12話 白夜大森林 = 其の終 =
投稿が遅れてしまい、すいません。
いやぁ、資格の勉強と試験で執筆スピードがめっちゃ落ちました。
そして、会社でミスをしてずっと謝り続ける日々。
書く気力がごっそりと落ちる月でした。
来月は、頑張ります。えぇ、書きまくりますよぉ(涙
では、次話で会いましょう ノシ
毛の一本一本から熱を放出させるダイヤウルフに、私とリシューさんは水魔法を武器に纏わせて戦っている。リシューさんの錫杖と私の鉄扇による攻撃で、ダイヤウルフの刃物のような鋭い爪による斬撃を何度も弾く。体毛と違って、鋭い爪は熱を放つことはなく、ただのダイヤのように硬い鋭い爪でだった。どうやらあの熱は体毛のみのようで、少し安心はしている。しかし、あの鋭い爪で斬られたら、当たり所が悪ければ即死するだろう。リシューさんの攻撃を受けても砕けないのだから、かなりの強度があるに違いない。出来ればそれを使って武器を作ってみたい気がする。私としては、葬刃のような武器も良いのだが、出来れば双剣のような武器も欲しい。イスズ様に頼んだら作ってくれるだろうか。もしくは百鬼夜行の開発部隊に持って行ったら作ってくれるかな。ダイヤウルフの防具一式も素敵かもしれない。
『ッチ!? 中々やるではないか』
「貴方もね!! リシューさん、チェンジ」
「了解。では、まずこの一撃で」
すぐにリシューさんにバトンタッチし、後方へと退避する。その時、一瞬だがジュデッカ君の方へと目線だけ向けた。そこには、対滅弾の装填準備をするジュデッカ君の姿があった。コキュートスの銃身には『六つの魔法陣』が展開されており、金色の光を放ちながら獣心を軸に回っている。しかしながら、ジュデッカ君の頭の上に居たはずのリューちゃんの姿はどこにもなかった。どこかで観ているのだろうと思い、すぐにリシューさんの方へと体の向きを変え葬刃を構え直す。
高速で動くダイヤウルフの攻撃をいなすリシューさん。先ほどからリシューさんの手から放たれる錫杖による突きが、ダイヤウルフの爪による斬撃を相殺している。ただ突きを放っただけで衝撃波が発生するのは、どう考えても変な気がする。だが、その突きを受けても爪が砕けないのも同等かもしれない。
(ジュデッカ君の方は、まだかかるかな)
現在、私とリシューさんの手によって、何とかダイヤウルフの猛攻を防いでいる。正直言って、ダイヤウルフは『速いわ、強いわ、熱いわ』の、凄く厄介な敵である。だが、私たちが盾になっている間に、ジュデッカ君の装填準備は順調に進んでいるはずだ。実際、対滅弾をコキュートスに適合させるのは難しい。まず、装填だけはできるのだが、撃つ事が出来ないのだ。これについては、コキュートスでは撃てないのではなく、ただ単にジュデッカ君と対滅弾の相性が悪いのが原因である。対滅弾とは、敵の属性、存在、その物語を『理解』し、何を『対消滅』させるかを確定させなければ撃てない。それは、どの銃でも同じである。つまり、敵の『人生』または『生き様』を観て、その存在を理解しなければならないのだ。簡単に言えば『英雄譚』を読むような、そんな感じである。
「ッハ!! これは中々、手ごたえがありますな」
ダイヤウルフの早さから放たれる猛攻を、リシューさんは平然と弾いて行く。錫杖を槍のように構え、斬撃と噛みつきをすべて弾いて行く。噛みつきには牙へ突きを叩き込み、爪に攻撃には爪や肉球に薙ぎ払いなどを決める。あの体毛のせいで決め手となる攻撃が出来ないのが辛い。水の攻撃を放つも、あの体毛が一気に温度を上げたことで急速乾燥をする。つまり、弱点を克服し、こちらが不利な状態になったわけである。そんな攻撃を平然と防いでいるリシューさんは、いろんな意味で化け物ではないだろうか。
