2話 旅の始まり
どうも、もうお正月まで残りわずかですね。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
私は、今年一年いろいろとあり過ぎて、心砕けております。
まぁ、仕事が忙しいから執筆が遅れたのも有りますが、
でも、それはそれ。
遅れたのも私の配分ミスが招いたものもですからね。
さて、来年からもこの物語を書き綴り続けるつもりです。
最終章まで頑張って書き続けたいと思います。
では皆さま、良いお年を
そして、次話でまたお会いしましょう ノシ
雲一つない晴天が、儂らの旅立ちを祝福しているかのようだ。気持ちの良い朝日を浴びながら、儂はいつものように旅館の玄関から出て少し離れたところで軽いストレッチをする。温かな太陽の光を浴びることで眠気も覚め、身体の凝りも解れていく。着物姿でするものではないのだが、外で軽いストレッチを始める。ストレッチの後は、軽いジョギングから金棒を用いての素振りを行なう。軽い汗をかく程度だが、体が十分温まる。
手拭いで軽く汗を拭い、右手の袖に金棒をしまう。亜空間と繋がっている為、いろんな武器を収納している。武器以外にも、テント用品や機関銃、火縄銃、ダイナマイト、反重力装置などなど、いろいろと収納している。そんな右袖の亜空間から懐中時計を取り出し、現在の時間を確認する。
「ふむ、もうこんな時間か。そろそろ集合時間になるが、旦那たちはまだ来ない様だな。何か緊急の問題が発生したのだろうか?」
現在、朝の八時半。集落の住人達も各々の仕事の準備を始める時間なのだが、皆は集落の出入り口の周りに集まっていた。皆が皆、儂らの旅立ちを見送る為に居るのだろう。ただ、アイドルの出待ちのような密集した状態で、怪我人が出ないかだけが心配である。門出の日に怪我をするなど縁起が悪い。儂としても、怪我無く儂らを見送ってもらいたい。
「リューちゃん、おはよう。遅れてごめんね」
懐中時計を右袖にしまうのとほぼ同時に、背後から嬢ちゃんの声が聞こえた。儂が振り返ると、そこには『旅人時代の服装』のミーアが玄関から出て来た。旦那と同じ黒いズボンと白のワイシャツ。そして、灰色のコートを羽織り、腰にはクロノスを差している。
「うむ、おはよう。どうやら、嬢ちゃんが先に起きたようだな。武具もちゃんと装備しているようだし、後は旦那が来るのを待つだけだな。旦那が遅れるなんて珍しいようだが、何かあったのか?」
「うん、なんか『通信端末から届いた情報を調べてから行く』と言って、小さな通信端末を弄ってたよ。その後、衛星がどうの、ソーラービームがなんだの、小声で何言っているのか聞き取れなかったけど」
ソーラービームと言う一言に、儂は『アレ』だとすぐに分かった。現在進行形で、この集落を観測および他国の観察もしている。まぁ、本来の目的は『狂いの反応』を調べるためなのだが、今のところ何の反応もない状態だ。まぁ、ソーラービームについては、ただの面白半分で付けただけだ。まぁ、他にもいろいろと付けたと聞いているが、衛星の方に何か問題が生じたのだろうか。
「多分だが、人工衛星の事だろうな。旦那が『暇だし、人工衛星作って打ち上げるか』とか言って、勝手に錬成所や鍛冶屋の技術者連中を連れだして、人工衛星を作り上げたとか言っていたな。ロケットに搭載して打ち上げたのは見届けたが、リアルタイムでデータが渡ってくるはずだ。通信に何か問題が起こったのだろうか」
「アレ、本当に打ち上げたんだ。でも、よくよく考えてみると、この世界に人工衛星とか有り得ないよね。テレビだってないのに、レーザー完備するとか何のために上げたのか気になりますね。罪を犯した国に対して、ソーラービームの刑でもするために打ち上げたんですか」
「あぁ、その手があったか。今後の事も考えて、その提案も出しておこう」
