8話 会議
どうも、8月最終日に何とか間に合いました!!
皆さま、お元気でしょうか。私です。
熱かったり涼しかったりで、体がボロボロになって来ております。
ですが、書きたい衝動はまだまだ続いています。
これからも、頑張って書いて行きます!!
では、この辺で ノシ
「なるほど、龍脈がそのような状態に。そうなると、龍脈の流れを元に戻す対応と量の調整が必要か。無理やりの調整を行なえば、いろんな意味で問題が起こってしまうか」
現在、儂らは仮拠点の会議室にいる。中央に置かれたテーブルを囲う様に、8脚の椅子が向かい合う様に置かれている。旦那を挟むように儂と嬢ちゃんが座り、反対側の席にはローシェン、コリッシュ、ジュライ。そして、冒険者たちのリーダーと思われる女性が座っている。淡い緑色の瞳に焦げ茶色のショートヘアで、狼のような鋭い目つきだが、どこか頼りになりそうな雰囲気をか持ち出している。見た目は爽やかな青年だが、少し膨らみがある胸が女性なのだと理解する。
「まぁ、龍脈の方について考える前にだ。旦那、此方の方はどちら様で? 儂の見た目では、ギルドから派遣された冒険者だと思うが」
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだったな。彼女は『マーシェン・クロード』さんだ。今回の作戦に参加してもらう、冒険者たちをまとめるリーダーであり、冒険者ギルドのSランク冒険者だ」
「どうも、イスズ殿から紹介がありましたが、改めて。私はゲーディオギルド支部から来ました『マーシェン・クロード』です。冒険者ランクはSランクで、白狼団の団長です。今回は、ミッシェル集落の異変解決に参りました。どうぞ、よろしくお願いします」
その場で立ち上がり、彼女はその場で一礼した。儂も立ち上がり手を差し伸べると、彼女も差し伸べ握手を交わす。長年、魔物たちと戦ってきたのだろう。軽く握手をしただけでも、その掌の硬さと握る強さでどれ程の強さを持っているか分かる。彼女の使う武器間では解からないが、予想では大剣や片手剣あたりだろう。
「あぁ、よろしく頼む。儂の名は竜仙と言う。旦那――いや、五十鈴様に仕える鬼神族の者だ。今回のミッシェル集落の異変を発見した一人であり、この集落のゴーレム兵を配置した張本人だ。立ち話もなんだ、座って話すとしよう」
「えぇ、そうですね。では、失礼して」
そう言うと、マーシェン殿は椅子に座る。その姿を見届けてから儂も椅子に座ると、ティーポットとティーカップを乗せたキッチンワゴンを押して、数機のメイド服を来た女性型のゴーレムたちがやって来た。ティーカップを皆の前に置き、ティーポットの中に入っている紅茶を淹れていく。ティーカップの中に入っている紅茶なのだが、仄かに柑橘系の香りが鼻をくすぐる。この紅茶は、ミッシェル集落で栽培されている『ヒヒロア』と言うベルガモットに似た柑橘系の果物の葉で作られた紅茶だ。特に、会議などの頭を使うような時に飲まれる有名な紅茶である。
儂は、メイドゴーレムが淹れた紅茶を一口飲む。確か、旦那の住んでいた世界では『アールグレイ』と言う紅茶だったか、あれと味が似ている。だが、やはり儂は紅茶よりも緑茶の方が好きだ。そんなことを思いながら、ティーカップをソーサラーの上に置くと、メイドゴーレムたちは旦那たちの前に資料を置いて行く。これは、ギルド陣営と儂らの情報をまとめた資料だ。その資料が皆に行き届いたのを確認してから、儂は今回の作戦会議を始める。まず、今回の異変についてどこまで理解できているのか、マーシェン達『ギルド陣営』の情報確認をする必要だ。その為、儂らの情報をどこまで理解しているのかを確認することにした。
「ギルドの冒険者代表であるマーシェン殿に、まず現状の情報を確認したい。今回のミッシェル集落に起きている異変について、旦那からどこまで聞いている」
