3話 集落の現状
最近寒いですが、皆様は如何お過ごしでしょうか?
私はコタツのありがたさをヒシヒシと感じながら、執筆しております。
さて、今後も頑張って書いてきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
では、次話で会いましょう ノシ
2016年2月10日:誤字修正
私は夢を見ていた。
それは、とても辛い夢だった。
燃え盛る集落に、人間の焦げた匂い。竜の鱗が突き刺さり砕かれた家に、泣き叫ぶ人々の声。そして、気がつくと場面が変わり、狭く暗い空間に閉じ込められた。体を動かそうにも動かず、顔だけを動かして見渡しても私以外に見当たらない。でも、絶えず聞こえる人間の叫び声が耳に入る。手で耳を押さえても、叫び声が聞こえる。そして、また場面が変わり、満月の登る夜空の下に広がる死体の海になった。咽る焦げた人間の死臭と腐った人間の匂いに、吐き気を模様しながらも必死に叫ぶ。
「嫌だ――、一人は、嫌だ!! 誰か、誰か助けて」
空へと向けて叫ぶけど、誰も答えてくれない。何度叫んでも、必死に周りを見渡しても、誰も返事を返してくれない。私は必死に叫んだのに、誰も助けてくれなかった。だから、私は必死に右手を伸ばした。私の手を握ってくれる人を求め、空へと手を伸ばした。
「誰か――助けてよ。お願い、だから」
涙で視界が歪み頭を下げながら、涙を必死に拭う。でも、涙は止まることなく出続け、ずっと右手を下ろし両手で拭おうとしたその時、誰かが私の手を掴み答えた。その手はとても暖かく、まるで父の手のような硬い手。でも、握っただけで安心してしまうような不思議な手である。
「俺を呼んだのは、お前か」
とても暖かく優しい声が聞こえ顔を上げた瞬間、凄まじい光とともに目が覚めた。どうやら、私はイスズさんの腕の中で眠ってしまったらしく、気がつくと見知らぬ部屋で寝ていた。左側から寝息が聞こえ恐る恐る顔を向けると、気持ちよさそうに寝ているイスズさんがいた。とても気持ちよさそうな寝顔を見て、恐怖心が少しだけ薄まり安心して身体だけを起こし周りを見渡せた。
「ここはどこだろう? ん、何これ」
私が寝ていた物に目が行った。この世界ではベッドが主流であり、この白い布地で肌触りの良い物に、毛布の上に乗っかっているふかふかの布。それに、頭を乗せていた柔らかい白生地のクルル。その全てが初めて見るもので、私の好奇心をくすぐる。壁に掛けられた絵の書かれた物や、三本の針が数字を指している不思議な木箱。床に敷かれている緑色の床から、鼻をくすぐる草の良い香りがする。それに、黒いツボに生けられた名の知らない綺麗な黄色い花。全てが初めて見る光景に、私は興奮のあまり尻尾を振りながら見渡していた。
「ぅ~」
「ッヒ!? い、イスズさんの声、かぁ。び、ビックリしたよぉ」
気持ちよさそうに眠っているイスズさんを見つめながら、私は昨日のことを思い出した。イスズさんの部下の人が「ヒャッキヤギョウ」と言う部隊を率いて、この世界の、この集落にやって来た。魔物以外にも、人間や私たち獣人族の人たちがいた。そして、部下の人たち全員が着ていた服装に、私は凄く興味がわいた。綺麗な黒の礼装服に驚いてしまったが、それ以上に彼らが放つ凄まじい魔力に身体が震えた。あの時、イスズさんの手を強く握ったのだが、それでも私の手を優しく握り返してくれた。そのおかげで、私は安心して彼らを見ることができた。イスズさんが傍にいるだけで安心できるんだと、私はすぐに理解することができた。でも、私は疑問があった。なんでコートを着たまま寝ているのだろうか。イスズさんにとって、コートを着たまま寝るのが普通なのだろうか。
(でも、綺麗な髪の毛だなぁ)
