19話 結果発表
どうも、最近になって忙しくなってきた私です。
熱い中、皆さんお元気でしょうか?
しっかりと水分補給を取ってくださいね。
私みたいに、熱中症と夏バテで、執筆が出来なくなる日が続きますから。
では、また次話で会いましょう ノシ
広場に到着すると、皆がバーベキューの準備をしていた。主婦の方が野菜を切り、肉屋の男衆がダンジョンで手に入れた鹿肉を運んで部位ごとに分けていたりなど、皆が様々な作業を行なっている。当然だが、鹿の解体については子ども達が見れない場所で作業を行なっていた。
貴族の人たちも何故かここに住んでから、此方側の色に染まってきたような気がする。だって、貴族のお嬢様がお肉焼いているのだよ。それも楽しそうに笑いながら、お嬢様と同じくらいの年齢のセバスチャンが、広場に設置されたキャンプ用の網焼きへと炭を入れている。
(いや、セバスチャンとお嬢様の人数が増える!? あれ、今まで四か五くらいだったはずなんだけど!?)
前は四、五人程度だったはずなのだが、今では二倍くらいは増えているのではないだろうか。ここ、普通の集落だったはずなんですが。あれ、お嬢様たちが楽しそうに芋ほりしてたり、田植えを体験していた光景が一瞬だが脳裏を過った。あれ、そう言えばなんか川下りとかのレジャー施設建てる計画なんかもどこからか聞いたような気がする。
さて、そんなことを考えていると、お嬢様と一緒にお肉と野菜が交互に刺さっている鉄製の串針を、網の上に置いて楽しそうに焼いている。その光景を観て、私は「まぁ、良いか」と呟き、広場の周りをぐるっと一周する。
「うぅん、イスズ様たちは居ないみたいだね。確か、広場で待っているはずなんだけどなぁ。もしかして、あの会場の中に居るのかな」
広場の周りを周りながらイスズ様達を探していたのだが、何故かイスズ様達の姿が見つからなかった。広場にある特設会場がいつの間にか配置されており、会場内も確認してみたけどイスズ様達は見つからなかった。そうなると、広場ではなく別の場所にいるのではないだろうか。
「イスズ様、一体どこにいるんだろう? 広場に居ないとすると、薬屋か鍛冶屋か。それとも、錬成所か――ぁ」
錬成所と言う言葉を発したことで、すっかり忘れていた『あること』を思い出してしまった。そう、それはリシューさんのお寺に入る前にあった『設計図強奪事件』の事を思い出してしまったのだ。何故、忘れていたんだろうか。今すぐにでも乗り込んで、あの設計図を取り返す――いや、もう遅いか。あの錬成所の職員たちの仕事の速さは、とにかく異常だ。一時間あれば、依頼を十件は片づける。それも高難易度の依頼を、息でもするかのように『ぁ、氷属性の武器に炎と雷の属性を複合させたいと。はい、それなら五分くらい頂ければ出来ますね。はい』と言って、本当に終わらせるのだ。そんな錬成所職員たちが、私からあの設計図を奪い取った時の血走った眼。そして、奪う瞬間に言っていた『儂らの魂が叫んでおる!! それを作れと、叫んでおるぅ!!』とか、もう人間やめてるのではないだろうかと思うぐらいだった。そんな彼らがあの設計図を奪い、もう時間が結構経っている。
「あぁ、この世界に禁忌級の武器が誕生してしまったのね。あれ、絶対に私だけにしか使えない仕様の武器だし。イスズ様も何であんな化け物レベルの武器を作ろうとしたんだろう。う~ん、アレって厳重封印必須レベルだもんなぁ」
そんなことを呟きながら、私は広場に置かれている木製のベンチに座った。このベンチからは、楽しそうにバーベキューをする人と会場の上でマイクスタンドを設置する人たちの姿が見える。時刻はもう夕方を過ぎており、ジュデッカ君やキャティちゃん達も会場入りしていた。でも、私には気づいてはいないようで、焼かれている肉や魚を食べている。
さて、そんな光景を観ながらも『あの設計図』の事を考えていた。もう、あの武器は完成しているはずだ。そうなると、あの武器の能力は危険すぎる。だからこそ、厳重に能力だけでも封印し、私が所持する必要がある。盗まれたとしても、封印を解けなければ危険はないのだ。能力によって死者はでないはずだし、どうせなら盗まれたとしてもすぐ手元に戻って来る魔法とかも作っておこうかな。
