20話 商業の街 ゲーディオ
どうも、最近はストレスでスランプになり始めながら苦しんでいた私です。
『シン・エヴァンゲリオン』の映画を観て、ストレスも吹っ飛びました。
うん、エヴァを観て、心にストンと何かハマったような感じです。
凄く、凄く良かった。
小説の事もそうですが、多くの人が書いた物語や歌のおかげで、
明日も頑張れると思えるようになりました。
これからも、バリバリ書きますよぉ!!
では、次話で会いましょう ノシ
目の前を走行するギルが運転する馬車の後を追うように、儂らは馬車を走らせている。ギルたちはゴーレムたちに警戒しながら、ミッシェル山脈のトンネル前でスピードを落としトンネルの中へと進行していく。その後を追う様に、儂らもスピードを落としてトンネルの中へと入る。トンネルの中は、馬車二台は余裕で入れる程の広さがあり、天井は五メートル程あるくらい広く掘られている。ツルハシや魔法で掘られたのだろう。所々にツルハシや魔法でついたであろう傷跡が壁についている。そして、天井付近には等間隔で配置されたランタンがぶら下がっており、出口までトンネル内は明るい。
(トンネル内の灯りは、魔石を利用しているのか。しかし、魔力は巡らせているのだろうか。電源ケーブルのようなモノは見当たらんが、空気中の魔素を吸収しているのか? 常に灯りが付き続けているのか。ふむ、興味がわくな)
トンネルの中にあるランタンに、どうやって点灯しているのか興味があり眼が行く。そんな事を考えていると、ミッシェル山脈のトンネルを抜けた。しばらく山道を走行していると、ようやく目の前に大きな街が見えて来た。どうやら、あそこが目的地のゲーディオのようで、ギルたちの馬車からフーリが客車の窓から顔を出し『あそこがゲーディオです』と風魔法で伝えると、そのまま客車の中に顔を戻した。
遠くからでも見える円形に囲まれた白い外壁の街。あそこがゲーディオらしい。その街を中心に十字に街道が続き、その道を行きかう馬車や人の姿が見える。儂らが走らせているこの道もゲーディオに続く道である。しばらく走らせていると、またもやフーリが客車の窓から再度顔を出し、風魔法を使って『前に業者がいるので少し速度を落としてください』と儂の方へと言葉を送って伝え来た。軽く頷き、速度をゆっくりと落としていく。
「竜仙、スピードを落としているみたいだが、何かあったのか」
窓を開けて旦那が儂に話しかける。仕事は終わっているらしく、トンネルを抜けた辺りから窓を開けていた。空気の入れ替えと言って開けたようだが、ただ単に運転を代わるタイミングを確認しているだけだろう。客車の方からは、嬢ちゃんとディアラさんが魔法について話をしている声が聞こえる。何やら複合魔法の有用性について議論しているようだが、そもそも客車内でする話ではない気がする。
「いや、前方にいるギルの馬車だが、その前方に業者の馬車がいると報告があった。と言っても、旦那も聞えていたんじゃないのか」
「まぁ、そうだが。確認をするのは重要な事だろ? 間違った認識で動くよりも、その認識が合っているのか、ちゃんと確認しないとな。あぁ、そう言えばだが、さっき盗賊の気配を感じてな、さっき人型ゴーレム部隊を呼んで襲撃命令を出しといた。ホムホムたちにも伝えているから、報告もすぐに上がるだろう」
「旦那、確かにその通りなのだが。いつも思うのだが、ゴーレム部隊をいつもどこに潜ませているんだ? 特に、儂が気配を察知した瞬間、すぐに気配が無くなることがあるのだが。まさかと思うが、またアレを作ったのか」
不安になり『アレ』を作ったのか旦那に問いかけた。アレとは、今現在にも宇宙空間にいる衛星に搭載予定の大規模転移装置だ。座標さえ解かれば、すぐに軍隊を送る事が出来る。まだ要件定義(※実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にする作業)の段階であり、まだ作製もされていないはずである。
「いや、アレはまだ要件定義の段階だ。そもそも、まだ表向きに話は出ていないはずだな。今、試作品として打ち上がっている転送装置が搭載された衛星を利用しているだけだ。近いうちに現行の衛星に取り付ける装置の設計へ取り掛かり、ゴーレム部隊を宇宙へ打ち上げて設置する予定らしいぞ」
