20話 翌日の集落
どうも、皆さま
8月までに間に合わなかった orz
今後もこのような事が起こるかもしれませんが、頑張ります(;;
では、次章で会いましょう ノシ
あの宴会から翌朝を迎え、朝日が上がるとともに目が覚めた。昨日の騒ぎが嘘かのように静まっており、いつものように外には誰もいない。この時間帯は、手紙の配達員や鍛冶屋の人が武器を打ち始めるなど、集落の人たちが動き出す時間帯で賑やかな音が聞こえるはずなのだが、今日はそのような賑やかな音がまったく聞こえない。これはどう言う事なのかと言えば、集落の人全員が二日酔いで倒れているのだ。酒に弱いのに、あんなにいろんな種類のお酒を大量に飲んでいればそうなるに決まっている。ぁ、ちなみに子どもたちは二度寝しているのかもしれない。隣で寝ているはずのイスズ様の方へと顔を向けると、そこには気持ちよさそうに寝ているイスズ様の寝顔があった。それを見てから起き上がり、イスズ様を起こさないように布団を畳む。
「うん、とても静かだ。本当に静かすぎて、怖いんだけど。皆、結構な量のお酒を飲んで、どんちゃん騒ぎしていたけど、本当に大丈夫かな。取りあえず、着替えよう」
皆の事を一分だけ心配し、すぐに忘れて私服へと着替える。今日は、青いシャツに黒い長ズボンである。今日は軽い準備運動をしてから、クロノスでの戦闘訓練を行なう予定だ。ただ、クロノスの実力がどれ程のモノなのか分からない為、まずは魔力を流し過ぎないように適度な魔力調整の練習をして、その後は素振りと魔弾生成と発動の特訓をする。
「よし、朝ご飯食べてから練習だ!! うん、本格的に身体を動かすなら、しっかり朝ご飯を食べないとね。今日は焼き魚が食べたい気分だけど、今日の朝ご飯は何かな?」
今日の朝食の事を考えながら部屋の中にある洗面台へと移動し、いつものように歯を磨く。歯を磨きながら、片手で魔弾を一つ作成する。炎の魔弾が完成した後、そこから属性をコロコロと変えていく。弾丸を製造し、さらに弾丸の属性を変えていく。これは、魔弾生成技術を持つ者にしか出来ない技らしい。ガンブレードに弾丸を装填したまま、弾丸の属性を自在に変更できるようになれば、戦闘が有利になるはずだ。
(シータさんのおかげで、上手く魔法操作が出来るようにはなったかな。もうちょっとだけ、制御が上手くできれば良いなぁ)
そんなことを思いながら魔弾を消し、歯を磨き終えた後に冷たい水で顔を洗う。洗面台の所に置かれたタオルを手に取り、ポンポンと軽く叩くように顔を拭く。タオルを洗濯箱に入れ、パジャマから私服に着替える。
「よし、着替え終えた。さてと、皆は起きているかな? 昨日は結構どんちゃん騒ぎだったみたいだし、疲れてまだ寝てるかもしれないし。朝ご飯は流石にあると思うけど、無かったら作らないとダメだよね。はぁ、板前さん作ってくれるかな」
そう呟きながら、私は部屋を出て食堂の方へと向かった。途中、仲居さんと出会ったので「朝ご飯、ありますか?」と尋ねてみたら、笑顔で「はい、ありますよ」と答えてくれた。ちなみに、今日は「シャムシャムの塩焼きですよ」だそうだ。シャムシャムとは、現代世界で言う『ニジマス』のような魚である。イスズ様の世界と似た世界での監視業務の時は、よく魚を食べたものだが『ニジマス』や『アユ』は本当に美味しかった。
「楽しみだなぁ。シャムシャムの塩焼き、私の大好物なんだよね。うん、久しぶりに食べるから、しっかり味わって食べなきゃね。食べ終えたら、すぐに道場に行かないと」
スキップしながら食堂へと向かっている中、死にそうな表情をしている人を何人か見て素通りした。青ざめている人や倒れている人たちを見て『二日酔いになるまで、飲ん出たんだなぁ』と思いながら苦笑した。そんな死屍累々の屍を超えて、何事もなく無事に食堂に到着すると、食堂には生き残った戦士たちが顔を青ざめながらチェル貝の味噌汁を注文していた。よく飲み過ぎた日は『二日酔いには、チェル貝の味噌汁』と言われており、昨日の飲み過ぎた彼らがそれを注文するので、今日は飛ぶように売れている状態である。