イスズさんの髪の毛を触りながら、昨日のことをもう一度思い出す。イスズさんと一緒にいた「リューセン」さん。額に生えた一本の角や着ている服装に対し、リューセンさんに似合った服装に興味があった。他にも、腰に巻かれた布に差してあった『銀色の短い刃物?』や、手に握られた『金色の道具』について興味があった。でも睡魔が襲い、それについて質問することができなかった。でも、きっとまた会うことができるのだから、その時に聞いてみることにする。あの時、仮面を外したイスズさんの素顔が、とても凛々しかった。それに、彼の匂いはとても懐かしかった。なんと例えれば良いのか解からないけど、ただ近くにいるだけで安心する。
「――うん、不思議な人だなぁ。初めて会うはずなのに、懐かしくて温かい気持ちになる」
しばらく寝顔を見ていると、どこかの扉が開く音が聞こえた。その音にビックリして飛び上がると、そのままイスズさんの上にボディープレスしてしまった。さらに、深海の底から這い上がる怪物のような低音を発したイスズさんの声に、私はビックリしてしまい身体が硬直してしまった。
「旦那、朝ですぜ!! 現状の報告を――嬢ちゃん、何をやってんだ」
「あわわわわわわ」
「り、竜、せ、仙。た、たすけ」
こうして、私とイスズさん達の一日が始まった。
☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆ = ☆
Side 五十鈴
「なるほど、そうだったか」
今、ミーアから今朝方の事故について事情を聞いていた。確かに、今目の前に広がる光景は、ミーアにとって初めて見るものなのだ。それを責めること自体がおかしい事だ。だから、今回は『お咎めなし』にした。それに、俺を起こすためにボディープレスしたという事で納得すれば良いことだ。それに、俺をじっと見ていただけなら別に問題ではないだろう。それに、目が覚めた瞬間見たことのない場所にいるのだ。好奇心に駆られるのは仕方がないことだ。
さて、現在この場にいるのは竜仙とミーア、そしてゴブリンである。竜仙は昨日と同じ黒生地の着物と、その上に『黒生地の羽織り』を着た姿である。ミーアに関しては所々汚れている白のワンピースであり、寝癖のせいで髪の毛がボサボサであった。すぐにでも風呂に入れて、髪の毛を梳かす必要がある。そして、ゴブリンである。このゴブリンの名前は『ボルト』と言う。茶色い肌に黄色い瞳のゴブリンであるが、黒のスーツを着ているせいか違和感がある。いつもなら白シャツに黒のジーパンで、その上にこげ茶色のジャケットを羽織っている。そのせいで、違和感があったのだと理解した。
「御館様、なんで髪の毛と瞳の色が黒なのでしょうか? 本来の色に戻した方がよろしいかと」
その場で膝を付き、頭を下げるボルト。やはり、今日は様子がおかしいような気がする。いつもならスーツ姿になんてなるはずがないし、いつにも増して俺への忠誠心が強いような気がする。いつもはもっとラフな感じなのだが、一体何があったのだろうか。
「黒? 竜仙、すまないが鏡を貸してくれないか? 現状の素顔を確認したい」
「鏡か? これで良いのなら、ほれ」
竜仙は帯に手を入れると、正方形の形をした折り畳み型の鏡を取り出した。青い枠の手鏡で、それを受け取りすぐに確認した。確かに竜仙の言う通り、黒髪に黒い瞳である。どうやら、この世界に来る時の影響で姿だけではなく目の色なども変わってしまったようだ。取り敢えず、元の姿に戻るためにその場で指を鳴らした。すると、鏡越しではあるが髪の毛と瞳の色が徐々に変化していく。髪の毛の色は、黒から黒みがかった茶色へと変わり、瞳の色は完全に琥珀色へと戻った。
「よし、これで良いだろう。ありがと、竜仙」
「別に構わない。それよりも、旦那。嬢ちゃんの目が凄く輝いているが、説明した方が良いんじゃないか? 説明求むってなぁ感じですし」