「情報確認ですか。イスズさんから『ミッシェル集落の異変』については聞いております。ミッシェル集落の南側に位置する森に、女王虫が二匹存在し、互いの領地を占領し合っていると。その森の名は『ラディアの森』と呼ばれる神聖な森です。本来なら異変が起こり得るはずのない平和な森なのですが。そもそも、あそこは神聖な泉があり、年に数回ですがゲーディオの祭りに使われております。ミッシェル集落での農業にも使われており、神への貢ぎ物として使われております。神聖な森で異変が起こるとは、一体何が起こったのでしょうか。それについては、私でも分からない事ですが」
「まぁ、そうだな。儂も、森の異変については調査が難航している。ただ、森の中は危険であることは違いない。最初の調査では、カマキリ型やアリ型が多かったな。どんなに厳重な装備を整えても、生きて帰れる確率はゼロに等しい状態だ。本当に面倒くさい状態になってしまったが、今回の異変を解決させるには儂らだけではなく、冒険者の力も必要だ。それについては、この資料で説明をする」
そう告げてから、儂は資料を手に持ち皆に見える位置まで上げる。資料の表紙には、ただ一言『ミッシェル集落救済マニュアル』と書かれている。そして、儂はそのまま資料の1ページ目を捲り、内容を確認するために資料を自身の方へと向ける。最初の目次ページが書かれており、そのまま次のページを開く。
「まず、現状について説明する。先ほどマーシェン殿の話に合った通り、今回の異変は『ラディアの森』に起こっている女王虫二匹の盗伐だ。だが、そこまでに至る為には3つの問題がある。1つ目の問題についてだ、2ページ目を開いてくれ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
皆が同じセリフを吐いた。それもそのはず、森に張られたトラップの数が記載されているのだ。内容は、蟻の魔物が作ったとされる落とし穴などのトラップの数々だ。落とし穴の中には、蟻の酸が溜まっている。人間も溶かせる程の強力な酸が溜まっており、一度落ちればもう助からないレベルだ。更には、目には見えない程の細い蜘蛛の糸が一定の距離に貼り巡られている。一度引っかかると、その振動で蜘蛛型の魔物が二匹以上でやって来る仕掛けだ。そんなトラップの数々が書かれているページを観ながら、儂はそのまま説明を続ける。
「以前、ラディアの森に潜入した際に、自然のトラップが幾多に設置されていた。この事から、女王虫のどちらか、もしくは両方が知恵を持っていると考えられる。そのまま突入しては、被害が甚大だろう。現に昨日だがゴーレム部隊の一人から情報だが、侵入者を探知する系のトラップが設置されていたようだ。被害は出なかったようだが、警戒度は以前よりも増したと考えられる」
「なるほど。だから、あそこまでの魔道具が用意されていたわけか。でも、師匠。何故、昨日ゴーレムの人が突入したんですか? 危険だと分かっていて、なおかつ今回の作戦を知っているのなら、森の中には入らないはずですよね」
コリッシュが眉間に皺を寄せたながら首を傾げ、当然な質問してきた。確かに、コリッシュの言う通り、今は異変解決のために無暗に森に突入するのは拙い事だ。だが、これには理由がある。
「それについてだが、今回の魔道具でどうしても必要な素材があり、隠密行動で密かに回収していた。だが、予期せぬ事態が起きて、隠密を解除したらしい。その予期せぬ事態と言うのが、魔物同士の戦闘だ」
「魔物同士の戦闘か。つまり、縄張り争いが行なわれていた。なるほど、その戦闘が行われた場所が集落に近かったため、集落から遠ざけるために隠密行動を解除したわけか。竜仙、実際の戦闘があった場所は此処から何キロ先だった」
「此処からだと30キロメートルだな。旦那の言う通り、集落から遠ざけるために戦闘を行なった。本来な、そこまで離れていれば問題はないのだが、戦闘していたのが『蟻型の魔物』と『蜂型の魔物』だっため、否が応でも全て仕留める必要があった。蟻の酸や蜂の針の距離は、最高でも35キロメートルの射程がある。その為、戦闘をしてすべて殺したわけだ」