嬢ちゃんから思いもよらない一言に、儂は初めてその手があったことに気が付いた。民、国の権力者すべてがグルで悪だくみをするのならば、その罪に対して罰が必要だ。以前だが、電子レンジを応用した超加熱レーザーを作ろうと話し合いが出たのだが、確かにソーラービームを完備している以上、それで国ごと消滅させることは可能だ。罪人だけを残しての攻撃と言うのも、悪くない考えである。
「リューちゃん、気づいてなかったのね。そもそも、アレってこの世界の情報を知る為に打ち上げた物じゃないの? この前もこの大陸の全体図を確認したり、各集落のある拠点とか、魔物の生息地域とかいろいろと調べていたような気がするんだけど」
「あぁ、それも目的の一つではあるが、本来の目的は違う。狂いの神が目覚めた時に、すぐに座標を調べ、駆けつけるために打ち上げた。元々、ソーラービームに作った理由は、地上に出現した狂いの神を一時的に足止めするためだ。我々が駆けつける前に、力の暴走による『星の崩壊』をされては拙い。一時的ではあるが、それを封じるのが目的だ」
「なるほど、そのために用意したんだね。ただ、私も打ち上げるところ見たかったなぁ」
嬢ちゃんが頬を膨らませながら言うのだが、嬢ちゃんたちが寝ている深夜零時にこの世界の時間を停止させ、代表者数人だけで集まって打ち上げたのだ。危険だからとかではなく、あの人工衛星の事を知られないためだ。
「それにしても、旦那はまだ来ないのか。そろそろ、出立の時間なのだが」
「すまん、遅れた。もう全員いるな」
背後から旦那の声が聞こえたので振り返ると、そこには灰色のコートを羽織った旦那の姿があった。嬢ちゃんと同じ服装ではあるが、違いがあるとすれば腰に下げている武器がガンブレードか刀の違いである。
「遅かったな、旦那。ミーアから話は聞いたのだが、何か異常事態でもあったのか」
「あぁ、緊急連絡回線が鳴ってな。この大陸の外にあったはずの大陸が、数時間前に消え去った事を確認していた。大陸があったはずの場所が、まるでシャベルで削り取られた砂場のような跡を残して消えていた。削られる瞬間も、その箇所に海水が勢いよく集まる瞬間も確認できた」
「大陸が、消えた!? 一体、何が起こったんだ? まだ、狂いの神の目覚めには早いはずなのだ。それに、目覚めの兆候があれば『魔素濃度』が一気に上がるはずだ。しかし、観測機からはそう言った情報は来ていない。一体、何が?」
魔素濃度の情報が無かったことから、まだ狂いの神が目覚めていないことは確かだ。狂いの神関係で『このような現象』が起こった前例はない。一体、何が起こっているのか分からない。だが、ミーアの一言で答えを導き出せた。
「大陸の消失。まるで、大陸を喰らう『ドラゴンの食事』を思い出させますね」
「「ドラゴンの食事?」」
久しぶりに旦那と声がハモった。そう言えば、大地がごっそりとなくなると言う現象が、刻竜の大陸保護という『捕食』に似ているような気がした。確か、儂がこの世界に来る前に刻竜の容体を確認したが、精神や健康状態は共に良好だった。つまり、もしこれが刻竜の仕業なら正常に保護が行なわれている可能性がある。
「あぁ、そう言うことか。なるほど」
「そうなると、確認が必要か。もし、儂の予想が正しければ、これは彼奴の仕業だろうな」
「ぇ、どうしたの? 彼奴の仕業って、彼奴ってだれ――ぁ。あぁ、そう言う事か」
この場に居る三人が理解した。簡潔に言えば、我々の保護する『巨大なドラゴンが大陸を食った』だけである。食われた大陸はドラゴンの腹の中で時を止められ、一時的に保護される。まぁ、腹の中で保護されると言うのも変だが、腹の中で何もしなければ消化されることはない。
「正常な刻竜の腹ん中にいるってことだな。確か、この世界の保護をしている刻竜は、あの異変に巻き込まれず退避した『正常状態』だったはずだ。旦那、隊長たちに確認の連絡をするべきではないか? 今回の件は、隊長たちも知らない可能性がある」
