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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
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15話 ブラッドドラゴン

皆さん、お久しぶりです。

うん、1ヶ月更新のはずが、遅れてしまい申し訳ございません。

いや、MHWが面白すぎたのがいけない!!

そして、試験勉強もやってだね、こうなってしまった。

うん、凄く反省してます。はい。


取りあえず、勉強も頑張り、執筆も頑張るぞ~(MHWは中断するわ


では、次話で会いましょう ノシ


 扉の中へと入ると、そこには驚きの光景が広がっていた。先ほどまでレンガで出来た壁の部屋だったはずが、扉の中は何故か荒野が広がっていた。荒野と言っても、満月が昇る夜の荒野である。草も樹も生えていないが、夜空には宝石のように輝くの星々が、この荒野を照らしている。何故、門の先が荒野なのか気になるが、今は目の前で戦闘を繰り広げている二人の元へと急ぐ。収納指輪から夜兎を取り出し、夜兎を納めている鞘を右手で握りながら走る。これで、いつでもイスズ様に夜兎を投げて渡せる。手に握っている夜兎を槍投げのように投げれば、イスズ様なら戦闘中だろうと簡単に受け取ってくれるだろう。


「ミーア、避けろよ!! ホムホムはアッパーでドラゴンを打ち上げろ!!」


 私が現場に到着すると、そこでは黒いドラゴンとの戦闘が始まっていた。推定ではあるが全長は三百メートルくらいはあるのではないだろうか。黒光りする鱗に、月と同じ黄色い瞳。尻尾は太く、それでいて長い。まるで、戦艦のような巨体なのだが、何故かイスズ様はドラゴンを拳で殴っている。確かに、イスズ様の拳はダイヤモンドよりも固く、岩盤すら破壊できるくらいの強度はあると聞いていたが、あのドラゴンと何故、拳で戦っているのだろうか。


「了解だよ~、父さん。んじゃ、任せて!!」


 そんな疑問をよそに、イスズ様はドラゴンの尻尾を掴み、遠心力を利用して勢いよく振り回り始めた。イスズ様が渦の中心となり、轟音と共に強風が吹き荒れる。私の羽織っているコートがバタバタと音を立てる中、そのままホムちゃんの――もとい、私の方へと投げ飛ばされる。真っ直ぐと此方へと飛んでくるドラゴンを見つめながら、私はどうやって逃げるかを考える。私としては、此処でロストエデンで真っ二つに斬り裂きたいのだが、なんだか堅そうな鱗だし避けたい。しかし、この速さで逃げられるのかと言うと、無理かもしれない。


(やっぱり、斬るか)


 そんなことを考えていると、いつの間にか私の隣に居るホムちゃんが戦闘態勢を取っていた。右手を強く握りしめ、アッパーを決めるために腕を引き絞っている。それも、何故か拳から黒い稲妻のようなモノを纏わせながら、ドラゴンの顎を確実に決めるためにジッと睨みつけている。そして、ドラゴンの顔が此方へとやって来るタイミングに合わせて、ホムちゃんはニヒルの笑みを浮かべた。確実に殺す気満々で、一気に拳を振り上げる。


「死にさらせぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!」


 ホムちゃんの叫び声とともに、その拳がドラゴンの顎へ向けて振り上げられた。轟音と共に、ドラゴンの顎に完全ヒットすると凄まじい衝撃波が放たれる。その衝撃からか、ドラゴンの眼が一瞬だが白目になったのが見えた。その後、すごい勢いで上空へと吹き飛ばされ、そのまま体が百八十度回転した。その衝撃的な光景を観て、つい「あぁ、本当にイスズ様とそっくりだなぁ」と呟いてしまった。いや、別に戦闘スタイルが同じとかではなく、その腹の底から吐き出すような叫び方が同じだなぁと言うだけだ。

