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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
30/90

9話 白夜大森林 = 其の四 =

お久しぶりです。

なんだかんだで、FGOにハマってしまったせいで、小説を書くスピードがさらに落ちたorz

そして、仕事と資料の修正とかで家に仕事を持ち込む日々がががががが。

まぁ、この調子で引き続き書いて行きますので、皆さまこれからもどうぞよろしくです!!

では、次話で会いましょう ノシ


2017年8月14日 現在:一部修正

 あれから少し時間が経ち、リューちゃんから連絡があった。至急の要件だったので、急いでテントから出ると、外に出していた物をリシューさん達がしまっていた。私とホムちゃんはすぐにテントを片づけ、すぐに収納指輪の中に入れる。これまでかかった時間は、約十分。すぐに外していた装備を装備し直し、皆の方へと顔を向けた。皆準備が整ったらしく、皆武器を装備した状態で私の指示を待っていた。


「あはは、私が最後だったか。うん、じゃぁ皆、急ぐよ!!」


 私の掛け声に皆が黙って頷くと、すぐ現地で待つリューちゃんたちの元へと走り出す。報告を受けてから急いで向かっている。先ほどリューちゃんからの報告を考えて、念の為に周りを警戒しながら走る。そのおかげで、魔素の濃度が徐々に濃くなっていることに気が付けた。最初にこの階層に来た時に感じた時よりも、かなり濃くなっている。この濃度は、少々生きるのにはキツイような気がした。だから、私は急いでホムちゃんから魔素測定器を借り、走りながらではあるが魔素濃度を測定を開始する。


(ぇ? これって、嘘だよね)


 徐々に濃度計の値が上昇していき、ダンジョンやダンジョン外での基準値を超えていく。基本水準値についてだが、一般的には三十パーセントが普通である。そんな中、測定した結果を見て、私は走りながらも絶句してしまった。通常の基準値は三十から四十パーセントなのだが、その二倍以上の数値をたたき出している。信じられない結果が出たことに、私は夢でも見ているのではないかと疑いたくなった。


(やっぱり、このダンジョンに何か起こっている? リューちゃん達がいる広場に向かうにつれて、魔素濃度の上昇スピードが上がって行く!? ちょっと、これは嫌な予感がする)


 そんなことを考えていると、集合場所に近づいてきた。そして、魔素の濃度も濃くなっていく。今更ながら、この濃さは尋常じゃない。少々息苦しいような気もするが、まだ耐えられるレベルだ。後ろを振り返ると、キャティちゃんやリシューさんが眉間に皺を寄せながら、この息苦しい中を必死に走っている。そして、前方へと顔を向けるとホムちゃんは何かを呟きながら走っている。多分だが、私たちを覆うように結界を張っている可能性がある。そんなことを考えていると、リシューさんが私の近くまで速度を上げた。それもキャティちゃんを背おってである。


「この魔素の濃さは、少々危険です。このまま放置しては、魔物が生まれる可能性があります」


「えぇ、私もそう思います。この魔素の濃さ、ホムちゃんならまだしも、キャティちゃんにとっては危険です。リシューさんの言う通り、このまま放置するのも危険です。このまま濃度が濃くなり続ければ、魔物の他に魔素の過剰摂取による魔力暴走が発生する恐れがあります」


「ミーアちゃんの言う通りですね。私たちで何としても対応せねばなりません。この現象は、資料を読んだ限りスタンビートの傾向に類似している恐れがあります。この魔素を出している発生源を断ち切れば、この異変も解決するはずです。まずは、ジュデッカ君と合流を急ぎましょう。対応はその後に」


 キャティちゃんの言葉を聞き黙って頷くと、ようやく二人の待つ広場が見えてきた。だが、その場所に近づくにつれて濃さが強くなっていく。それに、微かにだが獣の匂いがする。別にリューちゃんたちの事は心配ではないが、この魔素濃度で何が起こるか分からない状態なのだから、早くリューちゃんの元へ合流を急ぐ。


