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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
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3話 目的地へと向けて

2月の半ばになりました。

どうも皆様、私でございます。

いやはや、年明けてしまいました。

月一投稿が出来なくなっているのが辛いですね。


これからもこの物語を綴り続けますので、よろしくお願いいたします。

では、次話で会いましょう ノシ


 集落を後にし、長い山道を歩きながら下山している。下山途中、目的地へと向かうための移動手段を相談し合う旦那たちを見ながら、儂は旦那たちの後ろを歩いている。さて、移動手段の話だが、何故か『ゴーレムホース』か『ゴーレムカー』のどちらで移動するかと言う相談をしている。まさか、移動手段までもゴーレムとは予想外である。確かに、あの集落の連中なら作り上げることは可能だろう。警備兵や門番など、ゴーレムを有効活用しているのだろう。現在の集落には、人間や獣人などの警備兵たちの他に、緊急災害対策部隊のゴーレム兵がいる。警備隊とゴーレム兵の為に、ゴーレムホースが作られたのだろう。

 いや、それ以前にゴーレムホースとは何だ。ゴーレム製の馬とか、集落に野生の馬や牛などがいる牧場があるのだ。警備兵たちの移動手段なら、その牧場にいる馬でも問題はない。ゴーレム兵はホバーリング機能がついているのだから、馬など必要ないはずだ。何故、ゴーレム性の馬や車を作ったのだろうか。そして、いつの間に作り上げたのだろうか。儂の管轄外でそのようなモノを作っていたとは、間違いなくボルトたちが設計図を作成し、集落の技術者たちの手によって作成されたのだろう。


「やはり、此処は山道を無事に降りてから車での移動の方が安全ではないか。山賊が出る場所を移動する事にもなるだろうし、対戦車ライフルを連続五発は耐えきるゴーレムカーでの移動は良いと思うぞ。特に、水陸移動可能とし、さらに飛行性能も持った最新式だ。特に機関銃や追尾式ロケットランチャーを搭載された最新式だ。確かにゴーレムホースも性能は良いのだが、敵からの不意打ち時の対処が弱い。此処は不意打ちなどの危険性を考慮し、あらゆる攻撃を防げるゴーレムカーを推すな」


「確かに、イスズ様の言う通りゴーレムカーの方が良いと思います。ですが、他の集落に行くことも考えると、その道中で冒険者たちなどと出会うかもしれません。そこは特に問題はないと思っていますが、問題は商人と出会った場合です。商人と出会った場合、ゴーレムカーに興味を持たれ足止めされる可能性も有ります。その事を考えても、外見が馬そっくりのゴーレムホースの方が良いと思います。それに、機関銃やロケットランチャー搭載型の最新式ですし、発見次第即射殺できる利点を考えても、此処はゴーレムホースを私は推します」


 この二人、何を話しているのだろうか。そもそも、車や馬に『機関銃やロケットランチャーなど搭載するな』と言いたい。儂らくらいなら、不意打ちにあろうと、一瞬で敵の首を斬り落とせるだろう。そもそも半径三千キロメートルの気配を察知できるし、気配遮断も出来るのに何故に馬だの車だのに拘るのだろうか。気配察知と気配遮断は、旅人入門時に必ず習い、身に付ける必須項目である。ちなみに、入門編合格ラインが『半径三千キロメートルの気配察知』である。ただの人間でも出来るようにワンツーマンで、それも丁寧に指導してくれるのだから本当に恐ろしい。まぁ、旅人に入門する時点で寿命という概念が無くなるのだが、その時点で人間と言えるのだろうか謎である。

 そんな話し合いをしている間に、下山を終えていた。通常なら徒歩で二日かかると言われている『アルシャ山』を半日もかからずに下山を終えた。いかに、儂らが化け物なのか分かる。まぁ、旦那たちはそんなことを気にする事無く、移動手段について話し合いをしているのだがな。最初は他の集落についてや世界修復についての話だったのだが、そこから移動手段の話になってから移動が加速した。その結果が今に至るわけだ。


「竜仙「リューちゃんはどっち!!」だ!!」


「知らん。そもそも、ブラッドウルフがそこら辺に居るんだ。そいつら捕まえて移動すれば良いだろう。あいつ等は仲間意識が強い魔物だ。殺気などに敏感で、他の仲間たちに位置情報を遠吠えで教え、襲わせると聞いたことがある。まぁ、儂が手なずけた奴がそこら辺にいるだろうし、指笛を吹けばすぐに来るぞ。そいつに乗って行けば、目的地にもすぐに着くだろうさ」


