7話 魔法陣調査
どうも、こんにちは。私です
皆さま、夏の暑さに負けずお元気でしょうか?
私は、元気です。
何とか、7月に投稿する事が出来ました。
うん、頑張った。
仕事と趣味を両立するために時間管理をしっかりとやった結果ですね。
これからも頑張って書いて行きます!!
では、次話で会いましょう ノシ
今、儂は目の前にある魔法陣ではなく、三体のガーランド像を観ている。儂の部下に連絡を入れ、確認をしてみたところ『置いた記憶がない』とのこと。一様、部下から報告で届いている魔法陣の画像や、最後に撮影した現場写真を確認してもガーランド像の姿はどこにもない。取りあえず、後で『地の記憶』で確認するとしよう。魔法陣が書かれた日もついでに確認するとして、魔法陣について調査を始めるとしよう。
(これは、旧式の魔法陣に近いな。転移式にしては、粗末と言うべきか。これは六芒星のようだな。この狼の横顔は、確かだが『一方通行の転移』だったはずだな。転移の魔法陣は、対となるものが描かれていなければならない。狼ならば2匹描かれていることで、魔法陣間の移動が可能となる。だが、此処には一匹だけしか描かれていない。つまり『帰還させる必要がない』と言う事か。ふむ、こんなものを用意するとは、ディアラさんだけをこの場に召喚させたかったと言う事か? その理由は、なんだ? 何が目的で――)
そんなことを考えながらも、この三体のガーランド像がいつ置かれたのかを映像を動かしながら確認する。いや、本来なら魔法陣を先に調べるべきなのだが、このガーランド像はこの世界では『筋肉神』として崇められている。つまり、この像を置いたものが魔法陣を描いた者なのではないか。そう言った理由から、ガーランド像を置いた者を先に調べることにした。取りあえず、昨日今日ではないはずなので、一週間前から調査を開始している。しかし、これを置いたのは筋肉教団関係者なのだろうか。いや、他にもいる可能性もあるが、ガーランド像の件については映像を停止してローシェンたちの方へと意識を向ける。
「これは、ギルドでも滅多に使われたことない魔法陣ですね。見た限りでは、旧式のようです。この狼の横顔は――ん、これはゲーディオで広まってるシルバーウルフの横顔でしょうか。これは今の時代ではあまり知られていない、結構マニアックな魔法陣だ」
「へぇ、ローシェンが旧式って言うのなら、それが正しいんだろうね。私には、魔法陣の事はからっきしだからなぁ。この前だって、転移系の魔法陣だと思って発動したら、何故か召喚系の魔法陣だったと言うね。あれは本当に危なかったよ、アハハ。やっぱり、こう言うのは、ローシェンに任せれば問題ないし」
「コリッシュ、君と言う奴は――ハァ。まぁ、得手不得手と言う者があるから仕方がないけど、少しは覚えようとする努力をしてもらいたいよ、まったく。しかし、この狼の横顔の絵には頬に傷がついているね。そうなると、これは旧式の転移魔法陣ではない。確か、ギルドが運営している図書館に書かれていた『家紋集』を思い出す。確か、これは『ゲーディオ家』の家紋。この魔法陣はゲーディオ家の魔法陣? でも、この場所に魔法陣を設置する意味が解からない」
ローシェンも魔法陣を調べているが、コリッシュはただ魔法陣を見ているだけである。まぁ、魔法陣の知識がない者が触れて暴走を起こすような事故も聞いてはいる。やはり、専門家であるローシェンに任せるのが良いかもしれん。まぁ、観ただけで大体分かるのだが、やはりここはローシェンに任せるのが良いだろう。
(魔力の痕跡は無い。これは一度きりの発動方だろう。ただ、魔法陣としての機能は欠陥箇所が見えるな。いくつか、ズレが見えるな。このズレは致命的のようだが、無理やり魔力を込めて発動した形跡はあるな。まったく、魔法陣の線が震えているせいか直線状に書くべき個所が少し歪曲しているじゃねぇか。これを発動させたとしても、通常の2倍の魔力量が必要だろう。まったく、勿体ない)
