表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
47/90

6話 知らなくても良い真実

どうも、6月に投稿するつもりが、7月初めになってしまった私です。

どうも、こんばんわ(現時刻:2019/7/1 0:40)

私としても、間に合わせたかったんですけどね。

よし、頑張ってもう一話を7月に投稿しよう。

うん、頑張るぞ!!


では、次話会いましょう ノシ

 集落到着後、儂らはディアラさんを仮拠点の休憩室に送った。流石に魔力を使いすぎたせいで、魔力貧血一歩手前の状態だった。なので、ディアラさんの魔力補給などを嬢ちゃんに任せ、儂と旦那はたまたま運よく集落に来ていた解体屋を呼び寄せ、ゴーレム部隊に昨日作らせた『魔物用解体倉庫』の中にいる。収納指輪で解体が自動でできるのだが、折角なので何体か解体してもらい、この世界の解体技術レベルを確認したい。では、シャトゥルートゥ集落の解体屋はどうなのか。あそこは、儂らの解体技術を叩き込んだから対象外である。


「で、リューセン殿。私が解体する予定の魔物は一体どのような魔物でしょうか」


「あぁ、すまない。今、収納指輪から出す。この三体を解体してもらいたいのだが、どのくらいの時間で解体が終わるだろうか」


 倉庫の中で、質の良いシルバースパイダーを収納指輪から三体ほど出した。頭部と胴体を綺麗に切断して殺したため、その三体を解体屋に頼むことにしたのだ。そして、その解体屋の人間だが、紅紫色のキレイなショートヘアの女性である。見た目自体は二十代前半くらいだろう。汚れ一つ見えない白いシャツと黒の長ズボンを着ており、羽織っている焦げ茶色のコートと同じ色のブーツを履いている。


「ほほぉ、これは中々の上物ですね。それも、三体とも見事に脳天を叩き潰している。それに、頭部と胴体が切断されている以外に外傷はないようですが、どれも確実に絶命している。頭部と胴体の切断面も、プロの冒険者でも流石にこれほど綺麗に切断できませんからね。不思議な事に、昆虫型の魔物は脳を破壊されてもすぐには死なないはずですが、確実に絶命している。どうやって殺したのか気になりますが、それは置いておくとしましょう。そうですねぇ、これ程の大きさですと、早くて五時間ほどで完了するかと」


「そうか、五時間で三体か。分かった、解体の方を頼む。出来上がり次第、そこに居る奴に伝えてくれ。まぁ、ちょっと訳ありで監視を行なっている。理由なのだが、この集落の問題に関係がありそうでな。監視兼護衛と言う形で付いてもらっている」


「なるほど、そうでしたか。確か、集落の外にある森の異変でしたね。へぇ、こんな大きなシルバースパイダーが存在するのか。ふむふむ、最近は帝国や他国なんかの森でも見かけなくなったと聞いていますが、此処まで立派なのは初めて見ましたね」


 そんな貴重なシルバースパイダーを狩りつくした儂だが、まだ何体か森の中にいると信じることにした。まぁ、実際に気配は感じ取れているから問題はないだろう。いや、まだいることを切に祈ることにする。まぁ、集落を守る為に狩ってしまったわけだが、別の方向に逃がすと言う事も出来たのではないだろうか。いや、今さら遅い。うむ、この事については黙っておこう。


「まぁ、私としては久しぶりにシルバースパイダーを解体できるのは嬉しいですね。それも、今までに見た事が無い程の大物を解体できるなんて、解体職人にとってはまさに夢に見た光景です。さて、いっちょやりますか!! 頑張るぞぉぉぉぉおおおおおおお」


 嬉しそうにシルバースパイダーの元へと駆け出す彼女を見ながら、儂は部下たちの事を思い出した。昔、天空の城を作ると話したとき、儂の部下たちも彼女と同様に嬉しそうに笑いながら、幾つもの案を出し合って一つの作品を完成させた。今でもあの城は、どこかの姫様が使っているらしい。防犯設備もしっかりしているから、今も安心して暮らしている事だろう。

 さて、旦那のいる部屋に向かおうと思ったが、念のため彼女の監視および警護しているαジェノムの元へと向かう。人型のゴーレムの中で、一番最初に作ったゴーレムが彼である。いろいろとロマンをつぎ込んだ結果できたゴーレムだ。そんな儂の最高傑作であるαジェノムは、儂が近づくと体の向きを彼女の方から儂の方へと変えてお辞儀をする。


