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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
一章 シャトゥルートゥ集落
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4話 露天風呂にて

なんとか、2月12日までに投稿できた!!

 現在、泊まっていた部屋の中に居る。あれから風呂に入るために旅館へと戻り、受付にいた部下から風呂場の掃除が終わったとの報告を受け、そのまま部屋に戻ったわけだ。俺は着替えを用意しているため問題はないのだが、ミーアに関しては竜の被害で今着ている服以外が炭になってしまった。なので、服や靴を一から用意する必要があるため、獣人族の女性部下一名がミーアを連れて身体測定を開始している。トラ柄模様の猫耳と尻尾を生やしており、綺麗な黄色いショートヘアの着物を着た女性である。現在、メジャーや測定器具を使い、身長や足の大きさ、スリーサイズまで測定をしている。ただ、俺から離れるのが嫌ならしく、何度か説得を試みたのだが離れようとしないので仕方がなく『目の前』で身体測定をしている。正直に言おう、耳栓を用意する暇もなくミーアのスリーサイズと言った『個人情報』を知ってしまった。


「旦那様にスリーサイズ知られちゃいましたね」


「イ、イスズさんなら、別に良いもん」


「あらあら、旦那様も幸せ者ですねぇ」


 微笑みながら身体測定の結果を書類に書き記している部下と、恥ずかしそうに頬を赤く染めるミーアを見て、俺は今日一発目の溜息を吐いた。この調子だと、俺抜きでは風呂どころかお手洗いすらも無理なのではないかと不安になってしまう。ミーアと出会い、聞いた限りでは『暗闇や狭い所がダメ』と言う精神的病気にかかっていると予想していた。病名は「閉所恐怖症」と「暗所恐怖症」である。対処法については、確か『安心させること、徐々に慣れさせること』だった気がする。だが、現状を見てどうだろうか。ミーアは俺がそばにいないと『安心できない』ようだ。つまり、ミーアの心は、かなり深く傷ついているのではないだろうか。


(取り敢えず、風呂は一人で入れるか聞いてみるか)


 確認のため、ミーアに「一人で入れるか」と、問いかけた。最初は恥ずかしそうに頬を赤らめていたのだが、俺の問いを聞き一瞬にして顔が青ざめ、今にも泣き出しそうな表情に変わった。何も言わず、俺は今日二回目の諦め混じりの溜息を吐いた。十二歳の少女と一緒に入るのかと思うと、なんだか複雑な気分である。十二歳と言えば、女性としての恥じらいが芽吹く年齢だ。まぁ、実際にそうなのかと言えば、本当だと強くは言えない。そこは家庭環境によって変わってくる。

 さて、話を戻すとしよう。先ほど、部下と一緒に身体測定をしている時、何故か表情が硬かった。初めて出会う人だから、緊張のせいで表情が硬くなったのではないかと予想はつくのだが、俺が一緒じゃないと嫌がるのは少し異常だと思った。もしも、これが「依存症」だとすれば、なんとしても治さなければならない。今後のことを考え、一ヶ月では精神的な病気は治らない。まずは、部下たちに協力をしてもらって、少しずつ直さなければならない。


「ところで、旦那様。お風呂は如何いたしましょう? 私でよろしければ、ミーア様と一緒にお風呂に入りましょうか」


「あぁ、そうしてもらえると助かる」


 部下と風呂について話すと、ミーアの顔がみるみる青ざめていく。ミーアの傍にいる部下たちは、その表情を見て彼女の精神的な状況を瞬時に判断した。だが、部下たちは何をすべきか判断し、嬉しそうに微笑みながら話を続ける。


「ミーア様、安心してください。五十鈴様から離れることはありませんし、今の時間は『混浴』なので問題ありませんよ」


「そうだぞ。別に問題はな――ハァ? こ、混浴!? ぇ、ちょっとま「さぁ、行きましょう」おい、ライラ!! 俺の話を――って、腕を組んで、引っ張るなぁぁぁあああああああああ」


 気がつけば部下に腕を組まれた状況で、そのまま引っ張られながら『お風呂場』へと連行された。これでは未知との遭遇みたいではないかと思いつつ、抵抗する事すら出来ずにそのまま引きずられながら連れて行かれる。今思えば、ライラは俺の世話係兼秘書であったことを思い出した。つまり、俺のことを熟知しており、女性の中で唯一俺の裸を見慣れている部下である。まぁ、部下とは言っているが、本当は俺の剣術の師匠である。そのせいもあり、ライラにだけは逆らえないのだ。

