4話 ミッシェル集落
どうも、皆さま。
お久しぶりでございます。私でございます。
仕事の現場が変わったので、執筆するスピードが落ちました。
ですが、ちゃんと生きております!!
仕事と両立して頑張りますので、よろしくお願いいたします。
では、次話で会いましょう ノシ
2019/10/13現在:一部修正+追記修正(ゴブリン長 →ブリン部隊の長)
儂らはミッシェル集落に無事到着した。そして、一時的ではあるが仮拠点の作成をゴーレムに指示している。さて、そもそも何故仮拠点を作っているのかと言うと、この集落の住人たちの現状が原因である。土地は今のところ問題ないのだが、住人たちの家がボロボロで、ところどころ衣服に破けた箇所や汚れがあった。どうやら、儂が来た時よりも苦しい生活を送っていた。ただ、それを危惧してか、ゴーレム部隊の約半数がシェルターを作成するために資材などを集めていた。建設の準備をしている状況を見て、儂らは仮拠点の作成の指示を出すことにしたのだ。見た目は普通の屋敷のような大きさだが、あらゆる攻撃を防ぐことの出来るようにエンチャントを施した素材で作られている。
「αジェノム、現在の拠点作成はどこまで進んでいる」
現在、儂らは仮拠点の作成に取り掛かっている。現在の時刻は午後三時半くらいだろう。この集落に到着したのが二時だったので、そこまで作業が進んでいない――はずである。ただ、目の前の状況を見て、土台も外装もしっかりできており、もう屋根の瓦などを敷けば完成の状態である。
さて、儂らの目的は『この集落の現状を改善する』である。その為、作業に取り掛かる前には、この仮拠点が完成していなくてはならない。この集落の住人達にも被害が及ぶ可能性がある以上、この仮拠点を避難所として使用してもらう必要があるのだ。その為、現在十五機の人型ゴーレム部隊がに作らせている。うむ、結局はゴーレムに始まり、ゴーレムで終わる。その流れになりそうな気がするが、気にしても仕方がないことだ。
「承知いたしました、マイマスター。現状の報告を致します。」
そんな中、仮拠点前で指示を出している書類を手に持っている青髪の青年に、旦那が話しかけた。彼の名は『αジェノム』と言い、人型のゴーレム兵である。αジェノムは旦那の方へと振り返ると、手に持っている資料をめくり報告を始める。
「現在、六十パーセント完了しております。現在、瓦を作成および設置をβグレア部隊が担当、内装および家具の作成および配置をγラグー部隊に任せております。本仮拠点の作成に使用されているエンチャントが施されたレンガなどの在庫数は、残り三割弱に達しました。現在Ωトールに作成を指示しております。集落の防壁などに劣化した箇所を発見したとεメアーから報告を受けております。素材完成後、そちらの補強作業を優先して行う予定となっております」
「了解した。取りあえず、引き続き作業の方を進めてくれ。αジェノム、お前は各自の作業状況の確認および必要資材の調達をメインで進めてくれ。森に入る場合は俺か竜仙に一度報告を頼む。森の現状を知りたいから、一緒に素材回収を行なう。分かったな」
「承知いたしました。マイマスター」
旦那の指示に従い、そのまま他のゴーレム兵たちへの指示を出しに向かって行った。それを見送ってから、儂らは次の作業に備えて森の入り口前まで向かった。現在のペースで行けば、午後四時には仮拠点が完成するだろう。
「さて、次は集落の住人たちの家々を修復を考えなければいけないな。出来れば立て直したいところだが、森の中の問題を解決しなけいと流石に無理だな」
「確かに旦那の言う通りだ。儂としてもさっさと解決したい案件だ」
儂らは集落の外に広がる森の樹々へと体を向けた。現在、儂らは作成中の仮拠点を見つめながらでゴーレム部隊に指示を出している。近くの樹々を切り倒し、それを使い家の修復作業をゴーレムたちが行なっている。現在、近くの樹々だけしか切り倒せない状況の為、儂としても早急に森の問題を解決したいところである。