『我のスピードについて来れるとは――貴様らは、本当に人間か?』
「ハッハッハッハ。正真正銘、人間ですよ。ただ、人よりちょっと強いくらいですかね」
リシューさんは楽しそうに話している。普通の人間では回避不能な爪による斬撃を、平然と笑いながら『人間の眼では追えないスピード』で手に持っている錫杖で弾く。弾かれた瞬間を私の葬刃の突きを放つも、葬刃が接触する瞬間、その箇所の毛が急速で赤くなり高温を放つ。葬刃に水魔法を纏わせているとは言え近づいた瞬間、やはり一瞬で纏わせている水が水蒸気へと変わってしまう。
(弾丸装填に三分かかる、か。弾丸の一つ一つに、ダイヤモンドウルフの物語が刻まれている。その物語を理解した時、対滅弾の本来の能力が解放される。でも、それを三分で理解するなんて、結構難しいんだけど)
水蒸気を放つ葬刃を見ながら、そのまま纏わせている水を強制的に爆発させた。その爆発の反動でダイヤウルフと私は互いに後方へ吹き飛んだ。私はリシューさんが受け止めてくれたので助かったが、ダイヤウルフはそのまま氷柱へとぶつかる。それを好機として攻めに出るのが普通なのだが、私たちは攻めに転じなかった。何故なら、此処で攻めに出たとしても、あの高熱を放つ体毛によって攻撃が防がれてしまう。対滅弾であの体毛の能力を消し去れれば、確実に仕留められるだろう。または、存在そのものを消滅させるか。だが、正直に言おう。多分、それは無理だ。あの程度の血では、間違いなく足りない。最低でも後一リットルは必要だろう。
「あの巨体で出せるスピード、あの攻撃は恐ろしいですな。攻撃される個所だけを、無意識に熱量を上昇させる。それも身体全体の放熱をそのままにした状態でやれるとは、正直に言って中々に厄介な敵ですな」
「うん、ムカつくほど厄介だよ。攻撃しようにも打撃はあの毛のせいで、攻撃しようとした瞬間に発熱する。正直、あの毛を全部刈り切って、あの四肢をバラバラにしてあげたいのに、あの放熱が邪魔でそれもできない。全くもって不満だよね」
「ミーア様。だんだんと悪役に変わっておられて――いえ、やめておきましょう。今は、戦闘中ですからな。しかしながら、あの体毛は確かに厄介ですな。あの爪とあの体毛。まさに『矛盾』ですな。最強の矛と最強の盾を兼ね備えた存在。はてさて、どうやってあの盾を砕くか」
私たちは、あの厄介な放熱にどう対応すべきか悩んでいた。ジュデッカ君の対応が終わらない限り、私たちは不利な状態である。氷柱漬けの時に仕留めるべきだったのだが、きっと殺すことは出来なかっただろう。あの状態で攻めていたとしても、あの状態になれば殺す事は出来ず、逆に私たちが深手を負う可能性がある。
リシューさんは懐から海中時計を取り出すと、時間を確認し始めた。そこまで余裕があるのかと言いたいところだが、リシューさんは時間を確認すると眉間に皺を寄せながらすぐに懐中時計を戻した。
「ふむ、まだ一分程度しか経っておりませんか。ミーア様の攻撃を受けたと言うのに、未だあのスピードとパワーは落ちない。いや、逆に上がっているように感じますな」
「うん、確かにその通りだね。氷柱に閉じ込める間で仕留めるべきだったけど、多分殺す瞬間に今の状態へ変化してた可能性があるし。どちらにしても、この状態は厄介だよ。まぁ、イスズ様なら笑いながら大鎌で『断罪する』と言って斬首するだろうけど」
