18話 リシューの眼
うん、頑張ったよ。
もう、燃え尽きても良いよね?
6月なのに暑すぎて、心が折れたよ。
そんな私です。
6月までに何とか書きました。
次話の話を書いて、頑張ろう
では、次話で会いましょう ノシ
異変が解決したのか微妙な中、私たちは無事にダンジョンから脱出した。どうやって脱出したかと言うと、アイテム神像部屋の出入り扉を開けたらダンジョン一階にある転送前に着いた。どうやら、この出入り口は『アイテム神像に到着したら、一階へと戻す』と言う機能があるようだ。そのおかげで、何事もなく一階へと戻る事が出来たわけだ。
「イスズ様、ホムちゃん。なんか、無事に帰って来れましたね」
「あぁ、そうだな。あのドラゴンとの闘いは、もう二度とやりたくないな。あの鎧のような堅い鱗なんて、あれ何回も叩き続けたが――あれ、めっちゃ堅いのなんのって」
そう言いながら右手を軽く振りながら『痛かったアピール』をしているのだが、宇宙に漂う隕石を平然と殴り壊す姿を観て来た私にとっては、なんかそのアピールが嘘っぽく見えてしまった。まぁ、確かに私でもあの堅さは異常だと思ったが、それでもイスズ様が本気で殴ればあの鱗も簡単に砕けるんじゃないかと思ったが、口に出すことはしなかった。言ったら、後で説教されそうだからだ。
さて、無事にダンジョンから脱出し、私たちはようやく外に出れた。ダンジョンの外には、何故か祭りが開かれていた。ダンジョン内と外では、時間の流れが違うと言っていた。
私としては、あのダンジョンで二日くらい生活していた気がする。そして、私の力も問題ないレベルまで成長している。後は、旅人としての力を取り戻すだけである。まぁ、約七割は戻っているから、焦らずに特訓すれば完全に戻るだろう。でも、その前に確認すべきことがある。今回の試験の最終結果をまだ正式に聞いていない。皆と共に結果を聞いてから旅に出るのだ。イスズ様達と一緒に、必ず旅に出る。それが、今の目標なのだ。
「さて、此処から別行動にするか。俺は竜仙に情報共有をする為にギルド本部に行くが、ミーアたちはこれからどうする。俺と一緒に来るか、それとも宿に戻るか。それ以外に用事があるなら、今のうちに行っておくと良い。今夜、発表を行なうからな」
「そうですね。私は、ちょっと錬成所に行きたいと思ってます。この目薬を専用の容器に移し替えて、リューさんに使って貰おうと思ってます」
そう言って、私は収納指輪から三角フラスコの形をした瓶に入った目薬を取り出した。コレ、本当に目に聞くのだろうか。目薬用の入れ物に移し替えるために、取りあえず錬成所に持って行く必要がある。目薬を移し替えたら、後はリシューさんに渡して使ってもらうだけである。失眼が治るのかどうか怪しくもあるが、この集落の中で一、二を争う鑑定眼を持つホムちゃんが言うのだ。この目薬をリシューさんに使ってみるのが一番良いはずだ。
「ん、これが目薬か? ほほぉ、これがねぇ。ちょっと、触るぞ」
そう言うと、イスズ様は私の持っているフラスコに触れ、ジッと見つめた。今思えば、イスズ様が鑑定する姿を初めて見た気がする。確か、イスズ様は『観たい』と思ったモノに触れると、その人間の過去――もとい、人生を観ることが出来ると、隊長から聞いたことがある。そして、それは道具でも同じである。その道具の名前や効能なんかも分かってしまうらしい。だから、不用意にこの能力を使用しないようにしているとか。
「ふむふむ、確かにコレは目薬だな。この目薬なら、確かに璃秋の眼が治るだろう。ただ、原液のままで使うなよ。それを使うのなら、原液を二割、水を四割、四割は魔石の粉末だ。この割合で混ぜて、ようやく使えるレベルまで落ちるはずだ」
「ぇ、そうなんですか? このまま使っちゃダメってことですか」
「あぁ、その通りだ。どんな薬でも、原液のまま使用すれば毒になる。この目薬をそのまま使えば、運が悪ければ目を瞑っていても外の光景が見えてしまうだろうな。だから、使うのなら、ちゃんと使えるレベルにまで落とさなければならない。取りあえず、ホムホムに作って貰った方が良いな。原液と水を加え、魔石の粉末を投入。その粉末が溶けきるまでゆっくりと混ぜ続ければ完成だ。混ぜるときは、ゆっくりと、優しく丁寧にだぞ。魔石の粉末は、原液の効果を吸収し、溶けきることで使用できるレベルにするわけだ」