 そして、約十分後――――


「嬢ちゃん、ようやく来たか」


「うん、遅れてごめんね。二人とも無事みたいだけど、二人とも何やっているの」


 ようやく皆の待つ場所に到着すると、リューちゃんたちはそれぞれ調査を行なっていた。リューちゃんは金色の祭壇の上にある台座の後ろで、私たちの到着に気が付き声をかけてくれた。祭壇と言ってもそれほど大きくはなく、階段も五段くらいしかない。そして、台座の上にはリューちゃんの仕事道具である金槌と金棒が置かれている。確か、あの金槌は材質調査専用の機能が付いているものだった気がする。それが置かれていると言う事は、あの台座の材質を調査するのか、それとも終えたのかのどちらかだと思う。それに、この場所に着いた瞬間、魔素濃度計の測定値は規定値まで下がっている。


(この場所に着いた途端、魔素濃度を下がり始めた? つまり、この場所は今のところ安全ってことかな。でも、何か仕掛けがありそうだよね。取りあえずは、リューちゃんたちと一緒に調査かな。さて、ジュデッカ君は何をしているかな)


 そんなことを考えながら、ジュデッカ君はどこに居るのかを確認する。台座の近くに居る赤毛の巨大な狼――別名『赤狼』の近くに座ていた。力尽きたと言うわけではなさそうだが、口元から赤い血を垂らしながらジッと此方を見つめている。だからだろう、ジュデッカ君はあまり警戒をせずに赤狼の怪我を癒していた。


「すまねぇが、誰でも良いから、そこの赤狼に回復魔法を頼む。どうやら、何かに操られているようでな。現状、怪しいとされる四本柱の上にある『ひし形の水晶』の調査がまだ出来ていない。だが、赤狼の方も放置するわけにもいかねぇ。取りあえず、班分けについては、赤狼と柱の調査部隊と台座の調査部隊で分かれて行動してほしい」


「うん、わかった。じゃ――」


 リューちゃんの話を聞き、すぐにホムちゃんたちへと振り返り指示を出す。


「リシューさんとホムちゃんは、ジュデッカ君の方を担当してください。私とキャティちゃんはリューちゃんを担当する。リシューさんとホムちゃんの知識なら、ジュデッカ君の助けになります。この四つの柱についての調査と、あの赤狼の回復と調査についての情報整理をお願いします。私とキャティちゃんで魔素濃度の上昇阻止とリューちゃんの情報整理を行ないます。一時間後に情報確認と整理を行ないます。では、行動を開始してください」


 私の合図と共に、皆が動き始めた。ホムちゃんはすぐにジュデッカ君の元へと走り、赤狼に回復魔法を施す。ホムちゃんの回復魔法は、私とほぼ互角である。さらに、同時に細胞調査などを行なう調査魔法までも可能としている。調査魔法とは、その名の通りで『対象の細胞や種族などを調べる』ことが出来る魔法である。

 さて、そんなわけでホムちゃんが回復魔法をかけているのを確認してから、私とキャティちゃんはリューちゃんのところへと向かう。銀色の柱を調べるリシューさんは、柱を触りながら何やらブツブツと独り言を話している。何を言っているのか分からないが、胸ポケットから手帳を取り出して記載していく。


「嬢ちゃん、ちっとこれ見てくれねぇか」


 リューちゃんの呼びかけが聞こえ、すぐに其方へと顔を向けた。どうやら何か面白いものを見つけたようで、嬉しそうに笑いながら手招きをしていた。何を見つけたのか気になり、キャティちゃんと共にリューちゃんのいる場所へと向かう。

 眼に悪い金色の祭壇の上に置かれた台座。その表面には、十個の長方形のくぼみがあり、それに何が入っていたのか分かっている。何故なら、台座の件について報告を貰っているからである。さて、リューちゃんがいる場所に近づくと、台座の上には何か乗っていたような跡と、その真ん中付近に宝石がはめ込まれている。その宝石は、あの四本の柱の上についている水晶と同じ形と色。それが何を意味しているのか何となくではあるが予想が出来た。


「この魔石が柱に魔力供給しているみたいだね。それも、このかなり濃厚な魔素を放出している原因もこれだよね」


 台座に埋まっている一つの宝石を指さしながら、私はリューちゃんに問いかける。台座の中央にはめられた拳一個分くらいの大きさの真紅のように紅い宝石。ひし形の綺麗なルビーのようなのだが、その宝石から魔素が放出されている時点でこれが魔石だとすぐに分かる。だけど、これほどの純度の魔石をこうして間地かで見れるとは思わなかった。

 さて、先ほどから魔素を放出し続けている魔石を見つめながら、これをどうするかを考える。この魔石を外せば、この魔素の放出は止まるのだろうか。だが、外したら外したらで何か起こりそうで怖い。そんな中、リューちゃんは平然とそれを見つめながら「あぁ、それか」と言うと、続けて話を始めた。


