5話 朝の日課とシルバースパイダー
何とか、5月にあげられたぁ~~~。
どうも、皆さん。
こんばんわです(現在2019/05/31の0時55分)
何とか、書きあげられました。
体調不良になったり、現場が変わって仕事を覚えるのに苦労しながらもなんとか書けました。
次話も6月中にあげられるように頑張る!!
では、皆さま ノシ
朝日が集落を照らす中、儂は森の中で『銀メッキでコーティングされた大型の蜘蛛』と戯れている。いや、戯れていると言う言葉は正しくないか。蜘蛛型の魔物を蹂躙している。足を砕き、頭を潰し、毒牙と蜘蛛の糸を回収していく。もうこれで三十匹くらいは狩っているだろう。足も使い道がある為、砕くとしても足の付け根付近を金棒で砕き、頭部を捻り取ったりなど、取りあえず素材だけは残して惨たらしく殺していく。銀色の皮膚も使えるのだが、尻尾部分の皮膚だけで十分だろう。中に入っている糸も、実はかなりの値打ちになるらしい。普通の蜘蛛の魔物の糸とは違い、銀色の綺麗な糸で織物などに使われるらしいのだ。折角なので、しっかりと回収したいところだ。
「ふむ、シルバースパイダーが此処まで増えていたとは。何と言うべきか、全く骨が折れる。以前よりも数が多いような気がするが、これも女王虫が原因なのだろう。しかし、方向としては真逆の位置から来ている。あっちは、何もなかった気がするが。まぁ、どうでも良いか。流石に、狩り過ぎた気もするが、な!!」
そんなことを言いながら、森の奥から出現し続ける『シルバースパイダー』の群れを金棒や罠を用いて処理していく。第二波を壊滅――いや、全滅させてから回収のために収納指輪の中に入れていく。まぁ、なんと言うか『仕留めてはすぐに収納指輪に納め、次のシルバースパイダーを仕留める』と言う流れ作業を続けながら、一分間で十匹以上を狩りつつ、儂は昨夜から今朝までの事を思い出すことにした。
時間は今から遡り、午後十一時頃の事だ。儂らは夕飯を頂いた後、ゴーレム部隊が作成した仮拠点に泊まった。仮拠点にしては立派な家が出来たのだが、集落のシェルターとしての機能は問題なかった。その仮拠点内の二階にある会議室で、集落の代表者数名と旦那に嬢ちゃん、そしてシュトロームたちで話し合いが行われている。会議の内容は森の現状調査結果と今後の方針。そして、シュトロームたち『マンティス族』の集落移住計画について話し合いが行われている。
「先ほどの宴会で、集落の住人たちの活力も回復したようで良かった。これからの事も含めて、彼らには頑張ってもらわねばならないからな。しかし、まさか集落の者たちがアイテム作製を手伝ってくれるとは思わなかったな。予定していた行程速度を大幅に上回って、今日の段階で予定していたアイテムは九割は完成している。なるほど、ここまでは順調に進んでいるようだ。しかし、トラップ系のアイテム作製は不調のようだ。想定していた生産量の五割しかできていない。ふむ、やはり作製が難しいことが原因か。後は、作製に必要な材料が足りないか。ふむ、もう少し素材を持ってくるべきだったか」
さて、では儂は何をしているのか。それは、集落の住人とゴーレム部隊が作成してくれた魔道具の確認を行なっている。ゴーレム部隊のαジェノムから受け取った『本日分の作業報告書』を片手に、作製された魔道具が置かれた棚を確認する。一体どのような魔道具を作製しているのかと言うと、ごく一般的な『探知型・追跡型・追尾型』に分けられた三種類のアイテムである。これは、ダンジョンなどでの探索時に必要なものである。まぁ、帰還する為のアイテムについては、明日から作製を行なう予定である。
「まだ森への突入する準備が進んでいないが、集落の者たちが手伝ってくれているおかげで、進捗状況的には想定した日数よりも二日ばかり早く終わる見込みか。作製に必要な素材が何種類か足りないようだな。ふむ、この資料を『シルバースパイダーの毒牙』と『シルバースパイダーの粘着糸』か。確か、シルバースパイダーなら問題になっている森の中に居たはずだな。ただ、森の中は昆虫型の魔物も多いせいもあり、必ず出てくるのかは不明だな。そんな中で、お目当ての魔物と出会えるか問題だな」
