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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
28/90

7話 白夜大森林 = 其の二 =

4月に投稿が出来ずに申し訳ありませんでした。

いや~、ちょっと会社で必須資格を取るために、4月はまったく書く事が出来ませんでした。

誠に申し訳ありませんでした。


さて、今回あげた分は4月分になる予定でしたが、5月分になってしまった。

本当に申し訳ありませんでした。

では、次話で会いましょう ノシ

 現在、地下五階層に居る。この階層に来て、すぐに情報も手に入った。だが、この階層に着くまでに、かなり大変な事があった。あれから何度も大型の魔物による戦闘が続き、なんとかこの階層まで来れた。地下二階層からこの四階層までに出会った魔物たちの大半が五から七体の編成組織だった。地下三階層までは『質より量』だったが、地下四階層からは逆で『量より質』を重視していた。魔物の大軍に比べれば楽だったが、四階層に入ってから大型の魔物が『ロックゴーレム』だったのが辛かった。コアを破壊するのはそれほど苦戦はしなかったけど、体全体が岩で出来ているせいで斬撃や銃弾がまったく効かないのだ。最終的には、ホムちゃんとリシューさんの拳でなんとか倒したのだが、もうあの敵には二度と戦いたくはない。それに、リューちゃんの様子も少しおかしかった。あんな険しい表情をするのは今まで見たことがなかった。その真意について聞こうと思ったが、そんな余裕は全くなかったし、話しかけても答えてくれないような気がした。


「この階層は、比較的に安全のようですね。前の階層は地獄でしたが」


「そうだね。流石に私も疲れちゃった。ホムちゃんやキャティちゃんたちは大丈夫?」


 リシューさんの言葉に、私たちは黙って頷いた。正直に言って、前の階層が地獄だったせいで疲れ果てている。此処に来るまで宝箱回収や情報集めなどで、一回も休憩をしていない。流石の私でも、かなり疲れている。だが、まだ森の中であり安全地帯ではないため、喋りながらも休憩が出来そうな場所を探しながら歩き続けている。この階層に入ってから地図担当をキャティちゃんに任せ、私たちは周囲の警戒をしている。流石にロックゴーレムを相手にするのは無理だが、その他の魔物は即発見後殺している。


「乱戦だったホムからね。流石に、僕も疲れたホム。ロックゴーレムを相手に拳で粉砕するのも疲れたホムが、ゴーレム系相手に連戦は本当に辛かった――ホム」


「僕も、ヘトヘトです。どこか休憩できそうな場所、キャティ見つけたかい?」


「うぅん。この地図だと、この先に小さな泉があるみたいだから。そこで休憩しましょう。ミーアちゃん、この先に魔物はいるのか『マップ』で確認してもらっても良いですか?」


「うん、良いよ。ちょっと待ってね」


 キャティちゃんの質問に答えてから足を止め、この階層のマップを表示する魔法を展開する。右手の平に浮かぶ赤黒色の魔法陣から、立体映像でこの階層の全体図面が表示される。大森林だけに樹々が多く、私たちのいる場所を表示するかのように、青い下向きの三角錐が浮遊している。


(あ、あれ?)


 本来なら魔物がいる場所に、マッチ棒ほどの細さの赤いピンが表示されるのだが、この階層にはそのピンが存在しない。そう言えば、私たちがこの階層に来てから現在まで、一度として魔物と出会っていない。先輩冒険者から『ダンジョンの中には、安全地帯があるぞ』とは聞いてはいるけど、階層全体なんて聞いた事がない。この結果を伝えるために、キャティちゃんの方へと振り返えり、皆にも聞こえるように答える。


「いないみたいだよ。うぅん、この階層自体に魔物が存在しないみたい。あくまでも私の推測だけど、もしかしたら『この階層だけ』は魔物が存在しない特殊エリアじゃないのかな。簡単に言うと、安全地帯ならぬ安全階層かな。リシューさんはどう思います?」


「えぇ、私もそう思います。このフロアに来てから、私も気配を必死に探っていたのですが、魔物の気配がまったく感じない。ミーア様のおっしゃる通り、まるで、この階層自体に『魔物』が存在しないような気がします。私が潜ってきたダンジョンの中で、これ程の異質な階層は初めてです」