「えぇ、あのお方なら確かに笑いながら平然とやりそうですな。それにしても、今まで手加減をしていたようですな。本気になったダイヤモンドウルフが、これ程厄介な敵だとは思いませんでした。硬く、熱いあの毛をどうにかしなければ、我々の攻撃が通るか分かりませんからな。今は、キャティ殿が定期的に回復魔法をかけてくれるため、我々は攻撃に専念できますが――ふむ、これは本当に厄介ですな」
ダイヤウルフを見つめながら錫杖を握り直すリシューさん。強敵に出会えたことで喜びで、笑みを浮かべながら錫杖に魔力を込め始めた。あれは一体何をするつもりなのだろうか。そう言えば、リシューさんの得意武器は槍だと聞いたことがある。あの構えは、槍兵の構えに似ている。錫杖の先端が徐々に赤色に変わる。形は変わらないのに、色が変わる錫杖っとは一体何なのだろうか。
「ミーア様。あの獣の攻撃をすべて捌きは出来ますが、流石にこの状況が続けば我々が不利になる。ここはひとつ、例の『あの技』を試しましょう。発動できる時間は数秒ではありますが、あの体毛を気にせず肉体にダメージを与えられましょう。ただ、仕留められるかどうか」
「仕留められるかは、確かに微妙だけど。でも、アレを試すのかぁ。時間制限付きとは言え、ここで使うのも――いや、決定打の無い今だから、か。うん、解かった。ただ、互角かそれ以上の此奴にどこまで通じるか。ジュデッカ君、準備完了まで後どのくらいかかる!?」
弾丸を装填するジュデッカ君に向けて、一切振り返ることなく叫んだ。あのスピードとパワーは、先ほども言った通り今の私で互角か格上の敵である。旅人の先輩方とかを抜いて、これ程の敵は今までに出会った事が無い。これ程、心を躍らせる敵は今まであった事が無い。それ故に、この強敵の前で一瞬でも目を離せば戦況が崩れることは間違いない。ジッと、ダイヤウルフを見つめながら右手で握っている片方の葬刃で自分の肩を叩いた。
ダイヤウルフはゆっくりと立ち上がり、威嚇しながら体毛が一気に赤く染まった。あれは俗に言う『絶対防御』ではないだろうか。最強の矛と呼べる爪に最強の盾である体毛。あの状態をどう解除させるか。まぁ、答えはもう出ている。
「後一分くらいです!! 意外と情報量が多いのですが、全てがバラバラに配置されてて、ようやく整理が終わったところです!! そのおかげで、欲しかった情報が見つかりました!! 後は――」
「耐えきるだけだね!! 発射可能状態になったら、ホムちゃんも戦闘に参加。キャティちゃんは、全員への付与及び回復魔法を切らさないように対応して!! ジュデッカ君は、私とリシューさん、そしてホムちゃんの三人で隙を作るから、その時に確実に当てること!! その後は、全員で一斉にダイヤモンドウルフを仕留めるよ」
「「了解!!」」
ホムちゃんたちの気合の入った返答を聞き、私は葬刃を構え直しダイヤウルフを睨みつける。あの弾丸が当たれば、あの厄介な能力は弾丸と共に対消滅する。その時、戦いは此方が優勢に変わる。だから、今だけは私たちがダイヤウルフを抑える。どんなことがあろうと、ジュデッカ君に近づけずに敵を足止めするしかない。
「リシューさん、準備はOKですか? 私はいつでも行けますよ」
「えぇ、此方もいつでも行けます」
「了解。じゃ、行くよ!!」
私の合図と同時に、リシューさんと私はダイヤウルフへと走り出す。絶対防御状態のためか、走り出すことなくその場で立ち止まっていた。近づくだけで汗が止まらないのだが、それでも私たちは走り続ける。まるで間欠泉から噴き出す熱湯に近づくような感じだ。そんな蒸し暑さではあるが、葬刃と自分の肉体に魔力を込め続けた。これから放つ技は、体への負荷ダメージが大きく、下手をすれば死ぬかもしれない。それ故に、リシューさんとの練習時は、イスズ様とリューちゃんが立会いの下で行なっていた。