「あぁ、そうだな。現状の情報はまとめてあるし、すまないが急いで報告しに行く。出立が少し遅れるが、先に集落出入り門のところで待っていてくれ。確認が取れ次第、すぐに其方に向かう」
そう言うと、旦那はその場で次元の穴を開け、隊長のいる世界へと向かって行った。多分だが、しばらくは戻ってこれないだろう。出立時間を考えても、そこまで長くはかからないとは思いたい。なんせ、旦那は隊長たちと仲が良いせいか、いろいろと仕事を任せられている。旦那が隊長たちと連絡を取り合うと、何故か必ずと言って良いほどに仕事を何件か任せられる。押し付けとかではなく、昇進に関わる仕事ばかりを任せられる。
「さて、儂らも行くとするか。行くぞ、嬢ちゃん」
「うん、分かった」
儂らは旦那の指示通り、集落の出入り門へと向かう事にした。出入り門へ向かっている中、郵便配達の職員やギルドへ向かう冒険者たちとすれ違った。皆、儂らに軽い挨拶をして仕事に戻るのだが、何故か儂だけに握手を求められる。取りあえず、それに応じるのだが、嬉しそうに微笑むとスキップしながら仕事に戻るのだ。たかが握手程度で、そこまで嬉しいものなのだろうか。
「リューちゃん、人気者だね。やっぱり、兄貴的な立ち位置だからかな?」
「兄貴、と言われると違和感しかないのだが。そもそも、儂を兄貴だと慕うのはどうかと思うのだが、その事については置いておくとして、旦那が来るまで時間がかかるだろう。その間、儂らはどうするか。武器などの必需品は昨日のうちに揃え終えている」
「うん、そうだよね。もう準備も終わってるし、他に何か必要な物もなかったはずだし、この時間をどうするべきかな? 何か時間を潰せるものがあれば良いんだけどなぁ」
そう言いつつも笑顔で答える嬢ちゃんに、儂も釣られて微笑んでしまう。今思えば、嬢ちゃんとこうして二人で目的地に向かうのは久しぶりだ。記憶を失った嬢ちゃんと武器を作りに行った時以来じゃないだろうか。最初はどんな武器が良いか話をしたときだったか。あの時の嬢ちゃんはロボットのような動きで儂に接しており、まだ儂に対して緊張していることがすぐに分かった。今ではあの時とは違い、しっかりとした足取りで儂の隣を歩いている。
「ミーアも成長したものだな」
「リューちゃん。今、私の事を『嬢ちゃん』じゃなくて『ミーア』て、言わなかった?」
小声で呟いたのだが、ばっちり嬢ちゃんには聞こえていたようだ。狐人の耳は小声でも聞こえる様だ。獣人の耳と鼻はごまかせないようだが、まだまだ嬢ちゃんの事を『ミーア』と呼ぶには早い。儂が認めるまでは嬢ちゃんのままである。
「ん、なんのことだ? それよりも、さっさと行くぞ。嬢ちゃん」
「えぇぇ、絶対にミーアって言ったよ!! リューちゃん――って、待ってよぉ!!」
「ハッハッハッハ。置いてくぞと言っただろうが、早よ来い」
そんなやり取りをしながら、儂らは出入り門へと到着した。道の端には出店が開かれており、先ほどから香ばしい香りが鼻孔をくすぐるのだが、腹は空かないのだが酒が飲みたいと言う欲求にかられる。なんせ、香ばしいイカ焼きの匂いがするのだ、酒が飲みたくなる衝動にかられても仕方がないことだ。
当たりを見渡すと、何やらホムホムたちが何か警備隊の者たちに指示を出していた。集落の長としての役目をこなしているようで、長としての役目をしっかりとこなしている。ただ、長としての仕事をするのに、どうして大剣を背負う必要があるのだろうか。あの紫色の鞘に納められた『あの大剣』に、儂は疑いたくなるレベルで驚愕した。アレは確か旦那が遊び半分素材を選び、その手で打った大剣『星砕き』だぞ。素材をダーツで当たった番号のモノを使うとかで、本当に阿保ではないかと疑いたくなるレベルの素材を使って一から打った大剣である。そんなものを外に持ち出すとは、どう言う神経をしているのだろうか。
