13話 欠片の回収と龍脈の移動
どうも、皆さま
お元気でしょうか。
私は、いつも通り元気だったです。
だった、と言うのも5月は近々の業務が立て続けにあったりなどで、
神経をすり減らす業務が立て続けにありました。
結果が、このざまですが・・・・・
取りあえず、今月何とかあげれました。
今回はいつもよりは短い(6700文字程度)ですが、
次話も頑張って書きたいと思います。
では、皆さま。
季節の変わり目ではございますが、お体ご自愛下さいね。
次話で会いましょう ノシ
2020/08/26(水) 訂正:『石板』を『欠片』に修正
女王虫との戦いが終わり、儂らは出口の方へと向かう。その間、女王虫はずっと無言で儂の背後を付いてきている。なにやらジッと儂の背を見つめているようで、先ほどから視線を感じている。何か言いたい事でもあるのだろうかと聞きたいところだが、もうすぐ出口に到着するので後で聞くことにする。出口に近づくとローシェンたちも此方へと手を振りながら歩いて来た。
「師匠、ご無事ですか!? って、無事ですよね。あははは」
無事に合流できたと同時にコリッシュが儂に対して安否確認をするのだが、最後は自己完結したのか笑っていた。いや、笑いながら言うべき事なのだろうか。確かに儂なら問題ないが、普通に考えても笑いながら安否を尋ねるのは失礼ではないだろうか。まぁ、コリッシュなら仕方がないかと妥協しつつ、そんなコリッシュの頭をローシェンはハリセンで叩いた。何とも清々しい良い「スパァァァァン」と言う音が耳に入るのだが、叩かれた本人は痛がる素振りはなく笑っているだけである。
「すいません、リューセン様。この馬鹿については後で叱っておきます」
頭を下げるローシェンに対し、コリッシュは先ほど叩かれた頭を摩りながらも笑っていた。まぁ、持ち前の元気なところと明るい性格が取り柄だから仕方がない。何だかんだで、コリッシュはムードメーカーとでも言うべき存在でもある。
「ローシェンさんの苦労がなんとなく分かりました。毎日ハリセンで頭を叩かなければならないと思うと、腱鞘炎とかになりません。特に手首辺りが」
「ジュライ、それについては大丈夫だ。叩く度に回復魔法を手首にかけてるから、腱鞘炎になる危機は回避しているよ」
毎回ハリセンで叩かれるコリッシュに対しての同情の言葉はなく、何故かツッコミでハリセンを用いるローシェンを心配するジュライ。この三人、なんだかんだで良いチームなのではないだろうか。そんなことを思いながらも、ローシェンたちが無事であることに安堵した。女王虫と一体化した身内とは言え、女王虫は強敵なのは変わりない。それをたった三人で挑ませたのだ。簡単には勝てないと思っていたのだが、怪我一つない姿に安堵するのは仕方がない事だ。
「何ともしょうもない事に回復魔法を」
「彼女と一緒に組んでいれば、僕の苦労を理解できるさ。ツッコミのため、説教のため、理解不能な行動を封じるため、日々このハリセンを欠かさず叩かなければならない。その苦労を知れば、ジュライも回復魔法のありがたみを実感できるよ」
目のハイライトが消え、もう諦めたような表情で答えていた。遠目で見ただけでも解かる程、ローシェンは疲れているようだ。儂の教育不足と言われればそうなのだろうが、元々の性格を如何こうする事など不可能に近い。
「あぁ、なるほど。うん、分かりました。うん」
「もぉ、ローシェンならともかくジュライまで。これじゃ、まるで能天気で、適当に動いているみたいじゃない。これでも、ちゃんと考えて行動してる」
「「いや、お前は本能で動いてる。間違いなく」」
儂とローシェンの声がハモった。儂が教育した際も、本能で動いていた節がある。そんな馬鹿の相手を毎日していれば、ハリセンが無ければ暴走を止められる気がしなくなるのは当たり前だ。現に、儂も極稀ではあるがハリセンで軽く叩き暴走を止めた記憶がある。あの時は、サンドバックがあると言うのに集落の外壁を殴ると言う謎行動をとり始め、折角修復したばかりの外壁に亀裂が入り、完全に外壁が壊れてしまう寸前だったところを儂がハリセンで打ち、外壁殴り行動を止めたのだ。あれ以来、コリッシュの行動を監視しなければならない状況になったのは言うまでもない。