 リシューさん、魔法使わずにどうやって気配を察知したのかな。もしかして、転生者支援システム(完成品)を使用したのかな。でも、あれって適性がないと扱えないはずなのだけど、リシューさんには適性があるのだろうか。いや、それ以前に、システムを起動した気配も感じないのだけど――ぇ、もしかして自力で気配を察知したのだろうか。


「それってつまり――このフロアは安全地帯ってことホム?」


 リシューさんが本気で気配で感じ取ったのか気になる中、ホムちゃんが真剣な表情で私たちに質問する。確かに、この階層では魔物の気配はない。つまり、安全地帯だと言える。だから、私は「そうだよ」と告げ、リシューさんは肯定の意味で頷くと、ホムちゃんは納得したように頷いた。


「そうなると、この階層で情報整理が出来るホムね。この白夜大森林のフロアボスの情報も少しずつだけど集まったホムし、此処で一度休憩と情報整理しないホムか」


 ホムちゃんの提案に、私は賛成である。流石に地下四階層での戦闘でヘトヘトなのだ。休憩とちょっと遅い昼食を取ろうと思っている。


「そうだね。じゃぁ、この先に広場みたいなのがあるから、そこで休憩しようか」


 マップ魔法を解除し、この先にある広場へと向かう。魔物が出ない事を考えれば、警戒をしながら行動する理由もない。だが、何が起こるかも分からないため、警戒しながら向かう事にした。森の中を歩いていると、不思議なことだが野生の動物たちと出会う。私たちに警戒することなく、至って普通に森の中や私たちの歩いている参道を横切って行く。ここの動物たちは、間違いなく人間や獣人に対して警戒していないのだとすぐに分かった。

 さて、そんな光景を見ながらしばらく歩いていると、目的地であるキャンプ地として最適な広さのある広場に到着した。テントを張るのに丁度よい広さの高原と、綺麗な小川が近くにあった。


「不思議な広場だね。ミーア様、ここにキャンプを張りますか」


 ジュデッカ君は周りを見渡しながら言うのを見て、私は「そうだね」と肯定した。正直に言って、ここに来るまでいろいろとあり過ぎて疲れている。なので、一度休憩と言う名の仮眠を取りたかった。


「此処は安全そうですだし、少し仮眠を取りたいんだけど」


 私は申し訳なさそうに皆に言うと、リューちゃん以外全員が同じ思いだったのか縦に頷いた。仮眠をとる順番などを決める前に、私たちは収納指輪からテントを張る。その間、ホムちゃんの頭から離れたリューちゃんが元の姿に戻り、何も言わずに川で釣りを始めた。それを見て、ホムちゃんも釣りを始める。リシューさんは木の枝を集め始めた。そして、私とジュデッカ君、キャティちゃんでテントを張る。そんな中、ジュデッカ君はキャティちゃんに話しかけた。


「第一階層である白夜大森林。今、僕らはこの箱の世界の階層を攻略中だけど、この箱の階層を出たら次の階層へと向かうわけだよね。キャティ、他の階層もこんな感じなのかな?」


「多分、そうじゃないかな。他の階層については行ってみないと分からないけどね。それにしても、本当に日が沈まないんだね。まるで、日の沈まない呪いにもかけられたような世界だよね。ジュデッカ君はどう思う?」


「呪われている世界――か。そんな事を考えたこともなかったけど、確かにこの世界は異常な気がするね。呪われた世界――呪われた。いや、呪い? あれ」


 何か閃いたのか、ジュデッカ君はそのまま無言でテントを張る。二つ張り終えると、そのままジュデッカ君は近くに落ちている枝を使って、地面に文字を書き始めた。その姿を微笑みながら愛おしそうに見つめるキャティさん。なんか『本当に愛し合っているんだなぁ』と、心から思えた。それに、ジュデッカ君の間違いをすぐに指摘し、ジュデッカ君はそれを修正していく。

 そんな姿を見ていると、林の方からリシューさんがやってきた。確か、木の枝を取りに行ったはずだが、何故か背中に籠を背負っていた。籠の中には拾ってきた枝と落ち葉が入っていた。そして、此処が一番解からない事なのだが、両手に抱えるように一匹の首が二百七十度くらい曲がっている鹿の死体を持っていた。


「ミーア様、薪になりそうな枝と落ち葉。それに食べられそうな野菜と鹿肉を持って来ました。おや、ジュデッカ君は何をなされているのかな? 何やら真剣な表情で地面に書いておりますが」


