18話 旅の始まり
今年も、もう僅かです。
どうも、私です。皆さま寒い中、お元気でしょうか?
いろいろとあり、なんだか疲れてしまいましたが、まだまだ元気です。
来年は、もっと余裕を持てる一年を迎えられたらなと思っております。
では、少し早いですが、良いお年を!!
現在の時刻は午前八時を迎えた。朝起きに顔を洗い終えた後に食堂に居た。朝一に一杯の茶を淹れ、朝食を取り終えてのんびりお茶を飲んでいた。当然だが、儂の隣ではアルトが居り、一緒のお茶を飲んでいた。そんな中、食堂の出入り口の扉が開き、旦那たちがやって来た。その際、朝食を取りに行く前に儂の元に旦那だけがやって来て、儂に「ボルトたちが中央広場来るからから、すまないが迎えに行ってくれ。朝食の後、すぐに会議があってな」と指示を受けたので承った。当然だが、アルトについては、何やら支度の準備をすると言って部屋に戻って行った。その為、ボルトの到着まで儂一人で中央広場にあるベンチに座って待機をしている。
「旅を再開は、お昼くらいだろうか。会議自体は十時から十一時までだったはずだ。会議の終わりから支度を踏まえても、やはり昼には集落を出る感じだな。ゲーディオに到着するのは明日くらいだろうな。それにしても、旦那やミーアに移動手段を任せて大丈夫だったのだろうか。流石に、以前のゴーレム製の馬とか車と用意しないだろう。しない、よな。多分」
移動手段を旦那たちに任せてしまったが、今になって不安になってしまった。流石に、秘匿事項のオンパレードであるゴーレム製の馬や車を選ぶことはないはずだ。釘は刺しているから、あんな物を行き成り用意するはずはないだろう。まぁ、他の移動方法なら歩きでも問題はない。道中で椛のように魔物を捕まえて、馬車の荷馬のようにすれば良いだけだ。その間は、客車を収納指輪に入れて行くとしよう。まぁ、現在は旦那たちに任せているので、後で回収する流れだろう。
その他にも、椛にシャトゥルートゥ集落へとアルトを運んでもらう。その後、すぐに儂らの元へと戻って来てもらう訳にはいかない。出来れば戻って来てもらいたいとは思うが、それでは椛の負荷が倍増するだけだ。そのまま椛にはシャトゥルートゥ集落で待機してもらい、アルトと共に教育を受けてもらい強くなってもらう予定である。
(椛たちについては、そのまま旅人の世界で休暇を取らせるか。丁度、儂の部下に猛獣使いが何人かいたはず。獣人族などもいるから、問題は起きないだろう。移動手段に困った時に、召喚して呼び出すとするか。そもそも、儂らの元へと転移させればよいのではないか。いや、働きづめだったからな。休みを取らせるか)
そんな事を考えていると、仮拠点の方角から椛に乗ったアルトがやって来る気配を感じた。いつの間に仲が良くなったのか分からないが、アルトの楽しそうに笑う声が聞こえてきた。そして、その声が聞こえたのとほぼ同時に目の前に扉が現れた。どうやらボルトたちも到着したようだ。初めての顔合わせになるが、アルトにとっても良い経験になるかもしれない。ガーランドを見たらきっと『勝負しろ』と、意気揚々と言うのだろう。そして、ガーランドも『是非とも』と言う可能性が高い。
「アルトとガーランドの戦闘も見てみたいが、流石に今後の予定もあるから無理だろう。ボルトにアルトの情報と教育方針について説明は終えているが、ちゃんと言う事を聞くだろうか。ボルトたちなら問題はないと思うが、アルトの方が心配だ。いろいろと初めての経験をするわけだが、やはり緊張はするだろう。そして、なんだかんだで儂の傍にずっといたから、急に離れるのは寂しいだろう」
何故か不安になってしまう。子を持つ親の気持ちを体験している気持ちになるが、部下たちなら問題なくアルトを迎え入れてくれるだろう。そう思う事で、寂しさや不安を紛らわす。それに、儂とはいつでも連絡は取れるのだ。アルトについては、ちゃんと報告するように指示は出している。
「竜仙様、ボルト到着いたしました。親方様からのご命令で、アルトさんの護衛および教育の指導を――あの、竜仙様? 竜仙様、大丈夫ですか」
「あぁ、ボルトか。すまない、考え事をしていた。無事の到着したようで安心したが、ところでガーランドはどうした? 姿が見えないのだが、連れて来たのか」