次のページを開くと、どのような魔物を確認できたかの内容が書かれている。そして、どのような罠を張るのか。その対処法などの内容が書かれている。主に遭遇した『蟻、蜂、蜘蛛』の魔物が多く、攻撃の射程距離も記載されている。今回の縄張り争いが行なっていた魔物は『エーテルアント』と『エアービィー』と言う魔物だ。名前からして、回復薬ぽい名前や風魔法を得意とする魔物と勘違いされやすいのだが、実際は違う。
エーテルアントのエーテルは『化学のエーテルであり、ジエチルエーテル』をさしている。甘い臭気を放ち、獲物をおびき寄せ、両方の牙で火打石のように叩き火花を放ち、焼き殺してから喰らう悪趣味な魔物だ。
エアービィーは、風ではなく空気を操る魔物だ。範囲8メートルの空気中の酸素濃度を一気に減らし、獲物の動きを鈍らせた後にその針で突き刺し殺す。その後は、ゆっくりと食事をする、恐ろしい魔物である。まぁ、儂は登山が趣味だったため、酸素濃度が下がっても普通に戦える。あいつらの素材はいろいろと役立つので、絶滅寸前まで追い詰めないようにするとしよう。
「なるほど、これは酷い。すべて昆虫の魔物で、それ以外存在しない状態の森かぁ。それに――うん、コリッシュは兎も角、マーシェンさんやジュライでも流石にこのトラップにすぐに気が付くと思うけど。ここに書かれてる昆虫型の魔物って、全てがAランク級の魔物ばかりだ。魔法陣の研究に必要な素材となる魔物ばかりだけど、流石にこれを狩るのは辛いなぁ。適切な処理をしないと、二次災害だって起こり得るほどの危険性がありますし」
「ローシェンさんの言う通りだな。流石に、後処理を考えると大変だろうな。それに、龍脈の問題がある。龍脈の影響で、今回の問題が起きた可能性もあり得るからな。今の状態で龍脈を戻した場合の被害レベルを考えると、今すぐに戻すのは難しいな。取りあえず、今回の作戦は俺とミーアは参加できない。当然だが、ディアラさんも同様だ。龍脈の調整はすぐにできるが、今流れている龍脈を一時変更し、正しい方向へと再度戻す必要がある。そうなると、流石に俺は今回の討伐作戦には参加できない、か」
「あぁ、旦那には悪いが龍脈の方を頼みたい。本当なら、討伐作戦に参加してもらいたかったが、ジュライの話を聞く限りそっちの問題は最優先事項になる。ラディアの森の異変を解決したとして、龍脈を戻さなければ他の問題が生じるからな。旦那には、取りあえず龍脈の修正に集中してほしい。嬢ちゃんは旦那の護衛を頼む。旦那なら一人でも問題はないだろうが、念のために護衛を頼む」
資料をパラパラとめくりながら読んでいる嬢ちゃんに話しかけると、何やら納得したようにその場で頷いた。
「うん、分かった。ただ、リューちゃん一人で大丈夫? 冒険者の人たちもいるとは言え、流石に女王虫2体と戦うわけでしょ。Aランク級の魔物との連戦になるけど、護衛しながらは流石に無理じゃない?」
「いや、今回は護衛はしない。儂は森の中枢に行き、湧いて出る魔物を先に駆除する。儂一人で問題はないが、ローシェンとコリッシュ、ジュライは一緒に来い。他の連中は、マーシェン殿に任せても問題ないだろう。冒険者とはいえ、無謀な事は絶対にしないだろうからな。そうだろ、ローシェン」
「当たり前です。常に最悪の状況を想像し、それに対しての対策を考え講じる。無茶と無謀は絶対にしないのが、冒険者の基本です。と言うか、初心者講習会で必ず習う事だからね。そこら辺の事を理解しないで猪突猛進のように突っ込んでいる人もいますがね」
ローシェンがコリッシュを横目に見ながら言うが、当のコリッシュ本人は「そうだっけ」と言いたげな表情で首をかしげていた。ローシェンの苦労がなんとなく分かった瞬間でもあった。予想ではあるが、コリッシュは『取りあえず、そこに罠があるなら踏むしかない』と言う精神で、自ら罠を踏み、作動させている可能性がある。
「まぁ、それについては置いておくとしよう。マーシェン殿、現状の冒険者たちの情報を聞きたい。現在、この集落に集まっている冒険者の一番低いランクはなんだ」
「そうですね。一番低いランクでCランクです。冒険者ギルドの方でCランク未満は参加不可としていたので、そのランク未満の冒険者は参加していないはずです。もう少しすればギルドの局長が来られると思いますので、そこで現状のこの場にいる冒険者のランクが分かると思います。」