「うん、なんだか急にあんな感じになった。それにしても、そんな立派な鹿をどこで狩って来たの? 食べごたえはありそうだけど」


「近くの森で仕留めたのですよ。それに、この先の戦いは厳しくなるでしょう。肉や魚は力の源になりますからな。それに、このダンジョンの動物たちの中に感じる魔力。少し、気になるのです」


 リシューさんはそう告げると、そのまま鹿を持ったまま微笑む。確かに、このダンジョンに住んでいる動物たちの事は気になる。この世界では、野生動物や家畜は魔力を持たない。それなのに、このダンジョンに住む動物たちは『魔力を持っている』のだ。


「分かりました。では、今日は鹿鍋にしましょう。野菜は何本か用意していますから問題ないですし、解体は私の方でやっておきますね」


「えぇ、助かります。本当は、ジュデッカ君に解体術を伝授しようと思ったのですが。あの調子では出来そうにないようですからね」


「確かにそうですね。ジュデッカ君に私の解体術を伝授したいと思っていました。取りあえず、その鹿は預かりますね」


 リシューさんが持っている鹿を受け取ろうと思ったのだが、その大きさに私の体では持ち上げられそうになかったので一度地面に置いてもらい、浮遊魔法を使って鹿を浮遊させながらジュデッカ君のいる方向へと向かう。その間、私たちは休憩時の交代時間などを軽く打合せをする。取りあえず、女性チームと男性チームに分かれることになった。最初は、私とミーアちゃん。その次がジュデッカ君とリシューさん。そして、最後はホムちゃんの順番になった。

 さて、休憩時間が決まったので、ジュデッカ君たちに伝えようかと思ったのだが、凄く忙しそうだった。どうやら答えがまとまったらしく、ジュデッカ君は収納指輪から紙とペンを取り出し、キャティちゃんが指さす地面に書かれた文面を書いていた。遠目から見ても、その姿がまるで弟に勉強を教えているお姉ちゃんのようだ。


「ジュデッカ君たちの事は私に任せて、リシューさんはあそこで釣りをしている二人を呼んできてください」


「了解しました。では、解体とジュデッカ君たちの事を頼みますね」


「分かりました」


 私はそう告げてから、私は鹿を魔法で浮遊させながらジュデッカ君たちのいる方向へと向かう。フワフワと上下に揺れながら浮遊する鹿を見つめていると、イスズ様と隊長――いや、お父さんの三人で『モルル』を狩りに行ったあの日の事を思い出してしまった。モルルとは、身体がホルスタインで、大きさが二メートルくらいある巨大な牛である。それに、尻尾が二本生えた動物である。とても濃厚なミルクを出すことから乳牛として飼われているのだが、食用としても有名である。


(あの時も私がこうしてモルルを浮遊させて運んだっけ。なんだか、懐かしいなぁ)


 そんな事を思いながら、私はフワフワと浮く鹿をテントの裏側まで運ぶ。その後は、すぐに解体作業に取り掛かる。血抜き用のひっかけ器具と血を入れておく小壺を取り出し、鹿の解体を始める。まずは血抜きから始めるため、鹿の両後ろ足をひっかけ器具にかけ固定させる。そのまま首筋にナイフを入れ、血抜きを始める。隊長から直々に教わった解体術を、こうして生かせる日が来るとは思いもしなかった。だけど、技術は身に着けておいて損はないとはこの事なのだなと実感した。


「ミーアちゃん。そろそろ会議始めるよぉ」


 鹿の血抜き中だったが、後ろからキャティちゃんの声が聞こえ振り返った。どうやら食事の準備を始めたらしく、両手にお皿を抱えていた。そして、ジュデッカ君は折り畳みのテーブルを両腕で抱えながら運んでいた。キャンプ用の簡易テーブルだけど、しっくりと会議や食事をする鉈丁度良い大きさである。今思うと、これを考えた先代冒険者『ポート・リファラーダ』は優秀な人だと思う。


「うん、わかった。ちょっと待ってて、今簡易的な結界を張るから」


 血抜き中の鹿の方へと向きを変え、幾つかの結界魔法を指を鳴らし発動させた。すると、鹿を覆うように、透明なアクリル板のようないたが現れた。それを確認してから、私はキャティちゃんと一緒に皆の元へと向かった。