三人別々の作業を行なっているため、森への作業に取り掛かれない現状だ。旦那がゴーレムたちに指示を出し、逐一作業状況の確認とスケジュールを作成。儂は木材などの加工を手伝っている。嬢ちゃんことミーアは何をしているかと言うと、集落の者たちに料理を支給や水がめに水の補充をしている。なんせ、慢性的な水不足の状態なのだ。嬢ちゃんが水魔法で補充している。時たま旦那の元に戻り、魔力回復のために抱き着いているのを見るが、アレはただ甘えたいだけのように見える。まぁ、旦那も嫌がっていないようだし、別に気にすることでもないだろう。
「さて、まさかこの集落のゴーレムが部隊を作っていたとは、な。だが、此奴らが居たおかげで何とか危機を防げたのだろう。そう思うと、作って置いて良かったのかもしれんな。ただ、集落の現状を考えて、どこのそんな素材があったのだろうか」
「まぁ、そこら辺の昆虫型の魔物を狩って、それを素材にしたんじゃないか? 特にカブトムシやカマキリの魔物たちは魔石もそうだが、その素材はゴーレム作製に使えるからな。しかしながら、どうしてこれ程の数のゴーレムが生まれるのだろうな。どう見ても、竜仙が言っていた数と合わないのだが」
「いや、儂に聞かれても解からん。確か、儂が持っていた四体のゴーレム兵を置いて行ったのだが、何故か十倍に増えている。防壁の修復、素材回収、水路を引くための準備、食料などの収取などを行なっていたんだろう。ただ、この数になるまで時間がかかったのだろう。この集落の人間から聞いた話では、この数になったのもつい最近らしいからな」
この建物を作る前に、集落の者たちに現状を確認した。その時に、ゴーレム兵たちの事を尋ねた結果、四十体も増えた事を知ったのだ。まぁ、この集落を守る様に指示を出したのは儂だ。しかし、この現状を見る限り、四体では守り切れないと判断したのだろう。自らの意志で、仲間たちを増やしたのだと判断した。
「マイマスター、拠点内装および家具の作成が完了いたしました。地下施設に余った資材および武具類の保管が完了しました。昆虫型の魔物の接近を防ぐため、防虫素材の作成しました。現在、昆虫型の魔物に対する対策は完了しました。次フェイズ、魔物の素材を加工に移ります」
「分かった。魔物の素材加工についてだが、防壁として使えるものは防壁に回してほしい。この集落の現状を見ても、防御面がかなり弱い。お前たちがいるおかげで、攻撃面には申し分ないが、木で作られた防壁は流石に問題がある。竜仙、俺は彼らに指示を出す。その間に、集落の外にいる魔神たちを呼んできてくれ」
「了解した。では、魔神どもを迎えに行って来る」
旦那からの指示に従い、儂は集落の外へと向かった。確かに、此方へと向かって来る気配は感じていた。ただ、そこまで強そうな気配ではなかったので放置していた。旦那が呼んだ魔神とは、この気配の主なのだろう。なら、儂が行なうのはただ一つである。儂流の出迎えをするまでの事だ。
集落の外へと向かう中、集落の人間たちの姿が目に入る。シャトゥルートゥ集落に居る業者を呼びたいが、まだ危険性がある以上この集落には呼べない。小説や酒、遊び道具などの娯楽道具、衣服や食料、それに大工などの職人たちがいれば、この集落の活気は戻るだろう。
「その為にも、魔神どもが必要だ。まぁ、悪さを考えているのであれば、容赦なく説教が待っているのだがな。しかし、この世界に魔神が存在するのか。幻想の世界はいろいろと面倒な事ばかりだ。幻想など存在しない世界の方が、まだやりやすいのだがな」
集落の門の前で立ち止まる。そろそろ門を開けても問題ない距離まで近づいて来ているのだが、今この門を開けるわけにはいかない。この門を開けた瞬間、森の魔物たちが押し寄せる可能性もある。昆虫型の魔物以外にも、グリスりーボアと言う猪型の魔物が近くにいる。このグリズリーボアは警戒心が強く、森の異常事態にいち早く気が付き避難したのだ。故に、彼らは空腹状態である。現在、この集落には数は少ないが野菜がいくつか残っている。それを狙って襲いに来る可能性もある。今までは、ゴーレム兵のおかげで助かっていたようだが、今ゴーレム兵は全員旦那の方で作業中だ。それ故に、門の開閉だけは慎重でなくてはならない。