さて、席がそこそこ空いてはいるが、私が座れそうな席が無いか探す。知らない人と一緒の相席は、あまりしたくないので知り合いがいるか探してみると奥の方の席に見覚えのある姿があった。そこには、キャティちゃんとジュデッカ君が向かい合う様に席に着いていた。二人とも仲が良いのか、お茶を飲みながら何か話していた。そんな二人を見つけ近づくと、私に気が付いたのか嬉しそうに手を振っていた。
「ミーアちゃん、おはよう!! こっちの席は空いてるよ!! 座って座って」
「おはよう、キャティちゃん、ジュデッカ君」
呼ばれるがままにキャティちゃんの隣に座ると、ジュデッカ君たちはメニュー表を持っていた。食堂内に漂うシャムシャムの良い匂いにつられ、キャティちゃん達にも聞こえるくらいお腹が鳴ってしまった。もう聴かれるのにも慣れてしまったので、気にする事無く給仕の人が来るのを待ちながら、キャティちゃん達に話しかけることにした。
「キャティちゃん達、今日は随分と早起きだね。昨日は試験だったし、ゆっくり休んでるのと思ってたんだけど」
「うん、最初はそうするつもりだったんだけどね。でも、ミーアちゃんが旅に出る事が決まったから、ミーアちゃんがいつでも帰って来れるようにこの集落を守れるくらい強くなりたいと思って、ジュデッカ君と相談したんだ」
「僕もキャティと同じ気持ちでした。だから、少しでも強くなるために修行をしようと思いまして、いつもより早く目が覚めたんです。何と言いますか、僕たちにとってもこの集落は大切な場所ですので」
そう言って、二人は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら笑っていた。キャティちゃん達にとって、この集落が『第二の故郷』なのだろう。罪を償うためもあるのだろうが、そう思ってくれるだけでも嬉しくなる。私が旅に出る日も決まり、皆と会えないのが寂しくなる。
「帰る場所、か。うん、キャティちゃんたちがいれば百人力だね。キャティちゃんは魔法の才能があるし、ジュデッカ君は射撃も上手いよね。後は、近接戦闘の特訓で弱点を克服すれば完璧だよね」
「そうですね。僕としても、銃以外にいろいろと武器を触ってはいるんですが、これと言った物が無くて。双剣での戦闘の方がしっくり来るので、今は双剣での戦闘訓練をしてはいるのですが、まだ間合いとかが上手く取れないんですよね」
「なるほど、なるほど。双剣での間合いの取り方とかが苦手と。元々、双剣は短剣と同じで走りながらの戦闘が得意だからね。変則的な手数の多い攻撃や奇襲攻撃、味方のフォローとかは、双剣の良い点かな。弱点は、防御面が無い事だね。受け流しを主に、反動をどれだけ抑えられるかがポイントだね。そうだ、折角だし私と模擬戦でもしようか? 私も新しい武器の感覚を掴むために練習するつもりだから、ジュデッカ君の練習にもなるし一石二鳥だよ」
そんな提案を出すと、ジュデッカ君は一度考えてから「お願いします」と頭を下げる。その姿勢を見て、今日予定していた訓練を少し変更してジュデッカ君との戦闘訓練に変える事にした。私達だけでは怪我した時の応急処置が間に合わないと思うので、キャティちゃんにも練習に付き合ってもらうことにした。キャティちゃんの回復魔法は中々に優秀なので、どんな攻撃を与えてもすぐに回復魔法が飛んでくるはずだ。なので、私たちは朝食を食べ終えてから武器を整えて練習場へと向かった。
「攻撃がまだ甘いよ!! もっと懐に踏み込むように移動する!!」
「ハイ!! ッハ!! セイ!! テリャ」
野外の練習場で、私たちは軽い打ち合いをしている。キャティちゃんは回復メインで、私達の戦闘を見守っている。これは、状況判断力を鍛える訓練のようなものだ。ジュデッカ君との戦闘で、どのタイミングで回復魔法を飛ばすのか。敵に回復魔法を飛ばさないようにする特訓も兼ねている。そして、私とジュデッカ君は先ほどから互いに攻撃をしている。双剣とガンブレードでの戦闘だけあって、互いの弱点を理解しながら攻撃を防いでいく。しかし、まだ銃を使う時の癖がまだ残っているせいか、攻撃をする度に立ち止まることがある。その癖を見て、すぐに私は魔弾を装填する。