 テント前では、テーブルを囲うようにホムちゃんたちが座っていた。テーブルの上には、川魚を串で突き刺し焼かれた魚が置かれたお皿が置いてあった。その他にも、サラダやパンも置いてあった。私とキャティちゃんが席に座ると、ホムちゃんは立ち上がり真剣な表情で手に握っている紙をテーブルの真ん中に置き話し始めた。


「では、これより第一層白夜大森林攻略の会議を始める。ジュデッカ君とキャティさんが、今まで集めてきた情報を整理した報告書を見てもらいたい。人数分用意してあるから、各自手に取って読んでほしい」


 語尾にホムが付かないと、本当にイスズ様に雰囲気が似ている。そんな事を思いながら、私はジュデッカ君が書いた報告書を手に取り、その報告書に目を通した。


『箱の世界 第一階層「白夜大森林」の調査について、一階層から五階層までに得た情報を下記に記す。

・フロアボスのいる神殿 映像のみ

・ダイヤモンドの牙 ×6本

・白銀の毛皮 ×3枚

・水の入った瓶 ×5本

・銀狼伝記 ×1冊

・先のとがった翡翠色の爪 ×1本

 この情報から、我々は今回のフロアボスは伝説として語り継がれた「ダイヤモンドウルフ」だと考えている。それは、銀狼伝承記とダイヤモンドの牙などが証明している。もとより、ダイヤモンドの牙なんて物はこの世に存在しない。これだけでフロアボスの情報は足りてしまう。それにこの銀狼伝承記は、ダイヤモンドウルフについて記載された書物である。これだけの情報があれば、十分にこの白夜大森林を攻略できる』


 その内容を目を通しながら、私は黙って頷いた。確かに、ここに書かれている事は正しかった。しかし、彼の報告書にはまだ続きが存在した。


『だが、一つ疑問に思ったことがある。それは、何故この世界の太陽が『沈まない』のかである。本来、生き物は適度な睡眠を必要とする。それは、魔物にも言えることだ。だが、この世界では太陽が沈まない。もしも、それが『呪い』だとしたら。ダイヤモンドウルフは『太陽の申し子』とも呼ばれていると伝承記には記載されている。つまり、太陽の光を浴び続ける限り、その強さは「フェンリル」と互角、もしくはそれ以上だと予想される。現状の対策として、この沈まぬ太陽をどうにかしない限り、勝利は厳しいと言える。

以上』


 その内容を読んで、私はジュデッカ君が何を言いたいのか何となく理解した。つまり、ジュデッカ君はこう言いたいのだ。沈まぬ太陽の呪いを解除しない限り、私たちの勝利は厳しいと。まるで、円卓の騎士の一人『ガウェイン卿』のようである。


「さて、この内容の通りなら、現状かなり厳しい状況だと考えられる。ダイヤモンドウルフは、太陽の申し子とも呼ばれており、太陽光の力を糧にあらゆる攻撃を防ぐ強靭な防御を持つ。それ故に、ダイヤモンドウルフとの戦闘はかなり苦戦を強いられたらしい。それについては、この伝承に記載されている」


 第三階層で拾った銀狼伝記を手に持ち、あるページを開きながら私たちに説明する。私はそのページに目を向けた。そこには、三日三晩続くダイヤモンドウルフとの戦闘が記載された内容が書かれていた。人間や獣人、エルフやドワーフなど魔人族も含めた全種族が挑んだ。そして、勝利はした。数多くの死者を出して、ようやく勝つ事が出来たのだ。そんな、伝説の魔物へ五人で挑む。冷静に考えても、自殺行為としか考えられない。


「我々は、この世界の第一階層から第四階層を回って来た。あのゴーレム地獄の中でも必死に探してきたけど、それらしい物は全くなかったホムね。僕や母さんが見逃すはずはないけど、リシューさんやジュデッカ君たちはどうだった? 不自然なモノや気になったものは無かったかい?」


 ホムちゃんのキャラがブレ始めているような気がしたが、その件についてはあえて触れるのは止めた。今思うと、真剣な時とそうでない時のホムちゃんのキャラって凄くブレている。だからか、ホムちゃんも頑張って語尾の『ホム』を無くそうとしているようだが、結局のところ現状は変わらずである。私としては、語尾がある方が可愛らしいと思うのだが、ホムちゃんはそんなことを思ってはおらず、ちゃんと喋れるようになりたいようだ。