「直線状に書くべき個所が、少し曲がっているようだね。この箇所だけで、魔力消費量が1.5倍くらいかな。いや、よく見ると歪曲している箇所が数ヶ所みられるね。これは駄目でしょ。魔法陣の作成とは、繊細かつ丁寧さが求められるのに。これじゃ、折角の魔法陣が勿体ない」
「ほへぇ、そうなんだ。でもさ、これって本当はわざとやってるって考えられない? 自身の魔力は少なくして、相手の魔力を無理やり引き出させて発動させる系とか。まぁ、なんでそんなことをするのか分からないけど。でも、そう考えると『この魔法陣』の歪みの説明になるかなって」
「コリッシュ。君ってやつは」
儂もローシェンと同じ言葉を思った。まさか、その手があったとは予想外だ。いや、まだ現時点でその発想に辿り着けなかったことが問題だったかもしれん。まさしく、これは人為的に起こされたものかもしれん。ディアラさんの魔力量を目視で確認したが、あれは魔力の原石に近い。嬢ちゃんもそうだったが、魔力の原石と言うのは『強大な魔力を秘めた人間』の事をしめす。
「「確かに、それならすべての説明がつく」」
「ぉ、師匠と声が揃った」
儂はローシェンの傍に近づき、魔法陣の歪みの箇所を再度確認する。雑に描かれているように見えて、その歪曲性に規則性があるように見える。歪曲している箇所に誰かが倒れていたような痕跡がある事から、この場所にディアラさんが倒れていたのだろう。しかし、それではこの魔法陣の意味がない。何故なら、ディアラさんは屋敷の自室にいたのだ。そうなると、この場所は物々交換――いや、人間同士の交換に使われたのではないだろうか。
「時間を遡り、地の記憶から『時間を特定する』ことで、特定の情報を取得する。遡る時刻は昨日の早朝から現時刻13時に設定、映像への投影を開始。さぁ、二人とも確認を始めるとしよう。では、早送りだ」
「「へ?」」
先ほど開いていた映像画面を二人にも見えるように設定し、魔法陣の奥に置いてあった一体のガーランド像を隠すように画面を表示する。すると、そこには昨日の23時の映像が映る。そこには、黒いフードを被った人間らしきものが居た。男か女か分からないが、観た限りでは150の半ば前後である。左手には魔法陣を描いたものに使われたチョークのような白い棒状のものを持っている。そして、右手には人間より長い黒い杖を握っている。
「こ、これは一体、なんだぁぁぁぁぁああ。こ、ここ、これは!! 筋肉神の身体を隠すほどの闇に、人が!? と言うか、朝なのに、夜の風景と言う矛盾!! これは一体どんな魔法なんだ!? 気になる、気になります!! どのような原理で作られてるんだ!?」
大地の記憶を見せただけで発狂するローシェンを見て、一瞬固まっていたコリッシュが一歩後ろに下がった。確かに、此処まで発狂する人間を儂は今まで見た事が無い。だが、まぁ、これも当然の反応だと言う事にしよう。
「うむ、これについては後で説明する。それよりも、少し映像を動かす。あの人間に見覚えが無いだろうか」
リモコンで画面を動かしつつ、黒フードの人間らしき者の正面へと動かす。黒フードの正面に移ると、黒フードの人間の姿が露になる。青い短い髪に、銀色の瞳。頬に三爪の痕が付いている。見る限り青年のように見えるが、フードのせいで男性なのか女性なのかも分からない。旦那なら分かるだろうが、儂ではそこまで分からない。
「ジュライ? ジュライ・コーディット、か? あぁ、確かに似ていなくもないな。あの時に見た指名手配の張り紙の絵と、どことなくに似ているように見えるな。あぁ、なるほど。うん、似ているな」
「ぇ、あの指名手配されてる暗殺者? 確かに似ているかもしれないけど、ジュライ・コーディットってさ、魔法陣とかに詳しかったけ? 暗殺者だから魔法には詳しいのかなって思ったけど、魔法陣まで詳しいのかな?」
「あのなぁ、ギルドの情報くらいちゃんと見ろよ!! ジュライ・コーディットは、元々は魔術者だ。それに、俺たちが使っている現代の魔法陣を開発したのも、彼奴だ。悔しいけど、僕は彼奴の背中を追っている形になる。でも、確かに彼奴に似ているけど、あくまでギルド内での情報だけで判断しているからな。流石に、あの似顔絵が『本人なのか』と言う確証がないから、違う可能性もあるよ。でも、その情報と同じなんだよね。憎たらしいけど、彼奴ならこの魔法陣を選んだ理由も察しが付く。これは緊急脱出用の転移魔法陣だ」