「えぇ、連れて来ましたよ。ただ、途中で筋肉教団の方々へのお土産を忘れたのを思い出したらしく、今取りに戻っております。なんでも、新作のダンベルだとか」
ダンベル取りに戻るとは、筋肉教団の歓喜の涙を流しながら『筋肉神様から頂いた神具』とか叫び、祀りあげるのだろう。そして、最後には旦那が「いや、祀らずに使えよ」と言うのだろうと容易に想像できた。
「そうか、ガーランドが来たらアルトをシャトゥルートゥ集落に送ってくれ。仕事の件はいつも通り頼みたい。アルトについては、まだあの体になったばかりだ。何かあれば連絡を頼む。幼子の姿とは言え、初戦で儂を楽しませ相手だ。だから、アルトは教育次第で本当に化けるぞ」
「そうなのですか。竜仙様を楽しませるとは、何千年ぶりに聞いた言葉でしょうか。なるほど、その様な御方であればシータ様なら放って置かないでしょう。いや、それ以前に親方様が認めた時点で他の方々が興味津々でしたね。ただ、シータ様の場合は手加減してくれるかは神のみぞ知るですが」
まさしくその通りな為、何と答えるべきか戸惑ってしまった。彼奴は手加減と言うものを理解していない節があり、儂が止めなければ三日間徹夜と言う状態になりかねない。そのため、儂はボルトたちを監視につける事にしたのだ。
「だろうな。特に、素質のある者を見つけた場合の彼奴は本当に恐ろしい。手加減の出来ないのは、クロノスもそうなのだがな。さて、そろそろアルトが来る頃だろう。まだ、アルトには修行の件は説明していない。その説明はボルト、お前に任せる。特に、アルトの体調管理などを頼むぞ」
「承知いたしました。親方様のご命令もありますので、しっかりと鍛えようと思います。出来れば、我々レベルまで鍛えられれば良いのですが。しかし、我々の世界にアルトさんを迎え入れる許可がよく出ましたね。本来なら、資格がない者は境界すら超える事が出来ず消滅するはずです。それを境界を通るゲートを開いて連れて行くなんて、本来不可能ですよね」
ゲートについて、当然の疑問を問いかける。確かに、適正がない者は連れて行くことは不可能である。それは、旅人が認める基準に達していなければならない。だが、実際に儂はこの目で確認したことを告げる。
「あぁ、確かに本来は不可能だ。適性のある者以外が我らの世界に立ち入れば、魂が消失してしまう。勿論、ゲートを通る時でも消滅するのは確定だ。それだけ危険な場所なのだが、アルトは儂との戦闘で適正が付いてしまったようだ。今朝、食事中に儂がテーブルの上に置いていた黒鉄扇に興味があったのか、アルトがジッと黒鉄扇を見ていたのでな。渡したのだが、アルトが握ったと同時に自動的に開いた」
「黒鉄扇と言うと、あの『峰炎竜の漆黒玉』で作られた鉄扇ですか? 確か数千匹に一個の確率で手に入る黒き血の血石だったか。でも、アレは混力の適性がないと開かないですよね。つまり、アルトさんは旅人としての資格があるってことになりますが」
黒鉄扇については、ボルトも製作に携わっていたため知っている。実際に作成に使用した素材がアレなだけに、儂以外であの鉄扇を扱える者はいない。呪われている素材や精神的に影響を与えらる物は使用しておらず、どちらかと言えば物理的に危険なモノは使われている。
「あぁ、その通りだ。あくまで予想だが、あの戦の時に『産まれたばかり』のアルトとの戦闘で、儂の力を受けたのが原因だろう。旦那は実際に目の前でアルトを見た瞬間、適正がある事に気が付いたらしいがな。取りあえず、最初は仮世界の訓練場で魔法と混力の適正を確認してもらいたい。その後、ゲートを通って彼方の世界での本格訓練だ」
「承知いたしました。訓練については、メールにて頂いた通りに遂行いたします。多少の不慣れ等で遅延が発生する恐れもありますが、それを含めてご対応いたします。ですが、竜仙様がそこまで絶賛するのであれば、オンスケで遂行できそうです。では、クロノス達にもその方針で伝えておきます。ところで、そのアルトさんはどちらに居られるのでしょうか」
「私が、どうかしたか」
背後からアルトの声が聞こえ振り向くと、椛に乗っているアルトが首をかしげながら此方を見ていた。その姿を見たボルトは「あぁ、なるほど」と呟くと、アルトの元へと近づき何やら納得したように頷いた。ただその眼で見ただけで、その者の強さを理解できるボルトの鑑定力は、やはり旦那が一目置くだけのことはある。
