10話 白夜大森林 = 其の五 =
どうも、お久しぶりです。
夏なのに、今週から雨、雨、雨!!
夏季休暇が終わったのに、湿気で私は汗だくです。
こんな中で執筆作業すると、手が遅くなる遅くなる。
なんだか、今年の夏は悲惨だ(;;
でも、めげずに執筆頑張ります!!
では、また次話で会いましょう!! (^・ω・^)ノシ
あれから時間が経ち、私たちは朝食を終えた。ダンジョン鹿の骨付き肉、とても美味しかったです。あれで鹿肉のシチューなんて出たら、きっと十回はおかわりをしちゃうだろう。そうなれば、私の体重がちょっと増えるかもしれない。だから、現在の私は食後のストレッチのために、ロストエデンを召喚していつもの素振りをしている。
先ほどリューちゃんが赤狼ことフレアを解放したのだが、それとほぼ同時に安全地帯だと思っていたこの場所の魔素濃度が一気に跳ね上がった。発生場所は言わずもなが、祭壇からである。そのため、私とキャティちゃんで魔素の流れを操り、何とか魔素濃度を生活基準まで下げることに成功した。だが、まだ安全とは言えず、先ほどから徐々に魔素濃度が上がっているため、空気中の魔素を使用しながら自身に重力魔法を常時かけた状態で、こうして素振りをすると言う芸当を行なっている。
「ふぅ。やっぱり、斬撃しながら引き金を引くのは難しいなぁ。頭では解かっているのに、体が反応が遅れる。夢世界では普通に出来たけど、現実世界じゃそうもいかないか。斬撃と同時に引き金を引くまでに約一秒程度の遅れだけど、だいぶ体が慣れて来たかもしれない。この調子なら、夢世界の時と同じ戦闘が出来るかな。それに、重力魔法をかけながらの素振りは、結構修行に向いているかも。ダンジョン鹿のおかげで、血の記憶を使用しての弾丸作製も順調だし、結構余裕が出来たね。さて、次は葬刃の調整でもするかな」
素振りを終え、ロストエデンを魂の中へと戻した。素振りとは言え、重力魔法を常時かけながらの素振りは初めてで、良い経験が出来たと思った。今後の事を考えても、これは特訓としてメニューに入れよう。私は重力魔法を解き、腰に差してある葬竜を抜いた。私の『第二の相棒』の調整をするため、祭壇の階段に腰を下ろした。
そう言えばだが、この階層で手に入れた宝箱はキャティちゃんに保管してもらった。今は、収納指輪に保管しているアイテムを、宝箱の中に詰め変える作業をしている。なんでも、種類ごとに分けて必要に応じて箱から取り出す仕組みを作っているようだ。キャティちゃんは、先ほどから忙しなく指揮棒を振りながら宝箱に魔法をかけていた。
(収納指輪に施された術式をコード化し、新たに組み替えて簡単な収納魔法を作り出す。収納指輪内に先ほどの宝箱を連結させ、種類ごとにまとめたアイテムを即座に取り出せる仕組みに変えたのか。言うなれば、パソコンのフォルダーに、分類ごとに違うフォルダーを作る感覚かな。キャティちゃん、この時代にパソコンは存在しないけど、その発想を平気でやれるあたり、凄すぎるような気が)
そんな事を思いながら、葬刃を広げて魔力を流す。やはりゴーレムとの戦闘で若干ではあるが鉄扇の表面に細かな傷があった。そのせいで、魔力が少し流し辛くなっていた。その箇所に、四階層で倒したゴーレムの破片を置き、破片にも魔力を流していく。すると、破片が溶け始め、細かな傷の箇所が修復されていく。実は、この葬刃に魔力を流しながら、素材となるものを置いておくと、細かな傷や大破した箇所を完全に修復してくれるのだ。