「あぁ、嬢ちゃんの言う通りだ。そいつが魔素を放出しているのは間違いない。それにこの台座の下だが、うっすらと見えると思うが、何かで彫られた溝がある。この溝を見て分かると思うが、台座を覆うように丸い円状に彫られている。そして、その円状にはなにやら文字のようなモノが彫られているだろう。これは間違いなく魔法陣だ。この台座をどかしたとき、同時に魔法陣が起動する可能性があるだろう」


「うゎ、本当だね。これはリューちゃんの言う通り、まだこの台座を動かすべきじゃないね。さて、そうなると魔素濃度を一時的に抑えるアイテムとかを配置しないとね。一時間でどれ程の魔素濃度が上がるか分からないし、それにまだ調査を続けないと」


「でも、ミーアちゃん。これを抑えるとなると――最低でも、十個以上は必要だよ? 魔素を抑えるのではなく、一か所に集結させて武器とかを作り出すのはどうかな」


 キャティちゃんの提案に、私は少し考えた。確かにこの魔素を上手く利用すれば武器などを生み出せるだろう。だけど、微調整などを行なわないと魔物が生まれるリスクもある。それを容認するのは、少しリスクがあり過ぎるような気がする。だが、キャティちゃんの魔素流動技術なら、問題ないかもしれない。

 魔素流動技術についてだが、その名の通りで「大気中の魔素の流れを動かし、魔物を作り出す技術」である。ダンジョンに行けば、道具や武器などを作り出す事が出来る。そう思うと、かなり役立つ技術ではあるが、逆に失敗すれば強大な魔物を生み出す事になる。つまりハイリスクハイリターンな技術なのだ。分かりやすく言えば『株取引』のようなものだ。うん、あれは引き際さえ見極めれば大儲けするけど、失敗した時の地獄は測り知れない。


「そうだな。んじゃ、キャティはこの放出している魔素で、アイテムの作成を頼む。儂は、この魔法陣を抑えているこの台座の材質を調べる。嬢ちゃんは、この祭壇の周りを調査だ。それで構わないな」


「「了解です」」


 そして、私たちは急いで各自作業に取り掛かった。これ以上、この空間に魔素が放出し続けるのを抑えるため、キャティちゃんは祭壇から少し離れたところで魔素を操り始めた。指揮棒を一定のリズムで式を振るうキャティちゃん。それはさながら奏者たちに指示を出す指揮者のような凛々しい立ち姿である。


「さて、仕事を始めるかな。うん」


 キャティちゃんの姿は、以前だが監視者で訪れた世界で見たあの女性指揮者を思い出す。初めての舞台だったためガチガチに緊張していたけど、演奏が始まると一瞬で雰囲気が変わる。あの人と、キャティちゃんの姿がどことなく似ている。だから、余計にキャティちゃんの事を意識してしまう。あの女性指揮者の末路を知る私は、どんなことをしても救う事が出来なかった。だから、私が護らなければならないような気がするのだ。


(キャティちゃんの姿、やっぱり『あの子』だよね。そして、ジュデッカ君はあの子の弟さん。私には、そうとしか思えない。だから、今度は護ってあげなきゃ)


 そんな決意を心に誓いながらも、祭壇の調査を始める。調査と言っても、基本的には祭壇の壁に彫られた絵や文字の調査。それに、魔力を流すとどのような反応が起こるのかである。他にもいろいろとあるのだが、それは後でやるとしてまずは先の二つを終わらせることにする。まず、壁に彫られたり描かれた絵や文字については、その文明の歴史や何のために作られたのかを後世に残すのが目的とされる。それを読み解くことで、今起こっている現象を食い止めたり、歴史的な新たな発見をする事へと繋がる。次に、魔力を流すについてだが、魔力反応があるかどうか確認するだけである。

 しかしながら、太陽の光が眩しいので、収納指輪からサングラスを取り出しかけた。理由は聞かなくても解かるだろう。祭壇の見た目――と言うより材質上、とても目に悪い。なんせ、太陽の光のせいで金色に輝いている祭壇が輝いて眩しいのだ。レンガ上に組まれているとはいえ、金塊を一段一段丁寧に隙間なくこの祭壇は作られている。そんな、目に悪いこの祭壇を触りながらゆっくりと歩いて行く。祭壇の壁には文字や絵が無く、ただ輝いているせいで眩しいので手で触りながら細かな部分を探る。