竜仙がそう言いながらミーアを見ているので顔だけ向けると、確かに目を輝かせながら尻尾を左右に揺らしていた。それほど凄いことではないと思うのだが、ミーアにとっては凄いことなのかもしれない。俺にとっては目の色を変えるだけではなく、顔の輪郭や体格を変えるのは至って普通のことだ。一般の人にとっては凄いことなのだろうか。この世界に来る前の世界でやっていた『刑事ドラマ』や『推理系のアニメ』では、変装マスクとかを一瞬で脱着する犯人や刑事なのが一般的だった。いや、普通に考えても現実でそんな事を簡単に出来ること自体がありえないのかもしれない。全てはフィクションであり、ノンフィクションであってはならない。そう考えると、ミーアが驚くのは必然であり、当然なのだろう。
「イスズさんの髪の毛や瞳の色が変わった!! す、すごい」
「そうか? いつもの事だから、あまり驚くような事でもないような気が」
「すごいですよ!! 髪の毛や瞳の色を変える事なんて、この世界にはいないってお父さんから聞いたことがあります」
俺に近づくと小さな声で「どうやって魔力制御しているのかな」と呟きながら、俺の手を握り満面の笑みで竜仙へと顔を向けた。何故、俺の手を握って満面の笑みになるのか不思議に思え首をかしげると、竜仙は腕を組んで黙って頷き話し始めた。
「取り敢えず、集落の現状について説明を終えてから風呂に入ってくれ。嬢ちゃんの着替えは、シータが準備してくれている。だから、安心してくれて構わない」
組んでいる手を離し、集落の中央に歩き始めた。集落の中央には、確か不思議な気配を感じた場所なはずだ。その事についてミーアに聞きたいと思っていたのだが、どうやら竜仙たちがその理由についての『答え』を見つけ出したようだ。俺はミーアの方へと顔を向けると、目が会い黙って頷いた。ミーアにはこの集落の現状を知る必要がある。
「御館様、私がご案内いたします。シータ様と六神将の一人、ベラーダがお待ちしております。他の部下たちからの報告では、慰霊碑などの下準備が整っているとのこと。集落の現状について報告を終えた後に、命令があればすぐにでも作業に取り掛かれる状態であります」
「了解した。六神将のベラーダが来ていると言うことは、魔法関係のトラブルだと考えるべきか。まぁ、その事については会ってから聞くとしよう。だが、先ほど『慰霊碑など』と言う点が気にはなるが、取り敢えず案内を頼む。ミーアも一緒に来るか」
ミーアは緊張しながらも頷き肯定した。それほど緊張する事でもないとは思うのだが、やはり目の前に『ゴブリン』がいることで、恐怖心から来る緊張ならば仕方がないのかもしれない。ボルトも自身の姿が原因で恐怖していることに気がついているらしく、ミーアに対してある程度距離を取っていた。
「了解しました。では、此方へ」
ボルトは立ち上がると、俺とミーアを竜仙たちのいる中央広場へと案内を始めた。やはり、いつものボルトではない。
それに、何故『ゴブリン』の姿で来ているのだろうか。もう『呪い』は解けているはずなのだが、何故かゴブリン姿である。それについて質問しようか悩んでいると、深い溜息を吐いてからボルトが話し始める。
「いや、もうこの口調は疲れた。御館様の疑問に思っているだろうから、あえて歩きながらで済まないが答えさせてもらう。何故、俺が今ゴブリンの姿なのか」
「ようやく、本来の口調に戻ったな。おう、それでどうしてゴブリンの姿なんだ」
「ぅ、うぅむ。話せば長くなるんで、完結に言わせてもらうと――」
ボルトは歩みを止めて振り返ると、話そうか悩んだようで一瞬だけ言葉を濁した。何故か、話すべきか悩んでいた。話してしまうと都合の悪いのか、苦悶の表情を浮かべながらとんでもない一言を俺たちに告げた。
「ベラーダの魔法実験のせいで、悲しきことかな『呪い』が再発した」
「またか!? また、あの馬鹿、失敗したのか」
「ベラーダさん? イスズさん、ベラーダさんとは誰ですか? それにボルトさんの本当の姿とは、何の事ですか」
蚊帳の外になっていたミーアが、俺の手を引っ張り質問する。確かに、これは身内の話なため、その質問が来るのは解かっていた。だが、この手の話を説明すると長くなる。何故なら「ボルトが人間だ」と言えば、その過程を知りたくなるのが普通のことだ。それにべラーダの説明に関して言えば、ただの「引きこもりの魔術師」と言えば簡単だが、何故引きこもっているのか、魔法の研究をしているのか等などの質問が富んでくる可能性がある。その為、この手については後でちゃんと説明した方が良い。