 さて、そんな感傷に浸っている中、ドラゴンが仰向け状態になって空中へと打ち上がっている。その瞬間を見逃すはずが無く、イスズ様は上空へと飛び上がりドラゴンの腹の真上に現れた。ドラゴンと言うのは、硬い鱗で守られているわりに腹部は柔らかい、らしい。実際に触った事が無いので何とも言えないのだが。さて、そんな柔らかい腹部に向けってイスズ様は居合い拳による一撃を与えるのだと、勝手に想像していた。だが、イスズ様は居合い拳の構えではなく、手を出した状態で殴る構えをとっていた。抜刀ならぬ抜拳状態のイスズ様の攻撃を見たことが無いのだが、果たしてどれ程の威力なのだろうか。取りあえず、私とホムちゃんはその場から一時的にだが離れた。


「これで、どうだ?」


 そのままドラゴンの腹部に落下すると、その一撃が腹部に叩き込まれた。イスズ様の攻撃によって身体は『くの字』に曲がり、そのまま凄まじい勢いで地面に背中を叩きつけられた。一瞬の出来事だったのだが、私とホムちゃんはすぐにその場から離れたおかげでドラゴンにつぶされずに済んだ。まぁ、次にイスズ様がどう出るか分かっていたので、すぐに回避できたわけだが。それにしても、亜音速でドラゴンの腹を殴るイスズ様に驚いてしまった。亜音速で殴れるなんて、流石は第零部隊の一員だけはある。しかしながら、今の一撃が確実に入った時点で息の根は止まるはずなのだが、それでも平然と置き上がるドラゴンには感心する。やはり、これくらいの手ごたえが無いとイスズ様は楽しめないだろう。


「ふむ、これでも死なないか。やはり、ダンジョンコアに負荷をかけ過ぎたせいだろうか。死の危機を何度も経験したせいで、生存本能に従いアレを喰らったのだろうか。 まったく、嬢ちゃんがアレを落とさなければ、こんな事にはならなかったんだが、仕方がないよな。尻拭いは、いつも俺だし」


 ここに駆けつける前から戦っていたイスズ様のボヤキを聞きながら、目の前のドラゴンを観察する。先ほどの攻撃で腹部が避け貫通するはずなのだ、腹部には傷を負って居るようには見えず、腹部から血が流れ落ちていない。あの攻撃を受けたのに、致命傷までは与えられていない。しかし、確実に疲労だけは蓄積されているのだろう。口から火が漏れながらも、呼吸は乱れているように見える。しかし、その眼には怒りからかジッと私たちを睨みつけている。まぁ、息は上がっているのだが。

 それにしても、あの攻撃を受けて砕けない鱗の強度に興味がある。多分、対戦車ライフルでも打ち砕けないだろう『あの鱗』に、イスズ様の攻撃を受けても貫通しない強化ゴム繊維並みの皮膚。あのドラゴンの素材だけで、かなり強力な武具が出来るだろう。もしくは家具なんかにも役立ちそうだ。そう考えると、何が何でもあのドラゴンを殺し、素材を沢山ゲットしたい。そんな気持ちを抑えながらも、私はイスズ様の元へと駆けつけ質問する。


「イスズ様。先ほどから『アレ』を連呼しておりますが、もしかして例のアレですか? あの、刻竜(こくりゅう )関係のアレですか」


 先ほどの言葉で『アレを落とさなければ』と言っていた事が気になり、想像した結果アレではないかと尋ねてみた。二年前からお嬢様がいつも話してくれる『イスズ様が打倒した刻竜の話』を思い出し、その時に見せてくれた『刻竜の髭』の事を思い出した。そして、いつも『髭』を持ち歩いているし、その事はイスズ様も知っている。もしも、その『アレ』が『髭』なのならば、結構面倒な事になる。なんせ、お嬢様が持ち歩いている『刻竜の髭』って、我々旅人の隣人にして、異世界を見守り神でもある。特に、各世界へとエネルギーを送ってくれている鎖を護りながら、世界が崩壊するまでの時間を見守ると言う重要な仕事をしているドラゴンである。それ故に、暴走した時は非常に拙く、他世界への悪影響を与えることもある。それ故に、討伐しなければならないのだ。