「文字や壁画的なものは見当たらないし、触れた感じ彫られた形跡や塗られた感触もない。でも、祭壇の上には魔法陣が描かれていた。この現状を考えても、ちょっと変な感じがする。祭壇の魔法陣は機能していないけど、あの魔石は魔素を放出し続けてる。魔石から出される魔素濃度は、通常一割が限度。異常があったとしても最大観測した限り二割が限界。

でも、この魔素濃度の事を考えても、魔素濃度を過剰に、もしくは増幅させる魔法陣または装置が必要なはず」


 祭壇の周りを一周したので、次に魔力少量ではあるが流してみる。だが、反応は全くない。つまり、これはただの金塊である。何とも贅沢な祭壇だろうか。これ解体して集落の運営資金として持って帰りたいくらいである。それに、この祭壇を囲うように配置された銀色の柱とその上についている四つの紅いひし形の水晶。あの柱と水晶に何らかの仕掛けがあるかもしれないが、その調査はリシューさんたちに任せている。私は私に振られた仕事を終わらせるため、引き続き祭壇についての調査を開始する。今度は、この祭壇に何か仕掛けでもあるかどうか――。




「さて、皆の調査結果を聞かせてもらおうか。まずは、嬢ちゃんからだ」


 あれから一時間が過ぎ、皆が祭壇の階段前に集合した。祭壇の階段前に木製のテーブルが置かれ、それを囲うように椅子に座り会議を始める。赤狼については、リューちゃんたちの戦闘以降、戦意喪失したのかジッと私たちを見つめながら何もしてこなかった。


「はい、解かりました。この祭壇の調査結果ですが――」


 私は調べた内容を皆に説明を始める。


「まず、祭壇の周りについて説明します。祭壇周りについては特に異常はありませんでした。ただ、不思議な事なのですが祭壇の壁画には魔法陣などが描かれておりませんでした。つまり、ただの金塊で造られた祭壇ですね。眼に悪いです」


「あぁ、それについては儂も同意見だ。何か、仕掛けなどなかったか」


「そうですね、大掛かりな仕掛けはありませんでした。ただ、ジェンガみたいに取り外せそうな箇所が一か所ありました。外してみたのですが、中はぎっしり金塊で埋まってました。つまり、この祭壇には特に目立ったものはありませんでした」


 最後まで聞くとリューちゃんは黙って頷いた。


「なるほど。主に祭壇の周りは問題なかったわけだな。嬢ちゃん、良く調べてくれた。ありがとう。そうなるとだ、ますます台座の下の魔法陣が怪しいな。さて、次はキャティだ。魔素を操って何か分かったことはあるか」


「はい。魔素を操ってみたのですが、普通の魔素に比べて少し重たかったです。まるで、意思を持っているような。私の指示にあまり従ってくれないような感じがしました。特に、あの四つの柱の水晶に引っ張られるような手ごたえがありました」


 キャティちゃんの報告を聞いて、私は少し考える事にした。魔素を発生させる台座に埋め込まれた水晶と、その魔素を引っ張る――つまり、吸収する四つの柱の水晶。もしかしたら、この白夜大森林の秘密に迫れるのかもしれない。


「柱に引っ張られるような感じ。つまり、魔素を発生させるのと同時に、魔素を吸収していると。ふむ、なるほど。つまり――あぁ、そう言う事か」


 リューちゃんは真相に気付いたのか、何やら納得したような表情をする。この祭壇の真相にいち早く気づいたのかもしれない。ただ、それ以上の事を話すわけでもなく、リューちゃんはジュデッカ君とリシューさん、そしてホムちゃんの方へと顔を向けた。


「さて、璃秋とジュデッカ、ホムホム。お前たちの調べた結果を聞かせてくれ。まずは、璃秋から聞かせてくれ」


「はい。私が調べた結果ですが、どうやら柱の水晶があの赤狼に悪さをしている事が解かりました。まず、柱の調査をした結果ですが、面白い仕掛けがありました。どうやら、空気中を漂う魔素を柱が吸収し、その吸収した魔素を水晶へと運んでいるようです。そして、あの水晶には『とある命令』を発動し続けるよう術式が施されていました」


