り掛かることにした。全ては明日、俺が鳥型ゴーレムを仕留めた瞬間から始まる。