 さて、男子湯と女子湯と書かれた暖簾の前に着くと、ミーアたちは先に女性湯の方へと入っていった。本当ならここで逃げるのだが、俺も風呂に入りたい。それに、昨日の神殺しの件で疲れているため、さっさと体の疲れをとってダンジョンに挑みたい。なので、本当は混浴を避けたかったのだが、仕方がなく男子湯の暖簾をくぐった。暖簾の向こうは、当然のことだが脱衣所となっており、服を入れる鍵付きロッカーが置かれている。脱衣所の中に入ると、身だしなみを整えるための鏡が置かれている場所に、文字が書かれている紙が置いてあった。少々気になり、それを手に取り黙読した。


『旦那様の着替えは、21番と書かれておりますロッカーの中に入れております。

後、始祖様からお預かりしております刀の件ですが、ダンジョンを攻略後にお渡し致したいと思います。ダンジョン攻略の間、ミーア様のことはお任せ下さい』


 紙に書かれている内容を確認し、嬢ちゃんに預けていた刀の件を思い出した。なんでも、あの刀を『現在の俺』でも扱えるように調整すると言って、そのまま回収されてしまった。そのせいで、拳当てしか調整が終わっておらず、仕方がなく拳当てを装備した状態でこの世界に来たのだ。早くあの刀を返して貰いたいのだが、まずはダンジョンを無事に攻略してからだ。あの刀は、俺にとって大切な刀である。それに、あの刀はカルマとの大切な思い出が詰まった刀なのだ。でも、まずは風呂に入らなければ。紙に書かれていた通り、風呂場の近くにある『21番』と描かれたロッカーを開いた。ロッカーの中には間仕切りがあり、上下に藁で編まれた篭が置かれていた。上の篭には何も入っておらず、下の篭には『俺の私服』と『二枚のタオル』が入っていた。


「相変わらず、用意が早いな。ライラには、いつも頭が上がらないよ。さてと、さっさと服を脱いで風呂に入るか。それに、ミーアに今後のことを聞かなければならないからな」


 羽織っているコートと服を脱ぎ、綺麗に畳んでから上の篭の中へと入れた。いつもなら腰にタオルを巻いて風呂場に行かないのだが、混浴と言っていたので下のカゴに入っているボディータオルを取り腰に巻いた。ロッカーの扉を閉じ、鍵穴に刺さったままのゴムバンド付きの鍵で閉めた。鍵を抜き取り右腕に付けてから、風呂場へと向かった。


「……。風呂って言っていたが、露天風呂か!? 一から掘り出したのだろうか」


 風呂場へと入ると、まさかの露天風呂だった。檜の大浴槽を満たす白く濁ったお湯が湯気を立てる。露天風呂と聞いて絶景が広がっているのかと思ったが、岩で周りを囲われているせいで風景が見えない。絶景がないのは少しだけ残念だったが、これはこれで構わないと思えた。なんせ、温泉に入るのは何百年ぶりだろうか。心がワクワクし、急いで身体を洗い終えて湯船へと浸かる。ちょうど良い温度で、体の芯まで温まる。今までの疲れが一気にとれ、もうこのまま何時間も入っていたいような気持ちになる。


「あぁ、やっぱり露天風呂は良いもんだぁ」


 久しぶりの温泉に本音が出てしまった。数多くの戦場を旅し、数多くの人間を殺してきた。己の私利私欲のために民を苦しめた皇族を殺し、すべての世界を滅ぼしかねない敵の心臓を抉り取り、頭と共に潰してきた。これでは『殺人鬼』と変わらないのではないだろうかと、死刑執行するたびに思ってしまう。人間を殺すと言うことは、それ相応の覚悟がいる。その者の人生を奪い、その人生を背負うと言うことだ。殺せば、殺すほど、その罪と言う重圧に苦しみ、狂い、壊れる。そして、最後はその罪に耐えられず、自害する者もいる。人を殺すと言うことは、それだけ重いのだ。ただ、殺された者の遺族にとっても、同じことである。殺された遺族が感じる「深い悲しみ」と「犯人への殺意」が、遺族たちの心を蝕み、苦しめ続けるのだ。


