19話 ミッシェル山脈前広場にて
どうも、皆さん。
こんにちは、私です。
何とか1月までに投稿する事が出来ました。
最近、コロナの事もあって忙しくなったり、急に手が空いたりなど
いろいろとあり、ごたついておりました。
結果が、1月最終日に投稿です。
毎週投稿している方を凄いと思いながら、
今日もゆっくり次話を書こう。
では、次話で会いましょう ノシ
2021/2/3:変更箇所 都市ゲーディオ → ゲーディオ
ミッシェル集落を出て、ゲーディオに向かってゴーレムホースを走らせている。その間、動物の気配はするのだが、人や魔物の気配がまったくない街道を進んでいる。周辺は樹々に覆われているのだが、人と出会わないのはまだしも、魔物の気配はあっても良いはずなのだが何故かない。ラディアの森での戦で招集された冒険者たちが、ミッシェル集落に来る間に倒したのだろうか。そんな事を考えながらも、警戒をしながら進んで行く。
(幸運の力を発動した場合、必ずその代償が発動するはずなのだが。未だにその反動は起こらず、か。もしや、ミッシェル集落の方に代償が起きているのか? いや、まったくその気配はなかったが)
そんな事を考えながら走らせていると、儂の背後にある客車の窓から覗いている気配がしたので、ゴーレムホースのスピードを落とした。徐々にスピードを落として行くと、背後の窓が開く音が聞こえた。運転しているため振り返る事は出来ない為、耳だけを傾けながら運転に集中する。
「あの、リューセン様。長時間運転されてますが、大丈夫ですか? お疲れでしたら、私が運転を代わりますが」
旦那かと思ったのだが、どうやらディアラさんが心配で声をかけて来たようだ。旦那は旦那で書類整理に勤しんでいるようだが、それにしては何故か呻き声が聞えて来る。それ程に面倒な内容が書かれていたのだろうか。そんな事を思いながらも、儂はディアラさんに感謝の言葉を告げる。
「ありがとう、ディアラさん。だが、この程度の距離なら余裕だ。最低でも後二、三時間は問題ない。しかし、ゲーディオまで『ミッシェル山脈』のトンネルを通る事は分かっていたが、ゴーレムが塞いでるとは予想外だ。もう少しすれば、休憩ポイントの山脈前の広場に着く。そこで、今後の方針を考えよう」
「そうですね。この季節になると、ミッシェル山脈はゴーレムの大量発生するんですよ。そのせいで、街道やゲーディオに続く道にゴーレムが占拠してるような感じになるんです。たまに、王族の騎士たちが『戦闘訓練としての遠征』と言う理由で、この山脈に遠征で来るんです。去年の今頃ですが、冒険者と混じって討伐してましたよ」
「ほぉ、実地演習のようなものか。確かに実地演習は重要だ。戦場では、人間同士の争いだけではなく、魔物たちが興奮状態となって参戦する場面もある。そして、多くの経験を積む意味でも、過酷な環境などの基礎知識はしっかりと教育するべきだろう」
昔、儂と旦那が隊長の元での訓練をした日々を思い出した。活火山の火口から噴火直前の状態での脱出訓練。実際にサメが大量に居る中でそんなんした際の対処法(物理)などなど、今思えば良く生きていられたなと思う事ばかりである。地獄とも言える訓練だったが、実際に隊長も受けた訓練だったらしい。まぁ、この訓練事態は、手加減されていたらしい。アレよりも酷い訓練を受けた隊長に同情してしまったのは言うまでもない。
「儂と旦那も、昔は地獄と呼べる程の訓練をして来た。実際に特訓した場面と同じ状態になったことがあってな、実地演習の重要性をしみじみ感じたものだ。あの経験があったからこそ、儂らは絶望的な状況下でも生還する事が出来た。世界は違えど、実地演習はしっかりと行なうべきだろうな」