銃とは違う立ち回りのせいか、何度か立ち止まるときがある。銃での攻撃は『走りながらの乱射』と『立ち止まっての射撃』を行なうのが通常だ。他には茂みに隠れての『精密射撃』とかもあると聞く。ジュデッカ君はどちらかと言うと『立ち止まっての射撃』が多いせいか、どうしても攻撃するときに足を止めてしまう。双剣は重い攻撃が苦手であり、立ち止まって攻撃はなるべく避けるべきである。そんなジュデッカ君の攻撃を私はクロノスで防ぎつつ、クロノスの引き金を引き魔弾を発動させる。
「また、立ち止まってるよ!! バレッドブレイク!!」
「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああ」
「そして、飛んでいくジュデッカ君に向けて。ヒール・ショット」
壁にぶつかる寸前で、キャティちゃんの回復魔法がジュデッカ君に当たる。そして、回復したと同時に、ジュデッカ君は私の元へと走り出す。そんな攻防を続けながら私とジュデッカ君、キャティちゃんの三人による戦闘訓練は続く。
「まだ、行くよ。エンチャント・フレイム!!」
クロノスに装填している爆炎弾を発動させ、クロノスの刃に炎を纏わせる。そして、ジュデッカ君の持つ双剣がぶつかると同時に爆発を発生する。その爆破の衝撃で『また』後方へと吹き飛び、そのまま地面へと受け身を取るとすぐに立ち上がる。何度も撃ち込みながらも、ジュデッカ君は弱点を克服するために何度も立ち上がっては攻撃を打ち込む。その度にキャティちゃんの回復魔法が飛ぶと言う、そんな練習をずっと続けていく。
そして、気が付けばお昼を過ぎていた。戦いに集中していたからもあるが、ここまで本格的に打ち合ったのは久しぶりだった。何度も何度も打ち合っていたのだが、弱点を克服するまでには至っていない。それでも、最初に比べて改善は進んでいる。この調子で打ち合っていれば、弱点も克服できるだろう。
「ひ、ひと、一先ず、み、みみ、水、を」
「ジュデッカ君、水分補給を怠るからこうなるんだよ。私も言うのもなんだけど、ちゃんと休憩を取らなきゃだめだよ。特に練習中の水分補給はちゃんとしないと、こうなるんだからね」
現在、地面に仰向けになった状態のジュデッカ君が、虚空を掴もうと手を伸ばしながら水を求めていた。死にかけ寸前とは言え、まだ水を求めるだけの力は残っているようだ。やり過ぎたとは言え、休憩をとるタイミングはあったのだ。それを、まさかの休憩なしで突っ込んでくるのだ。その結果がコレなのだと思うと、逆に私が『休憩しよう』と言うべきだったのだと反省してしまう。
「ジュデッカ君とミーアちゃん、水分補給を忘れるほどの集中してたからね。ミーアちゃん、ジュデッカ君の攻撃すべて弾き返してたから、私の回復魔法のすべてがジュデッカ君に集中してたよ。それも約二百四十回もシリンダーに装填している弾丸を発破してたからね。その結果、ジュデッカ君がいろんな方向へと飛んで行ったから怪我を治しては治しの作業が辛かったよ。一瞬だけど意識が飛びかけて、回復薬を何十本も消費したよ。口の中が今も柑橘の味が広がってる状態で、少し気持ち悪い状態だよ」
「そんなに飛ばしてたんだね。私、三十回を超えたところで数えるの止めたよ。でも、キャティちゃん、何回も回復魔法お願いしてごめんね。取りあえず、ジュデッカ君のために医療班を呼ぶから、キャティちゃんはこの水筒の水をゆっくり飲ませてね」
「うん、分かった。ジュデッカ君、ゆっくり起こすかね」
キャティちゃんにそう伝えてから急いで医療班の人たちを呼びに行った。そして、ジュデッカ君を看病しているキャティちゃんの元へ到着し、そのまま医療班の人にジュデッカ君の事を任せた。すると、医療班の一人の女性が症状を確認し終えたのか資料を手に持ち、此方へとそれを持ったままやって来た。
「水分補給を忘れての脱水症状と疲労ですなぁ。ジュデッカさんについては、此方でお預かりいたします。点滴で様子見しますので、此方にサインをお願いいたします。連絡先は此方にお書きください。回復いたしましたら、其方へと連絡いたしますので」
「分かりました。キャティちゃん、連絡先書いて置くから片付けを任せても良い?」
「うん、分かった!! じゃ、すいませんがお願いします」
武具と言っても、練習の時に爆破の衝撃で吹き飛んだ鎧とか木剣などが地面に散乱している。その武具を見て、キャティちゃんは地面に落ちている武具を片づけに向かった。その姿を確認してから、医療班の方が持っていた書類に目を通す。内容を確認してから、連絡先に私の住んでいる旅館の名前を記載し、その女性へと書類を手渡す。
