14話 ホムちゃんとの再会
はい、ギリギリ1月までに書き上げた(--;
遅ればせながら、皆々様
明けましておめでとうございます。
今年一年も、よろしくお願いいたします。
さて、二月分も書かなくてわ(^^:
聖堂の中にあった転移魔法の光に包まれ、約二十秒程くらい経っただろうか。身体を包んでいた光が消え、見覚えのあるレンガの壁で囲われた広い部屋が視界に入る。私の目の前には奥へと続く通路があり、奥へと誘うように壁に掛けられた蝋燭に火が灯っている。次に足元の石畳を確認する。そこには『紅い鷲の絵』が描かれており、私はその中心に立っている。どうやら、無事に白夜大森林から脱出できた事に安堵した。そして、同時に予想していた通り、リューちゃんと離れ離れになってしまった。
「ここって、地下何階層かな? 階層番号らしいものが見当たらないな……って、階層番号なんてあったかな? 観た覚えがないような気がする」
手に握っているロストエデンを、腰に下げている鞘に納めてから周りを確認する。今のところ敵の気配はないのだが、明らかに不自然なものが目に入った。それは、私の立っているこの魔法陣の絵に『刺身包丁をそのまま大きくしたような大剣』が直立で突き刺さっている。もっと詳しく説明すると、鷲の嘴の箇所に突き刺さっていた。それも、開閉部分に見事に突き刺す形で、だ。さらに、その高温からか嘴の部分が地面ごと溶かされている。だが、この状態で魔法陣が正常に起動しているのが不思議である。よくこの魔法陣が起動出来たなと感心してしまう。
さて、地面に突き刺さっている大剣の元へと近づくにつれ、大剣から発せられる放熱に耐えながら確認する。刀身の長さは約六十㎝で、刀の幅は約五十㎝はあるのではないだろうか。鍔の無いグリップと刀身のみしか存在しない大剣だ。刀身の中央から刃に向けて黒から赤へと変わっている。地面に突き刺さっている大剣の刃をよく見ると、地面に接触している箇所の刃が真っ赤に燃えている。グリップの部分を確認するが、随分と長く使用されていたのか、黒革のグリップ部分はボロボロになっている。
「なんだろう。この大剣、どこかで見たことがあるような。あれ、どこで見たんだっけ」
まったく思い出せないのだけど、見覚えだけはあるのだ。だが、このまま思い出すまで動かない場合、イスズ様の元へ急がなければならない。しかし、この大剣をそのまま放置するのも問題なような気がするので、大剣を地面から引き抜く。鞘が無いので剥き身のままではあるが、そのまま大剣を肩に担いで歩き始める。
大剣の反りの部分を肩に当てているのだが、刃の部分だけ炎が出ている。肩に担いだだけなのに、何故かしっくりと来る。グリップの握り具合もしっくりくるし、担いだだけなのに何故か懐かしくなる。
(さてと、奥へと進むかな。うん、このまま立ち止まってても始まらない)
大剣を担いでから周囲を確認した。この剥き身の大剣の鞘がどこかにあるはずなのだが、周りを見渡した限りでは落ちていなかった。落ちている物なんて、小石や木の枝くらいしかなく、鞘になりそうな物も落ちていなかった。後ろには昇り階段があるのだが、もしかしたら上の階に鞘があるのかもしれない。だが、その先には何も見えない。それ故に、今は先へ進むべきだ。この先に待つイスズ様の元へ急がなければ。
「この先に、イスズ様が居るはず。急いで合流しないと」
三人が横並び出来るほどの広さのある通路を、大剣を担ぎながら走り始める。きっと、この先にイスズ様が待っているはずなのだ。通路の左右の壁には魔導石で造られたランタンが付いていた。高さは同じなのだが、何故か左右ジグザグに配置されている。魔導石から綺麗な白い炎が、通路を照らしてくれている。だが、弱々しい光では所々が明るいだけで、影が出ている箇所に何があるのかが視認できない。だが、灯篭の光よりも肩に担いでいる大剣のおかげか、先ほどから激しく燃える炎のおかげで足元に何があるのかよく見える。しかしながら、灯篭の火よりも、この大剣から放たれている炎が明るい。