「は、はぁ。地獄の訓練ですか。ちょっと気になるような、聞かない方が幸せなような。うん、聞かなかったことにします。それで、山脈前広場で休憩後はどうするのですか」
「あぁ、休憩後はそのままトンネルへと向かう予定だ。だが、ゴーレムの量を見て討伐をするかを判断する。問題なければ、そのまま突っ切る予定だ」
儂はそう告げると、ディアラさんは「そうなんですね」と苦笑交じりの声で答えた。まぁ、客車には衝撃波伝わらない様にする機能を搭載しているので、旦那たちには何の影響もないだろう。ただ、どちらにしても儂らが現場を見て判断するしかない。そんな事を考えていると、ようやく広場らしき開けた場所が目前に見えて来た。視力が良い事もあり、広場に誰かいるのが見える。
(あれは、冒険者か? いや、馬車らしきモノも留まっているな)
よく見れば、何名かの冒険者らしき者と馬車らしき物が見える。何かあったのか、馬車の周りで何か話し合っているようだ。口論と言うよりは、これからどうするか話し合っているような雰囲気である。そんな中、儂らが近づいてくる事に気が付いたのか、冒険者たちが警戒耐性を取っていた。当然の反応ではあり、彼らも護衛の心得はしっかりと分かっているようだ。なんせ、本来ならば普通の飼い慣らされた馬が主流なのだ。それが、儂らはゴーレムホースだ。警戒しない方が変である。
「旦那。広場に到着するが、そろそろ書類の方は片付いたか」
窓から顔を出すディアラさんの後ろで作業しているであろう旦那に、儂は声をかけた。しかし、返事は返って来ない。微かにだが、旦那が誰かと会話をしている声が聞こえる。嬢ちゃんの声は聞こえないようだが、誰かと会話をしているようである。しかし、もうすぐ休憩地点に到着するのだが、旦那からの返事がない状態で行くべきか考えていると、ディアラさんが儂の疑問に答えた。
「イスズ様でしたら、シャトゥルートゥ集落の村長様と電話?と言うモノで会話をしていますよ。なんでも新しいダンジョンが見つかったと言う話で、どう運営するべきか話し合いをしているようです」
「そうか。それならば仕方がないな。ディアラさん、すまないが嬢ちゃんに『広場にいる冒険者がいるから、このまま彼らと接触する』と、旦那には『電話が終わり次第、儂が呼んでいる』と伝えてくれ。本来なら儂が伝えるべきことだが、すまないな」
「いえいえ、リューセン様のお役に立てて嬉しいです。ミーアちゃんとイスズ様にお伝えしますね」
何やら嬉しそうな声で答える彼女に、苦笑しながらも「すまない、頼む」と伝え、彼らの元へとゆっくりと走らせる。ゴーレムホースのスピードを抑え、周りの気配を確認しながら走らせていると、此方に両腕を広げながら手を振るう。どうやら止まれと指示しているようだったので、その者の近くまでゆっくりとスピードを落としながら向かう。
手を振るう人物に近づくに連れて、その外見も見えて来た。三十代くらいの赤い髪の男性で、レザーアーマーを装備しており、背中には大剣のような武器を背負っている。その背後には、杖を持った『綺麗な緑色の髪の少女』と盾を持った『青年』が立っている。どうやら、あの三人は冒険者のようだ。彼らの目前まで近づき、ゴーレムホースを停める。
「すまない、俺の名はギルと言う。あぁ、俺の事は呼び捨てで構わない。後ろにいる盾を持った奴が『ディレイ』で、杖を持った少女が『フーリ』だ。見てくれの通り、俺達は冒険者だ。冒険者ギルドからの依頼でゲーディオまで護衛中だったのだが、魔物の攻撃で護衛中の馬車の車輪が壊れてしまってな、出来れば車輪のスペアがあれば欲しい。勿論、金は払う。ゲーディオに着いてからになるが、駄目だろうか」