集めてきた素材や持って来た素材が収納されている箱の中を見て、何の素材が足りないのかを確認する。空っぽになった素材を確認すると、トラップ用の素材のみが無い状態なのだ。それが『シルバースパイダーの素材』なのだ。それも、その魔物はこの集落から出てすぐの森――つまり、問題となっている森に棲んでいるわけだ。それも、お目当てのシルバースパイダーだけを見つけることは不可能に近い。何故なら、蜘蛛型の魔物は儂が確認した限りで四種類も存在するのだ。そのため、探すにしてもお目当ての者が必ず見つかるか分からないのだ。気配を追えば見つけられるかもしれないが、このシルバースパイダーについてはそれが不可能なのだ。このシルバースパイダーの能力である『同種の蜘蛛型の魔物と同じ気配になる』と言う、とても困った能力を持っているのだ。
「まさか、あの魔物の素材が足りないのか。どのくらい素材が必要になるか分からんが、明日にでも討伐部隊を編成して狩りに出るか。はぁ、あの魔物を探すのは旦那の方が得意なのだが、流石にこの集落を儂と嬢ちゃんの身で守るのは難しい。仕方がない、儂が部隊を率いて狩りに出るか」
そんな独り言をつぶやきつつ、儂は確認を終えて自室へと戻った。αジェノムから受け取った報告書を確認し、明日行う作業を確認する。明後日にはトラップアイテムの作成が完成する予定だったが、材料が足りない問題にもう一度作業工程を引き直す必要がある。取りあえず、決行日は決まっているため、作業工程表を取り出して確認をする。現状の作業でリスケ(リスケとは『リスケジュール』の略である)は出来る状態だった。なので、再度スケジュールを引き直し、儂は明日の作業準備を終えて、布団の中へと入り眠りについた。
そして、次の朝を迎えた。儂は、いつもの日課の素振りをしに森の中へと向かった。今回は正門の方ではなく、もう一つの門の方へと向かっていた。正門では門を開ける時の音で皆が起きてしまうだろうし、飛んで移動するのも面倒である。そのため、もう一つの門の方へと向かう。そちらの門は開閉が楽なドア型であり、専用の鍵が無ければ開かない仕組みになっている。儂は右袖の中にある鍵を取り出し、ドアを開けそのまま森の中へと向かった。まぁ、その時の儂は『そのドアの向こうにある森』こそが問題となる森である事を忘れており、ただ日課の素振りの事だけを考えていた。
「ふぅ、日課とは言え素振りをするのに森は丁度良いな。誰にも迷惑をかけずに、素振りが出来るからな。問題があるとすれば、実戦が出来ないのが辛いところだな」
そんなことを呟きつつも、素振りを続ける。かれこれ四十分くらい素振りを続けていると、何やら草木に止まっていた鳥たちが慌てて飛び立つ姿が見えた。何か異変でも起こったのかと思い素振りを止め、金棒を右袖の亜空間倉庫に入れようと思ったのだが、何かが近づく気配を感じ金棒を入れるのを止める。気配を感じた限り一個や二個ではない、二十や四十程の気配を感じ取れた。いや、何故そのような団体が攻め込んできたのか不明だが、ナイスタイミングと言わざるを得ない。少々運動不足だと思っていたので丁度良い。
「さて、何が来るか。儂の予想では、蟻型の魔物だろう。いや、この気配は蜘蛛型か? どちらにしても、儂としては準備運動になるだろう。ついでに素材回収にもなるだろうからな」
金棒を肩に担ぎ、気配の方へと体の向きを変える。在庫の補充が出来ると考えると、今回は幸運なのだろう。だが、一般の冒険者や集落の住人、そして行商人の立場で考えれば地獄の光景になるだろう。一匹でも逃がすようなことは、絶対にあってはならないだろう。取りあえず、確実に魔物たちは殺すために金棒に魔力を流し込む。今回は実験として、金棒に付与魔法を付与してどこまでやれるか。実際に戦闘して、どこまでやれるのか確認したい。まぁ、金棒が壊れない程度の魔力を込めて実験するのだがな。