「解除不可能の複雑術式でも作ろうかな。それで、私か私が認めた者以外は使用できないように作ろう。もう、作製を阻止できないし、そのくらいの事をしないと絶対に被害が増すよね」
もう武器の件は諦めて、今後の対応策を考えることにした。取りあえず、今回の件は後でイスズ様に相談した方が良いかもしれない。私の手では完全に能力を抑え込めるかどうか不安である。封印するときに穴が無いかの確認とかもしてもらいたいのだ。私が気づかない場所で漏れがあるかもしれない。この世に完璧なんて言う人間はいないのだ。
「取りあえず、魔力波長と指紋認証、声紋認証は必須かな? 後は、何が必要かなぁ。アレを確認した限りでは、接触による魔力の急速吸引が怖いところだよね」
「まぁ、そうなるように設計した武器だからな。それに、魔力吸引速度は、ミーアなら調整が可能だろう。俺としては、お前が言っていた魔力波長と指紋声紋の認証だけで問題はないと思うぞ。そもそも、あの武器はミーアの魔力を過剰消費しない設計だ。あまり危険なモノではないが」
右隣からイスズ様の声が聞こえたので顔を向けると、そこには焼かれた肉や川魚、それに野菜が乗っている皿と割り箸を二つ持っていた。そのうちの一皿を私の方へと差し出す。いつの間に隣にいたのかを聞きたいが、折角なので皿と割り箸を受け取った。
「そうですよねぇ。そう言えば、先ほどまで広場に居なかったようですが、どちらに行っていたのですか?」
「ん? あぁ、錬成所に行っていた。夜兎の他に、俺専用の武器を回収しに行っていたんだ。そろそろ、欠片集めの旅を始めるからな。なんだかんだで、キャティの持っていた欠片一つだけが手元にある状態だ。それに、これが届いたからな」
そう言うと、イスズ様は皿を膝の上に置き、懐から一枚の手紙を取り出した。ただ、またすぐにポケットに戻し、割り箸を割ってから膝の上に載っている皿を持った。先ほどから、皿の上に載っている鹿肉や焼き魚の香りでお腹が鳴りそうである。
「まぁ、取りあえずは夕飯を食べようじゃないか。そろそろ、結果発表をするつもりだしな。腹が減っては何とやら、てな。さてさて、ダンジョンの鹿肉は美味しいのかどうか。早速、食べるか!!」
「はい、そうしましょう。流石にこの匂いを嗅いでたら、凄くお腹が空きます。まさにお預けされた狐ですよ!!」
「まぁ、今のミーアって狐族だもんな。さてさて、竜仙から話は聞いてはいたが、あの試練のダンジョンで生息していた鹿を狩猟したとか。血抜きをちゃんとしたらしいが、初めてダンジョンの鹿を食べるからな。竜泉から聞いていた分、本当に楽しみだったんだ」
そう言うと、イスズ様はそのまま肉に齧り付いた。本来なら、鹿肉は発酵させた方が美味しいのだが、このダンジョン産の鹿肉は発酵させなくても凄く美味しいのだ。ただ、肉屋のゲンさんが「熟成したらどうなるか、試してみるか」と言って、一頭だけ熟成させるために肉屋に持っていた。熟成した鹿肉は、この鹿肉よりも更に美味しいのだろう。私もちょっと専用の熟成工房でも作って鹿肉を熟成させてみようかな。
「おぉ、凄く美味しいなコレ!! 熟成させていないのに、獣臭さが全くないぞ!! 塩コショウだけで、こんなにも美味いのか。しかしながら、こうなるとダンジョン鹿のビジネスも視野に入れるのも有りだな。取りあえずは、明日にでもダンジョンの調査をして、問題ないかを確認せねば。後、密漁の事も考えて生態系が崩れないように、狩猟の出来る数量も決めなくてはならないな。よし、これについてはギルドマスターとホムホム、ティエと相談だな」
「そうですね。うん、こんなに美味しいですから、密漁が出てもおかしくないですね。そこの制限や罰則はちゃんと決めないと」
しばらくイスズ様と一緒にご飯を食べながら、幸せなひと時を過ごしていた。もっと長く幸せな時間を過ごしていたかったのだが、気が付けばもう夜になっており結果発表の時間が近づいていた。私はさらに乗っているご飯を食べ終え、ゆっくりとお茶を飲んでいた。イスズ様も同じようにゆったりしていたのだが、時間になったことに気が付いたのか、空っぽになったお皿とコップを手に持ち、私の方へと振り返った。
