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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
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9話 戦の開幕

どうも、皆さま。

2019年10月12日から台風19号が上陸しましたが、皆さまご無事でしょうか?

私は無事です。そして、9月からめっちゃ忙しくて投稿が出来ずに申し訳ございません。


さて、何とか10月には投稿できるくらいまで時間調整が出来るようになりました。

本当に、忙しいと頭が回らないんですよね。

でも、頑張ります!! 小説を書くのが好きだから。


では、次話で会いましょう ノシ

 朝日が昇り、静寂な朝を迎える。鳥の鳴き声すらも聞こえない朝を迎えたのは、久しぶりである。どんな街や集落だろうとも、鳥の鳴き声が聞こえる。農村――いや、キャンプを経験したことがある者ならば、早朝に鳥の鳴き声で目が覚めた経験はないだろうか。異世界だろうと、静かな農村であれば必ず動物の鳴き声が聞こえるものだ。しかし、ラディアの森には虫型の魔物以外の動物は存在しない。これがどれ程異常な事なのか、きっと理解してくれるだろう。

 そんな異常な状態を迎える朝に、儂はいつものように洗面所へと向かう。これからの戦いは、少しハードになる。女王虫の巣へと行き、元凶となる二匹を討伐する。ついでに、証拠品の回収をする予定だ。まぁ、その前にやらねばならない事があるがな。顔を洗い終え、鏡越しで自身の顔を見る。そこには、眉間に皺を寄せた儂の顔が映っていた。


「女王虫が同じ森に二匹存在する自体、やはり不自然ではいだろうか。何者かの手引きで用意されたのか。しかし、双子の可能性も考えられる。だが、双子の女王虫が産まれる可能性が起こり得るのだろうか。そもそもギルド長からも、双子の女王虫についての情報は聞いた事が無い。だが、可能性がある以上、否定することはできない。天文学的レベルか分からんが、儂が出来る範囲で頑張るしかない、か。情報は常に最新でなくてはならない故、今回の異変を解決した際の情報提供はしっかりと行なわねばならんな」


 目が覚めてから、儂はただ今回の問題を考えていた。女王虫が二匹生まれると言う事が、本当に起こり得るのだろうか。その疑問が、今も名を脳裏の片隅に残っていた。戦場に出れば分かることだが、気になるのだから仕方がない。


「さて、着替えて行くか」


 いつもの和服に着替え、布団を畳んでから部屋を出た。いつもなら旦那の部屋に向かうのだが、今日はそうはせずに食堂へと向かう。旦那の事だから、今は瞑想を行なっているはずだ。旦那と言えども、今回の龍脈調整を行なうために、精神を集中する必要があるのだ。そのため、邪念を取り払い集中力を極限まで高めるために、瞑想を行なっているはずだ。何の影響もなく龍脈を戻すなど、流石に儂でも難しいのだ。それを旦那に任せるのだから、瞑想の邪魔をするわけにはいかない。だが、食堂までの通り道で旦那の部屋の前を通るので、起きているのかを気配察知して確認することにする。


「ぁ、リューちゃんだ。おはよう」


「嬢ちゃんか。おはよう」


 旦那の部屋から出る嬢ちゃんが、儂を見て手を振っている。そして、旦那の部屋の奥から微かにだが旦那の気配を感じる。自然と一体化しているのか、集中しなければ分からない程の微かな気配である。瞑想の邪魔にならないように、嬢ちゃんを連れてすぐに旦那の部屋を通り過ぎる。

 しばらく歩いていると、右側にある部屋の扉から『黒いシャツ』と『白い長ズボン』を着たディアラさんがやって来た。黒いシャツには、白文字で『働いても、意味がない』と書かれている。何故、そのシャツを選んだのか分からない。誰がこの着替えを渡したのか、問い詰めたい気持ちにかられる。だが、取りあえず声をかけることにする。