「お待たせいたしました。ガーランド、ただいま到着いたしました」
「ガーランド、意外と早かったね。竜仙様、私含め二名現地到着いたしました」
そして、遅ればせながらと背後のゲートからガーランドの声が聞えてきた。ゲートの方へと体を向けると、いつも通りピチピチの燕尾服を着たガーランドが立っていた。ただ、背中に円形の重りを背負っている。背負っている物を地面に卸すと、ホチキスの芯のような形をした太い針金に、円形の重りが左右に納められているのが分かった。重りには『500Kg』が書かれており、それが左右あわせて三十個ある。
「あぁ、その様だな。さて、ボルト、ガーランド。至急の依頼だ、アルトを連れてシャトゥルートゥ集落に向え。アルト、お前はボルトと共にシャトゥルートゥ集落を行き、そのまま儂らの世界に向え。そこで技を魔法を鍛え、来たる厄災に備えて力をつけろ」
「来たる厄災。それは、狂いの神の事か? リューセンは、私はもっと強くなる必要があると言うのか? 今のままでは勝つことは難しいと言う事か」
「あぁ、その通りだ。本来なら儂らの旅に同行してもらいたかったが、想定外の出来事が起こってしまってな。アルトには、大至急ではあるが技術面の向上と魔法力の底上げをしてもらう必要があるのだ。技術面はそこに居るボルトが適任だ。儂が太鼓判を押すほどの実力を持っている。魔法面についても、信頼における部下が対応してくれる」
儂がボルトの技術面を説明すると、アルトは「おぉ」と言い目を輝かせ、ボルトは照れているのか右手で頭を掻きながら「あはは」と笑っている。そして、ガーランドは何やら目を輝かせながらアルトを見て「なるほど、鍛えがいがありそうですな」と笑っている。
「わかった。一緒に旅に出れないのは寂しいけど、竜仙の頼みだから頑張る。もっと強くなって、必ず帰って来る。そうしたら、また竜仙と一緒に居られる? ボルトもそう思うか」
「そうだねぇ。うん、一緒に居られると思うよ。竜仙様に仕える者は、強者が多いからね。それも、弱者だった者を叩き上げて同格レベルまで引き上げる。だから、頑張ろう。竜仙様に仕える為に」
「あぁ、青春ですな!! 私めも全力でサポートさせていただきます故、アルト様は安心して訓練に集中してください」
ボルトとガーランドの言葉を聞いて嬉しそうに笑う。初めて会うはずの二人と早くも打ち解けたのか、修行についてや二人の事について質問したり、自己紹介などをしながら楽しそうに会話している。その風景を見ながら、儂は旦那たちの到着を待っているのだが、アルトが何かを思い出したのか儂に尋ねて来た。
「ところで、ラディアの森の管理はどうするのだ? 契約書の規律に違反するのではないのか? 書類を書いた内容からも、私が管理するべきなのではないのか」
「その件だが、マンティス族の魔神たちに任せることにした。まぁ、昆虫型の魔物についてはそのうち現れるだろうからな。優先度としては、コッチの方が高いのでな。アルトにはもっと強くなってもらわないとな」
「なるほど、そう言う事か。分かった、マンティス族に森を任す」
何やら納得した表情をするのを見つつ、儂はそっとアルトの頭を撫でた。気持ちよさそうな表情をするアルトに対し、ボルトは「なるほど、親方様が言っていたのはこういう事か」と小声で呟き納得したような表情をし、ガーランドは懐かしそうな表情で此方を見ている。そう言えば、ガーランドには奥さんが居たな。そして、確か子どもが三人ほどいたな。なるほど、だから懐かしいと思ったのか。
「さて、三人とも早速行動に移ってくれ。此処からは、時間との勝負だ。くれぐれも、無理はしないように。ボルトにアルト、無理し過ぎて倒れるようなことはするなよ。ちゃんと寝て、ちゃんと飯を食い、ちゃんと勉強するように」
最後にアルトを優しく抱きしめ、ただ一言「お前の成長を楽しみにしている」と告げる。アルトはヤル気に満ちた声で「うむ」と言うと儂から離れ、そのまま椛の背に乗った。
「椛も、頼んだぞ。あっちに着いたら、仲間たちと休んで構わない。ホムホムから聞いたが、千歳と楓の他にも新たに三匹のブラッドウルフが追加されたらしいぞ」