「マイマスター、イスズ様の元へ向かわれるのでしょうか」


「あぁ、その通りだ。αジェノム、彼女が暴走し過ぎて、変な事故が起こさないよう見張っておいてくれ。まぁ、何か大きな問題がない限り危険はないだろうが、彼女を頼んだぞ」


「承知いたしました。手の空いてる者たちも『素材を回収しに此方に来る』と伺っております。現在のアイテム生産率は、スケジュール上の二割増しとなっております。トラップ系のアイテムについては、マイマスターの収納指輪から解体されたシルバースパイダーの素材が自動補充されている為、スケジュール通りの生産率まで追いつきました。現在、警備部隊については、盗賊団などを調教――もとい、再教育を行ない警備兵に鍛え直しております」


「了解した。盗賊団の再教育の件は任せた。まぁ、程々に頼む。うん、旦那も確か一緒に再教育を手伝っていたはずだが、うむ。まぁ、良いか。では、儂は旦那の元へ行く。何かあり次第、通信機で連絡を頼む」


 儂はそう告げてから倉庫を出た。倉庫の外は雲一つない青空が広がっており、外では畑を耕す者たちと、洗濯物をする者たちが楽しそうに働いていた。水不足を解消できた事で、活気が戻ってきたのだろう。後は、森の異変を解決するのみだ。人為的に行われたモノなのか。それとも、本当に自然的な災害なのか。儂はそれを見極めなくてはならない。罪人が犯した罪には、正しき罰を与えるのが儂らの役目――いや、仕事なのだ。旅人の中でも全てが善人ではない。己の欲望のために『あるべきだった世界の歴史』を変える者もいれば、ただ『不要』と自己判断し世界を消し去る者もいる。そう言った者たちを裁くのが儂らの仕事なのだ。


「少しずつではあるが、この集落もあるべき活気が戻ってきたようだな。まずやるべきことは、森の中にある水源と集落の貯水場の連結だ。それが終わり次第、この集落への冒険者ギルド設立とマンティス族の移住に備えての住居設立。後は――、そうだな。シャトゥルートゥ集落と同様に空中都市にするか。まぁ、ホムホムに連絡は入れてある。何かあり次第、連絡が来るだろう」


 その様な事を呟きながら歩いていると、旦那たちがいる仮拠点の玄関前に到着する。木製の観音開き型のドアだが、そのまま玄関のドアを開け中へ入る。確か、ディアラさんの護衛を嬢ちゃんに任せた記憶がある。取りあえず、旦那との相談を先に終わらせるとしよう。ロビーに入ると、何やらリビングの方から賑やかな声が聞こえた。


「なるほど、ディアラちゃんは気が付いたら森の中にいたのですね」


「はい、そうなんです。最初は屋敷の私の部屋で寝ていたのですが、気が付くとあの森の中で寝ていたんです。屋敷には私以外に誰もいないので、私を探しに来る人はいないですし、もう戻る事も出来ないと思ってました」


「ふむふむ。ディアラちゃんは、帰る場所がないと。う~ん、これからどうします? 私たちは旅の途中だし、流石にこのまま此処に住む訳にもいかないし。でも、このままディエラちゃんを置いて旅に出るわけにもいかないし」


 何やら嬢ちゃんとディアラさんがお茶を飲みながら話をしていた。ディアラさんの今後について話をしているようだが、連れて行くのかどうするかを悩んでいるようだ。儂としてはシャトゥルートゥ集落に送ると言う手もあると助言したいところだ。だが、嬢ちゃんとしては一緒に旅をしたいようだ。何せ、先ほどから『一緒に旅をしたいなぁ』と言いたげな表情をしている。


「ゲーディオまで送っていただければ、私の屋敷がありますし。屋敷には冒険者ギルドのギルド長がたまに顔を見に来てくれるので、一人と言うわけではないですよ。だから、そこまで送って欲しいのです」


「ディアラちゃん。でも、ギルド長の人がたまに来るって言っても、屋敷に戻っても独りぼっちなのは変わらないよ。屋敷まで送った後の事を考えると、やっぱりディアラちゃんを放っておけないよ!! でも、どうしよう」