「ぁ、あぁ、実はそうなんだわ。それも、嬢ちゃんがいつもミーアに見せていたアレを普通に落としてな。いつもなら落し物はすぐに分かるんだが、あれだけは感知対象外みたいなんでな。まったく気が付かなかった。嬢ちゃんが落とした事に気が付いたときには、もう手遅れだったわけだ。それも、気が付いたのが、ミーアたちがダンジョンに潜って二時間ほど経った後なんだわ。取りあえず、これが終わったら、久しぶりに本気で説教する予定だ」


「ぁ、あははは。お嬢様の落し物が、今回の事件の発端だったんですね。まぁ、もうしょうがないですよね」


 久しぶりに、乾いた笑いをしてしまった。お嬢様、おっちょこちょいにもほどがあるような気がする。それにしても、尻拭いのためにイスズ様が駆り出されるとは、この後のお嬢様の半泣き姿が普通に脳裏に浮かんでしまった。取りあえず、夜兎を渡しても勝てるだろうか。疑問であるが、夜兎をイスズ様にお届けしに来たのだ。その役目だけは果たす。


「イスズ様、これを。竜泉から預かった刀です」


「ん? おぉ、夜兎か。此奴があれば何とかなるかな。ミーア、ありがとう」


 嬉しそうに微笑むイスズ様の笑顔に、一瞬だがときめいてしまった。相変わらず、イスズ様の笑みは私を殺しにかかる。初めて出会ったあの時も、その笑顔でノックダウンしたのは良い思い出だ。しかし、今は戦闘中である。私は右手に握る夜兎を手渡し、腰に差しているロストエデンを引き抜く。久しぶりのガンブレードでの戦闘な為か、握っているグリップが汗ばんでいる。上手く戦えるのだろうかと不安が一気に押し寄せ、私はいつも以上に緊張している。そんな私に気が付いたのか、イスズ様は私の頭にそっと右手を乗せると撫でながら言う。


「ミーア、落ち着け。緊張するのは分かるが、お前は俺の相棒だろ。胸を張って、いつも通り役目を果たそうじゃないか。なに、焦る必要もないさ。確実に、あのドラゴンを倒してから嬢ちゃんの説教をするだけだ。そうだろう、相棒」


 撫でる手が離れ、軽く頭をポンポンと叩く。今戦闘中だが、何故か嬉しすぎて心臓の鼓動が凄く早くなる。今なら目の前のドラゴンの爪を生きたまま剥ぎ取り、そして首を切断し、その肉体を百八個に切断して、その皮と鱗を抜き取れそうだ。そのくらい、今、凄く嬉しくて心臓の鼓動が早くなる。今思えば、こうしてイスズ様と一緒に戦う事なんて久しぶりだった気がする。特に、こうして戦闘中なのに頭をポンポンしてくれるなんて滅多になかった。これはレアケースである。


「やっぱり、武器が有ると良いねぇ。それも、夜兎の能力はとても助かる。あの堅い鱗は、どうやら強化魔法が常時かけられているようだ。夜兎の能力なら、あの堅いうろこにかけられた魔法を初期化――つまり消し去ることが可能だ。あとは夜兎で鱗ごと斬り裂くだけなのだが、他にも隠し玉があるかもしれない。取りあえず、前衛が三人だけしかいないこの状況下で、スタミナ管理なんかをしっかりと調整する必要がある。よし、方針はあらかた決まった」


 不安そうではあるが、今後の方針が決まったようだ。イスズ様が不安そうな表情をするなんて、それ程の敵なのかもしれない。まぁ、お嬢様が落とした素材のせいでこうなったのだから、不安になるのも当たり前なのかもしれない。でも、今回は私とホムちゃんがいる。ホムちゃんとの合体技なんかもあるし、いざとなれば、ドラゴンの内部破壊技を使えば良い。簡単には出来ないが、隙があれば口の中にぶち込んで弾丸を一斉発射すれば良いだけだ。