「さて、どこまでやれるか。是非とも、検証がすべて終わるまでは、尽きないでほしいものだ。検証を行なうとしても、まずは何から行なうべきか。やはり、火炎の付与から始めるか。それとも雷撃の付与か。まぁ、その時の気分に任せるとするか」
此方へと向かって来る魔物の気配を確認しながら、軽くその場で一振りすることで周りに生えている樹々をなぎ倒す。軽く振っただけで、真空の刃が放たれ樹々を貫通していく。その結果、ゆっくりと倒れていくのを見ながら、すぐに倒れていく樹々を収納指輪に移す。ある程度の広場を確保できたのを確認し、金棒を地面に突き刺すように置き魔力を流す。
「切り株が邪魔だな。だが、この切り株を有効活用するとしよう。久しぶりに作る罠だが、どんなのを作るかだな。こう言った植物系は、魔力の流し方ひとつで棘になれば、地雷にもできる。他にも、踏むことで急成長による打ち上げ等々、いろいろと使えるのが良い点だな。そうだな、いろいろと試行錯誤するとしよう」
魔力が地面に広がり、切り株へ伝わり罠を作っていく。すぐに罠が生成されると、すぐに儂は金棒を右肩に背負い直す。もうそろそろ第一波とぶつかるだろう。金棒に火炎の付与魔法をかける。先ほどの一振りで疾風系の付与は問題ないことを確認できた。
目の前の草木が揺れ、地響き音が聞こえてくる。森の奥底から光の反射するのが見え、この気配を放つ敵の正体がようやく分かった。どうやら、儂が求めていた魔物のようだ。
「在庫の問題は解決しそうだな。ただ、面倒ごとに巻き込まれるのは間違いなさそうだ。なんせ、数が多いからな」
目の前の樹々から第一波である『銀色の巨大な蜘蛛』が此方へと向かって来る。その大きさは、儂の眼から観たかぎり約三メートルはあるだろう。この蜘蛛の名は『シルバースパイダー』と言い、温厚でテリトリーに侵入しない限りは襲い掛かることはない。その皮膚は名前の通り『銀と同じ素材』で作られている。調査した限りでは、銀と鉄、クロムの三つの金属と同じ成分が混ざったらしい。
(観た限り、此方には気が付いていないようだ。しかし、この方向には集落がある。全て仕留めるか)
そんなことを考えていると、先頭を走っていたシルバースパイダーが切り株をまたいだ。その瞬間、仕掛けたトラップが発動する。切り株の中心から杭のようなものが一気に伸び上がり、シルバースパイダーの胴体を貫く。貫かれた瞬間、何が起こったのか分からず藻掻くが、貫いた棘の部分が花が咲いたように広がり、完全に身動きが取れない状態になった。何体か罠に引っかからなかった魔物を見て、炎で燃える金棒でその脳天を叩き割る。燃えることはなかったが、銀色の硬い頭部が解けて頭蓋骨を完全に砕いたことで絶命したことを確認し、次の獲物を仕留める為に駆け出す。
「罠にかかっている奴は後で仕留めるとして、やはり敵の数が多いな。楽しいわけでもなく、ただの流れ作業だな。ベルトコンベアーから流れて来るゴミをプレスで潰すような、何とも退屈な作業ではあるのだが、な」
そうして、第一波を難なく討伐し終えた。このまま放置することなく、全部収納指輪に入れて使い終えた切り株トラップを抜き取る。今度はこれを投擲に使用する為である。第二波が来るまで、まだ時間はあるだろう。右袖から押しボタンスイッチを取り出し、何の躊躇もなくボタンを押してから右袖に戻す。そして、第二波がやって来る方向へと向けて切り株爆弾を投げ込んだ。投げた切り株は地面に落ちると、何やら『カチ』っと言う音を立てた。
「さて、旦那たちへの緊急事態発生の連絡装置を押したから、旦那たちも駆けつけて来るだろう。さて、第二ラウンドの幕開けか。さてさて、儂を襲ってくる数はざっと二百ちょいだろうか。ハッハッハッハ、先ほど戦闘で四百ちょいだったな。何から逃げているようにも見えたが、何か此方へ向かって来ているのか? シルバースパイダーが恐れるほどの魔物だと? 蜘蛛の天敵だとすれば、鳥か? いや、この森には昆虫系の魔物以外に存在しないはずだが」