「はい、確かに。では、失礼いたします」
そう言うと、医療班たちはジュデッカ君をタンカーに乗せ、そのまま医療所へと運んでいった。ジュデッカ君はうめき声を上げながら、そのまま医療班の人たちに連れていかれた。その光景を見届け終えてから、キャティちゃんと一緒に残りの片づけを手伝う。時間はかかったが何とか片付け終え、私たちは一度旅館に戻ることにした。ちょっと寄り道しようと思ったのだが、汗臭いため旅館に戻って風呂に入りたくなりそのまま戻ることにしたのだ。
「ミーアちゃん、今日は凄かったよ。ガンブレード?だっけ、それでの戦闘訓練。必死にジュデッカ君が攻撃するのを受け流しながらも、引き金?だっけ、それを引いて魔弾を爆発させて遠くへと吹き飛ばすの。それに、ミーアちゃんの戦う姿がかっこよかった」
「そうかな? ジュデッカ君も頑張って攻撃してたから、私も少し本気を出したくなったからかな。でも、まさかガンブレードの攻撃であんなに派手に吹き飛ぶとは思わなかったよ。キャティちゃんが怪我もすぐに治してくれたから、ジュデッカ君も俄然やる気が出たのかもしれない。私の攻撃をあれだけ耐えられるのなら、ジュデッカ君は間違いなく強くなるよ」
「うん!! 私もそう思う!!」
そんな話をしていると、気が付けば旅館が見えてきた。旅館の前では帰宅するのだろうか、馬車が止まっていた。馬車の事が気になるが取りあえず旅館の中へと入ると、左奥の方にある休憩スペースから聞き覚えのある声が聞こえた。声の方へと顔を向けると、そこにはリューちゃんと貴族の人たちが何やら真剣な表情で話し合いをしていた。何を話しているのか此処からでは分からないが、貴族の人たちも真剣な表情でテーブルに置かれている資料のような物を見ていることは分かった。
「あれ、あそこにリューちゃんがいる。貴族の人たちもいるみたいだけど、何やってるんだろう? キャティちゃん、何か知ってる?」
「多分、この集落の利益率とかの算出でもしているんだど思うよ。昨日、リューセン様が貴族の人たちに『今後について話し合いたい』と言ってたのを聞いたから、多分その事であそこで会議してるんだと思うよ」
「へぇ、そうなんだ。今まで貴族の人たちの会議を観たことが無かったけど、こんな場所でも会議をするんだね。情報の流出が怖いんだけど、そこら辺はリューちゃんの結界で封じてるんだろうなぁ」
そんな話をしながら廊下を歩いていると、何度か仲居さんとすれ違った。時刻は正午を過ぎているためか、朝に比べてのんびりと廊下を歩いていた。去年からこの集落に商人などの人が来るようになり、この旅館にも多くのお客が宿泊しに来るようになった。そのおかげで、この集落の事も有名になったのは言うまでもない。勿論、良い意味も悪い意味も含めてである。悪い意味と言うなら、処刑場の事だろう。あそこが観光地になっており、時たま盗賊団を捕縛したりする。そして、その後は裁判にかけられ死刑になるかどうかである。その結果、死刑になったときの死刑執行風景を観に来ると言う、何とも悪趣味な観光が人気だとか。
「ふぅ、こんなところか。準備は一通り終わったし、収納指輪に保管してと。後は、この次の目的地を決めるか」
そんな話をしながら自室へとキャティちゃんと一緒に戻ると、そこではイスズ様が旅の支度を始めていた。旅はまだ先なのだが、着替えなどの整理をし終えたようだ。テーブルの上に置かれた地図の方へと向かい、次の目的地をどこにするか調べ始めた。私たちがいる事に気が付いているのか怪しいが、私は着替えとタオルの入った籠を手に取る。すると、私たちの事に気が付いたのか、イスズ様はいったん作業を止めて声をかけてきた。
「ん、ミーアにキャティちゃん、お帰り」
「「ただいま、です。イスズ様」」
イスズ様は微笑みながら頷くと、手に持っているペンと地図をしまった。私たちが帰って来たことで作業をいったん中断したのかもしれない。そう思うと、作業の邪魔をしてしまったのではと思うと、なんだか悲しくなってしまった。だが、イスズ様はそんな私の事を気遣ってか、近くにある急須を手に取るとポットに入ったお湯を淹れながら話し始めた。