「ディアラさん、おはよう。よく眠れたか」


「ディアラちゃん、おはよう!! 昨夜はちゃんと寝れた?」


「ぁ、おはようございます。毛布が太陽のように温かくてぐっすり眠れました。体もこの通り、回復しました」


 ディアラさんは儂らに気が付いて、嬉しそうに微笑みながらお辞儀をした。頭を上げると、右手のひらを上にあげて水魔法をクルクルと渦巻き状に回し、すぐに魔法を消した。どうやら、魔力貧血も回復したようだ。昨日に比べて元気になったようで、顔色も良くなってもいるので一安心した。まぁ、ジュライの救出時に使用した魔法が原因だったのだが、ちゃんと回復しているのをこの目で見て安心した。


「そうだ!! ディアラちゃん、一緒に朝ごはん食べよう!! 私たち、これから食堂に行くから、一緒に行こうよ」


「うん、良いよ」


 嬢ちゃんの朝食の誘いを受けて嬉しそうに頷くと、嬢ちゃんは嬉しそうにディアラさんの手を握る。ディアラさんも友達が出来たことで嬉しいのか、その手を握り返して食堂へと向かう。その光景を後ろで見ながら、儂は苦笑しつつ食堂へと向かう。

 しばらく歩いていると、食堂が見えて来た。ただ、何故か食堂の前には、冒険者の長蛇の列ができていた。朝食のために並んでいる列のようで、食堂から出て来る冒険者たちは、木製の弁当箱を持って嬉しそうに玄関へと向かって行った。


(なるほど、弁当か。席に座れないから、弁当を頼んでいるのだろうか)


 あれは、食堂のゴーレムメイドたちの手によって作られた弁当だろう。しかし、弁当でこれほど喜ぶのはどうなのだろうか。メイドだからと思ったが、女性冒険者も喜んでいるので多分違うだろう。木製の弁当箱か料理の方か、やはりメイドたちか。まぁ、どちらでもよい事だ。朝食を食べるために、あの行列の最後尾に向い並ぶことにした。


「ぁ、おはようございます。リューセン様」


「あぁ、おはよう。皆、元気そうで何よりだ」


 他愛のない挨拶をすると、儂らが来たことで皆が順番を譲ろうとする。だが、それを断り後ろに並ぶ。儂の前にいる冒険者は緊張しているらしく震えていたが、儂から声をかけて話をしているうちに緊張が解けたようだ。今までどのような冒険をしたのか。どのような出会いと別れをしたのか。そのような冒険者たちの話を聞いていると、いつの間にか食堂の中に入っていた。


(今日は、朝食セットにするか。席は空いているようだし、食堂内で食べるか)


 料理を作っていたメイドゴーレムたちに注文を言い、朝食セットを受け取り空いている席へと座る。当然だが、嬢ちゃんたちも一緒の席に座っている。朝食を食べながら、旦那の護衛と連絡方法などについて軽い打ち合わせをする。


「リューちゃん。緊急連絡は、いつもの回線で良いかな? 取りあえず、何かあればすぐに転移できるようにするけど、何かあったら必ずちゃんと連絡してね」


「あぁ、何かあれば連絡をする。それと、今回の問題について証拠品などがあれば回収するが、回収後すぐに転移で送ることになるだろう。シャトゥルートゥ集落の例の部隊も、こっちにもう合流しているだろうから、安心してくれて構わない。まぁ、犯人が近くにいた場合は、犯人も送るがな」


「その時は、例の装置に強制転送されるだろうね。出来れば、素材の回収もお願いして良いかな。例の武器を作るのに必要らしくてね。私が言うのもなんだけど、ゲーディオでの戦闘は間違いなく起こると思うからさ。私も今持っているガンブレードを強化したいんだよね。クロノスに必要な素材を集めてきてもらえるかな」


