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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
56/90

15話 狂いの神

どうも、こんばんわ(現時刻2020/8/27 0時55分)

今年は本当に暑いですね。

うん、水分補給はしっかりとりましょう。

ちゃんと水分取らないと、頭がクラクラしますからね。

在宅勤務になってから、この現象になると仕事が進まないです。


さて、次話も頑張って書いて行きます。

では、次話で会いましょう ノシ

 ミッシェル集落に到着後、儂は旦那の待つ仮拠点へとアルトを背負いながら向かった。コリッシュたちは先にギルドの方へと向かい、ギルド長と話し合をしている。今回の結果についての顛末を報告する為だろう。ローシェンがいるから、コリッシュの暴走はある程度は抑えられるとして、ジュライの方は大丈夫か心配である。ギルドの方でお尋ね者にされていたこともあり、ギルドに到着後そのまま逮捕されている可能性もある。

 ジュライの件については、ギルド長などに報告はしているから問題はないが、他の連中が何かしてこないとは限らない。それ故に、先にギルド長宛てに用意した手紙をジュライに渡しており、その手紙がある限りジュライは儂らの仲間であると言う証明書になる。まぁ、ギルド長やSランクの冒険者たちにも報告済みなので、問題が起こることはないと願いたい。


「ジュライの事が心配だが。まぁ、儂が用意した手紙もある。何とかなるだろう」


「何が、何とかなるのだ」


「あぁ、ジュライの件でちょっとあってな。まぁ、問題はないだろうとは思うが、少し心配でな。まぁ、その事は置いておこう。それにしても、集落に到着した時は大変だったな」


「うむ、確かにあれは大変だった。あれが人の波と言うものだな。私は覚えた。アレは、今の私では怖い」


 アルトは集落に着いた際の事を思い出し、少し震えているのが分かる。まぁ、確かにアレは子どもの姿であるアルトにとっては恐怖だろう。集落に到着した時、最初はコリッシュたちが事情を説明のために集落に戻った。その後、儂らも集落にしたがアレは酷かった。怪我を負った者と看病している者たちを除き、生き残った軽症の冒険者たちが一気に押し寄せて来た。その後、ギルド長のアルバードとマーシェンたちがやって来て、アルトの説明をしたりなど少し時間がかかってしまった。その間、アルトは周りを見渡しながら『あれはなんだ』など、興味津々で質問してきた。


「集落とは、こんなにも厳重なものなのだな」


「いや、此処が異常なだけだ。儂ら旅人が介入したのが原因だが、この世界の問題を考えるとこれでも足りないくらいだがな。狂いの神は人間の手では倒せない。儂らでも完全に倒せないが、そこは後で旦那に聞くとしよう」


「ふむ、そうなのか。だから、これ程の防衛力があるのか。なるほど」


 何やら納得したようで、周りの防衛装置を見回していた。傍から見れば『親子』に見えるらしく、何故か周囲から温かな視線を感じ取れる。アルト本人は気にしていないのか、それとも気づいていないのか。ただ、背中から楽しそうな笑い声が聞こえるのだが、気にする事無く仮拠点へと向かって歩いて行く。

 仮拠点が見えて来たのだが、周囲にいる冒険者たちで道が塞がっていた。どうやら、昆虫型の魔物との戦闘で怪我を負った者たちが多いらしく、治癒魔法を得意とする魔術師や僧侶たちが必死に治癒魔法をかけている。地面に御座のようなものが敷かれており、その上に怪我人を寝かせているのだが、その数が五十名以上はいるようで、忙しなく動いているため仮拠点へと戻れない状態である。

 さて、どうしたものかと考えていると、アルトが儂の右頬を突っつき「あっち」と右の方へと指さしながら言う。その方向へと向くと、旦那が周りにいる冒険者たちに指示を出しながら、怪我人の手当てをしていた。嬢ちゃんたちの姿が見えないあたり、仮拠点で何か仕事をしているのだろう。そんなことを考えていると、旦那が此方に気が付いたらしく、一瞬で儂の目の前に現れた。


「ぉ、竜仙。お帰り」


「あぁ、ただいま戻りました。旦那、すまないが報告は後で構わないか」


 儂はそう告げアルトの方へと顔を向ける。儂との戦闘で疲れもあるのか、儂の肩に顎を乗せて眠そうな表情をしていた。儂の背中が居心地が良いのか分からんが、今にも眠りそうな表情である。儂の背中が心地よいのか、徐々にアルトの目が閉じていく。