ローシェンたちが言う『ジュライ・コーディット』と言う名前に、どこか聞き覚えがあった。確か、儂がこの前捕まえて説教した奴も、そんな名前だった気がする。うむ、確か儂らを殺そうとやって来たのは良いが、すぐに敵だと判断した儂が頭を軽く小突いて地面に叩きつけ、意識不明の重体の状態にしたんだっけか。地面には見事な人型の穴が出来ていたが、まさか軽く小突いただけで意識不明の重体になるとは、体が弱すぎるのではなかろうか。完全に回復してから尋問したのだが、アストリア家の連中から依頼を受けたらしい。まぁ、筋肉教団への復讐らしいが、逆に喰われたらしいから仕方がない事だ。あえて言いたいのだが、筋肉教団は何がしたいのだろうか。このまま、帝国まで乗っ取らないよな。儂は、そこが心配である。
「あぁ、ジュライか。そう言えば、この前軽く組手をしたな。まだ、指名手配されていたのか。後で、ギルドの連中に報告しておくか。ジュライは、今は儂の部下として働いてもらっている。後で、この件について『しっかり』と話を聞く必要があるか。おや、どうやら、何かしゃべっている様だな。ちょっと巻き戻して、音量を上げて、映像を再生するか」
「「ぇ?」」
儂の言葉を聞いて、驚いている二人。コリッシュよ、以前にもお前はジュライと組み手をしていたはずだぞ。お前が驚いているのはどう言う事なのだろうか。そんなことを思いつつも、大地の記憶から映像に写っている人間の声を聞く為に一度映像を止めた。その瞬間、二人とも『おぉ!?』と驚期の声を上げた。儂としては見慣れているが、二人にとっては初めて見る光景で驚いても仕方がない。さて、そんな二人を見ながら苦笑しつつ、目の前の映像をもう一度巻き戻してから音量を上げて再生する。すると、聞き覚えのある声が映像から聞こえてきた。
『イスズ様やリューセン様からのご依頼がまだだが、かの少女を救うためだ。情報通りの時間ならば、急がなければならない。急ごしらえとは言え、歪ではありますが仕方がありません。はぁ、彼女への負荷を最小限にしたいですが、強制転移で此方へと召喚するとしましょう。後は、リューセン様達に任せるとしましょう。連絡はいつもの行商人に任せ、魔物たちを駆逐するとしましょう』
「ローシェン、お前の当たりのようだな。彼奴、儂に任せておいて逃げたわけか。よし、見つけ出して説教だな。まったく、儂に投げといてそのまま放置など許せん。特に、魔法陣をそのまま放置して逃げるなど、悪用される事も考慮して時間経過で消えるタイプの魔法陣にする対応等を考えなかったのか」
「いや、何ですか。その時間経過で消える魔法陣って!! 私、凄く気になるのですが!! え、そんな時限式の魔法陣とか聞いた事が無いのですが!! どのような原理でそのような事が」
「ハイハイ、ドウドウ。魔法陣研究に対しての暴走は止めましょうねぇ。今は、魔法陣の調査の方が重要でしょ? で、これが緊急脱出用の魔法陣だって言ってたけど、なんでそんなことが分かったの」
コリッシュの質問に熱が引いたらしく「あぁ、その事か」と言うと、何か当たり前のことを答えるように話し始めた。しかし、儂はコリッシュの姿に違和感を覚えた。魂の色が何故か先ほど見たのと違うのだ。コリッシュの魂の色は綺麗な穢れの無いオレンジ色だったのだが、今のコリッシュの魂の色は赤いのだ。つまり、魔法陣へと意識を向けたその一瞬で、何かがあったのだろう。
「あの魔法陣は、確かに転移魔法陣だ。ただ、この魔法陣は魔力を流した者だけを転移させる。ただ、転移の魔法陣は必ず出入り口が必要なんだ。出入り口は起動しても何度でも使える。でも、今回のこの旧式の魔法陣は違う。これは、まだちゃんとした転移魔法が確立していなかったときに作られた、一方通行の魔法陣だ。魔力量で転移する対象が判断され、魔力を多めに流した者のみを転移させる。これは、そう言う魔法陣だ。こんなマニアックな魔法陣を知っているのは、多分だけど彼奴と私くらいだ」