「魔物の攻撃で車輪が壊れたのか、それは災難だったな。儂は竜仙と言う。馬車の車輪が壊れたと言うが、商業ギルドの連中から聞いたが多くの馬車の車輪は鉄製だと聞いている。そして、魔法で硬質化されていると聞いているが、ここらの魔物ではそう簡単に壊せないだろう。通常のゴーレムでもそんな簡単には壊せないはずだが、一体何の魔物にやられたのだ」
「あぁ、実はこの先のトンネル付近に『ダイヤモンドゴーレム』が大量発生してな、そいつに車輪を砕かれたんだ。風魔法で車体を浮かせ、急いで此処まで避難したんだが、流石に修復不可能で立ち往生していたんだ。」
「なるほど、そう言う事か。しかし、ダイアモンドゴーレムとは運が無かったな。確か、車輪のスペアがあったはずだ。確認するから少し待ってくれ」
儂は客車の窓を開け嬢ちゃんを呼び、車輪があるか確認を頼んだ。数分して嬢ちゃんから車輪のスペアが二つあることを聞き、儂はギルの方へと向きスペアがあることを伝えた。ギルたちは「助かった」と安堵した表情で言う。しかし、ダイアモンドゴーレムに襲われたのは不運すぎる。旦那なら素材回収と言いながら、その拳を振るうのだろう。刀を抜けば一振りで両断するだろう。そんな事を思いつつ、儂はギルに提案をする。
「スペアについては、其方の馬車とサイズが合うか分からん。取りあえず、壊れた馬車の所まで案内してくれるか。片方の車輪のみを取り替えるより全部取り換えた方が早いだろう」
ギルと言う冒険者は「あぁ、分かった。ついて来てくれ」と言うと、馬車のある方へと歩き出した。その後を追う様に、ゴーレムホースもゆっくりと歩き始める。儂の手綱をしっかり握りしめながら、目的の馬車へと向かった。
広場の中央に到着すると、そこには片方の車輪が砕けた四輪の馬車があった。ただし、車輪が砕けただけではなく、その衝撃から客車の出入り口には割れ目があり、外枠が曲がってしまっている。車軸の部分に関しては折れ曲がっている事は無いが、車輪が砕けた際に車輪を取り付ける部分が潰れてしまっている。外装だけではなく、運転席にまでひび割れている箇所がある。正直に言えば、このまま走らせれば確実に走行中で壊れるだろう。特に車軸の部分は、儂が直してもしばらくすれば金属疲労で割れてしまう恐れがある。
(これ程までにダメージを受けて、車輪だけ取り換えるのは無理だな)
ダイアモンドゴーレムの攻撃とは言え、この程度で済んだことは良かったのかもしれない。下手すれば、大破どころでは済まなかったはずだ。それに、この状態で車輪を交換しただけの馬車を走らせるのは危険である。走行中に請われるのは確定だが、ダイアモンドゴーレムの中を走らせるのは死地に飛ばすようなものだ。
「此奴は、酷い。車輪を取り換えるってわけにもいかんだろ」
「あぁ、やっぱりそう思うか」
どうやら、ギルも同じことを考えていたようだ。馬車の状態を見ていると、儂らの馬車の客車から旦那が降りてくる気配を感じ取り振り返った。そこにはスペアの車輪を持った旦那と、その後をついて行く嬢ちゃんたちがいた。どうやら嬢ちゃんたちは車輪を取り付ける金具等を持っているようだ。
「ありゃ、これは酷いな。竜仙、何かしたのか」
「いや、儂は何もしておらん。どうやら、ダイヤモンドゴーレムにやられたらしい」
「ダイヤモンドゴーレムか。この程度で済んだのは良かったが、流石にこのまま走らせるのはキツイな」
旦那もギルたちの護衛していた馬車を見て、同じ感想を言いながら車輪を地面に置いた。そして、その流れでギルたちに自己紹介をすると馬車の状況を確認するために触り始めた。旦那は馬車の割れた箇所等を確認すると、護衛の対象者である貴族の執事の者と話し始める。予想だが、現在の馬車の状況を説明しているのだろう。その光景を見ながら、儂の仕事をするためにギルの元へ向かい伝えた。
「ギル、儂は馬車の補強用の素材を採取しに行く。すまないが、この場を頼む」