「シャトゥルートゥ集落の職人達、張り切りすぎではないか。そこまでの技術を与えた事も、何より衛星を飛ばすための装置の説明や作製方法など、一度として教えた記憶がないのだが。その前に転送機能に関するプログラムの作成方法も――いや、そもそもプログラムの書き方すら教えておらんが」
「あぁ、それについては、ボルトだろうな。彼奴は、錬金術の他にもプログラム関係も得意だからな。まぁ、設計に関しては、ホムホムがいるからだろうな。衛星を打ち上げた時の彼奴らの顔を見た時に、確実にそう遠くない未来で転送装置を搭載した衛星を飛ばすだろうと思っていた。筋肉教団の行動力を垣間見て、良い意味で影響を受けているだろうな」
確かに筋肉教団の行動力を考えてみれば、影響を受けているのかも知れない。互いに刺激を受けた事で、此処まで成長したのかもしれない。それについては、師匠としては喜ばしいのだが、どう考えても行き過ぎではなのかと思ってしまう。
さて、儂らがそんな話をしているとゲーディオの検問前の行列最後尾に着いた。並んでいる中、旦那が客車から出て儂の隣に座った。どうやら交代のために来たわけではないようだ。周りには聞こえないように小さな声で話しかけて来た。
「すまない、狂いの件で進展があった。竜仙、ゲーディオには、長期滞在することにする。到着次第、冒険者ギルドにいるギルド長と話し合い宿の確保を行なう。また、シャトゥルートゥ集落とミッシェル集落への連絡機能の確立を行なう。此方の準備をすぐに行なう」
「ふむ、了解した。対応については分かったが、何故バルダに向かう予定期間が延びたのか? まさか、狂いの欠片の反応が移動したのか」
「あぁ、その通りだ。それも最悪のタイミングで、だ。バルダから狂いの欠片の反応が消え、このゲーディオに向っていることが判明した。この情報は隊長からの直通電話で知ったんだが、ゲーディオでの戦闘は避けられないと思われるらしい。取りあえずは、予定通り冒険者ギルドに向かうぞ」
何とも面倒な状況になったのかと溜め息が出てしまうが、このまま儂らはゲーディオの入場門が観えて来た。外壁の近くにあった駐屯所から数名の衛兵が武器を構えて此方にやって来たので、すぐにゴーレムホースが原因だと理解した。その為、此奴らについて説明をし、何とか納得してもらいゲーディオに入る事が出来た。そもそもゴーレム自体が魔物なのに、ゴーレムホースと言う未確認の魔物が堂々とやって来たのだ。衛兵たちの行為は当然であり、正しい行動である事は明らかである。
さて、無事にゲーディオに到着した。現在、馬車を停車させる場所に向かっている。なんでもゲーディオは、中央都市ディアラとの運搬が多いらしく、その為に停留所もとい駐車場のようなものがあるのだ。旦那なら気にしないと思うが、儂としては転生者たちの知恵がこうして駐車場が作られたのだろう。この世界で、現代社会の知恵をこの世界にも反映させること自体がいばらの道だったはずだ。彼らの頑張りについて、儂は讃頌したい。
「竜仙、此処までしっかりとした現代とファンタジーが入り混じる街は初めてだな。ほら、右側の奥の方に薬局がある。その隣には病院だ。まるで、現代社会の知識をファンタジーに反映されたみたいだな。家電はなさそうだが、食べ物や衣服などなど、やはり現代に近いと思わないか。コロッケやから揚げと言った物まで売ってるし」
何やら楽しそうに笑う旦那に、儂もつられて笑ってしまった。確かに、よく見れば現代のファッションが売られている服屋や旧時代のミシン等が売られている。さらに言えば、花屋では押し花で作られた栞、本屋ではマンガのような物まで売られている。馬車をゆっくりと歩かせながら向かっているのだが、現代の技術が所々で見られた。
「あぁ、確かにその通りだな。この世界に来た転生者たちのおかげだろうな。そう言えば、この世界に居た転生者、召喚された者たちは全員いるべき世界に帰したと言っていたが、本当に全員を帰したのか。医療関係者のなら、残りたいと言う者もいたのではないのか」