「分かったホム。なら、僕も母さんと一緒に行った方が良いホムね。調合に関しては、僕の方が上手いホムからね。分かったホム、僕に任せてほしいホム」
どうやらホムちゃんに調合を任せる事になったようだ。でも、確かに私がやるよりもホムちゃんの方が適任だろう。弾丸や爆弾などの攻撃系は普通に調合が出来るけど、回復薬や解毒薬などの回復系の調合は苦手なのだ。本当に、なんでだろうか。
「わかった。ホムちゃんなら安心だから、イスズ様の言う通りホムちゃんに任せるね。さて、そうなると私は何をしようかな。ホムちゃんの作成が終わるまで待っている間暇だろうし、葬刃の強化用の素材でも確認しておこうかな。あのゴーレムとの戦いで、破損個所の修復はしたけど、もっと強度が欲しい」
「なら、ブラッドドラゴン? だったホムか。あの素材をつかればいいと思うホム。特にあの鱗は本当に硬かったホムし、それを葬刃に使えば更に強度が増すホムよ。ただ、いろんな意味で、母さん以外を持つ事が出来ないんじゃないホムか?」
当然の質問が来たのだが、私は平然とただ一言だけ告げた。
「大丈夫だよ。私以外に葬刃を持たせる気はないし。それに、もっと強度を高くすればドラゴンの一匹くらい撲殺できるでしょ。そのくらいの強度は欲しいから」
「「お、おう」」
何故か、二人とも頬を引きつっている。私、何か拙い事を言ってしまったのだろうか。今後、ブラッドドラゴンのようにとてつもない強度のゴーレムやドラゴンが出てくるかもしれない。それに備えて、より強度を鍛えるつもりだ。今回の最終試験のように、ゴーレムごときの攻撃を捌き続けただけで破損するようでは、私の武器としては満足しない。だからこそ、より強度を上げ、決して破損しないように鍛えるのだ。それに、今回の試験で私はロストエデンを抜いた。あれは切り札であり、出来れば今は使いたくないのだ。なので、ブラッドドラゴンの素材を使って武器を作る。あの強度ならガンブレードとしても最適だ。
「まぁ、ミーアらしいか。俺としては、強度を上げるのは賛成だな。ちょっとしたことで破損するような武器に、己の命を預けることはできない。よし、その件については竜仙に伝えておく。ミーアは、そうだな。ブラッドドラゴンの素材を整理し、紙にまとめておいてくれ。後で、俺と竜仙で必要なモノだけをまとめておくさ」
「分かりました。ブラッドドラゴンの素材の整理は任せてください。あと、もしよければ素材をいくつか貰っても良いですか? 今回の試験で、新作の武器についての案が思い浮かびまして、折角なので作成しようかなと」
「あぁ、別に構わない。しかし、何を作るつもりだ? まさかと思うが、ガンブレードの作成か。なら、この設計図を錬成所の奴に渡してくれ。これは、密かに錬成所と鍛冶屋の職員たちと考えていた武器の設計図だ」
イスズ様は収納指輪から一枚の折り畳まれた紙を取り出した。それを広げ、中身を確認してから私へと手渡した。受け取って確認してみると、それは『ガンブレードの設計図』だった。形は私の相棒であるロストエデンと同じ形で、弾倉はカートリッジタイプでは無く、ロストエデンと同じ『シリンダータイプ』であった。また、そのガンブレードの作成に必要な材料についても記載されていた。大半がドラゴンとゴーレムの様だ。中にはダイヤモンドゴーレムとかも必要らしい。どう見ても、化け物レベルの武器を作るつもりらしい。この設計図を見て、私は普通に「これ、私やイスズ様、後はリューちゃん以外に持たせちゃダメレベルだね」と呟いてしまった。
「分かりました、錬成所の人に渡しますね。ただ、コレ見た限り、間違いなく化け物ですよね。コレ、魔法の多重がけを可能にした設計ですよね。この内容を見ると、最大八重がけが可能になっているようですが」
「あぁ、その通りだ。此奴は、正真正銘の化け物さ。ミーアの言う通り、此奴は多重がけを可能にした設計だからな。ミーア専用に考えてはいたのだが、ロマンをただ込め続けたせいで、このレベルに落ち着いたわけだ。うむ、やはりガンブレードの性能を考えても、このレベルは化け物だな」
「いや、あの。イスズ様、胸を張って威張る事じゃない気がするのですが。まぁ、私としてはこの設計図に記載されているガンブレードには凄く気になりますので、是非とも使ってみたいのです。ただ、コレを使うの私だけにした方が良いですね。持った瞬間、魔力ごっそり持ってかれて、常人どころか魔神ですら死にますよ」