「ふむ、どうするべきか。流石に、今の状態で門を開けるのは自殺行為になる。仕方がない、此処はグリズリーボアを先に狩るしかないか」
高さ的には四メートルくらいはある防壁を、扉を開閉せずに飛び越えた。この程度なら、普通に飛び越えられる。地面に着地し集落の外に出ると、黒いコートを羽織った二人の男女が立っていた。どうやら、この二人が魔神だったようだ。それにしても、見た目はジュデッカと同年代くらいだな。力もほぼジュデッカと互角か。いや、シャトゥルートゥ集落を基準にしては駄目か。鍛えすぎた結果がアレだし、正直に言えば儂の部下であるゴブリン部隊の長『ガーランド』と互角に戦える時点で、ソロでドラゴン狩りできるレベルだ。まぁ、そのゴブリン部隊の全員が元々は人間だったのだが。まぁ、呪いの再発は恐ろしいものだな。
「ぁ、あのぉ? 貴方様は?」
何やら申し訳なさそうに声をかけてきた。腰くらいまである長い深緑の髪に、翡翠色の瞳の少女。そして、もう一人の男性もまた、ショートヘアだが、瞳も髪の色も同じである。つまり、この二人が昆虫の魔神なのだろうか。どちらかと言えば、ドリアード族のような植物系の魔神のようにも思えてくる。
それによく見ればあのコートは旦那が作ったコートだろう。魔力伝導率の良い生地で作られた魔術師用の防具だな。
「あぁ、すまない。儂は竜仙と言う。旦那――御心五十鈴殿に仕える、鬼神の一人だ。して、お主らの名は何と申す」
「あぁ、竜仙殿でしたか。イスズ様から貴方様のことをお聞きしております。私の――いや、俺の名は『シュトーロム』と言う。種族はマンティス――そうだな、イスズ殿の言葉を借りれば『カマキリ』と言えばわかるだろうか。俺はマンティス族の長であり、魔神と呼ばれる存在だ。堅苦しい挨拶が嫌いだと、イスズ様から聞いている。よろしく頼む」
「私は、トロメアと言います。お兄ちゃんと同じマンティス族の魔神です」
マンティス族と言うのは聞いた事が無いが、そう言った種族もいるのだろう。この世界の事について、調べてはいたが昆虫系の一族は『アゲハ族』と『ハチ族』くらいしか知らん。まぁ、カマキリ族なら問題はないか。しかし、カマキリ族と言っているが、カマキリの鎌の形をした手ではなく、普通の人間の手と同じ形をしている。まぁ、戦闘になればカマキリの鎌になるのだろうし、このまま一仕事付き合ってもらうとするか。
「うむ、よろしく頼む。本来なら、このまま旦那の元へ連れて行きたいのだが、少し儂に付き合ってもらう。なぁに、ただのイノシシ狩りだ」
「イノシシ狩り? なるほど、軽い運動をしようと言う事か」
「あぁ、この森に住むグリズリーボアを数十匹ほど狩る簡単な運動だ。互いの力量を知れるだけではなく、食料難で困っている集落の連中を救う事にもなる。一石二鳥だろう」
左手を右袖の亜空間倉庫につっこみ金棒を取り出す。シャトゥルートゥ集落で作られた儂専用の金棒だが、まだ名前を付けていなかった。その無名の金棒を持ち上げて左肩に軽く乗せ、右側に広がるせ森の方へと体を向ける。
「ぁ、あの。なんでグリズリーボアを狩るんですか?」
「実は、この集落に残っている僅かな野菜をグリズリーボアが狙っているのだ。本来なら森の中にある果実などで飢えを凌いでいるのだが、住んでいた森があの状態なのでな。逃げて来たのは良いが、この森には食料となる物があまりにも少なすぎる。そのせいで、何時集落に突撃をかけてくるか分からんのだ」
「なるほど、我々が集落の危機を救う事で、集落の住人達への信頼を勝ち取ると言うわけか。だが、ボア如きで簡単に信頼を得られるとは思えないのだが、そこまで追い詰められている状態と言う事か」
シュトロームが現状を理解したらしい。現状把握能力は誰もが持っておくべき技術の一つだ。まぁ、儂らが解決しても良いのだが、ここは此奴らに花を持たせるのが一番だ。何か企んでいようと、その時は儂の部下か旦那の『再教育』があるだろう。いや、そもそも旦那の再教育を受けた時点で、逆らう気力はなくなるか。あれは受けた者もそうだが、観ている者までも精神をガリガリ削られるからな。邪神どもが言うには「あれは、怒らせちゃダメな分類の人です。手を出してはいけない分類の人です」と、涙ながらに正座した状態で言っていたからな。本当に、旦那は人間なのか不安になる。