「分かった。ところで、補強用の素材とは、このあたりで取れるものなのか? 木材ならまだしも、金具とかは流石に無理では」
「まぁ、確かにそうだろうな。だが、運が良ければ採れるだろう。加工は魔法を使えばすぐに作れる。では、行って来る」
ギルにそう告げ、トンネルがある方向へと歩き出す。ダイアモンドゴーレムを使って補強する予定である。それに気が付いたのか、嬢ちゃんたちも工具を置いて追って来た。何やらやる気満々の表情をしながら、尻尾を左右に揺らす嬢ちゃんを見て溜息が零れた。そして、素材集めなら出来ると思っているディアラさん。大丈夫なのか気になるところであるが、嬢ちゃんもいるから問題は無いだろう。
「リューちゃん、やっぱりアレ狩るの? どのくらい狩るの」
「か、狩るって、何を狩るんですか」
「あぁ、簡単に言えばダイアモンドゴーレムを狩る。ついでに馬車の修理用にコアとダイアモンドゴーレムの腕部などが欲しい所だな。腕の関節部分なども素材としては優秀だ」
そんな話をしていると、目的地に着いた。やはりと言うべきか、かなりの数のダイアモンドゴーレムが居た。よく見れば、スチールゴーレムやメタルゴーレムなどもいた。馬車の修理には持って来いの素材である。
「と、言うわけでだ。嬢ちゃん、ゴーレムの狩りの季節がやって来たわけだが」
「そうだねぇ。しっかり狩ろう」
「ぇ、ゴーレム狩りの季節って? ぇ、ミーアちゃん!? なんでガンブレードを素振りしてるの!? リューセン様もなんで金棒を!? ぇ、何が始まるの」
混乱しているディアラさんに対して、儂らは武器を構えて軽く素振りをする。破壊し過ぎないように手加減も考えて、確実に仕留める様に力を調整する。四、五回程振った後に、嬢ちゃんの方へと顔を向ける。そこには、目を輝かせながら「ゴーレム、硬いから無理せず一撃で仕留めなきゃ」と、ヤル気に満ちた嬢ちゃんの姿があった。いつでも仕掛けられる状態のようだ。
「では、多く狩った方が、ゲーディオで一杯酒を奢るで良いな。ディアラさんは対象外で」
「うん、それで良いよ。リューちゃん、敗けないからね。ディアラちゃん、何かあればすぐに駆け付けるから、そこで隠れててね」
「ぇ、え? な、何が始まるの? と、取りあえず、あそこに隠れるね」
ディアラさんはすぐ近くの茂みに隠れ、混乱した状態で此方を見ている。そして、儂は金棒を右肩に乗せ「嬢ちゃん、準備は良いな。カウント、五からだ」と告げた。嬢ちゃんは無言で頷くのを観て「カウント、五」とカウントを数える。辺りが緊張状態になる中、儂は最後の零を告げると同時に嬢ちゃんと同タイミングで走り出す。
最初にダイアモンドゴーレムに攻撃したのは、儂ではなく嬢ちゃんだった。ガンブレードであるクロノスを握り、目の前にいるゴーレムを一文字で両断する。一瞬の出来事だったためか、両断されたゴーレムが地面に倒れるまで、ゴーレムたちも気が付かなかった。その隙を、儂は金棒で二体いたスチールゴーレムの頭部を破壊した。地面に着地と同時に、スチールゴーレムのコアに向けて金棒を叩き込む。砕かれたコアにより、体を保つ事が出来ずに倒れ始めるのを見て、すぐに次の標的へと駆ける。
(ディアラさんの気配を確認しながらの戦闘は、嬢ちゃんも流石になれたようだな。まぁ、基本表舞台に立たない者同士、護りながらの戦闘より敵を殲滅する方が得意だからな)
嬢ちゃんの戦闘姿とディアラさんの安全を確認しながら、標的のゴーレムたちを次々と倒していく。次々と倒していくのだが、その異変に気が付きトンネルの方から続々と現れていく。しかし、競争と言う事もあって、増え続けるゴーレムたちが凄い速さで減っていく。仲間がやられたことに怒り出したのか、数機のダイアモンドゴーレムたちが儂らの方へとゆっくりと歩き出す。そんな事を気にする事無く、儂らはゴーレムたちを倒していく中、減っていくゴーレムを観ているディアラさんは、考えることを放棄したような呆けた表情をしていた。思うに、本来なら有り得ない光景を目の当たりにしているからだろう。