 儂らは目的地である街『バルダ』を目指している。その中間地点である街である『ゲーディオ』にディアラさんは住んでいるようだ。だが、確かに使用人もいない屋敷で一人きりなのは辛いだろう。これについては、旦那と相談が必要だろう。まぁ、儂としてはディアラさんの魔力量を見てもともに旅をしてもそこまで問題はないと思える。キャティ並みの魔力量を保持している時点で、及第点は達成している。

 嬢ちゃんたちの元へそのまま向かうと、緊張した表情で儂を見つめるディアラさんと微笑みながら手を振るう嬢ちゃんが居た。まぁ、見た目が怖いと言われているので仕方がないことだ。怖がられようも、儂には聞かなければならない事がある。故に、ディアラさんから聞かなければならない事があるため、嬢ちゃんたちの近くに止まり話しかける。


「嬢ちゃんたち、話の最中に申し訳ない。ディアラさん、体調はどうだ? あの時は魔力をかなり使い、かなり疲弊していたようだが。今は、どうだ?」


「は、はい、ご飯を頂いて、少し元気になりました。魔力は、ミーアさんから魔力回復用のポーションを貰ったので、問題はないです」


「そうか、それは良かった。今は辛いだろうが、すまないがいくつか質問をさせてもらう。分かる範囲で良い、嘘偽りなく、ディアラさん自身が体験した真実だけを答えて欲しい。分からない事については、正直に『分からない』と答えてくれ。一応、儂らには嘘は通じない。その事を踏まえて、質問させてもらう」


 そこから、儂と嬢ちゃんはディアラさんへの質問を始めた。嬢ちゃんがディアラさんから聞いた話は二つだけ。それは『ディアラさんの出身地』と『昨日までの記憶があるか』である。昨日までの記憶はちゃんとあるようで安心したが、今朝のあの現状についてはうろ覚えのようであった。


「今朝の事はどうだ? 分かる範囲で良い、教えてくれ」


「えっと、ですね。昨夜、このクルミちゃんを持って寝てたんです。で、目が覚めたら森の中にいて、地面の上に白い線で魔法陣みたいなのが描かれてたんです。六芒星の絵で、真ん中に狼の横顔が描かれてました。で、その魔法陣を見てたら、林の方から何体かシルバースパイダーが現れて、最初は夢だと思ったんですが、地面の揺れとか肌に当たる風ですぐに現実なんだと分かって。シルバースパイダーが糸を私に向けて放って来たので、水魔法で受け流して急いで逃げてたんです」


 儂と出会うまでの流れは理解する事が出来た。つまり、強制転移で魔物の巣に召喚されたわけだ。それも、ディアラさんを殺害する為に用意周到に計画を練って仕組まれたものなのだろう。魔力感知は出来るだろうディアラさん自身も気が付かずに転移を成功させたとは、敵ながら天晴れと言えるだろう。まぁ、どちらにしても転移について確認せねばならない事はある。


「そうか。ちなみにだが、逃げる前に違和感――そうだな、魔法陣など何でも良い。何か感じたことはないか? 例えばの話だが、シルバースパイダーのような殺気などではなく、誰かに観られているような――そう、観察されているような感じはなかったか?」


「観察、ですか? 観察、観察、観察。うぅん、分からない、ですね。逃げるので必死だったんで。でも、私が目を覚ました時、寒気だけはしました。霧もなくて、少し暖かい風が吹いていたんですが、何故か寒気を感じたんです」


 ディアラさんの言葉に、儂は少し気になる事があった。早朝、森の中でいつもの日課である軽い運動をしていたが、暖かい風も寒気も感じなかった。どちらかと言えば、少し涼しいくらいだった。まぁ、人間の体感によって変わるが、そこまで寒いとは感じなかった。


「温かな風と寒気、か。なるほど、森の中でそう感じたか。良し、儂は少し出る。嬢ちゃんは、ディアラさんの警護を頼む。ディアラさん、旦那に先ほどの話を伝えてくれ」


「うん、分かった。リューちゃん、森に入るんだよね。何か分かったら必ず連絡してね。後、調査するなら転移装置を設置してからにしてね。私たちもそっちに行くときに便利だし、ちゃんと設置してね」