「「時間加速!!」」
リシューさんと同タイミングで叫んだ瞬間、凄まじい衝撃が襲ってきた。一瞬だが意識が飛びそうになったが、唇を噛みしめながら意識を保ち一瞬でダイヤウルフの懐へと入る。いきなり出現したことに驚いたのか、ダイヤウルフの眼と顎が私の方へと『ゆっくり』と動いている。体毛から放たれる熱も呼吸するかのように、ゆっくりと温度が変化していく。それを確認しながら、温度が下がった瞬間を狙って、ダイヤウルフの下顎へ右手に握る葬刃を叩き上げる。その衝撃にゆっくりとだが白目に変わった。取りあえず、時間制限付きのこの技でどこまで追い詰められるかだ。
(時間が来たら、さらに大ダメージが体を襲う。それと同時に回復魔法を自動的に発動するようにはしてるけど、それで足りるかどうか)
そんなことを考えている間に、リシューさんは錫杖で下腹へ上へと向かって振り上げた。その衝撃に口が若干開き、下腹がその攻撃にゆっくりと上がる。この加速世界では、流石にダイヤウルフでも追いつけないようだ。前足がゆっくりと上がるのを確認しながら、私は次の攻撃へと移るためすぐさま顎に叩き込んだ葬刃を引っ込め、左頬へと右前脚による回し蹴りを叩き込む。勿論、水魔法を纏わせた状態でだ。リシューさんのダイヤウルフの背中へと飛び上がり錫杖を槍のように構え、鋭い突きを放つ。その衝撃でゆっくりとエビぞりになる。今は追撃の手を止めるわけにはいかないため、すぐに足を引っ込めダイヤウルフの脳天へかかと落とし叩き込む。先ほどの攻撃で、ダメージを受けた箇所が徐々に高熱を放ち始めた。すぐに足を引っ込める。
(このくらいダメージを与えればッ痛!? も、もう、維持のげ、限界が)
体へと伝わる、凄まじい衝撃。それによって、今さらながら思い出した。この技って、体感時間で『五秒』しか持たないことを。先ほどまでの攻撃の連撃で、三秒くらいだろう。だが、ここで攻撃の手を緩めてはならない。だが、私たちはこれ以上の追撃は止め、すぐに後方へと退避した。この技を使うなら、引き際が肝心なのだ。安全圏内まで退避と同時に、技の効果時間が切れた。
技が解除されたと同時にやって来る体全体を襲う凄まじい衝撃で、喉の奥から湧き上がる『それ』を吐き出し地面に片膝をつけた。それは、赤黒い液体。つまり、私の血だ。口から吐き出した私の血を見ながらも、すぐにキャティちゃんと時限式の回復魔法によって激痛から解放されていく。口元を手で拭い、すぐにダイヤウルフの方へと目を向けた。そこには、あまりダメージが入っていないのか、ジッと此方を睨みつけたまま立ち尽くしているダイヤウルフの姿があった。
「流石に、あれでも死なないか。牙を砕いたはずなんだけど、ヒビすら入っていないようですな」
「あの肉質が原因でしょうな。取りあえず、心臓付近に二撃与えたのですが、平然と立っているのも変ですな」
「「あれ、本当に倒せるの」でしょうか」
私たちの攻撃を受けたはずなのだが、それでも倒れることなくジッと私たちを見つめている。口から垂れている紅い血と息を荒げるその姿は、どんな攻撃を受けたとしても決して倒れぬと言う決意を感じた。それ故に、倒せるのか疑問になる。強者としての意地ならば、まだ倒せるとは思うのだが、決意を持つ者が相手だと倒せる自信が無い。ジュデッカ君次第とも言えるが、この状況を打破できるのは、もうジュデッカ君のみだ。
しかしながら、ダイヤウルフは動こうとはしなかった。まさかと思うが、先ほどのダメージで立っているだけでやっと――な、わけがない。足は震えておらず、ただ息を荒げながら睨みつけているだけ。声を発する事もなく、室内の温度が徐々に上がってきている。そこで、私は気が付いた。もしかして、ダイヤウルフは体毛の熱を徐々に上がっているのではないかと。その状態だと対滅弾が被弾する前に溶けてしまう。
