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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
三章 鬼の角にも福来る?
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1話 旅立ち ~前日~

どうも、最近忙しくなって書く暇が無くて遅れてしまいました。

さてさて、今月も頑張ります。

何とか時間を割いて、書いて行こうと思います。

では、次話で会いましょう ノシ

「――と、言うわけだ。後は、主らに任せて良いな」


 旅を始める前日。儂はいつものように、警備室に居る警備隊たちに指示書を渡していた。明日にはこの集落を出て、本腰の『狂いの欠片の回収』を始めなければならない。そのため、この集落を離れている間の『警備隊の隊長を決め』や『今後の集落の方針』についてを伝えていた。儂らが居ない間に集落を襲撃に来る奴らがいるかもしれない。何かあったときのために、幾つか対策を用意しておく。貴族たちと話し合いをしていたが、裏切る可能性もないとも言い難い。勿論、この警備隊にもそう言う奴がいる可能性もある。まぁ、居ないと信じているが、何かあった時のための策を用意しておくのも、儂の役目である。


「リューセン様、これは一体なんでしょうか?」


 警備隊の一人が、先ほど部屋の右奥の隅に設置したばかりの長方形の魔岩石を指さして質問する。本来なら説明する必要はないのだが、この集落の事を任せるのであれば知っておいても問題はないだろう。まぁ、細かい部分は説明せず、この魔岩石の能力だけ説明すれば良いだろう。


「あれか。アレは、裏切り者などを発見する為の装置だ。儂らがいないときの対策として、特別に儂自らが図面を引き作成指示を出して作らせたものだ。外部からの侵略より、内部にスパイを送り込むことで、集落への侵入される可能性がある。お前たちの事を信用してはいるが、外部の貴族どもが此処を狙って『新たな人員』を送り込む可能性がある。その者たちが、この集落へ敵を手引きする可能性もある。故に、此奴には『裏切り者を見分ける』と言う機能を持たせた。ちなみに、この魔岩石は各場所に配置しており、これはあくまで端末でしかないがな」


「確かに、一理ありますね。リューセン様達がこの集落を去った後、攻めてくる可能性もあります。我々の家族などを人質に取られ、無理やりと言う事も有り得ますね。まさか、そこまでの事を予見しているとは何か嫌な思い出でも?」


「あぁ、その通りだ。昔、儂もそう言った経験をしてな。身近な奴が裏切り、盗賊どもを引き入れたと言う事件があってな。その時は旦那がいたおかげで運よく助かったが、今回も同じことが起こらないとも限らん。まぁ、対策の方はしっかり用意しておいた方が良いからな」


 魔岩石から飛んでくるデータは、今もとある施設にある端末へと飛んでいる。その端末が配置されている場所については秘密である。ただ、一番安全な場所に端末があるとだけ言っておこう。そんな装置からこの集落は常に監視されていると思うと、それを知った者たちは恐怖するのが普通だ。それに、この前一匹見つけ出して、取り調べしたところジュデッカと因縁のある『とある貴族の名』が出た。


(アストリア家か。貴族の連中から聞いた話では、王家直属の騎士部隊隊長を務める一族だとか。まったく、表は騎士団長一家で民からの信頼も厚く、裏は暗殺部隊を率いて自分たちの邪魔になる者たちを暗殺する。叩けば叩くほどに埃が出そうな一族だな。そして、儂らの目的地であるバルダこそ奴らの住む国。今までの事を考えても、此処で奴らを潰しておくに越したことはない。まぁ、証拠品はもうすべて揃っているのだから、今さら足掻いても遅いのだがな)


 窮鼠猫を噛むと言うことわざがある様に、弱者である者たちが着々と準備を行なっている。この集落に住む者たちの殆んどがアストリア家に恨みを持つ者たちだ。いや、正確にはアストリア家の『ある男』に恨みがあると言うのが正解か。

