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断罪の旅人  作者: 玖月 瑠羽
二章 試練のダンジョン
27/90

6話 白夜大森林 = 其の一 =

お久しぶりです。

皆さまもうすぐ春ですねぇ。

仕事しながら小説書くのは、中々にハードです。

でも、書きたくて仕方がないw


さて、次話も書かないと!!

では、次話で会いましょう ノシ

 木々の木漏れ日から、温かな太陽の日差し。そして、草木の香りに混じった血の匂い。空を見上げれば雲一つない晴天の中を気持ちよさそうに飛ぶ鳥たち。大きな泉を囲うように木々が生い茂り、鹿などの草食動物たちが泉の水を飲んでいる。そんな光景を目の当たりにしながら、私たちは泉の前に立っていた。あの部屋から一転して、森林地帯へと転送されたことに、表情には出さないが心の中で驚いた。ダンジョンが作り出した箱の世界とは言え、野生動物などが生活しているのだ。冒険者の人たちから聞いた話とは、まったく違っている。


「どうだ、この大森林の美しさ。空気も澄み切っているし、鳥の囀りや川のせせらぎ。まさに、ここは癒しの空間だ。まぁ、それ以外にも面白い効果があってだな。特に、璃秋は驚いただろうな。なんせ――」


「み、見える!? 私にもこの世界が見える」


 リューちゃんの話を遮るように、急に叫びだしたリシューさんの方へ顔を向けた。そして、私は驚きが隠せなかった。リシューさんの灰色の瞳が、淡い青い瞳の色へと変わっていたのだ。そして、いつも眠そうな目つきだったのが、得物を狙うオオカミのような鋭い目つきになっていた。顔つきもどこかショーレンさんに似ていた。


「そう、この箱の世界では『あらゆる呪いが解かれる』のだ。それ故に、旦那は『あの姿』に戻ってしまったがな。話を戻そう、この試練のダンジョンを無事にクリアーすれば、その者に相応しい報酬が用意される。特に、俺と同じ目を持つ璃秋なら分かるだろうが、その眼を持つ者は必ずその呪いによって失眼する。だからこそ、旦那はお前を最後の一人として選んだわけだ」


「なるほど。親方様が、そのようなことを……。では、何が何でも最終試験を合格し、親方様の期待に応えなければならないですな」


 いつも冷静で落ち着いているリシューさんは、興奮しているのか頬を少し上げながら目を細めている。微笑んでいるようには見えず、どこかリューちゃんの笑みに似ていた。何だろう、第二のリューちゃんが誕生した瞬間に立ち会ったような気がする。だけど、あのショーレンさんにご指導を受けた人だ。私が言うのもなんだが、リューちゃん以上に過酷な試練を与えると聞いている。そんな人の元で修行したから、あの筋肉教団司祭と互角に渡り合えたのかもしれない。まぁ、その筋肉教団司祭さんはガーランドさんに鍛えられ、さらにあの『第一部隊隊長』に鍛えられたのだ。そりゃ、化け物レベルになるのも当たり前である。


「リシューさんが目が見えるようになって良かった。これで、かなりリスクは軽減されたんじゃないかな。それに、さっき程から誰かに見られているような気がします」


 ジュデッカ君はそう言うと、腰に差している二本の拳銃のグリップに握りながら周囲を警戒している。ジュデッカ君の愛用の武器『コキュートス』と言う二丁拳銃である。その弾丸に一度当たれば、その箇所から凍り始める。ボルトさんが作り上げた武器の中で、唯一ジュデッカ君だけが扱える専用武器である。ちなみに、キャティさんは指揮棒である。ただ、あれは――いや、今は言わない方が良いかも。

 さて、ジュデッカ君が言う通り、先ほどから誰かに見られているような視線を感じる。そして、先ほどから森の奥から此方を窺う気配を感じる。だけど、此方へと襲い掛かる気配はなさそうで、ジッと私たちの方を監視しているように感じた。私たちは周囲の視線を感じ取りながら、各々の装備している武器を握りいつでも戦闘に入れる状態にする。