「そうか。なら、そちらの確認は任せる。正直に言えば、Cランクでも厳しいとは思うが、取りあえずは魔道具もあるだろうし大丈夫だろう。だが、Cランク未満となれば話は別だ。今回の作戦では、初級冒険者は確実に死ぬ恐れがある。来ていたとしても、流石に今回の作戦に参加させられん」
森の現状を打破するためには、腕に自身があるだけでは無理だ。それは、この場にいる全員が納得している。正直に言えば、魔道具があったとしても生きて帰れる保証は何処にもない。儂なら生きて帰れるが、他の冒険者は流石に難しいだろう。その為、生存率を少しでも上げるために、あれだけの魔道具を用意したのだ。儂の予想では、Sランクで7割、Aランクで5割、Bランクで3割、Cランクで1割だ。それだけ、危険な状態なのだと言える。Cランクの冒険者については、補佐をしてもらうことになるだろう。
「そうですね。資料を見た限りでは、Cランクでもかなり厳しいと言える状態ですね。BランクとCランクのグループを分けて、Aランクの冒険者との1グループを作るのは如何でしょうか。私を含めたSランクの冒険者は数が少ないため、振り分けはグループが出来てから適正に合わせて行うのが良いかと」
「そうだな。では、その采配は任せた。森の突入に関して、次のページを見て欲しい。まずは、突入場所について説明する。地上からの突入部隊と地下からの突入部隊に分かれる。地下と地上では、どちらかと言えば地下の方が危険だ。そのため、地下から突入に関しては、水攻めを行なった後になる」
次のページをめくり、突入方法について書かれている内容を説明する。書かれている内容としては、以下の通りになる。
『地上部隊は、地下部隊よりも先に森へ突入する。これについては、魔物たちへの分散を目的にしている。地下通路については、ゴーレム部隊などから情報を得ており、どの通路を通るのかも想定済みである。また、小型探査機による魔物たちの動向を調べ、魔物たちが作ったとされる地下通路は、すべて繋がっていることが判明。そのため、地上部隊は主に敵の半数を地下へと誘い込み、不意打ちを誘発させることを目的にしている。これについては、地下部隊の水攻めによる大量毒殺を目的にしている。水攻め成功後に、地下部隊と合流し、女王虫との戦闘を行なう。地上部隊は、アタッカーとなる大剣使い、攻めと守りを行なえる片手剣使い。そして、遠距離にたけた弓使いと魔術師。後は、タンクとなる盾兵が必須だ』
地下部隊の内容を説明しているが、今のところ質問は無いようだ。すべてを聞き終えてから質問をするつもりなのか、ローシェンは鉛筆と手帳を取り出してメモを取っている。他の者たちも資料を見ながらメモを取っている。質問をまとめることも重要だが、気になる箇所があれば随時質問してもらいたいものだ。
まぁ、そんな光景を横目で見ながらも、儂は次の地下部隊の説明を始める。
『地下部隊は、水攻め後に突入。水攻めに使用されるのは、昆虫型の魔物を殺す殺虫力のある水を使用する。この水については、水魔法で用意してもらった水を使う予定だ。ただし、殺虫力のある水を使用するため、通路内は人体(嗅覚)をかなりダメージを負う恐れがある。そのため、マスクの着用は必須となる。また、風魔法による喚起も必須な為、風魔法を習得済みの魔術師の編成は重要である。また、通路は中年男性を横三列に並んで通れる広さであり、高さも3メートルあるかないかの狭い通路である。そのため、長剣や大剣などのリーチの長い武器での戦闘は不可能に近い。狭い通路内での戦闘にたけた双剣使いか短剣使い、または遠距離での攻撃が有効。編成としては、短剣使い、双剣使い、クロスボウなどの遠距離、魔法使い系の冒険者のチーム編成を行なう必要がある』
説明を終えると、当然のように質問が来る。ミッシェル集落の防衛する為の部隊配置について、どのような陣営で冒険者を配置するか。森への突入の際、連絡のやり取りをどうするのか。魔道具の種類、使用方法について、異変解決後の回収はどうするのか。その他にも、いろいろと質問はあったが、それについて旦那と儂が答えていく。しばらく質疑応答をしている中、会議室の扉をノックする音が聞こえた。
