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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
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12話 女王虫 

どうも、皆さん

お久しぶりです、私です。

小説書こうにも、仕事で頭がいっぱいになり中々書けなかった。

うん、仕事と趣味を両立するのは難しいというけどね。

でも、続けます。頑張ります。はい。


では、次話で会いましょう ノ


2020/9/12 1:56 :一部内容を修正。主に人型女王虫の見た目内容追加

 コリッシュが戦闘に入る前、儂は部屋の中央に立っている。右手に握る金棒を肩に担ぎながら、ジッと女王虫を観察する。三人が移動したと同時に、儂も女王虫の元へと歩き始めたのだが、一向に動く気配がなく、壁にもたれながら歯をギシギシ鳴らしながら睨みつけている。警戒している様だが、何故か攻撃してくる気配がないのだ。

 その姿を見ながら、儂は三人の戦闘を邪魔しないために部屋の中央に結界を張った。儂が張った中では、そこまで強度はないのだが、この世界の住人では破壊は不可能レベルだろう。壊す事が出来るとすれば、幻想を破壊する力くらいだろう。高火力でも超火力でも破壊することは出来ないらしい。この結界を作った旦那の上司に、制作方法を聞きたいくらいである。


「さて、何故動かないのか。こうやって近づけば、何となくだが理解できる。なるほど、足元の魔法陣が原因か。だが、魔力が流れている気配はしないようだが。ふむ、不気味だが、この異変を解決するためには倒さねばならん。悪く思うなよ、女王虫」


 金棒を強く握り、女王虫の元へと歩いて向かう。攻撃してくる気配はなく、まるで近づいてくるのを待っているかのようだ。しかしながら、何の反応も見せないのは不気味である。魔法陣が起動して、身動きが取れないのなら分かる。だが、起動していないことは間違いない。それ故に、何故動こうとしないのかが分からないのだ。

 女王虫の目の前に辿り着き、金棒を地面に突き刺す。こうして目の前で確認した限り、攻撃をしてくる気配は一向に見せない。まるで、攻撃されるのを待っているかのようである。つまり、攻撃を受けながら倍で返す『カウンタータイプ』なのだろうか。


「ふむ、めんどくさいが叩き折るか。カウンターできないレベルの打撃をぶち込めば――いや、逆にダメージを負う事で強くなるタイプの可能性もあるか。ふむ、これはこれで困ったな。しかし、そんなことを気にしていては、一向に問題は解決できん。仕方がない、やるか」


 金棒を振り上げ、風の刃で真っ二つするようにその場で振り下ろす。空気を裂く音と共に、地面にも抉れたような一本の線が出来ている。間違いなく女王虫を真っ二つになる様に放ったはずだったが、何故か右前足の一本だけが吹き飛んだ。空間歪曲系かは知らないが、確かに真っ直ぐ斬り裂いたのだが、結果は一本の右前脚のみ。どう言った原理なのか謎だが、同じ攻撃を行なえば同じ結果になる可能性がある。


「儂の『空刃』を反らし、己の脚を吹き飛ばすか。確実に真っ二つにしたと思ったのだが、中々やるではないか。ふむ、空気を反らしたのか。やはり、普通レベルでの攻撃をするべきなのだろうが、それでも此奴を仕留め切れるのか分からん。だが、久しぶりに燃え滾るな」


 傷みすらないのか、ギチギチと警戒音を鳴らしながらジッと見ている。切断した箇所からは緑色の液体が少し出たと思えば、すぐにその傷口が塞がる。地面に零れ落ちた液体は、そのまま焼ける音と共に蒸発して消える。先ほどの攻撃は間違いなく敵を一刀両断する一撃だったが、それを足一本だけが切断されたことに謎が深まる。


「ならば、これならどうか」


 儂はすぐさま女王虫に接近し、その場から飛び跳ね金棒を脳天へ向けて振る。それを防ぐために左前脚一本で防御態勢を取る女王虫めがけ、その前足をへし折る勢いで振り下ろす。想定通りと言うべきか、前足はへし折ったのだが、頭だけはとっさに避けられた。頭部が弱点なのは全ての生き物の共通認識だが、若干違和感を覚えた。本来なら、両方の脚で守るのが普通なのだが、何故か一本だけの脚で守っていた。


