表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
38/90

17話 異変の解決

遅ればせながら、17話出来たぁ~。

うん、なんだか分からんが最近の筆の進みが襲い。

これ、またスランプに陥ったのでわ?

取りあえず、次話も頑張りたいと思います。


では、次話で会いましょう。 ノシ

 収納指輪の中にブラッドドラゴンの報酬を回収中、今まで見た中でも異質な宝箱が目の前にあった。周りの箱は茶色なのだが、何故か目の前に赤黒い箱があるのだ。茶色い箱にはブラッドドラゴンの素材がたくさん入っていた為、あの赤黒い箱がレアアイテムが入っている可能性がある。しかし、もしかしたらトラップ箱と言う可能性もある。だが、何故か無性に開けたい気持ちにかられる。あくま予想ではあるが、あの赤黒い箱の中に刻竜の素材ではないかと思っている。そう、お嬢様が落とした『刻竜の髭』とか入っていないと困る。また、このような問題が起こるのは困るのだ。とにかく回収だけは絶対にしなくてはならない。


「これに入ってると良いのだけど」


 赤黒い箱に近寄り、箱に手を駆ける――前に、トラップが付いているか確認する必要がある。取りあえず、箱に耳を当てたが音は聞こえないのを確認してから、慎重にゆっくりと箱を開ける。トラップは無いようで、ゆっくりと中身を覗いてみた。そこには髭が――と言う都合の良い事などなく、あったのは翡翠色の液体が入った三角フラスコの型をした瓶だった。


「まぁ、そうですよねぇ。そんな都合よく髭が手に入るはずないからね。でも、これなんだろう? 見た目的には、メロンジュースのような綺麗な色の液体だけど、これ回復アイテムなのかな」


 瓶を軽く揺らしながら、中に入っている液体を見る。ドロリとしているかと思えば、普通の水のように滑らかに動いている。翡翠色をしている液体など、メロンジュースくらいしか思えない。しかしながら、これってなんのアイテムなのだろう。回復薬なのかも分からない液体に興味があるが、飲んでみたいと言う欲求がわかない。取りあえず、これを持ち帰って錬成所とかで調べてもらえばいい。もしかしたら、ホムちゃんやイスズ様なら分かるかもしれない。まぁ、どちらにしてもコレが何なのかを調べてもらうために、取りあえずいつもの通り収納指輪に入れようとしたところで、後の方からホムちゃんの声が聞こえた。


「母さん、こっちの回収は終わったホム!! 母さんの方は終わったホムか?」


 そう言えば、ホムちゃんは後方に出現した宝箱の回収を任せていた。もう回収が終わったようなので立ち上がってから振り返ると、右手を振りながらやって来るホムちゃんの姿が見えた。斜め掛けで背負っている焔燕を見て、即興で鞘を錬成したようだ。何というか、大剣背負ったホムちゃんもカッコイイなと思った。まぁ、ホムちゃんだから仕方がない。

 さて、ホムちゃんの見た目については置いといて、此方に近づくにつれて左手の方に何か二本の試験官のような物を持っている事に気が付いた。試験官のような物には、私の手に握っているフラスコと同じ翡翠色の液体が入っていた。もしかして、このフラスコと同じ液体ではないかと予想したが、なんだかあちらの液体の方が若干濃いような気がする。


「うん、こっちも今さっき終わったところだよ。それにしても、この宝箱の量は異常な気がする。あの巨体だからとは言え、こんなに沢山の宝箱をドロップするとは予想外だったよね。私が担当した所でも八十個くらいはあったよ」


「僕もそのくらいあったホム。あの巨体だから、ドロップ品も『巨大な宝箱が十個くらい』あるかなって予想してたけど、普通サイズとちょっと大きいサイズの宝箱が大量に出現したホムからね。流石に回収するのに疲れたホムが、あの激戦に比べたらまだ楽ホムね。まぁ、その話は置いといて、ちょっと見てもらいたいのがあるホム。これなんだか分かるホム? 僕の予想では、刻竜の素材じゃないかと思っているホム」