(今でも、その重圧に耐え続けるのは、辛いものだ。俺は、人を殺しすぎた。罪人を、殺し過ぎた)


 空を見上げながら、俺がいままで犯してきた罪を思い出していた。俺の手は血で汚れているのに、多くの者たちが俺を崇め奉る。俺はそれほど立派な人間ではないし、崇められるような行為をした憶えはない。旅人の世界に戻り、興味本位で『本来の名の自分について』を調べた。だが、そこに書かれていた記事に「全世界を救う英雄」だの「世界を救った殺人鬼」などなど、意味の不明な内容が書かれていた。


「俺は、そんな崇められるほどの人間じゃないのに、な」


 そんな事を呟きながら、手でお湯をすくいながら顔へとかける。そして、気持ちを入れ替えて周りを見渡す。混浴と言っていたが、確かに女湯の扉と繋がっていた。そして、風呂場の中心部には、間仕切りを取り付けてあったような跡が残っていた。きっと、ここに間仕切りを取り付けて、女湯と男湯に分けるのだろう。ミーアたちが来るのを待ちながら、もう一度空を見上げ右手を空へと向けて伸ばし指を鳴らす。すると、目の前に映像が現れた。そこには、この世界に転生した者の名前が書かれている。上げている手を下げ、映像をスライドさせながら確認する。特に、気になる名前は出ていない事を確認し、世界の魂保有量と転生者や召喚者たちの人数を確認した。


「ぁ、召喚された者の欄が消えているな。と、言うことは、嬢ちゃんたちが終わらせたのか。それに、世界の保有できる魂数も三割くらい減らせたか。この世界にいた神々も浄化したわけだし、正常な数まで減らさなければならないな」


 もう一度指を鳴らし映像を消すと、再度両手でお湯をすくい顔にかけた。早くミーアたちが来るのをまとうと思ったが、このまま待つと言うのもつまらないので、指を鳴らして桶を召喚した。桶の中には沢山の氷とラムネが数本と、棒に刺さった十本のキュウリが入っていた。キュウリの刺さった棒を手に取り食べる。キンキンに冷えているキュウリを齧り、シャキシャキと音を立てながら食べる。やはり、露天風呂にはキンキンに冷えたキュウリを食べるのが一番だ。本来なら酒を飲みながらの方が好きなのだが、この世界での成人は『十六歳』と言うので、まだ酒が飲めない。正直に言おう、酒が飲みたいです。飲みたいのだけど、俺が法を守らないと周りの部下たちに示しがつかないので、飲むわけにはいかないのだ。それに、俺が酒を飲んでいるところをミーアが見て「私も飲む」とか、言い出しかねない状況になるかもしれない。だから、渋々ではあるが酒を飲むのをやめ、炭酸水にしているのだ。


「はぁ、キュウリが美味い!! それにしても、ミーアたち遅いな」


 一本目のキュウリを食べ終え二本目を取るのとほぼ同時に、女性用脱衣所の扉が開く音が聞こえ其方へと顔を向けた。そこには髪の毛が濡れたミーアたちの姿があった。濡れたタオルで上半身を隠しながら、此方へと向かって来るのが見えた。どこで身体を洗ったのか気にはなるのだが、きっとここ以外にも風呂場があるのだろう。そう納得することにした。それに前だけをタオルで隠してはいるとは言え、ミーアは恥ずかしそうに俯きながらライラの手を握っている。だが、ライラは『恥じらいなど捨てた』と言いたいのだろう。タオルで前を隠そうとはせず、俺に見せつけるようにタオルを肩に乗せている。頼むから女としての恥じらいを持って欲しいと思うのだが、ライラと俺の関係を思い出すと諦めるしかなかった。


「お待たせしました。いやぁ、ミーア様の身体を洗うのに少々時間がかかり、ちょっとだけ遅れてしまいました」


「イスズ様、その、お、お待たせしました」


 俯いていたミーアが顔を上げる。ほんのりと頬を赤く染めるミーアを見つつ、優しく微笑みながら手招きしながら手に持っているキュウリを齧る。二本目のキュウリを食べ終えたので棒を桶に戻し、俺のそばに来るのを待ちながら何から話そうか悩んでいた。俺と一緒について行くと言う事は、その先に待つであろう『殺し合い』に巻き込むと言うことになる。つまり、俺たちに敵意を向ける者や狂い神との戦闘に巻き込んでしまうわけで、ミーアを必ず守れるかと言われると自信がない。だから、そんな危険なことに巻き込んでしまうからこそ、ミーアには慎重かつ冷静な判断で答えを出して貰わないと困る。そうなると、俺のことも含めて一からちゃんと説明をするべきだ。俺が何者なのか、これから何を行なおうとしているのかを、ちゃんと説明しなくてはならない。