「別に構わないが、理由は大体分かった。お前が背負っている、その眠そうな表情をしている子が、連絡にあった女王虫なのだな」


「あぁ、その通りだ。此処へ向かう途中で、虫の残蟹に足を躓いてこけてな。足を捻ったか挫いたか分からんが、怪我をしているのは確かだ。先に治療をしたかったのだが、こうも寝息をたてられては仕方がないか」


「だな。いつ見ても、子どもの寝顔は良いものだ。俺たち旅人は、人間とは違い『死んだとしても元の肉体で産まれる』からな。こうした、子どもの寝顔を見る機会がない。あぁ、やはり子どもは良いものだな。さて、ちょっとそのままでいろ。その子の足を治してやる」


 旦那はそう言うと指を鳴らし、アルトの両足に回復の魔法をかけた。緑色のオーラがアルトの両足を纏っているのを見て、安堵しつつも周りの状況を再度見る。瀕死までは行かないが、包帯だらけの冒険者たちがタンカーで医療ギルドに運ばれていく。


「旦那、一つ聞いても良いか」


「あぁ、良いぞ」


「この戦での死者は何名――いや、何十名だ」


 怪我を負った者たちの中に、泣きく連れる者や放心状態の者がいた。中には剣を握り目を瞑る者もいた。あの戦を考えてみても、死者が出ないはずがない。集落に残っていたCランク以下の冒険者達もいるはずだが、その者たちの姿が見当たらない。


「そうだな。総勢百名程いた冒険者のうち、重傷者が約五十名、軽傷者は三十二名。そして、十八名が死亡だ。まぁ、喰われることはなかったが、猛毒にやられて亡くなった。俺がもう少し駆けつけるのが早ければ間に合ったのだが、もう過ぎてしまったことをタラればで語るのもダメだろう。ちなみに、十八名についてだが、ギルドの方で遺族に報告するそうだ」


「そうか、十八名で死者を抑えられた。だが、やはり死者を零名にしたかったな。儂としても、今回の戦の原因が『狂いの欠片』によるものだとは思いもしなかった。旦那、狂いの神とは何なのだ? 儂ら旅人ですら殺せぬ神が存在する事もそうだが、狂いの欠片とは何なのだ」


 狂いの神について儂はどうしても知りたかった。今なら、旦那が答えてくれると思い質問する。それに対して、旦那は驚いた表情を一瞬したがすぐに真面目な表情に戻り「その話は拠点で話そう」と告げ、仮拠点の方へと歩いて行った。それに続いて、儂はアルトを背を居ながら仮拠点の中へと入る。


「重傷者の治療を最優先に!! 毒消し薬をあるだけ持って来い!! 毒を受けて時間が経過してる奴には回復魔法を駆けながら毒消し薬を飲ませろ」


「意識がない方は、脈があるか確認しなさい!! 毒による意識不明状態なら、点滴に中和薬を入れなさい」


「ベッドの空きはどれだけある!! 手術が必要な奴は、すぐにこっちに回せ!! 手術が終わり次第、ギルドの方にあるベッドに送れ」


 仮拠点の中では、医療ギルドの者たちが必死に駆けまわっていた。その中を邪魔にならないように進み、部屋の奥にある応接室へと入る。応接室には誰もおらず、中央にテーブルと挟むようにソファーが二つ置かれている。アルトを右側のソファーに寝かせると、旦那は反対側のソファーに座った。


「さて、竜仙は何を飲む。茶くらいなら、すぐに出せるが」


「いや、それは儂がやるべき事だろう。すぐに茶を用意する」


「そうか? なら、すまないが任せる。そう言えば、このままじゃ竜仙が座れないか。彼女のベットを用意するからそちらに寝かして置くか」


 そう言うと、旦那は指を鳴らし簡易的なベットを部屋の奥に召喚した。病院の診療所に置かれているタイプのベットだが、アルトを寝かせるには十分の大きさである。旦那はソファーの上に寝かしていたアルトを優しくお姫様抱っこで持ち上げ、そのままベットの上に寝かせた。

 その光景を見届けながら棚に置かれた急須と茶葉を取り、湯呑に茶を淹れて旦那の元へと持って行く。部屋の外では忙しなく働いている者たちがいる中で、こうして茶を飲みながらのんびりするのは悪い気がする。テーブルの上に湯呑を置くと、旦那はソファーに座り湯呑を手に取った。