「あぁ、分かった。取りあえず、ディアラさんの魔力の残り香を追って、その魔法陣のあった場所へ向かう。集落に異変があれば、すぐに連絡してくれ。では、任せた」


 そのまま仮拠点から出て、森の中へと向かう。その間、集落の外に人もしくは生命体の気配がないか気配を探る。今のところ敵意を感じることはなく、集落の外で数千万の昆虫型の魔物の気配を感知するくらいだった。まだ、集落に向かって来る様子はない。地中からの進行もなさそうであるため、今のところ放置しても問題はないだろう。集落の方で作成中の魔道具が完成すれば、森の魔物たちとの戦闘が待っている。

 しばらく集落を歩き、集落から出てディアラさんと初めて出会った場所へと向かう。だが、主楽を出てすぐ目の前にとんでもない光景が広がった。確か、儂は部下たちに戦闘で一本道が出来たところを街道にして欲しいと連絡したはずなのだが、何故か集落の門を開けた瞬間、綺麗な石畳の街道が出来ていたのだ。取りあえず、目的地へと向けて歩き始める。


「彼奴ら、まさか――ん、メールか」


 右袖の中で微振動を感じ、その場で立ち止まる。歩きながらの端末確認は危ない。右袖から通信端末を取り出し、いつものようにメールを開く。


『竜仙様、お疲れ様です。第二部隊 隊長カルセアです。

 竜仙様からの御依頼につきまして、無事完了致しました。街道の作成中、魔法陣のようなモノを発見したので、メールに添付いたします。また、魔法陣を消そうとしていた人間が居たので、捕獲しました。此方についても情報が解かり次第、ご連絡いたします。

 街道の件ですが、魔法陣の調査に赴かれると思いまして、集落から魔法陣まで通路を作りました。

 お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認の程よろしくお願いいたします』


「魔法陣を消そうとした人間、か。少し気になるが、それ以前に儂の部下が優秀過ぎないだろうか。まぁ、良いか。魔法陣について、部下たちが調べているだろう。しかし、儂自身の眼でも確認するべきだな」


 部下たちのメールに返信をし、儂はそのまま右袖に通信端末を戻して向かう。いつもの事だが、目を離すと何故か近代兵器をファンタジーの世界に再現したがる。儂が監視していないと、部下の暴走を止められないのも問題ではあるが、そこはシータも手伝ってもらいたいものだ。何故、儂だけで部下の監視を行わねばならないのだろうか。


「しかし、見事な石畳の街道だな。左右に外灯を立てる辺り、交通面の事を考えた配慮もされている。ただ、一つ問題があるとすれば――この街道、そんなに広かっただろうか? もう少し狭かったはずだが、見事に馬車が二台通れるほどの広さだぞ? 彼奴ら、まさか他にも隠し機能を作ってないだろうなぁ」


 少し気にはなるが、今は目的地である魔法陣のある広場へと向かう。現場保存は部下たちがしっかり対応してくれたのなら、特に何か用意する必要もないだろう。ただ、どのような保存が行なわれているのだろうか。


「確か、この先は朝練でシルバースパイダーの大軍と遭遇した場所だったな。一体どのようになっているのだろうか。変なものが立っていないと良いのだが」


 しばらく歩いているうちに、ようやく見覚えのある広場に近づいて来た。あの戦闘で、儂も久しぶりに楽しめたのだが、部下に任せた結果がどのようになっているのか。久しぶりに心配になってきた。儂が依頼を出したわけだが、いつもなら儂が作業指示を行ないながら対応するのだが、今回は部下にすべて一任してしまった。それがどのような事態を引き起こすのか、あの時の儂は理解していなかったのだ。

 そして、その不安は見事に的中してしまう。


「なん……だと……」


 広場に到着すると、目の間にある光景が広がる。それは――、


「おぉい、爺ちゃん。そこの石壁に寄りかかっちゃ駄目だろう!! そこ、脆そうだし!!」


「いやいや、これ程の頑丈な石壁なら問題ないぞ。ほぉ、これは冷たくて気持ちいのぉ」


「ミッシェル集落まで、あともう少しなんだけど。はぁ、しばらくこの休憩所で休むか」


 何故か、大勢の冒険者が休息していた。石壁で囲われた広場だが、その中には数件の家と水飲み場らしき場所まで完備されている。言うなれば、まさに『キャンプ場』と言って良いだろう。しかし、儂はただ街道を作れと言ったはずなのだが、何故キャンプ場が出来ているのだろうか。それも夜景なども考えてか幾多の樹々を伐採し、それをログハウスにしたのだろう。朝と今の光景にあまりにも差があり過ぎるのだ。