そんなガンブレードの設計図を綺麗に折り畳み、落とさないように収納指輪に入れた。こんな事を言うのもなんだが、コレ作らない方が良いのではないのだろうか。このまま、私の指輪の中で封印している方が、死者を出さないで済むのではないだろうか。
「打ち上げはいつも通り、村人全員でバーベキューだ。まぁ、結果発表も行うからな。璃秋の眼が治ったら、すぐに広場中央に集合だ。結果は分かっているだろうが、皆の前で発表するつもりだったからな。んじゃ、こっちも準備があるのでな。広場で待っているぞ」
「はい、分かりました。ホムちゃん、行こう」
「分かったホム。父さん、また後でホム」
私たちはイスズ様と別れ、錬成上へと向かった。錬成所に向かっている間、コンロなどを持ち運ぶ人たちの姿が見えた。そこには、ライブを開いていた人たちも居て、なんだか嬉しそうに笑っていた。貧しかったけど、それ以上の幸福があった家族や友達がいたかこの集落の風景が、一瞬ではあるが脳裏を過った。
「母さん、長い道のりだったホムね。これでようやく、父さんたちと一緒に旅に出られるホムね。なんだか、ちょっと寂しいホムが、母さんたちも仕事があるホムからね」
どこか寂しそうで、でも優しく微笑むホムちゃんに、目頭が熱くなり涙が出そうになった。私とイスズ様の血が流れていると言うが、どうすればこんな良い子になるのだろうか。私はホムちゃんの方を向いて頷いた。
「ホムちゃん……。そう、だね。旅人としての役目もそうだけど、私自身が決着をつけなきゃいけない子がいるからね。だからこそ、最終試験に合格しなきゃね!! まぁ、結果発表待ちなんだけどね、エヘヘ」
「そうホムね。結果発表が待ち遠しいホムが、今は目先の仕事を終わらせるホム。その目薬をちゃんとした割合で調合してリシューさんの眼が治れば、この集落は本当の意味で安泰ホム。リシューさん、ジュデッカ君、キャティちゃん。そして、僕とティエ。ある意味、この集落って難攻不落の城塞と化している気がするホムが、気にしちゃいけない事ホムね。うん、筋肉教団の司祭さんのマルスさんと、助祭の『ジェイク・ローグバード』さんもいるホムし、この集落を襲う奴らがある意味でかわいそうホムね」
一瞬、私の思考は停止した。今、衝撃的な事実をホムちゃんは言った。今、筋肉教団の助祭さんの名前を言った。私、一度しかあった事が無いけど、あのガーランドさんと互角の筋肉でいつも笑顔の男性が『ジェイクさんだ』と、ホムちゃんは言った。私の知るジェイクさん像をことごとく打ち砕いた。
「ぇ、筋肉教団の助祭さんって、冒険者の『ジェイク・ローグバード』さんだったの!? ぇ、でも、確かに面影が。いや、それ以前に、あの爽やかだった青年が、一体どうすればあのガチムチマッチョになるんだ!? あれが、私が知るジェイクさんだと言うの!? で、でも、ビフォーとアフターが凄まじいんだけど」
「まぁ、仕方がないホムよ。だって、細マッチョ的な肉体が、ガーランドさんと同レベルになるは、顔立ちも以前よりも丸くなったと言うか、まぁ、かなりの変化ホムね。ただ、あの拳は、僕でも本気にならないと見切れないレベルなのが悔しいホムが。まぁ、その話は置いておくホム。もうすぐ、錬成所に到着ホム。取りあえず、仕事をパパッと終わらせて、リシューさんのいるお寺に向かうホム」
ようやく錬成所に到着し、私たちは目薬とダンジョンで手に入れたアイテムを整理した。錬成所の中では、リシューさんを除く皆が居た。キャティちゃんが言うには、リシューさんはお経を読んでいるのだとか。そのため、リシューさんの収納指輪はキャティちゃんが預かっていた。それを聞いてから私たちはすぐに倉庫に移動し、収納指輪に入れているアイテムを取り出し、分類ごとに整理を始めた。だが、それが失敗だった。何故なら、アイテムを全て出したことで、設計図も出してしまったのだ。その瞬間を待っていたかのように、錬成所の職員の手によって私が持っていた設計図を奪いとられた。
実際に気が付いたのは、整理が終わり目薬が完成した後の事だった。私が外に出た時に職員の人が持っていたのを観て、正直に言って「しまった」と叫んでしまった。あの目は、間違いなく作る気だ。何故なら、その職員が「てめぇら、イスズ様の設計図を手に入れた!! すぐにこのガンブレードの作成に取り掛かるぞ」と言う叫び声が聞こえたのだ。