「さて、どこから話せば良いか。狂いの神と言う存在から語ると長くなるな。そもそも狂いの神とは、何なのかについてだな。竜仙は世界がどうやって作られるか分かるか」


「確か、世界樹によって世界が創られるだったか。その種は創生の神が作り出し、育ち切った枝を破壊神が断ち切ることで世界が終わる。そう習った記憶があるな」


 昔、旅人になる者の補佐になるとして、世界の創生と言うのを学んだ。ユグドラシルの樹――儂らにとっては『世界樹』だが、その樹を創生の神が植え、破壊神が枝葉を斬ることで世界が滅ぶ。そう儂らは教わって来た。それ故に、新たに現れた『狂いの神』について、儂らは情報が足らないのだ。


「狂いの神とは、元々『来日の神』と呼ばれている。全ての始まりであり、全ての終わり。無が最初に感情を持ったことで産まれた『始まりの祖』であり、全ての生命の始まりである『初代』のこと。その初代ですら気が付かなかった、無が作り出した『本来の想像主』だ。それが、来日の神。始まりの祖と同じ、全ての世界にとって一柱しかいない世界を創り、世界を終わらす創造と終焉の神だ」


 来日の神については、初めて知ったことだが何となく理解する事が出来た。創生神であり破壊神であるのが、来日の神なのだろう。ならば、狂いの神とは何なのか。話を聞く限り、来日と狂いは語呂が似ている。そうなると、同一の神なのだろう。だが、そうなると何故、旦那たち旅人は狂いの神を封印する事を選んだのか。本来、邪神となった神を殺し、もう一度正常な穢れ無き魂に戻して復活させるのが、儂ら旅人の仕事のはずだ。


「想像と終焉を司る神が、来日の神であることは分かった。旦那、来日の神と狂いの神は同一神なのか? そもそも、旅人は邪神となった神を殺して正常化に戻すのも仕事のはずだ。何故、狂いの神のみ封印を選んだのだ」


「竜仙の言う通り、来日の神も狂いの神も同一神だ。そして、呼び名が変わるのは『目覚めるタイミング』が関係する。本来の終末時間に目覚め、新たな世界を創造するのが『来日の神』の役目だ。ただし、何かの手違いで『本来の終末時間以外』で目覚めてしまったのが『狂いの神』だ。ただ……」


 旦那は、言葉が詰まる。話しても良いのか悩んでいる様だが、一度湯呑に入ったお茶を飲むと、決心がついたのか真剣な表情で続きを話し始めた。


「ただ、狂いの神は神としては『正常』なんだ。目覚め、世界を滅ぼし、もう一度世界を創造し直す。世界を再誕させるとでも言うべきかな。だからこそ、狂いの神が『異常』だと判断されなければ、殺す対象として神殺しの執行を行なう事が出来ない。ただ、あの神は『目覚める時期が早すぎた』だけなのだからな。故に、あの戦いは『殺す』のではなく『封印する』しかなかった。なんせ、来日の神は始まりの祖と同じ『神殺しが効かない存在』だ。故にもう一度、この地に眠らせるしかなかった」


「なるほど、そう言うわけだったのか。目覚めが早かっただけで、本来の神としての異常はない。だから、殺す事が出来なかったわけか。確か隊長たちが『殺す名目が無ければ神を殺す事が出来ない』と、言っていたな。人が想像する神殺しの武器ですら、狂いの神は殺せないのはあの戦で嫌と言う程に味わった。殺す名目――その神が『異常』であると言う証明が無ければ、儂らはどうあがいても狂いの神を殺せない」


「そう言う事だ。だから、俺たちは狂いの欠片が必要なんだ。狂いの欠片とは、来日の神の精神状態が記載された書物なんだ。その誕生から現在の状態までがすべて記載された『カルテ』のようなモノであり、来日の神の精神状態を証明する『証拠品』になる」


 狂いの欠片を集める理由について、ようやく理解する事が出来た。だから、隊長や旦那たちは欠片を集めているわけだ。だが、そうなると一つ気になる事があった。一柱しか存在しない来日の神が、何故全ての世界に存在するのか。それについて質問しようとしたのだが、その答えを旦那は語り始めた。