 しばらく此奴らと話をしていると、外から午前八時を知らす鐘の音が聞こえた。どうやらもう時間が来たようだ。儂としてもこの者たちの成長をこの目で見れないのが残念だが、仕事のために儂は旦那の待つ旅館へと向かわねばならない。


「さて、そろそろ儂は帰る。お前たちは、今後もこの集落を護り続けるだろう。お前たちが、この集落の要であり、最終防衛ラインを護る騎士だと思え!! お前たちは、この集落を護る騎士だ。どんな奴が攻め来ようとも、お前たちに勝てる奴はほとんどいない程度に儂が鍛えたのだ。儂に鍛えられたのだと自信と誇りをもって職務を果たせ!! 儂から言えるのは以上だ。儂としても、お主らの成長して行く姿を見れぬのが残念だが、これからも初心を忘れずに頑張るのだぞ」


『はい、師匠!!』


「うむ。では、後は任せたぞ」


 新たに決まった警備隊長の肩を軽く叩き、儂は警備室を後にした。まぁ、儂がいない方が伸び伸びと出来るだろうが、きっと彼奴らならば問題はないだろう。何かあれば、儂の鉄扇が飛ぶと思えば、やる気も出るだろうからな。まぁ、空間を直接繋げて鉄扇で頭を軽く小突く程度だがな。勿論、死なない程度の威力で小突くから問題はない。

 警備室から出て、警備隊訓練所を通り宿舎を出た。この集落の近くに作られた警備隊宿舎だが、この宿舎は儂が武器庫として作っていた建物だ。だが、二年前くらいに住民が増えて来た為、仕方が無く武器庫を警備隊宿舎に改築したのだ。


「さて、儂も準備を整えねば、な。さて、錬成所の職員どもに作らせた金棒でも取りに行くか。流石に儂が愛用しているアレを此方の世界に持って行くのは危険だ。もっとも、アレが必要になる事態にならねば良いが」


 宿舎を出て、儂はいつものように錬成所の方へと向かう。明日の旅路の準備をせねばならない。着替えなどの支度は済んではいるが、武器に関してはまだである。二年前に作製の方を頼んでいたのだが、素材の方が中々集まらなかった事が原因で、ようやく作成に取り掛かったのが二か月前だ。そして、完成したと錬成所の職員から報告を受けたのが昨日の真夜中である。ただ、その時間は『とある物の商談中』だった為、錬成所へ取りに行く事が出来なかった。そのため、職員に今日の朝八時過ぎに取りに行くと伝えたのだ。

 錬成所に向かう途中、公園で遊ぶ子どもらと出会う。皆が楽しそうに遊ぶ姿を見て、何故か懐かしい思いに駆られた。大人になってから、無邪気に笑うことも無くなり、こうして楽しそうに遊ぶ事もほぼ無い。仕事ばかりの退屈な日々だったが、旦那と出会ってからは意外と楽しい日々が続いた。人間と鬼がこうして飲み交わせると言うのも、なんだか不思議なものだった。だからだろう、儂と旦那は腹を割って話し合える仲になったのも。そして、旦那に隊長の座につかせる為に裏工作の数々を仕込んだのも。今では、本当に良い思い出だ。


「さて、頼んでいた物通りの物が出来ているだろうか。久しぶりに鬼らしい武器を持つ事になるが、設計書を見た限りでは破壊力のありそうな武器だった。だが、他にも大太刀や薙刀も中々に良いモノだったので、どちらも捨てがたかった。次回は、薙刀でも作ってもらうか。そもそも、儂が金棒以外で扱う武器など、大鉄扇か薙刀、もしくは大太刀だからな」


「ほぉ、そうか。まさか、金棒を作らせていたとは驚きだな。しかし、それなら錬成所の奴らの人員が少なかったのも納得だ。竜仙の為の武器作製に力を入れていたのか。それにしても、相変わらず竜仙は行動が早いな。そのおかげで、こうして集落も良い方向へと向かった。だが、昔俺にした裏工作の件はまだ根に持っているからな」