 そう言って、手に握っている二本の試験官を私に見せてきた。見れば見るほど、私の手に握っているこのアイテムと同じに見える。一体これは何なのか気になるのだが、どうやらホムちゃんにも分からないらしい。刻竜の素材かと思ったが、刻竜の胃液や血液は翡翠色じゃない。確か、血液と胃液はともに桜色だった気がする。解体現場に立ち会った時に、肉質とか見学させてもらったんだ事を思い出す。うん、あの時の肉は美味かった。


「ごめん、これは違うと思う。今まで暴走した刻竜を討伐したことがあるけど、こんな色をした液体は一度も見たことが無いかな。てっきり『ホムちゃんなら、コレ分かるかな』と思ったけど、やっぱり分からないよね」


 そう言って、私も手に持っているアイテムを見せる。すると、ホムちゃんはそのアイテムを見つめながら「むむ?」と言うと、自身の手に持っている試験官と交互に見つめる。同じ液体だと思うのだが、ホムちゃんはジッと瓶を見つめている。しばらくジッと見つめると、何か結論が出たようで黙って頷いてから私の方へと顔を向け、これについて語り始めた。


「これは――ホムホム。なるほど、これは目薬ホムね。これとは色が同じだけど、性能は違うホムよ。僕の鑑定スキルで見た感じだけど、ちょっと特殊なアイテムみたいホムよ。目に一滴かけると、失眼、疲れ目なんかの目の病気が完全に治るホム。ただ、この瓶じゃ大きすぎるホムし、適したサイズに移した方が良いホムね」


「へぇ、そうなんだ。これが、目薬だったとは予想外だったよ。でも、確実性が欲しいから錬成所で調べてもらおうかな。ホムちゃんの鑑定能力を信じてはいるけど、この後の事を考えても出来れば錬成所の人たちに調べさせたいんだよね。錬成所の人たちの技術力向上と、製造が可能ならどんどん増やしていきたいからね」


「確かに、母さんの言う通りホム。いつもアイテム鑑定を僕に頼られても、錬成所の職員たちの成長に繋がらないホムからね。こんな性能が規格外すぎる目薬ホムを鑑定できるようになる為に、錬成所に持っていくのは賛成ホム。それに、製造が可能かどうかを調べるのは重要な事ホムね。今後、リシューさんのような病気にかかった人を救えるように、製造についても考えるべきホムね」


 お互いに話し合っていると、左の方からイスズ様の「ちょっと、二人ともこっちに来てくれ」と言う声が聞こえた。何か見つけたのだろうと思い、ここで話を区切ってイスズ様の方へと体を向けた。そこには巨大な鉄製の門が建っており、その前でイスズ様が手招きをしていた。私たちは手招きしているイスズ様の元へに近づくにつれて、その門の大きさに驚いてしまった。城門と同じくらいの大きさだろうと思ったのだが、どう見てもその三倍以上はあるように見える。まるで、異世界への出入りである『門』に似ている。私たちが近づいて来たのを見て、手招きを止めて腕を組んで待っている。


「アレを見ると、なんか嫌な予感しかしないんだよなぁ。多分、アイテム神像に続くゲートだと思うよ。ただ、そこへ続くゲートにしては大きいよね。本当にアイテム神像へ続くゲートだと良いんだけど」


「母さんが言うと、本当になにか起こりそうだから困るホムね。まぁ、それについては置いとくホム。無事にアイテム回収も終わったホムし、残りはアイテム神像だけホムね。で、一つ質問があるホムが、あの巨大な門がアイテム神像に繋がってると思うホムか?」


 当然の疑問である。ただ、それを聞かれても私には分かるはずがない。だが、直感――いや、あのブラッドドラゴンの血を回収した際に、アイテム神像へと続く門が現れると言う情報を観た。だから、あの門の先はアイテム神像へと続く門だと思うのだが、あの時観た門と全然大きさが違うのだ。だから、なんと言えば良いのか分からず、取りあえず話すことにした。


「多分、繋がってるとは思うよ。でもね、あのドラゴンの血から観た映像とは、どう見ても門の大きさが違くてね。なんだろう、絶対に何かしら一波乱ありそうだよね。取りあえず、何が起こっても大丈夫なように準備は整えとこうね」