「留め具は、ちょっと緩くなってるかな。魔力を流せば、ついでに修復されるようだし、もう少し多めに魔力を流すかな。この後の戦いを考えると、やっぱり二重魔法とかも考えた方が良いかな。ただ、耐えられるかだよなぁ。複合魔法による技、確かまだ五回くらいしか試してなかったな」
葬刃の修復が終えたので、そのまま閉じた。そして、葬刃の片方にだけ雷と水の二種類の魔法を込めてみた。鉄扇の先から水の刃が現れ、その周りを青い稲妻が纏わりつく。バチバチと雷の音を響かせながら、水に纏わり続けるのを見続けながら考え事をする。キャティちゃんや冒険者たちと共に複合魔法の研究をした中で、唯一成功したのがこの『水雷斬』である。まだ、風と水を合わせた『風水刃』が未完成な状態ではあるが、今後は更なる複合魔法を研究しなくてはならない。
さて、水雷斬をずっと維持したまま確認をしていたが、そろそろ解除を始めることにした。このまま水雷斬の切れ味を確認したいけど、試し切り相手がいない為そのまま解除を始める。一気に解除するのではなく、一つ一つ丁寧に解除する。まずは雷を解除し、水を解除する。この二つだけである。
「嬢ちゃんは、本当に勉強熱心だな。二種類の魔法を同時に発動し、そのまま固定化させるなんて。面白い芸当を思いつくもんだな。それも、通常の五倍の魔力を流しても平然とした表情でいられるとは、やっぱり旦那に憧れて鍛えたのか」
一つ一つ丁寧に魔法を解き、葬刃を腰に差し戻す。もう一方の葬刃を開き、損傷はないのかを確認する。あのゴーレム地獄を耐え抜いたとは言え、かなり疲労があると予想していたのだが、それほど酷い傷もなく細かな傷があるか無いかレベルである。この程度であれば、魔力を軽く流せばすぐに直せるレベルだ。なので、ゴーレムの破片を葬刃の上に置き、少し魔力を流して傷を修復した。完全に直った事を確認してから、葬刃を閉じて腰に差し戻した。
「う~ん。まぁ、そんな感じかな。イスズ様の技の一つを練習してたら、こんな技が出来たって感じだよ。この複合魔法は調整がすごく難しくて、一か月以上も調整するのに時間をかけたかな。沢山の人の意見を貰って、ようやく形にすることが出来たんだよ。これは、私だけではない。皆の支えがあって出来た、この集落の宝だね」
「確かにな。ちなみに、水雷斬に触れたら確実に感電死するレベルだろう」
「うん、確実に死ぬね。昔の私なら、もう少し自重してたかも。この魔法、普通に危険だし。昔の私なら『絶対』に作らなかったと思うよ。ガンブレードと弾丸だけで戦ってたと思う」
苦笑しながらも、昔の私を思い出しながら言った。だって、あまりにも危険な魔法は絶対に作ろうなんて思わないからね。弟に関わる事でも『ここまでの事は絶対にしない』と、今の私なら言える。
「昔の嬢ちゃんは、どちらかと言えば『無理に笑顔を作る少女』だったな。いつも微笑んでいる割に、一人でいるときは部屋の隅っこで泣いている。いつも慎重に行動をする割に、大事なところでドジをして、普段より二割程度しか実力を出せなかっただろうな。今思えば、昔の嬢ちゃんは無理をしていたな。重い重圧に苦しんでいたんだろうな。だが、今の嬢ちゃんは違う。昔の嬢ちゃんが閉じ込めていた心の殻を叩き割って、ようやく本来の嬢ちゃんが出てきたような感じだな。ハッハッハッハ」
確かにリューちゃんの言う通りだった。昔の私は『自分の力』に恐れていた。他者の血を喰らうことで、弾丸を生成する事が出来る。それも燃費が良いせいか、ステーキのレアだけで、弾丸が三百個くらい簡単に作れてしまう。それは銃弾としても利用可能。つまり、肉を食べた分だけ弾丸を無限に製造できる。戦争を起こすなら持って来いの能力である。だから、当時の私は自身の力を理解し、恐れていた。ただ、弟を護る為ならば躊躇なく使っていた。