「もう千年以上は経つが、未だに根に持っていたとは驚きだ。まぁ、だからと言って過ぎたことはしょうがないだろう。旦那にとっても、儂にとっても、これが最善の道だっただけだ。それに旦那なら『全てを任せられる』と確信を獲たからこそ、裏工作を行なったのだがな。まぁ、手伝ってくれた者たちの大多数が、そのまま刑務所に送られたようだ。一体何があったのやら」


 後ろを振り返ると、睨みつけている旦那の姿があった。今日の姿は、いつも通りと言うべきか、白のワイシャツに黒の長ズボンと言う定番の服装の上に、仕事服の灰色のジャケットを羽織っていた。そして、腰には愛刀を一本下げている。いつも通りと言えばいつも通りの格好ではあるが、今日くらい普通の服装にすれば良いはずなのだが。

 まぁ、その事はどうでも良い。それ以前にだ、未だにあの件を根に持っているとは、旦那の恨みは一体いつになれば消えるのだろうか。儂の手で旦那を隊長の座に着かせる為に、数多くのコネを用いて旦那に気付かれずにあの手この手を使ったのだ。その結果が、今の旦那と言うわけである。いやぁ、昔の儂を褒めてやりたいものだ。汚職だの脱税だの、いろいろな弱みを握っていることもあってか、皆がちゃんと協力してくれた。最後には今までの悪だくみが何故か警察や報道陣にバレて、そのまま刑務所行きになったがな。


「はぁ、本当にお前は恐ろしい奴だよ。お前を敵に回したら、何もかもが搾取されて終わりそうだ。で、今度は一体何を企んでいるんだ? 貴族の連中や商人と何やら情報共有してたり、ギルドマスターなんかとも何か話していたのを観たが、何か情報でも獲たのだろう? 一体どんな情報を得たんだ」


「あぁ、その、なんだ。あまり、儂も良く分かっていない事なのだが、その。何、この集落を襲う不届き者の依頼人の情報を捕まえたのだ。アストリア家だと判明してから、裏からジワジワと苦しめる算段を考えていたのだ。しかしながら、その帝国の実権を握っていたアストリア家がな。その実権の殆んどを筋肉教団が奪い取り、アストリア家の首を確実に絞めている状態になったと報告があったのだ」


 筋肉教団の連中がこの集落を出て、各拠点に広がって行った。その結果、帝国にまでその戦力は広がり、気が付けば帝国幹部の他、皇帝陛下までもが筋肉教団の信者となってしまったらしい。確か、筋肉教団の連中が『健全なる魂は、健全なる肉体に宿る!! ならば、鍛えるだけでしょう!! さぁ、筋肉教団に入団し、健全なる肉体をえる為に、ともに鍛え上げましょう!!』と言って会員を増やしていた気がする。筋肉教団と言っても、ただのジム施設を経営しているだけなのだが、それでも宗教となるこの世界に驚きでしかない。


「筋肉教団のおかげで、だと? あの教団、とうとう帝国にまで浸食したのか!? それも、帝国の実権をほとんど奪っただと!? 何をどうすれば、そのような状態になるんだ? いや、その前にどうして筋肉教団が帝国まで広がっているんだ!? あの教団は、まだこの集落にしか存在しないはずだぞ。それが、それが、どうして集落の外にまで広がっているんだ!? そして、何と言うか、アストリア家が不憫と言うか、自業自得と言うか。まったく、アストリア家を潰すつもりなのは分かっていたが、何故に筋肉教団が手を加えたんだ」


「いや、分からん。何があって、そんな状態になったのかすら分からんのだ。何があったらこんな状態になるのだろうか、儂としてもこの状況について説明が欲しいところだ。だが、取りあえず潰れかけていることは確かなのだ。なら、もうこの件は置いておくことにした。何かあり次第、随時対応することにする」