「リシューさん、もう動ける?」
「えぇ、問題はありません。いつでも行けます」
リシューさんも完全には回復していない様だが、戦闘続行は可能らしい。額から流れ出る汗を手で拭い、一度その場で深呼吸をした。室内の熱気が肺の中に入り、若干不堪な気持ちになった。しかし、この熱気をどうにかせねばならない。そのため、この状況を打開するべく、リシューさんに私の考えを伝えることにした。
「分かった。リシューさん、ダイヤウルフに水魔法か、風魔法を放ち続けて欲しいんだ。あの体毛のせいで、室内の気温が一気に上がり始めてる。この状態が続けば、間違いなく弾丸が被弾する前に溶けると思う。いや、その前に私たちがこの熱に耐えられず、全滅する可能性もあり得る。だから、あまり得策ではないけど、ここは一気に室温を下げるつもりで、風魔法で熱を外へと放出する。または、水魔法でダイヤウルフの体毛の熱を下げる」
「なるほど、確かにその方がよろしいかと。ですが、先ほどもそうでしたが、あの体毛に水が触れた瞬間、蒸発してしまいましたがその点はどう解決するおつもりで」
「今まで使ってきたのは、初級と中級レベルだったよね。上級レベルの連発なら、流石にあの体毛の放熱処理は追いつかないはず。キャティちゃんの魔法なら、あの体毛の処理は間に合わないと思う」
「なるほど、試してみる価値はありそうですな。キャティさん、補助魔法を一時中断し、水魔法の攻撃に専念。キャティさんの護衛は私とミーア様で引き受けます。ホムホムさんは、引き続きジュデッカ君の護衛をお願いします」
「分かったホム!!」
リシューさんの指示を聞いて、キャティちゃんが私の隣に来ると、すぐに魔法の詠唱を始めた。詠唱中も室内の温度が上がって行くのを肌で感じながら、この室温を下げる魔法をいくつか考える。風魔法で教会の壁を壊すのも有りだが、生き埋めになる可能性もある。大聖堂のステンドグラスを破壊するのも良いのだが、風に乗ってガラスの破片が室内に散らばることも考えられる。本当なら、ジュデッカ君の『絶対零度』を使えば一瞬で氷河の世界に変わり、室温も一気に下がるのだが、今は私たち三人でこの室温を下げる必要がある。
「ウォーターレイン!!」
「ハリケーン!!」
私が考えている中、キャティちゃんの一つ目の上級レベルの範囲水魔法「ウォーターレイン」が発動した。室内にスコールのような強い雨粒が降り注ぐ。そして、私たちに被害が無いようにもう一つの魔法「プロテクトオーラ」を全員に付与してくれたようだ。私たちの体を覆うように薄い緑色の幕が覆われた。さらに、水魔法による付与魔法である「エンチャント・アクア」が発動したようだ。これにより、私たちの攻撃に水属性が付与されたことになる。
そして、リシューさんの錫杖から放たれる風魔法「ハリケーン」も同時発動した。ハリケーンにより、ステンドグラスが外へと向かって吹き飛んで行ったのだが、さらにキャティちゃんの放ったウォーターレインがハリケーンと合体し『暴風雨』のようになり、室内の温度が急激に下がり始めた。少し肌寒さを感じたのだが、この状態を利用させてもらう。相手に気付かれず、巨大な爆弾を用意する。竜巻に向けて、私の得意な水魔法を発動させる。
「アクアバレッド!! レベルⅡ――発射!!」