「そうだね。きっと『覚悟』が出来たからだと思うよ。当時の私は、まだ全然覚悟が足りなかったんだと思う。たった一人の家族である『弟を護る』為だけに力を求めて、生きるために多くの者を殺してきた。犯罪者も、貴族の連中も、病気や弟の恋人以外で、弟を苦しめる者すべてを殺してきた。弟や私を奴隷にしようとした奴隷商人なんて細切れに解体した気がするな。そんな、犯罪者の私を隊長や皆が護ってくれた、支えてくれた。だから、私は旅人として生きると決意した。でも、当時の私は『世界を護る』なんて想像もできなかったもの。だから、その重圧に耐えられなくて、恐れていたんだと思う。一度の失敗で何が起こるのか聞かされたら、なおさらね」
苦笑しながら立ち上がり、その場で軽く伸びをした。これから一仕事があるのだ。気持ちを切り替えて、いつもの仕事人である私に戻る。この後は、魔法陣を起動させ最終試験会場へと乗り込むのだ。いつでも気を抜いているわけにはいかない。今のうちに体を休め、全力でフロアボスを屠るだけ。そして、このダンジョンをグチャグチャにした愚か者に恐怖を与えるのだ。イスズ様の作ったダンジョンを穢した報いはしっかりと受けてもらわなくてはならない。
「そうだったか。確かに、覚悟が無ければこの仕事は務まらんからな。世界を監視するだけが、旅人の仕事ではない。一度として失敗が、その世界を滅ぼす事になる。そんな、失敗が許されない旅人の仕事の重圧に、多くの新人が心病んでしまうからな。しかし、今の嬢ちゃんは旅人としての心構えが出来ているようだ。本当に大きくなったものだ。嬢ちゃんの弟さんも、今の嬢ちゃんを観たら喜びそうだな。まぁ、嬢ちゃんから湧き出ている黒いオーラが無ければ尚更な」
「アハハハハ。黒いオーラについては置いといて、確かにあの子なら喜びそうかな。なんだかんだで、いつも一緒だったからね。家族は私だけだし、今はどうなってるのか気になるけど、それは後でイスズ様に聞くとするよ。さてと、葬刃の修理と複合魔法の調整が終わった。うん、これで完璧だね。ぁ、そう言えば、あの赤狼はどうした――の」
先ほどまで赤狼ことフレアがいた場所に顔を向けると、ジュデッカ君がフレアの背に乗りながら頭を撫でていた。フレアは嫌がる雰囲気は出しておらず、逆にもっと撫でて欲しいと言いたげな目で、先ほどからジュデッカ君にされるがままの状態だった。うん、主従関係がしっかりしているようだ。まだ、首輪がついていないようだが、ジュデッカ君に懐いているような気がする。
「まぁ、あれだ。赤狼の奴、ジュデッカに懐いているだろ。知らぬうちにああなっていた。予想だにしなかったが、ジュデッカには『テイマー』としての素質があるようだ。今後は魔物を使い魔にする奴の宿屋も用意するとのことだが、いつになるのだろうな。早いに越したことはないのだが、ただ、なぁ」
なにやら頭を悩ませているのか、額に手を乗せるとため息を吐いた。一体どうしたのか気になったのだが、すぐにリューちゃんはその理由を話した。
「ジュデッカがだな、フレアの名前をつけたのだが」
リューちゃんが、フレアたちの方へと顔を向けた。その眼は諦めたような目をしていた。一体どうしたのだろうかと、私もジュデッカ君の方を見た。そして、私はすぐにリューちゃんのため息の理由を理解した。
「あぁ、本当に温かいなぁ。これが太陽の温もりと言うモノなんだね。それにしてもグレイブは、カッコイイなぁ」