「何か、頭部にあるのか?」


 地面に着地してすぐにへし折った前足を掴み上げ、その頭部へと向けて投げ飛ばす。だが、その前足も女王虫は残った足で振り払いジッと儂を見つめるのみであった。頭部だけを必死に守っている頭に見えるのだが、何故か違和感があるのだ。まるで『すべての腕をへし折って欲しい』とでも言うべきなのか分からぬが、先ほどから攻撃をしてくる気配がないのだ。そんな違和感が残るのだが、ここで仕留めない事には何も始まらない。二匹の女王虫を討伐し、新たな女王虫をこの土地に留める。それが今回の異変解決の目的だ。その為に、この森に棲みつく二匹の女王虫討伐を行なうのだ。一匹はどうやらもうそろそろ終わりそうだが、この女王虫は苦戦する可能性がある。何せ、先ほどの謎が解明されていないのだ。何とかして、女王虫を倒さねばならない。


「何故、前足のみかは知らんが、今度は外さ――ん? 今気が付いたが、何故、同じ色の魂が二つ存在している? あの斬撃を放った途端、魂の色が二つに分かれたのか。いや、そんなことは有り得ない。これは――身籠っている? いや、違う!! 自身の肉体を作っているのか!? それも、自身の魂を半分に割き、そちらに魂を移しているのか!? 構造までは分からんが、人型に近い形になっている、だと」


 金棒を肩に乗せ、次の斬撃を放つために魔力を込め直す。今度は高火力で放つためではないが、この女王虫が何を仕様としているのかだけは分かった。人の姿になろうとしているのだ。女王虫が人の姿になるなど、イレギュラー中のイレギュラーだ。イレギュラーな案件は絶対に防がなければならん。しかし、この一撃で確実に『生成中の肉体のみ』を屠れるのか分からん。輪廻転生の環を外れ、自身の肉体を自らの手で作りそこへ自身の魂を移植する。本来、輪廻転生を行なう際、その魂と波長の合う肉体に魂が宿るものだ。それを自身の手で作り上げるなど不可能に近く、下手をすれば精神暴走を起こし、魂が砕ける恐れがある。


「肉体だけでも消し去ればよいのだが、まさかローシェンに渡した『輪廻回帰の剣』が此奴にも必要になるとは、予想外にもほどがある。あの短剣は、一本しか出来なかった。その短剣が二本も必要だと予想できるか」


 本来なら、その短剣を使えば一瞬で片付くのだが、やはりそう簡単にはいかないようだ。儂の手で同じことをやろうとすれば、その衝撃波で天井が崩れる恐れがある。床に亀裂がはいるだけですめばまだ良い。儂を中心に地面がせり上がり、天井が崩れ落ち、逃げ道がなくり生き埋めになる可能性もあるのだ。あの短剣は、たった一本で山一つ消えるレベルのエネルギーが込められている。それだけのエネルギーを用いて、輪廻の環に戻すのだ。制御が難しいとはいえ、出来ないわけではない。ただ、久方ぶりのせいで上手く調整が出来るのか心配であり、失敗すればローシェン達もろとも生き埋めになるだけだ。


「しかし、嘆いても仕方がない。これが、現実なのだ。やるべきことはただ一つであり、此奴の企みを阻止する事だ。久しぶりで上手く行くか不安ではあるが、輪廻回帰の剣とは違う方法でやるしかないか。魂の位置を元に戻せるかどうか、儂の腕次第と言うわけか」


 金棒に魔力を上限まで込め続けたことで、黒鉄が金色に輝き白き炎を噴き出す。この状態でしか放つことの出来ぬ『禁忌級の技』である一つの技を女王虫へと放つ準備が出来た。だが、当の女王虫は首を垂れジッと儂を睨みつけている。まるで、死ぬことを望んでいるかのようである。この肉体を捨て、新たな肉体へと魂を送る為かも知れぬ。