「あぁ、確かに残りたいと言っていた奴はいた。それについては、此方の事情を説明して、それでも残ると言う場合は、此方の指示に従う様に伝えた。ちなみに、生命的に危機が訪れた場合は、シャトゥルートゥ集落へ強制的に転送する様に呪いをかけた。勿論、同意を得てからやっている」
「なるほど。なら、特に問題はないな。だが、何かあればシャトゥルートゥ集落に送るのはどうかと思うのだが。まぁ、筋肉教団の事も考えてみれば、儂らが何かをしたと言えるのは、シャトゥルートゥ集落とミッシェル集落くらいだな」
言っていて悲しくなるのだが、よく考えれば筋肉教団のおかげで楽になっているのは確かだ。結果的には儂らが育てたことにはなるのだが、此処まで力をつけるとは思いもしなかった。儂らはとんでもない者を育ててしまったのではないかと、新聞に記事が乗っている度に思ってしまうのだ。
「旦那、今なら後続に馬車は来ていない。此処で馬車を止めるから降りて、ミーアたちを連れて先にギルドに向ってくれ。早めに話を付けて、宿の確保をした方が良いだろう」
「あぁ、確かに行動できる時間を考えてもすぐに行動に移すべきか。分かった、その方針で動くとしよう。ギルドの場所についてはディアラさんに案内してもらう。済まないが、馬車を駐車場に止めたら、俺の気配を追ってギルドまで来てくれ。竜仙の事はギルドの者に伝えて置く。ミーア、ディアラさん――」
旦那は客車の窓を開け、客車の中にいるミーアたちに声をかけた。それに合わせて、後方から馬車が来ていない事をゴーレムホースの耳の裏についているミラーで確認し、その場で馬車を止めて旦那たちを降ろした。旦那が降りたのを確認してから、儂は一人馬車を走らせる。目的の駐車場も近づくに連れて、馬車の列が見えてくる。しばらくして無事に目的の駐車場に到着し、指定の場所に馬車を止める。するとゴーレムホースは機能が停止して小さなフィギアサイズになった。その光景を観た儂を含む周りの者たちは、驚きのあまり絶句した。この様な機能がある事は、旦那から聞いていない。いや、もしかすると旦那すらも知らない可能性がある。
「ぁ、あのぉ、これは」
近くに来た傭兵が、目の前に起こっている現象に混乱したような声をかけて来た。当然だが、儂も何が起こったのか分からず動揺した声で「ぁ、あぁ。儂も分からん」と答えてしまった。どうしてこうなったのか分からない状況だが、その場で深呼吸をして心を落ち着かせ、小さくなったゴーレムホースを回収して右袖の中へと入れた。
馬車自体は駐車場に止め、盗難防止用に車輪にかぎをかける。車上荒らしもとい客車荒らしに備え、中に荷物が入っていない事を確認してから防犯装置を取り付ける。この防犯装置は駐車場の警備をする者が、駐車する際に「此方、自動追尾装置です。防犯用に観えない位置に取り付けてください」と言って持って来たモノだ。見た限りでは、特に変な者は付いているようには見えない。三角柱の形をしている手のひらサイズの防犯装置だが、そこの部分に魔法陣のようなものが描かれている。どうやら、この駐車場を出た瞬間に魔法陣が発動するのだろう。取り付け終えたので、客車の扉を閉めて鍵をかける。
「さて、冒険者ギルドに向かうか。旦那たちの気配は、あっちか」
旦那の気配を追い、冒険者ギルドの方角の可能性がある方へと歩く。街の中は多くの者が買い物や観光に来ているようで、街道を歩く者たちの賑やかな声が響き渡る。先ほど見かけた服屋には他種族の女性たちがおり、いろいろな服を物色している。他にも冒険者御用達の店などもあり、ゲーディオが栄えている理由も解かって来た。儂が見る限りこの街は、業者から聞いた他の街とは違い他種族差別がない。つまり、差別意識がない住みやすい街なのだろう。それに、商業を生業とする業者達も他種族の商品を一か所に卸せる。
(裏路地に意識を向ければ、やはり貧民と呼ばれる者たちもいるのだな)
街を歩けば、表の世界と裏の世界がある。表面上に見えるこの光景は、貧困の者たちにとっては妬みであり、憧れにもなる。それは、表面上でしか無く、生活が苦しい者たちは物乞いや盗みをしなければ生きていけない。働いたとしても、栄養失調や怪我で働けなくなる者が大半だろう。逆に裏の世界を知ってしまえば、そこから先は深淵である。