「これで、ラスト!!「儂が貰った!!」ぇ」
装甲しているうちに最後の一体になった。嬢ちゃんが叫ぶと同時に、その隙をついて最後の一体のコアを破壊した。見事にコアを砕かれたアイアンゴーレムは、力尽きたように仰向けに倒れた。この辺に居たゴーレムは全部仕留めたようだ。最後の一体を倒した事で全てが終わった為、ディアラさんが茂みから出て儂らの元へと駆け足で向かって来る。儂は金棒をしまいながらその光景を観ていると、嬢ちゃんが頬を膨らませながら嬢ちゃんがやって来た。
「リューちゃん、ズルいよ!! 私が仕留めたかったのに」
「早い者勝ちだ。互いに三十体は仕留めた。そして、最後の一体を儂が討伐した。儂の勝ちだな」
「むぅ、悔しい!! 無駄な事を言わなければ」
とても悔しがっている嬢ちゃんをよそに、儂は倒した魔物を収納指輪に入れていく。その間、ディアラさんが嬢ちゃんを励ましている。儂は仕えそうな部位素材はそのままにし、他の素材などは収納していく。嬢ちゃんはディアラさんと共に、残していた素材を手に取り魔法を使って加工していく。儂は全てを回収し終えて、作業をしている嬢ちゃんたちの元へと向かう。
ディアラさんはスチールゴーレムの両腕を加工し、スチール板を数枚とバネを数個生成していた。嬢ちゃんから学んだのか、中々に品質の良い物が出来ている。そして、嬢ちゃんはダイアモンドゴーレムの腕部を用いて車輪を固定する車軸を作成していた。一時的な補強とは言え、魔力を帯びたダイアを使用するのだ。それなりの強度はあるだろう。
「ミーアちゃん。こんな感じで、良いかな」
「うん、完璧だよ!! ディアラちゃんは、覚えが早くて助かるよ」
「えへへ。でも、これで本当にあの馬車は直るのかな」
楽しそうに会話をしているのを見ながら、周辺に魔物もしくは盗賊などは居ないか気配を探す。盗賊が居れば、捕獲しゲーディオの警備団に渡せば金が貰える。逆にシャトゥルートゥ集落に転送すれば、都市のエネルギー資源として魔力を全回収する事ができる。まぁ、シャトゥルートゥ集落では自家発電システムで魔力を回収しなくても問題はないのだが。資源としての有用性を考えれば、予備電源程度の回収用である。
「盗賊は居ないようだな。嬢ちゃん、そっちは終わったか」
「うん、終わったよ。やっぱり、加工するのは大変だね。シャトゥルートゥ集落の職人は凄いね」
「当たり前だ。儂が直々に指導したのだ。このくらい出来て当然と言えるレベルになるまで、何度も何度も練習を続けさせた。儂らが乗っている馬車は、その職人たちに儂が与えた卒業試験の一つだ」
シャトゥルートゥ集落の職人たちの事を伝えると、嬢ちゃんは何やら納得したような表情で「なるほど、そう言う事だったんだ」と頷いた。
「さて、そろそろ戻るとしよう。修理をしないといけないからな」
「うん、そうだね。ディアラちゃん、行こう」
「うん!! でも、加工したのどうやって持って行くの? 収納指輪に入れていくの」
ディアラさんが加工した物たちを観て言うと、嬢ちゃんは収納指輪から収納袋を取り出し、笑顔で「この収納袋に入れていくよ。これなら、収納指輪のことを気づかれずに済むからね」と言いながら、収納袋の中に作製した物を入れていく。それを手伝う様にディアラさんも行動するのを見ながら、周囲に魔物などが居ない事を確認しつつも予測されない事態に備えて警戒をする。