「そうホムか。あのドラゴンの血から獲た情報なら確かかもしれないホムね。それに、確かに何かありそうな気配はするホムね。あの門を開けた瞬間、何が起こるか分からないホムし、母さんの言う通り準備だけは整えるホム。取りあえず、敵が現れたらこの焔燕で倒すだけホムね」


 よほど気に入ったのか、焔燕の柄を握り魔力を流し込んでいる。いつでもフルパワーで敵に叩き込めるように溜めているのだろう。そんなホムちゃんを見て、私も腰に差しているロストエデンの柄を掴み、シリンダーへと魔力を流し込み弾丸の生成と装填を行なう。今度の弾丸は『電撃弾』である。弾丸を放つことで、刀身に蒼い電気を纏わせることが出来る。そして、この弾丸は属性弾を複合する事が出来る。


「ようやく来たか。宝箱の回収は終わったようだな。すまないが、何か鑑定不能なアイテムが無かったか? この門を開けるために必要なんだ。ちょっと、此奴の場所を見てくれ」


 イスズ様が指さす場所を見てみると、そこには何かを差し込む穴が二つ開いていた。その穴の大きさが、ホムちゃんの持つ二本の試験官と同じ大きさである。さらに言えば、この門に取っ手が無い。あれ、これって押して開くタイプなのかな。そんなことを思いながら、ホムちゃんの手に握られている二本の試験官へと目をやった。鑑定不能で、何かの薬品かと思ったが、この門を開くための鍵なのではないのだろうか。


「これホムか? 鑑定しても解からなかった物と言うと、この試験官くらいしか分からないホムね」


「ん? ちょっと待っててくれ。より詳しく鑑定をする装置を取り出すから」


 イスズ様はポケットのから翡翠色の腕輪を取り出すと、すぐに右腕にはめてホムちゃんの手に持っている試験官を受け取り鑑定を始めた。翡翠色の腕輪が光り出し、虚空に試験管の映像が投影される。何やら液体や試験官の材質などのデータが出力され、鑑定結果が映像として表示された。そこには『開門液』と言う名前が表示されている。


「どうやら、これがそうらしいな。ありがとうな、二人とも」


「いえいえ、どういたしましてホム。それにしても、開門液とは何ホム?」


「それについては、私が説明しましょう。ホムちゃん、開門液って言うのは何か。これは、その名の通り『開門する液体』なんだよ。本来の使い方は、地縛霊とか悪霊にかけることで、あの世へと繋がる扉を強制的に開ける液体なんだよ。そのままあの世へとご案内する為、死神さんたちが困った幽霊のみに使用するお助けアイテムなんだ。他にも、錆びついた扉とか開かない扉なんかに液体をかけることで、門を開ける事が出来るからそれに使われることもあるね。ただ、普通の鑑定では絶対に不可能で、最上位の鑑定道具が無いと確認できないんだよね」


「も、物知りホムね。母さんって、実はアイテム知識豊富ホム?」


 なんだか不思議そうな表情で観るホムちゃんに、何故かイスズ様は黙って頷いた。何故か、私の事について私生活以外はそれなりに詳しいのだ。ちなみに、誰にも話していない事もあるのだが、それについれはこれからも誰にも話す事は無い。そんな私について、イスズ様は何故か黙って頷いた後に説明を始めた。


「なんだかんだで、ミーアは昔からアイテムの事について詳しかったな。旅人の中でも一、二を争う程のアイテム知識があるのだ。特に、レアリティが高い『危険なアイテム』についての取り扱い知識が豊富だ。だが、鑑定スキルが低いせいで自身での鑑定が出来ないんだよなぁ。今はそのスキルを向上する為に日々努力はしてるのだが、まだそれが報われていないんだ」


 イスズ様の説明を聞いて、私は固まってしまった。何故なら、私の鑑定スキルの低さについて、誰にも話した事が無いからだ。何故、知っているのだろうか。いや、私は誰にも話した事が無いのは確かだ。お酒が入っていても意識ははっきりするし、誰かに話したことも無い。そんな中で、何故イスズ様は知っているのだろうか。