「死を望むか。何が目的は知らぬが、主の企みは防がせてもらうぞ」


 金棒を持つ右手を後方へと向け、ゆっくりと息を吸い、深く息を吐く。魂の位置は全く変わっていない為、今なら腹の中にいる者も仕留められるだろう。儂としても、本来ならこのような事は避けたかった。有り得ない事が立て続きに起こりすぎて、状況の理解がまだ追いついていない。しかし、このまま腹の中にいる人型を外に出すべきではない。儂ら、旅人やあの世で仕事をしていた者たちならば、正式な手続きの元であの世から魂を間借りし『ホムンクルス』を作る事が出来る。そう言った手続きもなく、輪廻転生の環から外れる行為は、何かしらの問題が発生してもおかしくはないのだ。


「では、行くぞ!! 安らかに、眠れ」


 そのまま金棒を金棒を振り上げる。地面が砕かれる音と共に、凄まじい衝撃波から地面から壁、天井へと亀裂が入った。地面を見れば儂が振り上げた際に、儂を中心に扇状の形をした抉れた跡も残っている。それ程の衝撃を受けた女王虫はと言うと、頭部から尻尾の先にかけて身体に真っ直ぐな金色の線が引かれる。だが、それだけでは終わらない。金色のラインから凄まじい勢いで黄金の炎が燃え上がる。振り上げた金棒を地面に突き刺し、その光景をジッと見つめる。確かに仕留めたと確信はあった。だが、儂の目には信じられないモノが映っていた。


「あの一撃を受けて、まさか生きているとは、な。 生成中の肉体の位置をずらし、儂の『焔』を軽傷のダメージで防ぐか。 なんと器用な真似をするか、敵ながら天晴れと言うべきなのか、そもそも『動かせたのか』と驚くべきか。いや、違うな。肉体の方から避けたのか? つまり……、まさか!? だが、有り得るのか」


 一つの可能性が頭を過った。そもそも、儂が考えていること自体が間違っているのではないか。目の前に見える『この女王虫』は偽りであり、本体は『生成中の肉体』ではないか。そして、そもそも生成中と言う事自体が間違いであり、アレが本体とではないのか。芋虫が蛹となり、やがて蝶になるように、今現在進化の途中なのではないだろうか。あくまで予想でしかないのだが、儂の経験した中でそう言ったことは何度かあった。そして、儂の直感ではあるがその可能性が濃厚だと思われる。


「この蟻の姿は成長するための『蛹』とでも言うべきか。本体は中にいる肉体であり、この体は何かしらの目的があって作られた『仮初の肉体』と言う可能性があるな。いやはや、予想外の事ばかりが起こりすぎて、頭が混乱してしまいそうだ。しかし、まぁ、そうだな。面倒くさいが、とにかく仕留める事だけを考えるか」


 金棒を構え直し、燃え盛る怪物を見つめる。女王虫の肉体が焼け、肉が焦げる匂いが辺りに充満する。燃え盛る炎と共に出る黒い煙が室内に充満するのを抑えるために、右袖から鉄扇を取り出し、鉄扇を開き、引き戸を開けるようにその場で鉄扇を一度だけ扇ぐ。その瞬間、風の魔法が発動し、酸欠にならないように空気の流れを作り出す。そのまま、鉄扇を閉じてから右袖に入れ、金棒を肩に載せ相手の出方を窺う。

 燃え続ける姿を見つめる中、女王虫が動き始めた。外見の大きな体は炎の熱で溶け、体は崩れ落ち、尻尾の部分を残して地面へと落ちる音が聞こえる。尻尾の部分から拳のようなものが突き破り、尻尾の中にいる者が剥いでて来る。ゆっくりと尻尾から出て来たのと同時に、此方へと人型をした何かがやって来る。炎の中から見える黒い影とは言え、二本の長い触覚のようなモノが見える。