 両手を胸の高さで組みながらそんな事を考えていると、ミーアたちはもう俺の目の前にいた。ライラはキュウリの刺さった棒を見てニヤニヤと笑い、ミーアは桶の中に入っている飲み物が気になったのか手にとって一口飲んでいた。いきなり口の中に広がる炭酸の弾ける感覚に驚いたのか、尻尾をピンと伸ばしながら目を見開き、俺を見ながら瓶から口を離すと驚いた表情のまま言う。


「しゅ、しゅごく、シュワシュワして驚きました!? でも、美味しいです」


「アハハハ!! ミッちゃん、目を見開きすぎだよ!! アハハハハハハ」


 ミーアの驚いた表情がツボに入ったのか、腹を抱えながら笑っていた。流石に恥ずかしかったのか、ライラの方を見て頬を膨らまし「ムゥゥ」と言うと、手に持っているラムネを再度飲み始めた。ラムネが気に入ったようで嬉しそうに微笑みながら飲んでいるミーアを見て、嬉しさのあまり微笑んでしまった。俺もラムネは大好きであり、思い出の味である。小さい頃からずっと、ラムネは大好きな飲み物の一つだ。それを気に入ってくれたのが、俺はたまらなく嬉しかった。


「あ、旦那様が笑った!! そう言えば、ラムネは旦那様の思い出の一つでしたね。私との訓練終わりに必ず買って、嬉しそうに飲んでいたのを思い出します」


「まぁ、な。取り敢えず、その話は後でにしよう。今は、ミーアに今後のことを話さないと。だが、今のミーアを見ると、その話も後にした方が良さそ――」


「旦那様。その件については、私から伝えました。旦那様のことも、今後のことも踏まえてちゃんと伝えています。そして、ミッちゃんの気持ちもちゃんと聞いております」


 ライラが俺の話に割り込むような形で言った。いつもなら俺が伝えることなのだが、ライラが先読みして伝えていたようだ。これは大事な話なため、俺から伝えるのが普通なのだが、まぁライラが伝えてくれたのなら問題はないだろう。だが、俺はまだライラに「ミーアが一緒に連れて行く」のかについて話していない。何故、その情報を知っているのかを問いたいのだが、そんな事はお構いなしにミーアの頭を撫でながら微笑んでいる。どうやら、俺の質問に対して答えたくはないようだ。まぁ、誰が伝えたのか大体は察しがつくので聞かないでおくことにした。


「旦那様、ミッちゃんはもう答えを決めておりますよ」


 嬉しそうに笑っていたライラが、いきなり真剣な表情へと変わった。頭を撫でていた手を下げ太ももの位置に両手を置き見つめている。それに先程まで和やかな雰囲気だったのだが、一瞬にして真面目な空気へと変わっていた。風呂に入っている状態で、真面目な話をするのは若干おかしな気もする。しかし、真剣な表情で言うのだがから仕方がない。なので、俺も真面目にライラとミーアを見つめ返した。ミーアは飲んでいるラムネの瓶を桶に戻し、真剣な表情で頷いた。もう答えを出していると言うのなら、俺はこれ以上余計なことを話すわけにはいかない。ミーアの気持ちをちゃんと聞くために、ミーアと向かい合うように身体の向きを変えた。


「ライラから話は聞いたんだな。俺が何者なのか。そして、俺が何を行なおうとしているのか。ライラからちゃんと聞いたんだな」


「はい、聞きました。イスズ様が『魔王戦争』で語られている旅人であり、この世界に眠る邪神である狂い神と同じ存在であること。そして、イスズ様の中に眠る竜の因子のこと。この世界を救うために、これから旅に出ることも。ライラさんから全て聞きました」