「あぁ、確かにそうだな。もう、筋肉教団について考えるのを止めよう。いろいろと疲れたし、考えるのが面倒くさくなったわ。うん、俺は旅館に戻るから、俺の武器の回収も任せた。ちょっと、疲れから部屋で寝るわ。改修が終わったら、ちゃんと戻って来いよ」


 そう言うと、そのまま旦那は疲れた表情をしながら旅館の方へと帰って行く。どうやら、儂を迎えに来た訳ではなく、武器を回収するつもりだったのだろう。武器の回収について、儂に任せたのなら、それに対応するのが儂の務めだ。それに、旦那の愛刀である『逆刃刀 幻龍』も、始祖様から受け取ったらしく腰に差している。

 あの刀は、隊長と始祖様、そして、ある鍛冶屋の嬢ちゃんが旦那の為だけに打った『唯一の妖刀』なのだ。生前、殺人鬼と呼ばれた旦那が逆刃刀を握り戦うのだ。人を殺さず、生かしてその罪を裁く。何の因果で殺人鬼が裁判官になり、断罪者と言う仕事を行なう事になったのか。儂ですら分からない何かがあったのだろう。


(殺人鬼だった旦那が、罪人を裁く側の職務に着く事になったあの日から、儂には謎でしかない。旦那からその事を聞いたときは、飲んでいた酒を噴き出したもんだ。本来なら止めるべきだったのだが、旦那の真剣な表情を見ちまったら止める事も出来なかった。だからこそ、儂が副官を務めるしかないと思っちまって、こうして旦那の補佐をすることになったわけだ。本当に、旦那は面白い)


「っと、懐かしい思い出に浸っている時間はなかったか。明日、この集落を出ると言うのに、こんなことで遅れてしまっては旦那に申し訳ないからな。さて、さっさと武器を受け取って、旅の支度をするか」


 儂はすぐに錬成所の中に入り、いつものように受付所へと向かう。錬成所の中はいつものように多くの客人が仕事の依頼をしにやって来る。地方の貴族の者や、冒険者の者たちも来ている。武器や茶器など、破損した箇所の修理や付与なども行なっている。そんな者達を見ながら、受け取りカウンターに居る受付嬢の元へと向かう。


「ぁ、リューセン様!! おはようございます」


 儂が近づくと、元気の良い挨拶をくれた受付嬢を見る。銀色の綺麗な長髪に、曇りもない綺麗な新緑の瞳。愛嬌のある顔立ちで、まさに活発で元気のある少女。まだ、十代半ばくらいだが、それでも元気だけは人一倍あるようだ。そんな彼女に、儂も普通に挨拶する。


「うむ、おはよう。うむうむ、今日も元気そうで何よりだ。さて、儂が頼んでいた物は出来ているか?」


「はい!! ご依頼の物は、出来ております。はい、此方になります」


 受付嬢がカウンターから取り出した『黒鉄の金棒』を置く。その形は間違いなく鬼が持つ金棒と同じである。柄の部分には『夕焼けのような真っ赤な包帯』が巻かれており、輪っかのような形をした柄頭の部分には、何故か銀色の鈴が付いている。重さはどの程度かを確認するため、手に持って確認するが丁度良い重さで手にしっくりくる感じであった。


「ほほぉ、中々に良い出来じゃないか。握りやすく、しっくりくる重さ。ところで、よくこれを持ち上げられたな。儂が頼んだ武器だが、冒険者たちの持つ大剣を遥かに超えた重量の武器だ。成人女性は当たり前だが、そこらの筋肉自慢する冒険者の男性陣ですら持ち上げられない程の重さなのだが、何故そんなに軽々と持ち上げられるのだ?」