水属性の弾丸を葬刃から放つと、そのまま竜巻の中へと吸い込まれるように入って行った。すると、弾丸が破裂する音が響き、そのまま水の槍がダイヤウルフに向かって行く。竜巻のスピードに乗って放たれる水の槍は、時速五十キロくらいはあるのではないだろうか。その速さの槍なら当たるとは思うが、防がれるのが関の山だろう。だが、それで良いのだ。
『忌々しい竜巻に水の槍か。この程度の水の槍など、片手で十分だ』
ダイヤウルフの声と共に、水の槍が砕ける音が聞こえた。どうやら予定通りに砕いたようだ。後は、その水が彼奴の体内に吸い込まれれば、確実にあのダイヤウルフを殺すことが可能だ。その事を考えていると、待ちに待っていたジュデッカ君の声が聞こえた。
「ミーア様!! 装填完了しました!! いつでも撃てます」
「ジャストタイミング!! 待ってたよ、ジュデッカ君。皆、ダイヤウルフの動きを封じるよ!!」
その言葉を待っていたかのように、ホムちゃんが此方へと向かって――いや、通り過ぎてそのままダイヤウルフの元まで一直線で走って行った。暴風雨の中に突っ込無姿を見て、リシューさんは魔法を解除した。まるでホムちゃんが突っ込んでくるのを『待っていた』かのようなタイミングで、リシューさんはハリケーンが解かれたのだ。いきなりハリケーンが止まったことで、ダイヤウルフは好機と思ったのだろう。此方へと駆けだそうとしていたのだが、急に目の前に現れたホムちゃんに驚いたらしく一瞬だけ足を止めた。その瞬間を待っていたかのように、ホムちゃんは手に握っている何かのピンを引き抜いた。そして、その何かをダイヤウルフへと投げつけた。
(ぅん? あ、あれって、まさか!?)
ダイヤウルフの目の前で、凄まじい光と共に耳がつんざく様な音が聖堂内に響き渡る。そう、ホムちゃんは閃光手榴弾を投げたのだ。そして、その被害をもろに受けたダイヤウルフがどんな目にあったのか。言わなくても解かるだろう。現在の私のようになっているはずだ。
(め、目がぁぁぁぁぁぁあああああ!! 耳がぁぁぁぁぁぁあああああ)
耳鳴りが止まず、目がすごく痛い。あの閃光にすぐに気が付くべきだった。こんな状態の私だけど、リシューさんたちは大丈夫だろうか。ホムちゃんは、後で説教をする。尻叩きは確定である。
地面に何か巨大なモノ――いや、ダイヤウルフが倒れた地鳴りのような衝撃が足から伝わった。
このままの状態は流石に拙いため、すぐに状態回復魔法を自身にかけた。すぐに耳鳴りが収まり、視力も回復した。そして、目の前にある光景に驚いてしまった。それは、首が綺麗に切断されたダイヤウルフが横たわっていたからだ。落とされたダイヤウルフの額には、六発の弾痕があった。そして、ダイヤウルフの胴体に乗っているホムちゃんの手には、べっとりと紅い血が零れ落ちていた。
「ぜ、全、全弾、命中。ちょ、ちょっと、疲れた」
「御心流一の技、首狩り。ジュデッカ君、ナイスホム」
「は、はい。ホムさんの指示通りにいけました。ただ、リシューさん以外が被害受けましたが」
ホムちゃんとジュデッカ君の言葉を聞いて、すぐにキャティちゃんとリシューさんを確認した。そこには、平然と仁王立ちしながらダイヤウルフの亡骸を見つめ、キャティちゃんは耳を抑えながらうずくまっていた。すぐに私は駆けつけて回復魔法で、すぐに状態異常を回復させた。弱弱しい声で「ミーアちゃん、ありがとぉ」と涙目になりながら、私の胸に顔を埋めながら抱きしめられた。
「はぁ。なんか、あっけない終わりだったなぁ」
何の相談もなく閃光手榴弾を投げるのはどうかと思うが、まさかここまであっさりと決着がつくとは思いもしなかった。最後は不意打ちによる敗北とは、ダイヤウルフの人生において最悪な終わりだったかもしれない。だが、あえて言おう。せめて、今回の手榴弾の件について、私とキャティちゃんには伝えて欲しかった。後で、ホムちゃんとジュデッカ君には説教が待っているのは確定事項だ。