「さて、第一の試練を開始する前に、一つだけ話して置くことがある」


 戦闘態勢の私たちに、リューちゃんは真剣な表情で語る。


「この箱の世界には、フロアマスターに関する情報が『宝箱』や『魔物の所有物』の中などに眠っている。これは、他の試練でも同様だ。故に、お前たちの行動次第で、フロアマスターとの戦闘が有利にも不利にもなる。どうするかは、お前たちに任せる」


 リューちゃんは指を鳴らすと、彼の周りに無数の鎖が地面からニョキっと天へと向かって生え出した。その鎖がリューちゃんを覆い隠し、数十秒後にはその鎖が地面に戻っていく。そして、そこにはリューちゃんの姿はなかった。まるでイリュージョンを見せられているような感覚になる。さて、では何がいるのかと言うと、そこには――


「ふむ。久しぶりにこの姿になったが、身体に馴染むのにまだしばらく時間がかかりそうだな」

「りゅ、リューちゃん!? ぇ、なんで――」


 そこには、手のひらサイズの銀色の翼を生やしたリューちゃんがいた。それはまるで『妖精』である。いや、もうまるっきり妖精である。鬼の角はなく、黒い髪に着物姿のリューちゃんに、何故すごく違和感を感じた。鬼――それも、鬼神と呼ばれる種族のリューちゃんが妖精になるなんて驚きである


「ん? あぁ、言ってなかったな。儂は妖精と鬼神の間に生まれた半鬼半妖だ。だが、どちらかと言えば、鬼神の血の方がより濃くてな。それ故、滅多にこの妖精の姿にはならん。まぁ、こっちの方が実は強いのだがな」


 そう言うと、リューちゃんはそのままホムちゃんの頭の上に止まると、森の奥へと指さし高らかに宣言した。


「さぁ、始めるぞ!! 皆の者、試験を始めるぞ」


「「「ぇ、ぁ、はい」」」


 私たちは堂々と言うリューちゃんを見て、何故かどう反応すればよいのか分からず空返事をしてしまった。だが、その言葉を最後に私たちはダンジョンを開始することになった。

 森の奥へと入る順番として、私とジュデッカ君が先頭で、真ん中にキャティさん。そして、後ろをホムちゃんとリシューさんと言う並びで森の中へと入る。



「それにしても、数が多くないですか!? まだ、一階ですよね」


 森の中で響き渡る一発の銃声に、凄まじい爆発と炎の竜巻。そんな中で、緊張感のないジュデッカ君は水色の二丁拳銃『コキュートス』の引き金を引きながら踊っている。そして、その相手である一つ目の緑色の肌の巨人の大軍を殺していく。口に生えた長い牙は、ジャイアントボアを思い出させる。そして、下半身を隠すボロボロの使い古された布を巻いている。あの巨人の名は『キュクロープス』である。まだ、地下二階へ続く階段を見つけていないのに、いきなりこのレベルのモンスターが現れるのは如何なものだろうか。そんなことを思いながら、私へと向かって振るわれる巨大なこん棒を愛用の葬刃で受け流し、すかさずこん棒を葬刃で切断する。


「この程度じゃ、まだあの武器は使えないわね!! キャティさん、こっちに凄いのお願い」


「はい!! ミーアさ――ちゃん、こっちの敵を引き付けて」


「任せて!! あいつらの武器を粉々にしてくる」


 キャティさんは指揮棒を一定のリズムで振りながら、キュクロープスの大軍が炎の竜巻に飲まれていく。時たま落雷が落ちたりもしているが、その嵐の中ジュデッカ君は平然と踊るように魔物たちを殺していく。そして、私はその武器を葬刃で受け流しながす。流石はドラゴンの素材と言うべきか、ちょっとやそっとでは壊れないし、木製程度なら簡単に斬り落とせる。そんな相棒を手に握りながら、キュクロープスの打撃を受け流し切断していく。隙あらばアキレツケンを斬り裂き、転倒後そのまま首を切断する。