「先が長いなぁ。更にスピードを上げようにも、この剥き身の大剣から出ている炎が髪の毛に引火しそうで怖いし。仕方ない、このままのスピードで行こう」
まだゴールが見えないこの通路を走りながら、私はこれからの事を考え始めた。私たちは、試験を無事に合格したのだ。その結果、私はイスズ様達と一緒に旅が出来る。だが、私は旅人であり、今はこの世界の住人だ。ただ、旅人だったことを忘れていた期間が長かったせいで、どちらかと言えば『この世界の住人より』に魂(存在)の位置が置かれているだけある。でも、住人の位置に置かれていても、私は『旅人』なのだ。旅人とは『世界を監視し、その結末を見守る者』である。それこそが問題なのだ。本来なら、旅人は『一つの世界に一人まで』が掟なのである。しかしながら、それは私が眠りにつく前の話だ。リューちゃんから聞いた話では、今は『旅人と部下の二人まで』と決まったらしい。つまり掟に従い、私は旅人の世界に帰還しなくてはならないのだ。この世界の監視や執行は、現在『五十鈴様と竜仙』の二人で行なうと、隊長への登録書類に記載して送られたのだ。そうなると、私はこの世界に居座るわけにはいかず、当然だが帰還せねばならない。
「一緒に、旅が出来るのかな。記憶が戻る前の私なら、問題なく一緒に旅に出れたかもしれない。でも、記憶が戻ったことで、私が旅人だと思い出してしまった。そうなると、私はイスズ様達と一緒に旅に出れず、帰還することになるのかな」
ただ、その不安が私の心を覆う。旅人は、世界にとって来訪者であり、医者であり、調律者でもある。そんな私たちが、この世界に二人なんていたら『私、末期状態なの!?』と誤認識し、世界の意志が発狂し消滅を選んでしまう。それこそ、避けなければならない。だから、旅人と部下の人数制限が決まっているのだ。そして、本来なら旅人は『監視者』として干渉するのが一般的だ。だが、今回は何故か『執行官』として介入している。それがどれ程の危険を及ぼすのか、この世界の神々は理解しているのだろうか。
「確か、イスズ様が言ってたっけ。この世界の神様を一人除いて皆殺しをして、再度復活させたとか。うん、この世界の神々は何がしたいんだろう。こうなることを理解した上で、こんな無謀な事をしたのかな? 旅人が執行官として介入するなんて、世界が手の施しようのない末期状態まで放置したことを意味するのに」
この世界がどれ程の危機的状況なのか。改めて考えてみると、もうこの世界が崩壊するのも時間の問題なのではないのだろうか。そもそも、旅人には役割がある。私の役割は『記録』である。簡単に言えば『世界の終焉までを記録する』のが、旅人である私の役割である。まぁ、私は他者の血を触れるだけで、その者の生死まで観る事が出来るため、記録の方よりも『血姫の旅人』と呼ばれて定着してしまっている。
その点、イスズ様は分かりやすい。イスズ様の役割は『断罪』である。役割は『他の世界に悪影響を及ぼす罪人を狩る』のが仕事だ。一度でもイスズ様がその者を『罪人』と認識してしまえば、その者は能力すら発動できず、何も出来ずにその首を断ち切られる。まさしく死刑執行人とでも言うべきだろう。そんな御方がこの世界に来たと言う事は、この世界の終焉が近いのかもしれないと思うのが普通である。
「この世界は、本当にどうなるのかな。これからの事も含めて、一度リューちゃんからこの世界の情報を聞いておかないと。さてと、ようやくゴールが見えてきた」
しばらく走っていたのだが、ようやく目の前に開けた部屋が見えてきた。徐々にスピードを落とし、部屋に着いてから立ち止まった。先ほどの転移魔法陣が描かれた部屋に比べると、若干ではあるが広いように見える。そして、その部屋の中心に一人の少年が立っていた。その姿に私は見覚えがある。緑色のコートを羽織り、左右の腰に双剣を差している。顔立ちがイスズ様に似ているのを見て、すぐに彼がホムちゃんだと分かった。
「此処は、どこホム? 皆と別れてしまったみたいホム。お母さんは、どう思うホム?」
「そうだね。多分、ご氏名がかかったんじゃないかな。私と同じでね。でも、まさかホムちゃんと出会う事になるとは、想像もしなかったけどね」