「よし、やってみるしかないか。ミーア、ホムホム、これから奴との戦闘を再開する。俺とミーアでこのままドラゴンへ突撃する。ホムホムは、ドラゴンが俺たちに意識が向いている間に腹部へと潜りこみ、能力を使って武器を生成し、あの肉質の柔らかい腹部への斬撃を頼む。ある程度のダメージは与えられるはずだ」


「了解です。ロストエデンに装填している弾丸を全弾使用します。あと、彼奴の血液を回収できればお願いします。対滅弾を作製する為に必要なので、一リットルくらいは欲しいので、よろしくお願いします」


「了解ホム。じゃ、僕は母さんと同じ速さで突っ込むよ。母さんが攻撃を与える爆撃で視界を奪われた瞬間をついて、僕が急いで懐に潜りこむホム。攻撃の合間に回収するね」


 ホムちゃんも覚悟が決まったようで、収納指輪からあの時に渡した大剣を取り出した。あの時ホムちゃんに手渡したあの時よりも、刃先から轟々と紅い炎が燃えているような気がする。あの大剣、自我でも宿っているのではないのだろうか。でも、まぁ、今のホムちゃんの力と大剣ならドラゴンの鱗を砕くのではなく、その熱で溶かして切断するのではないだろうか。


「よし。では、彼奴について説明する。対象は、目前のドラゴンの名は『ブラッドドラゴン』と言う。あの鱗は長年に渡り、他者の血を浴び続けたことによって強化されていく。また、刻竜の素材を喰らった可能性もある。細心の注意を払い、奴を仕留めるぞ!! では、行くぞお前ら」


 その言葉を最後に、私たちはドラゴンの元へと走り出す。ガンブレードのシリンダーに入っている弾丸を破砕弾に変更し、先陣を切る為にイスズ様達よりも前を走り出す。あの堅い鱗を破砕する事が出来るかを確認する為に、ドラゴンの頭部へと向けてロストエデンを振り下ろす。振り下ろしたロストエデンがドラゴンの頭部に接触する瞬間、人差し指にひっかけている引き金を引く。その瞬間、シリンダーに装填されている弾丸をハンマーが叩き、爆発音とともに破砕弾の効果を発動させる。本来のガンブレードは、弾丸が発射されると同時に刀身が振動することで、疑似的に超振動ブレードを再現している。ただし、このガンブレードに関しては、超振動補正の他に、弾丸の属性を刃先に付与するように調整されている。それ故に、斬撃が通れば――


『――ッガ!?』


 凄まじい轟音と共に放たれる斬撃の衝撃からか、私はそのまま後ろへと吹き飛ばされ、ドラゴンはその衝撃に耐えられずに後退した。本来なら超振動で斬り裂けるはずなのだが、その堅い鱗を切断する事は出来ず、私は手の痺れと共に爆風で後退してしまったのだ。私の斬撃ですら弾かれるとなると、残る攻撃手段は鱗の無い腹の部分だけだ。しかし、それをするにはちゃぶ台返しのように、あの超重量級レベルのドラゴンの隙を作らなければならない。だが、どうやって不意を作るかが問題である。


「うん、思っていた以上に硬い!! 普通に腕が痺れました!!」


 つい、普通に感想を述べてしまった。今まで戦ってきた中で、これ程堅いとは思わなかった。破砕弾なら破壊できるのではと言う淡い期待とは裏腹に、破砕弾すら無意味にする鱗など聞いた事が無い。私の攻撃に続いてイスズ様は夜兎を振り下ろす。すると、私の斬撃では壊せなかった鱗に傷を負わせた。鱗を切断し、血が噴き出す。だが、完全には切断できなかったようで、すぐにその傷口が塞がり、噴き出していた血は一瞬で消えた。

 回復の速さに驚きながらも、夜兎ならば深手を負わせる事が出来ることが分かった。つまり、夜兎の初期化の能力ならばあのドラゴンを殺せる。そうなると、対滅弾であの能力を消滅させれば、ホムちゃんや私でもあの鱗を破壊し切断できる――はずである。