「この集落は他の集落よりも発展していると聞いてはいるが、実際はどの程度の差があるのだろうか。この集落の状態を見ても、発展レベルはかなり高いはずだ。しかし、王城のある国やその周りの集落のレベルも知りたい」
「うん、私もそう思う。最近、これが普通なんだと思ってきたけど、実際は異常なんだよね。この集落の発展レベル、どのくらいなのか。調査した方が良いかもしれないね」
この集落の現状を見て、間違いなく一番先に確認すべきことをこれからやるのだ。順序が逆じゃないだろうかと思われるが、間違いなく儂も順序が逆だと思う。ただ、久しぶりの開拓だったため、羽目を外してしまったことで集落がこうなってしまったのだ。何事も節度が必要なのだと、完成してしばらくしてから気づいた。
「そうだな。集落や国の文化レベルなどの調査も行なうことにしよう。本命は狂い神の暴走を止める為に『欠片』集めをすることだ。現状、キャティが持っていた欠片だけだ。まずは欠片の情報収集がメインになるだろうな」
「確かに、そうなるね。欠片を手にした者は、必ず何かしらの異変が起こるはずだからね。性格がいきなり変わったり、自我を失って暴走したり、廃人になったり。いろんな異変が起こるからね。きっと情報が出て来るはずだし、見つけるのも意外と早く済むかもしれない。あくまで、客観的に考えてだけど」
「確かに、客観的に考えればすぐに見つかりそうだがな。狂いの欠片を集めるのは、実際にはかなり骨が折れるからな。狂いの欠片の反応を追うにしても、エネルギー放射範囲が広いせいで衛星からの情報は当てにならんからな」
衛星からの情報について話をしていると、徐々に集落の住人たちが集まり始めた。どうやら、出入り門の方で何やら始まるようだ。皆が一斉に出入り門の方へと身体の向きを変えた。
「皆さん、おはようございますホム。今日は、この集落に舞い降りた『旅人』と、その従者である鬼神。そして、この集落の元住人である狐人が、この集落から旅立つホム。すべては、この世界を修復するための旅立ちホム。この集落は、遥か昔に起こった厄災を救うべく『旅人が初めて舞い降りた』とされる場所ホム。そう、この場所こそが、伝承に歌われる『始まりの土地』なのホム。そして、今この瞬間、その伝承が再現されるホム!! 今、この土地に住む、皆さんが承認ホム!!」
その瞬間、歓声が上がる。まだ、旦那が到着していない中でのこの状況。儂としても、このような出迎えをされると、なんだか恥ずかしくなって来た。ホムホムがそんな情報を仕入れている事に驚きはしたが、まさかこのような場所でそのような発表をするとは思いもしなかった。
「さて、本来ならもう間もなく三人は旅に出る予定だったホムが、旅人の一人であるお父さんは旅人の世界に戻っているホム。何やら緊急な確認事項が発生したようなので、もうしばらく待っていて欲しいホム。僕としても、この集落に住む皆で見送りたいと思っているホム。なので、引き続き楽しんで欲しいホム。笑う門には福来る。この集落を護る長として、僕は笑顔で三人を見送りたいホム」
ホムちゃんの真面目な声を聴いてか、急に目頭が熱くなった。旦那が旅人の世界に戻ったことを何故知っているのか気になるが、それ以上に此処まで長として成長したホムホムの演説を聞いて、とても嬉しくなったのだ。あの幼さの残るホムホムが、このような事を言ってくれるとは、思いもしなかったのだ。
「ホムちゃん。なんだか、嬉しいこと言ってくれるね。えへへ、流石は私の息子だよ」
「そうだな。嬢ちゃんと旦那の血を使って作られたホムンクルスだが、気が付けば予想以上に成長しているとは、儂も予想外だった。儂が言うのもなんだが、旦那が百鬼夜行隊の隊長として、皆の前で初挨拶をした時の事を思い出してしまった。あぁ、本当に旦那にそっくりだ。いずれは、ホムホムも旦那のような存在になるのだろう。まぁ、あの元気なところは嬢ちゃんに似ているな。あの明るい性格が、この集落をより良い方向へと導いてくれると良いな」