「そうか。では、聞かせてくれないか? ミーアの出した答えを」


「私は――」


 ミーアは一度目を瞑り、両手を握り締めながら深呼吸をする。その答えを告げるために、目を開くと決意を決めたのか真剣な表情になり、ハッキリと大きな声で告げる。


「私は、イスズ様たちと一緒に旅をしたいです!! 足でまといにならないよう、頑張りますから連れてってください!! お願いします」


 そう言うと、勢いよく頭を下げた。水面に鼻の頭がつくところまで頭を下げているのを見て、本気でついて来たいのだとすぐに解かった。俺はミーアの言葉を聞き、この決意についてライラからの強要ではないかの確認をするべく目線だけを向けた。俺の視線に気がついたのか、首を横に振るうライラを見つめながら、嘘をついているかを確認する。俺の目は嘘をつく者を見抜く力がある。この力は、嬢ちゃんに会う前から持っていた異能の力だ。その目でライラを見たが、嘘をついている様子はなかった。つまり、これはミーアの本心だと確認が出来たわけだ。そうなると、ミーアは竜仙とシータから武術と魔法の教育を受けることになる。基本的に武術は竜仙とライラ、魔法はシータとベラーダが担当する。ボルトに関しては、呪いが解ければミーア専用の武器を作成してもらう予定だ。ボルトの制作する属性武器は、中々に優秀な性能がついている。今後のことを頭の中で整理しながら、指を鳴らしウィンドウを開きメール画面の項目を開いた。メールを送る相手について思念で送ると、メールの宛先に竜仙たちの名前が出た。そのまま文面にも同じように思念で送ると、文面に「ミーアがついて行く事になった。竜仙とライラは武術を、シータとベラーダは魔法の教育を頼む。ボルト、ミーア専用の武器の作成をお願いする」と、文書が自動的に入力されていく。全て書き終え、文面に間違いがないかを確認してから送信ボタンを押した。メールが届いたのを確認し、指を再度鳴らしてウィンドウを消した。その一連を見たライラが嬉しそうに微笑みながら、ミーアに「ついて来て良いらしいよ」と告げた。その言葉を聞いて顔をあげたミーアは、嬉しさのあまりライラに抱きついて「やったぁ」と叫んだ。


「んじゃ、説明を始めるから、ミーア。ちゃんと聞くんだぞ」


俺の言葉を聞いて、ミーアはライラから離れた。それを確認してから、ミーアへこれからの事について説明を始める。


「ミーア。これからの事について説明する。風呂から出た後、ミーアには武術と魔法の授業を受けてもらう。魔法に関しては、シータとベラーダが教える。そして、武術に関しては、竜仙と君の隣にいるライラが教える。基本的に、遠近両方での戦闘も考えられるからな、ライラの居合・抜刀術は覚えておいて損はない。だが、学ぶためには基礎体力の向上は必要不可欠だ。だから、当面は体力向上をメインで考えてくれ。ライラ、ミーアの指導は竜仙とともに行なってもらう。任せたぞ」


「はい。お任せ下さい、旦那様。よろしくね、ミッちゃん」


「はい、よろしくお願いします」


 ミーアの返事を聞き、嬉しそうに笑いながらライラがミーアの頭を撫でる。その手が気持ち良かったのか、目を細めながら頷いた。竜仙は武器の扱い方や間合いの取り方を、ライラは戦闘などで必要な基礎体力の向上をメインで進める。シータは複合魔法を教え、ベラーダは魔法を教える事になるが、きっとベラーダは『オリジナル三重属性魔法』を教えるのだろ。シータにはなるべくベラーダの暴走を食い止めてもらうようにする。取り敢えず、四人にはそう言った命令を出しておくとして、部下たちに警備と監視、集落の修復もとい建て直しに、防壁の強化と慰霊碑の建設を任せることになる。百名以上いる俺の部下たちだが、現在着ている部下は三十名だったはずだ。だが、ボルトとベラーダが来ていると言うことは、俺の予想で『八十名』だろう。そのおかげで、現在の人数で事足りる。


「まぁ、本来なら一ヶ月後に『謎の力を発していた場所』にミーアを連れて向かうつもりだったが、それがダンジョンだと判明した以上、今回は俺一人でダンジョンに挑む。ライラ、俺がダンジョン内の調査をしている間は、絶対にミーアがダンジョンに入らないようにすること。ミーアは、しっかりと勉強すること。今回は一ヶ月と竜仙には伝えてはいるが、状況に応じては期間を延ばす必要もある。だから焦らないでしっかりと技術を磨きなさい。一ヶ月を過ぎても、ミーアに力を付けるためならば、期間を延ばすことも視野に入れているから。焦って怪我をしないように」