「リシューさん、終わりましたね」
リシューさんに声をかけたのだが、反応が無い。ずっと仁王立ちしたまま、動かずにずっと立っている。それがあまりにも不自然なので、抱き着くキャティちゃんを引きはがしリシューさんの方へと近づき声をかけた。だが、全く返答が返って来なかった。いや、何だろう、凄く不安になってきた。取りあえず、意味はないだろうが状態異常を回復させる魔法をかけてみた。まぁ、何の意味もないと思ったのだが、取りあえずかけてみることに意味がある気がした。そして、私の不安が的中してしまうのだった。
「おや、ようやく周りが見えましたか。いやはや、先ほどの閃光と同時に眼と耳がやられたのですが、視力も耳鳴りも完全に治りました。回復魔法をありがとうございます。おや、如何なされたかなミーア殿」
「ぇ、いや、うん。なんでもないよ。アハハハハ」
頬を引きつらせながらそう答えた。まさか、リシューさんも被害者の一人だったとは予想できなかった。まぁ、確かに『閃光手榴弾を投げる』ことを、私たち三人は事前に知らされていない。いや、知らされていないのではなく、説明をされていないのだ。そのせいで、私たちは被害を受けたわけだ。しかし、あの閃光手榴弾を受けたのにも拘らず、平然と仁王立ちをしながらダイヤウルフの死体を睨みつけていたリシューさん。その姿を見れば、誰だって閃光手榴弾の被害を受けていないように見えるだろう。それが、まさか被害を受けていたとは思いもしなかった。
「白夜大森林のボス。ちょっと苦戦しちゃったけど、無事に討伐出来たね。終わりはあっけなかったけど」
「えぇ、そうですな。前半は此方が優勢でしたが、後半は我々は劣勢でした。あの激戦を考えると、確かにあっけない幕引きでしたな。ですが中々に楽しめたと思います」
「うん、そうだね。楽しかったのは楽しかったけど、ちょっと疲れちゃったかな」
ダイヤウルフの戦闘は、凄く楽しかった。リシューさんの言う通り、前半戦は此方が優勢だった。でも、それは速攻でかたを着けたかったからだ。でも、徐々に此方の手の内が解かったのか、ダイヤウルフが本気になり、後半戦は私たちが劣勢に立たされた。戦いとは駆け引きなのだと、改めて再認識させられた。本当の強者との戦闘が、これ程楽しいものだとは思わなかった。
(ありがとう。ダイヤモンドウルフ、貴方のおかげで私たちはさらに強くなれた)
ダイヤウルフの死体を見つめながら、私は手を合わせ感謝した。そして、ジュデッカ君の方へと体の向きを変えた。先ほどまで姿が無かったリューちゃんは人の姿に戻っており、ジュデッカ君の隣で腕を組んだ状態で立っていた。今までどこにいたのか聞きたい気持ちを抑えつつ、私はリューちゃんに向かって、この現状で言える一言を告げた。
「リューちゃん。結果はどうあれ、勝ちは勝ちだよね」
「そのようだな。まぁ、勝ちは勝ちだ。試験はこれにて終了だ!! 皆、ご苦労だった。儂の目から見ても、お前たちは合格だ」
リューちゃんの宣言により、私たちは歓声を上げた。結果はどうあれ何とか白夜大森林のボスを無事討伐したのだ。そして、その宣言によりダイヤウルフの死体は光の粒子となって消えていく。そして、光の粒子が中央に集まり一つの宝箱へと変化した。それを見届けたことで、ようやく戦闘が終わったのだと安心してか、私はその場に腰を下ろした。
「あぁ。でも、しんどかったなぁ。もう、絶対にダイヤウルフなんて戦わない!!」
私はそう呟きながら、宝箱の周りに集まる皆の姿を見守るのだった。