 リシューさんの内容を聞いて、少しずつだけど答えが見えてきたような気がした。それでも、私はジッとリシューさんの報告を聞く。


「魔素をある一定のレベルまで高め、ある時間になった瞬間に対象者の能力を強制的に使用させる。そのような術式が結晶の中に施されておりました。あれほどの高度な術式は観たことがありませんな。そして、あの四本の柱は魔素を吸収し、結晶に送るための装置でしょう。正直に言って、鬼畜の所業ですな。対象が人間じゃないのだけが救いとも言えますな」


「そうなると、俺の――ゴホン。私が調べた結果とも一致しますね。ホムさんが赤狼の回復に専念している間に、私は結晶から出ている糸。仮に『魔素の糸』と名付けましょう。私は、その魔素の糸を調査していました。結論から言えば、魔素の糸から魔力が流れ、赤狼の身体に魔力を流しつつ、行動範囲を操っていたことが判明しました」


 ジュデッカ君は懐から黒革の手帳を取り出し、私達に見せすように開いた。そこには、結晶から出ている糸についてが書かれていた。特に気になるのは、赤狼の足に絡みついていたとされる糸についてである。


「魔素の糸に関してですが、現在も少量ではありますが魔力が流れていました。細さは釣り糸と同じくらいですが、赤狼に絡みついている箇所だけ、釣り糸の四倍くらいの太さでした。また、その箇所だけ魔力が集中して集まっている状態です。予想ですが、リシューさんの言っていた『能力を強制的に発動させる』だけではなく、『祭壇を護るように行動させる』呪印が施されている可能性があります。つまり、あの赤狼に祭壇を護らせるだけではなく、その能力を強制的に発動させられている。と、推測されますね」


「なるほど。そうなると、最後の鍵になるのはホムホム。お前の調査結果のみだな」


「そうホムね。僕が調べた結果は、あくまであの赤狼についてホム。まず、あの赤狼の名は『フレア』と言うホム。種族は神獣で、フレアは『太陽の神狼』とも呼ばれているホム。そして、その能力は『沈まぬ太陽』ホム。まぁ、言わなくても分かると思うホムが、この白夜大森林の沈まぬ太陽を作り出した張本人ならぬ張本獣ホムね」


「うむ、これで全ての情報が揃ったな。一度この階層に着いたときに情報を整理しただろう。あの時の答えがこれだ。赤狼――いや、フレアがこのダンジョン世界の太陽を固定している元凶だ。ただ、本来なら番である種族は神獣がいるはずだ。確か名は『ルナ』とかだった気がするが、どこに居るのだろうな。嬢ちゃん、地図を開いてくれ」


「わかった」


 すぐにマップ機能を開くと、そのままテーブルの上に展開する。私たちのいる場所は、ちょうど四階層の階段から二十キロ離れたところである円形の広場だった。


「嬢ちゃん、ありがとう。この地図を観れば分かる通り、我々はこの円形の広場以外にあるのはキャンプ場にした場所だけだ。可能性として、他にも別の祭壇がある可能性がある。現状、何が起こるか分からない状態だ。フレアを解放後、祭壇の魔法陣が解放され、強制的に転移させられる可能性もあり得る。そして、この階層の地図を見ればわかると思うが、この階層の調査はまだ終えていない。取りあえず、儂がこの場所に居る間に、皆はこの階層の調査を頼みたい。もし、この祭壇と同じ場所がある場合、すぐに報告をくれ」


「分かった。じゃ、私とホムさんで調査しようか。特に、私たちが本気を出せば一、二時間あれば全部回れるからね。リシューさんとジュデッカ君、そしてキャティちゃん。三人は、この場で武器の整備をお願い。私とホムちゃんが戻ったら、フレアの開放を行なうからね。あと、出来れば手軽に食べれる朝食の準備もお願いね」


「分かりました。では、私とジュデッカ君は、武器と防具の整備をしましょう。キャティさんは鹿肉を使っての調理をお願いします。また、フレアにも鹿肉を与えておきましょう。運が良ければ、我々の仲間になるかもしれませんからな」


 今後の方針が決まったので私たちは、すぐにこの階層の調査を始めた。本当は皆と一緒に行動すべきなのだけど、今はとにかく時間が無い。魔素の濃度が上がっているとは言え、今は安全区域になっている。だからこそ、急いで調査をする必要がある。久しぶりに全速力でこの階層をホムちゃんと一緒に走る。