「後で、ちゃんと説明する。ここで話すと、長くなると思うからな」
「うん、わかった」
どうやら聞き分けの良い子のようで助かった。取り敢えず、ちゃんと説明をすることを約束し、ボルトの方へと顔を向けた。ベラーダ関係になると、何故か必ず疲れた表情をする。ボルトにとってベラーダは苦手な分類に属す存在なのだろうかと思いながら、途中で話が終わってしまったので話を続けた。
「で、ベラーダが何をした」
「ゴブリンの呪いについて研究をしていたらしく、頼まれた素材が届いたんで配達をしたんだ。それで、作業中ベラーダに『作業部屋に置いて欲しい』と言う書き置きがあり、部屋の中央に置いたのだが、間違って魔法陣が描かれている部屋に入ってしまし、運悪く魔法陣が発動してしまった事でこのザマに」
呆れ口調ではあるが、話を聞く限りベラーダに非は内容に思えた。これはボルトの不注意が招いた結果であり、それをベラーダの責任にするのはどうかと思ったのだが、ボルトは眉間をヒクつかせながら続きを話し始めた。
「それに、魔法陣の発動のきっかけが、魔法実験の失敗で起きた衝撃波のせいで棚に置いてあった魔力瓶が落としてしまい、魔法陣が起動してしまったんだ。そのせいで魔法陣が発動したらしんだが、その魔法陣の描き方に間違いがあったらしく、戻すための方法が解からぬと吐かしましてねぇ。どうにかならないですかねぇ」
「彼奴の件については、嬢ちゃんがちゃんと説教してくれるだろう。取り敢えず、呪いの件は俺から嬢ちゃんに伝えてお――」
(ダーリン、説教と呪い件は了解したわ。後で、来るように伝えておいて)
脳内に嬢ちゃんの声が聞こえ、俺は最後まで言えずに途中で終わった。ミーアが不思議そうな表情をするのだが、ボルトはすぐに理解したようでジッと俺の言葉を待っている。取り敢えず、今の内容をボルトに伝えると深々と頭を下げた。まぁ、今回の件はべラーダに非があるのだから気にすることではない。なので、頭を上げてもらい目的地への案内をしてもらう。しばらく歩いていると、集落の中央に竜仙を含む三人の人影が話し合いをしているのが見えた。三人中二人が女性であるが、竜仙以外の全員がスーツ姿である。
「竜仙様、シータ様。ついでに、べラーダ。御館様とミーア様をお連れした。会議を始めましょう」
ボルトの声が聞こえたようで三人とも此方へと顔を向けると、ゆっくりではあるが俺たちのいる方へと歩き始めた。その姿が凛々しく見えたのか、先程まで背中を丸めながら歩いていたミーアが背筋を伸ばしていた。それほど緊張することでもないのだが、まずは彼らについて説明をしてあげる必要があると思い、ミーアに説明した。
「ミーアに説明しておこう。六神将とは、俺の部下たちをまとめる六人の隊長を意味している。ミーアから見て左端にいる鮮血のように紅いロングヘアーの女性だが、あれがボルトをゴブリンにした『べラーダ』だ。頭に三角帽子をかぶって、左手に箒を持っているだろ? ベラーダは魔女であり、魔法研究で三重複合魔法の研究をしている第一人者だ。キリッとした目つきに、綺麗な青い瞳で、顔立ちやスタイルも良いのだが、ちょっと抜けている。だが、根は優しい子だ」
「そうなんですか? でも、綺麗な人ですね」
「まぁ、確かに外見は、なぁ」
俺は溜息を吐き、彼女たちが此方へと来るのを待った。確かにベラーダは外見が美人ではあるのだが、どうしてか内面に問題がある。なんと言えば良いのか、簡単に言えばドジっ子である。ちょっとした事でミスをしたり、何もないところで躓いたり、もういろいろと面白い子である。だが、色恋沙汰になると賢くなると言うよく解からない性格なのだ。ただ、ベラーダに対し近寄ってくる者たちの殆どが実験材料として捕獲される。魔法封じや弱体化が一切効かないし、あらゆる状態異常を無効化する知識がある。まぁ、だからこそ六神将の一人になれたのだと理解している。