「あの、馬鹿どもは――いや、これはこれで、有りか」


「ん? アンタは、確か。リューセン様では!!」


 この光景に呆れていると、目の前から僧侶服を着た少女がやって来た。手には何故かモーニングスターを持っており、腰には苦無が数本入ったホルスターのようなものを巻いている。この少女、見た目は僧侶だが実は戦闘好きのファイターではないだろうか。白銀の髪に、綺麗な緑色の瞳。背はディアラさんと同じ155くらいだろう。胸元には水晶のネックレスをしているのだが、程よい大きさの胸の間に入っているせいで見る事が出来ない。あの水晶には魔力が込められており、魔力補充と補給を可能とする機能がある。今後、是非とも入手したいものだ。

 さて、話を戻すとして。目の前の少女を儂は知っている。あれは確か、今から3年前にシャトゥルートゥ集落にやって来た冒険者で、儂が直々に回避術と薙刀での戦闘方法を教えた。頑張り屋で、儂と稽古でも儂に一撃を与えるまで何度も倒れては立ち上がり、必死に打ち込み続ける。あの姿は、今でも憶えている。


「コリッシュか? コリッシュ・トゥワイス。この世界で、儂の一番弟子。だったかな」


「はい、その一番弟子です!! いやぁ、お久しぶりですね。リューセン様がいると言う事は、まさかミッシェル集落の異変の噂は本当に?」


 コリッシュは異変について知っているようだ。それも噂になっていると言う事は、ミッシェル集落の異変は噂として広がっていたのかもしれん。ならば、帝国は何故この集落を助けるために兵を出さないのか。冒険者ギルドも何故、冒険者たちを動員して助けに来ないのか。やはり、この異変はこの世界の人間や魔物では対処不可能なレベルなのだろうか。いや、それは違う。助けを出せなかったのではなく、出さなかったのだろう。まったく、人間と言う存在にも困ったものである。


「異変の噂については知らんが、ミッシェル集落の異変は確かに起きている。今、集落のモノたちと、旦那が交渉した魔神のマンティス族の者たちが道具の作成を行なっている。もうそろそろ、デカい戦闘を行なう予定だ。お前たちも便乗するつもりだろう」


「はい!! 去年、ゲーディオの冒険者ギルドの調査団が来たらしいんですが、その時に発覚したらしくて、ギルド内で緘口令が敷かれたらしいんです。でも、その情報がどこかで漏れたんですかね。噂として、広まったんです。で、ようやくギルドの上の方が重い腰を上げたらしいです。なんでもS級冒険者の人たちも向かってるらしいのですが、竜仙様たちがいるのなら、逆にS級冒険者は不要かもしれませんね」


 まさか、S級ランクの冒険者が来ることになるとは、ようやくと言うべきなのだが今さら感はある。儂が動かなければ、ミッシェル集落は森に棲む虫型の魔物に滅ぼされていただろう。それ程、切羽詰まった状況だったのだ。全てが遅すぎるのだが、儂が介入した結果が今の状況なのだ。本当に、儂が居なかったらどうするつもりだったのだろうか。そんなことを思いつつも、コリッシュの問いに答えるとする。


「いや、駒は多い方が良い。それに、S級の冒険者が来るのなら尚更だな。まぁ、儂が育てた弟子たちに比べたら、そこそこしか使えないだろうがな。コリッシュが居るのなら、儂は安心して異変を解決できるだろう。しかしだ、もう少し早く冒険者たちをよこして貰いたかった。儂が解決に乗り出さなくても良い状態が好ましいのだがな。まぁ、愚痴を言っても仕方がない。今は異変解決の準備段階だ。次のフェイズに移る為にも、そろそろ本格的に動くとしよう。折角だ、魔法陣がある広場に向かうのだが、一緒に来るか?」


「魔法陣のある広場ですか? リューセン様が行くと言う事は、何か気になる事があるんですね。魔法陣でしたら、私の相棒のトロアが詳しいですよ? ちょっと呼んで来ますね!!」