「はぁ、コリッシュの件については置いておくとしよう。それよりも、無事に勝てたのだな。身内とは言え、大罪人の父が寄生した女王虫との戦闘だ。苦戦はしただろうが、よく頑張ったな、ローシェン。ちゃんと見送れたのか」
「はい、あいつを――いや、父さんの最後を見送る事が出来ました。非道な事をしておいて、最後は本当に呆気なかったですね。でも、今度こそあの世に送れたので安心しました。後、最後に『この石板の欠片』のようなものを託されました。これは、リューセン様が探している物だと思うのですが」
ローシェンは懐から一枚の欠片を取り出した。それを見て、儂はすぐにそれが『狂いの欠片』であることが分かった。ただ、シャトゥルートゥ集落でキャティから回収した物よりも一回り大きい。見る限り、二枚あった物が一つになったのだろう。
「ん、これはあの時に渡した物か? だが、変だな。私が渡した物より一回り大きい」
ローシェンの手に持っている欠片を見ながら、女王虫は右人差し指で突っつきながらそう答えた。本来なら素手で触るのは危険なモノなのだが、ローシェンと女王虫は平然と触っていた。つまり、この二人は狂いの神に選ばれた『狂いし者』なのかもしれない。そうなると、この二人をその運命から『回避』出来たのは僥倖なのかもしれない。
「旦那に見せて確認する必要があるな。分かった、此方は預かろう」
儂は右袖の亜空間倉庫から布を取り出し、狂いの欠片の上に被せ受け取る。その行動にローシェンは疑問に思ったようで、首をかしげながらその行動を見ている。はたから見れば失礼に当たる行為とも言われかねないのだが、儂のような存在はこうして受け取らねば『狂いの力』を受けてしまう。ちなみに、布越しでも微かにだがその力の片鱗は感じ取った。
「やはり、これは危険だな。布越しでも、これ程の力を感じ取るか。これは『狂いの欠片』と言ってな、人の感情を狂わせ、魂を侵食し、最終的には『狂いの神』の肉体として奪い取られる。子の欠片を所持し続ければ、狂いの神の力を浴び続ける。それ程の危険な欠片なのだ。すまないな、確かにこれは預かった」
布で掴みながら、手の甲を下へと向け欠片を再度確認する。銀色の何も書かれていない真っ平の四角い欠片だが、これが一つに揃った時に一つの石板となり、狂いの神のいる空間へと繋がる転移石と変化する。その時が、本番となるわけだ。
「なるほど、それ程危険なモノなんですね。でも、僕は持っていても平気だったのですが」
「それは、狂いの神に選ばれた贄だからだろうな。この欠片を所持できる者は、欠片の力に呼び寄せられる。その者は『狂いの力』による影響を受けることはないが、狂いの力を使う事で魂は浸食されて行くのだ。徐々に体を、魂を蝕み、最終的にはその者は『狂いの神』として主導権どころか、その全てを乗っ取られる。故に、この欠片を回収できたことで、何とか二人の運命は護れたわけだ」
欠片を包み、右袖の亜空間倉庫ではなく『左袖』の方へと入れる。亜空間倉庫には、狂いの影響を受けやすい物もある。特に、狂いの力を受けやすい宝玉が眠っており、誤作動を起こして暴走する可能性がある。それ故に、亜空間倉庫には入れる事が出来ない。なので、何も繋がっていない左袖の中を一時的にだが『保管庫』に接続し、その中にある幻獣保管装置の中へと収納した。
「つまり、欠片を手に持てた僕とそこの女王虫が選ばれた者。だとしたら、この欠片は一体どのくらいの数存在するんですか? 手のひらサイズと言う事は、やっぱり数十個以上はあるのだと思うのですが」
「いや、個数については決まっている。儂ら旅人が調査した世界を基準とすれば、六個から八個だ。この世界で回収した数だと、ローシェンのを含めれば三個だろう。先ほどの大きさから見て、二個あった欠片が一つになった可能性がある」
左袖から手を抜き、保管庫への接続を解除する。今思えば、狂いの欠片は転移装置だと分かったのも、旦那と隊長殿の調査の結果だったことを思い出す。しかし、この正方形の石板が『欠片』とはどういう事なのだろうか。現在、分かっている範囲で言えば『一億個』は回収している。無数に存在する世界に『欠片』が存在し、それを回収し続けながらも旦那たちは儂らには何も教えてくれはしない。