「へぇ、そうなんだ。一方通行の魔法陣と言う事は、それを発動する為の鍵が必要だよね。証拠を残さず、魔法陣を発動させるには一つしかない。魔法陣と同時に消滅させるなら極小の魔石だろうな。耐えられないレベルの魔力量を流すことで、発動と同時に壊れる。彼奴の手口だな。あっちではどうなってるのか気になるし、一度ギルドに確認した方が良いかもな。ゲーディオの方での確認は必要だからな」
コリッシュもどきとでも言うべきか。目の前にいるコリッシュを見ているが、目の前のガーランド像から何かいるのを感じた。其方へと目線を向けると、何やら見覚えのある魂の色が見えた。ガーランド像の方で気絶している『コリッシュ』の気配を感じながら、目の前にいる真剣な表情で語っているコリッシュを見る。つまり、この場にコリッシュが二人いる状態である。儂が言いたいこと、分かるだろう。
「ならば、その件については儂が調べよう。儂の部隊からゲーディオの現状を調査して来いと依頼を出している。旦那に情報を送るようにはしている。多分だが、すぐにでも連絡が来るだろう。さて、そろそろ調査を続行するとしよう。その前にだ――で、弁明を述べてもらおうか。ジュライ・コーディット。コリッシュに変装してまでこの場所にいると言う事は、儂に用があるのだろう。まさか、そのまま逃げられると思っている訳でもないだろう」
「あちゃ~、バレちゃいましたか。どこらへんで、バレてしまったのでしょうか。いや、リューセン様たちならすぐにでも分かりますか。今回は、彼女を救って頂きありがとうございます。そして、途中でリューセン様に投げたままにして申し訳ございません。彼女の住んでいた町、ゲーディオ内で少々問題が起こりまして、彼女――ディアラ様はその問題の目撃者なのです。犯人側に命を狙われておりまして、急ごしらえとは言え転移を行なったのです」
コリッシュの姿に変装したジュライが、足元に光の粉を撒いた。光の粉は自我を持っているかのように、ジュライの足元で魔法陣を描き光り輝きながら発動する。足元からゆっくりと頭部へと向かって昇って行きながら、コリッシュの姿から本来のジュライの姿に戻る。服装は先ほど地の記憶に写っていた姿のままだ。ただ、違う点についてはフードを外している事だけだ。
「なるほど。そして、このように魔法陣を発動させたわけか。ゲーディオ内の問題について気にはなるが、取りあえずはその件は保留だ。何が目的なのか気にはなるが、彼女を助けるための行動と言うわけだな。良いだろう、それについては儂も調べておく。しかし、最後まで口調を統一できないあたり、まだまだ半人前だな。何度も言っている通り、変身する能力を持つ者のなら『声、口調、動作、癖』をちゃんと覚えておけ、とな。もう少し、個々の人間の行動や言語を理解しろ。さて、その話は後にする。ジュライ、今回の件について詳しく聞かせてもらうぞ」
「えぇ、その為に戻って来ました。ただ、シルバースパイダーの件については、私は無関係ですからね。流石の私でも、ディアラ様の命を奪うようなことは避けていたつもりですが、今回の件は私としても想定外でした。リューセン様に救出してもらえるように、私も足止めなどは行っておりました。今回の件について調査してみたのですが、この森の龍脈が乱れているようでして。原因は良く分かっていないのですが、リューセン様たちならご存じではないかなと」
「なるほど、ミッシェル集落の近くにある森の異変。そして、今回のシルバースパイダーの問題。龍脈にまで問題が起こっているとは、なんて面倒くさい事になっているのだ。龍脈の修正など、儂らがなんとかできるものではないぞ。いや、旦那ならなんとか出来るかもしれんが面倒くさい。手順としてまずは、流れを別方向へと変える。その後、問題となっている森の異変を解決させる。最後は、流れを元の位置に戻す。この一連の作業が必要だ。ちなみに、普通は龍脈の流れを変えたり元に戻すなんて芸当は、人間でも、魔神でも、神でも不可能だ」