「ちょっと抜けているから、残念なの?」
「あぁ、仕事は完璧にこなすのだが、仕事じゃないときは必ず問題を起こすトラブルメーカーだ」
「もぉ、お館様ぁ!! 聞こえてますよぉ」
いつの間にか目の前に立っていたベラーダに、内心ビックリしてしまった。それに対し、ベラーダの左側にいる白髪の女性が呆れた表情をしている。腰まである綺麗な白髪に、ベラーダに引けを取らない程のスタイルである。綺麗な紅い色の瞳だが、キリッとした目つきが少し怖い。誰が見ても美人であり、俺ですら恋人にしたいと思える。そんな彼女がジッと俺を見つめて――いや、睨みつけている。
「創造主、十分の遅刻です。やはり、竜仙ではなく私が起に行くべきでした」
「おいおい、また説教か? 嬢ちゃんがいる手前、お前が行ったらより恐怖心を煽るだろうって、何度も説明しただろう。これで百回目だぞ、もう勘弁してくれや」
「だから、何故、私が創造主を起こしに行く事が、此方に居られるお嬢様の恐怖心を煽るのですか? その説明をしていただきたい。私がお嬢様とお会いになる事で何か都合が悪いと言うのですか」
「もう、勘弁してくれぇ!? 旦那!! シータにちゃんと説明してやってくれ!! 俺じゃ、お手上げだ!! 助けてくれぇ」
竜仙が助けを求めるのだが、俺はどう反応すればよいのか悩んだ。シータは、俺が初めて創り上げた『ホムンクルス第一号』だ。俺との波長がより強く結ばれており、俺の扱っている武術の大半を習得している。俺とほぼ互角に戦える事から、六神将をまとめる『二竜皇』の一人になった。ちなみに、もう一人は竜仙である。だから、ボルトが『竜仙様、シータ様』と言っていたわけだ。ちなみに、ボルトとベラーダは六神将に属する同期である。他の六神将に対して説明するのは面倒くさいので、またいずれ報告に来たときにでも説明したいと思う。
「はいはい、さっさと会合を始めるぞ。んで、集落の現状についてちゃんと説明しろ」
俺が会話を区切った事で、シータは何だか不機嫌そうな表情になった。まぁ、遅刻した俺がいう事でもないのだが、そこまで怒らなくても良いような気がする。取り敢えず、今は集落の現状について説明を早くしてもらいたい。ミーアには知る権利があり、今目の前に広がっている現状以外に何が起こっているのか、今すぐにでも知らなければならない。
「了解しました。では、この集落の現状について説明たします。現在、この集落を見て頂ければ解かる通り、焼け野原になっており。超高温で焼かれたことにより、約九割の建物が完全に修復不可能です。残りの一割に対しては、防御魔法で守られたとは言え修復するよりも立て直した方が早い状況です。また、焼け野原になっている地面ですが、ベラーダたち魔女たちの力で『元通り』にするとのことです」
シータが淡々に説明をする中、ミーアはとても悲しそうな表情をしていた。もう、ミーアが住んでいた集落の光景へ戻すことができない。俺たちの手でも修復不可能な状況にまで焼き払った竜たちに対し、俺は純粋な殺意が湧き上がる。必ず、俺がこの手でブチ殺すと心に決め、シータからの報告の続きを聞く。
「また、この集落の中心地には『ダンジョン』があると思われます。その為、中心部に慰霊碑を立てるのは、事実上不可能だと言えます。その為、部下たちには慰霊碑を立てるのに適した場所を探させております。また、竜の攻撃による被害は防壁にも影響を与えておりました。特に、防壁の約八割が崩壊しており、その影響で集落近郊を徘徊している魔物が侵入しました形跡がありました。ですが、部下たちの手で全て駆除し、素材の剥ぎ取りも行ないました。現在、ゴーレム部隊に防壁の修復、烏天狗部隊には魔物の集落侵入を阻止するように指示を出しております」