 異変解決のために動く予定が、いつの間にか素材集めまでも頼まれてしまった。まぁ、クロノスを強化だけではなく、儂のこの金棒や旦那の刀も強化するためにいくつか回収予定だった。他にも、集落の防壁強化に交通路の安全性強化もやらなければならない。そのためにも、出来る限り素材は回収したいと思っていたところだ。それ故に、取りあえず承諾することにした。


「構わんぞ。取りあえず、嬢ちゃんの武器だけではなく、俺や旦那の武器も強化したいからな。嬢ちゃんのクロノス、旦那の刀と儂の金棒。いずれ来る戦いに備えて鍛える必要があるのは確かだ。今回の異変で稼げればよいのだが、それよりも集落の異変を解決する方が重要だ。異変解決がてら、素材集めをするとするか。しかし、強化用の素材を残すべきだったな」


「だよね。森で仕留めた魔物の素材は、全て魔道具や防壁に回しちゃったからね。今後の事も含めて、ミッシェル集落の防壁や安全な交通手段のための道具作成しないと。それに、私たちが去った後の事も考えて、何人か冒険者を常駐してもらわないと。そう考えると、この戦いを終えた後も大変だね」


 嬢ちゃんの言っていることも正しい。儂らが去った後の事を考えると、やはり此処に冒険者を何名か常駐してもらう必要がある。だが、シャトゥルートゥ集落に悪意を持っている者を常駐させるわけにはいかない。そこの判断をするのも儂らが行なわねばならない。その判断情報として、ゴーレム忍び兵をこの集落に配置している。彼らの気配を感知できる者など儂らくらいしかいないだろう。そんな仕事をギルド職員たちに任せたいと思っているが、その為の情報提供などの準備作業なども考えると面倒なのだ。


「そうだな。取りあえず、その件については冒険者ギルドの連中に任せるとする。情報の整理については、此方側が担当になるだろうな。仕方がない、それは嬢ちゃんたちに任せる。儂は現場での作業指示に専念させてもらうが、それで良いか?」


「うん、それで構わないよ。私も今回の異変解決したら手が空くだろうし、資料作製くらいならやっておくよ」


「すまないな」


 そんな話をしていると、何かキョトンとした表情で儂らを見ているディアラさんが居た。そう言えば、仕事の話をしていたせいで、ディアラさんを蚊帳の外にしてしまった。まぁ、仕事の話をも終えたのだし、ディアラさんの事を聞くとする。


「そう言えば、ディアラさん。ゲーディオとは、どんな場所だ? この異変を解決したら行く予定でな、少しでも観光が出来れば良いと考えている。まぁ、断罪の仕事が待っているのを除けば、観光をしたいとは思っているがな」


「そうですね。ゲーディオは、花の都とも呼ばれる街です。バルダ城から近い事から、商人たちも頻繁に訪れます。後は、大きな花畑があって、美味しい蜂蜜が沢山取れるんです。ゲーディオに来たら、まずは『蜂蜜たっぷりのパンケーキを食べる』らしいです。賑やかな反面、裏路地に入れば孤児たちや浮浪者の住むスラムとかもあります」


「なるほどな。まぁ、街となればそう言ったこともあり得るだろう。しかし、ゲーディオが『花の都』と呼ばれているとは、知らなかったな。やはり、行商人から情報を得るべきだっただろうか。すべてが終われば、少し観光しに行くのも良いかもな」


 狂いの神との戦いが終われば、この世界も元に戻す事が出来る。ただ、簡単に直すことはできないだろう。世界をコピーし、それを本物と認識させる。真実が嘘に、嘘が真実に変わる。その世界で観光するのも、良いのかもしれん。その時は、美味い酒を――いや、美味い茶が飲みたいものだ。


「そうだね。全てが終わったら、私もイスズ様と一緒に観光したいなぁ。でも、まずは目の前の問題を片付けてからだね。森の異変を解決して、ゲーディオに向かうんだよね。ディアラちゃんの問題を片づけたらちょっとだけ観光したいなぁ」