「まさか、オーガの者が現れるとは驚きだ。だが、その力を見るに貴殿はオーガとは違う、全く別の個体主か。私の殻を打ち砕くだけではなく、焼き焦がすなどオーガに出来るとは思えないが。それ以前に何故、この土地にやって来たのか気になるが、こうして目の前に立っている。なら、もうこの後は決まっている」


 若い少女の声が炎の中から聞こえて来た。それと同時に、炎の勢いは弱まり姿がはっきりと見えて来た。その姿は、鎧を着た女性とでも言えばよいのか。黒い軽装の甲冑は肩から腰辺りまであり、肩から腕にかけては肌色の素肌と『赤黒い籠手』のようなものを着けている。腰から下は籠手と同じ色の長ズボンだが、魔力繊維で編まれているため硬い装甲と同じ硬度だろうと想定できる。首筋くらいはある髪の色も瞳の色も甲冑と同じ黒い色をしており、まるで日本人にそのまま西洋の甲冑を着せたような姿である。少女に甲冑とはこれ如何にと思ってしまったが、そこはどうでも良い事だ。今は、人の姿になってしまった女王虫に対してどう対処するかが問題である。


「やれやれ、儂をオーガ如きと一緒にするか。これだから、知性のない戦闘狂の奴らと関わりたくないのだ。見た目だけで判断するとは憐れだな。儂を怒らせ、本気にさせたいのだろう。のぅ、雑魚虫」


「さぁ、どうだろう。知性がないと言うが、貴殿の外見で判断したのは事実だ。だが、判断材料が、外見だけしかなかっただけ。それに戦闘狂は、貴殿にも言える。まぁ、良い。私の子らを殺しつくした償い、ここで支払ってもらおう。覚悟は良いな」


 女王虫は拳を構え、儂を睨みつける。それを見て、儂は金棒を右袖の中へと収納し、同じく拳を構える。その行動に一瞬驚く女王虫だが、すぐさま怒りの表情に変わるのを見てニヤリと笑う。儂にとって、金棒よりは拳で戦った方が楽な場合がある。故に、金棒をしまったのだ。


「舐めているのか」


「いや、舐めてはおらん。ただ、こっちの方が早いと思ってな」


 怒りから儂へと向かって走り出すのを見ながら、左手を前へと出し右手の拳を引き絞る。正拳突きの構えではあるが、相手の拳と拳をぶつけ合うのならこれが一番良い。突き出さす拳に向って、儂も拳を突き出す。互いに拳がぶつかると同時に空気が爆ぜ、女王虫の方が吹き飛び、そのまま壁に背中を打ち付ける。どうも、生まれたばかりだからとは言え、力はそれなりにあるようだ。儂の拳を真っ当に受けたとは言え、壁にぶつかるだけで腕などが砕けているようには見えない。


「っく!? 強いのだな、貴殿は。たった一撃だというのに、壁に激突するなんて予想外だ。フフフ、予想外。こんなに強い者と戦えるなんて、何年ぶりだろうか」


「ふむ、儂の一撃に耐えきったか。その鎧が受け止めたのか分からんが、中々に良い一撃だ。この程度ではないだろう、女王虫」


「当たり前だ。もっと、もっと、戦いたい。まだ、楽しみたい。もっと、もっと、もっと!! アハハハハ」


 壁にのめり込む女王虫は、笑いながら壁から抜け出し地面へと着地する。拳を構え直すのだが、先ほどのダメージが重かったようだ。地面に着地し拳を構えているが、足は若干震えているようだ。だが、すぐにその震えは収まる。その眼には『怒り』ではなく、強者との戦える『喜び』と『闘志』へと変わったようにも思える。拳を構えながら、ジッと儂を睨みつけながら間合いを取る。