 そう言って、コリッシュはトロアと呼ばれる者を呼びに行った。その間、キャンプ場と化した広場に居た冒険者たちが此方にやって来て、軽い挨拶や集落の現状についてなどの情報共有を行なった。話を聞く限り、ゲーディオの方でも冒険者を集めるのに時間がかかったらしい。情報共有を終え、冒険者たちが元の場所に戻る。そろそろ、儂も目的地へ向かおうと思ったところで、コリッシュの声が聞こえた。


「おい、コリッシュ。それで、その『リューセン様』と言う人はどこだ? これでも、私は忙しいんだ。折角、新しい魔法の案が浮かんで、新しい魔法陣の作製をしていたと言うのに。いや、お前はいつもいつも、新しい魔法の研究をしているのに、いつも邪魔をしてくる!! いつも君は――」


「分かってるって!! 大体、一人ブツブツ呟いてるの怖いからね。地面に文字書きながら笑ってる姿なんて、仲間の私でも流石に引いたからね。ウヘヘへって笑うの観たら、後退りしちゃったんだからね。ぁ、リューセン様!! この子です、この子」


「誰が、この子だ!! 私には『ローシェン・ジュライド』と言う名があるっつうのに。まったく、おま――ぇ、何だこの魔力量!? ぇ、この、ぇ」


 何かテンパっているボサボサの真紅の短髪少年が、儂を見て固まっている。黒いローブを着ており、手には木製の杖を持っている。杖には銀色の装飾品が施されている。そんな魔術師っぽい少年が、化け物を見ているかのように目を見開いている。先ほど魔力量が同とか言っていたが、儂の魔力量に気が付いて怯えているのだろう。それならば、その眼を向ける理由も良く分かる。


「遅かったな、コリッシュ。もうそろそろ行こうとしていたところなのだが。で、この少年がお前の友人か?」


「はい、そうです。この子が私が言っていた仲間の『ローシェン・ジュライド』です。ジュライド家と言えば、このユーテリア大陸で一二を争う貧乏貴族です」


「貧乏貴族言うな!! これでも、必死に働いて家にお金を入れているんだ!! で、えっと。先ほどコリッシュの紹介にありました。私が、ローシェンです」


 深くお辞儀をする少年――いや、ローシェンは頭を上げると緊張した表情で儂を見ている。緊張しても仕方がない事だが、まぁ、嬢ちゃんも初めて出会った時はあんな感じにガクガク震えていたな。あの時は、睡魔と今までの事があったせいでの疲労が極限まで溜まったせいもあるだろうが。


「あぁ、その通りだ。儂の名は竜仙。旅人に使える鬼神であり、今はミッシェル集落の異変を解決するために動いている者だ。今後ともよろしく」


「えへへ、私の師匠なんだよ。武術や体術を教えてくれた先生なんだ」


 嬉しそうに胸を張るコリッシュに、ローシェンは溜息を吐き呆れた表情を向ける。儂の前ではいつもこのような感じなのだが、ローシェンの前では違うのだろうか。少し気にはなるが、時間も惜しいのだ。


「まぁ、取りあえず。詳しい話は目的地に向かいながら話そう。ついでに、森の異変についても詳しく話したいと思っているからな」


「「はい」」


 そして、儂は二人を連れて目的地へと向かう。

 道中、森の異変などを話しながら、今作成中の魔道具なども説明した。最初は驚いていたローシェンだが、今回の作戦や道具の内容を聞いて、いろいろと質問をしてくる。例えば「トラップの配置で連鎖発動は可能なのですか?」や「時間差による連鎖発動方法とは」などなど、意外と勉強熱心のローシェンに、トラップについての説明をすると「なるほど、そう言う使い方が」と言いながらメモを取る。


「歩きながらのメモ書きは危険だぞ? 後で、分からない点などを教えてやる。さぁ、もう少しで着くぞ。ほれ、アレだ」


 儂は指さすとそこには――


「「「なんじゃありゃぁぁぁぁぁぁああああああ」」」


 見事な黄金の筋肉神像が三体が前と左右に立っていた。ガーランドの筋肉がしっかりと彫られている。いや、それ以前に何故このようなモノが立っているのか。それが一番気になるところだが、まず何をしたのかあの馬鹿どもを問い詰める必要が出来た。


「これが噂の筋肉神像ですか。見事な上腕二頭筋ですね」


「でしょでしょ!! この像の案を出したの私なんだぁ。いろんなポーズを作ってもらったんだよねぇ」


「元凶はお前か!?」


 こうして、知らなくても良い真実を知ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