「ホムホム殿、あのキュクロープスに打撃は有効ですかな。一度も戦った事が無いので、あまり情報がないものでして」


 リシューさんはそう言いながら錫杖で、弁慶の泣き所めがけて叩き込む。その一撃の重さからか、その場で膝を地面につけ苦悶の表情をする。そして、その間に頭に妖精形態のリューちゃんを乗せたホムちゃんが手刀で首を切り落とす。武器は拳だと言わんばかりの二人が、息の合った連携で倒していく。


「そこそこ、ってところホムね。肉質が硬いとは言え、リシューさんの拳なら特に問題はないと思うホム。でも、普通の剣士や拳闘士が相手をするとなれば話は別ホム。あの肉質はきついホムね。それもこの大軍を考えると、僕たちが対応できていること自体が不思議ホムね」


「なるほど、冷静な判断が出来るだけ凄いですな。私は一度も戦った事が無い為、良く解かりませんがそんなに固いのですか?」


「僕の手刀で二撃で倒せるホム。取りあえず、一撃で首の骨を折り、二撃目で切断ホム。音速で二撃いれているホムから、一撃に見えるかもしれないホム」


 そんなことを言いながら、平然と笑いながらキュクロープス以外の魔物を手刀で仕留めている。緑色の肌に短刀を持った姿から、ゴブリンだとすぐに分かった。徐々に此方へと向かってくる魔物の数が減ってきたように思う。

 さて、徐々に魔物の数が減っていく中、手刀でどんどん首を切断するホムちゃんだが、実は武器は持ってきていない。普通ならあり得ないことだが、今回の場合は別になくても問題ない。何故なら、このダンジョンには、武器が『そこらへんに落ちている』からだ。そのため、今は手刀――もとい拳だけでホムちゃんは戦っているのだ。


「そろそろ、手刀も飽きてきたホム。武器になりそうなの、あるかな?」


 ホムちゃんは手刀で三匹も屠ると、すぐに私の元へと駆けより私の背後にいたキュクロープス三匹の首を切断していく。もう二十匹は軽く倒しているような気がするが、まだこの波が終わる気配がなかった。でも、ジュデッカ君の弾丸で魔物たちの足を凍らせてくれているおかげで、此方も戦いが少し楽になっている。


「ホムちゃん!! そろそろ、大軍も止むと思うけど」


「うん!! 大分減ったホムね。それに大軍を呼び寄せている大本は、ジュデッカ君が仕留めたみたいホム」


「ぇ、本当!? ジュデッカ君、やるね」


 ジュデッカ君の方へと顔を向けると、一匹のゴブリンに銃口を向けて何発も引き金を引いていた。角笛らしきモノを持ったゴブリンは、放たれる銃弾により確実に絶命したのか光の粒子となって消え去った。


「皆、旗振りゴブリンは倒したよ!! もう増援は来ないはず!! リシューさん、次はどう動けば良いですか? 問題なければ、このまま敵を倒しますが」


「ジュデッカ君、よくやりました!! 皆さん、残りを無力化しましょう。ジュデッカ君は、小型の魔物の足を凍らせてください。キャティさんは、大型をお願いします」


「「了解しました!!」」


 リシューさんの指示を受け、すぐにジュデッカ君とキャティさんは指示通り動く。私はリシューさんへ目線を向けると、すぐに「ミーア様は、キャティさんの元へ」と指示が飛んだ。ホムちゃんは背後から来る中型の魔物を手刀で無残に解体する。