「いやいや。俺が殴っても砕けなかったんだから、堅いのは当たり前だろう」


「あはは、そうでしたね。イスズ様の拳で壊せないのなら、破砕弾の近接爆発ならいけると思ったのですが。結果は観ての通り砕けていませんね。でも、夜兎なら何とか倒せそうです」


「あぁ、破砕弾か。それでも砕けない、か。しかし、夜兎でも流石にキツイ。あの鱗だが、複数もの魔法で強化と回復を繰り返してやがる。鱗に関しては、切断して肉薄まで斬った瞬間から十秒後に鱗の再生が始まる。傷なんて、五秒で回復しやがった。夜兎での連続斬りでも、確実に殺すことはできないだろうな。そうなると、あのドラゴンへ強化魔法を行なっているモノを壊すか殺す必要があるな。その障害を排除しない限り、勝ち目がなさそうだな」


 イスズ様の目つきが鋭くなる。夜兎だけでは、この状況を打破することは難しいと判断したらしく、すぐに周囲を確認し始めた。その間、私とホムちゃんでドラゴンを抑えなくてはならない。うん、抑えられるような気がしない。取りあえず、ホムちゃんと話し合う必要があるのだが、先ほどまで一緒に居たはずのホムちゃんの姿がなかった。


「打ち上げるホム!!」


 どこからか聞こえるホムちゃんの声と同時に、地面から突如生えた二本の土柱がドラゴンの腹部を押し上げる。そのせいか、ドラゴンの口が半開きになり「グェ」と言う低い声を放つと、一瞬ではあるが懐に入る黒い影が見えた。そして、腹部から爆発音とともに紅い炎が吹き出た。それも、一定の間隔で爆発音が響く中、その黒い影――もとい、ホムちゃんによる斬撃が続く。そして、先ほどまで余裕の表情だったドラゴンの表情が、苦痛の表情へと変貌した。つまり、ホムちゃんの攻撃が効いているようだ。


「ホムちゃん、やりますね。あの斬撃って、昔のイスズ様に似ていますね。がむしゃらに見えて、的確にダメージを蓄積させるように攻撃を与えているようです。うん、本当にイスズ様にそっくりです」


「ぇ、そうなのか? 俺には良く分からんが、ミーアがそう言うのならその通りなのかもな。しかし、俺が作った『焔燕(ほむらつばめ)』をあんな形で使うとは予想外だな。斬撃する度に炎が漏れ出ているが、ドラゴンの血液を爆炎で吹き飛ばしているのだろうか? まぁ、これで彼奴の腹部になら斬撃が効く事がわかった」


 此処で新事実が発覚した。あのホムちゃんに渡した大剣の名前を、まさかイスズ様が発表したのだ。そして、焔燕について思い出した。あれ、元々鞘が無い武器だ。そして、ある言葉を言う事で、本来の姿を現す二段階の武器である。さらに言えば、焔燕ってイスズ様が趣味でいろいろと素材を使って作った『やっちゃった』武器である。そんな武器を、ホムちゃんは普通に扱っている。あれ、確かだけど、キャティちゃんが触って魔力貧血で気絶したレベルの危険級の武器だった気がする。


「そ、そうですね。でも、完全に倒せてはいません。あの堅い鱗がある限り、私たちの攻撃は通じないはずです。夜兎が無い私だと、毎回ドラゴンを仰向けにしなくてはならないのは辛いです。何とかあの堅い鱗を破壊する方法を見つけた方が良いですね」


 ホムちゃんが斬撃を続ける中、ドラゴンの腹を押し上げている二本の土柱に亀裂が入る。斬撃から放たれる爆発の衝撃で、どうやら土柱に亀裂が入り始めたようだ。この状態は、とても拙い。土柱が砕け、そのまま押しつぶされる可能性がある。まぁ、ホムちゃんなら土壇場で緊急回避をするだろうけど、正直に言えば心配ではある。