 指笛を吹くと、草むらの中から赤黒い毛並みをした三匹の巨大な狼が現れた。巨狼の毛並みは血を浴びたように赤黒く、真紅の瞳は儂をずっと見つめている。口を閉じたまま儂をジッと見つめるこの巨狼こそ、先ほど儂が話していた『ブラッドウルフ』である。立てば約三メートルくらいある巨狼だが、儂らを乗せても問題ないくらいの大きさである。それに、儂が育てたのだからちゃんと言う事は聞いてくれる。

 ちなみにだが、椛は綺麗な赤い毛並みで黄色い瞳をしている。千歳は両手足と尻尾の先が黒く、青い瞳である。そして、楓については毛も瞳の色もともに真紅である。儂が作った特製の牛革の首輪をつけているので、いつでも集落に出入りできる。ただ、この首輪については儂しか外せないように調整しているため、他の者では外すことは不可能である。


「来たか、椛に千歳、楓。どうやら、元気そうだな。いつも盗賊どもを連れて来てくれたありがとうな。お前たちのおかげで、儂も少し楽が出来ている。さて、お前たちは儂と共に来るか?」


 無言で儂を見つめながら椛だけが頷いた。残りの千歳と楓については、そのまま集落の方へと向かって行った。どうやら、集落は二匹が護ってくれるようだ。まぁ、儂が言うのもなんだが、此奴ら一匹一匹が強いから問題はないだろう。


「ブラッドウルフですか。移動用に用いられると聞いた事はないんだけど、確かに移動には便利だね。ただ、こんな大きいブラッドウルフ初めて見たよ。何メートルあるんだろう。私たち三人乗れるくらい大きいね」


「そうだが、三人乗って走れるのか? 竜仙が育てたのなら問題はないと思うが、それでも三人一緒に乗るのは微妙じゃないか」


「あぁ、確かにそうだな。だが、旦那たちは大事な事を忘れているぞ。そもそも車や馬以外にも、儂らはある物を作っただろう。集落の外での移動について、最初はアレに乗って行くと話し合ったことを忘れたのか。ほれ、あの二匹が戻って来たぞ。アレが今回の移動手段だ」


 儂は後ろを振り向き指さすと、先ほど集落へと向かった二匹が馬車の縄を咥えて走って此方に向かって来る。一匹だけでも問題ないはずなのだが、何故か二匹で牽いてやって来たのだろうか。まぁ、持って来てくれたのなら問題はないだろう。

 見た目は普通の西洋で有名な商業用の馬車なのだが、細かな気配りを用いて砂利道でも振動をバネによって吸収し、割れやすいガラス細工が振動によって落下して壊れず、乗車する者たちが不快にならないレベルまで振動を抑えたのだ。これはシャトゥルートゥ集落の技術者たちの研究の成果でもあり、あくまで儂が書いた設計図を作り上げた技術者の汗と涙の結晶である。


「「えぇー」」


 不満があるような声だが、儂とて別に馬や車に対して文句は全くない。ただ、今回は諦めて貰わなければならない。折角、あの者たちが儂らの為に作り上げた馬車なのだ。折角なのだ、乗って行きたいじゃないか。それに車や馬に関して、エネルギー切れ状態なのだ。そんな中でいきなり呼び出しても、原動力の魔石も魔力もない状態の乗り物など、ただの巨大な置物でしかない。そんなわけで、儂はいつものように旦那たちに言う。


「不満があるなら聞くが、アレは儂が書いた設計図を基に作らせたものだ。この世界での移動手段として、悪目立ちしなくて済むだろう。ゴーレム製の馬だと、疲れ知らずな点や胸のコアに気が付き、貴族や王族の押収があるかもしれんからな。車など論外だ。まだ、その情報は儂ら三人と、ホムホム。そして、数名の技術者のみが知る秘匿情報だ。特に、一台しか作っていない車など、壊れた時の応急処置などが大変だ。今回は諦めて此奴に乗って行くぞ」


「はぁ、確かに竜仙の言う通りか。此方から災いの種を撒く様な行為を避けるなら、確かに馬車の方が良い。ただ、馬ではなくブラッドウルフと言う点に突っかかられそうだが、そこは竜仙が飼いならしたと言えば良い。ミーア、今回は竜仙の言う案で行くことにするが、それで良いか」