「ホムさんは、そのままでお願いします。さて、私は上空のレインボウクロウを仕留めるとしましょう」


 そう告げると、リシューさんは空へと飛び走る。空を走りながら、虹色に輝く翼を羽ばたかせる烏へと錫杖を振りながら叩き落していく。それを一瞬だけ見て、すぐにキャティさんの元へ走り、残りの残党を狩っていく。魔物たちは逃げることはなく、勇敢にも私たちへと向かって武器を振るうのだが、私たちには届くことなくキャティさんの魔法とジュデッカ君の弾丸の雨によって一匹残らず殲滅した。


「ふぅ、何とか終わりましたな。少し休みましょう。本来なら、ここで魔物を解体するか放置するのですが、その必要もないようですな」


「はい、そのようですね。僕としては、解体技術を向上させるために解体したいところですが、流石に疲れましたぁ」


 気の抜けた声でジュデッカ君がその場で腰を下ろすと、その隣にキャティさんが座ると「私も、疲れちゃった」と言って笑っていた。確かに、私も疲れたけどホムちゃんの武器になる物はないか探す。ホムちゃんなら手刀でも問題ないと思うけど、今のうちに探すべきだと思い周りを見渡す。だが、武器と呼べるものはなく、あるのは沢山の木々と魔物の血によってできた血だまりとその死体が転がっているだけだ。


「それにしても、本当に地獄絵図だなぁ」


 先ほどの戦闘で転がっている魔物の死体を見ながら、私は感想を呟いてしまった。この光景を作った私たちなのだが、これもすべて生き残るためなのだ。この世界では仕方がない事なのだ。そんなことを思っていると、ようやく魔物の死体が光の粒子状へと変化して安堵した。あまりこの光景を長く見続けたくないし、消えるまで待ち続ける気もない。

 さて、本来ならその光の粒子は空へと昇って消えるはずなのだが、その光の粒子がこの広場の中央に集まっていく。これは亡くなった魔物の持つ『行き場を失った魔力』である。別名『魔光』とも呼ばれ、冒険者から聞いた話では、ダンジョンではこれが当たり前らしい。だが、今目の前で起こっている現象は『このダンジョンだけ』の特別な現象である。


「何が出来るのかな? 武器なら良いのだけど、ホムちゃんは何だと思う?」


「うぅん、なんだろう。分からないホム!! でも、この濃度からすると、武器じゃないかな、と思うホムね。それもとびっきりの質量のホム」


 そう、ホムちゃんの言う通り、先ほどから凄い数の魔光が広場の中心に集まっていくのだ。この光景は、行き場を失った魔力による錬成準備である。このダンジョンでは、魔物が十体以上同じ空間でしんでいると、魔光は強制的に集まり、魔光による錬成が行なわれるのだ。特に、今回倒した敵の数が軽く二十は超えているため、何が出来るのか凄く楽しみである。


「でも、一息が付けそうホムね。それにしても、最初の戦いでこのラッシュとは先が思いやられるホム。この下の階層に行こう」


「そうだね。それにしても、私たち強くなったのよね。普通ならあり得ない数を相手してたわけだし」


 よくあの数を相手に生き残れたなと思いながら、ホムちゃんの頭の上で腕を組み頷くリューちゃんを見た。あの激しい戦闘の中、ホムちゃんの頭から離れることなく腕を組んだまま地面に落ちることはなかった。それにゴブリンから放たれた矢の矢じりを右人差し指と中指で白羽どりをしたのは、矢を放ったゴブリンとその光景を見た他の魔物たちが驚いていたのは言うまでもない。


「あの程度で儂が落ちるはずがなかろう。それにしても、儂と旦那が挑んだ時より数が少ないな。ふむ、まだダンジョンとしては若いからか、どの程度出せば良いのかまだ理解できていないのだろう。だが、夜兎を所持していることもあり得るか」


「なるほど。確かに試練としては正しいですね。ただ、今後もこのような波が起こると、攻略事態に遅れが出ますな」


 疲れていないのか、いつもの声のトーンで話す。確かにリシューさんの言っている事は正しく、このまま同じ状態が続けば攻略に遅れるのは間違いない。だが、リューちゃんはそうは思っていならしく、腕を組みながら首をかしげていた。鬼教官だからとかではなく、私たちの今までの修練を見ていたからこそ、私たちなら『余裕だ』と言ったのだろう。だが、現状を考えるとこれは少し厳しい。