「「はい、分かりました」」


「うむ、良い返事だ。まぁ、焦らずしっかりと学び、ミーアのペースで頑張りなさい。困った事があったら、俺や竜仙たちに相談してくれても構わないからな。さて、そろそろ出るとしよう。このままじゃ、のぼせてしまいそうだからな」


 風呂から出るために立ち上がろうとしたが、目の前にミーアたちに対して流石に下半身を見せたくはない。だが、今思えばミーアとライラの全裸姿を見てしまっている時点で、見せる見せないの問題ではない気がする。ミーアがいなければ別に気にはしないのだが、目の前で俺に対して微笑んでいるので、流石に見せるのは気が引けると言うわけだ。

 さて、そんなことを考えながらお風呂の淵までしゃがんだ状態で歩く。だが、俺が風呂から出るのを阻止しようと、いきなりライラが俺の右腕を掴んだ。いきなり掴まれたので顔を向けると、満面の笑みで俺を見ながら言ったのだ。


「旦那様。私たちは今入ったばっかりなので、もう少し一緒に入りましょう」


「おい、まさか」


「フフフフフフフフフ」


 ライラの表情が悪魔の笑みに変わった。間違いない、ライラはこれを狙っていたのだ。そうでなければ、ミーアを連れて来るのが遅れるはずがない。そう思うと、ミーアの身体測定の時からおかしかった事に気がついた。いつもならメジャーなどを使用せずに測定器具を持参して来るはずなのに、何故かメジャーしか持ってこなかったのだ。ライラのことを熟知しているから解かるのだが、どんな事があっても必要な書類や道具を忘れてくることはなかった。それに、普通に考えても『メジャー』だけしか持ってこないなんて有り得ないだろう。そして、現在の状況を考えてもそうだ。つまり、ライラはこうなる事を全て予想していたわけだ。そして、このあとに起こることも容易に予想ができた。


(間違いない。ライラなら此処で「さぁ、お姉さんに成長した旦那様の身体を見せてもらいましょう」と、言ってくるはず!! と言うか、なんかもう毎月の恒例行事になってて、疲れてきたわ)


 俺の本音が口から出ないように心の中で言う。ライラは、何故か毎月俺の寝込みを襲うのだ。なんで襲うのか疑問に思い、何度も聞いて見たが答えようとしない。なので、最近はライラの欲求や発散の件については諦めている。別にライラがストレス発散の為にやっていようと、俺に『抱きつきたい』と言う欲求を解消するためにやっていようと別に構わないのだ。仕事の関係上、ライラは俺よりも多く働いている。そのせいでストレス溜まっていき、ストレスや欲求の発散の為に抱きついているのだと、勝手に解釈しているわけだ。


「さぁ、旦那様。私の為に抱きつかせてください!! ヒャッハー」


「ですよねぇ。もう好きにしろ」


 案の定、抱きつき要求だった。掴んでいる手を離すと、そのまま俺の背中に抱きついてきた。柔らかな感触を背中で感じながら、俺はどうしたものかと考える。だが、今はこうして甘えさせてあげるのもアリだと思った。長い間の遠征が原因で、ライラにはかなりの負荷をかけてしまったのだ。だから、こうしているのだが――


「ミッちゃんも、抱きつくと良いよ!! 旦那様に抱きつくと気持ちが良いし」


 予想外の言葉に、俺は絶句してしまった。ライラならまだしも、まさかミーアまで巻き込もうと言うのだ。ライラの方へと顔を向けると、ミーアも嬉しそうに此方へと向かって来ている。いや、ここで止めなければならないのだが、ライラが俺の口を塞ぎニコニコと笑っていた。


(お、お前!! まさか、本当はこれが目的なのでは)


「フフフ」


 笑っていた。それも、ニヒルの笑みだった。これが何を意味するのか、俺はよく解かっている。間違いない、これは欲求の方だ。逃げようとしても俺の口を塞いだ状態で抱きついている。首筋を舐めるライラの表情が、徐々に小悪魔に変わっていく。もう、これは逃げきれない。


(あぁ、今日は厄日かも)


 そんな事を心の中で思いながら、ライラになされるがまま『小一時間』もミーアと共に欲求を満たすために弄られるのであった。


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