縄張りに意識が強いと言われるシルバースパイダーが逃げ出すあたり、かなり苦手な存在が追いかけて来てるのだろう。シルバースパイダーの天敵が何なのか分からんが、取りあえず此方に向かって来る魔物たちは一匹たりとも逃がすわけにはいかない。儂の後ろの方には集落があり、未だに眠っている者たちがいる。集落のため、子ども達のため、素材のため。儂がやらなくてはならない。
「さて、そろそろか。この流れだと、第三波あたりで旦那が来る頃だろうが――いや、そもそも気づいている可能性が低いかもしれん。そもそも、儂の居場所を見つけられるだろうか。そこが問題だな」
そんな事を言いつつ罠を設置し終えた頃に、ようやく第二波のシルバースパイダーの群れがやって来た。そして、案の定そこら辺に仕込んでおいた罠を踏み、爆発の衝撃でひっくり返った。起き上がる前にひっくり返った一匹の元へと駆け出し、手に握っている金棒を振り下ろし頭部を破壊する。確実に絶命したことを確認してから、罠に引っかかったシルバースパイダーの元へ駆け出し、この金棒で確実に仕留めていく。
そして、今現在に至るわけである。第二波を全て仕留め終え、金棒を地面に突き刺して軽く肩を回す。死体は全部回収し終えたとはいえ、ちょっと量が多かった気がするのだ。旦那たちが此方へと向かって来ている様だが、その前に森の奥深くから向かって来る魔物の方がさきに到着するだろう。そして、此方に向かって来る魔物の数は一匹の様だが、先ほどまでのが小物だと言えるほどの魔力量を感じる。言うなれば、今まで襲って来た蜘蛛すべてが子蜘蛛なら、今ここへと向かって来る気配は母蜘蛛と言えばわかるだろう。そして、もう一つ小さいな気配も感じ取れた。構図としては、母蜘蛛から逃げる人間のような感じだろうか。こちらに向かって来ているのは、遠くの樹々がなぎ倒される音を聴けばすぐに分かる。
「まったく、この森は不思議な事ばかりが起こるな。森の異変と言うのも、考え方を変えれば上質な素材を入手できると言う利点がある。だが、命のやり取りをする場合は別だ。下手をすれば、その生涯を終える可能性だってあり得る。しかし、儂だから良かったものの、他の冒険者なら泣いて逃げるレベルだぞ。はぁ、最後の一匹がどれ程のモノかによるが、少し本気になるとするか」
地面に突き刺した金棒に魔力を流し込む。ただ、今回は自重はせず金棒内に流せる限界まで流し込む。すると金棒の表面に変化が起こる。鬼の持つ黒金の棘が付いた金棒は、黄金に輝きを放ちながら振動をしている。地面から引き抜き、肩に担ぎながら此方へ向かって来る気配の方へと体の向きを変える。
「さて、来るか――ん、あれは? なるほど、小さな気配の正体は人間だったか」
徐々に振動が大きくなり、樹々を押しのけながら此方へ向かって来る魔物の姿が見えてきた。確かに、その姿は確かにシルバースパイダーではあるが、その大きさは先ほど処理した奴らよりも遥かに大きい。ざっと観て、五メートルちょいの高さだった。言うなれば『クイーン級』とでも言うべきか。そして、その先頭を走っているのは人間だった。ところどころ土で汚れた白いドレスを着た十代の女性が、必死に此方へと向かって走っているのだ。足元には水の魔法で作られた波に乗っていることから、追いつかれないように必死に波乗りで逃げていたようだ。
「なるほど、今回の異変の原因はあの少女か。いや、他にも要因があるかもしれんが、まずは彼女を救ってからだな。さて、久しぶりに『技』を使ってみるか」
徐々に此方に近づいて来るにつれて、彼女の容姿が分かってきた。水色のショートヘアーは走る度に揺れて、翡翠色の瞳が涙目になりながら此方を見ている。両手で大事に抱える『熊のぬいぐるみ』を、決して放さないようにしっかりと抱きしめている。その姿を見る限り、今回の異変と何か関係があるのか疑わしい。だが、どちらにしても助けなくてはならない。
「さぁ、大地を振興する大蛇の如く、その地面に這いつくばって眠れ。折角だ、持っていけ――あの世にな。極刑、大蛇討ち」