「確かにそうホムね。でも、今のラッシュでこの森の魔物は三分の二は倒したと思うホム。休憩中のジュデッカ君に『魔力測定弾』を地面に打ち込んでもらい、現フロアの測定しているホム。結果はまだ出ていないホムが、現在の魔力測定の結果から推測しても三分の二は倒したと思うホム」


「魔力は生命力と同じ。確かに、私の目から見ても魔物が発する魔光の色は見えません。ならば、このフロアの探索を早々に始めた方がよろしいでしょうな。ジュデッカ君たちを呼び、移動を開始した方がよろしいかと」


「確かにそうだね。でも、リューちゃんが言っていた『この世界の最下層のフロアマスターの情報』も手に入れたいかな。あの魔光が何になるのかを見定めてからでも遅くはないと思う」


 私はそう告げてから、広場の中央に集まり留まる魔光を見つめる。魔光はようやく一つの場所に集まり、球体から少しずつではあるが形成し始めた。それは、バスターソードのような巨大な大剣に変化し始めている。あれは、どう見ても武器である。だけど、バスターソードになるかと思えば、また球体の姿に戻り、今度は二対の短刀へと変化していく。


「ホム。双剣ホムね。バスターソードよりは扱いなれてるから、出来れば双剣の方が良いホム」


 ホムちゃんのその声に反応してか、二対の短刀のまま姿が固定化された。だが、次は刀身部分が徐々に変化していく。刃の部分が荒波のようにギザギザになると、魔光は弾け飛び消滅した。そして、二対の短刀――いや、双剣が姿を現した。黒革のグリップに卍の鍔、刀身は鮮やかな茜色である。刃はギザギザで、まるで鋸のような鋭さである。そして、その場でフワフワと浮遊している。


「これは、ちょっと驚きホムね。武器名は分からないホムが、これは中々に良い武器ホム。誰が使うホム?」


 皆がホムちゃんを見つめる。どう見ても、ここはホムちゃんが使うべきである。ただでさえ、手刀で魔物を倒していたのだ。武器を手に持ったホムちゃんなら、さらに魔物を解体してくれるはずである。だが、これはあくまで私個人の考えなので、一度皆で集まり会議を始めた。議題はもちろん『この双剣は誰が使うか』である。そして、出た答えは満場一致でホムちゃんが持つ事になった。まぁ、当然と言えば当然なのだが、ホムちゃん素手でも勝てるから要らないような気もする。


「では、僕が使うホムね」


 ホムちゃんはその双剣を手に取ると、腰に双剣を納める。そう言えば、鞘がなかったような気がするが、今思えばホムちゃんなら鞘を自在に生成できる。素材ならそこら辺にあるわけだし、樹に触れただけで分解と生成が出来るわけだし。


「さて、と。ホムちゃんの武器も手に入ったし、そろそろ探索を始めるとしましょう」


 腰に差している葬刃を抜き、魔力を少しだけ流す。すると、葬刃の先端から銀色の羽が現れ、ゆっくりとフワフワと浮き沈みをしながら森の奥へと飛んでいく。これはイスズ様のダンジョンマップ作製術で教わった、魔素濃度測定器である。これのおかげで、ダンジョン内の地下層へと続く階段を見つけ出す事が出来る。

 ホムりゃんが私の隣に来ると、収納指輪から茶色の紙を取り出した。その紙を広げると、私の魔力に反応してか、紙に自動的に黒文字で画かれていく。


「まずは、地下層へと続く階段を見つけましょう。まだ、地図が完成しておりませんが、この血の匂いに攣られて他の魔物が来る可能性もあり得ます。すいませんが、隊列を変えます。ジュデッカ君とホムホムさんを交代。ホムさんはミーア様の援護をお願いします」