「確かにそうだな。あの鱗をどうやって破壊するかだが、魔力による強化だと言う事は分かっているんだがなぁ。複数の魔力回路から、あの鱗一枚一枚に強化魔法を同時に複数回かけている。その強化魔法をかけて続けている拠点は分かっているのだが。流石にこの状況の中で、複数の拠点を破壊するのは時間がかかる上に、お前たちを更に危険にさらすことになる」


「悔しいですが、イスズ様の仰る通りです。私とホムちゃんだけであのドラゴンを抑えるのは、流石に厳しいです。そうなると、二つ案があります。一つは、各個破壊による拠点破壊。しかし、誰かがあのドラゴンを足止めする必要があります。ですが、先も言った通り二人で厳しい中、一人だけ残って戦わせるのは自殺行為に等しいです。もう一つは、一撃で同時に全拠点を破壊です。ただ、そうなりますとチャージに時間がかかり隙が生まれます。二人で押さえている間に、拠点を破壊できるのかどうかが問題です。さて、どう破壊するか」


「そうだな。ふむ、あの魔力回路を利用して、逆に膨大な魔力を流すことで『魔力暴走』を引き起こして破壊するか。過負荷の魔力を逆流させることで、複数の拠点を同時破壊する事は可能だろう。しかし、無理やり魔力暴走を引き起こす場合、此方にもそれ相応の被害が生じる可能性がある。しかし、現状を考えてもこの方法が確実だろう。仕方がないか、アレを使うしかないか」


 方針が決まったようで、イスズ様は収納指輪から赤い水晶の杭を取り出した。その水晶には見覚えがあった。そう、白夜大森林の第五階層で見たあの紅い魔石である。だが、あの時見た魔石との違いと言えば、魔石が杭の形になっていることだけだ。その杭から、イスズ様の魔力を感じ取れたのだが、今まで感じた中でもかなり強大な魔力を感じ取れた。あの杭を突き刺すことで、杭に込められた魔力を無理やり流し込み、無理やり魔力を逆流させ魔力暴走を引き起こす。


「此奴を叩き込み、無理やり魔力を暴走させる。ただ、その為にも相手の懐に入らなければならない。タイミングはミーアに任せる。あの腹部に此奴を突き刺すために、仰向けにしてくれ。その間、俺はこの杭に魔力を込め、暴走が起きやすい状態にする」


「分かりました。では、私はホムちゃんの元へ急ぎます。後は、お願いします」


 イスズ様に一礼してから、ホムちゃんの元へと急ぐ。あの土柱が砕ける前に、あの懐に潜りこみ仰向け状態にする。どうやってやるかは、ホムちゃんと相談するしかない。あそこで斬撃を続けるホムちゃんに突撃するのは、とても危険行為なのだが、まぁ、うん。問題はないはずである。ホムちゃんの元に近づくにつれて爆発音が響く。そして、私が近づいたことに気が付いたらしく、そのまま斬撃をしながら叫んだ。


「母さん!! 此奴の右後ろ足首に爆破攻撃をしてほしいホム!! 僕は右前足首に爆発させて此奴を仰向けにするホム。その後、この大剣を突き刺して体内を爆破させるホム!!」


 爆発音が響いても聞こえるホムちゃんの声に黙って頷き、指示された方へと走りながら向かうのだが、その前にホムちゃんに大声でイスズ様が行なう事を伝える。


「分かった!! あと、イスズ様がドラゴンを強制的に魔力暴走を起こすよ!! だから、暴走を起こす前に、私たちは避難するからね!! 絶対に遅れちゃだめだからね!! 分かった?」


「分かったホム!! じゃ、全力で行くホムよ!! 足に着いたら、お願いホム」


「分かった!!」


 そう告げ、急いでドラゴンの足にたどり着く。近くで見ると巨木のような足には、綺麗な赤黒い鱗で覆われている。この鱗で覆われている足にロストエデンの爆発を使って吹き飛ばすだけである。破壊は出来なくても、爆破の衝撃で足の軸をずらせば転ぶはずだ。それについて、ホムちゃんも同じことを考えていたらしく、斬撃の攻撃をやめると右前足首に到着し、私が到着したと同時に武器を構え始めた。私も同時にシリンダーに爆発弾を込めて、引き金に指をかけた状態で振りかぶる。