(狂いの欠片を集めることを儂らはやっているが、これを集めた先に何が起こるのか。思い返してみれば、この欠片について詳しい話を聞いていなかったな。旦那なら答えてくれるだろうが、聞くのを恐れてそのまま流れていたな。今がその時なのかもしれん。旦那に聞いてみるとするか)
「欠片が一つになる。また面妖な事が起こるんですね。そもそも、この欠片が異変を起こしていたのなら。壊した方が良いのではないですか? 狂いの神とか言う神も、旅人様方が倒したと言い伝えになっておりますし」
「いや、これは壊せない。何と言えばよいのか、この欠片の中には『世界』が存在する。簡単に言えば『もしも』の世界とでも呼べばいいか。幾多の可能性の先にある世界の記憶がこの中に入っている。そして、間違った認識をされると困るが、狂いの神を倒すことも、殺すこともできない。我々、旅人ですら仕留めることは出来ず、再封印しかできなかった。まぁ、その詳しい話はまた後日にしよう」
天井が開いた広場を見上げ、次の仕事について考える。現在、旦那が龍脈の流れを元に戻す対応しているはずだ。ならば、次のステップに進行するだけだ。右隣にいる女王虫へと顔を向けると、ジッと儂を見つめていた。まるで父を見る娘のような眼差しを向けているのだが、いつから儂はこの女王虫の父親になったのか思ってしまう。
「さて、女王虫――いや、そろそろ名前で呼ぶべきだな。女王虫、お前の名は何と言うのだ? そろそろ、名前を知りたい」
「私の名か? 私に名があっただろうか。どうだったか、分からない。名、名、名」
己の名を思い出そうとする女王虫だが、何故か黒い靄らしきものが首の周りに纏わりつく様に出現した。他の者には見えていないらしく、三人とも女王虫の方を見つめながら「なんて名前だろうね」とローシェンの一言から、名前当てゲームを始めている。
(この靄は、呪いか何かの類か? 狂いの神の力は感じ取れない事から、狂い関係の呪いではないと判断できる。そうなると、この世界の呪術師当たりの仕業だろう。この程度ならば、儂でも簡単に払えるな。ふむ、払えってみるか)
女王虫の右肩に左手を軽く乗せ、軽く『聖の魔力』を流し込みすぐに手を放す。そこまでの行動時間たったの十秒だが、女王虫の首筋に纏わりついていた黒い靄は消え去った。久しぶりに聖魔法に近い魔力を使ったが、案外上手く動作して安心した。どちらかと言えば炎や氷の方が得意なのだが、やはり地獄での修行の成果もあるのだろう。
「名、名。あぁ、思い出した。私の名は『アルト』だ。そう、母上から呼ばれていた。何故、忘れていたのだろう。アルト、私の名」
(ふむ、払えたようだな。案外、簡単に払えたが旦那に報告した方が良いな。始祖様への報告もかねて、慎重に行動するべきだったな。まぁ、ここも何かに利用は出来そうだな。壁と床を石に張り替え、貯水池として利用する。もしくは、倉庫――いや、素材回収がてらトラップ部屋とするか。いや、そうなるとアルトの部屋が――いや、此処より立派なものを用意できるか)
「アルト、良い名だな。後で、契約書にサインをしてもらう。詳しい内容については、後で立会いの席で説明する。安心しろ、儂らの前では不正は死に直結する。全てが公平であり、アルトにも分かりやすく説明する」
「分かった。ちゃんと説明してもらえるのであれば、私は問題ない」
何やら納得した様子で、儂の左袖を引っ張る。ジッと儂を見つめながら首をかしげる。その度に頭の触角が揺れるのだが、その眼は純粋な子どもが向ける優しい瞳だった。そんな目で見られると、何と答えればよいのか悩んでしまう。儂は子守りがあまり得意ではない。この顔のせいでもあるが、子どもとあまり接する機会が無いため経験がないのだ。
「そうか、ならば問題ないな。うむ、取り合えずこの場所から出るか。長居し続ければ、他の者たちが心配して来るかもしれんからな。この場所でやるべき事はもう終わっている。集落に戻るとしよう」
そう告げると、アルト以外が頷いた。まぁ、当然のことだから仕方がない。三人を先に天井の空いた洞窟から脱出するように指示し、アルトと二人だけ此処に残り先に行かせた。その後ろ姿と気配を確認してから、儂は後ろを振り返る。そこには戦闘の傷跡が残る壁と天井の岩の破片が突き刺さっている土床のみだ。