「はい、私はそれで構わないです!! ブラッドウルフの馬車なんて、初めての体験です!! 凄く楽しみだなぁ。本や冒険者から聞いた知識では、喰らった魔物の力を自分の力に変換する事が出来るらしいですね。だから、魔物ランクでも高ランクレベルに位置付けられているとか」


 嬢ちゃんは腕を組みながら、ジッと椛を見つめながら言った。ブラッドウルフについて興味があるのか、目を輝かせながら自身の尻尾を左右に振りながら見つめている。儂も初めて椛たちと出会った時は、地獄の犬ども達を思い出して興奮をしたものだ。襲って来ては投げ、襲って来ては投げ、襲って来てはパイルドライバーを放つ。と、言った感じで椛たちを調教したかいがあったものだ。まぁ、頭部が剥げることもなく、頑丈な体のおかげで健康そのものである。


「でも、馬車を引くとき首が疲れるだろうし、休憩のタイミングはしっかりした方が良いね。確か、此処から先の集落に続く道は舗装されていないって、商人や冒険者たちが言ってたよ。リューちゃんが設計した馬車なら問題はないと思うけど、此処から目的地までの距離を考えても、流石にブラッドウルフ――じゃなくて、椛ちゃんを走らせ続けるのは酷だよね。どこで休憩をするかは決まってるの?」


「あぁ、それについてはもう決まっている。此処から進んだ先に小さな集落があるのだがな。そこではいろいろと問題が起こっていて、そこへ行く予定だ。まぁ、ちょっとした寄り道みたいなものだが、今日の目的地はその集落になる。椛たちと一度その集落に挨拶に行った事があるのだが、国から離れているせいか廃村寸前になっていた。なので、儂が少し手助けをしたのだ。今日はその集落まで向かう予定だ。なんせ、儂でも手を焼く問題だし、出来れば解決したいと思っている。さて旦那、儂が運転席に座る。旦那たちは馬車の中へ入ってくれ。何かあればすぐに報告する」


「分かった。では、中で作業を行なうとするか。ミーアにはすまないが、俺の手伝いを頼みたい。隊長からちょっと仕事を頼まれてな。それも帝様案件なせいで、ちょっと量があって困っている。だから、俺一人で片付きそうにないから、片付けるのに手伝って欲しいんだ」


「はい、分かりました。まぁ、お父さんの事だから『あの王、何が「俺、仕事あるんで任せた」だ!! 俺にだって仕事があるっつうの!! 仕方がねぇ、やってやる――って、なんじゃこの量は!? いい加減にしろよ!!』とか言っているんだろうな。いやはや、私達ですら意味不明な報告書の整理とか、お父さんが可哀想と言うか、隊長として怒りを抑えて偉いと言うべきか」


 儂は何も言わずに、馬車の運転席に座る。先ほどの『帝様案件』と言う一言で、儂らは察してしまった。なんせ、帝様案件と言うのは『帝様の書類を整理』する仕事だ。本来、帝様がやるはずの仕事を任せられるとは、旦那の昇進はもう間もなくと言うところだろうか。それはそれで嬉しい限りだが、同時に嬢ちゃんが言っていた事もまた事実だ。多分、逃げたのだろう。書類整理が嫌だからとかいう理由で、帝様を護るあの二人から逃げたのだろう。


(まぁ、隊長の書類整理を手伝った時よりはマシか)


 儂と旦那、そして嬢ちゃんもだが、隊長の書類整理を手伝ったことはあるのだが、あの報告書は酷いものが多かった。特に酷かったのが『炭鉱で竹輪のような形をした化石を発掘した』だった気がする。いや、そんな報告いらんからと、真面目にツッコミを入れてしまったのが良い思い出だ。確か、他には『虹色草の栽培に成功』とかも報告に上がっていたな。アレは、栽培が極めて難しいとされている。この地でも虹色草があり、栽培に成功できたのは中々に嬉しい。そのおかげで回復薬の生産率が飛躍的に向上したからな。

 さて、旦那たちが馬車の中に入るのを確認し、儂は椛の首輪に繋がった手綱を握りしめる。椛は先ほどから『行かないの?』と言うような表情をしている。尻尾は嬉しそうに左右に振り、早く行きたくてウズウズしているようだ。儂の合図を待っているらしく、ジッとつぶらな瞳で見つめている。