儂らは一度話を中断し、扉の方へと視線を向ける。メイドゴーレムの一機が扉のノブを握り開くと、そこには青黒い髪の燕尾服を来た三十代くらいの男性が立っていた。どこかの貴族の執事と言われるとしっくりくる立ち姿だが、腰に差している二本のロングブレードを見て冒険者の一人、もしくはその関係者と判断した。
「会議中、すまない。冒険者ギルド『ゲーディオ支部 支部長アルバード・ディオ・ロデオ』だ。会議に遅れてしまい、誠に申し訳ない」
「アルバード殿!? ギルドの方はどうなされたんですか!?」
マーシェン殿が驚期の表情で、椅子を後ろに倒して立ち上がる。ギルドの支部長が直々に此方にやって来たのだ。この場にいる冒険者全員が驚いているのだが、儂らはギルド長が此方に来ることを知っていたため、ディアラさん以外驚くことはなかった。
「あぁ、それについては副支部長に任せた。今はギルドの女性職員たちに頼んで、冒険者の身元確認をしている。コリッシュ、其方の方々がシャトゥルートゥ集落の支部長から連絡にあった旅人様か?」
「うん、その通りだよ。私の師匠のリシューさんに、イスズ様。イスズ様の奥さんのミーア様だよ!! 三人とも、めっちゃ強いんだぁ。片手でゴーレム数体を倒しちゃうんだよ!! 今回は、師匠がこの森の異変を解決する為に手伝ってくれるんだって」
「そうか。今回、我々の対応が遅れてしまい申し訳ございませんでした。ミッシェル集落の方々にも謝罪をしてまいりました。かなり危機的な状況であると、集落の方々からお聞きしました。まさか、そこまでの事態になっていたとは」
苦虫を噛み潰したような表情をするアルバードを見て、ギルドとしてもこれ程の事態になっていたとは予想できなかったようだ。まぁ、商人たちの話を聞いてもそこまで真剣に取り入ってくれなかったのだろう。そう、前ギルド支部長がな。
「まぁ、過ぎたことは仕方がない。アルバード殿、此方の席にどうぞ。詳しい話をしたいと思いますので」
「えぇ、ありがとうございます」
アルバード殿も交えて、先ほどの説明した内容をもう一度説明する。この場にいる全員が、ミッシェル集落を救うために集ってくれたのだ。ならば、儂は出来ることをしっかりと行なうだけ。皆からの質問にあった内容を含めて説明し、問題を一つ一つ消して行く。こうして、万全な状況へと着実に整い始めて来た。そして、会議も終盤となり、時刻はもう夜の八時になっていた。
「では、明日から決行だ。皆、準備を整え、万全な状態で森の異変に介入する!! 旦那、明日は号令に参加せず、そのまま龍脈の作業に入るで良いな」
「あぁ、その通りだ。何かあれば、必ず連絡をくれよ。皆の協力し合えば、今回の異変は確実に解決する。だからこそ、言わせてもらうぞ。誰一人として、死人を出すな。それが、お前たちの役目だと理解しろ!!」
「「「了解!!」」」
こうして、この場にいる全員の思いが一つになった。そして、皆はそれぞれの役目を行なうために、会議室を出て準備に取り掛かる。今、この場に残っているのは儂ら旅人関係者とディアラさんの四名だけである。
「さて、ディアラさんの件について、少し厄介なことになった。ゲーディオの件について、ディアラさんをこのまま送るのは危ない事が分かった。詳しくは、明日の問題が解決が終わってからになる」
「ゲーディオに帰れないんですか?」
不安そうな表情で言うディアラさんに、儂はどう話すべきか悩んでいた。真実をありのままに説明するのも簡単だが、それをそのまま話して良いものなのか悩んでいた。しかし、此処は真実を話すべきだと判断し、儂はそのまま答えることにした。
「現在、ゲーディオでは問題が起こっている。その中で、ディアラさんは命を狙われている。このままゲーディオに送れば、間違いなくディアラさんは死ぬ可能性がある」
皆が沈黙している。ディアラさんと嬢ちゃんは、驚愕の表情をしている。そして、旦那は頭を抱えている。ゲーディオに向かうと言うのに、その先でも問題が起こっているのだ。何故、儂らが向かう先で問題がこうも次々と起こっているのか。そう思ってしまうのも仕方がない事であり、どうして面倒ごとがこうも次から次へとやって来るのだろうか。