「それは、この重力装置が付いた手袋で何とか持ち上げてるんです。結構重いので、男手が必要な時にとても重宝するんです。これは、女性社員だけ配布されてまして、こういった重たい物に使われるんです。ホムホムさんから聞いた話ですが、悪用されないように『指紋認証』とか『血流認証』でしたっけ、そんなんで鍵がかかってるらしいです。後、防犯設備にサブマシンガンとか監視カメラとか、いろいろな防犯装備が完備されてるらしいです」


 笑顔で教えてくれた受付嬢に、儂は一瞬だが目眩を覚えた。儂らはそこまで技術レベルを提供した覚えが無い。この世界の時代に合わせた技術レベルを提供するのが普通なのだが、今の話を聞いた限りでは文明レベルが『ゆっくりと歩く様に進む』のではなく『ロケットで宇宙へと飛び立つ速度で進む』レベルだ。儂らとて、いきなり高度な文明レベルの知識を与えるような愚か者ではない。さて、一体誰そんなことをしたのだろうか。まぁ、一人しかいないだろうな。


「うむ、なるほどな。この世界になんてもんを用意しているだ、ホムホムよ。まだ、この時代にサブマシンガンとか監視カメラとか、この時代には早すぎる文明力だぞ――って、この集落の発展レベルを考えればこっちの方がおかしいか。ふむ、なんというか。文明の発達レベルが狂い始めているのを、我々はただただ観ている事しか出来ないのだな」


「そうですねぇ。私も最近になって、この集落の技術レベルが普通よりも斜め上ではなく、直角に上がっているような気がするんですよね。普通の集落に、人型ゴーレムの警備兵器に、大岩を拳で殴り壊せるレベルの警備兵の方々。更に、集落を囲う塀には『対物理及び対魔法攻撃無効』の素材を使われてるし。それに、シャトゥルートゥ集落だって、もう町と呼べるレベルに広がってるし、もう訳が分からない状態です。私の生まれ故郷ですら聞いたことのない物が沢山あり過ぎて、常識って何だっけ状態ですよ」


「あぁ、そうなるだろうな。この集落に住む者たちから聞いた限り、此処の警備は帝国よりも遥かに上だ。そんな集落に住んでいれば、警戒心なんかも薄れていく。他の集落は警備隊以外に、この集落のような警備システムが完備されていない。故に、本来ならば危機感や警戒心を心のどこかで必ず持っているのだ。まぁ、その警戒心の低下の原因は、儂と旦那が作り出した『ゴーレム軍団』と『ホムンクルス軍団』を通常稼働状態にしているせいなのだがな。あいつらが本気で暴れたら、帝国どころかこの世界を征服できるレベルだろうな。まぁ、いろいろと危ないレベルだが――と、そろそろ戻らねば。確かに武器は受け取った。後、旦那から武器の回収を頼まれた。すまないが、そちらも頼む」


「ぇ、ホムンクルスさんも通常稼働状態なんですか!? ぇ、あ、はい、少々お待ちください」


 混乱しているようだが、すぐに仕事に取り掛かる。考えてみれば、ホムンクルス軍団がもう稼働していることを伝えていなかった。まぁ、彼奴らが本格的に動いてることを知ったところで、この集落を攻める輩はいるだろう。ただ、彼奴らはあまり表舞台に出たがらない。いつもの事だが、秘密裏に動いているのだろう。


「はい。イスズ様からのご依頼されました『一本刀』になります。此方、通常の刀よりも重く仕上げられており、決して折れないよう一から設計し、十人の鍛冶師に作らさせた『打ち刀』になります。あの、ところでホムンクルスさん達は何をしているのですか? 今までこの集落で見かけていないのですが」


「あぁ、その事についてだが、儂にもわからん。ホムンクルス軍団の総大将として、ホムホムに一任しているからな。ホムンクルスたちの行動報告は、ホムホムと旦那にしか分からんのだ。まぁ、ホムホムの事だ。きっと、この集落の為に何か作業をしているのだろうな。さて、確かに受け取ったぞ。これが報酬金と新たに作った『純鉄のインゴット』だ。後は頼んだぞ」