「なるほど。では、引き続き作業を行なうように指示を出してくれ。また、ゴーレム部隊のサポートとして獣人部隊を派遣させろ。今は、集落への侵入者を減らすことだけを考えてくれ。また、人間、獣人、エルフ、ドワーフ等の人型でコミュニケーションがとれる存在は生け捕りにしろ。俺たちが持っている『この世界の情報』が、本当に合っているのかの確認をしなければならない。良いか、部下たちに今の情報を伝えろ」
「了解しました。では、ボルトとベラーダは部下たちに伝令をお願いします。それで良いですね、竜仙」
シータは竜仙に同意を求めるように言うと、両手を組みながら無言で頷いた。竜仙が頷いたのを確認後、ボルトとベラーダは俺に一礼をして部下たちのいる場所へと走り出した。ボルトたちの後ろ姿を見届けると、シータは一度深呼吸をしてから報告を始めた。
「では、次にダンジョンに対しての報告をします。ベラーダに調べさせたところ『特殊ダンジョン』ではないかと言われております。この世界の情報と照らし合わせますと、確率論ですが『道具のダンジョン』ではないかと。ダンジョンから放たれる魔素、魔力周波数を参照した結果によって導き出したのですが、魔物が生息しているか解からない状況です。ですが、道具の持ち込みが不可能なダンジョンであることは確定しております。ダンジョンへの道を塞がれているとは言え、このまま放置するのは危険かと思われます。直ちに、ダンジョンに潜入し、ダンジョンを殺す必要かと。報告は以上です」
「そうか。しかし、どうしたものか」
シータからの報告を聞き、今後のことを考えなければならない。今は、集落の修復をメインに考えている関係上、集落の中心地にダンジョンがあることは問題である。道具のダンジョンであることが判明した以上、ここは今後の生活のことを踏まえて金銭を少しでも多く蓄える必要がある。道具のダンジョンの情報をもう一度確認するべく、左手で指を鳴らし一冊の本を召喚する。黒い革の分厚い書物が、目の前で浮遊している。この書物は俺にしか観る事はできず、このまま読みたいページを意識するだけでそのページを開く不思議な書物である。取り敢えず、道具のダンジョンについての項目を意識すると、それに応じるかのようにページが開かれる。
~道具のダンジョンについて~
道具のダンジョンとは、名前の通り『道具だけしか』ないダンジョンである。主に武具、回復アイテム、金貨などが宝箱の中に入っており、一層毎に五つから六つほど配置されている。また、ダンジョン最下層にある『アイテム神像』と呼ばれる場所があり、本来ならば宝箱が一つだけしか置かれていないのだが、道具のダンジョンのみ二つ配置されている。また、年数を置くことで配置されているアイテムもグレードアップしていくため、多くの冒険者がダンジョンコアを回収せずにギルドに報告し、保護申請を出している。保護申請を受けたダンジョンは、よりアイテムのレベルが高くなるため、多くの冒険者が発見後にすぐにギルドに報告している。
ただし、例外も存在する。本来、ダンジョンの最下層にある『アイテム神像』を守る番人である魔物が必ずいるのだが、道具のダンジョンには存在しない。だが、ダンジョンの年齢が百を超えると、番人が配置される。だが、年月によりダンジョンの質が上がるため、配置されるアイテムのレアリティーが上昇する。ただし、番人のレベルも高くなるため、基本年齢が百を超える前にダンジョンコアを回収し、ギルドに提出するのが常識と言える。
ダンジョンコアがあれば、ダンジョンを生成することができる。だが、年齢がまた一歳からのやり直しになるため、主に『道具のダンジョン』と『素材のダンジョン』のコア以外はギルドが買い取ることはない。また、放置されている洞窟がダンジョンになる事が多く、道具のダンジョンを作るのに使用される事例が多々ある。