「ハッハッハッハ。そうだな、まずは目の前の事を終わらせる。早く片付けば、観光も少しは出来るだろう。その件は、旦那に伝えておく」


「うん、楽しみだなぁ」


 嬉しそうに笑う嬢ちゃんを見て、ディアラさんも微笑んでいる。二人の嬉しそうに会話をする姿を見ながら、先ほど持って来た食後のお茶を飲む。リラックス効果のある茶葉を使用した緑茶なのだろうか、一口飲んだだけでも安心する温かな味が口の中に広がる。そろそろ時間のため立ち上がり周りを見渡すと、食堂にいる冒険者たちも準備のためか、ぞろぞろと食堂を出ていく姿が見えた。


「もう時間だからだね。ディアラちゃんは私と一緒に居ようね。イスズ様の近くは、すっごく安全だし、いざとなれば私が護るから安心してね」


「うん、分かった。私も、魔法で掩護するよ。ミーアちゃんたちの邪魔にならないように、私も頑張るね」


 嬢ちゃんたちもやる気になったようだが、旦那の事だから龍脈の正常位置への対応をしながらも周囲への攻撃は出来るだろう。旦那の警護と言いながらも一番安全地帯に嬢ちゃんたちを配置しただけに過ぎない。そのことは嬢ちゃんも理解しているだろうし、嬢ちゃんなりにどう動くかも考えてはいるだろう。ディアラさんの対応も考えているだろうから、儂が何か言う必要もないだろう。


「さて、作戦開始の十時まで、後四十分くらいだな。二人は準備が終わり次第、旦那と行動を共にしてくれ。儂は部隊を引き連れて森へと潜入する」


「うん、分かった。さぁ、トレイを片付けて部屋に戻ろうか」


 儂らは食器を片づけ置き場に置き、武装を整えるために各自部屋へと戻った。まぁ、儂は戦闘用の黒軍服に着替え、その上に灰色のコートをボタンを締めず軽く羽織るだけだがな。陸軍大将服に灰色のコートの組み合わせで、何故か戦後の日本兵を思い出してしまった。まぁ、儂は人間じゃないし別に良いだろうが、あまり好んでこの格好をしない。そもそも着物の方が動きやすいのだが、虫型の魔物相手では消化液などで着物までも溶かされては困る。そのため、そう言った能力を無効化出来るこの軍服しかないのだ。


「さて、これで良いかのぉ。うむ、久しぶりに着たが、中々に着心地が良いのぉ。いや、いささか似合いすぎかもしれんがな。地獄での仕事で、この服を着ていたのが懐かしい。うむ、久しぶりに血肉が躍るのぉ」


 儂はそのままの姿で部屋を出て、皆の待つ中央広場へと向かう。軍服姿の儂を始めてみたのか、驚いた表情で儂を見ている。そんな皆の姿を横目で見ながら通り過ぎ、そのまま玄関の外へと出る。外でストレッチなど準備運動をする冒険者たちが儂を見て、驚きのあまり口が固まっていた。やはり、軍服は似合わなかったのだろうか。まぁ、別にどうでも良い事だ。


「ほぉ、準備運動をしていたか。邪魔をしたな」


 そのまま広場へと向けて歩いて行く。そして、遠くから何故かこの一言が聞こえた。


「「「やべぇ、めっちゃ似合ってるわ」」」


(ふむ、やはり似合っていたか。うむ、何故か少し気恥しくはあるな。今後は、酸などの特殊攻撃の危険性が無い限り、この服は絶対に着ない事にしよう)


 そんな事を思いつつ、周りを見回しながら歩く。昨日頼んでいたギルド側の陣営調査を頼んでいたが、今その調査をしている状態のようだった。何名かは頭を悩ませている様子だが、Cランク以下の冒険者も混じっていたのかもしれん。まぁ、戦闘に出るのはまだ早いのだが、いろんな魔道具の使い方を学ぶ事も出来れば、先輩冒険者から学べることもあるだろう。ゴーレム兵たちが何名かの冒険者を捕まえて、その場で説教をしているのも遠目で確認できた。森に入ろうとしたのかもしれんが、今入るのは自殺行為に等しい。その注意兼説教なのだろう。