裏道を見れば、怪我の跡や煤汚れまみれの子ども達がジッと通行人を見ている。ご飯を食べれていないのだろうか、どこか虚ろな瞳でお腹を両手で押さえながらジッと見つめている。服装は半そでのシャツに短パンであり、靴は無いらしく履いていない。そんな姿を見て、その場限りの良心的な行為はとるべきではないと判断した。ちょっとした善意で今日は生き残れるかもしれないが、その行為で明日を生き残れる可能性は皆無だ。根本的な解決方法が無い限り、貧困層を救うことは不可能である。
(子ども達ならば、手売りできる簡単な菓子。もしくは、飲料水などを販売するのも有りか。大人であれば、そうだな。木材で作れる玩具などが良い。確か、ジェンガやパズルなども有りだな)
そんな事を考えていると、儂の後を子ども達が列をなしてついて来ている。儂が止まると子ども達も止まり、儂が歩けば子ども達も歩き出す。そのまま目的地の冒険者ギルドの看板が見えて来たのだが、このまま子ども達を連れてはいるわけにも行かない。仕方がなく振り返ると、ジッと儂を見つめる十数名の子ども達がいる。見る限り、物乞い辺りだろうと思うのだが、何も言わずにジッと見つめている。
「儂に、何か用か」
答えることはなく、無言でジッと見つめている。この光景を観ている者たちは、ヒソヒソと何かを言っている様だが、無視して子ども達に「親はいないのか」と尋ねた。すると、言葉は分かっているらしく、無言で頷いた。どうやら、両親がいないらしい。捨てられたのか、死んでいるのか。その事を聞くのは忍ばれる為、あえて聞かずどうするべきかと考える。両親がいないらしいが、流石にずっと一人で生きていたわけではないはずだ。
「孤児院の子か」
孤児院と言う言葉を聞くと、首を横に振る。孤児院の子ではないと言う事は、何かしら理由があるのだろう。しかし、このまま放置しておくわけにも行かない。先ほどから儂を見つめる眼は、何故か分からんが好奇心からか生き生きとした綺麗な瞳に見える。どうやら、儂に興味があったらしい。儂を見て怖がるものが多いのだが、何故か目の前の子ども達は怖がる素振りを見せなかった。
「ふむ、そうか。孤児院の子ではないと。ならば、お前たちは――いや、君たちは何処で暮らしている」
「廃墟の家で、暮らしてる。孤児院、この街には無いから」
質問に答えてくれた少年は、目の見える範囲でも数ヶ所に痣のようなものがある。子ども達のリーダーを務めているのだろうか、少年以外は話そうとはしていない。そんな光景を観て、儂はリーダー格の少年に尋ねることにした。
「で、話は戻るが何か用か。儂も忙しい身でな、要件があるのならば早く言ってもらいたい」
「これ、筋肉教団の人から、貴方に渡すようにと言われた。キセルって言うモノだと聞いてる。これ、姿絵と手紙」
少年から一本のキセルと手紙、そして四等分に折られた姿絵を受け取った。キセルと手紙を右の裾に居れ、折られた姿絵を開いて確認する。確かに儂の顔が描かれていた。それも色付きでしっかりと儂の絵である。ただ、クオリティーが高いと言えば良いのか、鏡を見ているのではないかと思えるほどである。何故、姿絵に此処までのクオリティーを追求する必要があったのか。儂は、コレを描いた者を問い詰めたい。
「確かに受け取った。ふむ、これをお前らにやる。後、そこに居る筋肉教団の者に渡せ」
右袖から『一本の木製のキセル』と『金貨の入った布袋』を少年に渡し、少年たちを物陰から見守る一人の聖堂服を着た男を指さす。あの男の魂の色と形、そして輝きには見覚えがある。確か、シャトゥルートゥ集落で儂が直々に技を教え、ミーアと同様に鍛えた者だ。それに、少年から受け取ったキセルは、儂の試験に『最初に合格した一人』だけに渡した物である。
「分かった。皆、行くぞ」