「ホム。僕はなんとなくだけど、母さんに会えると思ったホム。繋がりが関係しているのかもしれないホムね。観えない糸で繋がれた縁が、知らず知らずのうちに手繰り寄せられ、こうした引き寄せられた。僕と母さんの縁が、どこかの誰かと繋がり手繰り寄せられた。一体、誰が僕たちを手繰り寄せたのか。気になるホムが、それ以上に母さんが担いでる大剣が一番気になるホム? なんか見覚えがあるホムが、何だったホムか? 思い出せないホムね」
首を傾けながら、その大剣を見つめている。ホムちゃんも見覚えがあるらしく、思い出そうとジッと見つめている。ホムちゃんも見覚えがある事に普通に驚いたが、その大剣をホムちゃんに渡してみた。すると、ホムちゃんはマジマジと大剣を見つめ、ホムと溜息を吐いた。そして、私に返すと腕を組むと唸り声を上げながらもう一度首を傾げた。このまま放置するわけにもいかない為、大剣を肩に担ぎ直してから先ほどのホムちゃんの質問に答えることにした。
「繋がりかぁ。そうなると、私たち関係の人か、もしくは敵が呼び出した可能性があるね。
誰が私たちを呼んだのか分からないけど、ある程度予想は出来ているかな。しかしながら、ホムちゃんも見覚えがあるんだね。実は、この大剣なんだけどさ。後ろの通路の奥に私が転移した魔法陣があってね。その魔法陣に剥き身のまま突き刺さっていたんだよ。このまま置いて行くのも勿体ないから、こうして持って来たんだ」
「なるほど、そうだったホムね。確かに、これ程の逸品を放置するなんて出来ないホムね。それにしても、立派な大剣ホムなぁ。どんな素材で作られているホムか気になるホムね。うん、中々に良いホムなぁ。ただ、その大剣は――いや、有り得ない。この武器、呼吸をするように生きている。そんな珍しい大剣を、僕が忘れるなんて有り得ない。うぅん、何だろう。すごく気になる」
急に真面目モードになったホムちゃん。当然だが、途中から語尾の『ホム』を付けていない。しかしながら、確かにホムちゃんの言う通りだ。少し魔力を流しただけで、グリップの部分から脈動するのを感じた。これ程の印象に残る大剣を、私が忘れるなんて有り得ない。
「そう言えば、母さん。その大剣、鞘はなかったの? 大剣とかなら、鞘とセットじゃないと本来の名前が見えないんだよね。普通の武器なら、鞘が無くても問題なんだけど。その大剣レベルの武器だと、流石の僕でも分からないからね。どこかに鞘が転がってたりしなかったのかな」
「うぅん。普通に地面に突き刺さってたけど、鞘は見当たらなかったよ。もしかしたら、上の階層にあったのかもしれないけど、この先にイスズ様が戦っている。だから、今は後退するわけにはいかない」
ダンジョン内に吹く風に乗って、奥の方から戦闘音が聞こえて来る。奥の方から金属がぶつかる音が聞こえ、この先でイスズ様が待っているのだとすぐに分かる。そう言えば、イスズ様の愛刀『逆刃刀 幻竜』は、まだお嬢様が調整中だったはず。そうなると、この世界で作った『大刀』で戦っているのだろうか。いや、もしかしたら『鋼鉄ハリセン』か『棘付き鉄バット』で戦っている可能性もある。何せ、転送時に見えた姿には、武器を持っている姿が観えなかったのだ。
(取りあえず、イスズ様の元に行かないと。すべては、そこからだよね)
グリップを握る手が強くなる。この先に、きっとイスズ様は居る。ならば、イスズ様の元へと急いで駆けつけなければならない。今から急げば、まだ間に合うはずだ。だからか、自然と握っているグリップ部分に力が入る。それに合わせて、大剣の剣先から炎が『ボッ』と音を立てながら現れる。
「お父さんが来ているホムか? この通路の奥から戦闘音が聞こえるホムから、そっちに行こうとしてたホム。なるほど、確かにお父さんの気配がするホムね。何と戦っているかは知らないホムが、急いで駆けつけた方が良さそうホム。ところで、なんで母さんはお父さんがこの先で戦っている事を知っているホム?」