「俺は感じなかったかな? でも、この階層に着いたときに感じた違和感。これは何なのか。さっぱりなんですよね。ただ、このフロアだけは何か特別な感じがするんです」


「その、私もそう思います。ジュデッカ君が違和感を感じたと聞いて、私も気になって魔力の流れを確認してみたのですが、少し変なんです」


「ほほぉ、キャティ殿も気づいたのですね。実は、私も薪集めの中で不自然な流れをする魔力を見つけましてな。まだ、一か所だけしか見つけておりませんが、この階層には『何かある』ような気がしますな」


 ジュデッカ君たちが気づいた事を聞き、ホムちゃんは腕を組みながら考え始めた。確かにこの階層には不思議過ぎる。不自然な魔力の流れについて、これは解明しなくてはならない。何せ、まだこの階層の探索が出来ていない。一階から四階にかけて、フロア自体はそんなに大きくなかった為、二、三時間で回れたが、この第五階層だけやたらと広い。確か、イスズ様の故郷の世界で例えるなら、一階から四階までは東京ドーム二個分。この階層は、東京ドーム五個分くらいだ。


「取りあえず、今後の方針は決まったホム」


 ホムちゃんは組んでいた腕を解くと伝記を閉じ、指を鳴らしてマップを表示する。そして、そのマップを見つめながら私たちに説明を始める。


「休憩終了後、母さんチームと僕チームに分かれてフロアの探索を行なう。僕たちならそれほど時間はかからないと思うけど、取りあえずこの拠点から右側を母さんとリシューさん。左側を僕とジュデッカ君、キャティさんが探索を行なう。各自、何かあり次第携帯用通信機で状況報告を行なうこと。これで良いかな、母さん」


「うん。それで構わないよ。取りあえず、ご飯を食べましょう。お腹空いちゃったし」


「私も、お腹空いたよぉ」


 キャティちゃんもお腹がすいているらしく、両手をお腹に乗せて焼き魚へと目線を向けていた。このフロアで釣った魚だ。ダンジョン産の魚は美味しいと有名らしいため、是非とも食べたい。


「では、ご飯にしましょうか。ジュデッカ君も限界そうですし」


「ふへ!? ば、バレてました?」


「フフフ、ジュデッカ君の目を見ればすぐに分かっちゃうよ」


 リシューさんとキャティちゃんが、ジュデッカ君の方へと向けて苦笑しながら言う。確かに、ジュデッカ君は食べ物に関しては表情が出やすい。そのため、現在のジュデッカ君の方へと顔を向ければ、私だってすぐに分かる。ジッと焼き魚へと目線を向けたまま、リシューさんに答えていた。眼を輝かせながら焼き魚やサラダを見ているのだ。空腹なのはすぐに分かってしまう。


「取りあえず、ご飯にしましょうか」


 その一言を告げ、私たちは食事を始めた。ダンジョンさんの焼き魚は美味しくて、さらに使用した魔力が少し回復したような感じがした。ダンジョンで取れる魚や動物の肉は滋養強壮の効果が高く、魔力や体力の回復などの効果をもたらすらしい。ダンジョン産の魚や動物の肉は、私の体質であるブラッドコードの糧になる。だから、私としては先ほど解体するために血抜き中の鹿も食べたいところである。

 さて、皆と談笑しながら楽しい夕食(?)を食べ終え、私は血抜きを終えた鹿の解体を行なっている。現在、先にジュデッカ君とリシューさんが寝ており、キャティちゃんとホムちゃんは食器の片づけをしてもらっている。私は鹿の解体をしなくてはならない。あのまま放置するのは、流石に拙いことだ。そんなわけで、あの鹿を解体しているのだ。


「ミーちゃん、食器片づけ終わったよ」


「うん、ありがとうキャティちゃん。こっちももう少しで終わるから」


 食べれない臓物のみを魔法で燃えカスにし、食べれる物を収納指輪に入れた。解体に使用しした道具類は、もう水魔法で洗い終えているので問題はない。あとは、この鹿の皮を使ってリュックを作るだけである。裁縫には自信があり、以前だけどイノシシの皮でリュックを作ったことがある。