二人とも無事に回収が終わったのを確認して、儂らは旦那たちの元へと早歩きで向かった。当然だが、ディアラさんは儂が背負い、嬢ちゃんは収納袋を右肩にかけている。さっさと修理をして、ゲーディオに向かいたいのである。それは、ギルたちも同じだろう。それ故に、さっさと直してしまいたいのだ。
「ぉ、帰って来たか。竜仙、素材は持ってこれたか」
無事に目的地に着くと、旦那と若い銀髪の青年の二人が儂らに手を振っていた。銀髪の青年が、あの馬車に乗っていた護衛対象だとすぐに分かった。貴族が着るような青い服と純白のズボン。銀色の短髪にブラウンの瞳の優しそうな眼付きの青年である。旦那の元に着くと、儂は周りを警戒しながら「旦那、持って来たぞ」と伝え、そのまま馬車の方へと向かう。ギルたちは、ゴーレム狩りの事を聞いていたのだろう、儂ではなく嬢ちゃんたちにゴーレムの事を聞いていた。
ギルたちは儂らが戻る前に、旦那からの指示で馬車の両方の車輪を全て取り、馬車を固定する二メートル程ある六脚の修理台の上に乗せたらしく、車輪が外れた馬車が修理代の上に乗っていた。アレは確か、緊急事態に備えてシャトゥルートゥ集落の職人たちが作製した、上下に稼働する事が出来る修理台だ。どうやら修理を始めるために、旦那が設置してくれたようだ。
「さて、取り掛かるか」
儂と旦那は、ミーアから収納袋を受け取り作業に取り掛かった。その間、嬢ちゃんたちには儂らが乗っていた馬車を近くまで運ぶように伝えた。儂らの乗っている馬車の中に、修理に必要な部品の箱が入っているからである。修理に取り掛かっている中、ギルと先ほどの青年は何か話をしている。予想だが、このまま野宿をすることになる等の話をしているのだろう。食料がまだあるか等の話をしているのだろう。
「よし、車軸の取り換えは終わったな。旦那、済まないが車輪の取り付けを頼む。儂は、外装の応急措置をする」
「分かった。このままゆっくりと台車を下ろすぞ」
馬車を乗せている台車をゆっくりと下げていく。その後、旦那が車輪を取り付けている間に破損している箇所を鉄板で応急処置していく。車輪を取り付け終えると、ダイアモンドゴーレムの半分に割れた核を手に取り、車軸と車輪の取り付ける箇所に取り付ける。儂はひび割れた箇所の板の上にスチール盤を取り付ける。見栄えが悪くなるのを防ぐために、スチール盤の上にダイアモンドゴーレムの破片を用いて、精霊の絵を描くように配置していく。こうすれば、破損個所は隠せ、なおかつ見栄えを少しは良くできる。
「馬車の修復が、一時間も満たない間に修復されてますね」
「あぁ、僕は夢でも見ているのではないかと思っているよ」
「リューセン様とイスズ様の手にかかれば、この程度の応急処置は朝飯前ですよ。一から作り直すとかになると、ミーアちゃんから聞いた話だと『流石に半日くらいはかかる』と言っておりましたが」
何やら、執事さんと青年だけではなくディアラさんも驚いているようだ。応急処置は何とか完了したが、これを長時間走らせるのは流石にきついだろう。しかし、結局ダイアモンドゴーレムの腕部を使用することはなかった。いや、本当ならSLのように車輪を動かす物を作りたかったのだが、旦那に「ダメ、絶対」と言われたため、仕方がなく止めた。
「さて、まだ日は日の出まで時間はあるな。儂らはこのまま行くが、ギルたちはこれからどうする」
「あぁ、俺たちも行く予定だ。もしよければ、俺達もついて行っても良いか」
「構わないぞ。では、そろそろ向かうとしよう」
旦那たちを馬車に乗せ、儂はいつものように運転席に座る。それに続いて、ギルたちも馬車に乗り先にトンネルへ向かって走り出す。それに続いて、ゴーレムホースを走らせる。相手の馬車の速さに合わせて走らせながら、儂はあることを思い出した。
「ぁ、旦那と交代するのを忘れていた」
失敗したと思いながらも、目的地であるゲーディオに向かうのであった。