「了解ホム。じゃ、母さんは僕が護るホム」


 リシューさんからの指示で、ホムちゃんが前列にジュデッカ君は後列へと隊列を変える。まだ地図が出来ていないが、両手に地図を持ちながら微笑んだ。ホムちゃんが言うと、とても頼もしく感じる。若いか弱い青年に見えるのだが、あの戦闘力を目の当りにしたら誰だってそう思う。


「うん、頼りにしてるよ。でも、私だってホムちゃんを護って見せるからね」


「そうホムか? えへへ」


 恥ずかしそうに笑うホムちゃんと共に、私たちは羽に導かれるように森の奥へと入って行く。しばらくは魔物と出会うことなく、問題なく下へと続く階段を見つけ出した。地下へと続く階段とは言うが、目の前の風景を見て地下と言う認識が崩れた。


「母さん。此処は、山頂だったみたいホムよ。凄いホムねぇ」


「本当だね。私たちはずっと地上にいたと思ったけど、まさか山の上だったみたいだね」


「でも、おかしいホム。父さんから教わったマップ作製魔法で創ったマップと、食い違っているホム」


 私たちは目の前の光景に驚きながらも、ホムちゃんが持っている地図へと目を向けた。確かに地図では此処に階段があるとは画かれていない。だが、目の前に広がる景色は違う。円を描くように均等の位置に建っている、空高く伸びる銀色の九つの塔。その塔を結ぶかのように、虹色の輪っかが塔を繋いでいる。そして、その九つの塔の下には小さな神殿が建っている。綺麗な白い神殿で、そこへと続くように石で造られた階段が続いていた。


「あそこが、この第一階層白夜大森林のフロアボスのいる場所だ。つまり、この階層世界の最終地点だな。それにしても、幸先が良い。今、お前たちが見ている光景は『ただの映像』に過ぎないが、これはフロアボスの情報の一つだ。ほれ、そこにある階段の二段目に足を乗せてみろ」


 私が代表として二段目に右足を乗せようとすると、何故か足は空中を浮いていた。だが、確かに何かを踏んでいる。これは地面なのだろう、何度か同じ場所を踏むと草と地面の感触が足に伝わる。


「つまり、これはフロアボスのいる場所についての情報だな。さて、この情報を生かすも殺すもお前たち次第だ。さて、そろそろこの情報は消えると思うが、しっかりとその眼に焼き付けたか。この世界の階層を降りて行くにつれて、フロアボスの情報が揃っていく。今回は『場所』に関する情報だったわけだが、これが何を意味するのか。まぁ、察しのよいお前たちならすぐに分かるだろう」


 リューちゃんの言っている事に対し、私はある推測を立てた。つまり、最下層へと続く道は一つではない。そして、きっとこのゴール地点を目指すための情報も下に進む事で手に入るのだろう。そうなると、今この場所にはまだ情報が眠っている可能性がある。私の予想だけど、もしかしたら一つの階には『場所』と『フロアボス』の情報が一つずつ配置されているのではないだろうか。


「ミーアちゃん、この情報を魔結晶に写し終えたよ」


 キャティちゃんの魔力操作で、この映像を魔法石にコピーしたようだ。半透明の六角水晶を両手で持ち、嬉しそうに私の方へと見せてくれた。見たところ、不純物はそれほどなく、先ほどの光景が水晶の中に浮かび上がっているのを確認した。それにしても、キャティちゃんの十八番である『魔法複製』には、いつも驚かされる。それも、あの指揮棒を使って、あの景色を鮮明に複製する事が出来るなど、この世界の魔術師でもこれ程の技術は持っていない。そして、あの指揮棒はこの世界に三つしかない『ロストシリーズ』の一つである。それも、ロストシリーズの中で二番目に扱うのが難しいとされる『ロスト・コーラス』である。元々は私用としてが試験用に作成された武器である。だからこそ、あれの凶暴性を理解している私が言うのだ、よく耐えられているなと思う。