「はい、確かに受け取りました。それにしても、今回も質の良いインゴットをありがとうございます。鍛冶師の方々にご提供すると喜ばれるんですよねぇ。でも、これで最後になると思うと、ちょっと寂しい感じがします。あの、いつでも帰って来て下さいね」


 嬉しそうな声で受け取るも、どこか寂しそうな表情をしていた。確かに、この集落の人間ではこのレベルのインゴットは作製するのが難しい。だが、その製法については錬成所の一部の人間に教示している。いずれは完璧なモノが出来るだろうが、それまでは時間がかかるだろう。だが、この金棒を作り上げたのだから問題はないだろう。後は日々の修行で問題はないはずだ。


「まぁ、インゴットについては錬成所の者たちに製造法は教えている。それに、時間があれば此方に戻って来る。ワープゲートの接続も出来ているから問題はないだろう。取りあえず、この集落に不届き者が現れた瞬間、ゲートが繋がるように設定している。すぐに駆けつけられるから安心しろ。取りあえず、例の装置も問題なく動いているようだしな」


「あぁ、例のあれですね。確かに、毎日リアルタイムでこの星の情報が来てますからね。今までこの星は真っ平らだと思ってたのですが、あんなに綺麗なまん丸だとは知りませんでした。いやぁ、本当に今まで学んできた常識が音を立てて崩れるなんて、学者の人たち涙目になっていましたよ」


「確かにそうだったな。アレは、可愛そうなことをしたと反省はしている。だが、真実を知ることで、更なる発展と知識を得る。彼らもまた、この集落に住み着き、日々研究をしているのだ。儂としても応援はしている。さて、そろそろ儂も帰らねばならんな。では、またな」


「はい!! その――、また、です」


 受付嬢が、何やら恥ずかしそうに頬を赤らめながらお辞儀をする。はて、ただ微笑んだだけで何故、その様に頬を赤らめるのだろうか。そう言えば、この前だが一緒に飲みに行った時もこんな感じだった気がするのだが、その時も顔が赤かったな。


「うむ、ではな」


 受付嬢と握手をし、そのまま錬成所を後にした。旦那用の刀と儂の金棒を受け取ったのは良いが、旦那は何故、この刀を用意したのだろうか。元々、旦那には愛刀があると言うのに、更にもう一本用意していたようだ。もしや、愛刀はいざと言うとき以外、使用しないつもりなのだろうか。まぁ、ミーアの『ロストエデン』や儂の金剛金棒こと『黄泉歌』のように、決戦の時まで封印するつもりなのだろうか。


(まぁ、旦那の事だ。この刀は、あくまでフェイク用なのだろう。ミーアと儂の武器も、狂いの神との戦闘以外は使用しないつもりだ。しかし、狂いの神との戦闘となれば、この世界の崩壊は早まる。隊長殿らが何やら忙しなく会議をしていたようだが、何か秘策でも用意しているのだろうか。まぁ、あぁだ、こうだと考えて時間を潰すわけにもいかん。さっさと旅館で待つ、ミーアと旦那の元へ向かうか)


 旦那の刀を腰に差し、金棒の担ぐように肩に載せながら旅館へと向かう。この集落で、儂は多くの者を育ててきた。家を作る為の図面設計から、建材などの調達方法や建築についてのいろは。語学や数学、剣術に体術など魔法以外について一から教えてきた。その結果、この集落がこの世界での一般常識を逸脱した状態になってしまった。正直に言えば、ここまで成長するとは思ってもおらず、集落から町になるくらいの成長で終える予定だった。それが今では、帝国を超えるレベルにまで成長し、筋肉教団と言う謎の教団が生まれ、今ではこの世界中で知らない者はいない教団となっている。

 そんな頭が痛くなる事を考えながらも、旅館のロビーに到着していた。今日も外から来た商人や冒険者が宿泊の予約を取りに来る。なんだかんだで、此処も大盛況である。各集落や国のギルド長達が来ては、会議が終わりにこの旅館に泊まるのが当たり前になっていた。まぁ、大半が儂らに会いに来るのだが、仕事に支障が無いレベルで受け答えをしている。