「あぁ、楽しそうだな。どうしたらそんなに楽しめるのやら。フフフ」


「貴殿こそ、楽しそうじゃないか。あぁ、やはりそうだ。貴殿は私と同類だ。でも、あぁ、貴殿の言う通りだ。私は楽しい。だから、全力で行く」


「ふむ、同類か。お前と一緒にされるのは癪だが、確かに同類と言われても仕方がないか。久しぶりに骨のある奴と戦えると思うと、少し心が躍ると言うもの。気が変わった、主を殺すのは止めよう。主の全力を見て見たくなった。主の全力を持って、儂に――いや、俺に挑んで来い」


 此方も構え直す。戦闘狂ではないのだが、この世界で「儂が育てたもの以外」で拳を受けても立っていられる者をがいるのだ。少し力量を見てみたいと思うのは、人の――いや、鬼の性と言うもの。女を殴るのは嫌だが、目の前の女王虫はどう見ても「格闘家」なのだろう。拳の構え方から間合いの取り方その全てが、格闘家の立ち振る舞いと同じである。格闘家であるのならば、手を抜くのは失礼な対応である。


(普段のレベルで良いか。本気を出すべきかは、次の攻撃次第だな。久しぶり、熱くなってきた)


 静寂がこの広場を包む。重い何かが地面に落ちる音、そして地響きによって戦闘は再開される。互いに高速での移動と拳の衝突音。その衝撃が心地よく、互いに不敵な笑みを浮かべる。連続で続く拳とぶつかり合う音に、体を伝う衝撃に心地よさを感じてしまった。昔、旦那と素手でやり合った時と同じように、俺も心の底から楽しくなってしまった。


「やるな。やはり、オーガ種だからか。私の攻撃を」


「はぁ、まったくオーガ、オーガ五月蠅い。儂は、オーガではない。鬼神――いや、地獄の閻魔大王に仕えていた獄卒だ」


「獄卒。なるほど、獄卒――、覚えたぞ。なるほど、獄卒は強いのだな」


 どうやら学習機能はあるらしい。大体、儂の姿を見て「オーガ」と間違える馬鹿がいるとは思わなかった。まぁ、儂と言う種族がこの世界にいるかどうかだが、目の前の女王虫は「鬼神」と言う種族を知らないようだ。故に、自身の知る「知識」から当てはめた結果が「オーガ」種だったのだろうな。

 ぶつかり合う拳も攻撃の手は緩めず、放たれる速度はアクセルを強く踏んだ車のように加速していく。通常の冒険者では、間違いなく勝てないレベルだ。儂と戦っていることで成長が促進されているのか、その威力も速度も上がって行くのがすぐに分かる。手加減しているとは言え、そろそろ手加減している方が辛くなるレベルに達してきた。


「やるな、女王虫。こんな状態でも、笑っている時点で『戦闘狂』と言われても仕方がないだろうがな。まぁ、儂が言えた口ではないが、な」


「それは、私にも言えるな。この十年間あの石板を拾うまでは、私はずっと退屈だった。ただ、嫌な気配があったから『あの蜘蛛』にあげちゃったけど。あれ以来、森は狂った。でも、そのおかげで今は楽しい。戦っているだけなのに、これ程までに心躍らせるなんて。あぁ、楽しい」


「あぁ、楽しいな。それと、石板が何だと? その件は、後で詳しく聞かせてもらうぞ」


「私を倒せたら、好きなだけ話してあげる」


 本当に楽しそうに笑う女王虫に、それ以上儂は何も言わず拳の連撃を放つ。それと真っ向勝負するかのように、女王虫は全力を込めた拳をぶつける。ただぶつけ合うだけなのだが、その衝撃で天井から小石が落ちていく。近くまで来ようとしているコリッシュたちの気配を感じながらも、儂らは攻撃の手を緩めない。徐々に小石から石へ、石から岩へと天井が崩れていく。儂の戦闘の邪魔になる岩などを拳で砕き、壁を砕きながら戦闘を続ける。

 儂らの戦闘を見て近づくのは危険だと察知したのだろう。三人ともこの場に近づくのを止め、広場の出口の方へと走り出す気配を感じた。その判断は間違っていないのだが、もう少し急いで退避してもらいたいところである。天井から落ちて来る岩などを避けながら出口へ向かっているのだから仕方がないのだろうが、落ちて来る岩ぐらい拳で壊せと言いたい。儂の弟子一号と二号なら簡単にできるだろう。