「嬢ちゃん――つまり、始祖は来日の神の子だ。ちなみにだが、父は我々旅人の創設者である『語り神』だ。さて、話を戻そう。嬢ちゃんについてだが、来日の神の力をより濃く受け継いでいる。その嬢ちゃんが、母が忙しなく創造と破壊をしているのを見て、父に『全世界に母様と同じ、もしくはそれよりも劣化した者を配置できませんか』と言ったらしい。その結果、父が初代来日の神と話し合い、自身の力を少しコピーして、生まれた世界について来日の神の残滓を配置した。それが全ての世界に存在する来日の神たちだ」


「なるほど。つまり、儂らの隊長のように過労で倒れないように始祖様が提案した結果と言うわけか。確かに、全ての世界を管理するのがやり易くなったとは思うが、現状の狂いの神の問題は考えてなかったのか。流石に始祖様が考えていないとは思わないのだが」


「あぁ、それについては考えていたらしい。その対策が、目覚める期間を設けることだった。人類も生物も存在しない時に目覚めるように、終末時間用の目覚まし時計を設置してな。誰にも起こされないように厳重にロックをかけ、旅人ですら入れないように多くの侵入禁止対応を施したらしいんだ。当時の管理については、隊長から直接映像で見せてもらったが、アレを掻い潜るのは不可能だな」


 当時の映像を思い出したのか、頬が引きつっていた。今思えば、儂らの隊長は基本ノリとテーションで鬼畜使用のトラップを作製することが多い。多分だが、そのトラップがそのまま反映されているのではないだろうか。あの隊長の事だ、さらに危険度を増したトラップを設置しているに違いない。例えば、通路だろうが部屋の中だろうが、ドアノブを握ろうが、一歩でも行動した瞬間、落雷が落ちて来るとか。理不尽な罠がわんさか有るのだろう。あの隊長ならやりかねない。


「ま、まぁ、あの隊長ならやりかねないだろうな。旦那ですら、あの地獄の訓練の時は、精神と肉体がズタボロになっていたからな。凄まじいトラップなのだろうから、突破できないだろう。うむ、一歩でも行動すれば即死するレベルだからな。そのトラップがそのまま反映されたのだろうな」


「あぁ、そのレベルを更に危険度を上げてな。ただ、それをどの様な手を使ったのか分からないが、厳重な防犯装置があるにも拘らず、それを突破して無理やり叩き起こした神が居た。その結果、そいつが原因で目覚める期間が早まり、狂いの神となって目覚めてしまったわけだ。まぁ、そのバカは狂いの神の怒りを食らって魂ごと起源まで消滅させられたがな。この話は、以前の『初代、狂いの神、狂った神竜』の三柱の戦いよりも遥か昔に起きたの話だ」


 初めて聞いた内容に、儂は絶句してしまった。あの戦よりも昔に、狂いの神による戦が起きていた。それも儂らには知らさず、ずっと隠していたと言う事だ。何故、真実を語らなかったのか。もしや、来日の神を起こした神を庇うためなのか。いや、旦那や隊長たちがそのような隠し事をするはずはない。儂ら旅人の世界にいる帝様ですら、民に対し嘘偽りなく真実を伝える。その様な方々が説明もしないのは変である。


「旦那、儂はその話を知らないのだが、旦那はあの戦よりも前から知っていたのか? いや、あの戦よりの前に知っていれば、儂らに必ず教えていたはずだ。だが、旦那はそれが出来なかった。つまり、旦那が知ったのはあの戦の前日だな」


「あぁ、その通りだ。俺が知ったのはあの戦の前日だ。それも、無月隊長ではなく帝様から呼び出され、その内容を直接聞いた。その時は竜仙と同じ反応をしたさ。ちなみにだが、あの場には、ミーアもいたから知っているはずだ。いろいろとあって伝える事が出来ず、申し訳なかった」


 旦那は儂に対して頭を下げた。別に旦那には非はないのだが、それでも頭を下げる姿に何故かホッとしてしまった。今思えば、旦那は儂らに対して、いつも誠実であったことを思い出した。だからこそ、儂らは旦那について行くと、儂が『旦那こそ隊長になるべき者』だと決断した理由だ。そう考えると、儂の行動は正しかったのだと判断できる。