一通り読み終え、指を鳴らし書物を消した。道具のダンジョンについての情報を得たので、ここで一旦整理することにした。現状、シータから『魔物がいるかどうか解からない』と報告を受けた。もし、魔物がいるとすれば、それは『アイテム神像を守る番人』だと言える。それはつまり、このダンジョンが百歳を超えていると言うことになるわけだ。そんなダンジョンが持ち込み禁止となれば、俺の部下たちだけで攻略が出来るか心配である。これは、ダンジョンの下見をするために、俺が直接内部に潜入するべきではないだろう。竜仙たちも連れて行きたいが、ミーアの返答次第で教育に力を入れなければならない。それに、六神将は俺の命令を受けて仕事を行なっている。ベラーダやボルトは、こっちの世界での部下への指示と集落警護。他の四人は、嬢ちゃんの所にいるアリアの指導を行なわせている為、完全に不可能である。そうなると、必然的に俺一人で行く形になる。
「仕方がない、俺がダンジョンへ挑む。手の空いている者に、ダンジョンへの道を開けるように指示を出しておけ」
「了解しました」
シータは深く頭を下げると、ボルトたちのいる方へと向かって行った。本来なら、この手の指示は竜仙に出すのだが、今回は迅速な対応が必要なためシータに指示を出した。次の作業に入れるため、急いで俺は竜仙に対して次の指示を出すことにした。
「竜仙は、部下を数名連れて、この集落に生息する魔物の調査を頼みたい。取り敢えず、今から二時間の間に調査を終わらせろ。二時間後、この場所に集合し報告を頼む。焼け野原になっているとは言え、森林などが残っている場所もあるはずだ。素材になりそうなものがあれば採取してくれ」
「了解した。旦那のホムンクルスを数名借りていくが、問題はないな」
「あぁ、問題はない。彼女らの代わりにボルトとベラーダがいる。何人かいなくても支障はないだろう」
「了解した。では、作業に取り掛かる」
竜仙は軽い会釈をすると、その場で指を鳴らした。その瞬間、竜仙の姿が一瞬にして消えた。これから二時間後に結果が出るため、それまでに準備をする必要がある。取り敢えず、昨日の事もあるため風呂に入って身を清めてからダンジョンへ探索しに行くとしよう。
旅館のある方向へと振り返り歩きだそうとすると、部下たちの活気のある声が聞こえた。大工班の怒鳴り声、魔術班の魔法による暴発音に、修復班の足音などなど、様々な音が聞こえる中、ミーアは首をかしげながら話し始めた。
「シャトゥルートゥ集落に、ダンジョンがあるなんて聞いたことがないです。ダンジョンが突然現れると聞いたことがありますが、人の住む場所に自然に発生することはないって、お母さんが言ってました」
「人が住んでいる所に、自然に発生はしないか……。何か、特別な力がこの集落に集中した事で、ダンジョンが生まれたのではないだろうか? 昔、副隊長から聞いたことがあるのだが、魔力が一箇所に集中することで、ダンジョンが生まれる事が極希ではあるが確認されたと言う事案があったと。もしかしたら、竜の襲撃によって膨大な力が一箇所に留まってしまい、生まれたのかもしれない」
俺の考えをミーアに伝えると、とても複雑そうな表情をした。ミーアにとって竜は、復讐すべき相手である。そんな復讐相手のせいで、この集落にダンジョンという物を残して消えてしまった。それも、道具のダンジョンを残していったのだ。生きていく為のお金は稼げるのだが、復讐相手が残した置き土産。こんなものを残して逃げ去ったと考えると、怒りしかないのだが、俺にとっては今後の生活面のことを考えても金稼ぎにはなる。もし、ミーアが一緒に来るのであれば、確実に資金源の調達は絶対に必要になっていく。
「取り敢えず、風呂入って考えるか」
取り敢えず、現状についての対処は風呂に入りながら考える事にした。それに、ミーアも風呂に入ってさっぱりしてからの方が良いだろう。女の子が四日間も風呂に入らないのは、流石に可哀相である。
(今回のダンジョン攻略は一人でやるとして、今後は身分書の発行や食料確保なども考えると、どうしてもお金が必要になってくる。今後のことを考えて、リミッターなどもちゃんと考えておく必要があるな。これからの旅について、相談していかないとな)
そんな事を考えながら、俺はミーアを連れて旅館へと戻るのであった。