そして、足元から微かにだが、龍脈がゆっくりと動いている気配を感じる。それはアルトも同じようで、足元を見ながら驚いた表情をしている。どうやら、龍脈の移動が始まっているようだ。
「動いている? 地面の力の流れ、動いている。おぉ、不思議だ。ゆっくりと、右へ、右へと動いている。おぉ、元の位置へ戻っている? おぉ、凄い」
「あぁ、その様だな。龍脈を元の位置に戻しているのだろう。それにしても、龍脈の流れも分かるとは、アルトは地の属性が得意なのだろうな。いや、そもそもアルトは蟻の女王虫だったな。女王虫は特別感覚は発達していると聞いたことがあるな」
「そうなのか? 私はそこまで気にした事が無い。生まれた時から観えていたから特に気にした事が無い。いつも暇だからジッと観ているだけだったけど、ゆっくりと此方へと流れの向きが変わるのを見て楽しかったけど。そう、元の位置に戻るんだ。なるほど」
さも当たり前のような表情で儂を見ているのだが、本来ならあり得ない事である。地を極めた者でも、龍脈の流れを見る事など普通出来ない。感じる程度でも珍しいと言うのに、さも当たり前のように言うあたり、いつも見ていたのだろう。そう考えると、アルトような女王虫は基本的に龍脈を目視で確認できることになる。
「なるほど、生まれた時から龍脈が見えていたのか。他の女王虫もそうなのか分からないが、アルトは凄いな。ちなみにだが、あの欠片はどこで拾った。欠片に引き寄せられたのか、あるいはどこかで拾ったのか。教えてもらえるか」
「あの欠片? 母様が生きていた時、何故かずっと持っていた。だから、欠片の事を聞いたら、母様は『生まれた時から持っていた』と、言っていた。だから、多分、生まれた時からずっと持っていたんだと思う」
儂は心の中で「マジか」と言っていた。生まれた時から所持していたなど、多くの世界を旅した中で一度として聞いた事が無い。いや、そうなると龍脈が見えるのもアルトが『狂いの欠片』を持って産まれたからではないだろうか。そうなると、狂いの欠片の力はやはり凄まじい。うん、凄まじいな。
「さて、戻るとするか。アルトの件については、旦那に紹介と相談しないとな。こればかりは、絶対に避けれないから仕方がない。ハァ、集落の件、森の異変、龍脈のずれ。これらの対応、儂らが気が付かなければ、ミッシェル集落を中心に各集落が滅んでたかもしれんな」
「そうなのか。私は、そこまでお前らを追い詰めていたと。だから、此処まで来たと言う事か」
「あぁ、その通りだ。自然の生態系を戻すのは中々に難しいが、いずれは元通りに戻るだろう。しばらくは、待ち続けるしかないがな」
儂はそう告げてから、そのまま洞窟の外へと歩く。勝利の雄たけびが遠くの方から聞こえてくるのだが、アルトは空を見上げながら寂しそうな表情をする。子どもたちが殺されたのだ。恨みごとの一つくらいはあると思ったのだが、何故か寂しそうな表情から嬉しそうに微笑み言う。
「人間は、強いな。私の子を倒し、生き残った。強いな、うん」
「そうだな。しかし、お前は死なず生き残った。アルト、狂いの欠片の力の影響を受けたからとは言え、ラディアの森はほぼ滅びかけている。この状況を見ればわかるだろう。今度は、しっかりとこの森を管理してくれ」
「あぁ、分かった。頑張る」
儂らは、洞窟をそのまま出ていく。途中、アルトからいろいろな質問が飛んできたのだが、それに答えながら儂らはローシェンたちと合流した。当然のように三人は戻りの遅かった儂らを心配していたようだが、龍脈の件を伝えるとすぐに納得した。コリッシュはジッと地面を見て「龍脈って何」と言う最大のボケをかましたが、ローシェンがいつも通りハリセンで叩くのではなく、コリッシュの頭を撫でながら「後で教えるから、黙ろうねぇ」と真面目な表情で告げた。まるで、我が子をあやすかのような優しげな表情にジュライが口元を抑えながら笑うのを必死に耐えていた。
「はぁ、我が弟子ながら情けない。やはり、教育を間違えたか」
盛大に溜息を吐きながらも、その光景を観ながら苦笑する。それを見てか、アルトもまた嬉しそうに笑う。こうして、ラディアの森に起こった異変は、儂らの勝利で幕を閉じたのだった。