「な、何故それを!? わ、私の鑑定スキルの低さについて、誰にも話した事が無いのに!! な、なな、何故イスズ様がその事を知っているのですか!?」


「いやいや、寝言でいつも言ってるからね。ミーア、俺と添い寝するとき『鑑定スキル、もっと上げたいよぉ』とか『なんで、回復薬すら鑑定できないのぉ』なんて言いながら、俺に抱き着いてるからね。まぁ、耳元で囁くくらいの声だったから良いが、驚きのあまり目が覚めちまったからな」


 その言葉を聞いた瞬間、私は力なく崩れ落ちた。まさか、イスズ様に寝言を聞かれていたとは予想外だったが、それ以上になんで寝言で暴露するのかな、私。確かに、悔しくて鑑定スキルを上げるために努力してきたたけど、私自身が気づかずに未練がましく寝言で呟くとは、あまりの恥ずかしさに『穴があったら入りたい』とは、まさにこの事なのだろう。


「うん、仕方がない事さ。人には向き不向きと言うものがある。だが、それでも夢に向かって頑張ろうと直向きに頑張る姿は、俺にとっては美しい事だと思うぞ。努力したことは無駄にならないと言うからな。いつかは、鑑定スキルも向上するはずさ」


「そ、そう、ですよね。ぁ、あは、あははは。そ、そそうだと、ぃ、ぃ、良いなぁ」


「か、母さんの声が凄く震えているホム。何と言うか、母さんの心の残機は、もうゼロみたいホムよ。取りあえず、父さんが持っている開門液の入っている試験官をあの穴に差し込めば良いホム?」


 イスズ様の手にある試験官を指さし、首をかしげながらホムちゃんは質問をする。落ち込んだままでいるわけにもいかないので、私は立ち上がり門の方を見た。この門の先が本当にアイテム神像なのか。それを確かめるためにも、私の精神ダメージについては脳裏の隅に置いておくとして考える。取りあえず、このままでは拙いと思い頬を軽く両手で叩き、気合を入れ直した。


「取りあえず、それを門の穴に差し込んでみましょう。このまま時間が過ぎるのは、流石にマズいですし。もしかしたら、またドラゴンが復活する可能性がありますからね。そろそろ動かないとマズいと思います」


「あぁ、そうだな。取りあえず、俺がこれを差す。お前たちは背後に待機し、いつでも戦闘できるように武器を構えておけ」


「「了解」ホム」


 イスズ様は手に握る二本の試験官を握り、門の方へと振り返ると穴へと突き刺した。すると『カチ』っと試験眼がはまった音が聞こえ、液体が流れ込む音が聞こえてくる。そして、流れ込む音が聞こえなくなると、ゆっくりと門が開き始めた。

 門が開いて行くと、門の向こう側が見えてきた。扉の向こうには、見慣れた荒野が広がると思ったのだが、どうやら、そう言った展開ではなかったようだ。門の向こう側は神殿だった。その神殿には見覚えがあった。確か、ダイヤウルフこと『ダイヤモンドウルフ』と戦闘したあの場所に似ている。ただ、違いがあるとすれば、祭壇の後ろ側に巨大な狼の石像が立っていることだけだ。狼の口には赤い宝玉のようなものを咥えており、ジッと此方を睨みつけているようだった。


「此処が、試練のダンジョン最深部『アイテム神像』なんだね。見覚えのある神殿なんだけど、あの時の戦闘で神殿をかなり破壊した気がするんだけど、此処は戦闘が起こる前の綺麗な状態だね。ちょっと気になるんだけど、地面に置かれたあの巨狼の石像に見覚え無いかな、ホムちゃん」


「そうホムね。あの時のウザったい巨狼を思い出すホム。ちょっと、あの首を切断したくなったホムね。でも、やっちゃダメホムよね」


「当たり前だろうが、まったく。あの狼の口に咥えられているのが、このダンジョンの心臓部であるダンジョンコアだ。今回の異変を解決するために、一度あのダンジョンコアを初期化する。その後、再度起動させて『嬢ちゃんが落とす前のダンジョン』の状態に元通りにする。さて、本来なら部屋の中央に『十個の宝箱』が置かれた祭壇が出現するはずなのだが、全く出てこないようだな。やっぱり、異変のせいか」