「さて、行くぞ」


「ワウ!!」


 元気のよい鳴き声と共に、ゆっくりとした足取りで歩き出した。なるべく馬車を引く側を考慮して負荷を軽減する設計をしたおかげか、足取りは軽く楽しそうに歩いている。そんな椛を見ながら、目的地へと向けて馬車は動き始めた。



「いやはや、この道を通るのも懐かしいものだな。椛たちと初めて出会ったのも、確かこの場所だったか。いやはや、本当に懐かしいものだ。そうだろ、椛」


 現在、とある小さな集落へ向けて馬車で移動中である。先ほどまで左右は森林だったのだが、気が付けば広大な草原へと変わり、空には何故かワイバーンが飛んでいる。そして、儂らはのんびりと目的地の途中にある集落へ向けて走っている。魔物も冒険者もすれ違うことなく、とてものどかである。

 さて、椛なのだが儂の問いかけに答えることはないが、嬉しそうなのは良く分かる。この場所は散歩コースにも入っているため、尻尾を儂の膝に乗せた状態で走っている。現在、馬とほぼ同じ速度で走っている椛だが、尻尾をポフポフと膝の上に優しく叩く。そのせいで、椛の手綱を握る手が緩みそうになるが、しっかりと握りながら休憩地点である『ミッシェル集落』へ向かっている。ミッシェル集落は、豊かな土はあるが、井戸水が少なく、近くの川へ行こうにもデススパイダーなどの昆虫型の魔物が多いせいで水を汲みに行けない状態が続いていた。儂があらかた仕留めたのだが、まだあの脅威は去っていないだろう。今回、その休憩地点を経由する理由は、ミッシェル集落が心配だからである。あそこの豊かな土は、今後の穀物や野菜の栽培を増やし、集落の発展やシャトゥルートゥ集落への貿易にも役立つ。それ故に、出来ればその問題を解決してやりたいと思っている。これは旦那にも話しており、もう承諾は得ている。


「あそこの野菜は瑞々しく、甘みも中々だった。野菜の栽培に水を使うからか、生活で使う水を節制している状態だったな。水路の作成なども視野に入れて、シャトゥルートゥ集落の技術者人を派遣できるように道を開通させたいものだ。だが、昆虫型の魔物を駆除しなければならない。それが、面倒くさい」


「ほぉ、そいつは良いなぁ。竜仙をそこまで言わせるほどの野菜とは、俺としても興味がある。是非とも、その集落の問題を解決し、野菜をいくつか買い取りたいな。しかし、昆虫型の魔物の駆除かぁ。彼奴らの処理は結構大変だからな。蜘蛛や蟻、蛾や蜂。いろんな種類がいるが、全てが厄介な奴らだ。特に、そう言った魔物を処理した後、何が起こるか分からんからな。生態系のバランスが崩れない程度を狩ったとしても、またすぐに元の量に戻ってしまう」


「そうなんですか? 私、昆虫型の魔物をあまり見たことないので分からないのですが、そんなすぐに元の量に戻ってしまうのですか? 冒険者ギルドで本の貸し出しをしていたので読んだことはあるのですが、そう言った内容はなかった気がしますけど」


 馬車の運転席側にある小窓から、旦那とミーアの声が聞こえた。仕事中のはずなのだが、儂の言葉で気になる事があったのだろう。ただ、声をかけて来たのは良いが運転中と言う事もあり、振り返ることはできないため前を向いたまま会話を続ける。


「あぁ、確かにギルド書庫にはない情報だったな。冒険者たちもあまり知られていないが、女王虫が一匹いるだけでも問題だ。旦那の言う通り、数匹残したとしても女王虫がいれば元通りの量に戻ってしまう。そのため、昆虫型の魔物を処理するのは面倒なんだ。儂としてはそのまま跡形もなく殺しつくしたいのだが、それでは自然のシステムバランスが完全に狂ってしまうのだ。女王虫は森を繁栄させるために、虫たちを操り、自然界のバランスを保たせるのだ」


「なるほど。つまり、女王虫がいることで自然のバランスは保たれているんですね。でも、なんで昆虫型の魔物を駆除する話になったんですか? 集落の近くに女王虫がいたから、駆除するのですか?」


「いや、そう言うわけではない。今向かっている集落の問題でな、どうしても昆虫型の魔物のみを駆除しなくてはならないんだ。あれこれ対策を考え講じたとしても、それが長続きするかも分からん。決定打となりうる解決策があれば良いのだが、儂では『根絶やし』と言う解決策しか浮かばなくて困っているのだ。旦那ならどう解決する?」