「さて、もう時間だ。会場の裏側に皆が待っているはずだ。もう食べ終えているようだし、そろそろ行くぞ」
「はい、わかりました!! あの、このお皿はどちらに? 流石にベンチの上に置いて行くのはどうかと思うのですが、片付ける流し場とかどちらにあるのでしょうか」
「その事なら心配しなくて良いノ。皆さんの食べ終えたお皿とコップは、私が持っていくノ」
イスズ様の背後から声が聞こえると、コック服を着た少女が微笑みながら此方へと顔を出していた。紅紫色の瞳に紫色のショートヘアで顔立ちも整っており、どことなくティエさんに似ている。彼女はすぐにイスズ様と私のお皿とコップを回収すると、洗い場へと向かって歩いて行った。私達はその姿を見届けながら、ふと『あの子、この集落に居たっけ』と言う疑問に思い、イスズ様に質問する事にした。
「可愛らしい子でしたね。働いている姿も様になっているのですが、どこか観たことのある顔立ちです。ところで、イスズ様。あんな可愛らしい子、この集落にいましたっけ? どことなくティエさんに似ているように見えるのですが、あの子は一体?」
「あぁ、そうだったか。確かに、あの子は今朝来たからな。ミーアが知らないのも無理はない。当然だが、ミーアは初対面だ。あの子はティエさんの妹さんでな、竜人族の第二皇女『リテシア・ロンド』さんだ。この集落の料理を食べたことで、皇女さんが『料理人』になりたいと言ってな、うちの板前さんに弟子入りしたらしい。今は、旅館の厨房で必死に皿洗いとか、調理の仕方とかを学んでいるらしい。あの子、竜人族の第二皇女だったはずなのだが、何故こうなったんだろうか」
「へぇ、そうなんですか。どことなくティエさんに似ていましたが、確かに妹さんなら納得ですね。多分ですが、妹さんもホムちゃんに恋しているのではないですか? さっき、ホムちゃんと親しげに話していましたから。時折ですが、頬を赤らめながら、ホムちゃんとお話ししていましたから。まぁ、皇女二人が同じ人を愛するって結構あるらしいですし、あそこにいる竜人族の王様と王妃様も喜んでいるみたいなので、問題はないと思いますよ。逆に、旅人の血を引いたホムンクルスとの子どもが増えると思えば、王様としても嬉しい限りだと思います」
「なるほどな。確かにそう考えると、まぁ、重婚も許されるわけか。竜人族の王様とのコネは大事だからな。ホムホムを政治の道具のように使いたくはないが、これも重要なのかもしれないな。あとで、ホムホムにも説明しておくか。いざとなれば、俺を呼べばいいからな」
そんな話をしながら、私たちは会場へと向かった。会場裏では皆が待っており、私を先頭に、キャティちゃん、ジュデッカ君、ホムちゃん、リシューさんの順で会場に登場するらしい。そして現在、会場ではライブが開かれており、前座として昨夜のガールズバンドの方々が楽しそうに演奏している。そして、リューちゃんはと言うと、会場にはおらず酒を飲みながら鹿肉に齧り付いて楽しそうに皆と騒いでいた。
(あれ、司会進行ってリューちゃんだった気がするんだけど)
そんな事を思いながらも、ガールズバンドの方々と入れ替わるように会場に上がる。すると、何故か反対側の入り口からギルドマスターやティエさん、そして各お店の責任者たちも会場に上がっていた。そして、会場の中央に設置されているマイクスタンドの方へとイスズ様が向かい、マイクの電源を入れると先ほどのティエさんの妹さんがグラスを私たち全員に配ってくれた。
「さてさて、皆の衆。凄く盛り上がっているところ申し訳ない。そろそろ結果発表の時間だ!! まずは、本試験を無事に乗り切り、帰還した彼らに盛大な拍手を!!」
イスズ様のその一言で、皆が私達へと向けて拍手を送る。中には指笛を吹いたりする者もいる。だが、皆が私たちの生還を祝福してくれていることは確かだ。そんな中、イスズ様は「さて、結果発表を始めるぞ」とマイク越しで話すと、先ほどまで賑やかだった歓声が一瞬で静まり返った。