「よそ見か。アレは仲間か」


「あぁ、そうだ。何、彼奴らが逃げてくれれば、もっと大きい広場で戦えるからな」


「なるほど、それは確かにそうだ」


 重い一撃を込めた拳を左手で振り払い、そのままの勢いで右手で掌底を放つ。だが、それを女王虫は何事もなく振り払う。互いに攻撃を防ぎながらも、その攻撃の手は止まらない。攻防を続けながらも、次の一撃のために互いに距離を取る。


「「ぅらぁぁぁぁああああ」」


 互いの回し蹴りがぶつかり、衝撃で女王虫は後方へと吹き飛び、壁に体を打ち付け地面に倒れ伏せる。儂は一メートルほど後方へと動かされた。脚に力を込めたからとは言え、一メートルも動かされたことに驚いたが、あの蹴りを受けてなお立ち上がろうとする女王虫の姿に笑みが零れてしまった。立ち上がろうとするも、ダメージが大きいのか中々立ち上がれそうになかった。


「まだ、だ。私は、まだ。まだ、戦える」


 ゆっくりとだが、震える足を必死に抑えながら立ち上がる。戦闘を続ける意思を伝えるために拳を構えるのだが、それとほぼ同時に天井が崩れ落ちる。日の光が一瞬見えたのを確認後、すぐに女王虫の元へと駆け出す。頭上から押し潰そうと落下する天井を見て絶望する表情を浮かべるが、こんなにも楽しい戦闘を邪魔されるのは腹立たしい。故に、少しだけ本気を出すことにした。


「天井如きが、儂らの戦いを邪魔するな!! 消え失せろ」


 落下する天井へと向けて、怒りを込めて拳を振り上げる。闘気を込めた儂の一撃に耐えられず、この大広間全体の天井が『一瞬』で爆発四散した。その光景に見惚れたのか分からないが、儂以外にこの場にいる4名の視線がを感じ取った。上を見上げれば綺麗な青空が広がっており、冒険者たちの雄たけびが聞こえてくる。それ程、この場所が静寂になったと言う事だ。


「ふむ、興がさめた。まったく、だから洞窟などの密閉空間での戦闘は嫌いなのだ。興が乗ってしまうと、つい調子に乗ってしまう。ハァ、さて、どうしたものか」


 女王虫の方へと顔を向けると、目を見開きながら口を半開きにしていた。コリッシュたちの方を向けば、ジュライとコリッシュは腕を組んで頷き、ローシェンは杖を両手で握りながら呆けた表情をしていた。まぁ、驚かれても仕方がない。


「まったく、あれ程の実力を持つ者が――いや、仕方がないか。女王虫たるものが、いつまで呆けておる」


「ぃ、いや。驚いてしまっただけだ。強いのだな、お前」


「当たり前だ。異世界を旅する旅人の補をする者が、この程度の力で驚かれても困る。しかしながら、うむ。お前は中々に強い力を持っているのだな。流石は女王虫の冠を持つだけはある」


 素直に感心してしまったが、本来なら殺さねばならない相手である。だが、彼女に少し興味が沸いてしまった。ちゃんとした管理が出来るように教育を行なえば、今後は問題が起こらないだろう。今後の事を考えながらも後ろへと振り向き、後ろの出入り口にいる三人へ向けて手を振る。


「私を殺さないのか」


 女王虫の声が聞こえたが、振り返ることなく告げる。


「ハァ、貴様の耳は何のためにある。戦闘前にも言ったはずだ。お前は殺さないと。まったく、困ったものだ。お前はただ知識が足りなかったせいで、このような問題が起こったのだ。ちゃんとした知識があれば、今後このような問題は起こらん。故に、今お主に必要なのは、知識だ。ほれ、ついて来い。旦那に合わせる」


「そうか、なるほど。変わっているな、お前」


 女王虫のその一言と共に、この戦は終わるのだった。

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