 それから一時間半くらい経っただろうか。この階層の隅から隅を調べ、皆の元へと無事に到着した。ホムちゃんと私が戻ると、皆の待つテーブルの元へと向かった。そして、すぐに皆に報告を始めた。


「じゃ、私とホムちゃんが調べた結果を報告するね」


 私は、皆に探索結果の報告を始めた。


「探索の結果、宝箱が四個置かれていた以外、特に祭壇などは見つからなかった。ただ、巨大な池があったけど、特にそれほど気になる事はなかったよ。一様、池の中を調べると、リューちゃんに通信機で報告のしてから潜ってみたけど、特にこれと言って気になる物はなかったかな。池の底にあったのは、骨と池草に、魚が泳いでいたくらいかな。まぁ、ちょっと気になるのが、その骨が『ドラゴン』のような『巨大な骨』だったくらいかな」


「他には、下の階層へ続く階段がなかったことも気になるホム。これは、想定通りだったと言うべきホムね。あと当然だけど、宝箱はちゃんと回収しましたホム。宝箱の中身は回復薬だけだったけど、それでも重宝するアイテムに違いないと思って、収納指輪に回復薬が入った宝箱ごと入れ、持って来たホム」


 ホムちゃんは収納指輪から宝箱を一個ずつ取り出し、祭壇の階段二段目と三段目に宝箱を二個ずつ置いた。今まで見た階層の宝箱よりも小さいのだが、それでも丈夫な木材で造られているようなので、持って帰る予定である。


「報告は以上ホム。特に気になるものは無かったけど、取りあえず写真データは送ったホム。何か気になるところはあったホム?」


「いや、嬢ちゃんとホムホムの調査結果について気になったのは二点だ。一つ目は『フレアの番いがこの階層に居なかった』こと。そして、二つ目は『次の階層へ続く階段がなかった』ことだな。嬢ちゃんも気が付いているようだし、これと言って気にしなくて良いだろう」


「そうだね。私の予想では、あの魔法陣が次の階層へと続く階段だと思う。特に、最下層へ直通する感じがする。後は、皆の準備が整ったらフレアを救出して、台座を破壊する感じかな。取りあえず、お腹空いたから何か食べたいかな」


 その言葉を待っていたかのように、キャティちゃんはニコニコと微笑んでいる。そして、焼かれたばかりなのだろう美味しそうな匂いをさせた、鹿の骨付き肉が置かれた皿を持っていた。私が言うのもなんだけど、本当に用意してくれたようで、私は素直に驚いた。


「腹は減っては戦は出来ぬって、言うからな。まずは、腹ごしらえだな。儂は試験官だからな、手も口も出せない。お前たちの手で、勝利を掴んでくれ」


 全員で「はい!!」と返事をすると、満足したかのよう頷いた。そして、一本の骨付き肉をとると、そのままフレアの元へと歩き出した。そして、鹿肉を口元へと寄せた。ジッとフレアはリューちゃんを見つめながら、最後には肉に齧り付いた。上手そうに、モシャモシャと食べ始めた。その光景を見ながら、私も骨付き肉に齧り付く。肉汁が口の中に広がり、簡単に噛みちぎれる。塩コショウも丁度よい。


「んじゃ、儂が術式を解除している間に食い終われよ」


 こうして、私たちは次の階層へ向けての朝食(現在、朝4時)をとる。その間、リューちゃんはフレアの身体に纏わりついている魔素の糸を解除を行なっていた。久しぶりの解除なのだろう、楽しそうに糸をハサミで切断しながら解体していく。いや、ハサミで切れるものなのだろうか。いや、リューちゃんなら可能か。あのハサミも何かしらの機能があるのかもしれない。日用道具の作成はリューちゃんがやっていたのだから、そう言ったものに何かしらの付与を施していそうである。去年の事だが、ただの調理用の包丁に何の意味があるのか『火炎属性』を付与させていたから、間違いなく何かしらの付与はしてそうである。

 さて、そんなことを考えていると、問題なくフレアを解放できたようだ。何やら満足したような表情をしているのだが、私は何も言わずにご飯を食べ続ける。これからの事を考えながら、私はただ一言だけ心の中で呟きながら、もう一本の骨付き肉を頬張るのであった。


(このダンジョン世界を攻略したら、次は――このダンジョンを狂わせてる奴との戦闘かな?)




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