「今回、ダンジョンで異変が起きた。だが、その中でも彼らは第一層である白夜大森林を攻略した。想定外の状態で、イレギュラーなフロアボス『ダイヤモンドウルフ』を倒した。また、討伐した証として素材も回収したことも確認済みだ。その功績を含めて竜仙と会議をした結果、今回の最終試験について『全員合格』とする!!」
その瞬間、空高くへと花火が打ち上がる。そして、花火の破裂音と共に大歓声が起こる。合格と言う言葉を聞いて、キャティちゃんとジュデッカ君が抱き合い、ホムちゃんとリシューさんは『当然だな』と言いたげな表情で頷いていた。私としても嬉しいのだが、それ以上に気になる事がある。それは、花火である。この世界で花火――それも、火薬を使った花火を始めて観た。基本、爆炎魔法を打ち上げて爆発させるのだが、火薬での花火など一度として無い。火薬なんて炭鉱や砲弾以外で使われない。
(そう言えば、花火を観るのは久しぶりだなぁ)
鳴りやまない歓声の中を、イスズ様はマイクスタンドからマイクを抜き、花火が打ち上がっている中で私たちが倒した魔物やダンジョン異変の事などを説明していた。今思うと、あの異変の原因を作ったお嬢様のおかげで、あのドラゴンの素材もゲットできた。イスズ様は、異変を起こしたお嬢様について説明し、現在お説教部屋で説教を受けているらしい。でも、そのおかげで滅多に手に入らないドラゴンの素材が手に入ったのだ。そう考えると、あまり怒れないと言うか。ギルドマスターとしても観たことが無いドラゴンの情報を得られるとあって嬉しいらしい。
「さて、これら重要な話に入る。俺や竜仙、そして、本試験で合格したことで一緒に旅することになったミーアについてだ。我々は、来月このシャトゥルートゥ集落から旅立つ事になった。取りあえずだが、此処にポータルを設置したので、いつでもここに帰って来れるようにした。我々に対する緊急の要件については、集落の長であるホムホムに報告をしてくれ。連絡回線は、ホムホムが持っているからな」
イスズ様が今後の事を話すと、歓声は止みジッとその話を聞き続けた。旅を始めると言う内容の他に、連絡手段などを説明している。その他にも、今後のダンジョン運営についての責任担当者などの名前を上げた。そんな中、私はホムちゃんへと話しかける。
「ホムちゃん、集落の長になったんだね。長の仕事って責任重大だから、後で秘蔵の胃薬を用意しておくね。明日までには出来ると思うから、出来たら渡しに行くよ」
「あ、ありがとうホム。薬ケースに入れて、常に所持しておくホムよ。ぁ、あははは」
乾いた笑い声を上げるホムちゃんを聞き、私も『同じ経験したなぁ』と思いながら頷いていた。責任者って言う立場って、本当に心臓に悪いんだよね。時たま、理不尽なレベルの問題を私に押し付けてくるのだ。あの時は、本当に血を吐いて入院した事がつい最近なようで懐かしい。あぁ、ホムちゃんには胃薬とかを持たせた方が良いよね。
「それにしても、母さんも責任者の経験があるホム? 父さんからそんなことを聞いた事が無いホムが」
「うん、イスズ様は知らないと思うよ。管轄が違うからね。で、責任者の経験についてだけど、昔だけどあるよ。昔のことだけど、あるよ。あの時は、本当に地獄を経験したよ。まぁ、ホムちゃんにはティエさんがいるから大丈夫だけどね。私の時は一人だったから。胃に穴が開いたり、血を吐いたりして何回も入院したのが良い思い出だよ。アハハハハ」
「うん、葬だったホムね。えっと、母さんも、苦労したホムね」
さて、私たちが互いに傷を抉る事を話していると、リシューさんが同情する目線を向けている事に気が付いた。そして、その眼を見て確信した。リシューさんも此方側の苦労人であると、その瞳と空を見上げた瞬間の青ざめた表情をみれば誰だって解かる。彼も、同じ苦しみを味わった仲間のようだ。
「これにて、結果発表及び今後の事についての説明は終わりだ!! 皆、このまま宴会を楽しむぞ!!」
『『おおおおおぉぉぉぉぉ!!』』