ジュデッカ君が撫でながら、フレアに向けて言った。その言葉に、私は絶句した。まさかの『太陽の神狼』と言われたフレアに対して『墓』と言う名をつけるとは、流石の私でも予想できなかった。神獣に墓って、予想を斜め上にいっている。今更ながら、やっぱりジュデッカ君が決めるべきではなかったような気がする。やはり、皆で会議して名前を決めるべきだったと後悔をした。しかし、まぁ、フレア自身が『グレイブ』と言う名を気に入っているようだから、それで良いかと諦めることにした。
「今後は、ジュデッカにネーミングの授業を受けてもらうことにしよう。流石に神獣に対して、墓なんて名前を付けるのは拙いだろう。それに、このまま放置したら、ジュデッカたちに子どもが出来た時につける名前が悲惨な事になりそうだ。やはり、今後の事も含めて名前と言うのがどれ程大事なものかを、ちゃんと教えなくてはならないな。変な名前を付けられたり、当て字で『シンデレラ』とかのキラキラネームとかだと、大人になってから流石に可愛そうだからな。今のうちに災いの芽を摘んで置くべきだな」
「うん、同感だよ。私としては、ジュデッカ君たちの今後が不安でしかないからね。名前くらいはちゃんと相談して決めるように、一から授業した方が良いかもしれない。私としては、フレアのままで良かったと思うんだけどなぁ。他の名前をつけるなら『ホムラ』かなぁ。全体的に紅いし、炎の攻撃が得意そうだもんね」
「なるほど。よし、嬢ちゃんも一緒に『ネーミングの講義』に受けてもらう。今後の事を考えても、旦那との間に子どもが出来た時の名前もついでに考えるのも良いな。名前を付けるにあたって、名前に込められた想いを理解しやすい方が良いからな。ちなみに、儂も嬢ちゃんと同じで『焔』だったのでな、儂も講義に参加することにする。退屈しなさそうだしな、ハッハッハッハッハ」
そんな他愛のない会話をしていると、キャティちゃんたちが集まってきた。どうやら、準備が完了したようだ。そして、当たり前のようにグレイブに乗ったままジュデッカ君もやって来た。眼を見ればすぐに分かる。この白夜大森林の主に『あんな扱い』を受けたのだ、復讐する為に一緒に来るつもりだろう。やる気満々のようで、右目だけ何故か青い炎が漏れ出ていた。眼が焼けてないのか気になるが、そこはあえて無視することにした。
「ミーア様。グレイブもやる気満々のようです」
「――、フ」
口から青い炎が漏れた。不思議な事に、私たちはその炎が触れても熱くはなく、丁度良い暖かさであった。簡単に言えば、春の木漏れ日のような温かさだ。さらに、炎に触れた箇所が燃えることはなかった。本当に不思議ではあるが、これもグレイブの力なのかもしれない。後々、どんな能力があるのか確認する事にしよう。まぁ、炎の件については問題なさそうだから良いか。
「さて、そろそろ祭壇の謎解きを行なうか。大体お前たちも予想は出来ていると思うが、作業の説明自体は簡単だ。ただ、この作業については、儂も手伝わないと作業が終わらない。すまないが、今回は特例だ。儂の指示に従って動いてもらう。皆、準備は良いな」
リューちゃんの問いかけに、私たちが声を合わせて「はい!!」と答えると、リューちゃんは黙って頷いた。その表情は嬉しそうに微笑んでいた。いつも集落で子どもたちに見せる優しい笑みに、私もつられて微笑んでしまった。気が緩んでいるわけではないが、これからの作業を考えすぐに真剣な表情に戻す。そして、これからの行動について話しが始まった。