「ありがとう。ところで、キャティちゃん。その魔結晶はどこで手に入れたの?」


「これですか? これは、去年の採掘場で採掘した時に偶然入手したんです。旅人様から特別に頂けるとのことで、今日の日が来るまで大切にとっておきました」


 恥ずかしそうに笑うキャティさんに、ジュデッカ君は何故か顔を俯かせる。何故、うつむいたのか気になったのだが、ジュデッカ君が肩を震わせながら笑いを堪えている。そう言えば、ジュデッカ君はずっとキャティちゃんの傍で護衛していた。つまり――


「ジュデッカ君、何か隠しているよね」


「い、いえいえ。そのような事は」


 だが、先ほどから肩を震わせている。絶対に何か隠しているのだが、今のジュデッカっくんは絶対に口を割ろうとしないだろう。何故なら、キャティちゃんがいるからだ。この事については、必ずキャティちゃんが寝ているときに聞くとしよう。でも、教えてくれるのだろうか。なんだかんだで、キャティちゃんの事を本気で愛してるし、二人だけの秘密とか言われそうな気がする。


「さて、そろそろ行くとしましょう。キャティさん、魔結晶は後何個ございますかな」


 リシューさんは何事もなかったかのように言うと、キャティさんは収納ボックスから白い紙を取り出した。確か、あれは収納指輪の中に入っているアイテムの数が自動的に記載されていく。その紙の書かれている内容を確認すると、再び収納指輪に戻した。


「残りは二個です。出来れば、もう少し持っていきたかったのですが」


「確か、魔結晶の使用回数は一個で大体五回ほど記録ができましたよね。取りあえず、僕の持っている魔結晶も含めて、残りは五個です。キャティ、僕の分も渡すね」


 ジュデッカ君も持っていたようで、所持している魔結晶をそのまま取り出しキャティちゃんに渡した。それを見届けたリシューさんは、右手で顎を掴み考え事を始めた。使用できる回数も考えると、むやみに使うわけにもいかない。だからか、リシューさんは今後の事も考え、次の行動をどうするか計画を立てているようだ。


「なるほど。そうなると、今後の方針は、フロアの探索と宝箱の回収がメインにした方が良いでしょうな。魔結晶は高価な代物。運が良ければ、このダンジョンでも手に入るでしょう。ミーア様、これからの探索はなるべく宝箱の回収も行ないましょう」


「うん、そうだね。キャティちゃん、宝箱の気配があったら教えて」


「はい、分かりました!!」


 今後の方針も決まると同時に、目の前の映像が消えた。そして、元の森林の道の光景に戻ったのを確認してから、私たちはそのまま真っ直ぐ地下へと続く階段を探しに歩き始めた。しばらく歩いているのだが、やはり魔物の気配はない。どうやら、先ほどの広場の方へと集まり始めたようだった。そのおかげで、何事もなく無事に地下へと進む階段を見つける事が出来た。崖をそのまま削り、赤レンガの階段が下の階層まで続いている。この階段を発見する途中で運よく宝箱を幾つか発見したのだが、武具は入っておらず、魔結晶や回復薬が入っていた。そして、私たちは目の前の階段前に置かれた宝箱の中身を見て、どうするべきか悩んでいた。宝箱の中に入っていたのは、フロアボスの絵が描かれた紙とダイヤモンドの爪。それを見た時、ジュデッカ君とキャティちゃん以外は絶句してしまった。


「あぁ、とっても嫌な予感しかしないなぁ」


 私は取りあえず、その情報を収納指輪にしまう。現状は、このままフロアボスの待つ神殿へと向かいながら重要な情報を集め、地下九階層の安全地帯で会議を開くだろう。何せ、この白夜大森林のフロアボスが、あの伝説と言われている『ダイアモンドウルフ』なのだ。今後の戦いにどう備えるのか、私たちは情報を得る為に地下へと続く階段を降りて行くのだった。


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