こうして、結果発表は終わった。今思うと、まだ一階層しかクリアーしてないのに、試験は合格したのだ。それだけダンジョンの異変が原因で、本来以上のレベルでダンジョンに挑んだことになる。そんな中、こうして無事に生き残ったのだから、凄い事なんだと今更ながら実感した。そして、ようやくイスズ様達と旅が出来る。そう思うと、とても嬉しい。
(ようやく、一緒に旅が出来る!! 楽しみだなぁ)
大人たちは酒を、子どもたちはジュースを持ち、美味しそうにご飯を食べている。そんな当たり前の風景を見ながら、先ほど焼かれたばかりの鹿肉のステーキを頬張る。これを食べ終えたら、私は先に部屋に戻って寝ようと思う。
「よぉ、嬢ちゃん。合格おめでとう。試験官として観ていたが、中々に良い戦いをしていたぞ」
「リューちゃん、ありがとう!! そう言ってくれると、頑張って戦ったかいがあるかな」
「そうかそうか。嬢ちゃん、ほれ。合格祝いだ」
そう言うと、リューちゃんは収納指輪から武器を取り出した。それは『ロストエデン』と全く同じ形をしたガンブレードだった。鞘に納まっていないのを見ると、まだ鞘が出来ていないようだ。そして、それが設計図に画かれていた武器だとすぐに分かった。
「此奴の名は『クロノス』だ。その名の通り、魔弾を発動することで『時を止める』ことも『時を加速または低速』させることが可能だ。これは『ロストエデン』をモチーフにして作られた武器だ。嬢ちゃんにとっても、ロストエデンを頻繁に抜かなくて済むだろう。あれ自体が、いわば神殺しの剣に匹敵するからな。狂いの神にあまり察知されたくはない。それ故に、同じ形をした『別物』をキューピッチで作成させたわけだ」
嬉しそうに笑うリューちゃんだが、その武器を数時間で完成させたことに驚きを隠せなかった。あの設計図を手に入れて、すぐに作成したとはいえ早すぎる。それ以前に、どうやって短時間で完成させたのだろうか。時間を停止させたのだとは思うが、そのような技術は彼らは持っていなかった気がする。まぁ、特例でイスズ様当たりが手を貸したのかもしれない。そう思う事にする。
「そうだったんだ。でも、設計図を見た限りでは触れた者は、私達以外なら魔力を根こそぎ持ってかれる仕様になってない? 何かしらのリミッターをかけないと、凄く危険な気がするんだけど」
「あぁ、その件については問題ない。嬢ちゃんの魔力と指紋及び声紋なんかでリミッターを解除できるようにしている。ちなみにだが、クロノスに魔力を限界まで込めると、込められた魔力が尽きるまで『世界が停止』するからな。出来れば使って欲しくはないが、守らなければならない者がいるのなら、使うことを許可しよう。ただ、これだけは覚えといてくれ。もしも使うのなら『俺』か『旦那』が近くにいる時にしろ。分かったな」
そう言って、私にクロノスを渡す。手に持って分かるのだが、ロストエデンよりも若干ではあるが重い。だが、魔力を流しやすさはクロノスの方が上な気がする。魔弾の生成もすぐにできるのは良いが、流しやすいのはちょっと怖いところもある。ここら辺は、何度か特訓をすれば改善できるレベルだと思う。そんなわけで、私は今後の方針をある程度決めたので、収納指輪に取りあえず入れておくことにした。
「うん、分かった。滅多な事が無い限りは使わないし、イスズ様たちがいる時だけにするよ。さてと、私は早めに寝る事にするね。明日からは、このクロノスでの戦闘訓練とかもしたいし、能力についても聞きたいからね。それについては、明日教えてね」
「おう、分かった。んじゃな、嬢ちゃん」
「うん、またね。リューちゃん」
その挨拶を終え、私はそのまま部屋へと戻り、いつも通りパジャマに着替えた。最近になって、この集落にパジャマが売られるようになった。可愛らしい物もあるのだが、私はシンプルな赤いパジャマを着ている。
(明日から、忙しくなるなぁ)
明日からは、クロノスを使用しての練習だ。魔力制御の特訓もそうだが、魔弾生成とかも含めて練習は必須だ。たった一月しかないのだから、真剣に特訓をしなければならない。イスズ様達の足を引っ張らないように、葬刃とクロノスの戦闘訓練をしっかりとやろう。そんなことを考えながら眠めを擦りながら、温かな布団の中に入る。明日からの特訓を考えながら、私は夢の中へと落ちるのであった。