「ありがとう。では、璃秋とホムホム、ジュデッカからだ。儂と一緒に、この糸を台座の中心にある宝石に繋げてくれ。どうやら、あの台座に糸を繋げることが可能だと判明した。あの台座にある宝石に繋げることで、転移魔法陣が起動するはずだ。すぐに作業に移ってもらうぞ。そして、キャティと、嬢ちゃんは祭壇から漏れ出るかもしれない魔素を抑制し、その魔素をそのまま柱へと流し込む作業を頼む。グレイブは、キャティの傍にいろ。何が起こるか分からんからな」
「――――、ガウ」
グレイブは『任せろ』とでも言っているのだろうか、尻尾を左右に振りながらキャティちゃんの元に近づき頭を下げた。その姿を見てか、キャティちゃんはグレイブの頭を撫でながら嬉しそうに微笑み頷いた。それを合図に皆は行動を始めた。私とキャティちゃんは柱の周りを囲うように魔素の流れを作る案を練り、ジュデッカ君たちは解体した魔素の糸の配線準備を始める。解体したてとは言え、何故か糸が絡まっているので、それを解く作業から入るようだ。
そして、三十分ほど時間が経ち――――
「うむ。皆、慎重に持つように」
絡まっていた魔素の糸が解けたようで、ホムちゃんたちが一本ずつ掴み、一人ずつゆっくりと台座へと向かって歩き出した。多分だが、また糸が絡まるのを防ぐためだろう。それに、ホムちゃんたちの手には茶色い皮手袋をしており、慎重に台座の魔石の元へ運んでいる。あの皮手袋は、魔法無効化が付与されている。あれなら、あの魔素の糸による効果を無効化できる。一様、あれは錬金術用の道具であるが、このような状況にはとても役立つ。
「では、先ほども話したように璃秋が右端、ホムホムが左端だ。儂が左手前、ジュデッカが右手前だ。今回は、璃秋から時計回りで配線を行なう。身長に作業を行なうように」
リューちゃんの指示を受け、リシューさんからゆっくりと慎重に魔素の糸を台座の上に置かれた魔石に接続する。接続すると、その糸から魔力が供給され始めたのか、右奥にある柱の水晶が光り始めた。その光景を観ながら、私はグレイブの頭を撫で続けた。現在、キャティちゃんに漏れ出している魔素を柱へと供給させる仕事を任せている。魔法を使用して、魔素の流れを固定化してもらっているのだ。
「ミーアちゃん。魔素の流れの固定化が出来たよ。後は、綻びが無いかチェックお願いします」
どうやら作業が終わったようで、キャティちゃんの方へと体を向けた。そこには、嬉しそうに微笑みながら胸を張るキャティちゃんがいた。いつも思うが、キャティちゃんの仕事は『ほぼ完璧』である。機械だろうと、人間だろうと、完璧なんてありえない。必ずどこかで、小さなミスを起こす。だから、こうして私がチェックを行なう。第三者のチェックみたいなものだ。
さて、キャティちゃんが行なった作業を確認する。先ほどまで漏れていた魔素は漏れておらず、四本の柱を結ぶように淡い青色の光がちゃんと繋がっていた。どうやら魔素が触れたことで、魔素が魔力へと変換され各柱へと供給させる魔法で覆っているのだろう。常に淡い青色の光は、その処理を行なっている状態だと予想した。
「任せて。キャティちゃんはグレイブのところで休憩してて」
「うん、わかった」
キャティちゃんの魔素流動技術のおかげで、魔素の流れの固定が早く行なえた。魔素の流れの固定化はキャティちゃんが得意である。だから、それについてはキャティちゃんに任せ、私は魔素の流れに問題がないかをチェックする。私はそう言った事が得意である。特に、魔素の漏れがあればそれを補強する。それが、私とキャティちゃんの役割である。