「実はね、こっちに転送される前なんだけど、一瞬だけイスズ様の戦闘前の姿が観えたんだ。だから、この先にイスズ様が居るのは間違いないと思う。まぁ、こうしてホムちゃんと合流が出来たんだし、一緒に戦えばなんとかなるかも。取りあえずは、早くイスズ様の所に合流しなきゃ」
「そうホムね。お父さんが戦っているのなら、僕たちも急いで駆けつけなきゃダメホムね。じゃ、急いでこの先を進もう!! ホム」
そう言うと、ホムちゃんは戦闘音の聞こえる方へと振り返り歩いて行く。その背中は、どことなく私が小さい頃に観た、イスズ様の背中に似ていた。私は「そうだね」と言い、ホムちゃんの後を追うように歩き出す。ホムちゃんの隣を歩きながら、この手に握る大剣をどうするか考える。この大剣、イスズ様に渡すべきなのだろうか。本当に渡すべきなのは『妖刀 夜兎』の方ではないだろうか。旅人にしか扱えない武器であり、対象を初期化させる危険な野太刀。さて、イスズ様に野太刀と大剣、どちらを渡すべきだろうか。
「母さん、どうしたホム? 眉間に皺を寄せながら唸り声を上げて。悩み事があるのなら相談に乗るホムよ?」
「ん? あぁ、えっとね。リューちゃんに『妖刀 夜兎』を預かっているんだけど、この大剣と夜兎のどちらを渡すか悩んでるんだよ。私やイスズ様なら両方使えるから良いんだけど、私にはロストエデンがあるから別に必要はないんだよね。だから、イスズ様に渡そうと思ったんだけど、戦闘時に二ついっぺんに渡すわけにもいかなから、どうしたものかと思ってね」
「あぁ、そう言う事か。確かにどちらを渡すかで悩むホムね。母さんも父さんも両方扱えるホムから、どちらを渡すか悩んでいたわけホムね。ホムム、そうホムねぇ。僕だったら夜兎を渡すホムね。母さんなら、その腰に差している銃剣でも問題はないと思うホム。でも、その大剣も母さんなら扱えそうホム。だから、此処は母さんがその大剣を扱うと良いホム」
嬉しそうに言うホムちゃんだが、確かに言っている事は正しいような気がする。イスズ様は大剣や片手剣よりも、刀や大刀の方が得意である。そう考えれば、やはりホムちゃんの言う通りにする方が良い。それに、実は私も大剣や銃剣の方が得意なのである。ある意味、考える必要もなかったのかもしれない。
「そうだね。なら、イスズ様に夜兎を渡す事にするよ。今更だけど、ホムちゃんがこれ使う? 修練の時もいろんな武器を使っていたホムちゃんなら、この大剣も軽々扱えそうなんだけど」
「そうホムねぇ。今までいろんな武器を使ってきたけど、この武器は初めてホムね。大剣にしては、重みがそんなに感じられないホム。その割に、グリップの握り具合はとても良いホム。この大剣は、本当に恐ろしいホムね。でも、この先の敵の事を考えても、双剣だけじゃ心持たないホム。硬い皮膚の魔物が相手だと、この双剣じゃ歯が立たなそうホム」
ふと脳裏に白夜大森林の第四階層の事が過った。最初、ゴーレムと出会ったとき、ホムちゃんは双剣でゴーレムを二十五分割に解体していた気がする。その時の表情が、昔の私の表情と酷似していたのだが、あれは気のせいだったのだろうか。いや、あれは間違いなくニヒルの笑みだった気がする。
「いや、ホムちゃん。ゴーレムを普通に解体してた気がするんですけど。サイコロステーキのように細切れにしているホムちゃん。今思い出しても、あれは怖かった。ニヒルの笑みで、ザクザクと切断していくのだもの。あれは、思い出しただけでも怖いからね。ザクザクって音を聞く度に、思い出しそうで嫌だなぁ」
「あははは、あの時は調子に乗っちゃったホムからね。あの時は、ごめんなさいホム。どうも、僕は『僕が敵と認識した存在』には、手加減出来ないみたいホム。ドラゴンの素材で創られたからかな、きっとニヒルの笑みも『敵だから向けただけ』だと思うホムね。まぁ、二十五分割については、肉体強化とパワースラッシュ的な何かで、無理やり切断しただけホム。流石にもう一度やれと言われたら、流石の僕でもキツイホムね」
「うん、私としては無意味なことに強化魔法を使う意味あるのか気になるけど。まぁ、昔の私も悪党を殺して、細かく解体していたからね。うん、その気持ちは分かるような気がするけどさ。あそこでやる事でもないような気が」