新たに増えた事にはまったく興味がないらしく、椛は一度空を見上げ、そのまま儂の方へと顔を向けて無言で頷いた。その眼はアルトと同じ――いや、それ以上の瞳から真紅の炎が出ているような幻覚を見せる程のヤル気に満ちた眼で見つめていた。まさか、新参者に対して上下関係を徹底的に分からせるとか無いだろうか。何故か、不安に駆られるのだが、ヤル気に満ちたその姿を見て、儂は優しく椛の頭を撫で三人と一匹に告げる。
「儂からは以上だ、行って来い」
「「了解しました」」「わかった」
その一言を最後に、アルトたちはシャトゥルートゥ集落へと向った。その後ろ姿を見つめながら、成長して行くボルトとアルトの姿を思い浮かべながら旦那たちの到着を待った。
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ボルトたちがシャトゥルートゥ集落に向ってから約十分が経過した。旦那たちは引継ぎとかがあり、ボルトたちの見送りが出来ないのは理解していた。なんせ、儂らが去った後の事を考えてみても、冒険者ギルドなどの運営をどうするか話し合わなければならない。その為、時間がかかってしまうのは仕方がない事である。
ただ、その空いた時間の中で、ホムホムに通信端末を繋げ連絡を入れていた。ホムホムは通信に出ると、すぐに『ボルトたちがシャトゥルートゥ集落に先ほど向かった』ことや『白狼団と言う冒険者団体が其方に向かう』ことを伝えた。報告を聞いて、冒険者が増える事に戸惑っていたが「すぐに場所の手配などを始める資料を作ります」と言い、近くにいた職員に作業を指示出した。その後、ホムホムからの報告を受けて、現在此方側で把握している情報を共有し、今後の動きを確認し通信を終えた。
「さて、そろそろ来ないだろうか。流石に他の仕事は、もうほとんど終わっているな。流石にそろそろ暇なのだが――ん、アレは旦那たちか」
目の前――と言っても数百メートルは離れているのだが、灰色のコートを羽織った旦那の姿が見えて来た。ただ、背後には何やらとても見覚えのあるモノを引き連れている。その、何と言えば良いのか。鋼鉄製の馬を二匹連れており、その馬はこのミッシェル集落に向っていた時に乗っていた馬車を引いている。その馬車の運転席に嬢ちゃんとディアラさんが座っている。まぁ、それについては別に構わない事である。問題はその鋼鉄製の馬であり、何故かとても不安になって来るのだ。
「遅れてすまない。ボルトたちは行ったのか」
「あぁ、アルトたちを連れてシャトゥルートゥ集落に向かった。ついでに、ホムホムにも連絡済みで、白狼隊についても受け入れ準備を整えてもらっている」
「そうか。それなら問題ないな」
そう告げる旦那だが、儂はどうしても背後に存在している馬に目が行ってしまう。遠目から観れば『普通の馬』に見えるのだが、嬢ちゃんたちの姿が観えた瞬間にそれが普通の馬ではなく『ゴーレム製の馬』であると分かった。アレは、間違いなくシャトゥルートゥ集落で作られた『ゴーレムホース』であり、確かいろいろと問題が生じるから使用禁止だと言ったはずであるのだが、それが目の前にいる状態である。
「旦那、その馬――もとい、ゴーレムホースはどうした? 儂が観た限り、シャトゥルートゥ集落製のモノに見えるのだが」
「あぁ、此奴か。竜仙の言う通り、シャトゥルートゥ集落から転送されて来たゴーレムホースだ。取り合えず、問題が生じないレベルを用意したとゴーレムクリエイターから報告を受けてな、こうして連れて来た」
儂の悪い予感が的中してしまったようだ。それも、問題が起こらないように調整したとされるゴーレムクリエイターの手によって、だ。何故故に、そこに力を注いだのだろうか。それについて問い詰めたいのだが、目の前の光景を観てしまえば容認するしかない。なんせ、物珍しさから商業ギルドの連中達や冒険者ギルドの職員などなどが集まっているのだ。もう手遅れと言う事だ。
「旦那、儂の忠告は聞いていたはずだよな。それなのに何故、この場所にゴーレムホースがいるのだ」
「お前の忠告は、ちゃんと聞いている。そのうえで、移動手段が徒歩以外に無い事をシャトゥルートゥ集落の職人たちに伝えた。その結果、商業ギルドの連中が素材を確保し、本気になった職人たちがアレを作った。変な武装は付けず、防御面に特化しているらしい。能力としては、馬や馬型の魔物に対する防御力の底上げや、魔法物理に対する攻撃を無効化するシールドを展開するらしい。また、同行する馬の体力に合わせて走る速さを合わせる仕様だ」