一瞬のうちにクイーン級のシルバースパイダーの頭上に転移し、その頭部へ向けて金棒を振り下ろす。その瞬間、空気が爆ぜ、頭部だけではなく胴体までもが丸太で押し潰されたかのような窪みが出来た。いや、それだけではない。シルバースパイダーだけではなく、その後ろにあった樹々までもがへし折られた。まるで大蛇が通った後のように、地面が半円の凹みが作り出された。黄金に輝いていた金棒も、元の黒鉄状態に戻った。やはり、久しぶりにこの技をやるのは良いものだと思う。たまには豪快な一撃を放ちたくなるものだ。
「さて、此奴で最後のようだな。此方へ侵攻して来た魔物の気配は、どうやらもう無いようだ。ただの準備運動だったはずが、このような戦闘になるとは予想外だ。まぁ、何事もなく全部仕留めたが、久しぶりに楽しめた」
此方へと進行して来る気配は完全に消え、素材はたんまりと回収する事が出来た。ただ、最後に仕留めた魔物については、やり過ぎたせいで使い物になるか分からん。まぁ、それ以前に目の前に広がる『なぎ倒された樹々』と『抉れた地面』が、見事に綺麗な一本道となっていた。運が良かったと言うか、女王虫が居る方向とは違う方向に綺麗な一本道が出来た。うむ、後で此処も街道として整備するとしよう。儂の部下たちなら、数秒で終わらせるだろう。取りあえず、右袖から通信端末もといスマホを取り出し、部下たちに街道の作成を頼むメールを送り、目的である少女の方へと体の向きを変えた。
近くで見ても、少女の疲れ切った表情は良く分かる。魔力をかなり使ったようだが、それ以上に恐怖で体が震えているように見える。まぁ、儂の姿や先ほどの戦闘、それにシルバースパイダーに襲われたのだ。恐怖で体が震えるのも仕方がない事だ。だが、儂は彼女に聞かねばならない事があるのだ。
「して、そこの娘。この森に何の用があって来た。この森は、現在立ち入り禁止だと、商人たちに近隣の集落に伝令を頼んでいたはずだ。何の武器もなく、この森に立ち入るのは自殺行為に等しいぞ。観た限りではどこかの令嬢のようにも見えるが、護衛兵などの姿は見当たらない。どこかではぐれた、と言う状況でもなさそうだな。何故、魔物に追われていたのかも気になるのだが。まぁ、聞きたいことは山ほどあるのだが、今は疲れているであろう。この先に集落があるのでな、そこまで儂が案内しよう。温かいスープなども用意するから安心してほしい。おっと、その前に名乗るのを忘れていた。儂の名は竜仙と言う。娘――いや、君の名は何と言うのかな」
「わ、私の名前は、でぃ、ディアラ。ディアラ・シーボルトです」
「ディアラか。良い名前だな。儂の事は『竜仙さん』とでも呼んでくれ。親しき中にも礼儀あり、だ。初対面なら尚更、呼び捨てで呼ばれたら嫌な気持ちになるだろう。此処は、お互い『さん付け』で呼び合うとしよう。まぁ、そんなことを言っても初対面だから警戒するだろうが、儂がいる限りディアラさんの事は必ず護ろう。だから、その点についてだけは信用してくれ。それに、旦那たちと合流するつもりだったのでな。合流したら、儂の仲間がディアラさんを安全な場所に案内する。それまでの短い間になるが、よろしく頼む」
右手に握られた金棒を右肩に背負い、収納指輪に死体となった母蜘蛛をしまう。その後、此方へと向かって来る気配が無いかの確認と目視での周囲を見渡し、安全を確認してからディアラの方へともう一度向く。息も整ったのか、儂の方を見つめながら黙って頷く。警戒しているようで、少しだけ距離を取っていた。これは当然の対応でもあるが、信用されるまではこの距離感を維持するとしよう。何かあれば、すぐに助けられる距離幅を保ってくれている。
「周囲の安全は確認できた。此方へと向かってくる気配も無し。よし、行くとしよう。儂から離れるなよ」
「は、はい。よろしく、お願いします」
集落のある方向へと向けて歩き始めると、儂の後ろをトボトボと歩いてついて来る。クマのぬいぐるみを大切に抱きしめているながら、周りをきょろきょろ見ている。今のところ敵の気配は全くなく、旦那たちが此方に向かって来ている事は分かる。ディアラの事を考えて、魔物の気配を確認しながら旦那たちとの合流を目指す。