「まぁ、ゲーディオの件については置いておくとして、森の件はどうしたものかねぇ。こんな大きな問題が自然に起こるとは思えない。人為的に起こされたとしか考えられないのだが、旦那としてはどう思う? 今回の異変とゲーディオの問題はやはりイコールで結ばれると思うか」
「そうだな、俺もそう考えている。ただ、森の異変については、やはり人為的に引き起こすには無理がある。考えられる選択肢は、この一つしかないだろうな。誰かが『狂いの欠片』を使って今回の異変を起こしたのだろうな。それが、龍脈を通りゲーディオに異変を起こしていると考えられる。つまり、龍脈の流れが変わったのは、そうするように仕向ける為か、狂いの欠片の力を確認するためか。どちらにしても、龍脈の行き先が『ゲーディオ』だと言う事が分かった時点で、この異変が仕組まれたものなのだろうさ」
「じゃあ、私たちがこの異変に介入するのは、偶然ではなく必然だったと言うことなの? そして、今回の異変は狂いの欠片によって引き起こされた問題であり、その異変を起こした犯人をディアラちゃんに見られた。だから、今回の事件を目撃されたからディアラちゃんの命を狙っていると言うこと?」
儂は黙って頷くと、嬢ちゃんは怒りからか拳を強く握りしめ魔力を放出する。嬢ちゃんにとって、同い年くらいの友達が出来たのだ。その友達が、街に戻れば殺されると分かっていて、その街まで送れるはずがない。それは、この場にいる儂ら全員が思っている共通の事だ。
「儂は、森の異変に介入し、あるかどうかわからんが『狂いの欠片』を回収する。回収後、ゲーディオまでディアラさんを送る」
その言葉を聞いて、ディアラさんは俯いてしまった。確かに、ショックを受けても仕方がない事だ。当然の事だが、嬢ちゃんも何か文句を言おうとしている。だが、儂の表情を見て、まだ続きがあることに気が付いたようだ。そう、まだこの話には続きがあるのだ。この場にいる旅人である儂を含めた三人だけにしか分からない。その一言を儂は告げる
「断罪を始めるのさ。あの日と同じようにな」
「リューちゃん。ぇ、まさか、そのぉ、アレを、やるの?」
「まぁ、そうなるだろうな。ハァ、久しぶりに断罪するか」
何を言っているのか分からないだろうが、儂ら三人はちゃんと理解している。これは、ディアラさんを救うために行なう行為である。森の異変を解決すれば、自ずと犯人に繋がる手がかりも手に入るだろう。証拠をそろえ、今回の犯人を確実に追い詰める。前ギルド支部長とアストリア家だけで、今回のような大異変を引き起こせるはずがない。つまり、影の首謀者が必ず存在する。ソイツを、引きずりだす。大地の記憶は、あくまでそこで起こっていた事だけしか見る事は出来ない。その映像だけでは『証拠』にはならないのだ。ならば、証拠をすべてこの手に集め、その者を断罪するだけだ。
置いてけぼりになって混乱しているディアラさんを見ながら、もうそれ以上の言葉は不要と判断し嬢ちゃんへいつもの言葉を告げる。
「嬢ちゃん、先に夕飯を食べて来い。儂らは、明日に備えて、もう少し打ち合わせをしなければならないからな。嬢ちゃんにも詳しい内容は、後で伝える」
「うん、分かった。じゃ、先に食べて来るね。ディアラちゃん行こう」
そう言って、嬢ちゃんはディアラさんの手を握り立ち上がる。行き成りの事で全く理解が追い付いていないディアラさんは「ぇ、ぁの、あ、はい」と言って立ち上がる。まぁ、仕方がない事なのだが、こればかりはディアラさんの心のケアは嬢ちゃんに任せる方が良いと判断した。
「じゃ、行ってくるね」
「リューセン様、イスズ様。失礼します」
ディアラさんと嬢ちゃんは、会議室を出ていく。それを見届けてから、儂は旦那と軽く明日の話し合いをする。連絡方法などを相談しながら、儂らは嬢ちゃんたちの待つ食堂へと向かう。明日から、かなり忙しくなるのだ。この集落の明日のために、ディアラさんの明日のために、儂らは動き始めるのだった。