あまりの衝撃に頭が痛くなって来た。まさか、旦那がシャトゥルートゥ集落の商人や職人たちに伝えていたとは予想外だった。そもそも、あそこの職人は儂らの技術を一端とは言え学んだ者たちだ。その者たちが本気を出して作製した者が、まさか目の前にあるのだ。
「儂は、その者たちを褒めるべきなのか、叱るべきなのか。まぁ、過ぎたことはしょうがない。あぁ、しょうがない事だ。だが、明らかにこの世に出して良いレベルではないのは確かだ。今の文明ではオーパーツと呼ばれるレベルのモノだぞ」
「まぁ、確かにそうだろうな。行き過ぎた文明は、必ず崩壊するのが世界の決めた定めだ。ゆっくりと文明が進み、定められた時が来るまで歩む。そうやって、世界は終わりを迎える。今回の件についてだが、冒険者ギルド職員が購入する手はずになっている。ちなみに王族側も購入する流れになっている」
「いつの間に、その様な流れになっているんだ。まぁ、流通するようになれば、今後の問題も解決するか。仕方がない、今回はそれに乗っていくとしよう。しかしながら、まさかシャトゥルートゥ集落の職人が、ハッハッハッハ……ハァ」
職人たちに言いたい事を溜息として吐き出し、改めて職人たちが作り上げたゴーレムホースを見る。見た目は白馬であるが、太陽の光で皮膚が光り輝いている。鬣や尻尾は人工の毛が使用されているのか、魔力を帯びた茶色い色の毛が生えている。蹄は黒く、瞳は銀色。職人たちの魂が込められた作品を見て、儂は黙って頷き「見事な作品だ」と呟いた。
「さて、そろそろ行くか。流石にこのままでは、ゲーディオに到着予定時間が大幅に遅れるからな。旦那、取りあえず嬢ちゃんたちを客車の中へ連れて行ってくれ。勿論、旦那も客車の中で仕事をしててくれ。運転については、儂が行なう」
「分かった、ミーアたちは任せてくれ。ただ、ずっと竜仙に運転させる訳にもいかないから、取りあえずは四時間交代で良いな」
「あぁ、それで構わない。しかし、ゴーレムをこの様な運用法で対応するなど、この世界の住人では考えられないだろうな。ゴーレムは魔物と言う認識が当たり前だ。それに、ゲーディオ近辺での暴走の件について、此奴らも影響を受けないかが心配だ」
「それについても、職人たちが対応をした。なんでも、コア内部から外部への干渉を遮断する周波数を出すようにしたらしい。干渉疎外系統のコアを作成した事もあり、それの動作確認も含めて作られたようだぞ」
旦那はそう告げると、そのまま嬢ちゃんたちのいる馬車の中へと入っていった。過ぎたことはしょうがないが、今後もこの様な流れで頭を抱える日々が続くのではないかと想像しため息が漏れた。仕方がない事だと呟きながら、儂は頭を掻き馬車の運転席へと向かう。いろいろと問題があるのだが、無事にミッシェル集落の問題も解決できた。だが、同時にゴーレムホースの問題があるのだが、そこについてはもう諦めておくとする。
「さて、そろそろ行くとするか」
馬車の手綱を引き、ゆっくりと門の方へと馬を歩かせる。ゆっくりと歩き始める。旦那たちは客車の窓を開け、ミッシェル集落の住人に手を振る。それを見た者たち全員が「ありがと」と叫びながら手を振り返す。危機的状況から最後まで諦めず生き続けた集落の者たちに敬意を払い、儂は手綱を左手で握りながら右手で額の角に触る。
「鬼の角に福来る。ミッシェル集落に幸運を、儂らの旅にも幸運を。鬼神である儂が幸運を願うのはどうかと思うがな」
触れる右手を話すと、虹色の光がパラパラと散る。これでミッシェル集落の幸運を一時的にではあるが長持ちさせる事が出来た。ついでに儂らの旅にも幸運がある様に調整したが、儂の予想では此方の方はそんなに長続きしない気がする。なんせ、儂らの旅は常に何かしら『ゴーレム関連のいざこざ』に巻き込まれるのだ。実際に、経験しているので仕方がない。
「あぁ、出来ればゴーレム関連の問題に、巻き込まれない事を祈りたいものだ」
そんな事を呟いていると、ミッシェル集落の門が見えて来た。門の前では、集落の住人たちが笑顔で手を振ってくれている。感謝の言葉を告げながらも、儂に対して頭を下げる者たちもいる。そんな者たちに手を振りながら、ミッシェル集落から出る。目的地であるゲーディオに向けて、儂はそのまま目的地へと向けてゴーレムホースを走らせるのだった。