「ミーちゃんの解体技術って凄いね。私じゃ真似ができないよ」


「そうかな。訓練すれば、誰でもできると思うよ? 私の技術は誰でも出来るし」


「いやいや、そんなことないよ!! 毛皮が綺麗に剥がれてるし、肉もその部位ごとに切り分けられてる。普通の職人なら毛皮をこんなに綺麗に剥げないよ」


 キャティちゃんは、私が剥いだ鹿の毛皮をマジマジと見つめている。取りあえず、毛皮を乾かすために簡易テーブルの上に置いている。毛皮には傷が無く、肉片一つ付いていない。頭は先ほど切り落としたので、毛皮には血が付いていない。首は何かに使えると思い、毛皮の隣に置いている。


「そっか。なら、そう言う事にしておくよ。この毛皮はこのままにして、そろそろ交代の時間だね」


「うん、そうだね。それにしても、ゴーレム地獄は辛かった」


 あの地獄を思い出したのか、死んだ魚の目になっていた。あれは、確かに辛かった。普通の冒険者なら、絶対に逃げ出すレベルだ。それに、リューちゃんは戦闘中なのにも関わらず、ジッと何かを考えているように難しい表情をしていた。何か不自然な事でもあったのだろうか。一部始終ずっとぶつぶつと何か呟いていたように思える。


(リューちゃんは、何か異変に気が付いたのかな。あんな表情をするなんて、もしかして異変が起きているの? 夜兎を所持していたから、こんな厳しい戦いになっていたと思うけど。まさか、リューちゃんすら予想していなかった事態が起きていると言うことなの?)


 私はあのリューちゃんの表情から情報を整理する。ダンジョンコアを殺せる刀である『妖刀 夜兎』を所持してのダンジョン内の探索。イスズ様からの依頼である十階層ごとに配置している通信機の回収。この白夜大森林の最下層に配置されている通信機の回収に、何か支障をきたす事が起こるのかもしれない。そんな一抹の不安をよそに、キャティちゃんはジッと毛皮を見つめている。何か気になったのか、キャティちゃんをジッと見つめる。


「この毛皮の掛布団とベッドカバー。えへへ、気持ちいだろうなぁ」


「キャティちゃん。そうなると、毛皮が圧倒的に足りないよ。あと、二匹は狩る必要が――」


「母さん、鹿を十匹狩って来たホム。これで、鹿肉を使った焼肉にするホム」


 ホムちゃんの方へと顔を向けると、そこには首があらぬ方向へ曲がっている鹿が十匹ほど空中を浮いていた。その姿を見て、私は『また、仕事が増えた』と思いため息が漏れた。次の休憩が終わったら、鹿肉パーティーをするのだろう。でも、流石に十匹は多すぎだ。


「うん、凄い量を狩って来たね。ホムちゃん、流石にそれはやり過ぎだと思うけど、仕方がないか。取りあえず、収納指輪の解体機能を使うから置いといて」


「分かったホム。さて、僕はもう少し準備運動がてら二匹ほど狩って来るホム。ジュデッカ君たちも起きたみたいだし、取りあえずその二匹で解体練習させるホム」


「うん、分かった。ホムちゃん、ジュデッカ君のことよろしくね」


「任せるホム」


 ホムちゃんなら安心して任せることが出来る。リシューさんは魔物の解体については、解体業者に任せていたと言うので、そこまで解体技術は上手くないらしい。だから、ホムちゃんにジュデッカ君の事は任せることにした。

 さて、ホムちゃんの運んできた鹿が地面に置かれた。それを確認してから、鹿たちを収納指輪に入れ、私とキャティちゃんはテントへと向かう。ホムちゃんはまた森の中へと向かっていったが、今度は何を狩って来るのだろうか。取りあえず、その獲物でジュデッカ君の解体技術のレベルが上がるはずだ。


「取りあえず、少し仮眠をとろう」


「うん。私も少し寝たいかな。満腹になったから、ちょっと眠い」


 何事もなくテント前に着くと、ジュデッカ君たちが待っていた。私たちは「交代しますね」と告げ、テントの中へと入った。テントの中には寝袋が二つ用意されており、私たちはその中に入る。すぐに眠れそうになかったので、集落にできた甘味処の話や服屋の新商品の話をした。この試験が終わったら、一緒に買い物をしようと約束を交わした。たまにはジュデッカ君抜きで、女の子だけでお茶会とか買い物がしたい。そんなことを話していると、キャティちゃんが先に眠りについたことに気が付いた。キャティちゃんの寝顔を見つめながら、私もこれからに備えてゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。


 

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