「まったく、本当に困ったものだ。まさか、Dランクの新米冒険者まで居るとは、想定外にもほどがある。まさか、このミッシェル集落の別依頼で来ていたとは、私も予想外だったな」


「そうですね。まさか、こんな時に別件依頼が発注されていたのは予想外でした。でも、依頼で此方に来た低ランク冒険者を確保できて本当に良かった。此方の方で、警護任務についてもらう予定です。ギルド長、警護依頼を追加依頼としてその冒険者に出しても宜しいでしょうか」


「あぁ、すまない。そのように対応を頼む。今回の件、かなり危険だと理解しているのか気になるが、今はそんな余裕もないだろう。他に、新米冒険者の情報はあるか? 森への潜入しようとした者は、ゴーレム兵たちがすべて捕まえたらしいから、問題はないと思うが」


 ギルド長が頭を抱えながら、受付嬢たちと情報交換をしている。どうやらギルド側に問題が生じたようで、受付嬢よりもギルド長の方が疲れているようだ。まぁ、頭を抱えるのも仕方がない事だが、Cランク以下の冒険者が居る時点で仕方がない事だ。まぁ、森に入れば生きて帰れるかどうか不明な状態だ。そんな中に低ランクの冒険者を送るのは、生贄を森に送るようなものだ。


「おはよう、アルバード殿。朝から頭を抱えているようだが、何か問題でもあったのか? 観た限り、あそこで正座している団体が原因のようだが」


「あぁ、リューセン殿。おはようございます。えぇ、別件の依頼で来た低ランク冒険者が、此方に来ておりましてね。五名ほど冒険者が来ており、勝手に森に入りそうだったのだ。そしたら、それに釣られて隠れていた他の低レベル冒険者が続々と入ろうとしてな。今、ゴーレム兵たちのおかげで全員捕まえ終えたところだ」


「なるほど、あそこで正座をしている計三十名が低ランク冒険者か。まぁ、勝手に森に入られて人質に取られるのは、此方の異変解決に問題が生じる。死人が出るのも出来る限り避けたいからな」


 説教を受けている三十名の冒険者の方へと目線を向けると、不貞腐れているのか全く反省していないようだ。まぁ、一度死にかける経験を味わえば理解するだろうが、そんな余裕があるわけでもない。冒険者たちの方は彼らに任せることにするか。


「しかし、リューセン殿。その服装、何処の国の軍か分かりませんが、中々に様になっておりますな。どこかの軍に所属していたのですかな?」


「いや、軍に所属していたわけではない。これは、地獄の極卒たちをまとめる者が着る服なのだ。これから異変解決に森へ出るが、この服には酸などの攻撃を受けても溶かされることのない。そのように作られた服なのだ」


 服の自慢をするつもりはなかったが、この服についての説明をする。まぁ、この服と同じ効果を持ったコートを配っているのだが、皆にちゃんと受け取れただろうか。それだけが心配である。


「なるほど、それは凄いですね。ちなみに、先ほどからゴーレム兵が冒険者たちに配っているコートも同じものですか?」


「あぁ、その通りだ。この森の問題で絶対に必要になるからな。流石に、命がけの戦に何の対策もなく挑むのは無謀だ。それ故に、急いで幾つか防具を作らせたのだ。ただ、性能が良すぎるせいか、この戦が終わると消失してしまう。つまり一日限り――いや、二十四時間しか使用できないアイテムだ」


「なるほど、強力すぎて外に出せば一日で消失してしまう。使用出来るのは、二十四時間以内の防具ですか。使いどころが難しいですな。何故、消失してしまう機能を付けたのですかな?」