しばらく無言で歩き続けた。どうやら、先ほどの戦闘を見ていたのか分からないが、魔物たちは此方へと向かって来ることなく、逆に逃げ出して行くのを感じ取った。まぁ、その方が助かるのだが、そのせいで女王虫が興奮して何か問題が起こらないか心配だ。まだ、下準備も出来ていないのだが、問題が起こらなければ良いのだが。
「ぁ、あの――」
考え事をしながらも、周囲の安全を確認しながら歩いていると、ディアラさんのか細い声が聞こえたので立ち止まった。何か気になる事でもあったのか振り返ると、何やらプルプルと震えてはいるが、しっかりクマのぬいぐるみを抱きしめ、上目遣いで儂を見つめながら、ただ一言を告げる。
「わ、わた、私を――その、ぇっと。助けてくれて、ありがとうございます!!」
タイミング的には遅いのだが、まさかこのタイミングで感謝の言葉を聞くことになるとは予想外だった。儂の外見を見たて恐怖していたはずが、今はちゃんと儂の眼を見て頭を下げたのだ。恐怖心よりも感謝の気持ちを伝えるために、必死に勇気をふり絞り声を出したのだろう。その姿を見て、つい微笑んでしまった。嬉しかったからなのか分からないが、無意識のうちに左手で頭を軽く撫でてしまった。それに驚いたのか、頭をそのまま上げて此方を見た。
「そうだったな。心を込めて感謝の言葉を言える子は、魂も心も清らかな人間なのだろうな。ディアラさん、君を助けることが出来て、本当に良かった」
そう告げて、頭を撫でる手を放した。どうやら、旦那が近くまで来たようだ。後ろを振り返ると、此方へと手を振る灰色のコートを羽織った狐人の少女と人間が近づいて来た。そう、彼らは儂の仲間だ。いや、正確に言えば上司と同僚になるか。嬢ちゃんと旦那がガンブレードと刀を腰に差して此方へと向かって来ているのだ。
「りゅーちゃーーーーーーん、助けに来たよぉぉおおおおお!!」
「竜仙、助けに来たぞ。っと、言っても助ける必要はなかったようだがな」
「ハッハッハ、遅かったな。まぁ、旦那たちが来る前に軽い準備運動にはなったがな。問題だった素材回収も完璧に終わったがな。後、彼女を助けたのだが、今回の異変についての重要参考人でもある」
ディアラさんは、儂の隣に来てその場でお辞儀した。それを見てか、嬢ちゃんは嬉しそうにディアラさんの方へと近づくと手を差しのばす。その手を見て一瞬困った表情で儂を見たが「大丈夫だ」と告げると、安心したのか嬢ちゃんの手を握る。すると、さらに嬉しくなったのか、嬢ちゃんは手を引きながら集落の方へと嬉しそうに微笑みながら歩き出した。
「やはり、元気が一番だな」
「竜仙、親父臭いぞ」
「旦那が言うか」
そんな他愛のない事を言いながら、金棒を地面に降し旦那の方へと体を向けた。
「旦那。早朝から軽い素振りをしていたから良かったが、あの魔物の群れは間違いなくミッシェル集落へと向かっていた。可能性の話だが、今回の女王虫の件も含めて、人為的に行われた可能性はないだろうか」
「何のためにだ? ミッシェル集落を壊滅させたところで、何の利益にもならんぞ。それに、土地が欲しいと言う話ならば、女王虫など操り辛い魔物を使うなど愚行だぞ」
確かに旦那の言う事には一理ある。だが、これがある一点へ向けて行なわれた準備だっとすればどうなのか。儂は、旦那に考えを告げた。
「確かに、その通りだな。だが、目的がミッシェル集落ではなく、シャトゥルートゥ集落ならばどうだ? ミッシェル集落は、シャトゥルートゥ集落の延長線上にある。シャトゥルートゥ集落へ攻め入るつもりならば、ミッシェル集落は邪魔になる。故に、このような行動に走ったとすれば」
「なるほど、その考えもあるな。まぁ、どちらにしても危害を加えて来たのなら、それ相応の覚悟があると言う事だろうさ。まぁ、犯人捜しは後で、だな。よし、竜仙が助けた彼女に聞くとするか」
そして、儂らは今回の問題を話し合いながら集落へと戻るのであった。ただ、今回の問題を通して、今回の森の異変に疑問を覚えた。一体何が待ち受けているのか儂には分からないが、取りあえず一つだけ分かっていることがある。
「儂らにケンカを売ったのだ。覚悟は出来ているだろうな」
そう呟きながら、儂は金棒を肩に載せ笑うのだった。