ホムちゃんの無駄な努力に、私は何とも言えない表情を向けた。しかし、ホムちゃんは気にしていないようで「確かにそうホムね」と、嬉しそうに微笑みながら頷いた。まるで昔の私を観ているようだった。本当に、ホムちゃんはドラゴンの素材だけで造られたのだろうか。私の血が少し流れているのではないのだろうかと思ってしまう。
「まぁ、僕も母さんみたいな武器を使えると良いんだけど。僕の場合、魔弾は作れないから、本来のガンブレードの扱い方は出来ないホムが、弾丸さえ何とかなれば出来るホムね。そう考えると、母さんは本当に凄いホムね。戦闘しながら同時並行して弾丸を補充するなんて」
「そうかな。魔弾なんて魔法と同じ原理で作るものだからなぁ。でも、確かにこれは私以外には難しいかもね。人には得意、不得意があるからね。その中で、その人だけしか使えない固有技と言うものがあるの。私の場合は、ガンブレードと対滅弾のセットで行なえる『存在殺し』だね。世界に存在したと言う記録――または、記憶を『完全に抹消させる』と言う技だね。イスズ様なら『断罪』とか、リューちゃんなら『流れ星の刑』とかかな」
思ったのだが、私たちの固有技っていろんな意味で恐ろしい気がする。イスズ様の断罪なんて、魂ごと切断すると言う大技である。リューちゃんなんて、あの金棒で敵を太陽の方へと全力で振りかぶって打ち飛ばす技だ。まぁ、本当に太陽まで届いてしまうから、ある意味で恐ろしい技だと思う。
「だから、僕でも扱えないと言うホムか。なるほど、僕で言うと『完全分解』ホムね。なるほど。そうなると、弾丸生成も母さんだけしか使えない固有技の一つと言う事ホムか?」
「弾丸生成は、ちょっと違うかな。弾丸生成は、ガンブレード使いなら誰だって出来る技だよ。でもね、私が作っている弾丸は『私だけ』しか扱えない特別性ばかり。でも、それ以外なホムちゃんにも出来るはずだよ。私の作っている姿を観ていれば、ホムちゃんもこの弾丸生成が扱えるようになるはずだよ」
「なるほど。よし、僕も扱えるようになる頑張るホム!! そして、いつかは母さんのようにガンブレードを扱えるように頑張るホム。そうなれば、母さんと肩を並べて戦えるホムね」
ホムちゃんが嬉しそうに微笑みながら、ただ前を向いて歩いて行く。胸を張り、凛とした表情で大剣を握るホムちゃん。まるで、リューちゃんが金棒を持った時の歩き方に似ていた。きっと、ホムちゃんは日々成長しているのだ。日々の生活で、イスズ様やリューちゃん、そして私や百鬼夜行部隊の人たちの姿を観て、ホムちゃんはより強くなって行く。
いずれホムちゃんが大人になったら、きっとこの集落を護る集落長になれるだろう。多くの事を学びながら、より強者へと近づくのだろう。うん、きっといずれは筋肉教団司祭さんと互角に渡り合えるほどの強者に育つのだと思うと、なんだろう筋肉と筋肉のぶつかり合いとか、ホムちゃんには無縁な事のはずなのだが、いずれ筋肉技を習得して司祭とぶつかり合う絵図が浮かんでしまう。
「ようやくゴール地点が見えたホムね。激しい戦闘音が、ここまで聞こえるホムね。うん、門の中から父さんの波動の力を感じる。とても澄み切った青色の波動が、こっちにまで伝わって来るよ」
考え事をして下を向いていたからか、ホムちゃんの言葉を聞いて顔を上げた。そこには、青緑色の巨大な門があった。一匹の巨大なドラゴンが描かれており、この先に居る敵を教えてくれているような感じがする。そして、目の前には見覚えのある少女の姿だった。今日は真紅のドレスではなく、何故か紫色の浴衣を着ていた。
「あら、貴方たち。来ていたのね。意外と早いお付きで、私としては驚きだけど。まぁ、このダンジョンの異変を起こした張本人である私が言うのもなんだけど」
「お嬢様、取りあえず後で説教をしますので。それにしても、何故、頭の上に氷水が入った袋を載せておられるのですか? まさか、イスズ様の拳骨を貰ったとかですか」