 当然の質問だった。その質問に、儂は何と答えるべきか悩んだ。いや、簡単に話せるのだが、そのどう言った仕組みで時限式の防具になるのか。そう言った、構造についてはあまり理解できていないのだ。取りあえず、儂は分かる範囲で答えることにした。


「元々、あの防具は複数の魔物の素材から作られている。幾多の酸性の毒素を持つ魔物の攻撃に耐えられるように、装着時空気中の魔素――いや、マナだったか。そのマナを常時吸収していくのだ。その結果、常に吸収し続けるため魔力容量が限界を超えてパンクする。それが原因で、時限式の防具になってしまったのだ」


「なるほど、それで二十四時間以内しか使用できないわけですか。マジックブーストなら知っていますが、マナブーストは初めて聞きましたね。なるほど、その様なマジックアイテムがあれば、一時的にですがあらゆる攻撃を防ぐ盾にもなる。逆もまた然りと言うわけですね」


「あぁ、その通りだ。ただ、その生成が中々に難しくてな。下手をすれば、爆発を起こしかねない為、正しい製法を理解していても一品を作り出すのが難しいのだ。何度か挑戦はしているのだが、大体十回中八回は失敗をしている。故に、死人が出ないように慎重に慎重を重ねて、マナ制御の講習を行なって何とか成功率を上げている状態だ」


 アルバード殿と防具の話をしていると、冒険者たちが広場へと集まり始めた。マーシェン殿の姿も見えたので、そろそろ集会が始まるのだろう。旦那たちも所定の位置へと向かって歩き出したようで、仮拠点から遠くの方へと気配が離れていくことが分かる。

 所定の位置と言ったが、場所は筋肉神像が五体ほど並んでいるあの場所だ。実は、あそこが龍脈の通り道だったわけだ。そこで流れを整えてもらう予定だ。一本の流れをどうやって調整するのかについては、旅人の部下である儂にも良く分からん。ただ、川の流れを変える方法は『昔の人間たちが己の命をかけて伝えられてきた方法と類似する』と、言っていたことは憶えている。土嚢を使い、水の流れを変え、荒れ狂う川の流れを少しずつ少しずつ変えていく。その様な方法で行なわれるらしいのだが、実際はどのように流れを変えるのか分からん。


「さて、そろそろ始まるようだな。まぁ、下位ランクの冒険者についてはアルバード殿に任せる。このミッシェル集落の住人は戦闘に不向きであり、魔物の侵入を許せばそれで終わりだ。ゴーレム兵たちもいるが下位ランクの冒険者にも何か仕事を振ってあげてもらいたい」


「承知しました。まぁ、魔物が侵入してくる可能性があるのなら、私の方でも特別任務として発注することにする。此処にいるギルドの受付嬢たちに、至急依頼を出させる。では、彼らの元へと向かいましょう」


「あぁ、そうだな」


 そう告げて、アルバード殿とともに広場へと向かった。途中でギルド職員と出会い、至急の任務をアルバード殿が伝える。それを聞いて、すぐに駆け足で仮拠点へと走り出す。皆が皆、やるべき事を成すために動いている。誰一人としてサボる者は居らず、集落の住人たちは冒険者たちのために握り飯を用意したり、回復用のポーションの入った小型のビンを渡したりなど、各々の出来ることを探して動いている。明日を手に入れるために、皆が必死になっているわけだ。

 そんな慌ただしい中、儂は広場の中央に設置された演説台の上に立っている。冒険者たちは防具を着込み、腰には自身の愛用する得物を差している。また、マンティス族の面々も、自身の得物を手に持ちジッと儂を見つめている。儂が台の上に立つのと同時に、冒険者たちは作業の手を止め、一斉に儂の方へと体の向きを変えた。