少年たちはそう告げると、聖堂服を着た男の元へと歩き出した。無事に子ども達が男の元に着いたのを見届けると、儂に見えるような位置で先ほど渡したキセルを男に渡した。木製のキセルを手に持つと懐かしむような表情をして、此方に振り向くと男は深々と儂へ向けてお辞儀をする。その光景を観た者たちは驚いた表情をするが、儂は気にせず冒険者ギルドの方へと体を向ける。一瞬ではあるが、お辞儀をした際に感じ取った覇気でどこまで成長したのか分かった。聖堂服を着ているから分からないが、昔に比べて強くなったようだ。弟子の成長に喜びながらも、儂は目的地へと向かう。
(筋肉教団にいるようだが、なるほど強くなったようだな。流石は、儂の弟子だな)
弟子の成長に喜びを覚えながらも、冒険者ギルドの近づいて行く。最初までは商人や貴族、他には市民や観光客などとすれ違うが、ギルドに近づくにつれて鎧やローブを着た者たちが多くなって来た。チラ見ではあるが、いろいろな種族の冒険者たちがいる。観えた範囲ではあるが、尖った長い耳をしたエルフ族は、弓や杖を装備している者が多い。中にはレイピアのような細い剣を装備している者も少数だがいるようだ。獣人族は斧や拳当てと言った者も多いようだ。そんな彼らとすれ違いながらも、ようやく冒険者ギルドの前に着いた。外観は普通の三階建ての建物で、壁や木製の扉にはひび割れのなく、破損などを防止するための魔法が施されている。
「さて、此処か。旦那たちの気配も、此処から感じ取れる。このまま立っていては邪魔だな、さて中に入るか」
木製のドアを開けて中へと入る。ギルドの中は広く、入って右側には掲示板が配置されており、ギルドの依頼などが貼られている。左側にある受付には、新米からベテランまでの冒険者たちが依頼の紙や討伐した魔物の部位などを持って並んでいる。そして、正面には二階へ続く階段があり、その階段の前に『白いワイシャツに青い色の上着』を着た受付スタッフと同じ服装のエルフ族の女性が立っていた。
「リューセン様、お待ちしておりました。私、冒険者ギルドゲーディオ支部所属支部長補佐『イデェア・フォールト』と申します。イスズ様達は、支部長室に居られます。そこまでご案内いたします」
笑顔を向けながらも、どこか余裕のなさそうな雰囲気を出している。笑顔なのだが緊張しているようで、手が少し震えているのが見えた。儂の顔を見てではなさそうで、最初から緊張しているようである。伝説上の存在が目の前にいることで緊張しているのかもしれん。
「あぁ、頼む。連絡もなしに行き成り表れて、驚きのあまりに緊張していると思うが、一度深呼吸をしてリラックスしてくれ。緊張されていると此方も同じく緊張してしまい、話が上手くまとまらないからな。儂らの事は良き隣人と思ってもらえればよい」
「ぇ、えぇ。そうですね。物語りで語られる御方に、こうして出会えたことに緊張しているようです。すいませんが、少々お待ちください」
イディア殿は、その場で深呼吸を数回すると落ち着いたのか手の震えは治まった。だが、まだ表情が硬く、儂らと言う存在にそれほど緊張するのかと首をかしげた。儂が言うのもなんだが、世界の監視や世界存続の危機への介入するだけの存在であり、あくまで儂らは裏方作業を行なう者なのだ。今回は『この世界の神たちへの断罪』と言う理由で介入しただけであり、想定していない狂いの神に対する対応のために居座っているだけである。
しかし、こうして緊張している事を考えて、旅人をどの様に語られているのか不安で仕方がない。イディア殿が落ち着くまで、もう少し待ってみることにした。ただ、緊張しているとしても、此処で突っ立ったままでいるのは冒険者たちに悪い。なので、旦那たちの元へと向かうべきだ。
「さて、そろそろ旦那の元へ案内してくれ。流石に、此処に立ったままでいると、冒険者たちに悪いのでな」
「そ、そうですね。承知いたしました。では、此方へどうぞ」
イディア殿はそう告げると、階段の方へと向きを変えて歩き出した。儂はその後を追う様に、旦那たちの元へと向かう。どうやら支部長室は三階にあるようで、その階まで上ると「此方の先に支部長室が御座います」と言って、イディア殿は右奥の通路へと歩いて行く。これから始まるであろう、このゲーディオと言う街で起こる戦。この街に向っている狂いの欠片を持つその相手が一体何者なのか、そして各都市の情報を知る為に、儂は旦那たちの待つ支部長室へと向かう。