「あぁ、その通りだ。儂が初めて来た時よりは緩和されているようだが、水の問題はまだ解決されていない。それに、森の状況も未だにどうなっているのか分からん。だからこそ、現状の打開にはお前たちが必要なのだ。そして、いずれはお主らがこの森を守る守護神になってもらう予定だ」
「意外と壮大な計画だった!? 兄さん、私たちが守護神になるって聞いてた!?」
トロメアは驚きのあまり目を見開きながら叫んでいた。ふむ、嬢ちゃんと息が合いそうなキャラだな。儂としても、嬢ちゃんの友達が増えるのは嬉しく思うのだが、何故だろうか。逆に、嬢ちゃんの事を崇めそうな気もする。まぁ、嬢ちゃんと仲良くなりそうなキャラだし、後は当人同士に任せるのがいだろう。
「いや、聞いてはいないな。だが、何となくそうなるんだろうなぁ、とは思ってはいたぞ。イスズ殿から集落の件を聞いてから、俺たちが関わった後の事も考えていた」
「ぇ、そうなの!? 私、集落救ったらそれで終わりだと思ってた」
「確かにそうなる予定だった。だが、お前たちがこの集落に住むと、かなり利点があるがな。まぁ、それについては狩り場に向かいながら話すとしよう。なんせ、話すと少し長くなるからな」
そう告げてから、儂らはそのまま森の中へと入っていた。
森の中を歩きながら、儂はこの世界に来た目的と今後の方針を伝えた。この森の食物連鎖を元通りに戻すためには、まずは森の正常化が必要不可欠である。つまり、害虫駆除と素材回収を一気にやると言う事だ。
「なるほど、そう言う事だったんですね。私たちの住んでた森も荒れてた理由も、イスズ様達が解決しようとしている異変に関係しているのでしょうか? 最近、おとなしい魔物たちが凶暴化し始めてたのも、そういう理由なのかもしれませんね」
「あぁ、はっきりとそうだとは言い切れないが、狂いの影響なのは間違いないだろうな。だが、その他の可能性もあるだろう。そもそも狂いの欠片が散らばっている時点で、本来あってはならない問題なのだ。あの欠片は、人の心を狂わすだけではなく、森などの自然形態を崩してしまう程の影響を持っている。心の弱い者が持てば、確実にその力に飲まれ、心が砕かれ、怪物になってしまうのだ」
狂いの欠片を拾った者たちの末路を知っているせいか、今回もそれが原因なのではないかと考えてはいた。確認した限りでは、その様な気配は一度たりとも感じなかった。何者かが悪事に利用したとも考えられたが、あれは触れたモノへ確実に悪影響を与えると言うより、感染して、肉体を乗っ取り、魂を粉々に砕いてから異変を起こすのだ。
「なるほど。そいつのせいで、俺たちの住処までも被害が出ているのか。だが、俺たちじゃ絶対に勝てない相手と言っていたが、欠片を拾った者たちなら対処できるのではないのでしょうか」
「どうだろうな。儂にもそこまでの事は分からん。ただ、狂いの欠片を拾った者と戦ったことはあるが、そこまで強いとは感じなかった。通常種に関してだが、な。ん、そろそろ目的地だ」
儂は金棒の握り手を軽く握り直し、森の奥で動く黒い物体たちへと向けて睨みつける。鋭く長い牙に漆黒の毛に覆われた、ヒグマ程度の大きさのイノシシが群れを成して休んでいた。そして、それに続いてシュトロームとトロメアが戦闘準備に入った。胸ポケットから何やら赤黒い宝石を取り出すと、それを強く握り魔力を込めていく。するとどうだろうか、見事な『赤黒い大鎌』が目の前に現れたではないか。いや、お前らの手が鎌になるんじゃなかったのかと言いたいが、まぁ魔石を出してきた時点でそうなる気がしていた。
「お兄ちゃん、不意打ちは私が。お兄ちゃんと竜仙様は正面から突撃して、敵であるグリズリーボアを一か所に集めてください。私の双鎌でまとめてグリズリーボアの首を落とします」
「了解した。では、儂はこのまま正面から飛び出す。グリズリーボアは驚きのあまり悲鳴を上げるだろう。その瞬間で一匹は確実に仕留める。その後、後方へと逃げるのを見越して、儂は右側に回り込みながら奴らの退路を塞ぐ」