「まったく、ミーアたちのせいで手を止めたわけじゃないさ。ただ、息抜きがしたかっただけ。それに、今さっき次の場所も決まった。ただ、ちょっと二人に聞きたいことがあるから、手を止めただけに過ぎない。だから、そんな悲しそうな表情はしないでくれ。まぁ、立ってないで座ってお茶でも楽しみながら話し合おうじゃないか」
私たちに聞きたいことがあると言うと、テーブルに置いてある地図をしまう。そして、茶菓子の入っている箱にある湯呑を三つ取り出し、急須のお茶を湯呑に淹れる。本当にイスズ様は優しい人だ。だからか、私たち二人はイスズ様と向かい合う様に席に着いた。そして、淹れたてのお茶が入った湯呑とお茶菓子を差し出した。
「風呂に入る途中で悪いな。次の目的地は『バルダ』と言う街だ。そこに狂いの欠片の反応があったと先ほど隊長たちから報告があった。だが、バルダへのルートについて、必ずこの『ゲーディオ』と言う街を通らなければならない。本来なら気にするようなことでもないのだが、問題が発生してな。バルダとゲーディオまでの道中で『ゴーレムの大量発生』と言う情報を得た。出来ればゴーレムとの戦闘は避けたいのだが、バルダへのルートは此処しかない。だから、二人に聞きたいのは、この街道以外に抜け道はないかと聞きたい」
「ぇ、マジですか。ゴーレム大量発生って」
「あぁ、マジだ。俺たち、ゴーレム運だけは高いようだ」
「あ、あははは。ミーアちゃんとイスズ様、大変だなぁ」
苦虫を噛み潰したよう表情をするイスズ様を見ながら、何か突破口は無いかを考える。今まで集落の外を出た事が無い私には無理かもしれないが、これでも商人の人たちや冒険者の人たちからいろんな情報を教えてもらっている。だから、きっとその中に解決策があるはずだろう。さて、頑張って思い出そうとしていると、私のお腹が鳴ってしまった。そう言えば、お昼ご飯を食べ損ねている。だから、お腹が鳴るのも仕方がない事だが、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。でも、そのおかげで一つ思い出したことがあった。
「中央都市ディアラ。確か、今バルダとの街道を作ってると聞いた気が」
その一言を聞いてか、キャティちゃんは驚いた表情で私の方へと振り返った。なんか、言ってはいけない事でも言ってしまったのだろうか。でも、これは確か腹が減って倒れていた商人さんから聞いた話だ。皆は知っていることだと思ったのだが、どうなのだろうか。
「ディアラ!? ミーアちゃん、あのディアラの事を言ってるの? 確かに、バルダとの貿易のために街道を作っているけど、あれは情報規制されてるから極少人数しか知らないはずなんだけど。なんで、知ってるの?」
「ぇ? 確か、空腹で倒れていた商人が来てて、ご飯を奢ってあげたら『お嬢さん、助かったよ。これはお礼だよ』と言って、快く教えてくれたんだよ」
「ぇ、えぇぇ。秘密情報のはずが、なんでこんな簡単に漏れてるんの」
何故かショックを受けて俯くキャティちゃん。機密情報と言う事は、部外者に漏れては拙い情報なのだろう。そして、その事を知っている商人さんは、もしかして王室御用達の商業組合の人なのだろうか。まぁ、そんなことはさておき、イスズ様は有益な情報を得たと微笑みながら頷いた。
「なるほど、ディアラか。確かにそこについて見落としていたな。標高の高い山で分断されているから、此処からバルドに行くのは危険だと判断したのだが、此処に街道が出来るのか。山を削ってなのか、そこらへんの詳しい情報を得る必要があるな。取りあえず、この件の裏を取ってからだな。二人ともありがとう。ちょっと、冒険者ギルドに行ってくる。時間取らせてすまなかったな」
そう言うと、イスズ様は立ち上がり部屋を出た。これで目的地も決まったようだし、この集落とのお別れの日が近づいたような気がした。寂しくも有り、なんだか楽しみでもある。
「なんか、イスズ様の問題も解決したようだね。目的地も決まったようだし、お風呂入りに行こうか」
「うん、そうだね。ミーアちゃん」
その後、私はジュデッカ君とキャティちゃんと一緒に一か月間特訓を行なった。たまにイスズ様やリューちゃんも特訓に付き合ってくれたりしたおかげで、ジュデッカ君たちはそれなりに強くなった。
そして、運命の日になり――――。