 イスズ様は背中に背負っている夜兎を鞘から引き抜き、警戒をしながら門の中へと入って行く。このダンジョンで起きている異変を考えても、警戒するに越したことはない。だが、本当にアイテム神像の部屋に魔物が出現するのだろうか。冒険者の人たちに聞いた話では『アイテム神像って言う部屋は、神聖な場所だから魔物が出現しないんだわ』だとか。


「まさか、ここまで異変の影響を受けているから、魔物とかが現れるかもしれない? でも、可能性が無いわけでもないか。ホムちゃん、私たちも行くよ」


 ホムちゃんの方へと顔を向け告げると、焔燕を鞘から抜き構えながら真剣な表情で黙って頷いた。私もロストエデンを抜き、いつでも弾丸を放てるように引き金に指をかけてながら、イスズ様の後を追うようにアイテム神像部屋の中へと侵入する。

 アイテム神像内に潜入したのと同時に、軋む音を奏でながら門の扉が自動的に閉まった。それと同時に、すぐに周りを警戒を始める。今のところ魔物の気配はない。やはり部屋の中は、ダイヤモンドウルフと戦ったあの神殿と同じ構造だった。


「なるほど、構造すらも変化しているな。最後にこのダンジョンに挑んだ時には、椅子や祭壇は配置されていなかった。それに、なんだ? 先ほどから、何処からか視線を感じるのだが、姿が見当たらない――いや、いる? 巨狼の像の前にある祭壇から、微かな気配がするな。ふむ、彼奴に近い存在の気配、か」


 何やらイスズ様は結論を導き出したのか、夜兎を鞘に戻して警戒を解いた。何故、そんなことをしたのか気になり、私も祭壇の方へと目線を向けてみた。そして、ようやくイスズ様が警戒を解いたのかを理解しいた。なので、私もロストエデンを鞘に戻して警戒を解いた。何故なら、目の前の祭壇に座っている少女の姿が微かにだが見えたからだ。まるで、自身の姿を隠すかのように、存在すら感じさせないくらい気配を薄めているようなのだが、イスズ様と私の眼には見えた。ただ、嫌な予感が当たってしまった事に、ため息を吐いてしまったのは言うまでもなかった。


「ホムちゃん、警戒を解いて良いよ。どうも、魔物とかは居ないから戦闘はないよ。かわりに、とっても面倒な事になったわけだけど」


「そうホム? 母さんが言うなら武器は納めるホムが、面倒な事って何ホム」


 焔燕を鞘に納めると、巨狼の石像の前に置かれた祭壇の上に蒼い炎が出現した。その炎が祭壇を覆うと、その炎は人型へと変化する。そして、炎が消えると祭壇の上に座っている真紅のドレスを着た少女が姿を現した。銀色の髪は腰まであり、髪の毛の先は青色の炎で燃えている。ただ、その炎はそこから昇ることは無く、その場で留まっていた。そして、優しそうな表情だが、その金色の瞳は何もかもを見透かしたような鋭い目つきで此方を見ている。その姿に私は見覚えがあり、この世界に落ちた原因となった存在。


「何故、貴方様がこの世界におられるのですか。確か、私が殺したはずなのですが。何故、生きているのです。刻竜様」


「あら、解かっちゃった? フフフ、本当に鋭いのね。流石は、私を二十万個に分解した殺人鬼さんね。あの時は、本当に興奮したわ。私を殺せる旅人なんて『五人』しかいないのに、貴方はいとも簡単に私の身体に傷をつけられた。本当に、貴方は面白いわ。本当に、ね」


 嬉しそうに言う彼女の背中から、その身体とは似つかわしくない巨大な銀色の翼が現れた。そう、彼女こそ暴走し、世界を滅ぼしかけた刻竜本人である。あの時は、私が最後に止めを刺したのだが、結局は相打ちで終わった。刻竜は死に、私は瀕死の重傷を負ってこの世界に落ちた。あの時、隊長がこの世界に来たのだが、この世界の神である『アリア』が瀕死の私を隔離して助けてくれたおかげで、一命は救われたわけだ。ただ、永い眠りについていたせいで、完全に記憶喪失になったわけだが。