「ぁ、リューちゃん!! おかえり」


「あぁ、今戻った。旦那は、部屋に居るのか」


「うん、居るよ。なんか、緊急の要件が出来たとかで、部屋に籠ってお仕事してる」


 部屋に籠って何の仕事をしているのだろうか。緊急の要件となると、やはり世界への供給しているパイプ――いや、鎖の修復に何か問題でも起こったのか。または、狂いの神の動向に進展があり、隊長たちから緊急の連絡が来たのだろうか。どちらにしても、この世界の崩壊は免れないわけだが、何か救う方法でも見つけたのかもしれない。まぁ、考えていても仕方がない事だ。


「わかった。取りあえず、儂はこの武器を届けに行く。嬢ちゃんはやるべきことがあるのだろう。両親へ報告しに行くと良い」


「ありがとう、リューちゃん。じゃ、ちょっと墓参りに行って来るね。ちゃんと報告してから行きたいから、さ」


 嬢ちゃんはそう言うと、何故か遠い目をした。その眼は、どことなく懐かしい思い出に浸っていると言うより、思い出していると言うべきだろうか。嬢ちゃんにとっては、この世界での家族を失ったのだ。その両親への旅立ちと別れの報告が、墓標の前となってしまった。過ぎたことを掘り返すつもりはないが、もしも旦那や儂らが早くこの世界に介入していたら、きっと彼らを救う事が出来たのだろう。


「うむ、そうだな。墓参りが終わったら、昼食でも取ろう。その後は、各自休憩になるだろう。明日は、旅立ちの日だから、しっかりと身体を休めるぞ」


「うん、そうするよ。じゃ、行ってくるね」


「あぁ、行ってらっしゃい」


 嬢ちゃんが旅館を出るのを見送り、そのまま旦那のいる部屋へと向かう。旦那のいる部屋はこの旅館の奥の部屋である。儂らが旅立つ日に、旦那たちや儂の部屋は綺麗に掃除するらしい。なんでも、いつ戻って来ても良い様にとホムホムが言っていた。まぁ、ホムホムの事だ、この部屋をホムンクルスとの会議場所にするのだろう。なんせ、旦那の部屋はホムホムにとって『両親の部屋』のようなものだ。だから、大切にしたいのだろう。


「旦那、今戻ったぞ」


 旦那の部屋の戸を開け、中へと入る。テーブルの上に置かれた『銀色の正方形の欠片』を手で触りながら、旦那は何かブツブツと呟いている。どうやら『狂いの欠片』を観ながら、何か考え事をしているようだ。欠片は全部で六つあると言われており、世界中にばらまかれている。六枚の欠片を集め終えたとき、星の中心に『台座』が現れるらしい。その後については、隊長クラスの御方にしか教えられていない。


「竜仙、お帰り。頼んでおいた武器の回収は終えているか。しかしなぁ、まさか隊長から――はぁ、此奴は本当に困ったわ」


「どうしたんだ、旦那。隊長から直々の連絡でもあったのか」


「あぁ、さっきな。少し――いや、めっちゃ大きな問題が発生したんだ。正直に言って、困っている」


 眉間に皺をよせ、右ひじをテーブルに乗せ手元で口を隠しながら唸っていた。この時の旦那は、何か面倒くさい仕事を押し付けられ『どう対応すればよい』のか考えている時の

難航している問題に生じて見せる表情と酷似している。うん、手伝うのが面倒くさいから、旦那に任せよう。


「旦那、頑張れ」


「てめぇも、手伝え!! 俺の部下だろうが、少しは俺の手伝いくらいしろ!!」


「だが、断る!!」


 こうして、儂らのシャトゥルートゥ集落を旅立つ前日が終わったのだった。

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