「よし、冒険者は全員いるようだな。下位ランクの冒険者が来ているらしいが、他の仕事についてもらう。他に、大きな問題が起こっていないようで良かった。さて、マーシェン殿が部隊の振り分けをしている中、申し訳ないが皆には働いてもらうぞ。さて、諸君。これより、ラディアの森に起こっている異変を解決しに行く。観な、準備は出来ているな!!」


「「「オウ!!」」」


 冒険者たちのウォークライが集落を超え、森の奥にまで響き渡っているだろう。これから戦が始まるのだ。傭兵ではない、冒険者たちだけでこの異変を解決するのだ。これを乗り切り、生き残った者たちは正しく『英雄』と呼ぶに相応しいだろう。それ程の異変が、今目の前で起きているのだ。魔王が目覚め、この森に異変を起こした、と言われても違和感がないくらいである。まぁ、魔王の方が尻尾を撒いて逃げ出すレベルのようにも思えるがな。


「ヤル気に満ち溢れているようだな。ヤル気があるのは大いに結構!! 儂から、諸君らに告げる言葉はただ一つだ!! 決して死ぬな!! 生きることを諦めず!! この戦場を駆け、戦い続けろ!! そして、我らの勝利を掴みとれ!!」


「「「オウ!!」」」


 士気を高め、互いを同じ戦場の仲間であることを認識する。互いに足りない個所を補い、この戦に勝利する。それが、戦場で勝つ方法の一つなのだ。ただ、仲間を助ける行為が、時には自滅へと繋がることもある。そこらへんは、冒険者諸君も解かっているだろう。この異変を解決できるのは、この場にいる全冒険者たちなのだからな。


「この戦に勝利するためには、諸君らが互いに手を取り合う必要がある!! 忘れるな!! 今、この場にいる者たちは、互いに足りない部分を補う仲間であり、英雄となる者たちだ!! 誰一人かけることなく、この戦に勝つ!! この大陸にその名を刻むのだ!! そして、この戦に勝ち、さらなる成長へと繋げよ!! 諸君らは、決して負けぬ!! この戦場での、諸君らの健闘を祈る!!」


 冒険者たちは天高く己の拳を突き上げ、地を揺らすほどの冒険者のウォークライに、マンティス族の面々も目をギラギラさせている。昨夜辺りにマンティス族もこの集落にやって来たのだ。その時は、儂ではなく旦那が対応してくれたらしく冒険者と戦うような状態にはならなかった。今では、仲間と認識しているのか互いに肩を組み、天高く拳を掲げている。


「まず、部隊を二つに分ける!! 作戦については、ゲーディオ支部長アルバード殿が説明する。アルバード殿、宜しくお願い致します」


「はい、お任せを。では、冒険者ならびにマンティス族の方々に今回の作戦について説明をする。この作戦は、どちらもラディアの森の異変解決に絶対に必要なピースであり、誰か一人でも抜ければ壊滅する可能性があることを心に留めて聞いてほしい。では、部隊の編制ついて――」


 アルバード殿の説明を受けながら、幾つか質問が飛び交う。それに対して、儂やアルバード殿で答えながら、冒険者たちの疑問を解消していく。最後まで説明を終えると、皆がグループに分かれ自己紹介を始める。何が得意で、何が不得手なのかを話し合い、どの様に動くのが良いかを相談し合っている。

 冒険者たちのその姿を見ながらゴーレム兵からの一報を待っていると、一体のゴーレム兵が儂の元へ駆けつけ『一枚の封書』を手渡す。そこには、森の動きが書かれており、虫の魔銃どもが動き始めたことが書かれていた。


(ようやく、敵側が動いたか。だが、もう遅い。此方は、もう準備が出来ている。トラップも準備できている)


 ゴーレム兵を一人を所定の位置に戻るように言い、すぐに皆へと告げる。


「諸君、魔物どもが動き出した!! これよりラディアの森へ向かう!! 諸君、倉を開けろ!! いざ、出陣だ!!」


「「「オウ!!」」」

 

 こうして、ミッシェル集落の明日をかけた戦が始まった。

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