「この人が、刻竜様ホムか。なんか、思っていたのと違うホムね」


 ホムちゃんの一言に興味を示したのか、視線はホムちゃんの方へと移った。その眼は、まるで『新しいおもちゃ』を見つけた子どものような、好奇心に満ちた目だった。


「あら、そうなの? 貴方は、私たちをどう想像していたのかしら?」


「そうホムねぇ。巨大で、荒々しくて、太陽なんかも平気で食べちゃう感じホム。ただ、この記憶が本当か分からないホムが、傲慢ではなく、慈愛に満ちた者ホムかね。まるで、赤子を護る母親のように、近づくものを遠ざけようとするような感じホム」


 何と言えば良いのだろうか。最初の巨大な所はあっているのだが、何故そんな荒々しく、太陽も食べちゃうって、有り得ない――わけでもないか。確かに、あの巨大さから考えたら、太陽なんて金平糖感覚で食べてそうだ。そして、刻竜と言う存在に対し『慈愛に満ちた』と言うあたり、ホムちゃんは間違いなく私たちの子なのだと理解できた。


「あら、大体あっているわね。でも、荒々しいところは違うわね。不要となった世界を喰らい、それを卵として産み直し、世界を再構築する。それが私たち刻竜の役目よ。ただ、呪いのせいで暴走してしまい、そこの旅人さんたちに殺されたんだけどね。でも、こうして再構築と言うより、再誕したわけだけど。フフフ、この世界の力のおかげで、予想以上に回復出来たわ」


 嬉しそうに笑いながら、自身の翼を触っている。そして、翼の大きさを自在に変えながら楽しんでいるのだが、アレって大きさを自在に変えられるモノだったのか。ティエさんも出来るのだろうか。いや、流石に無理か。


「だから、そんなに馬鹿でかい翼を出したわけか。まぁ、確かにお前さんの力は以前に比べて増したようだな。あの時感じた禍々しい気配は消えたようだが、どうしてこの場所に居るんだ? それも、自分の家のようにくつろいでる様だが」


「あら、知らなかったのかしら。此処の集落は、元々私の寝床だった場所に作られたのよ。そして、この場所は私の寝室。つまり、この場所は『私の家』なのよ。だから、私がいるのは当然の事であり、貴方たちは勝手に私が寝ている間に家に上がり込んだってこと。分かるかしら?」


 このダンジョンを家と呼ぶ刻竜様に、いつの間にこのダンジョンを家にしたのか。いや、そもそも此処が『自宅』と言っている意味がよく解からなかった。ぇ、もしかして私たちが不法侵入をしたから、度重なる異変を起こしたってことなの。いやいや、私たちがそんなこと知るはずもないし、そんな『いつの間に帰宅したのか』と問い詰めてもいいはずだ。だが、その疑問を口にする前にホムちゃんが驚きの声を上げながら質問をした。


「ぇ、ここって刻竜さんの家だったホム!? じゃ、もしかしてこの異変を起こしたのも刻竜さんの仕業ホムか!? でも、そうなると、いつ目が覚めたホム? ずっと揺り篭で寝てたホムよね」


「フフフ、それについての答えは『貴方たち』が持っているはずよ。元々、五十鈴が攻略したダンジョンは、私が眠る揺り篭に過ぎない。そのコアこそが私の揺り篭だったわけだけど。そして、ようやく最後の一部が揃い、こうして復活したわけ。目が覚めたのは、私の一部がやって来たときかな。本当にあの嬢王には感謝しかないわ。ただ、お仕置きは程々にね。アレ、結構トラウマ物だから」


 何故か、遠い目をしながら天井を見つめていた。まるでお、忘れたい何かを思い出してしまったかのような、そんな表情である。一体、イスズ様のお仕置きとは、どれ程鬼畜なのか。今思えば、尻叩きだけで衝撃波が出てたっけ。まぁ、隊長の精神的に追い詰めるお仕置きに比べれば、まだマシなのかもしれない。サメが泳いでいる海に叩き落され『岸まで泳ぎきり生き延びろ』とか、活火山噴火一分前の火口に叩き落されて『噴火前に昇りきり脱出』とかじゃない限り、大丈夫だろう。現に、隊長が経験してきた事を部下にやらせようとしたので、全力で止めたのだが。