「なるほど、そう言う事があったわけか。旦那が頭を下げる必要はない。儂らがもっと早く聞くべき事だっただけだ。ただ、狂いの欠片について疑問がある。すべて集めることで証拠品となるのは分かったが、一般の人間や儂らが手に触れると精神汚染されるのか。やはり、狂いの欠片には呪いがかけられているのか?」


「いや、呪いはかかっていない。簡単に言えば、触れた者が狂いの神の依り代として馴染むように、その存在を『調整される』が正しいだろうな。欠片には、来日の神についての情報が刻まれている。その欠片に触れた者の魂に、その情報が複写されるように刻まれる。だからこそ、欠片に選ばれた者以外が触れれば、その力に耐えられず魂が砕け散る。それ程危険なモノなのさ」


 旦那は収納指輪からキャティから受け取った『狂いの欠片』を取り出しテーブルの上に置いた。手のひらサイズの大きさの欠片だが、綺麗な銀色の欠片に変わっていた。それを見て、儂も回収した欠片を同じように取り出してテーブルの上に置いた。回収した時は石だったのだが、今は旦那が置いた欠片と同じように銀入りに輝いている。


「本来なら来日の状態ならば『書』なのだが、狂いの状態は『書が砕ける』ことになる。それは、力の暴走で耐えられなくなり書が砕けると言うわけだ。この欠片に長時間触れ続け、その魂に狂いの力が蓄積される。そうなると、その者は狂いの恩恵を受ける。まぁ、俺達でも普通に対処できるレベルなのだが、この世界の住人にとっては最強レベルの猛者になるだろうな」


「そんな危険なモノなのか。旦那が儂らにも欠片が触れられるように、儂らに加護を与えたと言うわけか。そもそも、狂いの欠片とはどうやって出来るのか知らなかった。力に耐えられず、壊れたモノが欠片になるわけか。ならば何故、狂いの欠片は一つの世界に対して八個までしか存在しない? 力に耐えきれないとならば、八個以上に砕ける可能性もあるだろう」


「それについては、そう言う風に作られているとしか言えない。なんせ、俺にも分からないからな。何故、八個までなのか。それについては隊長に聞いても『まったく分からん』と言っていたからな。何か、法則性でもあるのかもしれんな」


 旦那はそう言うと、テーブルに置かれた欠片をすべて収納指輪に入れる。収納指輪の中で欠片を繋げるのだろうと理解し、湯呑を手に取りお茶を飲む。話している最中で冷めてしまったらしく、温くなったお茶を飲みながら部屋の外に目を向ける。異変は終えたが、まだ完全にすべてが終わったわけではない。部屋の外では忙しなく何人もの冒険者たちや医療ギルドの者たちが働いている。


「さて、そろそろ儂も――」


 そう言って立ち上がろうとしたが、旦那は「お前は休んでろ」と言って顔をアルトの方へと向けた。どうやら、アルトの面倒をまかせるつもりのようだ。確かに、儂が適任なのかもしれんが、このまま休んでいるのも悪い気がするのだが。そんな儂の思いを理解してか、収納指輪から資料と何やら長方形の木箱を取り出した。何となく予想が出来るのだが、旦那は微笑みながら俺に言う。


「アルトちゃんが目を覚ましたら、契約の件を頼む。それまで、必要な書類は用意してある。資料はコレで、お茶菓子はコレ。竜仙には、重要な仕事をまかせているんだ。少しくらいゆっくり休んでくれ。キャティ達も女王虫と言うSランクの敵と戦ってもらったわけだし、ギルド長から休みをもらってるはずだ」


「そ、そうなのか。手際が良いと言うか、まぁ、そうだな。旦那からの指示ならば、それに従うとしよう。では、アルトに契約の事を説明し終えたら連絡を入れる。それで良いな、旦那」


「あぁ、それで構わない。じゃ、後は任せた」


 旦那はそう告げると立ち上がり、そのまま扉を開けて部屋を出た。儂はソファーから立ち上がりカーテン越しから窓の外を覗くと、外では日が沈み始めているが忙しなく看病のために働いている者たち。今日を生き延びた者たち、勇敢に立ち向かい死んで逝った者たち。この戦はきっと歴史に残るだろう。儂ら旅人が手を貸しただけだが、それでもこの世界の住人が勝ち取ったモノだ。死んで逝った者たちが、あの世へとちゃんと逝けるように願いながら、儂は旦那の指示通りアルトが目覚めるまで休憩することにした。

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