さて、私はキャティちゃんが張った魔法を確認する為、近づ気ながら魔素が漏れていないか確認する。青く光るキャティちゃんの魔法で作られた魔力路を見つめながら、どこかに欠損はないか微弱な魔法をかけながら確認する。キャティちゃんと考案した『欠損箇所があれば赤く光る魔法』である。これのおかげで、集落に張っている結界が壊れてないか確認できるわけだ。意外と地味な魔法だが、結構役立っている。魔法以外にも建物の欠損箇所を確認する事も可能である。一通り回ったが、欠損箇所は見当たらなかった。
「うん、魔素の漏れは今のところないよ。ただ、壊れやすそうな箇所はいくつかあったかな。多分、魔素が予想以上の量だったから、壊れ始めていたのかもしれない。魔法陣の起動時に、もしかしたら壊れる可能性もあるから補強する必要があるね。まぁ、指を一回鳴らせば出来るんだけどね」
そう言って、指を一回だけ鳴らした。すると、キャティちゃんが作った魔素の流れを固定化する魔法を覆うように、透明な緑色のモノが覆う。そして、ゆっくりと透明だった緑色が濃くなっていき、そのまま地面へと埋まっていく。地中に埋まったとはいえ、魔法は消えたわけではない。ある意味、結界のようなモノだ。魔素がこの柱の向こう側から出ることはなく、全て柱に供給されるのは変わりない。
「キャティちゃんは凄いなぁ。どうやったら、指鳴らすだけで魔法が発動するの?」
「ん? あぁ、それはね。私は指を鳴らせば魔法が発動するように設定をしてあるんだよ。頭の中で魔法陣を何個か思い浮かべて、組み合わせが終わってから指を鳴らして発動させる。キャティちゃんにも教えてあげようか? キャティちゃんなら原理を理解すれば、すぐに出来るようになると思うよ」
「うん、教えて!! 実際に生活に役立ちそうだし」
キャティちゃんと話をしていると、リューちゃんたちは準備が完了したようだ。柱の上についている結晶が赤く光りだしたのを確認し、私たちはリューちゃんたちの待つ場所へと歩き出す――はずだった。
「――――、ガァウ」
グレイブが吠えた。グレイブの方へと顔を向けると、何故か「乗れ」と言いたいような表情で伏せをしていた。キャティちゃんと一度顔を見合わせ、黙って頷いてからグレイブの背中に乗った。私が前で、キャティちゃんは後ろである。グレイブに乗ってからすぐに、今の時刻を確認するため収納指輪から時計を取り出し、今の時刻を確認する。
「午前八時か。キャティちゃん覚えといてね」
「うん、わかった。午前八時っと。よし、メモしたよ。さぁ、グレイブ、リューセン様の元へ向かって」
キャティちゃんの指示を聞いて、グレイブは頷いてからリューちゃん達のいる祭壇の上へと歩き出す。台座の近くでは、もう準備を整えたリューちゃん達が待っていた。私たちが無事にリューちゃんの元に到着すると、台座の下の魔法陣が広がり始めた。どうやら無事に魔法陣の軌道に成功したらしい。転移の起動が始まったようだ。
「では、お前たち。行くぞ!!」
リューちゃんの掛け声とともに魔法陣が起動し、私たちは魔法陣の光に眼を瞑る。そこからはゆっくりと下へと降りるような感覚が一瞬だけあったが、すぐにその感覚は消えた。そして、先ほどまで眩しかった光が、一瞬にして暗闇覆われた。一体何が起こったのか確認する為、私はゆっくりと目を開けた。すると、そこには一階層で見た『あの神殿』が目の前にあった。近くで見れば解かるが、ダンジョン内にある神殿にしては『綺麗』である。欠損箇所は無く、地面の石畳ですら汚れ一つない。まるで、誰かが手入れをしているかのようだった。
(あれ、もう夜に? ぇ、夜になっている!? あの転移装置で時間が進んだのかな。)