「そして、俺は後方から飛び出し、左側に回り込みながら逃げ道を塞ぎ、中央に誘い込むわけだな。了解した」
シュトロームが頷くと、トロメアはすぐに動き始めた。シュトロームはトロメアと同じく後方へと向けて走り出す。互いに持ち場についたことを気配で察知し、儂は作戦を実行始める。手に握っている金棒を肩に乗せ、クラウチングスタートの姿勢をとってから一気に駆け出す。急に草むらから飛び出した儂らに驚いたグリズリーボアは、後方へと逃げ出す事も出来ずに「ピギィ」と悲鳴らしき声を上げた。
「まずは一匹!! 続いて二匹目だ」
手に握っている金棒を正面に居るグリズリーボアの頭に向けて振り下ろす。その一撃で頭部が陥没し、そのままのスピードで凄まじい衝撃と共に地面に叩きつけた。そして、間髪入れずにもう一匹の方へと金棒を振り上げる。アッパーのようにグリズリーボアの顎へ金棒がスムーズに入り、その巨体は空高く打ち上げられる。それを合図としたのか、シュトロームも駆け出し、頭上に打ち上げられたグリズリーボアの首を大鎌で切り落とした。
「その首、貰ったぁぁぁあああああ!!」
さらに、近くにいた二匹を一瞬で切り落とした。儂も近くにいた二匹を仕留めてから、右側へと回り込む。逃げ道を塞ぐため、シュトロームと息を合わせながらグリズリーボアを更に削っていく。そして、中央で右往左往するグリズリーボアに向かって、気の上から中央に向かって飛び出すトロメアを見て、すぐにその場から退避する。急にその場から退避した儂らに警戒するグリズリーボアを見ながら、双鎌を構えて落下するトロメア。
「奥義、鎌鼬!!」
技名を叫んだと同時に、グリズリーボアを囲むように巨大な竜巻が発生した。竜巻の音で聞こえないが、一匹ずつ確実に仕留めらているのだろう。気配が一つずつ消えていくのを感じ取り、竜巻内にいる全ての気配が消えたと同時に竜巻が消えた。
中央に立つトロメアと、首と動体が分かれたグリズリーボアの無残な死体だけがそこにあった。戦闘力も戦略もそれなりにはあることも確認できたし、沢山の死体――もとい、肉も確保できた。首の数を確認する限り、全部で二十匹だったようだ。
この広場の中央にその首を一か所に並べ、手を合わせ黙祷を捧げる。背後でシュトロームとトロメアたちの気配も感じた。同じく黙祷でも捧げているのか分からんが、しばらくの間黙祷を捧げ、儂らはグリズリーボアの胴体を一か所にまとめた。
「さて、これらを運ぶとするか。運ぶ道具の事を考えていなかった」
「確かにそうですね、兄さん。竜仙様、このボアたちをどうやって運びますか? 手で持っていくのは無理がありますし、台車を取りに行きますか?」
「うむ、その必要はない。この収納指輪にグリズリーボアの肉を入れる。この収納指輪については、現在生産が出来ないかシャトゥルートゥ集落の技術部門の者たちが日々調査を行なっている。いずれは、この世界に流通するようになるだろうな。ほれ、そろそろ集落に戻るぞ。今回の報酬は美味い酒と儂の秘蔵のツマミだ」
儂は収納指輪で食料となったモノを回収していく。そんな中、シュトロームは一匹のグリズリーボアの頭を手に持ち、ジッとそれを見つめてから地面に置き、指先から火の弾を出現させた。地面に埋めるのではなく燃やすつもりなのだろう。その火の弾が草木に引火しなければ問題はない。
「火葬か。この世界では行なわれないモノだと思っていたが、お前たちの一族は火葬が主流なのか」
シュトロームは儂の方へと体の向きを変えると、一度火を放ったグリズリーボアの頭へと顔を向ける。お炊き上げのように、火が勢い良く燃え上がり炎へと変化する。その光景を見ながら、シュトロームは此方へと近づき儂の隣に立つと話し始めた。
「あぁ、その通りだ。俺たちの種族は殺したモノたちに対して、魔物にならないように火葬を行なう。それが、俺たちの一族の誇りでもあり、伝統だ。戦士同士の戦いでは『敬意をもって、その誇り高き魂を天へと送る』と言う意味もある。俺たちは一族の戦士としての誇りもある。だから、必ず仕留めた者たちに対して火葬は行う」