「いえ、これは違うわ。箪笥の上にあった広辞苑が、私の頭にクリーンヒットしただけよ。あの広辞苑の角が、脳天を直撃した瞬間の激痛が耐えられないわね。うん、死ぬほど痛かったわ。まぁ、高さ五メートルから落ちてきた、重さ約三キロの広辞苑の角を、脳天に直撃しても死なないあたり、私は本当に不思議だわ」
平然と笑いながら言うお嬢様に、本日二度目の何とも言えない表情を向けた。しかしながら、広辞苑を脳天に直撃しても生きていられる時点で不思議だ。だが、説教があるのは変わりない事だ。後で、イスズ様と一緒に叱ることにする。お嬢様の教育係だった私が、しっかりと叱らなくてはならない。まぁ、かなりの時間お嬢様の元を離れてしまった償いとして、しっかり叱らなければならないだろう。
「まぁ、こんなくだらない話は置いといて。あの先で五十鈴が戦っているわ。私は戦闘の邪魔をするモノを排除するのが仕事だけど、貴方たちなら大丈夫そうね。今、門を開けてあげる。ただし、開けたらすぐに戦闘よ。準備は良いかしら」
不敵な笑みを浮かべるお嬢様に、腰に差しているロストエデンのグリップを握る。それが合図だと認識したのか、お嬢様はその場で指を鳴らした。なんだろう、私たち第零部隊って指鳴らして魔法やら扉やらを開けたがるような気がする。うん、此処は意識改革をするべきではないだろうか。扉ぐらい、ちゃんと手で開けるべきだ。ただ、重い門だけは絶対に魔法で開けるけどね。
「死にさらせぇぇぇぇぇぇええええええ!!」
門の中からイスズ様の叫び声が聞こえた。そして、凄まじい地鳴りと風圧がやって来た。ドラゴンを背負い投げでもしたのだろうか。うん、何があったのか凄く気になってきた。
「よし、行ってくるホム!! 僕も混ぜるホム!!」
ホムちゃんは急激な加速で走り出した。私を置いて行って。もう一度言おう、私を置いて行ったのだ。取りあえず、ホムちゃんには説教をする必要があるだろう。仲間を置いて行くのは自殺行為であり、危機管理能力が足りない事を、しっかりと説明――もとい、説教せねば。
「あの子、昔の五十鈴にそっくりね」
「そうなのですか?」
「えぇ、興味がある事には真っ直ぐなくせに、一度集中すると周りが全然見えなくて。えぇ、本当に面白いわ。あの子の成長した姿を観ていると、本当に楽しいわ」
まるで母親のような目を門の方へと向けるお嬢様に、何故かこの世界での両親の事を思い出してしまった。いつも私の頭を撫でてくれて、私が本を読んでるときに優しい目で見守ってくれた。そう言えば、私が旅人の世界に居た時、いつもお嬢様が私の頭を撫でてくれたような気がする。
「あら、ミーアは行かないのかしら? このままにしてると、ホムホムが大変な事になるかもしれないわよ」
「ぁ!! い、行ってきます!!」
お嬢様の急いでイスズ様達のいる門の中へと走る。門の中で繰り広げられている、ドラゴンとイスズ様の戦闘する姿を観ながら、私は収納指輪から夜兎を取り出す。この武器をイスズ様に渡し、私も戦闘に参加するのだ。だが、居合拳などを駆使して戦っているイスズ様に、夜兎が必要なのか謎であるが。
「イスズ様、今そちらに向かいます」
こうして、私たちの最後の戦いが始まる。
その頃、竜仙たちはと言うと――
「良し、お前ら。帰るぞぉ」
「「はい!!」」
「ミーア殿、ホム殿。必ず帰って来るのですよ」
竜仙は無事に皆と合流し、ダンジョンから帰還する事が出来たのであった。ただ、一つだけ問題があるとすれば、竜仙以外の皆がかなり疲弊していたと言う事だけだ。何故、疲弊していたかと言うと、ただの魔力が足りなくなっただけである。あの転移で、魔力をかなり取られたようで、立つのも限界なのだろう。ただ、それでも頑張って地上への階段を上り歩いて行く。
「さて、旦那は大丈夫かねぇ」
竜仙はそう呟きながらも、手に握る金色の鉄扇を離すことなく階段を上る。彼らを無事に地上まで届け、ミーア達と合流する為に。ただ、竜仙にとってまだこの異変の謎が解決できていない。だが、地上に戻れば、この異変を起こしたのがお嬢様もとい始祖様なのだと知ることになる。そして、いつものようにお仕置き道具を引っ張り出すため、戻る前にすべてが終わるのだと、この時の竜仙は知るよしもなかったのであった。