 旦那は「そうだなぁ」と言ってから、何分か考えているのか「ふむ」と一言。そして、案が浮かんだのか旦那は話し始めた。


「そうだな、間引きをするしかないだろうな。当然だが、昆虫型の魔物は多すぎるのは問題だが、少なすぎるのも問題なんだ。何事も程よいバランスが良いのは分かるだろう。特に昆虫型の魔物は、駆除するのが大変で多かったり、少なかったりなどその例に当たる。どんな事にも、程々が丁度良いんだ。だが、そのバランスを崩すのが女王虫だ。本来、森に一匹か二匹くらいなのが普通だ。女王虫は互いのテリトリーを守り、侵入しない様に生活する。故に、女王虫を残して間引きすれば一番危険な魔物のみを減らす事が出来るだろうな」


「あぁ、旦那の言う通りだ。間引きするのなら、森に住む女王虫が、一匹か二匹だけでも問題はないだろう。これから行く『ミッシェル集落』と言う集落の近くにある森を調査したのだが、昆虫型の魔物が予想以上に居て困惑したさ。あそこは、本当に危険な場所だ。急いで何千匹程度か駆除したのだが、まだ半分しか倒し切れていないのが現状だ。いずれにせよ、時間をかけ過ぎたせいで二倍に増えている可能性もあるがな。旦那、昆虫型の魔物の対策方法は「そうなると、女王虫を一度全て駆除するしかないだろうな」まぁ、そうなるだろうな」


 旦那からその言葉を聞いて、肯定するしかなかった。女王虫が一匹だけでも問題はないが、それが二匹以上になると話は別だ。女王虫を何匹か仕留めたのだが、まだ結構な数の女王虫がいる可能性がある。諸事情で五時間ほどしか居られなかったが、儂一人で女王虫や他の虫どもを殺しながら素材を回収してきたが、やはりそれでも倒し切れなかったのは辛かった。時を止めて対処したかったのだが、その時は狂いの神の動きの調査も有り、能力を使用できなかった。まぁ、結局は言い訳になっている。


「しかし、昆虫の魔物の素材は中々に用途がある。クモの糸は、捕縛用の網やトラップに使える。蟻のアゴもそうだが、あの鋭い牙などは武器の素材に使える。鱗粉は魔術師たちの調合などに使われるからな。昆虫型の魔物は以外にも重宝されているのだ。それ故に、どうしても根絶やしにするのは勿体ない。しかしだ、根絶やしにしなければ集落の今後に悪影響を及ぼし、最悪崩壊する恐れがある。ハァ、やはり根絶やししかないのだろうな」


「そうだな。人間と自然のバランスは常に保つのが大切だ。それは全ての生き物に言えることだ。だが、今回の場合は特例だろうな――っと、ミーア。その書類は右の箱に入れてくれ。それと、その書類はまだ書き途中だから真ん中の箱に。で、それは印鑑を押して左の箱に入れてくれ。おっと、すまないな。まぁ、今回については竜仙の言う通り、一度その森に住む昆虫型の魔物を根絶やしにするしかないだろう。ただ、それだけでは意味が無い。故に、他の森に住む昆虫の魔神と交渉は済んでいる。現場で集合と伝えているから問題はないだろう」


 旦那から何か聞いてはならない言葉が出た気がする。昆虫の魔神とは一体誰だ。儂の知らないところで魔神とも交渉をしていたようだが、何と取引をしたのだ。危険性のある魔神ではないと思うが、一体どんな種類の魔神と交渉したのだろうか。


「旦那、手際が良すぎないか。なんで、昆虫の魔神と知り合いなんだ。いつの間に交渉をしたんだ。かなり気になるのだが、そこは置いておくとする。取りあえず、根絶やしで良いのだな。なんだかんだで、昆虫の魔物は農具に使えるモノもあるからな。折角だ、シャトゥルートゥ集落の要領で、ミッシェル集落を発展させるとするか」


「それもありだろう。まぁ、蜂型の双子魔人だったし、ちゃんと説明を聞いてもらっている。取りあえず、再教育は終わっているから問題はない。まぁ、この世界では二回目になるのだが、互いの妥協できる範囲をちゃんと話し合えたからな。問題はないはずだ」


「旦那、再教育したのか。あの、再教育を――あぁ、なるほど。確かにそれなら納得がいくな。あぁ、旦那の『再教育』を喰らったか。なるほどなるほど、それなら旦那に協力するのも良く分かる。現に、この世界の神々がその再教育を身をもって体験したようだからな。まぁ、旦那が言う妥協した内容は気になるが、その話は――ん、武器の準備を始めたか」