当然のことを説明するが、変えようと思えば変えられるだろう。ただ、何事もなく変えられるなど、まず不可能なのだ。何かしらの問題が生じるのは確定している。しかし、旦那はそう言った不可能と呼べる問題について、対応策を持っている。それが刻竜と言う逆刃刀だ。アレは、流れを正常の位置に戻す事が出来る。ただ、アレは旦那の愛刀であり、狂いの神への対策で使われる武器だ。他にあるとすれば『隊長が打った刀』だろう。
「流れを正常に戻す事が出来れば、問題はすべて解決できる。確かに力技ですが、そうするしかないですね。で、いつまで固まっているのです、ローシェン。私とほぼ互角の力を持つ貴方が、この程度の事で固まるとは馬鹿でしょう」
「ば、馬鹿とは何だ!! 情報が多すぎて、処理が間に合っていないだけだ!! それよりも、ジュライ。何故、ギルドを。ギルド長を殺害したのか、説明をしてもらうぞ」
「あぁ、あの件ですか。あのギルド長は、アストリア家と繋がってましてね。ギルドを内部から解体しようと、彼等は動いていたようなんですよ。一様、証拠隠滅される前に証拠品の回収は出来ました。裏との繋がりについての情報は、此方でも調べがついていましたからね。帝国の皇帝やギルド総括理事などにも今回の件について、私が帝国に出向いて話は通しています。会合の結果、証拠の確保なども含めて、現状のギルド長は危険だと判断され、私の手で始末したのですよ」
ジュライは平然と語っている。上層部との合意の上での殺害依頼だったのだろう。それを知ったコリッシュは、驚愕の表情を浮かべていた。今日で何度目の驚く姿を見た事か。うむ、是非とも儂の部下として働かせたい。その新鮮な驚きと、魔法陣に対する貪欲な研究心については、あの馬鹿垂れことベラーダのストッパー役になれるだろう。うむ、後で旦那に二人を紹介するのもありだろう。
さて、その事は置いておくとして、まさかゲーディオ内でも問題が起こっていると予想外だった。そして、ギルド内にもアストリア家の連中が噛んでおり、ゲーディオに到着しても面倒ごとが待っているようだ。ゲーディオにこれから向かう手前、問題が待っていると思うと気が滅入るのだが、ディアラさんの今後を考えても避けては通れない問題のようだ。ならば、儂が行なうのはただ一つなのだろう。
「詳しい話は戻ってからにしよう。ゲーディオ内での問題は、此処で話す事でもはないからな。ところで話は変わるが、ジュライはこのガーランド像を置いた者を知っているか。こんな黄金に輝く像など、三体も設置されている時点で気味が悪いのだが。まったく何故、この場所に設置したんだろうな」
「あぁ、筋肉神像のことですか。それなら、私が配置しました。この場所を守る為に用意した物です。何故か、魔物が近寄らないんですよ。こんな神々しい御方のおかげで、この場所を荒らされる事無く無事ですみました。筋肉神様の神々しさに恐れをなすのでしょうね」
「っは!? ギャローラギルド長が、裏切った!? ど、どういう事だ!! そもそも、アストリア家が何故、ギルドを内部崩壊させようとしているんだ!! 教えろ」
ジュライがさも当然のように言った。いや、ガーランドはただの執事なのだが、この世界では神と崇められている。うむ、誰が広めたのか確認が必要だろうが、もう今更なことだから諦めた。取りあえず、筋肉神を信仰する信者たちは何がしたいのだろうか。儂らが手を下すことなく、何故かほとんど終わっている。そして、何故かこまめに儂らに情報を送って来るのだ。それも、詳細が事細かにだ。一か月の新規会員数、お布施、機器の追加発注など、事細かく出ある。
そして、整理がついたのかローシェンも復活したようだ。ただ、これでは正常に話が聞けなさそうだ。そもそも、儂としてもギルド長の件については確認しておきたい。そして、どうやってガーランド像を手に入れたのかも確認が必要だ。このままでは、儂らが向かう先に必ずガーランド像が置かれている可能性がある。それだけでも、儂の胃がキリキリして困る。