神殿から目を離し、周りを確認した。空には先ほどまで昇っていた太陽が無く、代わりに綺麗な満月が昇っていた。それに、満点の星空に私は目を奪われてしまった。どうやら、この白夜大森林に『夜』が訪れたようだ。そして、私は急いで収納指輪から時計を取り出し時刻を確認する。時計の針を確認すると『二十時』だった。確か、出発した時刻が午前八時だったから、半日過ぎたことになる。だが、それ以上に夜になっていることが驚きである。空を見上げながらグレイブの頭を撫でると、どこからかグレイブと似た遠吠えが聞こえた。
「ガウ」
グレイブは神殿とは反対方向へと顔を向けると、一度目を閉じて不敵な笑みを浮かべ吠えた。そして、先ほどの遠吠えの主に向けて遠吠えをする。その遠吠えが聞こえたのだろうか、何かが此方へと向かって駆けてる木々の揺れる音が聞こえた。徐々に近づいてくるのが解かるが、ホムちゃんたちは何も言わず神殿を見つめていた。三メートルくらいはあるだろう木製の扉なのだが、そこから微かに殺気を感じ取れた。どうやら苛立っているようで、先ほどから唸り声が聞こえた。
「神殿の奥から殺気を感じるホムね。かなり苛立っているホムね」
嬉しそうな声で言うホムちゃんは、いつの間にか腰に差している双剣を抜いていた。だが、ホムちゃんだけではない。気が付けば、私以外の全員が武器を構えていた。私はグレイブから降りて、声が聞こえた方向へと体を向けた。徐々に近づいてくる気配に、私は何も言わず目線を向けてから葬刃を引き抜いた。多分、此方へと向かってくるのは『ルナ』ではないだろうか。別に戦うわけではないが、念の為に警戒だけはする。
「母さん、準備は良いホム? って、どっち向いているホム」
「ん、ちょっとね。後ろから来ているのだ誰か気になってね。ちょっと警戒しただけだよ。ぁ、グレイブはここで待機ね。背後から来てる子が神殿に入らないように足止めをお願い。乱戦だけは避けたいし、もしかしたらトラップで此方が不利になる状況になるかもしれないからね」
グレイブは何も言わず、黙って頷きその場で伏せをする。どうやら納得してくれたようで、キャティちゃんが降りると森の方へと向きを変える。ただ、警戒はしていないようで、何やらソワソワと尻尾を地面に叩きつけるように上下に動かしている。
「さぁ、行こうか」
私の言葉に皆が黙って頷くと、そのまま神殿の中へと向かって歩き出す。神殿の扉の前に立つと、巨大な扉をゆっくりと押した。引くタイプじゃないため、軽く押しただけで開いた。ただ、開けただけで神殿の中から獣臭い匂いが風に乗って来た。ただ、血の匂いがしないあたり、まだ良かったのではないだろうか。
扉を開け終え、神殿内を見渡す。天井にある天使の絵が描かれたステンドグラスから月光に照らされ、暗闇の室内を照らしている。神殿内にあるはずの椅子はなく、二階のところにしか窓がない。ただ、奥の方に祭壇のみが置かれ、その上に一匹の巨大な狼が乗っていた。月光に照らされていると言うのに、その狼の毛が光り輝き金色の瞳が睨みつけている。牙を向け、唸り声を上げるその姿に、私たちは臆することなくダイヤモンドウルフを睨みつける。
「ダイヤモンドウルフだな。お前たち、最終試験の開始だ。あの狼を倒して見せろ!! 行って来い」
リューちゃんの怒声ともに私たちはダイヤモンドウルフへと駆ける。いきなりではあるが、最終試験ではある。命を懸けた殺し合いであり、あのフェンリルと互角だと言うのだ。実に楽しみであり、さっさと終わらしてこのダンジョンを狂わせた馬鹿者をシバくために、私は二本の葬刃を広げた。
「ぶっ殺す!!」
私の叫びと共に、ダイヤモンドウルフとの戦闘が始まった。