 右袖の中で蠢く『とある生き物』がヤル気を出したのか、今まで整理した武器からいくつか選び取ると研ぎ直しを始めた。まぁ、子奴らがヤル気になったのなら問題ないだろう。ただし、やる気があり過ぎて爆弾が暴発しないか心配でもある。儂の部下でもあり、古くからの親友だから多少のミスは許せるが、爆弾の暴発だけは無理だ。暴発の影響で、儂のお気に入りの服が燃えるのだけは勘弁してもらいたい。


「まぁ、まずは集落に到着してからだな。竜仙、集落に到着したら教えてくれ。その間に、隊長たちに頼まれた仕事を終わらせる。はぁ、書類の山を大半は片付け終えたけど、まだ残り二千枚はあるだろうな。ハァ、うん、今更ながらこれ程の数を処理しなければならないのは辛いなぁ」


「旦那、一体どれくらいの量の書類を渡されたんだ。まぁ、隊長の手伝いなのだから仕方がない事なのだが、旦那にも任せるほど鬼気迫っているのか? 隊長はそこら辺の自己管理は、ちゃんと計画性をもってやっているはずなのだが。まさか、面倒ごとに巻き込まれたのか?」


「うん、まぁ、そんなところだな。なんせ、帝様が書類仕事が嫌になって城から逃げ出したらしく、その書類の全部が何故か隊長に回されているらしい。今回請け負ったのは、隊長が確認して印を押した書類の整理みたいなものだしな。ミーアにはこの世界に関する情報をまとめた報告書の整理と印鑑を押すのを手伝ってもらっている。この書類はこの世界での情報が記載されている。それ故に、この報告資料が完成すれば『終末捕食』後の世界修復の作業がやりやすくなる」


 やはり予想通りだった。帝様、また逃げ出したのか。これで百回目だった気がするが、何故にそこまで嫌いなのだろうか。儂もあまり書類仕事は好きではないが、それでも逃げるほどではない。そもそも国のトップが逃げるのは如何なものだろうか。そして、何故隊長に陛下の仕事が回って来るのだろうか。それが未だに謎である。


「なるほどな。さて、もうそろそろ集落に到着する。到着の十分前くらいに再度報告するが、話を聞く限りまだ仕事が終わりそうにないな。続きは集落の宿屋でやるか。まぁ、到着まではまだ時間がある。その間に書類作業は続けてくれても構わんが、先も言った通り十分後には到着する。到着する前に片づけて、出る準備をしてほしい」


「了解した。んじゃ、切りの良いところまで終わらすぞ。ミーアは片づけの方をお願いする。俺は書き途中の書類の続きをやるとするか。到着前には、その他の書類を片付けるぞ」


 旦那はそのまま作業に戻ったようだ。量が量だけに、このまま作業を続けると片付けが間に合わないのだろう。そもそも、帝様を逃がしてしまうこと自体が変なのだ。まぁ、旦那たちが頭を抱えるほどの逃げの達人らしいからな。認識阻害とかが得意らしく暗殺なんかも得意だったらしい。暗殺が得意な帝様とは一体なんなのだろうかと思うが、死神の一族の長だから致し方がないのかもしれんな。だが、隊長ならすぐに見つけられるはずなのだが、それでも見つけられないとは恐ろしい限りだ。

 さて、ようやく目的地が見えて来た。丸太を並べて作られた簡易的な防壁に、観音開き型の門が目の前に見えてきた。そう言えば、儂が作った簡易ゴーレム部隊はどうしているだろうか。昆虫型の魔物を殺しつくした後、その魔石を元にゴーレムを作ったのだ。まぁ、簡易的な為、一年くらいしかい動かないように作製したのだが、あれからちょうど四ヶ月くらいは経っている。今回は旦那もいることだし、長寿命に変更するとしよう。


「ほれ、旦那と嬢ちゃん。見えて来たぞ、あそこが今日の目的地のミッシェル集落だ」


 そう告げると、旦那たちが馬車の窓を開けて顔を出す。儂らに気が付いたのか、防壁の上にいた門番たちが手を振っている。それを見て、儂は左手を上げて手を振るう。ゆっくりとだが門が開き始めるのを見ながら、小声でつぶやいた。


「さて、集落の復興作業とするか」


 こうして、寄り道先である『ミッシェル集落』に到着するのだった。

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