「まぁ、うむ。この世界の住人にとって、アレが神々しい存在なのは仕方がない事だな。まぁ、そう言う事にしておこう。取りあえず、儂らのやるべきことは決まった。一度、ミッシェル集落に戻るぞ。ジュライはローシェンを背負っていけ。コリッシュも、気になるのは仕方がないことだが、その件については後にしよう。ミッシェル集落の会合部屋で詳しい話を聞く。それで良いな」
「ぇ、ぁ。は、はい!! ジュライ、ちゃんと説明してもらうからな!! 逃げようなんて思うんじゃないぞ」
「はいはい、分かっておりますよ。そもそも、逃げるつもりならとっくに逃げておりますからね。私としても、リューセン様と旅人様にご報告しなければならない事がありますからね。特に、アストリア家の方々についての話や、アストリア家の闇――いや、呪いについて説明したいのでね」
ジュライから出たアストリア家の闇について。どうやらジュライは、多くの情報を手土産に持って来たのだろう。その報告内容についても、旦那と共に確認せねばならない。儂らは此処での調査を終え、そのままミッシェル集落に戻ることにした。ガーランド像は持って行く気力もない為、そのまま放置することにした。
だが、このまま魔法陣を残すわけにもいかず、魔法陣の撮影を終えてからジュライの手で消してもらった。消した後、復元させて悪用される可能性を考慮し、儂も地面へ向けて金棒を振り下ろし地面を整地した。
「これで良いだろう。さて、行くか」
この場をそのまま去ろうとしたが、ジュライが「やはり、もう一体。いや、二体置くか」と言い放ち、魔法陣が書かれていた三体のガーランド像の元へ向かった。一体何が起こるのか気になって目を向けると、コートの裏側から四体目のガーランド像を取り出し、軽々と持ち上げてから『ひし形を描く』様に配置した。そして、五体目を取り出すと真ん中に置き、何故か頷きながら此方へと振り返り嬉しそうに微笑んでいた。
(何故、二体も置く必要が!?)
「これで良し!! これなら、この場所が神聖な場所だと認識し、誰にも触れることは無いでしょう。実に立派な筋肉神像です。よし、行きましょうか」
「いや、ジュライ。なんで五体も置く必要が?」
「あぁ、これは皇帝とギルド統括理事会会長、そして筋肉教団からの御依頼だったので。三角形での配置で良いと言われたのですが、やはりこの配置が綺麗ですからね。証拠写真も撮って――はい、これで完了ですね」
驚愕の真実を知り、儂は顔を手で覆いながら空を見上げた。もう、この世界は筋肉教団に支配されているのではないだろうか。もう何が何だか、良く分からない状態である。これは旦那に報告する必要がある。皇帝までも筋肉教団信者になったのなら、これは実質、この世界の宗教団体の頂点に立ったと言うこと。つまり、皇帝と同じ力を持ったことを意味する。まぁ、その件については、後で筋肉教団の教皇になったマルス・シュティラータに説明を求めるとしよう。
(あぁ、本当に頭が痛い。まさか、皇帝とギルド統括理事会会長までもが、筋肉教団の手に落ちているだと。いや、まぁ、安心安全だとは思うが、何故、此処まで広まってしまったのだ。そもそも、彼奴らは本当に何がしたいのだ。たった数年で、此処まで信者を増やすどころか、帝国にまで広まっている。何故、このような事になったのだ。はぁ、溜息しか出ないぞ)
こうして、頭を抱えながらもミッシェル集落に戻ることになった。魔法陣の件とディアラさんを此方へと転移させた犯人とその理由も判明し、もうこの場所に用はなくなった。目的地であるミッシェル集落に向っている最中でコリッシュの目が覚め、一から説明しつつも無事に集落に到着した。
集落内入ると、広場には複数名の冒険者が集まっていた。そして、冒険者集団のリーダーらしき女と旦那が、何やら話しをしている。集落の男性陣が木箱を両手に抱え、木箱を置いて行く。アレは確か仮拠点に置いていた、魔道具が入っている木箱だったはずだ。どうやら、準備が完了したらしい。つまり、森の異変への解決が本格的に始まると言う事だ。
(はぁ、筋肉教団の事は置いておくとしよう。それよりも、魔道具を出していると言う事は、準備が完了したと言う事だろう。ようやく始まるのか。なら、急いで会議が必要だな)
そんなことを考えながら、儂は旦那たちの元へと向かった。