(あぁ、私の不注意で禁忌級の武器がぁぁぁぁぁああああああああああ)
心の中で本気で叫んだ。そんな、私に対してキャティちゃんが慰めてくれた。そんなわけで、私とホムちゃんは皆と別れてリシューさんのお寺に向かった。リシューさんの件が片付いたら、錬成所の職員を縛り上げてでも、あの設計図は取り返す。しかし、この時の私は予想出来なかった。まさか、イスズ様とリューちゃんが錬成所内に居て、もう作成に取り掛かっていたことに気づくはずもなく、私はそのままホムちゃんと一緒にお寺へと走って向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ほほぉ、これで目が見えるようになると」
寺に着き、私たちはリシューさんのいる本堂にいた。丁度、お経を読み終えたところだったらしい。お袈裟を羽織ったリシューさんを見て、やっぱり着物姿の方が似合う気がした。目が見えないために目を瞑った状態で生活しているリシューさんだが、細目で着物を着た外人は中々に良いものだと思う。でも、やはりこのお寺の住職になのだ。住職が着物姿でお経なんて見たことが無い。つまり、お袈裟を羽織るリシューさんが正しいのだ。でも、なんだかんだでお袈裟を羽織っているリシューさんも中々に様になっている。
さて、現在の私たちだが、リシューさんに目薬を説明を終えたところだ。この目薬を使えば目が見えるようになることを伝え、錬成所で目薬用の容器に移し替えた目薬を手渡した。目薬自体、この世界では珍しい。目薬は高価な為、貴族の人しか手に入れる事は出来ない。その為、庶民である我々に渡しただけでどう使えば良いのか分かるはずがない。そのため、私はリシューさんにどう使うのかを説明した。
「なるほど、そう使うのですね。ですが、なんとも不思議な気持ちになります。今まで目が見えない日が当たり前でした。いや、諦めていたとも言えます。それが、これを使えば見えるようになる。それは私にとっても嬉しくあり、また見えなくなるのではと言う『不安』が入り混じっております。ですが、ミーア様とホムホム君が持って来て下さったのです。使わないなどと言う選択肢はありません。ありがたく、使わさせていただきます」
嬉しそうに微笑みながら、その目薬の容器を触りながら言う。そんなリシューさんを見て、私たちもなんだか嬉しくなる。ちゃんと目薬が効いてくれれば良いのだが、やはり心配である。
「喜んでもらえて、良かったホム。さて、まずは使ってみて欲しいホム。僕の調合は完璧ホムが、実際にちゃんと効くのかを確認したかったホムが、どうも僕らでは効き目が分からなかったホム。なので、ぶっつけ本番ホムが使って欲しいホム!! 効き目が薄い場合は、速攻で錬成所に戻って追加するホム。何があっても僕たちがすぐに対処するから、問題ないホムよ?」
「そうですか? ホムホム君たちが言うのでしたら、折角ですし此処で使いましょう。ではでは――」
そう言うと、リシューさんは目薬の容器の蓋を外した。今思えば、目が見えない状態で器用に箸を扱えたり、容器の蓋を開けている。リューちゃんと同じ目を持つと言っても、その見えるモノは魂の色のみで、それ以外のモノは見えないはずだ。そう考えると、ここまで器用に蓋を開けられるのは凄い事だと思った。
さて、そんなことを考えていると、リシューさんは目薬の蓋を経典が置かれている机の上に置き、閉じていた瞼を開き灰色の瞳へと向けて目薬をさす。左右に二滴ずつ、その目薬の液体を眼光にさす姿を私たちはジッと見つめる。視力が戻る瞬間を目撃する為、ジッとリシューさんを見つめているのだが、特に目立ったことも無いし、なにか演出とかがあるのではないと思ったのだが、一切なかった。
(うん、何の演出もなかった。でも、きっと何か変化が起こっているはず)
とても地味であるが、これが普通なのである。さて、目薬をさし終えたリシューさんは瞬きを何回かしてから、溢れ出た目薬の液体を近くにある『ちり紙』で拭き取る。そして、目薬の蓋を締め手から私たちの方へと『瞼を開けたまま』見つめている。
「普通に終わったホム。変化はまだ起こってないホムね。瞳の色は灰色のままホム」