「お前、まさか俺のお仕置きを一度受けたことがあるのか!? いや、そもそも刻竜に対してお仕置きなんて一万匹くらいしかしていないはず。いや、まぁ、その話は後で良いか。で、さっきの話を聞く限り、あのダンジョンコアがお前の揺り篭なわけだな」


 いや、そこに驚くのかと言いたい。刻竜様がお仕置きの件を知っているに対して驚いた事よりも、イスズ様が刻竜に対してお仕置きした事があることに驚きを通り越して絶句してしまった。どうやって、あの巨体にお仕置きをしたのだろうか。


「えぇ、そうよ。でも、こうして復活できたことだし、あれはもう不要よ。こうして完全復活したわけだからね。さて、そう言えば異変について教えてなかったわね。まだ不完全な私に対し、その夜兎を持ってきたことで揺り篭の『生命維持装置』が起動して、ダンジョンから追い出そうと働いたのが原因よ。完全復活までに時間がかかったけど、こうして復活できたわけだし、異変はもう起こることも無いでしょう」


「そうか。なら、これ以上問題が起こることはない、か。まったく、刻竜には驚かされてばかりだ。ダンジョンコアを揺り篭に利用するなど、数多くの世界を監視して来たが初めて聞いたぞ。だが、もう異変が起こらないのなら再試験を――いや、この状態でも試験を突破したのなら問題はないか」


 今、一瞬だけドキッとしてしまった。急に『再試験』と言う言葉が出たからである。いや、別に再試験が嫌なわけではない。ただ、またあのダイヤモンドウルフと戦うのは嫌なだけだ。うん、再試験が嫌なわけではないのだ。面倒くさいからと言うわけじゃないからね。うん、本当だよ。


「えぇ、それで良いんじゃない。私がこの世界から消えても、このダンジョンの仕組みは変わらないから問題はないわ。さて、私は旅人さんたちの世界に戻るとしましょう。長く居座ると、彼女に見つかってしまうだろうし。私がいなくても、貴方たちに任せても問題はないでしょ」


「あぁ、その件は俺たちに任せろ。あの世界に帰還するなら、ゲートを接続するが必要か?

いや、どうやら不要のようだな」


 イスズ様の言う通り、刻竜様の背後にあったはずの巨狼の石像が光の粒子となって消え、その代りに鳥居の形へと光の粒子が集まり、完全な鳥居へと姿が変わった。どうやら、旅人の世界へと帰る道が出来たようだ。鳥居の中は暗く、灯篭の灯りで石畳が奥の方へと続いて行く。


「えぇ、貴方が来てくれたことでゲートは強制的に繋がったわ。この扉を開くには『二人の旅人』が必須だったから、私が貴方たち三人を招いた。そこのホムちゃんだったかしら。貴方は、旅人の血を引く子だとは言え、生まれた瞬間から私を呼び起こすのだもの。本当に、嬉しいわ。さて、そろそろこの世界からの退場させてもらうとしましょう。そうそう、ミーアちゃんに伝えたいことがあったわ。あの時は、本当にごめんなさいね。暴走状態になるとは思いもしなかったから」


「いえ、アレは不可抗力ですからね。別に恨んではないわ」


「そう、ありがとう。少しだけ、救われた気がするわ。じゃ、また逢いましょう」


 刻竜様はそう告げて祭壇から飛び降り、鳥居の方へと歩き出した。鳥居の中に入った瞬間、蜃気楼のように鳥居が消えていく。完全に消える瞬間、刻竜様はたった一言だけ私に告げた。


「後は、任せたわよ。二人の旅人さん」


 こうして、彼女はこの世界から退場した。光の粒子となって鳥居は消えると、またもとの巨狼の石像へと戻った。


「まったく。さて、帰るぞ。二人とも」


「「はい」ホム」


 こうして、ダンジョン異変は解決(?)した。うん、解決したってことにしよう。どうせ、後日このダンジョンに挑み、問題が無いか確認することになるだろうし。私は、そんなことを思いながら帰るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