「うん、私もそう思う。この集落――って言って良いのかな。もう町な気がするけど、ホムちゃんになら任せられるよ。それに、何かあればいつでも帰って来れるからね。長としての仕事もちゃんとしているようだから問題ないと思うし、ホムちゃんが本気出せば盗賊も王族騎士団も軽く消し去るだろうからね。私としても安心して旅が出来るよ」
確かに嬢ちゃんの言う通りだ。儂が言うのもなんだが、ホムホムの戦闘力は当時の旦那とほぼ同じである。つまり、儂らがいなくてもホムホムや儂らが作り上げたホムンクルス部隊とゴーレム部隊がいれば、この集落は安泰だろう。まぁ、戦闘力をガーランドレベルに合わせたのは間違いだったと思うが、大した問題にはならないだろう。
「それにしても、旦那の帰りが遅いな。報告と確認をするだけとは言え、帰りが少し遅いような気がするな。また、隊長たちに捕まったのだろうか」
「確かにそうかもしれないね。イスズ様に任せると、大体の仕事が片付来ますからね。隊長の仕事を手伝う人って、イスズ様かクサリ様だけですからね。一日に四千万件ほどの書類を片付けるのは、流石に一人だけでやりきるのは大変ですからね」
「そうだな。儂でも、あの量を一日で片付けろと言われたら投げたくなる。旦那と副隊長が、たった一日徹夜しただけでやり遂げた時は本当に驚いた。全く、隊長の仕事量は何時聞いても恐ろしいものだ。そして、それを毎日こなす隊長には、本当に頭が上がらん」
ちなみにだが、他の隊長たちの書類が一日二百件ほどだ。何故、隊長のみがあれ程の量を対応しなければならないのか。そして、その量を一日で終わらす隊長の技量は、未だに儂らの中で語られる謎の一つでもある。時を止めたり、加速するだけでは流石に四千万件は片づけきれない気がする。流石に、旦那や副隊長が毎日手伝えるわけではない。手伝えたとしても、二週間に一回程度だ。だが、それを一度も遅れることなく書類を片付ける当たり、謎でしかない。
「すまない、少し遅れた。ミーア、竜仙、待たせてしまったな」
「イスズ様、お帰りなさい!! もう、終わったの?」
「あぁ、確認は取れた。それより、この状況は何だ? なんで、出入り門の前でどんちゃん騒ぎが始まっているんだ」
どうやら確認は取れたようだ。そして、この現状について驚いているようでもある。
「旦那、遅かったな。喰われた大陸の状況に何か問題はあったのか」
「いや、問題はなかった。捕食された大陸も無事だと確認できた。後は、仕事に取り掛かるだけだ」
そう言うと、旦那は羽織っているコートのポケットから飴を取り出すと、袋を破り口に放り込んだ。糖尿病ではないが、旦那はいつも何か考え事をするときは必ず飴を口を食べるのだ。それも、のど飴である。
「そうか、無事なのなら安心だな。旦那、出入り門へ向かおう。あまり待たせるのも可哀想だしな」
「確かにそうだな。んじゃ、行くか」
旦那を先頭に、儂らは後ろをついて行く。旦那の姿を見てか、集落の人間が歓声を上げながら拍手や指笛を鳴らす。そして、出入り門の前には、ホムホムとティエさんが立っていた。そして、ティエさんの手には木製の小箱を持っていた。何か儂らに渡そうと思って用意した物なのだろう。
「お父さんたち、待ってたホム。旅を始める前に、これを受け取って欲しいホム」
そう言うと、ティエさんは我々の前まで来ると、手に持った小箱を旦那に手渡した。旦那はそれを受け取り、箱の中を確認する為に箱を開けると『三枚のカード』が入っていた。そのカードには見覚えがある。確か、ギルドマスターから『身分証明書』と言うモノが無いと他の国に入国できないと言っていた。その時に見せてもらった物と似ている。