「「うらぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」」


 息をぴったりで、振りかぶる武器が足首に接触した瞬間、凄まじい爆発音とともに衝撃が腕に伝わる。そして、同時に爆発を受けたことでバランスが崩れたようで、左側の足が少しだけ足が浮いていた。だが、仰向けになるほどではない。私たちは同じタイミングで左足の裏へと駆けつけ、仰向けにするために――


「「死にさらせぇぇぇぇええええええええ!!」」


 本日二度目の爆発弾による、ロストエデンの大爆発による吹き飛ばし攻撃である。それにより、不完全な態勢になり仰向け状態へとなった。そして、私はある事に気が付いた。先ほどは爆破の衝撃が腕を伝わったのだが、何故か今回は衝撃が無かった。逆に斬り裂いた感覚が腕に伝わったのだ。つまり――


「斬撃が通った!? それも、足の裏!?」


 あまりの衝撃に叫んでしまった。あの堅い鱗で覆われた体に、ゴム質だがすぐに回復してしまう腹部。私は先ほど斬り裂いた足の方へと目を向けると、足の裏からは血が滴り落ちていた。ぽつぽつと滴り落ちる血を見つめながら、ただその光景が信じられずにいた。足の裏だけは強化魔法対象外だったのだ。しかし、これはチャンスだ。この状況なら血の回収が出来る。ロストエデンを肉質の柔らかい場所に突き刺せば、自然と血の回収が出来る。それも対滅弾も同時に作製が出来ると考えると、今は絶好の回収チャンスなのではないだろうか。


「母さん、血の回収は後にするホム!! 父さんが、杭を突き刺すホムよ!! 衝撃波で吹き飛ばされるホムよ」


 いつの間にか私の傍に居たホムちゃんに、私は悔しい表情をしながら頷いた。確かに、このまま回収なんてことをすれば、イスズ様の邪魔にもなる。


「し、仕方がないか!! 分かった、ホムちゃんすぐに此処から逃げるよ!!」


 完全に仰向け状態になったのを確認してから、私たちはすぐにこの場から離れた。血の回収が出来なかったが、魔力暴走を引き起こせば確実に血の回収が出来る。その為、私たちは急いでこの場から離れると、ドラゴンから苦痛のような叫び声が聞こえた。その声を聞いて、ある程度の距離を離れてからドラゴンの方へと顔を向ける。そこには、丸太サイズの杭がドラゴンの腹部に突き刺さっている光景だった。杭が突き刺さったがすぐに光の粒子になり、そのままドラゴンの中へと入って行く。完全に体の中に入ると、遠くの方から爆発音と黒い煙が昇った。複数の箇所から昇る黒い煙を見て、どうやら成功したようだと安堵した。


「ホムちゃん、どうやら成功したみたいだよ。ようやく、あの鱗を切断できるかもね」


「そうホムね。じゃ、僕が大量の血を確保するホム。対滅弾で、彼奴の回復能力を消し去って欲しいホム。それにしても、お父さんはどこホムか?」


「後ろに居るぞぉ~。たく、魔力暴走させたと言うのに、まだピンピンしてるし。回復能力が早すぎて、魔力暴走も数分で回復したようだ。だが、拠点の破壊は成功したし、此処からが正念場だぞ。これで、お互い互角になったのだからな」


 後ろからイスズ様の声が聞こえ振り返ると、夜兎の反りの箇所を肩に載せた状態で嬉しそうに笑うイスズ様がいた。どうやら、思った通りになったことで喜んでいるようだ。これで、あの堅い鱗も切断できる。ここからが第二ラウンドである。


「うっし、行くぞ!!」


「「はい!!」」


 そして、私たちはお嬢様の尻拭い兼最終試験のつもりで、私たちは仰向けになっているドラゴンの元へと駆ける。背後から聞こえる爆発音と共に、ドラゴンとの第二ラウンド目の戦闘が始まるのであった。

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