「そうだね。まだ、瞳に変化はないみたいだし、馴染むまでは変化が起こらないんじゃないかな? それにしても、なんか大きな演出が起こるかなって思ったけど、そんな演出は一切なかったね」
「ミーア様は、一体何を期待していたのか。実は、私も何か起こるのではないかと期待はしておりました。しかし、普通に終わってしまいました――ん? ぉ、ぉお? おおおおおおおお!?」
急にリシューさんは叫び出した。その声を聴いてか、此方へと向かって走る音が聞こえた。多分だけど、奥さんとお子さんが本堂へ走って向かって来ているのだと思った。まぁ、私でもリシューさんの叫び声を聞いたら、走ってでも安否を確認しに来るだろう。だって、あの筋肉司祭と互角に渡り合えるリシューさんが叫ぶなんて、絶対に何か問題が発生したのだと思ってしまう。
「ほ、ホムホム君たちの顔が、ぼやけてですが、み、見え、見えます。あぁ、まさか、ダンジョンの外でもこうして見えるようになるなんて、夢のようです!! あぁ、外の景色はこのようになっているのですね!! あぁ、はっきりと世界が見える!! で、ですが、これは目薬の効果で見えるようになっただけの可能性も有り得ます。これは本当に凄いですね。暗闇だった私の視界に、人や風景が映るのは嬉しいですね」
興奮してか、周りを見渡している。今まで見ることの出来なかった風景を、今この瞬間に見る事が出来たのだ。こんな奇跡を体験して、興奮しないはずがないのだ。そんなリシューさんを観ながら、私はリシューさんの瞳の色を見た。
(灰色の瞳が、徐々に青色に戻ってきている? この目薬は即効性なのかな?)
ダンジョン以外で初めてリシューさんが目を開く姿を見た。灰色だった瞳が、徐々に淡い青い瞳へと変化していく。この目薬は本当に凄いモノなのだと再認識したが、使用時がとても地味である。うん、期待し過ぎた私たちの方が悪いのだ。でも、この目薬は本当に凄い性能である。ただ一滴か二滴さすだけで、失眼した目に光が戻るのだ。視力が悪い人でも、これを使えばすぐに視力は回復する。そう考えると、この目薬の量産は止めるべきなのではないだろうか。そんなことを思いながらも、リシューさんの視力の回復を喜んだ。
「良かった。これで、リシューさんの眼の問題も解決だね。それにしても、この目薬って本当に凄いね。奥さんやお子さんがこの事を知ったら、きっと大喜びじゃないかな。そう言えば、私の顔はまだぼやけて見える?」
「はい。ミーア様の顔ですが、ぼやけて見えております。このようですと、もう少し待てば、完全に見えるようになれるかと。ミーア様、ホムホム君。本当に、本当にありがとう。まさか、ダンジョンの外でも、こうして目が見えるようになるとは、夢にも思いませんでした。あぁ、本当に嬉しいです。しかし、今後もこうして目薬をさし続けなければならないのでしょうか?」
確かにその通りだ。リシューさんの不安に思うのも当然であるのだ。そんなリシューさんの思いを聞いてか、ホムちゃんは何やら収納指輪から器具を取り出した。中から取り出されたのは、何やら視力検査で使われるような機械だった。確か、イスズ様達が冗談半分で作り上げた装置だった気がする。
「そうホムね。ちょっと診察が必要かもしれないホム。なら、僕がちょっと見てあげるホムよ。こう見えても医療技術もあるホムから、安心してほしいホム。よし、別室で見てあげるホムから、母さんは先に父さんのいる場所へ向かうと良いホムよ」
「分かったよ、ホムちゃん。リシューさん、私は先にイスズ様の元に向かいます。なんでも結果発表と宴会をするので、広場で待っているので奥さんたちと一緒に来てくださいね。じゃ、ホムちゃん、後は任せたよ」
「分かったホム!! じゃ、リシューさんの目の検査を始めるホムよ」
後はホムちゃんに任せ、本堂から外へと出た。外から見える夕日を観て、私はあの日の光景を思い出す。両親と手を繋いで家に帰るまでの道のり。この世界は私と弟が一緒に住んでいた『あの世界』に比べてそこまで良いものではない。でも、この世界はあの世界にはなかったモノが満ち溢れている。
「うん、イスズ様の元に急がなきゃ」
その足取りは軽く、今なら『空でも飛んで行けそうだな』と思いながら、イスズ様の待つ広場へと向かうのだった。