「それがあれば、この大陸にある国や集落に自由には入れるホム。もちろん、この集落に入る為に必要なモノでもあるホム。ちなみに、それを各地にあるギルドに提示すれば、いつでもその国の情報を入手できる特別性ホム。そして、盗難や紛失しないようにギルド並び入国時に提示後はすぐに収納指輪の中に入るよう設定してあるホム。まぁ、盗まれた場合は呪いがかかる仕組みになっているホムから、問題ないホムがね」
サラリと怖い事を言うホムホムに、儂は「あぁ、間違いなく二人の子だな」と呟いてしまった。この二人、そもそも盗賊や詐欺師には容赦なく地獄を見せる習性がある。慈悲などかけぬ二人の遺伝子をもろにホムホムは受け継いでいるようだ。
「なるほど。ホムちゃん、ありがとう」
「いえいえホム。元々は、もっと残虐性を考慮してたホムが、ティエちゃんやジュデッカ君たちが『それ以上は、いろんな意味でダメ』と言うから、諦めたホム。まぁ、命までは取らないレベルの呪いホムし、お父さんたちなら簡単に解除できる呪いホム。そこは、お父さんたちに任せるホム」
「そっか。ありがとうな、ホムホム。これは大切に使わせてもらうよ。まぁ、呪いについては気になるが、そこは後で調べておくとするか」
多くの者が『いや、今調べろよ』と、思っているに違いない。現に、儂もその一人である。だが、それを今この場所で口に出すことなく、儂はそのまま流れに身を任せることにした。それに、旦那が後で調べると言ったのだし、それに対して此処で意見をするのも悪い。旦那の事だから、何か専用の道具で調べるのかもしれない。
「さぁ、門番たち!! お父さんたちの為に、集落の出入り門を開くホム!! そして、皆さんも道を開けるホム」
ホムちゃんの声を聴いて、皆が一斉に道を作り門が開き始める。それを見届けながら、儂らは門の方へと歩き出す。徐々に開き始める門を観ながら、皆が歓声を上げながら拍手をする。ある者は涙を流しながら拍手をし、ある者は儂に向かって「兄貴ぃぃぃぃいいいいい」と叫びながら酒瓶を高々と振り上げた。他にも、多くの者が何故か儂に対して「兄貴」と叫びながら酒瓶を振っているのだ。儂を兄貴なんて呼ぶバカは多少なりとも、酒飲み仲間くらいだろう。うむ、彼奴ら見覚えがあるぞ。近くに出来た居酒屋でよく一緒に飲む、冒険者の『ガルドッドギルド』の連中だったな。
「ほらね。リューちゃんの事を、兄貴だと思っている人いたでしょ?」
「彼奴らは、ただの飲み仲間だ。まったく、後で覚えてろ」
あの男どもに対して殺意が沸いてきた。まったく、儂を兄貴などと呼ぶ奴が居ようとは驚きであるが、それなりの報復を与えるべきだろうか。まぁ、こんな時だから彼奴らが儂の事を兄貴と呼んだのだろう。
「ハッハッハッハ。竜仙の酒飲み仲間とは驚きだな。彼奴ら、金大丈夫なのか?」
「儂が加減しているので、問題はない。さっさと、旦那も酒を飲める歳になってくれ。そうすれば、一緒に飲めるだろう」
「やめてくれ、マジで金が無くなる。ほら、後ろの連中に手でも振ってやろうぜ」
確かに、儂と旦那が酒を飲むと金が一瞬でなくなるだろう。まぁ、儂らの酒のみについては置いておくとして、後ろを振り返ると皆が最後まで儂らへと向けて手を振っている。その姿を見つめながら、儂は彼らに向かって手を振るう。もちろんだが、ミーアも旦那も一緒にだ。
「さぁ、旅を始めようか。二人とも、行くぞ」
「はい!! 行きましょう、イスズ様――うぅん、五十鈴君!!」
「うっし、行くとするか。旦那、嬢ちゃん」
こうして、儂らの旅が始まった。
多くの者たちと出逢いと別れを経験し、この世界をもう一度救うための戦いが始まる。
ただ、これだけは告げよう。
儂らの旅には、何故かゴーレムとぶつかる。
その話は、この集落を出てか何日か経った後の話である。