「なるほどな。それが、お前たちの流儀でもあると言うわけか。儂らも、死んだ者たちに対して火葬を行なう。それはこの世に未練を残したものが現世に舞い戻り、魔物となって蘇らないようにするためだ。それは、人間だったと言う尊厳を守る事も意味する。それ故に、儂らは火葬を行なうのだ。お前の一族と同じ理由だな」
「なるほど、確かに俺の一族と似ているな。しかし、これ程の量を狩ったのは久しぶりだ。大飢饉の時以外にこれ程の量を狩ったことはない。今回のグリズリーボアは全てが大物と言って良い大きさだ。俺としても、これ程の量を誰かと狩ったことはない。俺の里の者たちにも見せてやりたい光景だった。取りあえず、完全に燃え尽きたのを確認してから集落に戻ろう。今後、俺の一族がお世話になるだろうからな」
トロメアも黙って頷くと、鎌を石に戻して懐に戻した。収納指輪に肉を入れ終えたのを確認した後、儂らは焼かれる光景をジッと見守りながら消えるのを待つ。完全に骨になったのを見届けてから、魔法陣を作りそこへと骨を置く。すぐに手紙を書き、魔法陣を起動した。この遺骨は璃秋へと送り届けられる。そして、然るべき場所に埋めてあげ、お経を読まれ、その魂が天へと還るわけだ。
「あの遺骨は、どこに運ばれるのだ?」
「シャトゥルートゥ集落の璃秋と言うお坊さんに送られる。その後は、墓に埋められる。まぁ、儂らが育てだ者たちが住んでいる集落だ。取りあえず、一筆したためたから問題はないだろう」
「そうなのですね。イスズ様達が復興したと言うシャトゥルートゥ集落。どんな場所なのか、凄く気になります。是非、一度シャトゥルートゥ集落を見てみたいですねぇ。どんなところなんだろう」
トロメアはシャトゥルートゥ集落に興味があるようだ。それなら、許可書でも書いてやっても良いだろう。いや、その前にミッシェル集落を救うのを終えてからだ。仕事を終えた後のご褒美感覚て良いだろう。いずれは、ミッシェル集落をシャトゥルートゥ集落の移動手段として、ロープウェイを繋げて行き来を可能にする予定だ。
「まぁ、今回の仕事を終えたら通行許可書を書いてやる。案内役には旦那の息子にしてもらうことにするか。トロメアにとっても、シュトロームにとっても、あの集落は良い経験になるだろうさ。うむ、お前たちの一族なら良い勉強になるかもしれんな。旦那に頼んで、一族をそちらに移転することも可能か。さぁ、帰るぞ。お前たちの成果をミッシェル集落の住人に教えてやらねばな」
「了解だ。行くとするか。トロメア、今回はお前の成果が一番大きい。お前が凱旋しろ」
「はい、分かりました。では、兄さんは私の後ろに続いてください。では、行きましょう!! 竜泉様」
こうして、儂らは狩りを終わらせて集落へと帰還した。帰還後、嬢ちゃんたちにグリズリーボアの肉(胴体のみだが)を渡し、血抜きなどの解体を任せた。その日は、久しぶりの肉に、集落の住人たちが大喜びだった。しかし、まだ完全に問題は解決していない。森の中は未だに問題が進行中のはずだ。シュトロームたちの戦闘技術を確認出来た事もそうだが、それ以上に彼らの誇りを理解できたのが大きい。各部族間ごとに文化や一族の誇りと言うものがある。それを知れたことは、今後の集落での文化交流にとってメリットがデカい。
(いずれは、この集落もシャトゥルートゥ集落と同様に、他種族交流の場となる様にせねばならんな。それが、いずれ来るだろう厄災に立ち向かえる力となるのだ)
今後の方針を考えながら、儂は二人のために通行許可書を書く。シャトゥルートゥ集落の発展と異文化交流。そして、いずれはシャトゥルートゥ集落を要塞都市にし、いずれは『空中要塞』としての機能も付ける予定だ。うむ、旦那には内緒で部下たちやシャトゥルートゥ集落の住人にはもう説明済みだ。来る狂いの神との戦いで被害を防ぐために、緊急処置として作っている。
(ふむ、旦那が驚く姿が目に浮かぶな。さて、腹ごしらえでもするか)
通行許可書を書き終え、儂は集落の者たちが焼いてくれた『グリズリーボアの肉』を貰い、酒の入ったグラスを片手に齧り付くのであった。




